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2013年01月創作発表208: 【シェア】みんなで世界を創るスレ8【クロス】 (309)
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【シェア】みんなで世界を創るスレ8【クロス】 (309)
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【シェア】みんなで世界を創るスレ8【クロス】
- 1 :2011/11/13 〜 最終レス :2012/10/07
- このスレは皆でシェアードワールドを創るスレです
※シェアードワールドとは※
世界観を共通させ、それ以外のキャラ達を様々な作者がクロスさせる形で物語を進める事です。
要するに自らが考えたキャラが他作者のSSに出たり、また気に入ったキャラを自らのSSにも出せる、
という訳です。
現在すでに複数のシェアードワールドが展開されています。それぞれの世界で楽しんでみたり、新しい
世界設定を提案してみてはどうでしょう。
分からないことはどんどん質問レスしよう、優しいお兄さんやお姉さんが答えてくれるかもしれないよ。
さぁ、貴方も一緒にシェアードワールドを楽しみませんか?
前スレ
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1287900390/
避難所(規制等の際はこちらへ):みんなで世界を創るスレin避難所その2
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1276257878/
まとめwiki
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/286.html#id_a459e271
現在このスレでは 4つぐらいの展開されてるよ。この世界、俺が盛り上げてやろうじゃん!て人は
気軽に参加してみたらいいんじゃない?
・閉鎖都市
あらゆる社会から隔絶され、独自の発展を遂げていく「閉鎖都市」。
そこで暮らす様々な人々と文化を作り出そう!
・異形世界
日本を襲った大地震。同時に突如として現れ、人々を襲う「異形」。
異形たちが持つ特殊な元素「魔素」を巡る対立を描こう!
・地獄世界
強大な権力を持った小さな少年、閻魔殿下を中心に繰り広げられる笑いあり、涙ありの物語。
なんでもありの「地獄」で楽しもう!
・温泉界
蒸気沸き立つ謎の世界「温泉界」に住む一人の少女「湯乃香」。
彼女が退屈しのぎに始めたのは、なんと異世界からの住人召喚!?
他スレからの参戦も歓迎だ!あんな人とこんな人が風呂でまったりしちゃう!?
・???界
閉鎖都市・異形世界・地獄世界を監視している境灯の世界。
基本的に何をしても良いので灯ちゃんのせいにして好き勝手しよう。
特に展開はない!
- 2 :
- >>1乙
こんなのもあるよ!
創発シェアワスレクロス企画(仮)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1320313119/
- 3 :
- >>1乙です!!
- 4 :
- 新スレに先鞭をつけるぜ!
- 5 :
-
ほとんど物が置かれていない部屋がある。平賀の研究所の二階にある一室で、クズハが研究所に住んでいた時に与えられた部屋だ。
部屋には外から中を窺われないように薄いカーテンが引かれている。
所員全員にその所在が知れ渡っために自身の部屋に移送されたクズハが眠っているベッドの近くに椅子を置いて、
匠は淡く透けてくる午後の日差しの中で、部屋の本棚に収まっていた本を読んでいた。
ゆっくりとページを手繰っていくのは≪魔素≫や魔法について書かれた本だ。
おそらくこの研究区に居る人間の半数以上は一度は目を通したことがあるであろう、
平賀と蘆屋の共著による一冊で、対立する事の多い二人の間に安倍が入って実現したという珍書だ。
クズハが操る魔法の基礎原理もここから学びとったものなのだろう。
それを理解するのにどれほどの苦労をしたのだろうかと思いつつ、匠は本を閉じた。
……数少ない私物もこんな感じの小難しい本ばかりか。
何が彼女にここまでさせるのかについて思いを馳せながら、匠は椅子の上で伸びをした。
クズハの事を研究所の皆に知らせた次の日に彰彦が行政区の調査に出発してから5日が経過していた。
この5日の間、研究区内は表向きは普段とほとんど変わる事のない状態だった。
研究区を頼って流れて来る異形の流入は依然としてあるが、
それも行政区が異形排斥の行動を起こし始めた当初に比べれば随分と緩やかになっており、
元々異形の往来の多いこの町は、流入してきた者達を含めて、生活にある程度の慣れが現れ始めていた。
大阪圏内で生活するために行っていた仕事をなんとか再開する者や、
それが叶わない者は研究区内の人間が斡旋してくる日雇いを中心とした仕事を行い始めたのだ。
- 6 :
- 異形達がそれぞれの生活を再び営み始める一方、
武装隊と研究所を中心とする研究区の間では緊張状態が続いていた。
研究所は5日前の夜に決めた通り、曖昧な対応を武装隊に対して続け、
武装隊も研究所の主張を鵜呑みにするような事はせずに幾度か研究所内への調査を打診し、
それと同時に街を見回る事によって区内の異形に対する緩やかな牽制を行っていた。
治安の維持という点ではこの見回りは平賀としてもありがたく利用し、
その一方で武装隊に対する目付け役として、そして区内の異形や、以前から住んでいた住人などの調整役として、
明日名とキッコが動いていた。
3日前から動けるようになった明日名は以前からの住人や武装隊等の人間同士の意見の調整を、
キッコは異形達の調整を主にそれぞれ担当して研究区内全体の調整を行っていた。
この人選の結果として意外だったのが、
……キッコが異形達を上手くまとめている事か。
キッコは元々信太主として信太の森で異形達をまとめていたためか、区内の異形をまとめるのも見事なものだった。
……伝えられる指示がおおざっぱだったりするんだがな。
しかしそのある意味における適当さが、表向きは平穏でもその実ストレスから来る緊張を孕んでいる今の研究区と異形、
そして武装隊の間を上手く取り持っているらしかった。
彼女は町中を見回っている武装隊にフランクに話しかけては、
異形に対して敵意を持っている者の多い武装隊の隊員相手にも会話をこなしているらしい。
一応の均衡を保っている研究区、しかし、それぞれが抱える不安や懸念のようなストレスは日に日に募っていくようで、
それは徐々に報告され始めた町中でのケンカの発生や小さな事件という事で現れてきていた。
匠の膝の上に畳まれている研究区の事を扱った今朝の新聞にも、
ケンカ騒ぎについて書かれている。少しずつ研究区が抱え込む事になった歪みが顕在化してきているのだ。
……あまり悠長には構えていられないか。
彰彦がそろそろ戻ってくるはずだ。彼が得て来る行政区内部の状況も気になるし、
平賀の方でも行政区相手にいろいろと話しを持ちかけているようだ。彼等の手伝いができない所がもどかしいが、
今は彼等を頼るしかない。そう思っていると、近くのベッドから小さなうなり声が聞こえてきた。
――――!
これまで静かだった室内で発生した音に敏感に反応した匠は、本を棚に戻してクズハの顔を見た。
彼女の、これまで力が抜けていた目元に力が入っている。目覚めようとしているのだ。
- 7 :
- 「クズハ」
「――ん」
返答のような呼気と共に、クズハの体に力が入った。
周囲を確認するように左右の耳が小さく動く。次いでまつ毛が揺れ、目が薄く開いた。
カーテン越しであっても光が目に強いのか、縦長の瞳孔が細くなる。
手を翳して光を遮ろうとしたところで、彼女は自分の掌を見て疑問の声を上げた。
「……あ、れ?」
「クズハ、起きたか」
「匠さん?」
クズハは匠を見上げて表情を緩め、そして怪訝そうな顔をした。
手をついて上半身を起こそうとする。匠の支えを受けて身を起こしたクズハは、周囲を見回して戸惑った声を上げた。
「……呪符もない……それにここ、私の……部屋、ですか?」
「ああそうだ。覚えているか? 庁舎の地下捕まってた所を連れ出して来たんだ。
ここは平賀のじいさんのとこ、今はちょっと騒がしいことになってるが、すぐに収まるだろう」
割合しっかりとしたクズハの反応に内心ほっとしながら、匠は続けざまに言葉をかける。
クズハは俯き、匠の言葉を咀嚼する数秒の後、顔を上げ、
「…………」
匠をじっと見つめ、また顔を伏せた。
顔を伏せたクズハは、思い悩むように口元を歪めた。やがて再び顔を上げて匠を見ると口を開く。
「匠さん、出て行ってもらえますか?」
突然発された拒絶の言葉に、匠は虚を衝かれた。
「――は?」
「すみません、少し、考えたい事があるので部屋から出ていってください。
あ、そこの新聞は置いていってくださるとうれしいです」
「新聞……か?」
匠は椅子の上に畳み置かれている新聞に目をやる。
その新聞には最近の大阪圏の情勢や研究区の状態について書かれているため、
……クズハには今あまり渡したくはないんだが……。
「だめですか?」
「いや……」
- 8 :
-
どちらともとれない反応を匠が示す間にクズハの手が新聞を手に取った。
新聞を胸前で抱えたクズハは、再び拒絶の言葉を放つ。
「出て行ってください」
「ああ、それは分かったが……クズハ、お前なにかあった、か?」
あまりにも頑なクズハの様子を心配した匠がクズハに手を伸ばす。
頭に伸ばされたその手を払いのけて、クズハは小さく言った。
「すみません……」
「い、いや……」
幾度目かの驚きに目を見開き、しかし匠は立ち上がって部屋の扉へと歩いて行く。扉に手をかけ、
「じゃあ、皆にクズハが起きた事を知らせるから出て行くけど、何かあったら言えよ?」
「……はい」
言葉自体は肯定のものだが、発された声の質は硬い、拒みの色の強いものだ。
匠は新聞に目を落としているクズハに、何かあったら声をかけるようもう一度言い置いて、扉を閉じた。
●
匠が出て行き、静けさが降りた部屋の中でクズハは閉じた扉を見て小さく呟く。
「もう、ここにはいられないですよね……」
- 9 :
-
●
秘密通路から研究所の敷地内へと帰還した彰彦は、
報告のために訪れた平賀の居室内に漂う空気に一瞬足を止めた。
匠がどことなくぼんやりとした椅子に座りこみ、明日名、平賀が難しい顔をしている。
……何があったんだこりゃ……?
なんとなく声を発しづらい状況に二の足を踏んで入り口付近に立っていると、平賀がこちらに向かって手を上げてきた。
「お帰り彰彦君、無事でなによりじゃよ。……それで、どうだったかのう?」
「いや、その前に今のこの部屋の状況について話してくれねえか? なんか物スゴイ居づらいんだけど」
平賀はそうじゃのうと言って口を開いた。
「クズハ君がじゃな、目覚めたんじゃよ」
平賀の言葉に彰彦は、は? と言葉を生んだ。
「なんだよそりゃ、いい事じゃねえか」
平賀の言った事と、この部屋内の空気が噛み合わない。
疑問に思う彰彦の様子に、平賀が「それがのう……」と匠の方に視線を向けた。
匠は小さく頷いて、どこか呆然とした声で、
「クズハがな、俺やじいさんを部屋に入れてくれねえんだよ」
「……どういうことだ?」
「どうもクズハに拒絶されたみたいでね」
明日名の言葉を聞いて、彰彦は先の匠の言葉をもう一度考える。そして、
「……え?」
間の抜けた声が出た。
……クズハちゃんが? 他を追い出すことはあっても匠を拒絶するなんてまずありえねぇと思うんだが……。
だとしたら捕らえられている間に何かしらの手が加えられたのだろうかと思い、
「術とか、そうでなけりゃなんか薬盛られたとか、何かが憑いてるとか、暗示とかにかかってんじゃねえのか?」
「……だと最初は思ったんじゃがのう、どうもどれもハズレっぽいんじゃな」
平賀がそう言ったという事は、一通り再検査をしたという事だろう。
……そして術や他の影響も出なかった、と。
だとすれば、
「他に何か心当たりとかはあんのか? じいさん」
「何故庁舎の地下に居たのかという所は話してもらったんじゃが、
独居房から庁舎地下の研究施設までクズハ君を連れて行ったのは変なマスクで顔を覆った男のようでな、
声の方も変えておったようで、結局詳しい事は分からんでなあ……。
クズハ君が行政区に行った後の短い時間で薬や術の反応を出さずに洗脳というのも土台無理な話じゃ。
だとしたら何か吹きこまれてクズハ君がわしらから離れてしまったと考えるのが現実的かのう」
「匠やじいさんを拒絶したくなるような事を吹きこまれたってか?」
彰彦は何をクズハに吹きこんだら彼女の考えがそこまで極端に変化するだろうかと思案して、
「……だめだな。何をどう吹きこんだらそんなになんのか見当もつかねえや」
尚も頭を回して考えようとした彰彦に匠の声が飛んだ。彼は頭を一度左右に振って気持ちを入れ替えるようにすると、
「彰彦、ともかく今はお前の報告を聞きたい。何か行政区で掴んできたのか?」
「え? あ、ああ」
匠の一言に押される形で、彰彦はこの部屋の様子に気押されて後回しになっていた報告を始めた。
- 10 :
-
●
匠の様子を確認しながら彰彦は口を開く。
「行政区内は内部の異形を完全に追い出す算段のようでな、
俺が言った時にはもうほとんど行政区内に居た異形の連中は追い出されてたよ。
俺も腕の事があるし、裏で動いてる奴に襲われるのも避けたかったからあまり人に会わないように
注意しながら知り合いの武装隊の所に行ってな、そこで内情とかを聞いて来た」
「どうだった?」
明日名の促しの言葉に彰彦は頷いて、
「一つ、気になる話が出た。
武装隊内でここ数週間の間に行方が分からなくなってる奴らが何人もいるらしい。
行政区の街の外に哨戒に出てた連中が戻らないそうだ」
それは、と匠が呟く。
「異形の仕業か?」
「それがな、何者の仕業かもはっきりとは分かんねえみたいだ」
「何者の仕業かすらも分からない? 捜索はしてるんだろ?
本人が見つからなくてもせめて何か痕跡とか見つからないのか?」
良い疑問だ。頭の切り替えはしっかりと出来ているらしい。
そう思いながら、彰彦は旧知の武装隊から聞いた話を口にする。
「捜索はしようとしてるらしいが、研究区や各地の検問、
それに農場とかの管理をしていて安易な排斥が利かない異形達の監視に武装隊を動員しまくってるせいで
人手が足りねえらしい。行方不明者はおそらく異形に襲われたんだろうって事に武装隊内ではなってる。
武装隊が何人も消される程には強く、そして場合によっちゃ賢い異形だ。
匠達が行政区に居た時に行政区を襲った異形の群れのリーダーじゃねえかとか言われてたな。
武装隊の想像通りに犯人が異形だった場合、そいつは以前行政区内に大量の異形を侵入させた異形って事になる。
行政区の中にそんなものを入れないように今行政区は以前にも増して守りを固めてる最中って話だった」
「ただでさえ武装隊が検問などを作っている中。姿を悟られずに武装隊を襲うなんてのはただの異形には難しいだろう。
行方不明者たちはおそらく朝川達と同じ手の者に連れ去られたんだろうね。武装隊の警備範囲等の内情に通じている物が最初から狙った犯行だろう」
「だろうな。もしかしたら俺や俺の部下みたいに何かの実験の材料にされてるのかもしれねえ」
- 11 :
- 苦々しく言って拳を握り込む彰彦に明日名が言う。
「通光の事は何か分かったかい? 彼も武装隊の警備含めて色々な内情を把握している人物の一人だ」
彰彦は首を横に振った。
「いや、通光や他の庁舎詰めのお偉方はここ数日そろって庁舎の中に籠ってお仕事中らしい。
奴らは自前の警備や護衛をそれぞれ抱えてるから、裏で何かやってても武装隊じゃ気付けねえかもな。
俺も探ってみようと思ったんだが、あそこは今お偉方が一か所に集中してるせいで警備の密度が
スゴイ事になってやがって侵入は無理だった。匠がクズハちゃんを助けに行った時とはまるで様子が違うっぽいな」
匠が深夜に庁舎に侵入した時は警備は散漫だったと聞いた。
その後にクズハの脱走や留置施設の職員の殺害、施設の破壊を受けて、
行政区の重役達を一か所に集めた方が守りやすいと武装隊なりどこかの議員なりが考えたのだろう。
そう考えながら彰彦はしかしまあ、と嘆息した。
「結局、登藤通光が怪しいっていう証拠は掴めずじまい。それが俺の見知って来た事の結論だな」
武装隊の行方不明、現在研究区を囲んでいる行政区の息のかかった武装隊、
徐々に対外的な防御を固めて行く行政区。はっきりとしたことは相変わらず分からないが、
状況は依然として動き続けている。その気配を感じながら彰彦は簡略な報告を締めくくる。
部屋の中にはそれぞれに彰彦の報告を思案するような沈黙が降りる。と――
「邪魔するぞ」
平賀の居室の扉を開ける者があった。金髪金瞳の女、キッコだ。
彼女は手にしていた通信用の符を懐にしまって部屋を見回すと、金の目を細めた。
「おお、彰彦が戻って来ておったか。そうだの――とりあえず、先に彰彦の仕入れた情報を聞かせてもらおうかの」
- 12 :
-
●
「……ふむ」
彰彦の話を一通り聞き終えたキッコはなるほど、と頷きを作った。
「相手も尻尾をなかなか出さんということだの」
「厄介だよな」
キッコに答える彰彦。二回目の彰彦の説明を聞いていた明日名が平賀に問いかけた。
「平賀博士、行政区相手の交渉はどうなってますか?」
「もう少し、といったところじゃな。彰彦君の話にあった武装隊の行方不明事件の事もあるんじゃろう、
異形共存派、それに一部の異形排斥派が研究区の助言を得たい事案があると言ってきておってな、
なんとか話し合いの席を作る事くらいはできそうじゃ」
「じゃあ、じいさんの方は進展しそうなんだな? 研究区の皆のストレスもいい感じに溜まって来てるみたいだから急いだ方がいいと思うぜ」
「そうじゃな……急がなければならんな。この調子だとそろそろ向こうさんも次の手を打ってくるぞい」
平賀の呟きが重く響く。そんな空気の中、キッコがところで、と呟いた。
「匠よ、クズハが目覚めたと明日名から聞いて戻って来たのだがの、何故お前はそんなに沈んだ顔をしておる」
「あ」
地雷を踏んだキッコの言葉に彰彦が反応する。キッコは彰彦の反応に対して首を傾げ、
「なんだ? 何かあったのかの?」
問いかけの視線を向けられた明日名が僅かに口ごもった。
「うーん、ちょっと、ね」
キッコは目を鋭く細めた。
「話せ」
「……分かったよ」
息を一つ吐くと、明日名はクズハが謎の拒絶行動に出た事を話した。彼の話を聞いたキッコは目を丸くして、
「クズハが、拒絶……? それも匠をかの?」
「一応わしも拒絶されとるのじゃがなぁ……」
平賀を無視してキッコは唸る。
「術……は有り得ぬな。我もあの子からはそのような痕跡を感じはしなかった。
薬も、平賀が調べたのなら違うのだろうの」
しばらく難しい顔で考えていたキッコは、やがて顔を上げると身を翻した。
「キッコさん?」
「彰彦も、それに明日名も来い。お前たち二人はまだ目を覚ましたクズハを直接見てはおらんのだろう?
実際にクズハを見てみようではないか。じかにこの目で見れば何か違和感にも気付く事もできようて」
そう言うと、キッコは半ば強引に彰彦と明日名を引き連れてクズハの部屋へと向かった。
- 13 :
- このような感じで、問題がわらわらと
- 14 :
- ・世界観 ・・・ 現実社会。 ある意味ファンタジー好きにとっちゃ、一番見たくないもの。
現実逃避のためのファンタジー世界で甘美な夢に浸るも、それじゃ何も解決しない。
現実の卑小で下らない自分・・・でもそんな自分から逃げちゃだめだぜ!
・ストーリー ・・・ ファンタジー作家志望のキモヲタロリニートの求職活動日記。
・つい最近、役所に生活保護費受給を申請したのだが、あっさり拒絶されたので、とりあえず生活のために仕事を探すのが目的。
・マップは日本を元にした全47サーバーからできている。というより、どんな地方でもいいからとりあえず仕事を・・・。
・キャラクターの能力
なにせ本人は自分をドワーフだのエルフだの巨人だの伝説の剣士だの魔法使いだのと思い込んでるファンタジーお花畑脳。
「お前の履歴書は全部真っ白じゃないか!一体いままで何をしてきたんだ!?」
「・・・・・・ファンタジー小説家志望で、今までがんばってきたんですけど・・・その・・・」
ということでキャラの能力は以下 ↓
最終学歴 偏差値50に届くか届かないあたりの高校をとりあえず卒業(ロリヲタレベルによってはFラン大学中退が加わる)
職 歴 アルバイトのみ。(キモヲタレベル次第ではブラック派遣の履歴が二つくらい付く)
資 格 とりあえず賞罰は何もなし。ロリなので街中でRを見て半分くらいRするも、犯罪ではないし。Rだが。
趣 味 VRMMORPG・・・というけど、基本はエロゲ。萌え系キャラにはこだわりある(この辺がキャラの特性)。
身長体重 お好きに・・・まあキモヲタだし。
・職業は基礎四種(魔法職、戦士職、盗賊職、生産職)からの派生・・・と言ってるあたりで、痛々しさがわかると思う。
・モンスターは現実にいる動物がもとになってる・・・らしい。
まあ主人公はアキバでカツアゲされたりしているので、ヤンキーなんかはモンスターの範疇に入る。
あと、街中で女子高生から「何、あのキモオタ、キモくない?」てな視線が・・・ってことでこれもモンスター。
ハロワの受付で主人公の履歴書(の空欄)を見て、嘲るような目線で主人公を見下ろした受付のやつもモンスター。
バイト先で主人公にネチネチ苛めたりする同僚もモンスター。その他いろいろ・・・。
ラスボスとしては、「今の世の中間違ってる!」と叫びながら自分をクビにした会社に突入して逮捕されるので、とりあえずその辺り。
・現実で人口が多い場所の周辺にはレベルが高いモンスターが出やすい。
だがアキバは同類が多い。世間から見たらここに集うようなキモヲタの方がモンスターって話。
・モンスターの強さは妖怪>絶滅>絶滅危惧種>希少種>外来種>害獣>従来種・・・
というけど、主人公のスペック(※上記参照)は、かなりの弱者の部類になる。
一発逆転を狙ってファンタジーラノベ作家(萌え系)を目指すも、今のところ門前払い。
- 15 :
- ・就職のための資格取得のためには資格試験をクリアして実用資格を持っているプレイヤーがパーティーに1人は必要。
だがそんなの持ってるキャラは、そもそもこんな底辺ゲームには参加しない。
・捕獲したモンスターを動物園に連れていくとさらに報酬がある・・・プッ!
こんな風に、どこかのゲームの企画をパクるレベルの人間がクリエイターを目指すって事自体がそもそも・・・いや、なんでもない。
・運よく採用面接にまでたどり着く(とてもレアイベント)も、趣味はエロゲくらいしかなく、会話が弾まずあっさり不採用・・・
・・・結果、再び現実から逃走してモンハンやらラノベやらエロゲに没頭する日々。
・モンスターに倒された場合・・・というか、現実に打ちのめされた場合。
ステータスの1割がゲーム時間で2時間の間ダウンと今回のログインから手に入れた経験値の5割消失。
・・・そんな時間あるなら仕事しろよ。
・ログアウトを決まった場所(宿や自宅)でしないとプレイヤーがログアウトしてから10分間硬直時間が生じる。
・・・てか、基本自宅警備員なので、その心配はご無用。人生はデッドエンドぎみだけど。
・生産職は装備品以外に生活実用品や科学系の機械なども作れる。
とはいえ基本は底辺ライン工。流れ作業で部品を組み込むだけの、馬鹿でも出来る仕事しかできない。
・科学系生産職は大気汚染や土壌汚染を引き起こすと罰則クエストか罰金を受けることになる。
というけど、要するにこれ、産業廃棄物処理工場に派遣されたというイベントだからさ。
・路上にアイテムを放置するとロストして罰金が発生する(路上売りをしている生産職が結構引っ掛かる)
つまり、主人公は仕事が得られないと路上生活者になる。アイテムを放置すると別の路上生活者に取られちゃうぜ。
・路上アイテム放置に引っ掛からないようにするには商売用テントか商売用シートを生産する必要がある。
・・・通称、ブルーシート。だけど都内の公園では既に多くの先住者がいて、中々場所がないのでがんばろう。
・いつまでファンタジーなんていう現実逃避が続けられるかがポイント。
落ちぶれてもファンタジックな夢を忘れなければ、それはそれで幸せかもしれない。
現 実 社 会 君たちに一番必要なのは、それを直視する勇気だ。
- 16 :
- 投下乙
クズハちゃんどうして思いつめちゃうんだろう…
- 17 :
- 現実がおしよせてきたからかな?
ファンタジーと現実は相容れないからなあ
- 18 :
- 投下乙!! もう40話超えたか……
- 19 :
- 【ファンタジー作家さまの冒険 〜 ファンタジーのレベルが上がれば上がるほど、現実の自分のレベルは下がるよねw】
・・・目の前の面接官の一人が、突然話を始めた。
「では、自己紹介を始めてください。名前、出身大学とその専攻・・・」
自己紹介? 何のことだ?
それよりここはどこだ?
こんな世界をシェアした覚えはないぞ!
ファンタジー作家さまは淡々と事務的に話をする面接官の方を見た。
窓を背にこちらを向いて話す面接官・・・パリッとしたスーツと、怜悧そうな銀縁のメガネを掛けている。
その両隣に座る面接官たちも、やはりしっかりとスーツを着込み、真顔でファンタジー作家さまの方を見つめている。
一人は女性。おそらく年のころは三十台半ばといったところか。
絵に描いたようなキャリアウーマンでかなりの美人だが、まるで隙が見当たらない、きつそうな女性であった。
もう一人も同じくらいの男性で、髪をオールバックに撫で付け、ダブルのスーツを身に纏っていた。
眉をひそめた厳しい表情で、手に持っている書類とファンタジー作家さまを交互に見つめている。
その書類は、写真が貼られているところを見ると、どうやら履歴書が身上書のようだ。
みんなきちんとした社会人だ。
ファンタジー作家さんみたいに、現実逃避してるだけの冴えない人間とは偉い違いだ。
「どうしました? 自己紹介をお願いしますよ」
銀縁のメガネの男は言った。言葉遣いは丁寧だが厳しい口調だ。
「あ、あの・・・ここは一体、一体なんなんですか?」
ファンタジー作家さまは、そう尋ねた。
正直動転していた。額にうっすらと冷や汗が浮かぶのを感じる。
数秒の間が空く。その沈黙が一斉にファンタジー作家さまにのしかかる。
沈黙がここまで重いものだとは、今までファンタジー作家さまは知らなかった。
すると、女性の面接官が呆れたような口調で、
「ここは当社の採用試験の面接会場ですが・・・お忘れですか?」
と語った。やはり言葉使いは丁寧であるものの、刃のような鋭さが含まれている。
目の前の面接官たちの視線が、針のようにファンタジー作家さまを刺し貫く。
動悸が早くなり、ドキドキという鼓動が鼓膜まで伝わる。口の中はもはやカラカラ。
沈黙は更に重みを増し、ファンタジー作家さまの貧弱な精神は今にも押しつぶされそうだ。
「あ・・・あ、あの」
「どうしました? 早くお願いしますよ」
面接官はファンタジー作家さまを丁寧に促す。
だが何故だろう、その言葉の中に苛立ちが含まれているのが解った。
「な、名前は、『天才ファンタジー作家さま』です。出身大学・・・ではなく県立商業高校を卒・・・じゃなくて二年次に中退です。
専攻は・・・その・・・。趣味はアニメと漫画、それとエロゲ・・・じゃなくてゲームです。」
ファンタジー作家さまは答えた。まるで搾り出すような声で。
これは戦いだ、悪辣なモンスターとの戦いなんだ、と己に言い聞かせて。
だが、なぜだろう、こんなに恥ずかしいのは!
だが、なぜだろう、こんなに切ないのは!
おそらく彼らの手元にある履歴書は、殆ど白紙に近いはずだ。
- 20 :
- 「・・・そうですか。ではファンタジー作家さま、当社に入社したいと思われた動機について、語ってください」
面接官は言った。
口調は相変わらず丁寧だが、ファンタジー作家さまをあざ笑っているように聞こえるのは気のせいなのだろうか?
「動機? 動機ですか?」
そんなの知らない。というより、ここの会社が何をやっているのかすら知らないのだから。
すると、四人の視線が一斉に勇者さまに襲い掛かってきた。
それはどんなモンスターの物理攻撃よりもファンタジー作家さまにダメージを与えた。
それはどんなドラゴンのファイヤブレスよりもファンタジー作家さまを弱らせた。
それはどんな魔法使いの魔法よりも、ファンタジー作家さまを徹底的に痛めつけた・・・主にプライドを。
「御社の・・・その、御社のですね。企業活動に共感?してですね、あの・・・」
「当社の企業活動のどのあたりに、共感を覚えましたか?」
体格の良いスーツ姿の男が尋ねてきた。もう嫌がらせのように丁寧な口調だった・・・。
ファンタジー作家さまは、ここより先の記憶が無い。
どうやらファンタジー作家さまの精神は、ファンタジーの世界に現実逃避してしまったようだ・・・。
・・・憶えているのは、ふと気付くと区立公園のベンチに座って夕日を眺めていたことだ。
手には飲みかけの缶コーヒーと、不採用通知の書類。
そしてファンタジー作家さまは泣いていた。
あふれ出る涙を抑えることができなかった。
ファンタジックなシェアワールドで天才ファンタジー作家だった自分が、何故今、こんな場所にいるのだろう?
そしてなぜ、こんな屈辱的な境遇に落とされたのだろうか?
そんな悩めるファンタジー作家さまを、公園で遊んでいる子どもたちが指差して笑っていた。
「しっ、いけません。失礼でしょ!」と母親たちは、そんな子どもをたしなめる。
だがその母親たちの目にも、ファンタジー作家さまに対して明らかな侮蔑の色が浮かんでいた。
ファンタジー作家さまが我に返ったのは、夜になってからだった。
公園内の電灯に照らされ、ファンタジー作家さまは先ほどと同じ姿勢のままでベンチに座っていた。
涙はもう流れていなかった。というよりも涙は既に枯れ果ててしまっていた。
「これからどうしよう・・・」
ファンタジー作家さまはそうつぶやいた。
一円にもならないシェアワールド作品を投下し、自己満足している日々。
現実逃避のファンタジーにはまればはまるほど、現実で生き抜く能力はどんどん減じてゆく。
そして自分の絶望的な未来を思い浮かべ、その不安に恐れおののいた。
馬鹿げたファンタジーの世界に現実逃避できたあの頃に、戻れるものなら戻りたかった・・・。
- 21 :
- < 第一章 ファンタジー作家さまのお目覚め >
・・・ファンタジー作家さまは目覚めた。
全身のあちらこちらがズキズキと痛む。
それとブン殴られでもしたのだろうか?奥歯がガタガタであった。
「・・・うぐっ!」
切れた口の中の傷の痛みに、ファンタジー作家さまは思わず呻いた。
ゆっくりと目を開けると、染みだらけのコンクリートの壁が立ちはだかっているのが見えた。
そしてその壁の高い場所に、鉄格子ががっちりとはまった窓が一つ。
窓からは・・・おそらく朝なのであろう、穏やかな光が室内に差し込んでいた。
「ここは、どこだ?」
ファンタジー作家さまは痛むからだを起こしながら、そうつぶやいた。
八畳ほどの広さの部屋の中に、自分の他、五人ほどの人がいた。
壁に寄りかかってうつむいている者や、床に寝転がって寝息を立てている者などがいる。
コンクリートで囲まれた殺風景な部屋・・・さすがのファンタジー作家さまも、そこがどういう場所か解ってきた。
そう、ここは留置所だ。おそらくはここは警察署の署内だろう。
だが、ここで疑問が芽生える。
なぜ自分がここにいるか、という疑問だ。
ファンタジー作家さまは昨晩の記憶を思い返してみた。
シェアワールドを作り、そこで天才ファンタジー作家を気取っていたところ、
突如、どこかの会社の面接会場に連れてこられ、あっさりの不採用が決定。
職にありつけず金もなく途方に暮れて泣いていたところを、ヤンキーにカツアゲされてぶちのめされて・・・。
「・・・おお、お前さん目覚めたか?」
ファンタジー作家さまに、声を掛ける人物がいた。
ファンタジー作家さまはその声の主の方を振り返る。
そこにはだらしない格好をした中年男がいた。
小太りでハゲかけ、スーツはヨレヨレ。おそらく自殺防止のために没収されたのだろう、ネクタイは無かった。
ノーネクタイ姿のその中年男は、壁に背を持たれ、顔だけこちらに向けながらニヤニヤ笑っていた。
「ここは、ここはどこです?」
解りきった質問であったが、ファンタジー作家さまは思わず尋ねた。
すると中年男は、「そりゃもちろん、ここは留置所だよ」と答える。
ファンタジー作家さまは再び聞いた。
「ここはどこの警察署?」
そうなのだ。
今自分がどこに(更に言えばいつの時代に)居るのか、それがわからないのだ。
今まではヒマで冴えない中学生が妄想したようなファンタジー世界に没頭していたはず。
だがいきなり超現実的な世界にすっとばされて、仕事の当てもなく素寒貧で放り出されたのだ。
- 22 :
- 正規の仕事、給与、保険料、年金、源泉徴収明細票・・・
そんなものは、今まで呑気に過ごしてきたファンタジーシェアワールドには無かった。
最終学歴、今までの職歴、アルバイト先、資格、失業保険、ハローワーク・・・
次から次へと思い浮かぶ単語に、ファンタジー作家さまは慄然とした。
何だこの恐るべき言葉の数々は! 何かの呪文なのか?
そしてそれらは「現実」という色彩を帯び、一斉にファンタジー作家さまに押し寄せてきた。
「馬鹿げた夢なんて見てるんじゃねーぞ、そろそろ現実みろよ!」
それらの現実が、口々にそう叫びながらファンタジー作家さまを取り囲み、一斉にあざ笑った・・・。
「・・・ここか? ここはだな、現実社会警察署ってとこだ。お前さん、初めてかい?」
中年男はそう答えた。
「現実社会? それはどういう・・・?」
「現実社会は現実社会だよ、あんた。・・・ところであんた、名前は何て言うんだい?」
中年男が尋ねる。
「ボクの名前は、『シェアワールドでファンタジー作品を書いてるファンタジー作家さま』と言いますが」
ファンタジー作家さまは答えた。
そう、それが自分の名前のはずだ。
だがなぜだろうか。突然、今のこの自分の名前に違和感を感じた。
ファンタジー作家さま、ファンタジー作家さま・・・確かに名前としてはどこかおかしい。
すると、
「なるほどね、お前さん『ファンタジー作家さま』か・・・ここは『現実社会』なんだよ。それ以上でもそれ以下でもなく」
中年男はそういうと真顔になった。
「だから俺は、ここではただの『中年男』だよ。おそらく『汚らしい』とか『だらしない』とかキャラ属性が引っ付いてるかもしれんがね」
そう言って中年男はせせら笑った。
ファンタジー作家さまには理解ができなかった。
確かにファンタジー作家さま程度の知能と学力では無理も無い。
そりゃ、いい年してファンタジーなんかに没頭しているくらいだし。
しかしたった一つ、ファンタジー作家さまはわかったことがあった。
そしてそれは、今までの自分のアイデンティティーを否定しかねない、重大な考えであった。
それは、自分がもはや『(天才)ファンタジー作家さま』ではない、ただの人に成り下がっているという事実だ。
今まで自分は特別な人間だと、そう思い込んできた。
だから自分はファンタジー作家さまであり、今ここで自分から『ファンタジー作家さま』と名乗っていたのだ。
何せ今までは自分は主人公だったのだ。この世界において唯一、特別とも言える存在だったのだ。
しかし今は違っていた。今のファンタジー作家さまは、ただの人。いや、ただの変人に成り下がっていた。
この現実社会において、大した学歴も資格も技能もない、一円にもならないファンタジー作品を紡いでる社会的落伍者。
その事実は、今のファンタジー作家さまにはとても受け入れることができない確かな現実だった・・・。
・・・ただの無職の冴えない男。
・・・ろくな学歴も資格も無い男。
・・・お金も無く解消も無い男。
・・・そんな現実から目を背け、妄想じみたファンタジー世界に逃避している、つまらない男。
- 23 :
- 「将来はメキシコで作る車を北米市場に輸出することも検討しなければならない」と述べ、
円高対応には海外移転が避けられないとの見方を示した。基調講演後の質疑応答で答えた。
マツダは、メキシコで2013年度に稼働を始める新工場の建設を進めている。
http://www.yomiuri.co.jp/atcars/news/20111118-OYT8T00227.htm?from=yoltop
円高で生産シフトも=米が輸出拠点に―トヨタ社長
http://www.asahi.com/business/jiji/JJT201111180011.html
ホンダ、12年初めからカナダ工場で新型「CR―V」生産
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-24232620111117
スズキ、中国の合弁工場拡張=15年めど、50万台に倍増
http://www.asahi.com/business/jiji/JJT201111180032.html
パナソニックがマレーシアに太陽電池工場 500億円を投資
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/111118/biz11111810300008-n1.htm
・・・と、このような具合に製造輸出産業が海外移転し、国内の雇用空洞化が加速している昨今。
例えば以下のような悲痛な叫びが、どこぞに残されていた。
36 名前: 名無しさん@12周年 [sage] 投稿日: 2011/11/18(金) 12:58:22.42 ID:92SIo3Ij0
田舎だと最近は土方もない時代。車の免許を持っていたとしても、そもそも求人がない。
あるのはタクシー位だけど手取りが月270時間働いて10万程度。
非正規広めないと国内の雇用が無くなると騒ぎ、企業は人件費浮かせて海外投資。
非正規労働者は薄給で蓄えもないまま簡単に切られて失職。これぞ構造改革!
そんな中・・・、
製造業派遣「原則禁止」削除…民自公が大筋合意
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20111115-OYT1T00381.htm
そうなのだ。こうして政権与党は製造業という奴隷制度を容認せざるを得なくなったのだ。
そんな状況にも関わらず、ファンタジー作家さんは今日もファンタジーに熱を上げている。
妄想世界でのレベルが上がれば上がるほど、現実の自分のレベルはどんどん下がっていくというのに・・・。
「そうだぞ、ファンタジー作家さま。ファンタジーに興じているヒマがあるなら、何か仕事を見つけるかしなきゃなあ」
中年男は、そう言うと大きく溜め息をついた。人生にほとほと疲れ果てた、といった具合に・・・。
ファンタジー作家さまは動揺した。自分の未来に立ち込める暗澹とした絶望を、一瞬垣間見た。
だが、ファンタジー作家さまはそれを直視できなかった。
シェアワールドという現実逃避のぬるま湯の中で、甘美で虚しい夢を追い続けた日々・・・。
そんな中二病っぽい妄想を延々と書き連ねていたその時間と労力を思った。
「・・・ううっ!」
ファンタジー作家さまは唸った。そして思わず目を閉じ、顔をそむけた。
このシェアワールドの妄想ファンタジー物語を否定してしまったら、
今まで勉強も仕事もろくにせず、没頭してきた己に対する自己否定になってしまう、そのことの気付いたのだ。
妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!
- 24 :
-
< 第二章 シェアワールド作家さまの動揺 >
>『就活戦線もう過熱…2か月短縮の短期決戦化が逆効果、焦る学生 - 大学のサポートも前倒しされ「学業に専念」からは程遠い実情』
>
>再来年の春に卒業する現・大学3年生の就職活動のスタートが、今年から2か月遅い12月となった。
>学生が学業に専念できる時間を増やそうと、経団連が採用活動に関する倫理憲章を改定して申し合わせたためだ。
>ところが就職活動の短期決戦化に焦りを感じる一部学生で就活塾は以前にも増して盛況となり、
>大学のサポート活動も前倒しされるなど、かえって戦線は過熱。「学業に専念」からはほど遠いのが実情だ。
>http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20111116-OYT1T00622.htm
「・・・ど、どうしよう」
食卓で朝食をモグモグ食べていたシェアワールド作家さん。
ふと目にした読売新聞の当該記事を読んだ瞬間、心臓がキュッ!と締め付けられる思いがした。
そう、このシェアワールド作家さんは、現在、Fラン大学の二年生。
上記の記事によれば、いよいよ来年の今頃は就職戦線に突入するのだ。
だけど果たしてその時、シェアワールド作家さんはこの戦いに生き残れるのだろうか?
シェアワールド作家さんの中二病な脳味噌の中で、不安と恐怖がグルングルンと渦巻き始める。そして・・・、
>『大学新卒就職内定率が史上二番目の低水準』
>
>来春卒業予定の大学生の10月1日時点の就職内定率は59.9%で、
>前年同期に比べて2.3ポイント改善したことが18日、文部科学省と厚生労働省の調査で分かった。
>現在の方法で統計を取り始めた1996年度以降では最悪だった昨年度に次ぐ低い水準。
>2000年代前半の就職氷河期を下回り、厳しい環境が続いている。
>http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819695E3E5E2E1838DE3EAE3E3E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2?n_cid=DSGGL001
「・・・・・・。」
シェアワールド作家さんは、沈黙した。
現役で上位私大を狙うという失策をやらかし、見事に全滅したシェアワールド作家さん。
親が老後の資金にとコツコツ貯めた定期預金を解約し、数十万もする予備校の授業料を支払い、
それでもシェアワールドの妄想世界で一円にもならない書き込みを繰り返し、
貴重な時間と労力を見事に浪費し、ようやく入学したFラン大学(文系)。
周りは中学生レベルの算数はおろか、アルファベット全部書けるかすら怪しい連中ばかり(もちろんシェアワールド作家さんも)。
そんなDQNだらけのキャンパスでは、シェアワールド作家さんみたいなヲタ系キャラはヒエラルキーの最下層。
もちろんシェアワールド作家さんにも特技がある。
例えばラノベチックな近未来アクションやら魔物やら異世界ファンタジーあたりの知識や技能は結構あるのだ。
それらはシェアワールド作家さんにとっての教科書といえるラノベとアニメと漫画とエロゲから学び取ったものだ。
もちろんこんな知識など、世の中では殆ど役に立ちそうにない。
それこそ本業の作家さんになれるなら別だが・・・なれるのかな?
- 25 :
- 台所で洗い物をしている母が、お皿を洗いながら言った。
「あんたも来年就職なんだから・・・いつまでもマンガやアニメの本(※ラノベのことらしい)なんかもう止めなさい」
チクリときた。それこそ今までシェアワールド作家さんが目を背けてきた辛い現実そのものなのだから。
Fラン大学文系卒のヲタで、実社会で役に立つ知識も技能もないシェアワールド作家さま。
そんな卑小な自分から逃げるために、ますますシェアワールドという仮構の妄想に世界にはまってゆく・・・実に寂しい青春。
すると向かいの椅子に座っていた父が言った。
「そう、母さんの言うとおりだぞ。お前もそろそろ進路をちゃんと決めなきゃならない時期に来てるんだぞ」
「・・・うっせーんだよ!」
気付いたらシェアワールド作家さんは大声で叫んでしまっていた。
驚いた顔でシェアワールド作家さんの顔を見上げる父。
洗い物をしていた母もまた、突然の息子の反抗に怯えるような表情を浮かべている。
食卓は沈黙した。テレビの音だけが虚しく部屋に響いた。
「何だよ!進路とか就職とか!どうだっていいじゃんかよ!」
いつもどおり、内弁慶を大爆発させたシェアワールド作家さん。
そのまま食べかけの朝食を放り出し食卓から離れ、自室へと逃げ込むと扉をバターン!と叩きつけるように閉めた・・・。
・・・部屋の中には、シェアワールド作家さんの現実逃避の世界が広がっていた。
本棚にはラノベ・・・電撃、富士見ファンタジア、スニーカー文庫。
それらの表紙には、R見えそうなミニスカの美少女キャラが、実にカラフルに描かれていた。
実は最近、ハヤカワや創元文庫まで読むようになり、SFや幻想文学にもちょっと興味津々。
シェアワールド作家さんも、ちょっとだけ大人になってきたのだ(もち間違った方向だけど。就活の本でも読めばいいのにね)。
そしてRのシェアワールド作家さんの最高の恋人は、長いことやってるエロゲ。
パソコンには海外サイトからダウンロードしたRが増設HDDにみっちりと詰まっている。
このように、シェアワールド作家さんは、現実逃避の王道をひた走っていた。
そう、ここは天国なのだ・・・「現実」さえ押し寄せなければ。
シェアワールド作家さんにとっては悪夢であり絶望そのものである「現実」
この、虚構に満ちた天国を打ち崩す、恐怖そのもの。
シェアワールド作家さんの心に、一瞬、激しい自己嫌悪が現れた。
「おい、お前、シェアワールドでくだらねえ妄想こいてるヒマなんかあるのかよ」
心の中にいるもう一人の自分が、そう囁いた。
シェアワールド作家さんは、思わず目を閉じた。
その表情は、苦渋に満ち溢れている(ブサイクなのは仕方ないけど)。
そのまま一分ほど、沈黙する・・・。
妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!
・・・そして一時間後。
シェアワールド作家さんは、ベッドの上に横になってラノベを読んでいた。
今日もまた、日が暮れてゆく・・・。
- 26 :
-
< 第三章 シェアワールド作家さまの絶望 >
「・・・では、こちらのグラフをご覧になってください」
Fラン大学の大教室で行われた、来年度に向けての就職ガイダンス。
大学の就職担当の職員の男が、プロジェクターで映し出されたグラフを指差した。
>少子化なのに大学定員は増え続けてる
>http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/52/224298556ccc04d275de60146b9db0d6.jpg
Fラン大学の学生であるシェアワールド作家さんは、
プロジェクターで映し出された上記のグラフを食い入るように見る。
「ご覧のように、昭和25年以降、日本では大学の数が増加し、大学全体の定員も右肩上がりで増えています」
そう言って、就職担当の職員は、レーザーポインターでグラフに描かれた右肩上がりの曲線をなぞった。
戦後は僅か二万人ほどだった大卒者が、現在は五十万人超。これは確かに多い。
「一方、内定率についてですが、これは景気動向にも大きく作用されるので一概には言えませんが・・・」
職員はグラフの青線の部分をレーザーポインターで指し示した。
「大学生の増加にそれなりに対応してきたことはわかります。」
バブル景気が弾ける平成三年度までは、おおむね八割台で推移してきたことを説明した。
すなわち、戦後は大学および大学生の数が急増してきたものの、
戦後50年近くは日本は右肩上がりの経済成長を続けてきたので、
雇用市場はその大学生の増加に対応できだけの需要を生み出せてきたのだ。
「だけどですね・・・みなさん」
ここで職員は声を落とした。そしてほんの数秒、無言となる。
ガイダンスに参加した学生たちが、その突然の雰囲気の変化に、僅かに動揺する。
沈黙はしばらく続いた。空調の音が、大教室の中でやけに大きく響く。
シェアワールド作家さんもまた緊張した。職員が今まで話した話の、大体半分くらいは理解できた。
何せ普段からラノベとエロゲとアニメとマンガで鍛え抜かれた頭脳なのだ。
ヲタレベルという点では、自分の周りにいるFラン学生たちとはちょっと違う。
職員は、学生たちの反応を充分見計らった上で、ようやく口を開いた。
「もう、戦後の経済成長神話は終わったんです。バブル経済の終焉とともにね」
そして職員は、軽く机を叩いた。
「すなわち、今の大学生の多くは、就職市場にとっては余剰な人たちなんです」
いいですか、既に単純な右肩上がりの経済成長は終わってるんです。
さらにグローバリズム化が進んだ昨今、大企業を中心として生産拠点を人件費の安い海外へ移転させています。
特に製造業・・・人件費はじめインフラ等固定費が掛かってしまう産業は、現在積極的に海外へ事業展開してます。
つまりどういうことかというと、国内の雇用が空洞化している、ということです。
もっと解りやすく言えば、あなたがたの就職口はどんどん減っているんです。
語尾をピシリ!と叩きつけるように職員は言うと、グラフを再び指し示した。
大企業などでは大卒は原則、幹部候補生のみの採用にシフトしつつあります。
さらにグローバリズム展開を想定して、こうした幹部候補生たちも外国人を採用するケースが目立っています。
「・・・英語や中国語を話せないと、もうダメかもしれませんね」
と続けて、職員はちょっと笑って見せた。だが、学生は誰一人笑うものなどいなかった。
それはもうジョークにすらならないのだ。何せここはFラン大学なのだから。
- 27 :
- そして、そんな話を聞かされているシェアワールド作家さんはというと、何故かもう呆然としていた。
就職とか結構ヤバイんだな、ということは話を聞いていて何となくわかるのだが、
それをよそに既にシェアワールド作家さんの脳内は現実逃避を始めていたのだ。
架空、仮構の世界は、現実逃避をした者たちのゆりかご。
そこはかりそめの甘い夢や、ぬるま湯のような妄想が交錯する社会的弱者たちの楽園。
現実に向き合わない、という一点において、決して揺らぎの無い世界。
非現実的な設定の数々・・・異世界、終末世界、破滅世界、基本女キャラは美少女、都合よく出てくる敵。
このシェアワールド作家さんのように他人性というものと渡り合えない弱者たちのために、過剰に守られた設定。
決して破られることのない予定調和の虚構の中では、現実と向き合うべき文学性が芽生えることなど当然なく、
現実社会から切り離された虚しい夢の中で、いつまでも醒めることの無いさらなえう夢の続きを紡ぎ続け、取り繕い・・・、
「・・・労働集約型産業、例えばですね、介護職など、具体的な資格を持つことも選択肢の一つなんです」
職員は相変わらず続けていた。最も、この種の仕事は所得は低くならざるをえないのですが、と付け加える。
周囲の学生たちは真剣な面持ちでメモをとったり、ガイダンス用に渡されたレジュメに目を通していた。
大学が増えすぎたことにより、かつては高校を卒業して就職したであろう人間すら、大学に行くようになった。
だが、先ほども申し上げたように、もう国内の労働市場ではこういった学生の受け皿はもうなくなってきているんです。
本来、高卒で就職すべき人材すら、増えすぎた大学に吸収されてしまったという現実があります。
(「うちのようなFラン大学にね」とは、さすがに言わなかった)
だが、もうそういった言葉は、シェアワールド作家さんの耳には届いていなかった。
都合のよい美少女との掛け合いが繰り返される、ぬるま湯のような物語世界へとジャンプしていたのだ。
・・・中小企業を中心とした就職ガイダンスが近々開かれます。みなさん積極的に参加してください。
実は中小企業全体の求人数を見れば、結構進路はあるんです。後は皆さんの決意と覚悟なんです。
名前だけの大企業を目指してもダメです。企業のブランド名に惑わされないでください。
そう言って中小企業就職ガイダンスのスケジュールを黒板に書き付ける職員。
くわしくはここにパンフレットがありますから、ガイダンス終了次第、とりにきてください、と告げながら。
Fラン大学ならFラン大学で、とりあえず学生たちの行く末を心配はしているのだ。
一方で・・・ツンデレやらヤンデレやらの美少女たちと、なにやらモンスターっぽい敵と戦う己がいた。
そこは実に都合の良い試練や、実に都合の良い危機が主人公に襲い掛かり、
実に都合よく苦しみながら、ついには勝利したりするのだ。そしてお決まりの、美少女キャラとの掛け合い。
それは文学でなく、商業小説にすら成り得ない、ただの下らない、瓦礫の山のごとき夢のおはなし。
妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!
終わり無き日常を生きよ!
- 28 :
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%ヘ、
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/ / / .|. , .| `、 ト、_ヾ`゙''、〈 ヘ
/./ |  ̄/!`''ト、| ,.t‐'"7"\ ヽヽ \ ハ
/./ | / |_/| .| | /_ \! \ `、! |
//. | r====x、| ,,r=====ゥ| /'\ヽ、.|
∠.| | i! .《 |!::::i|レ |!::::::::::i|. ‖! /、. ト、ヽ
.| ii ll lヾ、!::’:| l!::::’:‖././/9 ! ,' .\ヽ
.| ∧ |.! ! !弋;;ノ 弋;;,ノ "./〆./ / .| \ヽ
.| | .! ! ト、| | ` //,ノ'! / | ヾ 、
! .! .!.l | ヽ、 /::::/ / ,イ ヽ、
∨l レ |. ....:::丶、 ´` ,,r''´!:::::/ /::: | ヽ、
∨、 / .....:::::::::`>-r'' ´ |::::/ ./::::::: | `、
ヾヽ,/ ::::::::::::::::::::::,.r‐| |>' /::::::::::: .| \
\、:::::::::::,.-‐一'ハ'/ //'、_::::::::::: |
/ ヽ、/ .|. \ _,ノ/' | `丶、 |
- 29 :
- 【参考:TPP諸国の2010年国民所得(国民一人当たりGDP) 単位:ドル】
http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/20110209-1.jpg
日本と関係が深いベトナムの国民所得(国民一人当たりGDP)は、2010年の数字で1155ドルです。
それに対し、日本は42345ドル。その差、実に36倍以上になります。
TPPに加盟すると、「労働者の移動の自由化」も原則的に保証しなければなりません。
別にベトナムに含むところは全くないですが、国民所得が日本の36分の一以下の国の労働者と、
我が国の労働者は「真っ向対決」しなければならなくなるわけです。
まさしく、アラン・トネルソン氏の言う「底辺への競争」が始まることになります。
ちなみに、TPP諸国の中で本格的な製造大国は日本しかありません。
TPPによりベトナムの労働者たちが向かう先は、圧倒的に日本が多くなるでしょう。
国内工場において、国民所得36分の一の国の労働者と、日本の労働者が「底辺への競争」を繰り広げる。
もしかしたら、経団連のお偉方は「人件費が下げられる」と喜ぶのかも知れませんが、
果たしてこれが「国民経済の目的」にかなっていると言えるのでしょうか?
- 30 :
-
< 第四章 ファンタジー作家さま、いずこへ? >
「・・・・・・。」
ファンタジー作家さまは沈黙した。
たった今、ファンタジー作家さまは派遣切りを喰らったばかり。
「生産調整」というその魔法の言葉は、桁外れに強力な攻撃力を秘めているらしく、
ファンタジー作家さまを始め、同じ工場内に勤めていた派遣工たちのHPを軒並みゼロに減らして見せたのだ。
もちろん、この現実世界にはセーブポイントはない。
というか、セーフティーネットがないと言い換えるべきか?
だが、もう遅かった。
すでに「辛い現実」は「生産調整」と名を変え、ファンタジー作家さんの抱くファンタジーを見事に打ち砕いてしまった。
というより、ファンタジー作家さんの生活基盤そのものを根絶やしにしてしまったのだ・・・。
・・・実はかつて、ファンタジー作家さんの働いていた組み立てラインのライン班長さんが、
前にこの件に対して動こうとしたことがあった。
この班長さんは一応、請負契約という形で、この会社に直接に雇用されているシステムエンジニアである。
その班長さんが、ファンタジー作家さんら、ラインで働いている人たちを集めて、
会社の労組と掛け合って自分たちを組合に参加させるよう頼むべきだと言ったのだ。
その時、ライン工のみんなの顔に浮かんだのは、困惑の表情だった。
何だかめんどうくさい、と小声でつぶやく者すらいた。
そんな中、班長は必死にライン工たちに訴える。
我々は不当に搾取されているのだが、団結していないが故に、会社に対して労働環境改善を訴える手立てがない、と。
本当のことを言えば、我々のような立場の人間で団体交渉すべく、組合を作りたいのだが、法的根拠が現在無い、と。
それゆえ、我々は会社の正社員による労組に参加を打診し、彼らと共闘して自分たちの要求を訴えるべきだ、と。
ここにいるライン工たちは、実は契約関係は一様ではない。
例えばファンタジー作家さんのように、人材派遣会社という奴隷斡旋所に登録して働いている派遣工もいる。
これらの派遣工は工場との直接の雇用関係を持たず、経理上はあくまで「モノ(=労働力)」でしかない。
彼らはまさしく生産計画の変更に伴い、簡単に採用及び解雇が可能な、ある意味リスクを担う労働者なのだ。
その他にも「期間従業員」という形で、会社とは直接の雇用契約を締結しているライン工もいる。
これらの期間従業員たちの雇用契約期間は、最長で二年十一ヶ月。
三年間の直接雇用の事実があれば正規雇用にしなければならないので、一ヶ月減らしているのだ。
ただしその間、社保は会社によるものの適用があり、その経費その他も会社持ち。
さらにこの班長さんみたいな請負契約の人もいる。
もちろんラインには高卒で本社直接採用され、ラインに並んでいる正社員もいる。
主に地元の工業高校や高専からの採用(地元縁故枠)である。
地縁があるせいか、待遇その他は、ファンタジー作家さんのような奴隷とは桁違い。
そんな正社員ライン工たちは、当然ながらこんな馬鹿げた集会には参加していない。
第一、会社に内緒で待合室を勝手に占拠している違法集会なのだから。
ファンタジー作家さんもまた戸惑っていた。
正直、今の生活は辛い。ファンタジー世界に現実逃避して、己を慰めなければ恐らく潰れてしまう。
ギリギリの生活と絶望的な将来を見据えながら、それでも今まで必死に搾取的労働に耐え忍んできたのだ。
薄給に耐え、過酷なノルマに耐え、正社員たちの侮蔑の視線にも耐え・・・。
・・・しばらくすると、熱心に語る班長さんの熱意に煽られたのか、賛同するものも出てきた。
そうだ、こんなにきつい仕事をしてるというのに、こんなに給料が少ないのは可笑しいよな、そう言いだすものもいた。
「ならば、これから労務部に行って組合に参加させてくれるよう、訴えてくるよ」
班長はそう言うと、にこやかに笑った・・・。
- 31 :
- ・・・数日後、班長はいなくなった。
一体どうしたのだろう?とファンタジー作家さんは思った。
ライン班長には、地元採用の正社員の工員がかわりになった。
絵に描いたようなDQNで、ライン工を前に威張り散らし、時折携帯いじってサボっている。
何でも地元の工業高校からの採用で、実家は建設会社でそこの三男坊との話だ。
「班長、契約切られたらしいよ」
隣にいたライン工の男が言った。ちょっとイノシシっぽい顔をした、オタク系の男だった。
年齢は三十になろうか、というところか?年齢の割りに髪がかなり薄くなっている。
「・・・・・・えっ?」
ファンタジー作家さんは、作業の手を止めないよう注意しながら返事をした。
班長が契約解除って、結局労組への参加がダメだったってことか?
すると、イノシシぽいオタク男が続けた。
「ライン工全員の労組への参加を訴えたんだけど、その労組自体に突っぱねられたらしい」
オタク男はつぶやくようにそう言うと、ベルトコンベアに流れてきた製品に、部品を器用に取り付けて戻した。
「突っぱねるって、どういうこと? 労組って労働者の権利を守ってくれるんじゃないの?」
ファンタジー作家さんは、聞き返した。
正直言えば、班長さんの話の大半は理解不能だったのだが、
班長さんの言うことをきいていれば、今よりも仕事が楽になったり、給料が増えるんじゃないかと少し期待していたのだ。
「まさか。会社の正社員の労組は、機械連合って労組の連合の一セクトで、正社員の権利しか守らないんだよ」
オタク男は言う。オタク男もファンタジー作家さんと同じく派遣のライン工だ。
ただファンタジー作家さんよりも一年くらいキャリアが長い。
「じゃあ、僕らみたな非正規雇用のライン工は・・・?」
「守ってくれるわけないじゃん。第一、ラインで同じ仕事してても、正社員のが手取り上なんだぜ?
オタク男が言うには、正社員の雇用条件は派遣工に比べて格段によい。
手取りもさることながら、様々な経費や補助、福利厚生に至るまで、派遣工には得られない待遇が保障されている。
同業種同賃金の原則、という言葉があるのだが、それは日本の派遣労働においては完全に無視されている。
会社からみると、実は正社員一人に掛かる固定費よりも派遣工一人に掛かる経費の方が多いというのだ。
ファンタジー作家さんは、それを意外に思った。正社員よりも多くの金が掛かっているのに、何で僕らのところに回らない?
「・・・そんなの決まってるじゃんか。その分、全部、人材派遣会社がハネてんだよ」
つまり俺たちは奴隷さ、とオタク男は嘯き、尚も作業を続ける。
驚きのあまり手を止めたファンタジー作家さんに、おい、手を動かせよ!と声を掛けた・・・。
- 32 :
- ・・・その数日後。
ファンタジー作家さんは、派遣切りで工場から出てゆくことになった。
「生産調整」という言葉は、まさしく最強の魔法であった。
その大手機械メーカーの工場に勤務する50名ほどの派遣労働者の仕事を、一瞬にして奪い去ったのだから。
当然、寮として斡旋されたレオパレス21の安アパートは、出てゆかねばならない。
その猶予期間はわずか・・・・・・3日。
次の仕事はあるのですか?と派遣会社の担当者に電話で尋ねる。
だが、担当者は「最近は不況でね」と冷たく言い放ち、「あればそのうち連絡する」と言って電話を切った。
おそらくその電話は、永遠にやってこないであろう。
ファンタジー作家さんは、安アパートの己の部屋を見た。
最低限の生活必需品のほかに、ファンタジー作家さんの大好きなファンタジー系ラノベやエロゲが転がっていた。
それは辛い現実社会を生きるファンタジー作家さんの、殆ど唯一と言ってよい慰め。
将来もなく、結婚どころか女性とのRもなく、金も無い。
完全に行き詰まったファンタジー作家さんの、最後の慰め。
そして決して満たされることのない、悲しい慰め。
現実の自分を何も変えることのできない、ジャンクの集積のような、悲しい夢。
カラフルなアニメ絵で描かれた美少女が、そこでは微笑んでいた。
ファンタジー作家さんも、こうした作品を書きたいと望んでいた。
だが、それも、今や夢の残骸。
妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!
虚しい現実の波が、ファンタジー作家さんを侵し、壊してゆく。
今回は「生産調整による派遣切り」という、巨波だったというだけだ。
床の上にうずくまり、ファンタジー作家さんは泣いた。
大切にしていた美少女フィギュアを、思い切り壁に投げつけた。
窓からは初冬の日差しが柔らかく差し込んでいた・・・。
- 33 :
- ああ、ファンタジー作家さんよ!シェアワールド作家さんよ!
君たちは一体、何を目指しているのか!
君たちに救いは訪れるのだろうか?
虚像のアイドルや、虚構の美少女キャラは、決して君たちに微笑みかけてはくれないというのに!
偽りの笑顔で君たちを惑わせるだけの、ただの消費財でしかないというのに!
それでも君たちは、君たちは!
それでも君たちは仮構の世界を愛するというのか!
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http://kidswota.qp.land.to/wota/src/kimowota0419.jpg
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- 34 :
- >>28
乙!!
- 35 :
- >>34
乙!!
- 36 :
-
< 第五章 ファンタジー作家さまの崩壊 >
「・・・ああ、またも工場閉鎖なのか」
ファンタジー作家さまは求人登録票を握り締めながらそう思った。
ロビーの隅にあるテレビで流れているニュース番組は、以下のニュースを報道していた。
どんどん進む 「職場消失」の恐怖! パナソニックだけでなく、ここへきて工場の売却や閉鎖、海外脱出が相次。
http://news.infoseek.co.jp/article/24gendainet000157422/
実に1000人規模のリストラ、とその記事にはある。
もはや国内の雇用市場は溶けている、と言ってもよい。
現在の雇用溶解の主因は急速な円高によるものではあるが、
そうでなくても、やはり企業の海外脱出という傾向は変わらなかったであろう。
受付は長蛇の列で、ファンタジー作家さんの順番は当分回ってこないだろう。
すでにファンタジー作家さんは疲れ切っていた。
今日はおそらく仕事はない、そう思ったファンタジー作家さんは、とりあえずロビーの長椅子に座った。
椅子の上には新聞があり、最近新聞を買う金すら惜しんでいたファンタジー作家さんは、何気にそれを手にとった。
最初に目に入った記事は、以下のようなものであった。
非正社員の割合は38.7%と過去最高(昨年10月時点)
>厚生労働省が29日発表した「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(2010年10月時点)によると、
>全労働者のうちパートタイムや契約社員など非正社員の割合は38.7%となり、過去最高を更新した。
>企業の人件費抑制が背景にあり、07年の前回調査(37.8%)から0.9ポイント上昇。
>厚労省は「景気の影響で非正社員の比率上昇はしばらく続くのではないか」とみている。
>http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2011082900662
「・・・・・・。」
確かに最近は、この非正規雇用の口すらおぼつかなくなっている。
円高のせいで輸出産業や製造業全般が低迷し、製造業派遣の口が急減しているのだ。
事に地方の衰退は激しく、所得の低いサービス業や介護などがやっと。
しかも自治体から補助金受け取りながら細々と雇用を支えている現状というありさま。
資格無し、技能無し、学歴無し、職歴はほぼ非正規派遣・・・
唯一といっていい能力は、アニメやラノベやマンガで培った異世界ファンタジーの知識。
正直、この過酷な現実社会の中では、全く役に立ちそうも無い。
既に絶望はファンタジー作家さんの精神を崩し始めていた。
かつてあれほど甘美で魅力的だった、ファンタジー作家さんの妄想世界が、何故か色あせて見える。
つい最近、役所に申請した生活保護は却下された。
寮を追い出されて以来、住所自体がないのだから、当たり前といえば当たり前だ・・・。
- 37 :
- ・・・受付では、自分と同じような風体の男が、担当者に怒鳴りつけていた。
「何で無いんだよ! お前ふざけんなよ! もう今月金ねえんだよ!」
担当者は顔を顰め、丁寧な口調でその男を宥めている。
男は手にした求人票と履歴書を、担当者の男の顔めがけて投げつけた。
それらは担当者の胸の辺りに当たり、そのままカウンターの上にハラリと落ちる。
列の後ろの方から、おい、仕事無いんなら早くどけよ!後ろつかえてるんだよ!と、イラついた声が次々と上がる。
その声は返って男の気持ちをかき乱したらしく、ロビー全体に響き渡る声で怒鳴り散らし始めた。
担当者が押し留めようとすると、男は担当者のネクタイを掴み、「仕事ちゃんと紹介しろよ!」と叫ぶ。
すると入り口当たりに立っていた制服姿の警備員が駆けつけ、男を担当者から引き剥がす。
男は尚も抵抗し、喚き散らしながら「ふざけんな! 離せ、クソッ!」と暴れる。
暴れる男を取り押さえようとする警備員。職員の何人かがそれに加担し、男を押さえつける。
男はそのままロビーから外へと連れ出された。
そして、男が連れ出されて一分も経たないというのに、ロビーは再び落ち着きを取り戻した。
あれほどの騒ぎだったというのに、職員はネクタイを直して再び席に座り、次の求職者の対応を始める。
列に並んでいる人たちも、特に何事も無かったかのように、静かに順番を待っている。
それはまるで、機械仕掛けのように思えた。
諦観に満ちた整然さが、一つ一つ効率的に事務的に処理されてゆく。
その一連の所作の中に、ファンタジックな要素が入り込む余地など一切なかった。
それほど、現実は確かな存在であり、揺らぎも隙も無かった。
ましてやファンタジー作家さんのような、中二病的ファンタジー妄想など、入り込む余地などあるわけが無かった・・・。
ファンタジー作家さんは、思わず想像した。
今、ここに巨大なドラゴンか何かが現れ、灼熱の炎を吐きながら、この街を破壊してくれないだろうか?と。
別に宇宙人でも構わない、いや、世界が崩壊し、暗黒世界から何か魔物たちが復活してくれても構わない。
とにかく何でもよいから、今、目の前にあるこの現実を吹き飛ばしてくれないだろうか?と。
そう思いながら、ファンタジー作家さんはしばらく当たりを見つめていた。
だが、目の前の光景は、何も揺らがなかった。
事務的に、手際よく、淡々と全てが処理されてゆく。
その流れに乗れなかったものは、事務的に、手際よく、淡々と捨てられるのだ。
今の、ファンタジー作家さんのように・・・。
妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!
・・・まもなく、日が沈む。
- 38 :
-
%ヘ、
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- 39 :
-
< 第六章 シェアワールド作家さまの・・・玉砕 >
「では、順番に名前と大学名をお願いします」
面接の担当官はそう言うと、椅子に座るリクルート学生たちの一番右に座っている青年を促した。
青年は椅子から立ち上がろうとした。
すると担当官は、「あ、座ったままでいいですよ」と言う。
青年はちょっと慌て、僅かに苦笑いを浮かべながら再び椅子に座った。
緊張した面持ちを浮かべているのが傍から見てても解る。
唾を呑み込んだらしく、せり出した喉仏が大きく上下に動いた。
「・・・名前は、現実太郎と申します。現在、私は現実大学法学部法律学科の三回生です」
青年はハキハキとした声で、そう話し始めた。
その声は朗々としており、この面接室全体に響き渡るようであった。
高校の教室くらいの広さのこの部屋には、現在、現実太郎君を含め、学生が五名ほどいた。
全員、横一列に並べられた折りたたみ椅子の全員座っている。
もちろんきちんとしたリクルートルックだ。
彼らの目の前には、企業の採用担当の面接官たちが並んでいる。
歳は若い・・・一次面接だからだろうか、一人40代らしき人を除けば、残りは学生とさほど変わらない若さだ。
おそらくは入社数年、といった若手なのだろう。
そんな中で、最初に自己紹介をすることとなった青年は、尚も朗々と話を続けている。
法学部では現在、会社法のゼミに所属しております。
卒論は、取締役の第三者に対する責任について、をテーマにしております。
学生時代はバトミントンをやってました。現在も大学のバトミントン部に所属しております。
高校時代は、バトミントンで個人で県大会ベスト4まで進んだことが、今の自分の自信につながっていると思います。
また、ボランティアサークルにも所属し、夏休みを利用して被災地での瓦礫撤去のボランティアに参加しました・・・。
- 40 :
- ・・・青年の話を脇で聞いていたシェアワールド作家さんは慄然とした。
あまりにもスペックが違いすぎる、そう思ったからだ。
自分は何を言おうか、と、シェアワールド作家さんは(貧弱な)脳味噌で必死に考え出す。
だが、出てくるのはツンデレ系の美少女戦士が水浴びしているシーンを思わず目にしてしまい、
そのツンデレ美少女に思い切りぶん殴られるという、何とも下らない妄想。
いやダメだ、もっとまともなことを。
だが、出てくるのは清純派の白魔法使いのお嬢様と添い寝をせざるを得なくなり、
朝、そのお嬢様キャラの目の前で朝立ちしているのを見つかってキャーと叫ばれ・・・
いやダメだ、もっとまともなことを。
だが、出てくるのは、遅刻しそうになって必死に走っていたら、交差点でボーイッシュな美少女とごっちん!
ひっくり返ったと同時に、そのボーイッシュな美少女のスカートの中が見え、そこにはクマさんのパンティー・・・
いやダメだ、もっとまともなことを。
同級生の眉目秀麗な美少女は実は魔法使いであり、この学園に巣食う魔物を退治するために送りこまれ、
たまたま彼女の着替えのシーンをみて体に刻まれた紋章でそのことを知った自分は彼女と一緒にバトルに巻き込まれ・・・
いや、ダメだ、もっとまともなことを。
いや、ダメだ、もっとまともなことを。
いや、ダメだ、もっとまともなことを。
いや、ダメだ、もっとまともなことを・・・・・・。
- 41 :
- ・・・面接はどんどん続いていた。
我らが主人公、シェアワールド作家さまは、一番最後。
シェアワールド作家さまが馬鹿げた妄想の興じている間に、面接はどんどん進んでいたらしく、今や四人目。
すなわちシェアワールド作家さまは、この次なのだ。
「・・・ではお名前からどうぞ」
面接官がそう言うと、その細身の青年は、よく通る低い声で話し始めた。
「名前はホー・グェン・サップと申します。ベトナム出身の留学生です」
と、とても流暢な日本語で話し始めた。殆ど訛りなしの、キレイな日本語。
「日本語が大変流暢で驚きました。日本に来られてどれくらいになりますか?」
「はい、今年で三年目です。日本語は母国の高校時代にも第二外国語として専攻してましたので、得意な方だと思います」
「話せるのは日本語だけですか?」
「いえ、母国語と日本語のほか、フランス語はわかります。なお、TOEFLは910点でした」
「凄いですね。」
「ありがとうございます」
・・・シェアワールド作家さまは恐怖を覚えた。
自分の脇にいる、この賢そうなベトナム人留学生は、自分なんかとは比べ物にならないスペックの持ち主。
確かに秀でた額や鋭い眼光は、とても賢そうに見える・・・ってほんの数年でこんなに日本語話せるって!
ベトナム人青年は更に続けた。
「・・・私は、東京大学工学部を一昨年卒業し、現在は東京大学大学院工学研究科修士課程二年に在籍しております」
・・・東京大学?それはあの東京大学のこと?
と、シェアワールド作家さんは眩暈がした。
「東大生の方が、なぜ大手ではないわが社にわざわざ?」
と、面接官が苦笑いしながら尋ねる。すると、
「御社の製造部門の工場が、実は私の故郷にもあります。小さい頃から私は、その工場を見ながら育ちました」
ベトナム人青年によると、市場開放以降、外資が次々とベトナムに拠点を構えるようになったという。
それは大企業だけではなく、今、シェアワールド作家さんが入社試験を受けてる中小の製造業でも例外ではなく、
青年の故郷には、規模が小さいながらも、この会社の工場が建設され、近隣の村落に雇用をもたらしたという。
「叔父がその工場で働いていました」
ベトナム人青年はそう話、少し照れるように笑った。
すると、今まで押し黙っていた唯一40代というベテラン社員の面接官が前に乗り出して話し始めた。
「ベトナム工場のことを知っていたとは意外だよ。あそこはわが社にとっては東南アジアにおける生産拠点だからね」
「はい、叔父はそのことを自慢げに話しておりました。残念ながら三年ほど前に病気で他界しましたが」
少し目を落とす青年。一瞬だが、理知的な彼の中に、悲しみの感情が現れた。
- 42 :
- 「ただもちろん、御社に入社したいと思ったのは、近所に工場があったからという理由だけではありません」
青年はしっかりとした口調で話しを続ける。
今後、急成長を続ける東南アジアおよび南アジアの市場を視野にいれ、
主に電子部品や精密機械工作機器の製造ノウハウを持つこの会社の事業展開に関わりたい。
現在も既にインドシナ半島は、世界の工場としての地位を獲得しつつあるが、
今後はこうしたハイテク産業の生産拠点として発展を続ける見込みが高いはずです。
なお、会社においては幅広い事業を展開するより、現在における主要事業の一つである精密加工技術をメインに据え、
さらにそれに関連したソフトウェア開発に特化すべきだと考えております・・・。
ベトナム人留学生の青年は、このように次々と話を進めてゆく。
それはシェアワールド作家さんにとっては、もはや呪文同然だった。
HPはさほど減らないものの、精神的ダメージはもう計り知れないほどの、強烈な呪文・・・。
外国人留学生参戦で「新卒採用戦線異状あり」 〜東商の合同企業説明会より。
> 東商は28日、外国人留学生向けの合同企業説明会を東京都内で開いた。
> 日本で就職を希望するアジア各国の留学生約450人に対し、
> メーカー、専門商社、情報企業など21社がPRした。
> 中国、ベトナムなど19カ国・地域から来た学生たちは9割が日本の大学や大学院を修了見込みの高学歴で、
> リクルートルックに身を包み流暢(りゅうちょう)な日本語を話す。
> 説明会で提示された待遇はほとんどが日本人新卒と同待遇。
> 「グローバル化時代の採用は国籍にこだわらない」「真面目な留学生は即戦力」
> 「日本人の新卒を育てるより効率的」と会社側も採用に積極的だ。
> 中堅・中小企業の新卒採用戦線は外国人留学生も加わって熾烈さを増している。
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/111028/biz11102819110030-n1.htm
ああっ!
「・・・では、最後の方、自己紹介をお願いします」
「はい、私の名前は、シェアワールド作家さま、です・・・」
シェアワールド作家さまの声に、力は無かった。目もうつろ、態度もどこか挙動不審。
・・・私は現在、・・・Fラン大学の社会科学部・・・文化創生コミュニケーション学科というところにいます。
あの、その・・・えっと三年生です。あ、一浪しましたけど・・・えっと。
その、専攻は、その、この間はどこかの部族の文化と比較するとかいうレポートを出して・・・その。
趣味は、その・・・えっと、ライトノベルを読むことです。
今のライトノベルは、もう文学と言ってもいいくらいに、凄くおもしろい本です。
それと、エロゲ・・・じゃなくて恋愛シュミレーションゲームで・・・その。
あと、スポーツは、中学校時代に卓球部にいましたが・・・。
・・・この後の記憶は、全く残っていない。
妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!
・・・二次面接へ来てください、という連絡は、ついに無かった・・・当然だけど。
- 43 :
- >>28
乙です!
- 44 :
- この子誰だったっけな
- 45 :
- 北条院さんではないかなと思う
- 46 :
- >> ID:DOb/UijS
オタクは意外と公務員とかやってる堅実な人間が多いよ
オタクやってる人間は金を結構使うから無職だと無理
あとかなり面白かった
ここの住人はこういうのを無視すると思うけど
- 47 :
- >>45
さんくす
- 48 :
- >>30
個人の請負契約のが派遣よりやばいんだよ
福利厚生も労災もないからな
偽装請負でggr
- 49 :
-
%ヘ、
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/./ | / |_/| .| | /_ \! \ `、! | < 残念、天草五姫よ
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`ゝ-ヽ _,r''" \
`ν、 ./ 、 ̄`゙''-、
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ヽ. | ., / 十‐‐!‐‐/‐ヽ ' ., .|ヽ.| .!/
ヽ , | .| |. ', /! ./ ! /,,ィ==rx .i!
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', l ', ∧ 、 、 ゞ .|l::lllll::!|" .辷!ク‖〈. ',
`'' ,ノ / \ ヽ !. 弋ェェク .| ヽ /
( ( \! ! ’ ,ノ、 ヽ' < 北条院はこっち
ヽ) ‖ ',、 -- ‐ / ) )
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ヾ!‖| //>''"´ /.-''" ! \.:.:\
- 52 :
- >>49
天草だったかw
間違えたよ悔しい
- 53 :
- >>49-51
乙!!!
素晴らしい!もっとやれ!
< 第六章 シェアワールド作家さまの・・・素敵な月曜日 >
>・・"平均年収800万" 市職員、することないので勤務時間中に楽しく野球…神戸市・環境局
>
> 神戸市環境局北事務所(神戸市北区)のごみ収集担当職員らが勤務時間中、
>事務所敷地内でキャッチボールやノックをしていたことがわかった。
>
> ※以下はスクープしたMBSの報道特集より。
> ・3mのフェンスで中が見えない駐車場で野球。
> ・現場を知る男性「朝のゴミ収集が終わると終業まですることがないので、時間潰し」。
> ・午後2時ごろから4時頃まで、ゴルフの素振り、サッカーのリフティング、
> ノックしてのフライキャッチ練習、ピッO練習などで楽しむ職員たちの姿。
> ・4時半すぎに職員たちは車に乗り門の前に待ち構える。4時45分の終業チャイムと同時に発車、帰宅。
>
> ※神戸市職員の平均年収は800万円。
>
>http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20111122-OYT1T01238.htm
「・・・やっぱ公務員最高だよな」
妄想ファンタジーという現実逃避ワールドをひた走るFラン大学生ことシェアワールド作家さまは、溜め息をついた。
平均月収800万円、なんと素晴らしい響きではないか。
何でも、ヲタをやっている人間は堅実な人間が多いらしい(※>>46さんの情報より)。
公務員とかしっかりとした仕事を持ってる人じゃないと、何だかんだで散財しがちなヲタを続けるのは難しい、とのこと。
ならば、と、シェアワールド作家さんは思った。
自分も公務員を目指せばよいではないか。
もうあんなきつい就活なんぞせずに、公務員試験を受けて自治体の職員になってしまえば・・・
「・・・年収800万円で、休み時間とり放題かあ。その間妄想ワールドで萌えとハーレムでファンタジーできるな」
R見えそうなミニスカートを履いたアニメ絵の美少女が描かれたラノベの表紙絵を見つめながら、そうつぶやく。
確かにヲタ道は金が掛かる。
自分の作り上げた妄想世界・・・その現実逃避の揺り籠により都合の良いリアリティを与えるためには、
様々なアニメやマンガの伝奇モノや軍事モノや劣化ファンタジーから設定やネタをパクら無ければならないのだ。
ありもしない魔法や空想科学技術の設定を、とにかく無駄に細かく作り上げてゆく。
そのためにファンタジー系RPGやそのメディアミックス版のコミックやラノベ当たりを蒐集したり。
とりあえず美少女キャラとファンタジックな魔物相手に軍事モノをやってみるのもいいかな、なんて思ったり。
そんでエクソシズムや悪魔祓い、魔物退治みたいな異形の怪物を描きこむためには、やはり伝奇モノか。
んじゃとりあえず京極夏彦の本を数冊読んでみたり、でもやっぱり萌えとハーレム必要だよな、とラノベに戻ったり、
猫耳の萌えキャラと旅に出る妄想や、学園の中に魔物が現れて美少女と共闘して退治してみたり、
そんなこんなで就職活動のための会社研究やらず、採用試験のガイダンスの申し込みメールなんかもほっぽりだし、
まあどうせ出したところで「既に定員に達しております」なんて返事が来ることはわかりきってるわけだし、
大学の同級生(殆ど友達なんかいないんだけど)たちは、みんな就活に齷齪する最中にも、
シェアワールド作家さんだけ余裕ぶっこいて妄想世界で萌えキャラとハーレムパーティー組んで異形魔物退治・・・。
・・・てな具合で、ヲタはお金と時間が必要なのだ。
凄く勉強になった、ありがとう!とシェアワールド作家さまは、神こと>>46と上記のニュースに深く感謝した。
- 54 :
- ・・・さてさて、都合のよい美少女キャラたちと異世界で冒険を繰り広げるために、
公務員を目指すことを決めたシェアワールド作家さま。
とりあえず公務員になるためには何をしたらいいのか、を調べなきゃならない。
でもそれは、就活という現実を直視しなきゃいけないわけで。
ひたすら現実から逃げまくっていたシェアワールド作家さまには、こんな簡単な作業すら苦痛だった・・・。
・・・さて、数時間ほどエロゲの世界に没頭して、デジタル情報でしかない美少女にうっとりしたシェアワールド作家さま。
ようやく重過ぎる腰を上げて、地方公務員の試験情報を探し始めた。
>「教養試験」
> [必須:25問くらい]
> 文章理解、英文理解、判断推理、数的処理、資料解釈、空間概念
>
> [選択:20問中から15問程度の選択。解るのをやればよい]
> ・人文科学(化学・生物・物理・地学)
> ・自然科学(日本史・世界史・地理・思想・芸術)
> ・社会科学、社会事情、社会政策
>
>「専門試験」
> [選択:50問中から40問程度の選択。これも解る問題優先で]
> ・憲法、行政法、民法、労働法
> ・経済原論(ミクロ・マクロ)、経済政策、経済史
> ・財政学、政治学、行政学、社会学、経営学、国際関係
> 場合によって、会計学、刑法、商法 等々
>
>これらは5択のマークシートで、最低7割。安全圏なら8割くらい。6割だと厳しい。
>それに加えて「教養論文」、場合によって「専門記述」
- 55 :
- 「・・・・・・。」
眩暈がした。
シェアワールド作家さまのご専攻なされてる文化創生コミュニケーションなんとか、なんて科目などどこにもない。
つか、その文化創造ディスコミュニケーションうんぬんという己の専攻分野だって、一体なんのことかわからない。
実はこんなのFラン大学が馬鹿学生相手に資金集めのために無理やり作った学部でしかないのだが、そんなことはわからない。
とらいえず大卒って学歴はやるが、学費はたんまりいただくし、卒業後の進路はまあがんばってね、ってやつね。
その金だけ吸い取られて何ら教養も身につかない四年間を、見事に無駄に浪費してみせたシェアワールド作家さま。
今更地方公務員なんて目指すとかほざいても、正直遅いって。
県庁や政令指定都市、県庁所在地の地方上級なんて、地方旧帝や早慶レベルUターン組の人間と争うことになるんだぜ?
大学生活の殆どを妄想世界に浸りきり、脳味噌が茹で上がっちゃったシェアワールド作家さまに勝ち目なんかねーよ。
教養試験出題例[一般知識(1) 社会科学・人文科学]
http://www.tokyo-ac.co.jp/koumuin/kc-kyoyoEX2.html
教養試験出題例[一般知識(2) 自然科学]
http://www.tokyo-ac.co.jp/koumuin/kc-kyoyoEX3.html
教養試験出題例[一般知能]
http://www.tokyo-ac.co.jp/koumuin/kc-kyoyoEX1.html
地方上級公務員試験の出題内訳
http://www.tokyo-ac.co.jp/koumuin/kc-gaiyo1_pattern1.htm
シェアワールド作家さんはだんだん気持ち悪くなってきた。
眩暈だけではなく、吐き気と頭痛が激しくなってゆく。
何か嫌な汗が額に滲んできている。こんなの嫌だ!こんなつらい現実なんてみたくない!と本能が訴えいている。
でも、妄想美少女たちと異世界ファンタジー世界を冒険するためには、こういう堅い仕事やらなくちゃ・・・
他にも中級職や初級職ってのもあるらしい。短大や高校卒業者を対象としているらしいけど。
もうそんなの関係ないよ、何でも良いから公務員に食い込めば楽な仕事で年収800万で、
そのお金でマンガとアニメDVDとラノベ全巻大人買いとエロゲ没頭の時間と、それから、それから!
地方初級公務員試験 年齢制限 17歳〜20歳
http://www.tokyo-ac.co.jp/koumuin/k3-nenrei-pref.html
ああっ!
・・・。
・・・気付いたら、シェアワールド作家さんは、青年誌のグラビア(最近はAKBばかり)でRーをしていた。
高ぶる不安と恐怖を紛らわせるために、二次元ではなく三次元の女にトライすることにしたのだ。
猫耳美少女でもない、現実の女。
きわどいビギニを身にまとい、こちらにアンニュイな表情を向けてたたずんでいるアイドル。
たまには三次元の女もいいよな。
そう思いながら、シェアワールド作家さまは射精した・・・。
- 56 :
- >>52
バーカ
間違えてやんのwww
出直してこいやクズwww
- 57 :
- http://pype.org/thumbnail/1290753937/1290753937-35-5.jpg
ちなみに>>52の顔はこれです
男前ですね
- 58 :あぼーん:あぼーん
- あぼーん
- 59 :あぼーん:あぼーん
- あぼーん
- 60 :あぼーん:あぼーん
- あぼーん
- 61 :あぼーん:あぼーん
- あぼーん
- 62 :
- >>59
確かにそういう萌えキャラはみんなオタのための娼婦だよ
オタはコミュ障で複雑で大人な女性を相手にできないので自分に害の及ばないロリRや萌えキャラに逃げるんだ
オタは実社会に向き合えないので空想や妄想の世界でそんな萌えキャラたちと戯れるんだ
みんなそういうのはわかってるんだよ
わかっててどうしようもないんだよ
でもこうした萌えキャラがオタたちのリビドーを受け入れて処理しているのも事実だよ
彼女たちはそのために生まれて消費される消費財なんだ
そういう意味でそのAAの萌えキャラの女の子は立派に娼婦としての役割を果たしているんだ
誰にも迷惑はかけていないんだよ
犯罪ではないんだよ
現実に存在しないからね
それに彼女たちはそれなりに愛されてるんだよ
空想や妄想だからといって何から何まで悪いわけじゃないわけ
たしかに空想にはまるのは一種のRーだけどRーは全部悪いわけじゃないだろ
- 63 :あぼーん:あぼーん
- あぼーん
- 64 :あぼーん:あぼーん
- あぼーん
- 65 :
- 「・・・か、かあさんに、何てことを言うんだ!」
父親が、ついに怒鳴った。
最近、老いが目立ち始めた父。髪に白いものが混じり始め、頬には確実に皺が刻まれている。
気苦労とストレスをぐっと耐え忍ぶことで、父は若さと精気を確実に奪われている。
その気苦労の要因の一つが、間違いなくシェアワールド作家さまこと自分自身なのだ。
父はシェアワールド作家さまを睨んでいる。だがその瞳は、怒りの色ではなく、悲哀が浮かんでいた。
何とか、この息子をちゃんと社会に送り出してやりたい、というそういう思い。
マンガやアニメやライトノベルに興じ、エロゲの萌えキャラとの虚構の恋にはまる馬鹿息子。
ヒマさえあれば妄想でしかないシェアワールドに逃げ込み、そこでありえない夢を見続けるダメ息子。
そんなどうしようもないFランの息子でも、息子は息子なのだ。
恐らく父の中の何かも、もはや限界に近いのだろう。
それは、シェアワールド作家さんもうすうす察しがついている。
だが、・・・だが。
シェアワールド作家さんには、その現実と向かい合う勇気はなかった。
非現実世界(シェアワールド)に逃げ込み、美少女たちと一緒に冒険して魔物と戦ったり、
ファンタジックな妄想世界の中で二次元娼婦たちとご都合主義のドラマに興じたり、
とにかく現実逃避のありとあらゆるジャンクを詰め込んだ甘き夢の世界に逃げ込み、
そこで己を徹底的にスポイルし続けてきたのだ。
妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!
もはや、目の前の小さな現実を受け入れるだけの強さは、シェアワールド作家さまに残っていなかった・・・。
・・・気付くとシェアワールド作家さまは、母親を足蹴にしていた。
年老いた母親の体は、とても小さく弱々しい。
かつて自分を抱きしめてくれた母親の、そのやわらかい肉は、既にしぼんできていた。
だが、シェアワールド作家さまは、母親に暴力を振るわずにはいられなかった。
もちろん何かを叫びながら、泣き喚きながら、振り上げた拳を母親に向かって振り下ろす。
母が自分に抵抗できないことを、ちゃんと悟った上で。
それをわかった上で母を打ち据えることが、途方も無い甘えであることを、シェアワールド作家さまは悟った。
だが、もう、どうすることもできなかった。妄想世界に逃げ込むことでスポイルされた自分に、強さは残ってなかった。
もはやシェアワールド作家さまは、泣き喚き甘えることでしか、己を支えられなくなっていた・・・。
・・・父が自分を押さえ込んでいる。
その父の、かつてより腕力を失ってしまった父の腕の中で、シェアワールド作家さまは喚き散らしていた。
「やめてくれ!もうやめてくれ!」
父は叫ぶ。すぐそばで叫んでいるにも関わらず、どこか遠くから響いてくるように聞こえた。
目の前で母は床に突っ伏していた。母の背中が震えているのが見えた。
その母の背中の小ささに、シェアワールド作家は慄然とした・・・。
- 66 :
- ・・・ようやく、正気を取り戻した。
そして、今、自分がやってしまったことへの恐怖が、一気にシェアワールド作家さまの精神に襲い掛かる。
母は泣いていた。くぐもったようなか細い泣き声が、シェアワールド作家さまの耳に届いた。
「・・・わああーっ!」
一際大きな声で、シェアワールド作家さまは叫んだ。
それと同時に、自分を羽交い絞めにしようとしていた父を振りほどき、食卓から駆け出した・・・。
・・・ところでシェアワールド作家さま、貴方は一体どちらへ向かわれるのですか?
目指すは・・・そう、決まってる。
シ ェ ア ワ ー ル ド
全てが都合よく作られた妄想世界の中に、再び逃げ込むのだ。
辛き現実から目を逸らし、甘き夢だけが虚しく漂う、あの虚構の世界。
シェアワールド作家さまと同じような人間たちだけが集う、現実逃避者たちのパラダイス。
ネットという仮想空間のみでつながった逃避者たちの、切なく儚い集い。
そこには、卑小な自分を決して傷つけない都合のよい虚構が待っている。
そこには、卑小な自分を脅かさない都合のよい冒険が待っている。
そこには、卑小な自分を決して裏切らない、二次元の美少女たちが・・・待っているのだ。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━
┃・二次元キャラ達はお前に微笑んではくれない。
┃・二次元キャラ達はお前に語りかけたりはしない。 ほらね!
┃・二次元キャラ達には温もりが無い。 こうやって誤魔化せばいいのよ!
┃・二次元キャラ達はいざというときにお前を助けてもくれない。
┃・でもそれってリアルの女も同じじゃね? -――- 、
┃ だったら二次元キャラでいいじゃね? , ‐'´ \
┃ 人 / 、 ヽ
┃ .<. 。> |l l /〃 ヽ ヽ} | l ',
┃ バシ!! 彡V \ ljハ トkハ 从斗j │ ハ
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 彡 \ .l∧}ヾソ V ヾソ ! ! ヽ \
\ __ __ リ.人 v‐┐ /" ト、 ヽ ヽ
{心下ヽ /" >ゝ-'<{ Vl } }
ゝ<}ノ \ (:::::Y Y:::::! ヽヘ { {
7´ ̄ ) )::∨::__::ヽ }::\ \丶、
シェアワールドだって / / /ィ'´ヽ:::::::::ノ /:::::::::ヽ ヽ `ヽ
同じような誤魔化しなんだしw ! ≦∠__ノ:::| /ハ::::/ ゝ、:::::::::`、 リ ノ
| .:.:::::::::::l __ヾ\ ≧:::::::::'、ヽ {
l_ .:.:::::::::/ >v' l \::ヾ  ̄::::::::::::::::', }>
・・・二時間後、シェアワールド作家さまは、妄想ファンタジーの甘き夢を見ていた。
現実社会の時間は確実に流れてゆく。
だが、その確実に刻まれる時の流れは、シェアワールド作家さまの妄想には届かなかった・・・。
夜が更けてゆく。
- 67 :あぼーん:あぼーん
- あぼーん
- 68 :あぼーん:あぼーん
- あぼーん
- 69 :あぼーん:あぼーん
- あぼーん
- 70 :
- 「・・・か、かあさんに、何てことを言うんだ!」
父親が、ついに怒鳴った。
最近、老いが目立ち始めた父。髪に白いものが混じり始め、頬には確実に皺が刻まれている。
気苦労とストレスをぐっと耐え忍ぶことで、父は若さと精気を確実に奪われている。
その気苦労の要因の一つが、間違いなくID:h+LVbYsRこと自分自身なのだ。
父はID:h+LVbYsRを睨んでいる。だがその瞳は、怒りの色ではなく、悲哀が浮かんでいた。
何とか、この息子をちゃんと社会に送り出してやりたい、というそういう思い。
マンガやアニメやライトノベルに興じ、エロゲの萌えキャラとの虚構の恋にはまる馬鹿息子。
ヒマさえあれば妄想でしかないシェアワールドに逃げ込み、そこでありえない夢を見続けるダメ息子。
そんなどうしようもないFランの息子でも、息子は息子なのだ。
恐らく父の中の何かも、もはや限界に近いのだろう。
それは、ID:h+LVbYsRもうすうす察しがついている。
だが、・・・だが。
ID:h+LVbYsRには、その現実と向かい合う勇気はなかった。
非現実世界(シェアワールド)に逃げ込み、美少女たちと一緒に冒険して魔物と戦ったり、
ファンタジックな妄想世界の中で二次元娼婦たちとご都合主義のドラマに興じたり、
とにかく現実逃避のありとあらゆるジャンクを詰め込んだ甘き夢の世界に逃げ込み、
そこで己を徹底的にスポイルし続けてきたのだ。
妄 想 世 界 で の レ ベ ル が 上 が れ ば 上 が る ほ ど 、
現 実 の 自 分 の レ ベ ル は ど ん ど ん 下 が っ て い く・・・ああっ!
もはや、目の前の小さな現実を受け入れるだけの強さは、ID:h+LVbYsRに残っていなかった・・・。
・・・気付くとID:h+LVbYsRは、母親を足蹴にしていた。
年老いた母親の体は、とても小さく弱々しい。
かつて自分を抱きしめてくれた母親の、そのやわらかい肉は、既にしぼんできていた。
だが、ID:h+LVbYsRは、母親に暴力を振るわずにはいられなかった。
何かを叫びながら、泣き喚きながら、振り上げた拳を母親に向かって振り下ろす。
母が自分に抵抗できないことを、ちゃんと悟った上で。
それをわかった上で母を打ち据えることが、途方も無い甘えであることを、ID:h+LVbYsRは悟った。
だが、もう、どうすることもできなかった。妄想世界に逃げ込むことでスポイルされた自分に、強さは残ってなかった。
もはやID:h+LVbYsRは、泣き喚き甘えることでしか、己を支えられなくなっていた・・・。
・・・父が自分を押さえ込んでいる。
その父の、かつてより腕力を失ってしまった父の腕の中で、ID:h+LVbYsRは喚き散らしていた。
「やめてくれ!もうやめてくれ!」
父は叫ぶ。すぐそばで叫んでいるにも関わらず、どこか遠くから響いてくるように聞こえた。
目の前で母は床に突っ伏していた。母の背中が震えているのが見えた。
その母の背中の小ささに、ID:h+LVbYsRは慄然とした・・・。
- 71 :
- ・・・ようやく、正気を取り戻した。
そして、今、自分がやってしまったことへの恐怖が、一気にID:h+LVbYsRの精神に襲い掛かる。
母は泣いていた。くぐもったようなか細い泣き声が、ID:h+LVbYsRの耳に届いた。
「・・・わああーっ!」
一際大きな声で、ID:h+LVbYsRは叫んだ。
それと同時に、自分を羽交い絞めにしようとしていた父を振りほどき、食卓から駆け出した・・・。
・・・ところでID:h+LVbYsR、貴方は一体どちらへ向かわれるのですか?
目指すは・・・そう、決まってる。
シ ェ ア ワ ー ル ド ス レ
夜が更けてゆく。
こいつの駄文、読みづらいわ
- 72 :
- >>69
主語を入れ替えてるだけだから、あまり上手くはないなぁ
むしろこいつに餌を与えただけだよ
こいつさ、ラノベやアニメやエロゲという言葉を使ってるけど、具体的な作品名が全然ない
おそらく知らないんだよ
そもそもこいつが書くオタのキャラ付けも、何かカリカチュアっぽい
たぶんオタを過剰に偏見してる一般人だろうな
- 73 :
- >>71
そうだよな。
なんかさ、文章表現が気持ち悪い。
まともな小説書いても生理的に受けつけない気がする。
- 74 :
- >>68
おい、何か書けよ
亀レスすんなやカスが
ゴミカスが
- 75 :
- まあ、今の今までずっと荒らし認定して放置してたけど、こうなった以上言ってもいいよね。
お呼びじゃないって気付かなかったのかな。下らない劣悪な自己満足の垂れ流しはいつになったら終わるんだろうなってずっと思ってたんだよこっちは。
無論やっちゃいけないとは言ってない。ただ、やりたければ自分でスレ立ててそこで勝手にやってろって話。そうすれば誰も文句は言わないだろうから。
言いたいことはそれだけ。俺の言葉が理解できたのならさっさとここから出てってね。
- 76 :
- たぶんそれVIPの住人
オタク叩きと称して方々で冷やかしに来てるだけ
気にすんな
- 77 :
- てす
- 78 :
- スレの展開ぶっ飛んでてワロタw
ファンタジーと就職活動とか、
魔法と地方公務員試験とか、
萌え美少女とハローワークとか、
絶対合わないもんなw
- 79 :
- 図星だったってことだろ
- 80 :
- >>78
むしろ斬新にみえるんだが
- 81 :
- >>78
就職活動するけど中々内定のとれないライトノベル作家志望
事務派遣で働いていたけど突然派遣切りにあって失業する自称魔法少女
ハロワに通いつめる三十を過ぎた軍事アクション小説家志望
製造業派遣で製造ラインで働くファンタジー小説家志望
フリーター生活から抜け出せない伝奇SF作家志望
何か凄く切ないよ(´・ω・`)
- 82 :
- >>79
確かに
ざっと流して読んだけど
この見事な消えっぷりを見ると
言っちゃ悪いが本当に図星だったんだと思う
>>81
思うんだけど
ラノベとかファンタジーは、そういう人たちの心の拠り所だったんだろうな
だから上のやつは下手な荒らしより全然タチが悪いわけ
そりゃ誰もいなくなるよ
- 83 :
- 軍事アクションってフォーサイスとか?ラドラムとかスティーヴンハンターとか?
あれって取材力いるんで低学歴無理だよ。
それに伝奇小説もSF小説も教養が問われるジャンルだから低学歴無理。
ライトノベルというのは、そういうのをぬるくしたものだと思う。
- 84 :
- >>81
リンク忘れたわ。
それとファンタジーなんか徹底的にテンプレ化されてる。
ドラクエとかRPG見れば一目瞭然だと思う。
それでライトノベルというのは、こうした商業コピーを繰り返した果てに生まれたんだよ。
ラノベの場合、最初からメディアミックスを想定して作られてるからストーリーも設定もキャラ造形もテンプレ化の極みになってる。
- 85 :
- まあいいや。
何かどぎついのが投下されてるんでちょっと思っただけ。
- 86 :あぼーん:あぼーん
- あぼーん
- 87 :
- >>86
何だこれ?
- 88 :
- >>84
ライトノベルの例↓
上の>>5あたりから書かれてるのあるだろ
それと文体とか女の子が出てくるとことか、とにかく色々と似ている
今はこういうライトノベルのコピーや模造品が溢れ返ってるんだよ
81 名前: 名無しさん@恐縮です 投稿日: 2010/04/04(日) 20:08:28
楓の中で怒りがフツフツとこみ上げる。
「あの娘を、沙姫を傷つけずに何とかしてやってくだせェ」
翁が力なく言い終えた時。既に楓は刀を振りかぶっていた。
一瞬で五馬もあった賊達との距離を詰め、一番先頭の小柄な男の真上にいたのだ。投げ捨てられた楓の編み笠が陰鬱な空を縫うようにして舞っている。
「……来っ――」
賊の最初の犠牲者、短い末期の声である。その声があがるのと同時に、投げ捨てた楓の笠は地面に軟着地した。
楓は冷静だった。いくつかの悲鳴があがった時には、既に賊の四人を斬り結び、それらは地に伏していた。
(残り十人……)
すぐに七人が踵を返して逃走した。
(三人残ったか。烏合の集だな所詮は)
まず一人目、屈強そうな大男が雄たけびを上げ、楓の左から大きな鉈で切り込んでくる。
(はじめて斬りかかって来たか)
楓は低い姿勢で一歩踏み込んで相手の間合いを殺し、そのまま相手の左脇を抜けて横に払った。
「遅い」
「ぐぅぅぉぉっ……!!」
たしかな手ごたえが楓の体の芯まで伝わる。
(あと二人)
楓の眼前の髭面はここまでの出来事に呆気に取られ、まだ準備が出来ていない様子だった。
楓は先程大男を払い抜いた刀を流れるようにして刃を返す。そして髭面のようやく踏み出した右のひざを突き刺した。
その後、刃はすぐに切っ先を地に伸ばし、這うような低さから斜めに跳ね上がる。そして髭面の丸太のように太い左腕の肘から先を切り飛ばしていた。
肉塊が宙に舞う。
それが鈍い音をたてて地面に転がると、髭面はそこに視線を落とした。己の腕がそこにある事を理解した時は、楓に首を刎ねられる直前だった。
「う、うぁ――」
「黙れ」
痛みを知ることも、断末魔すらも許さなかった。
さて、と楓は少し意気の上がった呼吸を整える。刀についた血を祓う。
最後に腹から、ふっ、と息を一つ吐き少女・沙姫を羽交い絞めにしている坊主の男と対面した。
楓は坊主の目から明らかな恐怖を感じとった。
少女を見ると首元に鎌を突きつけられ顔は紫色に硬直し、目には今にも零れ落ちそうな涙を浮かべて必死で堪えている。震えが止まらない様子だ。
「ふう……うぅぅ」
掠れた少女の息が漏れる。目が合った。
楓は胸を矢で射られたように痛みを感じた。心の中で沙姫に呟く。
(すいませんお嬢様。人を斬るところを見せてしまった……だが、必ず助ける)
多勢に手加減をする余裕を見せ不殺(ころさず)をやりきるまでの力量が自分にないのを知っていた。
(歯痒いな……)
少女は心の傷を負ったかもしれない。楓に己への戒めが芽生えた。だが、同時に胆も据わった。
その思考、刹那。楓は沙姫に微笑んだ。
彼女がこれから先の人生、他人に見せられないような傷をつけられないように。この可憐な姿、無傷で助け出す。
楓はじりじりっと坊主との間合いを詰める。絞めた調子ではっきりと発した。
「その娘を放せ」
賊の反応はない。楓は続けた。
「そうすれば、斬ることはしない。少しでも傷をつけてみろ――」
坊主の賊の眉がぴくりと動く。
「――冥府に送る」
その言葉の矢は、楓に強い意思を込められて坊主に射られた。
途端、坊主のどす黒い眼が右顧左眄(うこさべん)する。明らかに狼狽していた。
- 89 :
- >>86
意外と馬鹿にはできんよ
それを書いたのが高校生とかならかなり痛いけど
小学校高学年くらいならクリエイターの才能はある
デッサン力とかは経験と訓練でなんとかなるから
- 90 :
- >>86
それはラノベというよりも少年漫画。
ラノベというのはもっとこういう感じ
http://img.f.hatena.ne.jp/images/fotolife/h/honokajimon/20081228/20081228190103.jpg
http://gamerssquare.otoshiana.com/shinkan1110.htm
http://gamerssquare.otoshiana.com/shinkan1111.htm
オタ知識を前提にした上で、SFやアクション、ファンタジーとかのネタを組み込んだ作品
戦闘する美少女なんかが出てきたらまずラノベとみてよい
- 91 :
- シェアワールド作家さまの話、結構面白かった。
Fラン大学生の就職難なんて、大戦争が終わって疲弊しきった
国の貧民街に産まれた子供が騎士になる夢を見るって感じかな。
戦争中なら夢をみたままあっさり戦死もできるけど、疲弊した社会
だと、夢を捨てながら生きていかなきゃならない。それは、死ぬほど
つらくて地道な生き方だから、自殺しちゃう奴もいるけど、大部分は
何とか折り合いをつけながら野たれるまで生きていく。
これはこれで、一つの世界といえるんじゃないかな。
希望の見えない世界での精神的危機を描くのもよし、そういった
世界に風穴をあけるようなヒーローを描いてもおもしろいかも。
- 92 :
- >>91
上のシェアワールド作家さまとかの話は
ファンタジーの世界に現実逃避を続けてるおたくを揶揄してるだけでしょ
荒らし同然のあてつけで
たぶんこういう主人公の末路は
現実逃避を繰り返した挙句についに行き場をなくすんだと思う
風穴を開けるといっても多分アキバの加藤みたいになるんじゃないかな
>>90
眩暈がした
- 93 :
- >>53
地方だと公務員は勝ち組だぞ
- 94 :
- 物語形式で露骨に邪揄するというう手の込んだ荒らしだけど
彼にはそうしなければならないほどのモチベーションがあったはず
それがなんなのか、初めてこのスレを見た自分にはわからない
- 95 :
- 物語を現実逃避として消費するってのは実感を伴った理解だと思った。
そう考えると、自己嫌悪とか、自己投影とか、そんな向きもあったのかも知れない。
自分は『シェアードワールド作家さま』とは違う存在であるとするために
『シェアードワールド作家さま』を否定する。
『シェアードワールド作家さま』はかつての嫌いな自分だからだ。みたいな。
そんな中二病を否定する高二と同じような心理の動きを感じた。
今更書き込むようなことじゃないですねすみません。エンターが滑りました。
- 96 :
- ひとりぼっち
- 97 :
- >>95
物語の消費やデータベースの消費という考え方は、最近の評論でよく語られる。
大塚英志や東浩紀あたりだったかな?
それにからんで気付いたんだけど、上の荒らしの書いた文章って結構パターン化されてるんだよな。
こいつも無自覚に物語構造というパターンを消費してるんだよ。
まずオタクが今の自分に危機感を覚えて何とかしようとする。
けど結局ダメで、再びファンタジーに現実逃避するというパターン。
これはこれで広い意味での物語論やデータベースの消費なんだと思う。
その上で君が言うところの中二病と高二の違いというのを考えると、こういうラノベ的なセンスをよしとするか否とするかの差じゃないかと思う。
http://img.f.hatena.ne.jp/images/fotolife/h/honokajimon/20081228/20081228190103.jpg
- 98 :
- そもそもファンタジーって通常の小説と何が違うんだろうかとふと考えた。
俺が思うに、一般的な捉え方は世界の成り立ち(魔法や、人外の種族
の存在)が違うだけで、そこに生きる人の喜びや葛藤といった心理は現実
世界と同じという前提で、大抵のファンタジー作品ができてると思う。
価値観が基本的に現実と同じだから、魔法や神の力による、ご都合修正が
入っても、それは物語をより劇的にするための演出で、根本的には普通の
小説と伝えることは変わらない。
まったく価値観の異なるというか、価値観すらない世界ってのはどうなるんだろう?
数学の教科書みたいになるんだろうか。まったく感情移入できないから、
人間が読んでも面白く無いと思うが、そういう世界もあると思う。
ただ、それをネタに書こうと思っても思いつかない・・・
こんな駄文はともかく、ここらで誰か新規投稿が欲しいところだね。
- 99 :
- >>98
ファンタジーというジャンルはリアリズム文学に背を向けたジャンルなんだよ。
19世紀から20世紀当時の写実主義文学や自然主義文学は近代的自我や、そのあり方を描いてきたわけ。
だが社会は産業化され、資本主義が肥大し、第一次世界大戦など従来とは比較にならない規模の戦争が起きるようになった。
そうした近代という世界の中で、近代的自我の重みに耐えられなくなってきた人も出てきた。
このようにこの時代は、近代的自我というものに対する考え方を再考する必要性が出てきた。
その結果生まれたのが、例えばフロイトらの精神医学であり、ユングらの分析心理学であった。
また社会学という分野や、民俗学、宗教学というジャンルが飛躍したのもこの時期だった。
前者は、理性だけでは説明のつかない人間の本能的衝動を探求し、「無意識」という概念を見出すにいたる。
後者は、目の前で激しく動く社会を分析し、社会問題の根源を探求する試みであった。
これらはその後、構造主義みたいのにも連なってゆく。
一方で、こうした社会と批評的に向き合う態度を避け、純粋に娯楽や慰撫のために作られたのがファンタジーという文芸だった。
ファンタジーは、冒頭で言ったとおり当初は児童文学や大衆小説で花開いた。
オズの魔法使いや不思議な国のアリス、ピーターパンなどがそれにあたる。
近代という時代の到来によって消滅してしまった「昔話」や「おとぎ話」の代替物として、子供に与えられた空想世界の物語だ。
実は近代以前、子供はおとぎ話や昔話によって、生活基盤と密着した世界観やタブー、および成長の雛型を与えられていた。
だが近代でそれらの文化が否定されてしまい、その代替物としてビルドゥングスロマンや、こうした児童文学におけるファンタジーが与えられた。
またラブクラフトはこのあたりの時代の人間だ。クトゥルー神話というシェアワールドはこの時代に既に存在してた。
だが英雄コナンの話なども含め、このころのファンタジーは大衆向けの純然たる娯楽でしかなかった。
そしてファンタジーはトールキンやルイスらの登場によって様相が変わる。
彼らによって新たな神話やクロニクルの創設という世界観を作り出すファンタジーが出来上がった。
もともと言語学者であるトールキンは、完全に架空の宗教や言語を、学識を駆使して編み上げて、ロードオブザリングを作り上げる。
これはユングの心理分析やプロップの神話分析と同じく、後の構造主義の考え方の先駆となるメゾッドだったのだろう。
この神話の再創造という考え方は後にキャンベルを通じてハリウッドの正しく継承されることになる。
だがその後、ファンタジーのこうした手法はSF小説にお株を奪われる。
科学万能の時代と信じられていた頃だったので、おそらく科学技術を駆使した世界観の方がより魅力的に写ったのだろう。
アシモフのファウンデーションシリーズなどはSFを舞台に移しただけで、神話の再創造そのものだ。
こうして第二次世界大戦後はファンタジーは下火になる。
だが、60年代の政治の季節を終え、新左翼運動が敗れ去ったころに再び復活する。
政治運動は終息に向かい、それと入れ替わるように一気に大量消費社会が押し寄せてきた。
そうした現実の到来を前にして、サブカルチャーのジャンルでファンタジーが息を吹き返す。
例えばこのころにロードオブザリングやラブクラフトらのブームが復興してたりする。
ファンタジーではないが、機動戦士ガンダムのように世界観や年代記を一から作り上げるジャンルがどんどん出てきた。
彼らにしてみればSFでも良かったのだろうし、ここではないどこかの世界であれば何でもよかったのだ。
とにかく現実から離れた架空の世界観や年代記の中に、理想とした世界を描くようになっていった。
そしてそれは現実を超越した超能力や、現実から遊離した新宗教のブームにも連なっていった。
魔法や神の力というご都合主義的修正に惹かれ、現実となんら変わらない演出とでも認識したのだろうか?
例えば地下鉄サリン事件のオウム真理教は、この二十世紀後半のファンタジーブームとぴったり併走している。
彼らはアニメやマンガをネタ元にして、神と超能力をキーワードに架空のファンタジー神話の教義を作り上げてしまった。
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