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2013年01月エロパロ116: 【ドラマ】美男ですねでエロパロ7 (174) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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【ドラマ】美男ですねでエロパロ7


1 :2012/08/20 〜 最終レス :2013/01/02
ここは2011夏ドラマ(金曜夜10時TBS系放送)のドラマ「美男ですね」のエロパロスレです
以下注意事項
☆スレ要領が500KBに行くまでに(480KBぐらいから)、次スレ立てについてご検討下さい
・誹謗中傷厳禁
・荒らしはスルー
・名前欄にタイトル&連番を記入
・カプ名 ●●×○○
・内容についての注意書き (続編・BL・エロあり・エロなし等)
・以前投下した作品の続編の場合は、 >> で以前の作品に安価
・投下終了したら、今日はここまで等の終了宣言
・他の職人が作品投下中は、自分の作品を投下しない (被せ投下禁止)
・ある程度書き溜めて投下 (書きながら投下は禁止)
・sage進行 (メール欄に半角で「sage」と入れる)
・レスする前には必ずリロード
・スレ立ては必ず宣言してから行く。無断で行くのは控えること
・前スレの容量が中途半端に残った場合は書き手読み手にかかわらず埋めること
☆過去スレ
【ドラマ】美男ですねでエロパロ
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1315748694/
【ドラマ】美男ですねでエロパロ2
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1317418250/
【ドラマ】美男ですねでエロパロ3
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1319539579/
【ドラマ】美男ですねでエロパロ4
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1321544487/
【ドラマ】美男ですねでエロパロ5
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1324654237/
☆前スレ
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1328953174/
★エロパロまとめスレ
http://w.livedoor.jp/ikemen-desune

2 :

('仄')パイパイ


3 :
落ちそうなので上げておきます

4 :
保守

5 :
NANAのananのグラビアエロくて妄想が膨らむ
パンチラドラマといい素晴らしい
ドラマ出る度にひんぬーを触られる美男もけしからん

6 :
前スレ無事に埋まったようですね。
久しく書いてないけど新スレになったから、がんばってみます!

7 :
新スレ立ててくれた方ありがとう。
前スレ埋めてくれたみんなありがとう。
>>6
嬉しいっす!待ってます!

8 :
前スレ、ちょっとだけ埋めるのやりましたw
でも意外と埋まらず…他の皆さんありがとー!
>>6
楽しみにしてますw

9 :
前スレ埋め作業微力ながらお手伝い出来て良かったw
で、ついでと言ってはなんですが、一つ投下させてください
廉美子エロ無しです

10 :

「あれ?」
駐車場に車を止めた廉は、家の灯りが付いていないのを見て首を傾げた。
(あいつ、もう寝たのか?)
手探りで家の中に入り、廊下の灯りを点けた。
「美子ー。もう寝たのかー?」
キッチンにもリビングにも気配がないので、真っ直ぐに寝室に向かう。
「え?」
ベッドは朝メイクされたままになっており、美子の姿はどこにもなかった。
時計を見ると日付が変わっている。
「こんな時間までどこ行ってんだ!」
すぐさま携帯を取り出して美子にかけた。
今朝、仕事の関係者との会食があるから、晩ご飯はいらないと言った廉に
「それじゃあ、NANAさんとご飯食べに行ってもいいですか?」
と美子は顔を輝かせた。
(もちろん、それくらいの事で目くじら立てる俺じゃない)
快く許可を出し、それぞれの仕事場に向かった。
女の子二人だし、NANAも有名人だからあまり変な所には行かないだろうという安心もあった。
それなのに真夜中過ぎても帰らないなんて、何かあったんじゃないかと廉の不安が募る。
呼び出し音が鳴り続けるものの、気が付かないのか、無視しているのか、美子は出ない。
いよいよ廉は焦り始めた。
部屋の中をウロウロと歩き回りながら、美子へ電話をかけ続ける。
一時間近く電話をし続け、ようやく美子に繋がった。
「もしもぉ〜し、廉さんですか〜?」
間の抜けた声が聞こえて、廉はへたり込みそうになった。
「お前、酔ってるな?」
「全然酔ってませんよ〜、エヘヘ」
「今どこだ?」
「え〜っと、NANAさんのお家です。なう」
電話の向こうからケラケラと笑う声が響いた。
(なう…って、今時。あー、イライラするっ)
「ちょっとNANAと替われ」
「は〜い!……NANAさん、廉さんからです」
「廉?どうしたの?」
(どうしたの?じゃねえ!)と怒鳴りつけたいのを我慢して、廉は言った。
「美子を迎えに行くから、住所教えろ」
「えー、今から?泊まっていってもいいのに」
「ダメだっ!早く教えろ!」
「わかったわよ。えっと、東京都…」
「東京はわかってるっ!!!」
廉の大声で耳がキーンとなったNANAは、顔をしかめて携帯を離した。
「もうっ、大きな声出さないでよ!じゃ、言うわよ。港区……」

11 :

ピンポーン ピンポーン
ピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピンポーン
チャイムが連打され、NANAは慌てて玄関に向かった。
「そんなに鳴らさないでよっ!近所迷惑d……ヒッ!」
文句を言いながらドアを開けたNANAは、思わず息を呑んだ。
真っ白な額に青筋を立てて鬼のような形相の廉がいた。
心なしか髪の毛も少し逆立っているように見える。
「あいつは?」
「え…あの、リビングに…」
NANAは廉の迫力に気圧されて、素直に答えた。
ソファで眠り込んでいる美子の姿に、廉は目を見張った。
ロックTシャツにショートパンツ。自分は見たことのない恰好だった。
「こんな恰好で…」
「あ…あのね、廉。それ、あたしがプレゼントしたの…」
ギロリと睨まれて、NANAが首を竦める。
美子を抱き上げ、腕にはバッグと洋服の入った紙袋を下げて廉が立ち上がった。
「邪魔したな」
一言だけ残して玄関に向かう。
「廉、ごめんね。あの…美子を叱らないであげて」
廉はチラリとNANAを見遣ってそのまま帰って行った。
ドアが閉まるとNANAはぺたんと座り込んだ。
「はぁ〜、ちょっと怖かった。美子大丈夫かな…」
「う〜…ん、ふあぁ〜…」
大きく伸びをしながら、美子があくびをした。
「ん?あれ…お家だ。いつのまに…」
深く考えずにもう一度布団に潜り込もうとした時、頭上から冷ややかな声が聞こえた。
「おい、起きろ」
ギョッとして振り返ると、腕を組み仁王立ちした廉が美子を見下ろしていた。
「廉さん、おはようございます」
呑気に朝の挨拶をすると、廉のこめかみがピクピクと痙攣した。
廉は美子の二の腕を掴み、有無を言わさずにリビングまで連行した。

12 :

「あの〜、廉さん怒ってます…よね?」
恐る恐る廉の顔を窺うと、「当たり前だ」と睨まれた。
「お前、昨夜の事覚えてるか?」
「はい、なんとなく」
「なんとなくっ?」
「いえっ、あの…大体は覚えてます」
「じゃ、昨夜あったことを全部言ってみろ」
「はい…」
美子は首を傾げて思い出し始めた。
その様子が愛らしくて思わず微笑みそうになる廉だったが、ここは心を鬼にしてニヤけるのを抑えた。
「えっと、まず、8時にNANAさんと待ち合わせして…」
「8時っ?そもそも待ち合わせの時間が遅いだろうが!」
「しょうがないです。NANAさんも忙しい人ですから。そのあと恵比寿の和食屋さんに行きました。
美味しかったなー。今度廉さんとも、一緒に行きたいです」
「そうか…あ、いや、今はそういう事を聞いてるんじゃない。お前そこで何飲んだ?」
「確か『トリアエズビール』っていうのを飲みました。NANAさんが『トリアエズビール』くださいって言うから
私も同じものを頼んで…。ビールって初めて飲みましたけど、美味しいんですね!」
廉はぷっと吹き出した。が、すぐに険しい表情を作る。
「その後は?」
「あの廉さん、これ何ですか?」
質問攻めにあいながら、美子はイマイチこの状況がわかっていない。
「これは、あー、事情聴取だ」
「じ、事情聴取?」
美子は目を丸くして廉を見た。
「別にお前を疑ってるわけじゃないが、お前は無防備すぎるからな。
何か大変な事に巻き込まれたりしてないか確認のためだ。で、その後は?」
なんか釈然としないが、美子は話を続けた。
「その後は、カラオケ屋さんに行きました。A.N.JELLの歌ばっかり歌いましたよ。
『alone』を歌った時は泣いちゃいました。エヘヘ」
その時の事を思い出したのか、美子は微かに涙ぐんだ。
廉も一瞬しんみりして、うんうんと頷いた。
「あっ、その時NANAさんからプレゼント貰ったんですよ。今着てるTシャツとショートパンツです。
ちょっと恥ずかしかったけど、そこで着替えてクラブに行きました」
「はっ?クラブ?」
しんみりした気持ちが、あっという間に引いて行った。
「クラブってお前、どこのクラブだ?」
「どこだったかな〜、六本木?かな…」
「お前、その時点で記憶がないのか?」
廉の頭に血が上っていく。
「記憶がないわけじゃないんですけど、繁華街のことってよくわからなくて…」
「繁華街って、お前…」
廉はガックリと肩を落として、ため息をついた。
「クラブではVIPルームに通されて…すごかったなぁ、あのお店。
NANAさんって顔が広くて、いろんな人が声を掛けてきましたよ」
「ふーん…、ん?」
廉は何かを思いついたように美子を見た。
「おい、お前、ちょっと携帯貸せ」
「…はい?」
美子は素直に携帯を廉に渡した。
しばらく美子の携帯を操作していた廉が、あっと声を上げた。
データフォルダに知らない男の写真が入っていた。
アドレス帳にも見覚えのない男の名前が…。
「これ誰だ!お前、男とアドレスの交換したのかよっ!」
眼前に突き付けられた携帯を見て、美子は首を傾げる。
「あれ?本当だ。いつのまに写真なんか撮ったんだろう?」
「お前〜、何やってんだっ!!許さねえ」
(人の気も知らないで、呑気にクラブだ?あげくによその男とアドレス交換まで、ありえんっ!)
廉は急いで写真データを消し、男のアドレスは着信拒否の設定をしたうえで、消去した。

13 :

「美子、頼むからもっと警戒してくれ」
廉は美子を強く抱きしめた。
「俺、お前を縛り付けたくない。
でも、こんなんじゃ、お前を自由にさせてあげられない。俺の言ってる事わかるか?」
美子は大きく頷いた。
「ごめんなさい。私、女の子同士で夜遊びなんて初めてだったから、少し浮かれてました。
修道院時代の友達とも疎遠になって…昨日NANAさんに誘ってもらえて、すごく嬉しかった。
でも、廉さんにこんなに心配かけてしまって、反省してます」
うな垂れた美子は、膝の上にぽたぽたと涙をこぼした。
「ごめんなさい、ごめんなさい。
でも…NANAさんの事は責めないでください。お願いします」
「お前は…ほんと、しょうがないな」
呆れたようなため息混じりの廉の言葉を聞いて、美子はぎゅっと身を縮めた。
「美子、よく聞け。今までお前の周りはいい人達ばかりだったろ?施設でも、修道院でも」
廉の顔を見上げた美子は、コクンと頷いた。
「でもな、世の中には悪意を持った人間もいるんだ、悲しい事だけどな。
そんな奴らに関わらないで済むならそれに越したことはないけど、そんな甘くないんだよ、世間って」
廉は美子の頬に流れる涙を、親指で拭って微笑んだ。
「もちろんお前は俺が守る。それは、ずっと心に決めてる。だけど…」
美子は何度も頷いた。
わかってる。
いつも一緒にいられるわけじゃない事。
一方的に廉さんに寄りかかって生きていく訳にはいかないって事。
お互いが自立していなければ、支え合うなんて出来ない事。
私はなんて子供なんだろう。
周りの人達が優しいのをいいことに、甘えてばかりだった。
美子は自分の不甲斐なさ、情けなさに涙が止まらなかった。
そしてこんな自分を、それでも見守ろうとしてくれる廉の大きさを改めて感じた。
「廉さん、私、頑張ります。
自分の目で世の中を見て、ちゃんと見極められるように、大人になります」
美子の言葉を聞いて、廉の心がチクリと痛んだ。
(お前に汚いものなんか本当は見せたくない。疑う事を知らない綺麗な心を持つお前。
知らないで済むならその方がいいのに…)
でも廉は心の声を押しして、美子の顔を覗き込んだ。
「そうか…よし!事情聴取はここまでだ。シャワー浴びてこいっ!」
「は、はいっ!」
美子は勢いよく立ち上がり、バスルームへと走っていく。
「美子!」
美子が振り向いた。
「それ、似合ってるぞ。Tシャツとショートパンツ」
「ありがとうございます!」
美子はニコッと微笑んだ。
「でも、着るのは俺の前だけにしろよ」
「はい、そうします!」

14 :

リビングに一人残った廉は、美子の携帯からNANAに電話を掛けた。
「もしもし、美子?ごめんね、廉に怒られた?」
「あ…悪い、俺だ」
「廉?」
「ああ。昨夜は世話になったな。よかったら、また誘ってやってくれ」
「いいの?」
「まあ、酒は程々にしてほしいけどな。でも、あいつも経験しなきゃわからないこともあるから」
「ふふっ、無理しちゃって。でも、わかった。また今度誘うわね、お酒抜きで!」
「ああ、じゃな」
「はーーーっ」
廉はソファに体を投げ出して大きく息を吐いた。
俺は一生の伴侶を得たはずなのに、まるで子を持った親のようにハラハラ、ドキドキしっぱなしだ。
心配の種は尽きないけれど、それが楽しくもある。
これからも美子を叱ったり、宥めたり、諭したりすることもあるだろう。
でも、あいつの綺麗な心を守るために、俺が頑張らなきゃな。
先が思いやられながらも、美子を見守る喜びを感じた廉は、
微笑みを浮かべながら、彼女がシャワーから戻るのを待った。

15 :
以上です
「一生の伴侶」とありますが、同居しているだけでまだ結婚はしていません
紛らわしい表現だったかなと思ったので追記させていただきました
他の職人様の作品も心待ちにしています
お邪魔しました

16 :
>>15
GJです!
リアタイで読めてうれし〜 早速ありがとうございますw
「なう」に噴きました…
廉さん過保護すぎるww それも全部自分のせいって反省する美子かわいいです

17 :
>>15
GJ!世間知らずな美子を心配する廉さん…そりゃ心配だよねぇw
あんなに可愛くて天然って…他の男はほっとかないだろうし。
でも廉さん焦りすぎwチャイム押しすぎw

18 :
>>15
遅ればせながらGJです!
こうして見ると、美子はやっぱり末っ子体質で可愛いな〜w
廉さんが年上っぽく、過保護で素敵ですね!かなりの独占欲発揮しちゃってますが…インターホンの押し方怖いww
美子は末っ子で、廉さんはしっかり育った一人っ子。柊さんと勇気はどうなんだろう?
個人的に柊さんは長男で下に妹とか弟が居て、勇気は末っ子、もしくは一人っ子だと思う。

19 :
遅くなりましたが>>1乙です!ありがとうございます!
>>15
GJ!
みんな書いてるけど廉さんチャイム押しすぎw こわいおwww
廉さんからは意識的に俺が守ってやる!的な強い愛情を感じるし、
美子からは無意識の包み込むような愛情を感じるし、いいバランスですね

これから短いのを投下します
勇気×美子でエロなしです

20 :

「ねぇ勇気さん…僕じゃダメ?」
「美男…。本気、なのか…?」
魅惑的な視線とともにゆっくりと近づいてくるその唇。
潤いをたたえて艶めいて、まるで女の子のそれみたいに柔らかそうで。
なにかを語るような甘えた瞳。
目を合わせたが最後、逸らすことができなくなった。
こいつ、こんなに可愛かったっけ…?
初めて会った時から女の子みたいで可愛いとは思ってたけど、今日の美男はいつもと雰囲気が違う。
いつになく色っぽいっていうか…見ててドキドキするっていうか…。
触ってもいい、かな…。
ふんわりと紅をさすなめらかな頬に手を添える。
耳元から髪に指を優しく差し入れると、美男は少しくすぐったそうに目を細めた。
指先で首筋をなぞり、そのまま手を肩に回す。
なんて華奢な身体なんだろう。
このまま抱きしめて……
いやちょっと待て。美男は男だぞ?!
そうだよ、美男は男。そんなの知ってるけど、でも…。
上目づかいに俺を見つめる美男の可愛らしさは理性を易々と破壊していく。
なんだっけ、こういうの。
えっと…小悪魔?
そう、それ!今の美男は小悪魔そのもの!
心の奥でペロリと舌を出して、尖った尻尾で俺のハートをチクチクと刺激するんだ。
「ねぇ…」
ダメだ美男、そんな目で見るな!
これ以上心をくすぐられたら俺、もう耐えられなくなる。
「本当に、俺でいいのか?」
ああほら、もう口が勝手に動いちゃったじゃないか。
こんなこと言うつもりなんか全然ないんだ。
越えちゃダメだ。俺あっちの世界には興味ないんだってば!

21 :

「俺で、じゃないよ。勇気さんがいいの」

    ばきゅーーーん……

ステレオタイプな銃声が脳内に響き渡る。
ああ、やられた。完璧にココロ撃ち抜かれた。
もう俺どうかしてる。本当にどうかしてる。
でもさ、目の前で気になる子に言い寄られて断れる男なんているのか?
無理。無理無理そんなの絶対ムリ!
もうなるようになれってんだ!
「美男!好きだっ…!」
勢いに任せて美男の身体をギュッと抱きしめた。
なんか細くて折れちゃいそう。本当に女の子みたい。
「うれしい…」
美男の腕がおずおずと俺の背中に回る。
大胆に誘ってきたのは美男の方なのに、いざこうなると恥じらうなんて。
くそっ、可愛すぎるっつーの。
キス…したい。する。します!もうするしかない!
顎に手を添えて軽く持ち上げると、美男はうっとりと目を閉じた。
力の抜けた、ふっくらした唇。
好きだ美男。もう、俺だけのものだ…!
はぁ…やべぇ、ちょー気持ちいい…。
理性も何もかも吹き飛ばして、ついにたどり着いた美男の唇。
想像以上に柔らかくて、フカフカしてて…。
………ん?フカフカ?
あれ?そんなのあり…?



22 :

「…き、ゅうき…」
「…ぅん……みぉ…」
「おい、勇気!」
「……ほぇ?」
…あれ?しゅ…さん…?
ここどこ…?なんか見覚えあるような…リビン……リビング?!
「うわぁっ!」
「わっ…!」
急激に目が覚めて飛び起きたら、目の前に少しびっくりした様子の柊さんがいた。
「驚いたな…。急に起き上がるなよ」
「あ…、ごめん…。あれ?俺なんで…?美男は…?」
いまいち状況が掴めなくて、あたりをキョロキョロ見回してみる。
どんなに見てもここは合宿所のリビング。で、目の前には美男じゃなくて、柊さん…。
「まだ寝ぼけてるのか?ほら、もう昼寝は終わり。そろそろ支度しないと収録に遅刻するぞ」
「え?収録って…うわっ、やっべ!」
夕方からの仕事を思い出し、大慌てで立ち上がった俺を見て柊さんの頬が少し引きつる。
それから柊さんはすぐに肩を小刻みに震わせてクスクスと笑いはじめた。
「どしたの?」
「いや…。大事そうにクッション抱えてどんな夢見てたのかなと思ってさ」
「は?」
「元気でなによりだよ。ほら、早く着替えておいで」
元気でなにより…?
必に笑いをこらえる柊さんを怪訝に思いながらふとうつむく。
そして俺は視界に飛び込んできたものを見て、盛大に赤面した。


23 :
以上です
アホな話ですいませんw

24 :
>>23
GJ!
勇気美子って久しぶりで新鮮でうれしい〜
やっぱり勇気はかわいいなぁw
そして柊さんの冷静な指摘に笑いました これでこそ柊さんだw

25 :
>>23
GJ!
妄想勇気大好きなので嬉しいww
勇気の脳内美男、エロいよね

26 :
わあ、新スレちゃんと見ない間に素敵な話が!
>>15
GJGJ!!です!
初読のときに「とりあえずビール」に気がつかなかったのが悔しいw
トリアエズビールっていうのがあるのかと思った…美子と一緒だww
美子かわいすぎるー。ほんとに天使!
廉さんもかわいいなあ。
鬼の形相でチャイム押しまくる廉さんと、絶句するNANAが目に浮かぶようだぜw
>>23
きた!勇気美子!GJGJ!
ドラマでありそう、脳内再生余裕だったわ。
無駄に色っぽい美子と押される勇気と、柊さんの笑いを含んだ目…
…あったな、これは。
勇気がかわいくて、ほんとうにごちそうさまでした。

27 :
>>23
勇気かわいいーー!!GJ!!
健康な21歳男子、結構じゃないですかw
勇気の妄想、もっとドラマでも見たかったな〜。

28 :
前回更新からまたも1ヶ月以上空いてしまって申し訳ありません。
廉×美子長編『君に贈るセレナーデ』の続きを今から投下します。
今回エロありです。これまでのシリアス展開はどうした?と
自己ツッコミしてしまうほど廉さん暴走ww
閲覧時は背後に充分ご注意下さい。
まとめサイトの管理人様、お手数ですが今回のみ“エロあり”に修正お願いします。

前回までの更新分
前々スレ
458-472
前スレ
422-432
472-486
529-542

29 :

―――


「え〜、では皆様。我らが廉さんの復帰を祝しまして…乾杯!!」
「「カンパーイ!!!」」

廉が退院してからの一週間は、目まぐるしい速さで過ぎた。

彼に付きっきりで看病していた美子は青空学園での勤務に戻り、子供たちの世話に追われ。
一方、A.N.JELLは記者会見や関係各所への挨拶回り、スケジュール変更を余儀無くされた
新作アルバムのレコーディングなどで慌ただしく駆け回り。
ようやく全員が揃った今夜、合宿所のリビングで内々だけの復帰パーティーが和やかに始まった。


「…乾杯がコレじゃあな…」
「ダメですよ!廉さんはまだ退院したばっかりなんですから」
「お前こそ、酒なんか飲むなよ。また吐いちまうぞ」
「……う゛…分かってますよっ」

勇気による乾杯の音頭を皮切りに、安藤社長が用意してくれたシャンパンを楽しむ。
無論、病み上がりの廉と酒に滅法弱い美子はお茶で我慢しなければならず、
パーティーの主役ながら周囲との温度差に二人は溜め息を漏らした。

「まぁ、そう言うな。料理は美味いんだし…楽しもうぜ」
「社長と馬淵さんに感謝だね。何だかんだで、全員のオフを合わせてくれたみたいだよ」

美男と柊のさりげないフォローで廉は渋々納得し、テーブル上に並ぶ
様々な酒の肴へ手を伸ばす。
美子はすっかり彼の扱いに慣れた兄と柊を見てクスッと小さく笑みを零し、
チーズと生ハムが載ったクラッカーを口に運んだ。
こうしてA.N.JELLにNANAと自分を加えた6人のみのパーティーは、
皆ラフな普段着でリラックスした雰囲気の中、進行していく。


「…はぁ〜、でもホントに良かった!廉さんが無事で…」
「勇気さん、空き時間は必ずお見舞いに来てくれましたよね」
「そりゃ当たり前だよ。すげぇ心配だったもん……とにかく申し訳無くて…」

ピザを食べ、グラス半分ほどのシャンパンを一気飲みした勇気は、染々と呟き
廉の無事を心から喜びながらも、居心地が悪そうに肩を落とし語尾を弱める。
意識が戻った日の夜、新米マネージャーの芳井と一緒に、何度も頭を下げて
栄養ドリンクの件を謝っていたのを思い出した。

「もういいっつったろ?成分を確かめなかった俺が悪かったんだ」
「うん…ごめんね、廉さん」
「…次謝ったらその口、縫い合わせてやるからな」
「げっ!…そ、それはちょっと…」


30 :
半ば脅しにしか聞こえない一言で勇気の責任を請け負った廉は、ソファの定位置で
ふんぞり返ってお茶を飲む。
その不遜な態度が引っ掛かったのか、柊の隣で機嫌良く飲んでいたNANAが割り込んだ。

「そうよ、人騒がせなのは廉なんだから。勇気さんが気にする必要無いわ」
「はぁ?何でお前にそんな事言われなきゃ…」
「あ〜ら、誰のお陰で助かったと思ってるの?私と柊が居なかったら、
あなたんでたかも知れないのよ」
「……チッ…何回目だよ、その話…」
適度にアルコールが入ったNANAは早くも頬を桜色に染め、酔っているのは明白。
廉に対する風当たりが一層冷たくなり、美子はあたふたと手を動かし仲裁に入る隙を窺う。
彼女も彼の事を心配していたが、如何せん柊と過ごす貴重な休日を邪魔された際に溜まった
鬱憤が、酔った勢いで爆発したようだ。
絡み酒という非常に面倒なNANAの酒癖を前に、廉は眉間へ皺を寄せ外方を向いて無視を決め込む。

「ちょっと〜、聞いてるの!?あなたのせいで貴重なオフが台無しに…」
「はいはい、もうその辺にしておいてやってくれ。
…今日の主役に絡むのは止そう、な?」
「柊……うん、分かった…」

何杯目かも定かでないシャンパンのお代わりを自分で注ぎながら、廉へ詰め寄るNANA。
そのグラスを横からヒョイッと取り上げた柊が、ひとたび穏やかに微笑むと。
瞳を潤ませウットリ見上げた彼女は恋する乙女と化し、すぐさま大人しく頷いて柊の隣に座り直し、
肩へ頭を乗せて甘え始めた。

「…ねぇ、今日も泊まっていいでしょ?」
「ん、もちろん。こんな可愛いNANAを一人で帰す訳にはいかないよ」
「ふふっ…優し〜い。やっぱり柊が一番素敵だわ…」

最早周りが全く見えていないのか、甘ったるいオーラを放ちながらソファでイチャイチャする二人。
勇気は敢えて知らん振りをする方針らしく、静かにグラスを傾ける美男の肩を掴み、あれこれ料理を勧める。
素面の美子は、斜め向かいで繰り広げられる恋人同士のやり取りに耐え兼ね、気恥ずかしそうに顔を背けた。
…と、疲労感を滲ませゲンナリした様子の廉と目線がぶつかる。

「…NANAさんもお酒に弱いみたいですね」
「……傍迷惑な女だ、ったく…」

バカップル丸出しな二人を横目に、彼は皿に盛られた柿の種を鷲掴み口の中へ放り込んだ。
不機嫌なその食べっぷりが気に掛かり、声を潜めて耳打ちする。

「…あの、NANAさんを悪く思わないであげて下さいね?
…廉さんが入院してる間、ずっと私を励ましてくれてたんですから」
「……へぇ、アイツが…」
「年が近い女の子のお友達ってほとんど居ないから…
仲良くなれて、すごく嬉しいんです」

31 :

NANAはマスコミの目を避け入院した日以降は見舞いに来なかったが、病室に籠り切りで
青い顔をしていた美子を、電話やメールで元気付けようとしてくれた。
彼女の優しい一面を語り廉の顔色を見遣れば、吊り上がった凛々しい眉が少しだけ和らぐ。

「変わったのか、嘘つき妖精も…」
「…昔は色々あったけど……ここに居る皆さんは、私にとって大切な仲間です。
廉さんも、私も…皆さんに支えられて生きてるんですよね…」

兄の身代わりとしてA.N.JELLに加入しなければ、決して出会うはずの無かった彼ら。
皆の暖かさに助けられ、今回も大変な事態を収集する事が出来た。

「…幸せって、こういうモンなんだろうな」
「え…?今、何て……」

感謝の気持ちで胸がいっぱいになり感慨深げに彼らを眺めていると、
廉は聞き取れないほどの小声で何か呟き、美子の髪に触れながら頬を緩ませる。

「…俺も…変わろうと思う」

耳元でそう囁いた彼は、各々自由にパーティーを満喫する面々へ向き直り、
ソファから立ち上がって真摯な声を発した。

「…みんな、ちょっと聞いてくれ」

「へ?ど、どしたの廉さん、そんな改まって…」
「いきなり何よ〜…演説でも始めるつもり?」

急に仁王立ちの体勢でリビングを見渡す廉は並々ならぬ威圧感を放っており、酔った勇気とNANAが
茶々を入れつつ少々たじろぐ。
美男はグラスをテーブルへ置き、柊も黙って姿勢を正す。
固唾を飲んで彼らを見守る美子の目に、俄に信じ難い状況が飛び込んで来た。


「……悪かった…色々、迷惑掛けちまって…」


あの、プライドの塊のような男が、深々と頭を下げて皆に謝ったのである。
衝撃が走り、目を大きく見開いて固まる5人。
構わず、廉はそのまま言葉を続ける。

「…俺は、お前らを信じる。だから…
…これからも、俺を信じて…付いて来て欲しい」

今まで、メンバーにすら何処か一線を引いていた彼が吐露したのは、嘘偽りの無い真っ直ぐな思い。
ゆっくり顔を上げた廉に対し、A.N.JELLの3人は互いに頷き合い、満面の笑みを覗かせた。

32 :

「廉さん…超〜感動だよ!!俺、一生廉さんに付いてくから!」
「勇気…」
「…あぁ、俺も。廉の作った曲しか弾けないし、弾く気にもなれない」
「…柊…」

感激屋の勇気はとうとう涙を流し、廉の右腕に抱き着いて。
柊はうっすら赤らんだ双眸を隠す事なく、彼へと向ける。

「…言われなくても、俺らはとっくにお前を信じてるっつうの。お前が居たから、
バラバラな俺たちもここまでやって来れたんだ。…A.N.JELLのリーダーは、桂木廉にしか務まらねぇ」

相変わらず自信たっぷりに言ってのけた美男が、爪先へ力を込めて懸命に背伸びをし、
自分より背の高い廉の頭をクシャクシャッと撫で回した。

「…お前ら……」

廉は下唇を噛み拳を握り締め、込み上げる熱いものを堪えているようだ。
そんな顔を見せる事も無かったこれまでと、明らかに何かが違う。
彼を取り巻く見えない壁が、いつの間にか消え失せたような…。


「……ね、美子。廉ったら何だか別人みたいじゃない?」
「あ、はい…そうですね…」

盛り上がる男たちの中へ入って行けず、美子は隣に寄って来たNANAと内緒話をする声音で喋り出した。

「きっと、あなたの力ね。やっぱり廉には美子が必要なのよ」
「NANAさん…」
「…私じゃダメだった理由…やっと分かった気がする」

零れ落ちた呟きにハッとする。
今でこそ彼女は柊と付き合っているが、以前は廉に執着していたのだ。
視線を泳がせ動揺を露にする美子に気付いたのか、NANAは慌てて首を横に振った。

「やだ、勘違いしないでね?私、今は柊一筋よ」
「…は、はい…すみません……」
「って言うか、誰もあなたたちの間に入れる訳無いんだから、心配要らないわ」
「そう、でしょうか…」
「自信持ちなさいって!美子、前より綺麗になったし。
…もしかして…毎晩愛されてたりする?」
「!?」

可愛らしくウィンクして見せたNANAは、顔を赤らめ口が開いたままになった美子の耳元で、
更に羞恥を煽る。

「でも、退院してからは時間無かったでしょ。
…私が上手くやるから、二人っきりで楽しんじゃえばいいのよ」
「いいい、いえ、あの…」
「任せて!女優の腕の見せ所ね」

端からこちらの意見を聞くつもりは無いらしく、勝手に意気込んだ彼女はいきなり
美子の膝に頭を乗せ、ゴロンとソファに横たわった。

「な、NANAさん!?」
「ん〜……もう眠い…おやすみなさ〜い」

33 :

突然声を上げた己を、A.N.JELLの4人が一斉に振り返る。
膝枕で気持ち良さそうに微睡むNANAに気付いた柊が、いち早く美子の前まで歩み寄った。

「柊さ…」
「ごめんな、美子。NANAはあんまり酒に強くなくて…」

至極優しい眼差しでNANAを見つめる柊は、軽々とその身体を抱え上げて皆に会釈する。

「…じゃ、俺はお姫様を寝かし付けて来るよ」

恥ずかしげも無く王子様めいた一言を残し、彼はNANAと共に自室へ消えて行った。

「ヒュ〜♪柊さん、さっすがだな〜…俺もあんな風に格好付けてみたい!」
「だったら早く相手を見付けるんだな」
「何だよ、美男だって彼女居ないくせに。
…よ〜し、こうなったら俺たちでフリー同盟でも組んじゃおうよ!」
「ちょ、コラ…どこ触ってんだ!」

酔いが回り出来上がった勇気は、柊とNANAのピンクな雰囲気に当てられ、
寂しさを紛らわせる為に美男へ絡み出す。
ただ男同士でじゃれているだけだが、彼らを見る廉の横顔は苦々しく“気持ち悪い”と
書かれているようで、美子は吹き出しそうになるのを我慢した。

「美男〜、花火やろうよ、花火!」
「分かった、分かったからあんまりくっつくな。暑苦しいんだよお前は…」

さほど酔っていないらしい兄は、犬と変わらぬ様子で騒ぐ勇気に連れられ、そのまま広い庭へ向かう。
取り残された美子と廉は、打って変わって静まり返ったリビングで暫し立ち尽くした。

「…アイツら結局、後片付けを押し付けて逃げたんじゃねぇか」

幸せが逃げるほど大きな溜め息と共に愚痴った廉が、散らかったテーブル上を一瞥し額に青筋を浮かべる。
彼の機嫌を台無しにしてしまった発端は自分にある気がして、美子は努めて笑顔のまま
空いた食器などから順番に片付けを開始した。


34 :

「仕方ないですよ!皆さん酔ってましたし…
私がやりますから、廉さんはお風呂でも…」

ビール缶やシャンパンの空き瓶をまとめていると、キッチンから
ゴミ袋を持って現れた廉の手が美子の手首を掴み、制止する。

「いいよ。たまにはお前が先に休め」
「けど…廉さんの復帰パーティーなのに」
「…俺が好きでやってんだ。文句あるか?」
「い、いえ…」

有無を言わせぬ態度の彼へ口答えするのは不可能だと判断し、
美子は厚意を受け入れペコッと頭を垂れた。

「…ありがとうございます。じゃあ私、先にお風呂入っちゃいますね」
「あぁ。…俺もすぐ行く」
「えぇっ!!?」

ゴミ袋をいくつか用意し、キチンと分別を考えながら仕分けする彼が何気なく
付け足した言葉に、我が耳を疑う。
…まさか、一緒に入るつもりなのだろうか。

「あ、あ、あの…廉さ…」
「…ふ、冗談だ。さっさと入って来い」
「…は、はい……」

さも愉しげに笑んで軽口を叩く廉から底知れぬ余裕めいたものを感じ、
熱くなった頬を俯き加減で誤魔化し、急いで部屋まで着替えを取りに向かった。


35 :


「…あんなこと言うなんて…」

浴室に駆け込んだ直後、頭から熱めのシャワーを被った美子は、両手で顔を覆い独り言を漏らした。
この一週間でグッと大人びた表情を見せるようになった廉に、胸の高鳴りを抑え切れなくなる。

「私…またドキドキしてる……」

交際を始めてすぐ遠距離恋愛に突入し、逢えない時間の方が長かった所為か、日本に帰国してからは
彼の仕草や言葉に一喜一憂し、日ごと愛情は増すばかり。

NANAが察した通り、廉は仕事で家を空ける場合を除いてほぼ毎晩、美子を求めた。
お互い初めての相手だった最初は手探りでスタートしたそれも経験を積む事で、
より濃厚なものに変わりつつある。
シャンプーの泡だらけになった髪を洗いながら、美子は内腿をモジモジと擦り合わせた。

「…どうしよう、思い出しちゃった…」

綺麗な白い指先で己の肌を撫で、少し鼻に掛かった低く甘い声が鼓膜を震わせ。
やがて高みへと誘ってくれる、猛々しい彼の、あの…。

「…っ……!…私ったら、何考えてるの……」

美子は淫らな想像に耽る脳内をどうにか理性で切り替え、身体の泡を洗い流す。
情事の際、羞恥心に耐え兼ねて目を閉じるのが常だが、時折垣間見る廉の
裸体の美しさが目蓋の裏に焼き付いて離れない。
抱かれる度、愛しくて堪らなくなるのだ。

「………」

彼が入院した夜、柊に言われた言葉が過る。
素直に想いを打ち明けてもらわねば、男は不安になると。
求められるまま、身を委ねるだけでは己の愛情は伝わっていなかった。

「……よしっ!」

全身くまなく洗い終えた美子は、鼻の頭を思い切り指先で押し上げて気合いを入れた。

…今夜こそ、自分から廉を誘ってみよう。




36 :

―――


口から心臓が出てしまうのではないかと錯覚するほど、異様な緊張感。

入れ替わりで浴室へ行った廉を待つ間、どんどん早くなる鼓動は静寂を保つ
薄暗い部屋の隅にまで届きそうだ。

「…これ、ホントに大丈夫なのかな…?」

以前NANAとRINAから聞かされた、男性をその気にさせるテクニックを反芻する。
二人が太鼓判を押すコスチュームとして、男物の白いYシャツをクローゼットから拝借し、
袖を通してみたものの。
本当に、こんなブカブカの服一枚で色気など増すのだろうか。
勝手にシャツを借りた事を怒られる可能性も否定出来ず、美子は彼のベッドにちょこんと座り
眉をしかめて悩み続けた。

「…廉さんの匂いがする」

身に纏う肌触りの良い生地から、ふわりと漂う爽やかで微かに甘い香りに気付き、自然と頬が緩む。
普段は身だしなみ程度に微量の香水を使用しているようだが、それだけではなく廉自身から匂い立つ
香りも相まって、心が掻き乱されそうだ。


「まだ起きてたのか?」

「…っ!廉さん…」

不意に声がし扉の方を振り向くと、モカベージュのバスローブを着た廉が現れ、鼓動が一気に跳ね上がる。
乾かしたばかりのサラサラとした前髪に幾分幼さを感じるが、こちらへ大股に近付く視線の鋭さは変わらず、
逃れるよう俯いた。

「…ったく、先に休んでていいっつったのに」
「すみません……最近廉さんと話せる時間、あんまり無かったなぁって思って…」
「ま…別にいいけど」

邪な考えはさておき、少しでも一緒に居たいという本音を正直に話すと、彼は満更でも無さそうに
口端を吊り上げ美子の頭を軽く撫でる。
が、すぐさま端正な顔立ちが怪訝に歪んだ。

「おい、まだ濡れてんじゃねぇか」
「…えへへ、乾かすの忘れてました」
「…はー…お前はホントに…ちょっと待ってろ」

至極呆れた様子で溜め息を吐いた廉は元来た道を引き返し、数分経たぬ内にドライヤーを持って戻った。

「乾かしてやるからココに座れ」
「は、はい!」

ベッドから降りて床に敷いてあるクッションへ腰を下ろすと、美子の真後ろに移動した廉は
電源プラグをコンセントに差し、ドライヤーのスイッチを入れる。
温風が熱過ぎないか手の平で確かめてから湿った髪に当ててくれる、彼の優しさが身に染みた。

37 :

「…美子の髪は柔らかいなー…」
「そうですか?」
「あぁ、ずっと触ってても飽きない」

男装の為に短くした髪も肩まで伸びて、すっかり女性らしさを取り戻し。
本人以上にそれが嬉しいのか、廉はこうしてよく美子の髪に触れるようになった。

「廉さんの真っ直ぐな黒髪の方が、素敵だと思いますよ」
「…ふーん、お前は黒髪が好みか」
「んー…けど、金髪にしても似合いそうですよね。どんな髪型にしても私は大好きです」

意思の強そうな黒髪に男らしい眉がトレードマークな廉の外見を、脳内で勇気と同じく
派手な金髪姿に変換してみる。
それはそれで、また違った魅力が生まれる予感がし、ドライヤーの音に掻き消されまいと大きめの声で伝えた。

「終わったぞ」
「あ、ありがとうござ…」

温風が止まり、振り返ろうとした美子の身体に長い腕が巻き付き、強く抱き締められた。

「…そんなに俺が好きなんだな」

背後から物凄く上機嫌な、弾んだ声音が響くと同時に首筋へ吐息が掛かり、全身が硬直する。
“男物シャツの効果は絶大よ。廉もイチコロね!”と宣う、NANA&RINAの高笑いが聞こえた気がした。

「えっと…あの…」
「……そうだ、今日も星は出てるか?」
「へっ?!……は、はい…綺麗な星空ですね」
「よし、決まりだ」

突然の抱擁にドギマギする美子に構わず、廉はあっさり身体を離すとクローゼットの奥へ消える。

訳が解らず首を傾げ、多少拍子抜けしながら見守る事、数分後。
真新しい天体望遠鏡を抱えた彼は、一旦部屋の照明を点けて視界を確保してから、
いそいそと窓際にそれを設置し始めた。

「…あっ!望遠鏡ですか!?」
「前に買ったまま、まだ一回も使ってなかったんだ。
…星を見ながらのファンミーティング、リベンジしたくねぇか?」

得意顔で言い放ち、天体観察をしやすいよう室内の明かりを再び落とす廉。
薄暗い中、手探りで窓際まで移動した彼にスキップする勢いで駆け寄り、
そのまま抱き付いてピョンピョン飛び跳ねた。


38 :

「嬉しいです!!廉さん、覚えててくれたんですね!」
「当然だろ。…あの時はゴタゴタして中止になっちまったからな。
コイツも満を持しての登場だ」

促され、床へ膝を突いた美子は開放した窓の外で輝く満天の星空にレンズを合わせ、望遠鏡を覗いた。
肉眼では決して見れない星たちの詳細な姿が視界に広がり、わっと声を上げる。

「スゴい!!こんな形だったのね……」

修道院に居た頃から、高価な天体望遠鏡は正に憧れの存在。
学校で習う天体の授業や、図鑑に掲載された星の写真に思いを馳せるのが精一杯だった己にとって、
遥か彼方で煌めく星を間近に見られる喜びはひとしおで、次第にのめり込んでいく。

「よく見えるだろ?」
「はい!あの一番大きな星の形まで、ハッキリ分かりました」
「…お前の母親代わりだった星、か…」
「……お母さんはきっと、本当にあそこに居るんだと思うんです。
お父さんと二人で、今も私とお兄ちゃんを見守ってくれてるって…信じてます」

悪夢に囚われた廉を救う力は、尊敬する院長や、亡き両親から授かったものだと美子は信じて疑わない。
彼もその話を茶化そうとはせず、ただ黙って肩を抱いてくれた。

隣を窺うと、月明かりに照らされた横顔が神々しく、無意識に息を飲む。
何かを決意したような強い眼差しは、一直線にあの星へと向かって…。


「……お父さん、お母さん。俺は一生を賭けて、あなたたちの大切なお嬢さんを…必ず幸せにします」


目線の先を決して外さず、迷い無き廉の声は続く。


「…美子さんと共に生きる事を、どうか…許可して下さい」


背筋を伸ばした美しい姿勢で星に一礼する彼を、美子は何処か夢見心地で眺めた。

「あ……」

顔を上げてこちらに向き直った廉が、己の左手薬指へ光るものを取り付ける。

いつの間に用意していたのだろう。
それは、淡い月光すらキラキラ反射する、星形にカッティングされたダイヤモンドがあしらわれたプラチナリングだった。
美子の鼻の奥が、ツンと痛む。

「これからもずっと…二人で星見るぞ」
「廉、さん…」

かつて、悲しい思い出へ繋がってしまった台詞。
再び同じ言葉を紡いだ廉の面差しには、覚悟のようなものが表れていた。


「……結婚しよう」


39 :

じっと己を見つめる瞳に吸い込まれ、息をするのも忘れるほど胸が熱くときめく。

…想い焦がれ続けた彼が、自分を人生の伴侶として選んでくれるなんて。

エンゲージリングを貰った辺りから滲み始めていた涙がとうとう零れ、
下唇を噛み締めながら力一杯頷いた。

「…はい……よろしく、お願いしま…っ…!」

返事を聞くや否や、廉は勢い良く美子の細い肩と腰を抱き寄せ、安堵の表れなのか大きく息を吐いた。

「……美子…」
「…廉さん…」

広い背中に腕を回し、抱き締め合いながら想いを込めて名を呼ぶ。
自己中心的で威圧感のある物言いの裏に、繊細で優しい本心を秘めたこの男性(ひと)を、生涯愛し続けたい。

「…廉さんは……私の夢なんです」
「え…?」

少し身体を離して顔を覗き込む廉から目を逸らさず、美子は頷いた。

「A.N.JELLの歌を聴いたファンの方たちは、皆さん笑顔になるでしょう?兄の代わりに美男として
ステージに立った時、たくさんの人を幸せにするお手伝いが出来た気がして…すごく嬉しかった。
私…役に立たないかも知れないけど、人に夢を与えて生きる廉さんを…ずっと傍で支えていきたいです」

比類無き才能を持ちながらも、努力を惜しまぬ不屈の精神で突き進む彼から幸せを受け取ったファンが…
この世には多数存在する。
“迷える人々を苦悩から救い、幸せへ導く”という生き方を育ての親である院長から学び、
自身もそうでありたいと願う気持ちに、今も変わりはない。
廉の歌には、それを容易く叶える力が籠められているのだ。

流れる涙を指先で拭い、はにかんだ笑顔で包み隠さず思いの丈を打ち明けると、彼の白い肌が
首筋まで赤く染まっていく。

「………反則だ、それ…」
「え?……きゃっ!?」

突如襲った浮遊感に声を上げて目を瞑れば、背中に柔らかな衝撃が走った。
そっと瞼を開いた美子を見下ろす、切なげな面持ち。
ベッドに押し倒されたのだと気付いた時にはもう、彼の右手はシャツを捲り上げ、滑らかな太股を撫でていた。

「廉さ…」
「……我慢出来ねぇ…お前が欲しい」

耳元で興奮気味に言い放った廉の、熱くなったそれが内腿に押し当てられ下半身が甘く疼く。
美子は顔から火が出そうなほどの羞恥心を耐え忍び、彼の胸元にしがみ付いた。

「……抱いて下さい…」


ゴクリ。
廉が唾を飲み込む音が、確かに耳に届いた。



40 :

―――


暗闇では無力な己の瞳を理由に点した室内照明の下、恥じらう美子を目の当たりにしただけで、
飢えた獣のように獰猛な衝動が湧き起こる。
アフリカから帰国したその日に初めて結ばれて以来、幾度抱いても尚、彼女への欲望は尽きる事は無かった。

「…んっ、ふ…ぁ…」

可憐な唇を塞ぎ、戸惑う舌先を捕らえて絡ませながら指先に全神経を集中させ、
シャツの裾から覗く華奢な脚を踝からツウッと撫で上げると、きめ細かな肌が粟立つ。
これは美子の性的興奮を表すサインだと、行為を重ねていく内に知った。

「…なぁ、何で俺の服を着たんだ?」

唇を解放し顔を寄せて問い掛け、赤らんだ耳朶を軽く甘噛みする。
口を噤む彼女の肩が小刻みに震え、内腿を擦り合わせる仕草を見せた。
恐らく、まだ見ぬ下着の中心部は既に湿り気を帯びているのだろう。

「誘うつもりだったのか?お前もイヤらしくなったよな…」
「…ちがっ…」
「嘘吐くな。…じゃあ、何で下しか穿いてねぇんだよ」
「それは…っや…!」

返答を待たず、白いシャツの上からこじんまりとした二つの膨らみを鷲掴み、揉みしだく。
棘のある口調で美子を責めるが、もちろん本気で苛立っている訳ではない。
色々と試行錯誤する中、このような趣向が一番彼女の理性を奪えると学んだからだ。
事実、羞恥に顔を歪ませながらも見上げる円らな瞳は欲に濡れ、何とも艶めいている。

「…答えないって事は、肯定してんのと同じだ」
「ぁっ…!廉さ…」

プロポーズに成功した夜くらい優しく抱きたいが…ここはやはり、
愛しい女の期待に応えてやるのが男というもの。
廉は心を鬼にし、敢えてサディスティックな振る舞いに徹すると決めた。

鎖骨が覗く襟元へ両手を掛け、ボタンを引き千切りながらシャツを肌蹴させ胸元を外気に晒し、
二つの頂を指先で摘まんでクリクリと弄る。

「あ、…んっ…」

膨らみへ唇を寄せ、硬くなった突起を口に含み舌で転がしてみた。
美子の乳房は、大きな廉の手にすっぽり収まるサイズながら感度は抜群で、発する声が更に甘くなる。
交互に胸の頂を吸い上げ意識を上半身へ向けさせつつ、隙を見て右手を足の付け根まで持っていき、
下着の上から秘部を撫でた。
指先に、しっとり濡れた感触が伝わり思わずほくそ笑む。

41 :

「…濡れてる…」
「……っ…言わない、で…下さい…」

満足げに呟きシャツの裾を捲ると、誰に勧められたのか清楚な美子には似つかわしくない、
妖艶なパープルの下着が全貌を現した。
所々に黒いレースが使われ、勝負下着です!と主張しているようだ。
廉は面食らい、一瞬ベッドからずり落ちそうになるのを堪え、咳払いを零す。

「いつ買ったんだよ、これ…」
「……NANAさんとRINAさんが、プレゼントしてくれて…」
「……やっぱりそうか」

小悪魔二人組が腹を抱えて笑う姿を容易に想像出来た己の思考回路を遮断すると、気を取り直して
下方に身体をずらし、彼女の脚の間に割って入った。

「だったら、別にこんなモンどうなったっていいよな?」
「え?…ひゃっ!…やぁっ、廉さ…ダメッ…」

柔らかな内腿に手を添え脚を開かせ、濃い紫に変色した中心部へ舌を這わせ、下着越しにむしゃぶりつく。
ふにゅ、と両足を閉じようとした美子の太股に顔を挟まれるが、止めるつもりは毛頭なく薄い生地が
びしょ濡れになるまで執拗に、舐めたり啜ったりを繰り返す。

「や、だぁ…パンツが、ぁっ…汚れちゃいます…ッ…」

首を左右に振って拒絶の意思を示す彼女だが、身体は素直で増えた愛液が洪水よろしく染み出し、
下着の色もすっかり変わってしまった。
濡れて秘部に貼り付いた薄布の上部、ぷくりと膨れたそこを尖らせた舌先で押し、強く吸う。

「…ひっ…ぁあ!!」

瞬間、美子の両脚が快感に戦慄き、一際甲高い声が上がった。
シーツを手繰り寄せていた両手は廉の頭に置かれ、制止したいのか、
或いはもっと刺激してくれとの訴えなのか、髪を掴んで震えている。

「…どうした、そんなに嫌ならもう終わりにするぞ?」

意地の悪い問い掛けに黙り込んだ彼女の股関節から内腿へ順に吸い付き、
いくつも赤い華を咲かせていく。
本当はどうして欲しいのか重々承知だ。
しかし、美子が快楽に崩落する様を思うと背筋がゾクゾクし、責める手を緩められなくなる。

42 :

「…は…ぁん、廉さ…」
「何だ」
「……お願い、します…」
「それじゃ何が言いたいのか分からねぇよ」

簡単に他人へ素肌を見せられなくする為、下半身に無数の所有印を刻んでいた所で、
ようやく観念したらしく腰を微かにくねらせながら、小さな声を発した美子。

「…パンツ、脱がせて下さい…」
「それだけ?」
「………さっきの、もう一回……して…」

今にも消え入りそうな懇願と、耳朶まで真っ赤に染まった顔を見遣ると流石に少々可哀想になり、
廉はそれ以上の無理強いはせずに頷いた。

「…ま、いいだろ」

目の中に入れても痛くないほど、可愛い彼女の頼みである。
要求を飲み、下着へ手を掛け一気に引き下ろして素早く脱がせ、愛液でトロトロに蕩けた花弁を凝視した。
己の股関が更に熱を持ち、今すぐにでも欲を開放したい衝動に駆られるのを堪え、生唾を飲み込む。

「…恥ずかしい、です……」
「じゃあ、やっぱり止めるか?」
「……いやっ…やめないで…廉さん、お願い……」

焦らされるだけ大胆になる美子を上手く煽って自ら足を開くよう仕向け、口元を笑みの形に歪ませた廉は
濡れそぼったそこへ顔を埋め、充血し膨らんだ花芯を遠慮なく口に含み、チュウッと音を立てて吸い上げた。

「ぁあっ…!」

待ち侘びたであろう刺激に彼女の腰は浮き、溢れた愛液がシーツに滴り落ちる。
空いた右手で陰唇をなぞり指先に蜜を絡ませ充分な潤いを保ってから、熱く熟れた膣内へ
人差し指と中指をゆるゆると挿入し、締め付けのキツい内壁を擦りながら奥まで掻き分けていく。

「はぁっ…ん、ぅ…ッ」

とても耳触りの良い喘ぎにやる気も上昇し、このまま美子を高みへ導くべく、くの字に曲げた指を
激しく出し入れしつつ陰核を舌で弄り、舐め擦った。

「…も、ダメッ…何か、来る…やだぁあっ!」
「…!?」

行き場を無くした両手で廉の髪をクシャッと握り締め。
下肢を震わせながら限界を迎えた彼女の秘部から大量の愛液が迸り、顔面に飛び散る。
咄嗟に目を瞑ったお陰で視界を奪われずに済んだが…これが所謂、“潮吹き”というものか。
また新たな経験値を獲得した気分になり、驚きと喜びを覚えた。


43 :

「はぁ、…はぁ…」
「……すげぇな、初めて見た…」

膣内から指を引き抜き、己の頬や額に付着した蜜を掬い取る。
ぼんやり余韻に浸る美子の前で、さも美味そうにそれを啜って妖しく笑んでやった。

「…甘い」

本当は味など無いに等しいが、彼女の身体から出たものだと思うと自然と
甘く感じるから不思議だ。

「……廉さん…わたし…」
「ん?…っ、お前…!」

ただ頬を朱に染め己の動作を見守るだけだった美子が、いきなり足をM字型に開いて
自身の秘部を触り始め、ギョッと目を見張る。
更に彼女は、達したばかりでヒクつく陰唇を廉へ見せ付けるよう、両手で拡げ始めた。

「……廉さん…来て…」
「……!!」
「はやく…」

ブチッ…脳内で理性の糸が切れた音がする。
こんな風に美子から求められたのは、初めてだった。

「美子…っ…!」

羽織っていたバスローブを脱ぎ捨てると華奢な身体へ覆い被さり、下腹に付くほど怒張した性器を
膣口へ押し当て、避妊具も装着しないまま一気に奥まで貫く。

「…ッぁあ!!」
「…っく……キツ…!」

強烈な締め付けが廉を襲い、眉根を寄せ歯を食い縛って射精感に耐えた。
今日は一段と内壁のうねり、温かさを感じて下半身が痺れる。

「動くぞ…っ…」
「ん、ぅ…っはぁ、あっ…あ、ひぁッ…」

互いの息が整う間も無く腰を打ち付け、熱くて狭い中を何度も突き上げた。
廉の動きに合わせ、絶えず啼き声を漏らす美子の目尻から、生理的な涙が伝う。

「美子……愛してる…」

律動の激しさとは裏腹に、優しく頬へキスをし雫を吸い取り、吐息混じりに耳元で囁いた。
すると、普段なら黙って頷くのみだった彼女が、瞳に涙を溜めたまま己を見上げ照れ臭そうに微笑む。

「私、も…愛してる……廉さん……」

行為の真っ最中、美子が言葉で愛情表現に応えてくれたのも初めてで、感激のあまり廉まで泣きそうになった。
…やっと、心から一つになれた悦び。

44 :

抑え切れず、デレッとだらしなく頬を緩ませ彼女の顔中に口付ける。
その間にも、頭上のクッションを一つ取って細い腰下へ敷き、尻の位置を高くした。

「…?」
「……いい子だ、ブタウサギ。めちゃくちゃ気持ち良くしてやる」

未だ試した事のない性感帯の開発。
今夜なら出来るかも知れない。

急に動きを止められ首を傾げている美子の両足を、己の肩へ掛けて思い切り開脚させる。
クッションが支えとなり下肢が浮いた状態のまま、より深く挿入可能になったのを確認し、
最奥を目指しつつ円を描くように腰を揺らめかせた。

「…あ、ぁっ…や、ぁあ!?」

膣内の奥深く、恐らく子宮口付近のコリッとした部分に亀頭が到達した刹那、
美子が発する喘ぎの質が変わる。
彼女の為、秘かに掻き集めた性知識が正しければ…間違いなくここは、
女性が一番感じるとされる箇所だ。

「ここか…」

獲物を見付けた肉食獣の如く双眸を光らせた廉は、角度を考えながら硬い性器をそこへ擦り付け、ベッドの
スプリングが軋むのも構わず夢中で突く。

「いやぁっ!!ぁ、あ…っん、…おかしく、なるぅ…ッぁ、ああっ!」

よがり狂った美子は廉の二の腕や背中に爪を立て、髪を振り乱して啼き叫ぶ。
結合部からとめどなく愛液が流れ、肉棒を出し入れする度にグチュグチュと卑猥な水音が
部屋中に木霊した。

「…ッ、おかしく、なっちまえよ……!」
「ひぁあ!…いっ…く……イッちゃう……ッぁああ!!」

喉を反らし全身を痙攣させながら、彼女が絶頂に昇り詰める。
悦楽の波は廉を銜え込んで離さない内壁にまで伝わり、キューッとキツく締まった膣内の
肉襞が絡み付き、堪らず子宮口まで挿入したまま精液を放った。

「…う、ぁ……っ…!」

全てを搾り取ろうとでも言うのか、貪欲なまでに収縮を繰り返す膣壁に促され、
何度か突き上げ一滴残らず美子の中へと注ぐ。

45 :

「…はぁ、はぁ……」

額に滲んだ汗が、真下で紅潮する二つの膨らみへと垂れる。
全力で坂道を駆け抜けたような倦怠感が訪れ、肩で息をしながら彼女の上に崩れ落ちた。

「……美子、大丈夫か…?」

呼吸が落ち着き始めた所で美子の様子を気遣い、再度身体を起こして
体勢を整えながら顔を上げると。
強過ぎた快感の所為だろう、彼女は意識を失い目を閉じた状態で沈黙を守っていた。

「…気絶してる………」

我ながら、かなりハードなセックスをしてしまった事に反省を覚え、苦笑を漏らす。
だが、後悔の念など微塵もない。

先程刻まれた、二の腕と背中の傷がヒリヒリと痛み始めたが、廉は清々しい思いで口角を吊り上げた。
…結婚したら、もっともっと愛してやるつもりなのだが。


「…これじゃ、先が思いやられるな?」

彼女の左手を取り、薬指に光るエンゲージリングへ恭しくキスをする。
幸せな夢でも見ているのか、ムニャムニャと口元を動かす呑気な美子。
穏やかなその寝顔を眺め続ける廉が、とろけるような微笑みを湛えていると自覚して赤面するのは、
もうしばらく後のこと。



46 :

―――


熟睡する彼女が居ては、散々たる様子のベッド上をそっくり片付ける訳にもいかず。
廉は仕方なくシーツの交換を諦めて出来る限りの後始末と、美子の身体を清拭する作業に励み、
自身も二度目のシャワーを簡単に済ませた。

水を飲みに、濡れた髪を拭きながらキッチンへ向かうと、そこには先客が。


「美男…?」
「ちょっと眠れなくてな。…ほらよ」
「あぁ、サンキュ」

冷蔵庫の前でミネラルウォーターを飲んでいた寝間着姿の美男から、
同じ銘柄の新品を受け取り封を開けて喉の渇きを潤す。
数時間前まで彼と一緒に はしゃいでいた勇気の姿が何処にも無く、
静まり返った薄暗いリビングを見渡した。

「勇気は?」
「もうとっくに寝たよ。“A.N.JELL最高!”とか言いながら寝る寸前まで絡んで来やがって…
よっぽど廉の言葉が嬉しかったみたいだ」
「…そうか」

酔っ払いの相手は大変だったと言いたげに肩を竦め、空になったペットボトルを捨てる美男の顔は
妙に楽しそうで、廉も口端を引き上げ笑みを零す。

「お前こそ、こんな時間に風呂なんて…早く休んだんじゃねぇの?」
「え?…あ、いや……」

日付変更線をとうに過ぎた今、風呂上がり丸出しの不自然な格好について指摘され、
ギクリと上半身が強張ってしまった。
愛しい彼女と瓜二つ、こちらを窺う澄んだ瞳は何もかも見透かしていそうで、非常に気まずい。
答えに詰まり、必に言い訳を考えながら再び水を飲み掛けた時、美男は無表情のまま呟いた。

「…もしかして、美子にプロポーズでもしたか」
「…っぶ!!…ゲホッ、ゴホッ……」


47 :

不意に核心を突く単語が飛び出し盛大に噎せた廉は暫し咳き込み、
飲み掛けのペットボトルをシンク付近に置いた。
息苦しさから若干潤んだ目を彼へ移すと、勝ち誇ったようにニヤリと
不敵な笑みが返る。

「へぇ、図星かよ」
「お、おお、お前、何で……」
「俺らは双子だぜ?お互いの思いまで分かる時もあるんだ。
…やっぱり、眠れない原因は廉にあったっつう訳か…」
「え?」

腕を組んだ美男は、動揺を露にする廉と対照的に冷静な様子で、窓の外を眺めながら息を吐いた。

「アイツが悲しい時は俺も意味無く落ち込むし、反対に楽しい時は勝手にテンションが上がる」
「……?」
「…だから、眠れねぇくらい気持ちが高ぶって落ち着かなかったのは、よっぽど美子に何か…
嬉しいサプライズでも起きたんだと思ってさ」

一人っ子の己には知る由の無い、双子の奇妙な縁。
美子と美男の絆の深さを改めて悟り、感嘆の声を上げる。

「…面白いな、双子って…」
「離れて暮らしてた時より、今の方がよく分かるかもな。
…美子は本当にお前を好きなんだって、毎日感じてるよ」

窓際まで移動した美男の頬を青白く照らす月光。
とにかくよく似た兄妹だが、ぼやけた視界に映る彼は些か寂しげな、
それでいてとても優しい男の表情で佇んでいた。
何と声を掛けて良いものか戸惑う廉へ真っ直ぐ向き直った美男が、
一際輝くあの星を背に口を開く。

「廉……もう二度と美子を泣かせるな。
…アイツを傷付ける奴は、誰であろうとこの俺が許さねぇ」

堂々たる態度でキッパリ告げられた一言。
以前、沖縄で柊から受けた忠告とほぼ同じだったが、最も美子と近しい彼から言われた事で
更なる重みが加わり、廉の身が引き締まる。

大切にして来た妹を、己へ託すつもりなのだ。
その決意がひしひしと伝わり、背筋を正して首を縦に振った。

48 :

「…あぁ。絶対に美子を悲しませたりしない。
…いや、でも泣かせちまう時はあるかも知れねぇな」
「何だと?」
「……だって、人は嬉しい時も泣くモンだろ?」

顎をしゃくり、したり顔で自信満々に言い放つと、呆けて目を丸くしていた美男が軽く吹き出す。

「この先、美子が流すのは嬉し涙だけってか……ふふ、上等だ。
今の言葉…忘れんじゃねぇぞ」

彼女に負けじと愛らしい、しかし精悍さを持った魅力溢れる笑顔で、眼前へ拳を突き出す美男。
廉は握った己のそれをしっかり彼と合わせ、男同士の堅い約束を交わす。

「忘れねぇよ、一生な」

突き合わせた拳から、妹を思う情熱が受け継がれたようで、言い表せぬ高揚感が身体を駆け巡った。

「…よし、じゃあもうすぐ義理の兄貴になる俺から、可愛げのねぇ弟に一つプレゼントがある」
「……その言い方やめろ」

ふと思い立ったのか、美男はやけに機嫌の良い声で冗談を言いながら、ゆったりしたズボンの大きなポケットに
手を突っ込み、長方形の茶封筒を取って見せた。
渡されたその中の、白い紙に記された内容を確認した廉は驚愕し、目を見開く。

「これ……!」
「俺に出来るのはそれくらいだ。…使い方はお前に任せる」

その紙の正体は、とあるコンサートホールの貸し切り許可証だった。
忘れもしない、約20年前…ピアノコンクールが開催された、あの会場である。
更に驚くべきは、貸し切りの日時だ。

「……母さんの、誕生日…」

記憶の隅に引っ掛かっていた、母が生まれた日。
これまでまともに祝う事も出来ぬまま、長い年月が過ぎていた。

49 :

「…あの人も、ずっと廉を心配しててな。見舞いにも来たがってたけど、俺が来ないでくれって頼んだんだ。
…あんな状況じゃ確実にマスコミのターゲットにされるだろ」
「…そう、だったのか……」

病室で読んだ、原稿用紙の最後の一文がまた脳裏に浮かび…廉の胸中は切なく、苦しくなる。

「…今度こそ思いっきり、言いたい放題言っちまえ。お前らは…親子なんだから」

目を細め柔和に頬を緩ませた美男にやんわり肩を叩かれ、唇を引き結び素直に頷いた。
保留した切りになっていた母との和解を、必ず成功させると胸に誓って。


「……ありがとう、美男」
「お義兄様と呼べ、お義兄様と」
「うっせぇ、調子に乗んな」

歯を見せ悪戯っぽく笑む美男の背中を小突き、廉も声を上げて笑う。


美子を愛して、本当に良かった。
こんなに優しくて、暖かい男と…家族になれるのだから。







50 :
今回はここまでです。
大量更新、しかも間違ってageてしまってすみません。
馬淵さんが言ってた美男の評価があまりに高かったので、気付けば
かなり男前で、粋な男になってたww
エロは今回限りで終わりですが、お話はまだ続きます。
こんなに長く続けていいものか…よろしければもうしばらくお付き合い
下さい。

51 :
GJ!
いやーーーー、凄かった!
廉さん、ほぼ毎晩なのね(エッチ)
「おかしく、なっちまえよ」で絶叫!(心の中で)
シリアスからエロまで、どんだけオールマイティなんですか。
投下しようかなと思って覗いてみたら大作来てて度胆抜かれました。
続き楽しみにしてます。

52 :
>>50
GJ!
廉さんすげー!
ってゆーか…病み上がりじゃなかったのか?アンタ…
双子の不思議でいろいろ察した美男、終始かっこいいw
さらに続きも読めるとのこと、楽しみ〜!
でもできるなら少しだけ…らぶりー廉美子なイメージのエロも見てみたいw
>>51
投下の予定ありですか?
うれしい〜待ってます〜

53 :
>>50
超〜GJ!!いつもステキなお話ありがとうございます!
廉さん、元気になりすぎだーwwプロポーズかっこよかったよ。
潮吹きとかすげぇ!!いつの間にか童貞から、テクニシャンへ…!
この美男、確かにイイ男すぎるわ〜早く彼女できますように。
続きも、もちろん待っています。楽しみです!

54 :
月刊セレナーデさんキテたーーーー!
どの作品も数少ないエロが超ド級のディープで感動ですw
今回のスゴさでひょっとしたらお子が出来てしまうんじゃないか?
それはそれで、このお話の続きをいつまでも読み続けていたい…
長期連載期待してます。心から。
落ち着いたら51様の作品も楽しみにしています!

55 :
51です
廉美子エロもありますが、どちらかと言うとA.N.JELL全員かな
自分でもカテゴライズがよく分からないけど、とりあえず投下します

56 :

テーブルの上に並んだたくさんの料理を見て、美子は満足げに頷いた。
「完璧!なんてね」
そろそろみんながやって来る時間だ。ウキウキしながら時計を見た時、ピンポーンとチャイムが鳴った。
急いで玄関に行くと、A.N.JELLのみんながどやどやと入って来た。
「いらっしゃい。お疲れさまでした」
「美子!おじゃま〜」
勇気を先頭に、みんな勝手知ったるという気安さでリビングに入って行く。
最後になった廉が、美子を軽くハグするのももはや珍しいシーンでもなく、日常の一場面となっている。
「これ全部美子が作ったの?驚いたな」
料理の数々を見渡して、感心したように柊が呟いた。
「エヘヘ、ちょっと頑張っちゃいました。今、スープも温めてるので皆さん座っててください」
美子がキッチンに戻ると、きれいに切り分けられたローストビーフを一切れ口に入れた美男が勇気に小突かれた。
「お前、行儀悪いぞ〜。ちょっと待ってろよ」
肩をすくめながらも、勇気のお小言などどこ吹く風と、美男は涼しい顔をしている。
「お鍋持っていくから、よけてくださーい」
熱々のスープの入った保温鍋を持った美子がやってきて、鍋をテーブルの中央に置いた。
「今日はミネストローネですよ」
鍋の蓋を開けると、美味しそうな匂いが部屋中に広がった。
「うっ、うぷっ…」
突然美子が口元を抑えて洗面所に駆け込んだ。
驚いた柊と勇気が顔を見合わせる。
「どうしたんだ…?」
ぼそっと呟いた廉に柊が声を掛けた。
「廉…もしかして…おめでたじゃないのか?」
「え?おめでたって…えっっ?」
あまりの驚きに目を見開いた廉だったが、次の瞬間には頬をポーッと染めて、こみ上げる喜びを抑えきれずに口元が緩みだす。
廉はそのまま美子の後を追って洗面所へと駆け出した。
その後ろ姿を微笑んで見つめる柊の肩を、勇気がつんつんとつついた。
「こっちにもお花畑の人がいるみたいだよ」
振り返ると美男もまた頬を染めて、だらしなく口元を緩め夢見るように微笑んでいる。
「美男、大丈夫か…?」
「へ?ああ、うん。おめでたかぁ。へへっ。俺たちの新しい家族かぁ。でへへへ」
「いや、まだはっきりしたわけじゃないし…」
勇気が冷静に言ってみても一切耳に入らない様子で、いつまでもニマニマしている美男。
(ダメだこりゃ…)
頭の中がお花畑全開の美男はほっといて、とりあえず美子と廉が戻るのを待った。

57 :

少し青ざめた顔の美子の肩を抱いて、廉が戻ってきた。
ゆっくりと美子を椅子に座らせ、みんなの顔を見回す。
「とりあえず月曜日になったら病院に行かなきゃな。そうだ、社長に連絡していい病院を探さないと」
そう言うと、おまえら先に食べてろ、と言い残して美子を連れて寝室に向かった。
美子をベッドに寝かせて、パソコンを立ち上げ産婦人科の検索を始める。
いつの間にかやって来た美男も真剣な眼差しでモニターを見つめている。
「実績があって、評判の病院は…と」
「廉、大事な事忘れてるぞ。絶対女医じゃないとダメだからな」
廉も思わず膝を打った。
(そうか…そうだよな。美子の大事な所をよその男なんかに見せられないからな…)
コンコンとノックの音がして、柊が顔を覗かせた。
「廉、勝手にキッチン借りたけど、美子におかゆを作ったから少し食べた方がいいんじゃないか?」
「おお、悪いな柊」
おかゆを載せたお盆を持って柊が入ってくる。
廉は美子の体を起してサイドテーブルにお盆を置いた。
「ところでさぁ、廉さんが病院についてくの?」
勇気の言葉にみんなハタっと顔を見合わせた。
「月曜日は朝から取材が入ってたな…」
「大丈夫ですよ。一人で行けますから」
美子の一言にみんな、とんでもないと首を横に振った。
「あ、それじゃ、シゲ子おばさんに頼むか」
今は何故か安藤夫人となったシゲ子にお願いすることにして、廉は社長に電話を掛けた。
「…と言う訳でおばさんにお願いしたいんだけど…」
廉の言葉に社長はムッとして大声を上げた。
「おばさんって…うちのハニーをおばさん呼ばわりするのは許さん!シゲ子さんと呼べっ!」
心の中でハイハイ、と思いながら機嫌を損ねると美子の事を頼めなくなるので、
「シゲ子さんに頼んで下さい。お願いします」
と珍しく下手に出た廉だった。
翌日、朝早く朝食の準備をしている美子を見て、廉は血相を変えた。
「何やってんだ?そんな事しなくていいから休んでろって!」
慌てて美子に駆け寄り、椅子に座らせる。
「大丈夫ですよ。病気じゃないし、まだはっきりしてないですし…」
「いいから!朝飯くらい俺が作るから」
キッチンからはガチャガチャと大きな音や、時おり「あちーっ」という廉の悲鳴も聞こえてくる。
美子はハラハラしながらも、おとなしく待っていた。
しばらくキッチンで格闘していた廉が、朝食を作り終えたのは1時間後だった。
黄身が壊れてぐちゃぐちゃの目玉焼きと、片面が真っ黒に焦げたトースト。
レタスを適当にちぎった上に、四等分しただけのトマトが乗ったサラダ。
コーヒーだけはコーヒーメーカーが作ってくれるので、まあまあの出来だった。
「お前はジュースだ。さあ、食え」
ドヤ顔で食えと言われても、あまりの惨状に美子は笑いを堪えるのに精一杯だった。
へたが付いたままのトマトを一切れフォークで刺してかじってみた。
(大きい。ふふっ、料理なんてした事ないんだろうなぁ)
ニコニコしている美子を見て、廉は満足気にコーヒーを飲んでいる。
「廉さんて、きっといいパパになりますね」
「!!!パパ?」
見る見るうちに廉の顔が赤くなった。
(パパか…。照れるな。はーっ、どうしよう)
まだ見ぬ我が子に思いを馳せて、廉の想像の翼が広がる。
そうこうしているうちに、仕事に行く時間になってしまった。
「今日は掃除も洗濯もしなくていいから。ゆっくり休んでるんだぞ」
しっかりと美子に言い聞かせて、廉は出かけて行った。

58 :

週が明けて月曜日。
朝から雑誌の取材や撮影などで忙しくしていたA.N.JELLだったが、廉だけはソワソワと落ち着かなかった。
何度も時計を見てはため息をつき、携帯の着信を確認する。
「廉さん、落ち着きなよ。こっちが慌ててもしょうがないんだからさ」
見かねた勇気が声を掛けるが、上の空の廉にその声は届いていない。
その時廉の携帯が鳴った。
「もしもしっ!」
頬を上気させて電話に聞き入っていた廉が、次第にうな垂れて行った。
「そうか…違ったのか。うん…じゃあ後でな」
ふぅ、と息を吐いて椅子に座り込む。
「廉さん、妊娠じゃなかったの?」
廉は勇気の問いかけに、こくんと頷いた。
「でもさっ、出来ちゃった婚になるより良かったんじゃない?あんまりイメージ良くないしさ…」
慰めるつもりで言ったみたが、廉の落ち込み様に言葉も尻すぼみになって行く。
「元気出してよ、廉さん」
「ああ。悪かったな。気を使わせちまって」
勇気にニコッと笑いかけて、廉は部屋を出て行った。
廉の後ろ姿を見送った柊は、困ったような顔で呟く。
「おめでたじゃないかなんて、軽々しく言うんじゃなかったな。廉に悪いことしたな」
帰宅した廉は真っ直ぐ寝室へ向かう。
ベッドに腰かけ、落ち込んだ気分を奮い立たせるように自分を鼓舞する。
(ガッカリした気持ちを美子に悟られちゃいけない)
そう自分に言い聞かせてリビングへ向かった。
「ただいま、美子」
「あっ、廉さん。お帰りなさい」
美子は小走りで廉に駆け寄り抱きついた。
「ごめんなさい、廉さん」
「お前、なんで謝ってんだよ。むしろ良かったんだって。子供を持つのは、まだ早いんだよ、俺達」
美子の髪を撫でて、囁いた。
(そうだ、まだ早すぎるんだ)
美子に言った言葉を何度も心の中で繰り返し、廉は自分を納得させた。
その夜、すっかり寝静まった頃、廉の微かなうめき声で美子は目を覚ました。
廉は額に汗を浮かべて苦しげに呻いている。
「廉さん、どうしたんですか?」
廉の肩を軽く揺すってみた。
「ぅ…お…かあさん、行かない…で…」
美子はハッとして廉を見つめた。眉を寄せ微かに首を振る廉の目尻から、一筋の涙がこぼれた。
廉の体を抱きしめ、ゆっくり頭を撫でると、廉はふぅっと息を吐き、また静かに深い眠りに落ちたようだった。
美子は廉を抱きしめながら、改めて廉の孤独を思い知った。
今は母水沢麗子とも良好な関係を築いている。しかし、子供の頃に受けた傷は、簡単には癒えないのだろう。
そして自分の家族が持てるかもしれないと期待した廉の落胆は、美子の想像以上に大きかったのではないかと思った。
美子の胸に頬を寄せて眠る廉を見つめながら、美子もまた静かに涙を流した。

59 :

「廉さんまだかなー。大事な話って何だろうね?」
合宿所のリビングでそれぞれ寛ぎながら廉を待つ、柊と勇気。
「まあまあ、もうすぐ来るだろうから、待ってようよ」
何故か余裕の表情を浮かべた柊を、勇気は怪訝な顔で見つめた。
「柊さん、何か知ってるの?」
「いや、知らないけど、多分…」
ここ数日、廉が難しい顔をして何度か社長と話し合っているのに気付いていた。
(仕事の事なら俺達にも話すはずだから、という事はきっと…)
その時玄関が開く音がして、廉と美男、そして美子の三人が入ってきた。
「なんだ、みんな一緒だったの?美子、どうしたの?顔が赤いよ」
美子はパチパチと瞬きを繰り返して廉の顔を見上げた。
「実はみんなに報告がある。俺達、籍を入れることにした」
一瞬シーンとした後、柊と勇気から祝福の声が上がった。
「やっぱり!おめでとう!美子、廉!」
「ホントに?ホントに?おめでとー!やったね!」
柊はそんな事だろうと思って、あらかじめ冷やしておいたシャンパンを持ってきた。
「みんなで乾杯しよう!」
グラスを並べてシャンパンを注いでいると、「ちょっと待ったー!」と美男の声が響いた。
「肝心な事忘れてるぞ、廉」
廉と美子は顔を見合わせて首を傾げた。
「何だ?」
「だ・か・らっ!『お嬢さんを、僕にください』ってのをやってないだろ?」
「は?」
「ぷーっ!いやいや…美男。そんなの今さらいいじゃん。お前美子の親じゃないんだしさ」
吹き出しながら美男の肩をポンポンと叩いた勇気の手を、パシッと払った美男はあくまでも真面目に言っているらしい。
あれっ?っとずっこけた勇気と柊も事の成り行きを見守っている。
「わ、わかったよっ。やればいいんだろ?」
ソファには美男と美子が並んで腰かける。
隣には立会人の柊と勇気が控えている。
廉は神妙な顔をして、美男の前に座った。
「美男、美子と結婚させてくれ」
「やり直し」
「何でだよっ?」
真っ赤になった廉が、美男にくってかかる。こんな所を柊と勇気に見られているのも、更に羞恥心を煽った。
「俺は美子の兄だぞ。なんでそんな上から目線なんだよ?」
「そうそう、廉さん。これが美子のお父さんだったらって思ったら、もっと言い方があるでしょ?」
(くそっ、お前ら面白がりやがって…)
ニヤニヤする柊と勇気を睨みながら、廉は気持ちを落ち着かせようと深呼吸をした。
「お、お兄さん、美子さんとの結婚を許してください」
耳を赤く染めて言い終わると、廉は美男に深々と頭を下げた。
「まあまあだな。美子、本当にこいつでいいのか?」
顔を真っ赤にした美子は、こくこくと何度も頷いた。
「やったね、廉さん!」
「さあ、それじゃ乾杯しようよ」
柊と勇気も自分の事のように喜んで、その夜は遅くまで二人の幸せを祈念する乾杯が続いた。

60 :

翌週、A.J.エンターテインメントから、桂木廉の結婚を報告するメールがマスコミ各社に送られた。
相手は廉の母親の古い友人の娘であり桜庭美男の妹である事、近日中に結婚式を挙げる事、
また現在妊娠はしていない事など綴られた後に、後日記者会見を開く予定である事が書かれていた。
このビッグニュースで日本中が湧きかえっているその時、A.N.JELLは某国のリゾートに来ていた。
白い砂浜が広がる海辺の小さな教会で、結婚式が始まろうとしていた。
パイプオルガンの音が響く中、白いスーツに身を固めた美男と、ウエディングドレス姿の美子が腕を組んでバージンロードを進む。
オーガンジーを幾重にも重ねたふんわりしたドレスは、美子を一層可憐に演出している。
ベールの上にはティアラの代わりに、生花で編んだ冠を載せ、まるで天使のように愛らしかった。
緊張でカチコチになった美男は、一人でずんずん歩いてしまい、「お兄ちゃん、早すぎる」と美子に言われる始末。
祭壇の前で待つ廉に、美子を引き渡した美男は微かに目を潤ませ、廉と強く頷き合った。
大役を終えた美男は参列者席の一番前で、NANAの隣に落ち着いた。
「お疲れ様。素敵だったよ、美男」
小さな声で囁くNANAに微笑み返して、美男は額の汗を拭った。
神父様のお話に続いて誓いの言葉を交わす。
『健やかなる時も、病める時も
喜びの時も、悲しみの時も
富める時も、貧しい時も
が二人を分かつまで、愛し慈しむことを誓います』
美子はポロポロと涙をこぼしながら廉を見つめ、廉は微笑みながら美子に頷いた。
そして指輪の交換と続き、いよいよ誓いのキス。
廉は美子のベールを上げて、軽く唇を重ねた。
潤んだ瞳で見つめ合い、ニッコリと微笑んだ所で神父様が咳払いをして言った。
「もっとちゃんとキスしなさい」
「え?あの…?」
廉は真っ赤になって神父様の顔を見た。
参列者席からドッと笑いが起きる。
「廉、もっと心を込めてキスしなきゃ」
「そうだよ廉ちゃん。なんたって、誓いのキスだもんね」
口々にはやし立てるみんなを軽く睨みつけてから、廉は美子の腰に手を回した。
驚いて目を丸くする美子を抱き寄せ、深く口づける。
「ヒューッ!」
口笛や歓声が上がる中、長い時間唇を合わせる二人。
やっと唇を離した時、神父様は頷いて「二人を夫婦と認める」と宣言した。
ホテルの中庭で、ささやかなウエディングパーティーが始まった。
水沢麗子は晴れて夫婦になった二人に、歩み寄った。
「廉、美子さん、おめでとう。…美子さん、廉の事、頼みますね」
「はい、ありがとうございます。…お義母さん」
麗子は思いがけない美子の言葉に、一瞬言葉を詰まらせ、目頭をハンカチで押さえながら何度も
「ありがとう、ありがとう」と繰り返した。
みんな幸せな気持ちで二人を祝福し、程よくお酒も回ったところで、安藤夫妻、馬淵とRINA、美男とNANA、
柊と沢木、そして水沢麗子と秘書の橘がなんとなくペアになり話に花を咲かせている。
(あれ?俺だけ一人ぼっち?)
勇気がきょろきょろとあたりを見渡すと、背後から聞き覚えのある声が。
「ゆーうきクン!ボクとお話ししよっ」
「ひぃっ!ト、トオル?」
NANAのヘアメイクをするために同行していたトオルが、いつの間にか隣に座っていた。
「素敵な結婚式だったねー。ボクもいつかあんな結婚式挙げたいな(はあと)」
勇気に腕を絡ませて、うっとりとしたトオルが言った。
「そ、そう?頑張ってね…」
必にトオルの腕を振りほどきながら、勇気が返す。
その時安藤社長が立ち上がったのを見て、「ほらほら、社長が何か言うみたい」と話を逸らした。

61 :

「えー、レディースエンドジェントルメン、宴もたけなわではございますが、新郎新婦にはこの後
大っ事な用がありますので、この辺でお開きにしたいと思います。退場する二人に大きな拍手を!イエ〜イ!!」
全員が苦笑しながら拍手する中、廉は真っ赤になって立ち上がった。
「ななな、何言ってんだよ、社長。お前らも、拍手なんかすんなって!」
それでも一向に拍手がやまないので、廉も覚悟を決めたのか、隣の美子をいきなり抱き上げた。
「きゃあ!廉さんっ」
「いいから、行くぞ!」
冷やかしの声を背中で受けて、廉は美子を抱えたままホテルに戻った。
ロビーを横切ってエレベーターまで行く間、ホテルのスタッフや居合わせた客から「Congratulation!」の声が掛かる。
美子は恥ずかしすぎて、廉の首にしがみついたまま真っ赤になった顔を伏せた。
スイートルームに入り、ドアを開けてくれたボーイにチップを渡すと、ドアノブに「Don’t Disturb」の札を掛けて二人は寝室に消えた。
ピンクのバラの花びらが散らされたベッドには、天蓋から白いチュールが垂れ下がりロマンチックに設えられていた。
廉はベッドの中央にそっと美子を下ろす。
空気を含んで膨らんだドレスの真ん中に美子が鎮座した。
花冠を頭に載せて、頬を紅潮させながら、廉を見上げる美子。
「ふふっ、お前…親指姫みたいだな」
「それって、褒めてくれたんですよ…ね?」
「ああ」
廉は微笑みながら、四つん這いになって美子に迫った。
ボウタイをほどきながら美子のドレスの中に潜り込む廉。
「きゃっ、ダメですっ!」
美子は慌ててドレスを抑えた。
「ああっ!何だこれっ?」
「えっ?えっ?何ですか?」
「お前、こんなやらしいもの着けてんのか?」
ドレスを捲り上げると、白いレースのガーターベルトとそれに吊られた白いストッキング。
「それはっ、ドレスと一緒にRINAさんに渡されたから…」
焦って言い訳をする美子を、廉はニヤニヤしながら見つめる。
(ったく、RINAのやつ。でも、今回ばかりはGJだな)
一度美子を立たせて、オフショルダーから覗く肩にキスをしながら、背中のファスナーを下ろした。
ストンとドレスが滑り落ち、下着姿の美子が現れる。
「ちょっと待ってろ」
廉は美子をベッドに横たえ、ドレスと花冠をソファにふわりと乗せた。
上着を脱ぎ、シャツを脱ぎ、下着一枚になると、美子に覆いかぶさる。
チュッ、チュッ、と小さなキスを重ねながら、改めて美子に誓いを立てる。
「俺、約束する。一生お前だけを見てるって。お前だけを愛し続ける。永遠に」
「嬉しい。それ、Promise…ですね」
「そうだな…ふふっ」
照れくさそうに笑った後、廉は美子に深く口づけた。

62 :

パンティの横紐をするりとほどいて、美子の中心に指を埋め込んだ。
溢れる蜜が廉の指を濡らしていく。
結婚して初めての行為に、廉は余裕をなくして性急に事を進めていく。
いつもの癖で取り出した避妊具の袋を破りかけて、廉はふとその手を止めた。
「これ、使わなくてもいいか?俺、子供が欲しい」
美子は微笑んで頷いた。
廉は前戯もそこそこに、美子の中心に突き立てた。
「ああっ、廉さん…」
「…っ、はぁっ…美子」
二人は何一つ隔てるもののない、お互いの感触を味わった。
「すごい…美子」
燃えるように熱い美子の中で、廉のそれは一層質量を増した。
廉が腰を動かすと、先端の反り返った部分で抉られ、美子はビクビクと痙攣した。
堪えきれなくなった廉がスピードを上げる。
「廉っ…さん、ああっ!ああっ!」
のけ反る美子の首筋に顔を埋めて、廉は美子の最奥に精を放った。
落ち着いた二人は、涙を浮かべて見つめ合う。
初めて子供を持とうと意識した営みは、快感以上に感動があった。
「美子…」
「…はい」
顔を上げて廉を見ると、潤んだ瞳の廉が美子を見下ろしている。
「もしも、いつか子供を授かったら…」
「はい…授かったら?」
「…その子を、一番に愛してあげてくれな」
廉は唇を震わせながら美子に言った。
美子の瞳に涙が溢れてきた。
「はい…はい、必ず一番に愛します。廉さんへの愛も、一生変わりません」
ふふっと微笑みあいながら、言葉もなく見つめ合う二人。
その頬にはいく筋もの涙が伝っている。
「泣くなって…」
「廉さんこそ…」
互いの頬に流れる涙を手のひらで拭い合うと、廉はもう一度美子に深く口づけた。
廉は泣いてしまったのが恥ずかしいのか、目尻の涙を拭うと美子から体を離した。
そして改めて美子の姿を見てニヤリと笑った。
「それにしてもお前、すごいエロいな」
ガーターベルトとストッキングだけを身に付けて、パンティは片方の太ももに巻きついたまま。
しどけなく開かれた足の付け根からは、廉が放った白濁が溢れて零れ落ちている。
「きゃっ、だめっ!」
とっさにシーツで体を隠そうとする美子を、廉が押さえつけて抱きしめる。
「愛してる、美子。可愛いお前も、いやらしいお前も…全部」
少しの間抵抗していた美子も、小さく笑って廉を抱きしめかえした。
「私も愛してます。これからもずっと…」
二人は強く抱きしめ合い、結婚して初めての夜が更けていった。

63 :

翌日、主役抜きで遅くまで盛り上がった面々がホテルの庭にあるカフェに集まった。
少し二日酔い気味ながら昨日の余韻を引きずって、朝からシャンパンを飲んでいる不届き者もいる。
「美男、お前いいご身分だなー。シャンパンなんか飲んじゃってさ」
「迎え酒だよ。いいじゃんか。めでたい日なんだからさ」
「いいけどさ…。また昨夜みたいに泣くなよ。『美子ぉ〜』って涙ポロポロ零しちゃってさ。忘れたとは言わせないからな」
勇気の言葉に美男は顔を真っ赤にして黙り込んだ。
段々肩が震えだし、俯いた美男の姿に、勇気は慌てふためく。
「ご、ごめん。いや、あの…」
慌てて美男の顔を覗き込み謝ると、美男は何事も無かったように笑い出した。
「ハハッ。泣くわけないだろ。つーか、二人には絶対言うなよ」
可愛い顔で凄んで見せる美男に、柊と勇気は苦笑する。
「言わないよ。それより、ほら…二人が散歩してるよ」
柊の言葉に振り返ると、遠くの砂浜を歩く廉と美子の姿があった。
時折立ち止まり、何度もキスする様子を見て三人はため息をつく。
「あ〜あ、廉さんたらデレデレだね。でも、よかった。俺もようやく吹っ切れるかも…」
美男は勇気の呟きを聞き咎めた。
「それ、どういう事?勇気も美子の事好きだったの?」
「ああー、まあね。でも多分俺だけじゃないと思うよ」
そう言って柊の横顔をちらりと窺う。
「えっ、まさか柊も?」
「あ…うん」
照れくさそうに頷く柊を見て、美男は呆然とする。
「そうだったのか…。なんか、すまなかったな」
「美男が謝ることないよ。今は本当に二人を祝福してるし、心から良かったと思ってるよ」
「そうそう。それに美子を身近に知ったら、好きにならない人なんていないと思うよ」
二人の優しい言葉を聞いて、美男の目に涙が滲んできた。
「また泣く〜。泣き虫なとこはやっぱり美子と同じだね、美男ちゃん」
「うるせー。泣いてなんかないってば」
三人が賑やかに笑い合っていると、廉と美子がやって来た。
「楽しそうだな、何話してんだ?」
美子の椅子を引きながら廉が加わる。
「こっちの話。それより帰国したら、大仕事が待ってるね」
「ああ、記者会見か」
「廉、どこまで話すつもり?」
柊の問いかけに、廉はきっぱりと言った。
「正直に話すつもりだ。美男と入れ替わった事はさすがに社長に止められたけど、それ以外は全部」
「えっ、柊さんとの記事の事も?」
勇気は心配そうに顔を曇らせる。
「ああ。美子を守るためにしたことだからな。またお前らには迷惑かけるかもしれないけど、許して欲しい」
真摯な眼差しでメンバーを見渡すと、みんな強く頷いた。
「いいよ、廉。美子も含めて、俺達みんな仲間だから、ね」
柊は全員の気持ちを代弁するように言った。
爽やかな風が吹く南の島。
誰もが屈託のない笑顔を浮かべている。
廉と美子を中心にしたA.N.JELLの絆は一層深まり、これからも物語は続いて行く。

64 :
以上です
何か月もほったらかしにしていたものに、少しずつ書き足していたら
こんなお話になってしまいました。
お邪魔しました。

65 :
>>64
超GJ!!すっごくよかったです!ありがとうございます!!
美男キャスト総出も嬉しかった〜
幸せなみんなと一緒に涙ぐみながら読ませてもらいました
今度こそ廉さんがパパになれたらいいな...
イケメンおじさん3人組も二人の赤ちゃん心待ちにしてると思うw

66 :
>>64
GJです! 幸せMAXなお話感動しました〜w
落胆した廉さんの気持ちを慮って涙する美子…
の3番目のお話の後に、もう結婚が決まっている、ということは
もしかして、美子からプロポーズしちゃったんでしょうか?ドキドキw
廉さんのにわか主夫ぶりがかわいいですね〜うん、ちょっと落ち着こうね、廉さんw

67 :
>>64
幸せな結婚式GJ!!
キャスト総出でうれしかったです〜
兄貴面した美男がかわいい
もしドラマがこんな展開になってたら絶対廉さんに挨拶させてたよねw
苦虫を噛み潰したような廉さんの顔が目に浮かぶwww

68 :
ほしゅ

69 :
保守しておきます。

70 :
最近過疎ってますね…寂しい
誰か見てる人がいるかな。
投下します
廉美子エロありです

71 :

微かな気配を感じて美子は目を覚ました。
ぼんやりと霞む頭を巡らせると、既に身支度を整えた廉が立っている。
「廉さん…」
「あ、起きたのか?俺、もう仕事行くけど、お前はもう少し寝てろ」
「え、もうですか?今、何時ですか?」
そう言いながらベッドサイドの時計に目を向ける。
「え…っと、8時……、えっ!8時過ぎてるっ?!」
慌てて飛び起きようとして、自分が何も身に付けていない事に気付き、もう一度ベッドに潜り込んだ。
「いいから、寝てろって。昨夜、無理させたみたいだからな」
廉はベッドに腰かけて、美子の髪にキスしながら言った。
(昨夜…無理させた…?)
ぼーっとした美子の頭の中に、昨夜の事が少しずつ蘇ってきた。
途端に美子の顔がぶわっと赤くなる。
真っ赤になって固まった美子を見て、クスッと笑った廉は「じゃあ、行って来る」と部屋を出て行った。
確かに昨夜の廉は執拗だった。
美子の体の一番敏感な所を、一晩中と言ってもいいくらい愛撫し倒した。
何度も何度も高みに押し上げられ、途中で美子の意識が飛んでしまうくらいに。
そのせいで、結局最終的な行為に及ぶことなく、美子は深い眠りに落ちた。
廉が出かけた後、美子も重い体を引きずるように起き上がり、いつものように家事を始める。
が、美子は自分の体に小さな違和感を覚えていた。
掃除をしていても、時おり小さなため息が漏れる。
(どうしちゃったんだろう?なんか、変なの…)
ただ歩いているだけなのに、下着が擦れて体の中心がジンジンするというか…。
快感の残り火がまだ、くすぶっている感じ。
気を取り直して掃除を続けるが、少しすると立ち止まって俯く美子。
誰もいないのに、部屋の中で一人顔を赤らめている。

72 :

午後になって夕食作りの前のひと休み。
ソファに座ってお茶を飲んでいても、美子は落ち着かない。
座れば座ったで圧迫されて余計にムズムズする。
(なんだろ?朝からずーっと変な感じ。やっぱり、昨夜の…廉さんの…せい?)
どうしてもその事ばかり考えてしまい、美子はブルブルと頭を振った。
「そんな事よりっ、ご飯作らなきゃ」
美子は早々におやつタイムを切り上げて、夕食の準備に取り掛かった。
「廉さんっ、お帰りなさいっ」
美子は帰って来た廉に飛びつくと、力一杯抱きついた。
「うおっ」
美子の体を抱きとめて、廉は思わず声を出す。
「ただいま。どうした、何かあったか?」
美子は首を横に振るが、しがみついたまま離そうとしない。
それどころか、「廉さん…ん〜〜…、はぁ」とため息を漏らした。
「おい、ホントにどうした?」
廉が顔を覗き込もうとすると、美子は赤くなった顔を逸らして
「何でもないですよ。さっ、ご飯にしましょう!」
とキッチンへ行ってしまった。
仕事をするから先に寝ているように言われた美子は、ベッドの中で一人寝返りを打っていた。
「廉さん、まだかな…」
何故か今夜は一人で眠るのが寂しくて、思わずため息が漏れる。
ようやくウトウトと眠りかけた頃、廉が寝室に入って来た。
美子は寝たふりをして廉の様子を窺う。
廉は美子の隣に滑り込むと、背後から美子の肩をはむっと甘噛みし、「おやすみ」と囁いた。
静まり返る部屋の中で、廉の呼吸音が微かに聞こえる。
美子は布団の中でそっと手を伸ばして、廉のパジャマの裾をつんつんと引っ張った。
何の反応もない廉。
(もう寝ちゃったのかな?)
もう一度引っ張ってみる。
つんつんつんっ
微動だにしない廉を不思議に思って、そっと首を動かし後ろを見てみた。
「!!!」
寝ていると思った廉が、枕に肘を付いて美子を見つめて笑っていた。
「起きてたんですか?」
慌てて背中を向けようとしたが、廉が美子の肩を掴んで自分に向かせる。
「何か俺に用があるんだろ?何だ?」
「べっ、別に用はありませんっ」
「ったく、素直じゃないな、お前は」
そう言いながら、廉は美子のパジャマの中に手のひらを滑らせる。

73 :

体に触れられただけで、美子はぴくっと震えた。
布団の中で器用に美子のパジャマを脱がせた廉は、下着の中に指を這わせる。
「お前…どうしてこんなになってんだよ?」
美子のそこはすっかり潤っている。
「んっ、どうしてって…そんなことわかりません。…だって、朝から一日中変なんです」
「朝から…?なんだそれ?」
「廉さんのせいです、きっと。昨夜…私に、何したんですか?」
廉は指を動かしながら、昨夜の記憶をたどる。
「何って…お前のここを、」
「やっ、やっぱり言わなくていいですっ。言わないでくださいっ」
美子は慌てて廉の口を手で塞いだ。
「お前、それで一日中感じてたのか?」
「違いますっ」
「だってそういう事だろ?やらしい奴…」
「…違います」
すっかり泣きそうになった美子は、赤くなった顔を背けた。
「廉さんの、意地悪…」
俯いて呟く美子が可愛くて、廉は微笑んだ。
「じゃあ、どうして欲しいんだ?今夜はお前がして欲しい通りにしてやる」
「…………」
そんな事言えるはずもなく、美子は口をつぐんだままだ。
「なあ、もっと言っていいんだぞ。なんか、いつも俺ばっかり欲しがってるみたいじゃないか」
「だって、そんな事…言えません」
「ほら、言えって。誰にも言わないから」
「あ、当たり前ですっ!」
「ぷっ」
廉はすっかりこの状況を楽しんでいる。
「じゃあ、今夜はやめとくか?」
「…………」
一日中続いた疼きに加えて、今も廉から愛撫を受けていた美子は、自分から廉にしがみついた。
「廉さん…」
俯いた美子の顔を上向かせる。
「欲しいのか?」
美子が頷く。
「今すぐ?」
もう一度頷く。
「わかった」

74 :

美子の体を組み敷いて、広げた足の付け根にあてがう。
ゆっくり挿入すると、既に中は軽く痙攣していた。
「美子、もうピクピクしてる。すげえな…」
「やだっ、言わないで…」
廉は挿入したまま美子に口づける。
そのまま激しく唇だけを貪る廉に、じれったくなった美子が声を上げた。
「んっ…廉さん」
「ん?」
気付かないふりをして舌を絡める廉。
「あの…」
「何?」
唇を合わせたまま囁き、美子の望みをあくまでも無視する。
美子は膝を曲げて、廉の腰を挟みつけた。
「お願い……。もっと…」
恥ずかしさを押ししてようやく言葉にすると、廉はニヤッと笑って美子の片足を肩に担いだ。
「はっきり言えばいいだろ。何恥ずかしがってんだか…」
「だって…」
顔を赤くした美子を抱きしめて、廉が動き始める。
本当は廉もわかっている。
美子が直接的な言葉を言えるはずがない事を。
そんな風に恥ずかしがる美子が可愛くて仕方ない事も。
それでも時には意地悪をして、美子に言わせてみたい。
廉が欲しいと。
抱いて欲しいと。
そんな事を思いながら腰を動かし続けるうちに、廉の頭の中も真っ白になっていく。
目の前に迫る快感を追い求めるのに夢中になって、何も考えられない。
「美子っ、はぁっ、あぁっ、あっ…くっ」
廉の首にしがみついていた美子も、動きに合わせながら昇りつめていく。
「ああっ、んっ…やっ…廉っさん」
同じタイミングで絶頂を迎えた二人は、お互いを抱きしめたまま動きを止めた。
美子は満たされて深い眠りに落ちている。
「まったく…。おい、ブタウサギ。いい気なもんだな。満足したら一人で寝ちゃうのか?」
廉が美子の鼻のてっぺんを指で押し上げた。
その表情は幸せに溢れていて、廉もまた満たされているのがわかる。
「俺をこんなに夢中にさせて、満足だろ?」
すうすうと寝息を立てる美子を抱き寄せて、廉もまた深い眠りに落ちて行った。

75 :
以上です
タイトルは特に意味はないです
何も思い浮かばなかったので、すみません
お邪魔しました

76 :
>>75
GJです!
パジャマの裾をひっぱる美子かわいい〜
廉さんがいろいろしたくなる気持ちがよくわかりますw
最近はここ静かですね
まとめスレと一緒に頻繁に覗きには来てるんですが…
自分でも何かお話書けるといいんですが、今浮かばないww
ゆっくりペースでもいろいろぜひお待ちしていますw

77 :
>>75
GJ!
最近過疎り気味だけど、新作投下されてるとテンションあがるわ〜

78 :
>>75
GJ!
ごく最近ドラマにハマって、萌えをどう処理したらいいかわからず
過去スレ読みあさってた最中だったので、リアルタイムに投下されてて嬉しいです
ごちそうさまでしたw

79 :
>>75
GJ!投下うれしいです!
廉さんの意地悪〜
そのおかげでおねだりしちゃう美子が可愛いからいいんですけどねw

80 :
>>75
タイトルが凄く可愛い、「みこみこ」是非続けて下さい。
次は「みおみお」でもいいけどw

美子、何か媚薬盛られてるのかと思ったらノーマルだったんですね、
廉さんは柊さんの趣味ではなかったねw

81 :
投下します
エロはありません
美子ちゃんがちょっと危機に陥る話です

82 :
A.N.JELLの合宿所に久しぶりに廉がやって来た。その後ろには美子もいる。
「廉さん、珍しいね?あれっ美子も一緒?久しぶり〜元気だった〜?」
「勇気さん、お久しぶりです」
美子はニコッと笑って勇気に挨拶するが、なんだか少し元気がない。
ソファには柊と美男が座っていて、「いらっしゃい、美子」「よお、どうした?」とそれぞれ声をかける。
「お前、美男の部屋に行ってろ」
廉に言われて美子は一人で美男の部屋に行ってしまった。
「柊、悪いがハーブティをいれて、美子に持って行ってくれないか」
「いいけど、なんかあったのか?」
みんなも怪訝な顔で廉を見ている。
「ああ。あとで話すから」
カモミールティーを人数分いれた柊は、そのうちの一つを美子の所へ持って行った。
リビングに戻った柊がソファに座ると、廉が話し始めた。
「実は…美子が襲われた」
「襲われたっ?」
三人同時に叫ぶ。
次の瞬間美男が立ち上がり、美子のもとへ走って行った。
柊と勇気は思わず美男の姿を目で追ったが、廉はそのまま話し始めた。
最初は無言電話だった。
一日に何度も電話が鳴り、出ると切れるということがあった。
始めのうちは単なる間違い電話かと思ったが、毎日続くと美子も不審に思うようになった。
そのうち買い物に行くと、誰かに後をつけられているような気がした。
でもそれは自分の気のせいだと深く考えないようにしていた。
そして今日、歩いていると後ろから声をかけられ、振り向いた途端真っ赤な液体をかけられた。
血液のように見えたそれに動揺した美子は、相手の顔も背格好も見る余裕がなかった。
どうやらトマトジュースか何からしいと分かった時には、相手の姿はとっくに消えていた。
「警察に連絡したのか?」
柊が聞く。
「いや…」
「どうしてっ」
「社長に止められた。あまり大事にしないで、様子を見ようって。もしかしたら、その…俺らのファンかもしれないし。
あの…スキャンダルのせいで。それに…」
「それに何だよ」
柊は怒りを隠さず廉を睨みつける。
「美子が警察沙汰にしないでくれって。そもそも俺は今日初めて知ったんだ。無言電話のことも、
後をつけられたことも。あいつ隠してて…」
廉がうな垂れる。
「廉さんに心配かけたくなかったんだね…」
勇気がしんみりと言った。
「それで、これからどうするんだ?」
柊の言葉に廉は反射的に顔を上げるが、その顔にいつもの自信満々な面影は無く、
愛する女を傷つけられてうろたえている男の顔をしていた。
「どう…したら…」
廉は頭を抱えた。
あの家には一人で置いておけない。
いつものホテルは?でも一日中ホテルの部屋で、ただ俺の帰りを待つのか?
遅くなる日も、まして帰れない日もあるのに。
リビングが重苦しい沈黙に包まれる。

83 :
「一緒に連れてったらいいだろ?」
三人は声のする方に一斉に振り返った。いつの間にかソファの後ろに美男が立っていた。
「一緒に…?」
「一緒にって、現場に連れて行くってことか?そんなこと出来るわけないだろう。
美子が美男の妹だってことはみんな知ってるし、俺と付き合ってることも。公私混同も甚だしすぎる」
廉は美男の提案を直ちに却下した。
「いや、ちょっと待って。何も現場に連れて行かなくても、事務所に連れてくのはどうだ?」
柊が少し考えながら言った。
「事務所のスタッフはみんな今までの経緯を知ってるし、必ず誰かいるから一人になることもない。
沢木さんの手伝いとか、こまごました仕事をしながらだったら時間を持て余すこともないだろ?」
「柊さん、それいいね〜。ナイスアイデア」
勇気ものりのりだ。
「事務所か…」
廉は少し考え込んでいる。
「わかった、社長に電話してみる」
廉は席を立った。
廉は元の自室に、美子は美男の部屋に泊まることになった。
柊と勇気に対する気兼ねもあるし、それに兄がいるところで美子と一緒に寝るのも憚られる。
住んでいた時のまま変わりない部屋で寝る用意をしていると、ノックが鳴り、美子が入ってきた。
「廉さん」
美子はぎゅっと廉に抱きついた。
「明日からまた忙しくなるぞ。事務所にはいくらでもやることがあるからな」
廉は美子を抱きしめ背中を撫でながら、ことさらに明るく言った。
「はいっ」
美子も明るく返事をする。
内心不安があるだろうに、心配かけまいとする様子がいじらしい。
廉はそっと口づける。
お前は何も心配するな、そんな気持ちを込めて優しく美子の唇を吸った。
もう戻りますね、と言って美子が離れていく。
美子の指先をいつまでも離さないで、「もう、行っちゃうのか?」と廉は拗ねたふりをする。
ふふっ、と笑って美子が言う。
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
廉も笑って言った。

84 :
「ウエルカ〜ム、美子。元気だったか?」
安藤社長が満面の笑みで美子を迎えた。
「社長、ご無沙汰してます。いつも兄がお世話になってます。今回の事はご迷惑をおかけして…」
長々と挨拶をする美子を遮って社長が明るく言った。
「ノープロブレ〜ム。そんな堅苦しい挨拶はいいから。アルバイトのつもりで気楽にやってくれればいいよ」
「アルバイトだなんてそんな。兄がお世話になってるのに。なんでもやりますのでどんどん言いつけてください」
「まあ、少しずつ覚えてくれればいいよ。沢木、仕事の内容教えてやって」
「はい、じゃ美子さん、こちらへ」
秘書の沢木が美子を連れて部屋を出ていく。
二人が出ていくと、社長は真顔になりメンバーに向き合った。
「それで、だ。日中はこれでいいとして、夜はどうするんだ?当分合宿所にいるのはいいが、
おまえらだって泊まりの仕事もあるし、来週は沖縄でのPV撮影もあるぞ」
「だから、連れて行けばいいだろ」
美男がまた昨夜と同じことを言う。
「それは駄目だ」
ぴしゃりと社長が言った。
「せっかく例の騒ぎも収まってきたのに…あんまりファンを刺激するようなことは…」
廉の顔をちらっと見ながら、言いにくそうに社長は言葉を濁した。
「合宿所にいる分には安全じゃないかな?場所は非公開だし、事務所のスタッフしか知らないしね」
柊が口をはさんだ。
「事務所と合宿所の行き帰りは必ずタクシーを使って、買い物も宅配サービスを使えばあまり外に出なくてすむから、
しばらくそうしてみたら?」
自分の女の事なのに俺は…色々とアイデアを出す柊を見て、廉は自己嫌悪に陥った。
沢木に言われてファンクラブの会報の梱包作業をしていた美子は、手を止めて今朝の社長室での光景を思い出していた。
にこやかに応対してくれた安藤社長やA.N.JELLのみんなが、美子が部屋を出た途端険しい表情になって話していた。
自分の事を心配して善後策を相談していたのだろうと容易に想像できた。
(また私は迷惑をかけてる。
今度は廉さんだけじゃない。A.N.JELLのみんな、安藤社長、スタッフの皆さんにまで)
美子は悲しい気持になった。
(私はここにいちゃいけないのかな?廉さんのそばにいちゃ…)

85 :
4人が合宿所に戻ったのは11時を回った頃だった。
美子はテレビを見るでもなく、静かなリビングのソファにぽつんと座っていた。
その寂しげな様子を見た4人はハッと胸を衝かれた。
「ただいま、美子。何か変わった事はなかったか?」
廉は優しく抱きしめて美子に聞いた。
みんなの前で抱きしめられたのが恥ずかしいのか、美子は顔を赤らめた。
「おかえりなさい。何もなかったですよ」
すると美男が廉を押しのけて、同じように美子を抱きしめる。
そこに、空気を和らげようと思ったのか、勇気が割り込んで、わざとらしい渋い声で言う。
「タダ〜イマ、美子」
外国人みたいな大げさなジェスチャー付きのせりふに、美子は吹き出した。
柊も美子の頭をぽんぽんとしながら、「ただいま、美子」と微笑んだ。
みんなの心遣いが嬉しかった。だからこそ尚更、申し訳ない気持ちが強くなった。
そう思った瞬間、美子は口に出してしまっていた。
「わたしのせいで、みんなに迷惑かけてばかりです。わたし、一人でどこかに…」
「何言ってんだ、お前は!」
美子が言い終わらないうちに廉が怒鳴った。
「どこに行くって言うんだ!また俺の手の届かない所に行くつもりか?そんな事絶対許さないからなっ。
お前がいなくなったら、俺は…」
美子の肩をつかんで、揺さぶりながら睨みつける廉は涙ぐんでいた。
「廉、落ち着け。美子もそんな馬鹿な事言わないで」
柊が二人をなだめる。その柊も勇気も美男も瞳を潤ませていた。
「廉さん…」
部屋に入ると、廉はベッドに腰かけていた。
美子が歩み寄ると、廉は美子の腰に手を回して強く抱きしめた。
美子のお腹に頭を擦りつけて震える声で囁く。
「あんなこと、もう、二度と言うな…」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
廉の頭を抱きしめる美子の瞳から、涙がこぼれた。
その日は廉のベッドで一緒に寝た。
廉は夜中に何度も目を覚まし、美子が寝息を立てているのを確認して安心する。
自分の手の中から美子が消えてしまわないように、一晩中強く抱きしめて眠った。
翌朝、PVの撮影のため、3日間の予定でA.N.JELLは沖縄に向かった。
留守中は特に戸締りや事務所の行き帰りに気を付けるようにきつく言い渡された。
「大丈夫ですよ。必ずタクシーを使いますから」
みんなに心配を掛けないように、美子は笑顔で送り出した。

86 :
事務所で細々とした雑用に追われていると、あっという間に時間が過ぎ、嫌な事や心配事を考えずに済むのがありがたかった。
それにまたA.N.JELLに関わる仕事ができるのが、楽しくて仕方がない。
以前のように表舞台ではないけれど、メンバーの支えになっている実感があり、美子は充実感を覚えていた。
「美子さん、少し早いけど今日はもう上がっていいですよ」
秘書の沢木が後ろから声を掛けてきた。
「え、まだ4時ですよ。いいんですか?」
「ええ。美子さん仕事が早いし、それに明日メンバーが帰って来るから色々準備があるんじゃない?」
実は明日帰るみんなのためにご馳走を用意しようと密かに思っていた美子は、恥ずかしそうに笑って沢木に礼を言った。
「ありがとうございます。それじゃお言葉に甘えて上がらせていただきます」
だいぶ日が短くなったとはいえ、まだ充分に明るいうちに外に出ると、久しぶりに大きな解放感を感じた。
美子は自宅に戻ってみることにした。
ほとんど着の身着のままのように合宿所にやって来たため、着替えもあまりないし、
まだ日も出ているから大丈夫だろうと思った。
玄関のカギを開けて中に入ると、たった数日留守にしただけで何となく違和感を感じる。
「ふふっ、考えすぎかな?」
大きな声で独り言を言った後、寝室に向かった。
クローゼットの中から大きな旅行鞄を出して、廉と自分の着替えを詰め始める。
その時玄関のチャイムが鳴った。
「誰だろ?」
小走りでインターフォンのモニターまで行ってみると、見覚えのない妙齢の女性が微笑んで立っていた。
「どちら様ですか?」
インターフォン越しに用件を尋ねると、その女性は郵便物を見せながらにこやかに言った。
「隣の家の者ですけど、間違えて家に手紙が来てたので持ってきたんです」
美子は慌てて鍵を開けた。
「すみませんでした。わざわざありがとうございます」
受け取った手紙はデパートからのダイレクトメールだった。
(あれ?このデパート行ったことあったかな?)
首を傾げながら宛名を見ると、聞いたこともない名前が書いてある。
(え?これうち宛じゃない。あ…。家は表札も出してないし、郵便物は事務所宛に来るんだった…)
頭の中でぐるぐると考えているうちに、美子の全身に鳥肌が立った。
急に恐怖を感じて、じりじりと後ずさりながら、なんとか声を絞り出す。
「あの…これ、うち宛じゃありません。あの…」
顔を上げて女性を見ると、口角を吊り上げて微笑むその目は、笑っていなかった。

87 :
シュッッ!
目の前で何かが光った瞬間、とっさに右手で顔をかばった。
手首に鋭い痛みを感じ、見ると鮮血が吹き出していた。
「やめてっ!誰なんですかっ?」
女は土足でずかずかと上がり込み、美子に向かってナイフを振り下ろす。
「キャーーー!やめてっ!」
部屋の中を逃げ惑う美子を執拗に追い続ける女の顔は、とても正気とは思えなかった。
「この泥棒猫がっ!お前なんかこうしてやるっ!」
追いつめられた美子に向かって、女はナイフを振りかざした。
(もうだめっ!されるっ!)
美子が観念してギュッと目をつぶった時、振り上げた女の腕を、背後からつかんだ者がいた。
「沢木さんっ!警察に電話してっ!早くっ!」
手のひらで顔を覆っていた美子が指の間から見たものは、女を羽交い絞めにして取り押さえた
事務所の若いスタッフと、警察に連絡する沢木の姿だった。
沖縄のホテルの中庭でPVの撮影は順調に進んでいた。
この調子だと案外早い時間に撮り終えるかもと、馬淵もご機嫌で見守っている。
突然胸ポケットに入れた携帯がブルブル震えるのを感じて見てみると、社長からの着信だった。
「はいはいっ!社長ーっ!お疲れ様でございますっ。撮影は順調に進んでおりますですっ!…はい?」
馬淵が急に声を潜めた。
「え…美子が?ええっ!怪我って…あっ」
一区切りついて戻ってきた廉が、馬淵の声を聞き咎めて携帯を奪った。
「美子が怪我ってどういう事だよっ!」
廉の大声を聞きつけて他のメンバーも集まってきた。
「廉、落ち着け。怪我は大したことない。今、沢木が付き添ってるから。とにかくお前らは最後まで撮影に集中しろ」
安藤社長は重々しい声で言うと電話を切った。
携帯を握ったまま呆然とする廉に、メンバーたちは口々にどういう事かと詰め寄った。
「俺、帰る…」
ふらふらと歩き始めた廉の腕を柊がつかんだ。
「待てよ、廉。気持ちは分かるけど、まだ撮影が…」
「そんな事どうでもいいっ!俺は帰るっ!」
柊の腕を振り払って睨みつける。勇気はオロオロして廉と柊の顔を見ている。
「何言ってるんだよ!俺達プロだろ?何があっても仕事を優先しなきゃいけないんじゃないのか?」
「だけど…美子が…」
廉は顔をゆがめて泣きそうになりながら小さな声で言った。
青い顔をしてそれまで黙っていた美男が廉と柊に向き合った。
「あとは個人パートの撮影だけだから、廉を先に撮ってもらおう。廉はそれが終わったら帰れ」
そう言うと美男は監督の元に駆け出して、撮影の順番を変えてもらうように頼み込んだ。

88 :
急遽一人だけ帰京した廉は、美子が入院している病院に駆け付けた。
特別室のドアを開けるとベッドに横たわる美子と、そばに座って見守っている沢木がいた。
「美子っ!」
大きな声で呼びかけると、沢木が唇に人差し指をあてて、静かに、と囁いた。
「美子さん、パニックを起こして、鎮静剤を打って寝ています」
「一体何があったんだ?」
廉は険しい表情で沢木を問い詰める。
「実は廉さんたちの家に以前住んでいた男性の元愛人が、美子さんの事を新しい愛人だと勘違いして
襲ってきたそうです。どうやら以前から嫌がらせもしていたみたいで…」
廉の脳裏に無言電話の件や後を付けられたことが浮かんだ。
あの時に警察に知らせていれば、こんな事にはならなかった…。全部俺のせいだ。
「念のため一晩入院してもらうそうです。廉さんもここに泊まりますよね?簡易ベッドもありますから」
沢木は宿泊に必要な物を入れた袋を廉に手渡して、私はこれで…と部屋を出て行った。
ベッド脇の椅子に座って美子の手を握った。
手首には包帯が巻かれていて、頬には逃げる時についたのか、小さな擦り傷があった。
「美子…」
頬の傷を親指でそっと撫でた。
「廉…さん?」
うっすらと目を開けた美子が廉の名を呼んだ。
「気が付いたのか?美子、まだ痛いか?」
美子は両手を伸ばして廉の首にしがみついた。嗚咽を漏らし、廉さん、と何度も繰り返した。
「ごめんな…俺、そばにいてやれなくて…」
美子を抱きしめながら謝る廉に、美子は首を横に振った。
「ごめんなさい…気を付けろって言われたのに…。心配かけて、ごめんさない」
廉の顔を見て気が緩んだのか、美子はいつまでも涙が止まらなかった。

89 :
翌朝一番の便で東京に帰ったメンバーに、合宿所で待っていた沢木は事の顛末を語った。
美子の忘れ物を届けに事務所の若いスタッフと一緒に合宿所に来たが、
いくら待っても美子が帰らないため、もしかしたらと思い廉の家に行ってみた事。
そして事件の現場に居合わせ、すんでのところで美子を助けた事。
その女はかつての愛人の妻に対しても、嫌がらせを続けていた事などを聞いてみんな息を呑んだ。
「本当に危ない所でした。美子さんが忘れ物をしなかったら、どうなっていたかと思うと…」
「それで、美子は?」
震える声で問う美男に、沢木は微笑んで答える。
「大丈夫です。お昼前には退院すると思います」
沢木の言葉を聞いて、一同はホッと胸を撫で下ろした。
沢木が届けた美子の忘れ物は、宅配サービスで取り寄せた各種食材だった。
柊はそれを眺めて小さなため息を漏らす。
「俺達のために準備しようとしてくれたんだな、きっと。二人が帰るまでに食事を作っておこうか?」
「そうだね、柊さん。俺も手伝うよ」
三人は沖縄帰りの疲れも見せずに、美子と廉のために早速作業に取り掛かった。
「ただいま」
廉の声を聴いてみんな一斉に玄関に到した。
美子の手首に巻かれた包帯を見て一瞬言葉を失うが、気を取り直して笑顔で出迎える。
「お帰り、美子」
「皆さん、ご心配をおかけしてすみませんでした」
頭を下げて謝る美子を、美男が抱きしめる。
「もういいから。それより腹へっただろ?すげーご馳走作ったからみんなで食べようぜ」
「お前何もやってないだろ、美男。邪魔ばっかりしたくせに…」
「まあまあ、美男もそれなりに手伝ってくれたんだから。さあ、早くテーブルについて」
柊が中心になって作ってくれた料理は、どれも疲れた体に優しい味だった。
「なあ、廉。落ち着くまでしばらく、また二人共合宿所に住んだらどうだ?」
柊の提案に、廉と美子は顔を見合わせた。
「お前、どう思う?あの家に一人でいたくないだろ?」
美子は一瞬俯き、顔を上げるとみんなに尋ねた。
「迷惑じゃありませんか?」
「迷惑なわけないだろ?」
美男が怒ったような顔で、美子に応える。
「そうだよ、美子。なんなら美子だけでもいいよ!」
はしゃいだ勇気がつい口走り、廉が目を見開く。
「ぷっ、冗談だよ、廉ちゃん。すーぐ本気にするんだから」
みんながドッと笑ったところで、美子が立ちあがって頭を下げた。
「ありがとうございます。また、お世話になります。どうぞよろしくお願いしますっ」
うんうんと頷いていたみんなが、廉の顔を見る。
「何だ?」
「廉は?挨拶ないの?」
「は?」
「は?じゃねーよ。これから一緒に暮らすんだから、廉も挨拶しろっつーの」
美男に言われて廉は渋々立ち上がった。
「ま、しばらく世話になる。よろしく」
そう言ってペコッと頭を下げる廉に、全員爆笑した。
「すげー、美男!廉さんに頭下げさせた。俺初めて見たよー!」
勇気の言葉に得意そうに胸を張る美男と、真っ赤になって憮然とする廉。
でもいつしか可笑しくなって、廉も一緒に笑い出した。
(こいつらといると、きっと美子も早く立ち直れるだろう。やっぱり仲間ってありがたいな)
隣に座って笑っている美子を見て、廉も改めて仲間っていいもんだな、と思ったのだった。

90 :
以上です
お邪魔しました

91 :
>>90
GJ!
ちょっとドキドキのサスペンスも入ってますね。
ムードメーカーの勇気さんと、仕切りの美男兄ちゃん大活躍の巻ですね。
柊さんが、すごいことやらかすかとハラハラしてしまいました、何期待してたんだろうw
美男は、廉さんのお兄ちゃんですね、廉さんに「お兄さん」と呼ばれる日もあるんだろうか?!

92 :
>>90
A.N.JELLのストーカー?ってドキドキしました!
美子無事で良かった〜周りの人たち全員GJですw
でも廉さん美子の家の元住人の愛人とか…
なんだかちょっと縁起悪い家…?
物騒だし、新しい家見つけるか、合宿所に一緒に住んじゃいなよw

93 :
>>90
GJです!
美子、怪我をしたとはいえ無事でよかった〜
大切な人を遠く離れた場所に置いていかないといけないのって心配だよね
気になることがある時は合宿所に泊まればいいよ
でもって美男が自分の部屋にしか泊めさせないって言い張って2人の邪魔すればいいよw

94 :
>>50です。
以前ご感想下さった皆様、ありがとうございました!
本当に月刊ペースですみません。
エロで飛ばし過ぎてどうなるかと思いましたがww
暖かいお言葉を頂き、光栄です。
これから廉×美子長編の続きを投下します。
エロなしです。
前回までの更新分
前々スレ
458-472
前スレ
422-432
472-486
529-542
現行スレ
>>29-49

95 :
―――


「わぁ…!あれ、撮り直したんだ…」


建物上部から垂れた四つの大きな幕を見上げ、美子は溜め息混じりに呟いた。

帰国してから一度も訪れる機会がなかった、A.J.エンターテインメント社屋を車中から窓越しに眺める。

ファンが多数たむろする正面玄関の光景はお馴染みだが、特徴的なA.N.JELLメンバー垂れ幕の写真が
最新ビジュアルに変わっていた。
黒を基調としたダークカラーの衣裳を着こなす、四人の大人っぽい様相に好印象を持った女性陣から、
黄色い声が響く。
兄のそれも、ちゃんと本人の写真が使用されており…美子が身代わりで加入していた形跡は、綺麗に
塗り替えられたようである。

「どうだ、こうして見ると皆イケメン揃いだろ〜!」
「はい!…何だか本当に信じられないですね、私があの中に居たなんて…」

よく見える位置で一旦停車し、運転席から誇らしげに吠える馬淵に同調し何度も首を縦に振る。
今日も皆と朝食を囲んだが、ひとたびカメラを前にした彼らは普段とは別人で。
スターとしての華々しいオーラが漂うあの垂れ幕を見ると、今でも己が同じステージに
立っていた事を恐れ多く思う。

「な〜に言ってんだ、美子の歌声は素晴らしかったぞ。なんせ、あの廉が初めて認めたくらいだ」
「そんな……」
「美男の歌には無い繊細さっつうか…同じ声でも男女の差が出るのかもな?
よく聴き比べてみると微妙に違うらしい。まぁ、よっぽどコアなファンじゃなきゃ気付かないだろう」

再び車を発進させ、ファンの目につかない裏口へ回り込みながら、馬淵は美子と美男の歌声の違いについて語った。

「え、じゃあ馬淵さんには分かったんですか?」
「いんや、サーッパリ!俺も社長も…多分柊と勇気も気付いてねぇだろうなぁ。
違いが分かるって言い出したのは、廉だけだよ」
「廉さんがそんな話を…」
「昨日、美男のソロ曲のレコーディングを聴きながら…独り言みたいにブツブツ言ってたな。
難しい顔して、何か考え込んでたみたいだったけど」

饒舌に話しながらも正確な運転を続ける馬淵は、裏口側の警備員に社員証を示し、開かれた
地下駐車場へのゲートを抜けてビル内に入る。
エレベーター付近に駐車した所で、美子も彼と同じタイミングで車を降りた。

「それ…今日私が呼ばれた事と、何か関係があるんでしょうか?」

お気に入りの濃紺のワンピースの裾を翻し、控え目なヒールが可愛い黒のパンプスで
ちょこちょこと、先を行く馬淵に付いて歩く間も不安と緊張を隠せない。

「さぁ…俺も詳しく聞いてないんだよな。ただ美子を迎えに行ってくれとしか…」

今朝、廉は家を出る直前に“時間が空いたらちょっと来てくれ。馬淵に迎えに行かせる”
と美子に告げ、仕事へ向かった。
一体何の用があるのか気になり、資格試験の勉強と家事を手早くこなしてから来てみたものの、
誰にも事情を話していないようでますます疑問が募る。

96 :
「そんな考え込まなくても大丈夫だろ!…っと、ちょっと待ってくれよ」

来月発売予定のA.N.JELLオリジナルアルバム宣伝ポスターが目立つ長い通路を進んでいると、
不意に馬淵の携帯が鳴った。
話を中断し電話に出た彼は、相手の声を聞いた瞬間雷に打たれたように固まる。

「しゃ、社長!お疲れ様です!!…はい、はい……えぇ、すぐに向かいますんで、はい!」

誰もいない空間に向かってペコペコ頭を下げ、焦りを全面に滲ませた青い顔で通話を終えた馬淵が、
美子を振り返り両手を合わせた。

「すまん!社長からの呼び出しだ…すぐに行かなきゃお魚さんの餌にされちまう…
…廉は多分、レッスン室に居るはずだから探してみてくれ!」
「えぇっ!?ちょ、馬淵さ…」
「あばよ!!」

余程慌てているのか、彼はこちらの声に耳を傾けようともせず、懐から取り出した
何かを押し付け走り去って行く。

「…はぁ……行っちゃった…」

あっという間に遠ざかる馬淵を呆れ顔で見送り、そのまま手の中にある物を確認した。
“Special Guest”と記載された、A.J.エンターテインメントの入構証。
付属の赤いネックストラップの長さを調節し、首から提げて仕方無く辺りを見回した。

「…レッスン室って確か…こっちだったよね……」

己がA.N.JELLの一員として事務所に出入りしていた時期から二年以上経過し、
風化しつつある記憶を頼りに歩みを再開する。


「おい、聞いたか?あの廉さんがダンスレッスンに参加してるらしいぞ!」
「えーっ、マジかよ!?」
「マジマジ!!しかもこれから柊さんとシンメで踊るんだってよ!」
「うわっ、超見てぇ!急ごうぜ!!」

時折すれ違う社員やタレントらと会釈を交わしレッスン室を目指していると、曲がり角で出くわした
10代半ばくらいの少年二人組が、興奮気味に喋りつつ小走りで横を通り過ぎた。

「…廉さんが、踊る…?」

彼らの話に廉の名前が登場した事を聞き漏らさなかった美子も、急いで後を追う。

97 :
ようやく辿り着いたレッスン室。
在籍していた当初と変わらぬ分厚い防音扉を開くと、軽快な音楽とざわめきが押し寄せる。

「……!」

広い室内に入ってすぐ、美子は言葉を失った。

新人タレントとおぼしき若い男性らが大勢取り囲んで見守る中。
ロック調の激しいビートに合わせて長い手足を駆使し、光る汗を飛ばしながらピッタリ
息の合ったダンスを披露する廉と柊が居たのだ。

二人とも“A.N.JELL”と赤いロゴが入った黒のスタッフTシャツに、動きやすそうなジャージ素材の
白いパンツを穿いただけ、といった簡素な服装ながら、真剣に踊る様は眩しいくらいに輝いて…
頭の中で星が飛び交う。

「…ステキ〜……」

胸の前で手を組み、格好良く踊る廉と柊に見惚れる美子の肩を、トンッと何者かが叩いた。
不思議に思って振り向けば、人好きする笑みを浮かべたRINAの姿。

「やっぱり、美子じゃない!」
「RINAさん!」
「アンタがココに来るなんて珍しいわね〜!…で、どうよ?彼氏のダンスは」

馬淵と似たようなハイテンションで、ニヤニヤ含み笑いのまま詰め寄って来る彼女に
恥ずかしくなり、頬を赤らめて俯く。

「……すごくカッコいいです…。でも、廉さんが踊る所なんて初めて見ました」
「もうすぐアルバムを引っ提げて全国ツアーに回るから、体力作りしろって
言われみたいよ。…にしても、社長の言い付けを素直に守るなんて珍しいわ〜」
「そうなんですか…」

複雑なステップを正確に踏み、周囲の注目を一心に浴びても臆する事なくダンスを続ける廉を見遣り、
きっと心境の変化があったのだろうと確信した。

「…そろそろ終わりそうね。よし、美子!これ廉に渡してやんなさい」
「へっ?」

流れる音楽が終盤を迎える頃合いを見計らったRINAは、手にしていたタオルを美子にバトンタッチする。
直後、見物していたギャラリーから歓声と拍手が沸き起こり、二人のダンスは完璧に決まった。

「柊には私が渡すから、ほらっ、早く!」
「は、はい!」

RINAに背中を押されタオルを持ったまま一歩前へ出ると、輪の中心で柊とハイタッチを交わした廉も近付いて来る。
今まで踊る事だけに全神経を集中させていたのか、こちらに気付いた彼は汗だくになった顔を上げ、パッと華やいだ表情を見せた。

「美子!早かったな」
「…お疲れ様です。…あの、これ…」
「おぅ、サンキュ」

早々に呼吸を整え、美子が差し出したタオルを受け取った廉は至極上機嫌で、額から流れる汗を
拭きながら目を細め、己へ微笑み掛ける。
他人にも自分にも厳しい男が人前で柔和に頬を緩めるのは稀で、周りの視線が痛いほどに突き刺さり、
肩身が狭くなった。

「廉さん、私に用事って…」
「あぁ、ここじゃちょっと…すぐシャワー浴びて来るから、
先にBスタジオで待っててくれ」
「あ、はい。分かりました」

98 :
さすがに衆人環視の中でこれ以上話すのは憚れたらしく。
彼は暑い…と呟いてタオルを頭に巻くと、汗で貼り付いたTシャツの首元を掴んで動かし
自身へ風を送ったり、短い袖を捲り上げ逞しい二の腕を晒しながら、シャワー室へ向かって踵を返す。
しかし、白い肌にくっきり残る引っ掻き傷を目敏く見付けたRINAが、柊との談笑を早々に切り上げ
素早く廉に駆け寄った。

「ちょっと廉、怪我してるじゃない!」
「え?…いや、これは……」

腕を掴んで擦過傷を凝視するRINAの迫力に気圧され、若干たじろぐ彼。
やり取りを傍観していた美子の中で一気に、先日プロポーズを受けた熱い夜の
思い出が蘇り、顔が火照る。

「あ、ああ、あの、RINAさ…」
「…あら美子、何でアンタが慌てんの?」
「え、えっと……」

咄嗟に身を乗り出し二人の間に割って入ったが、狼狽える己の様子に何かを
感じ取ったのか、彼女の口角が不気味に釣り上がった。

「…ふぅ〜ん、そういうこと…」

掴んでいた廉の腕をパッと放し、自分たちを交互に見遣るRINA。
その追及から逃れるよう美子が俯くと、彼は非難をされた訳でも無いのに
上擦った声で反論し始めた。

「なっ、何だよその顔!」
「べっつに〜?」
「こ、これはウサギに引っ掻かれただけだからな!」
「へぇ〜…ウサギねぇ。随分凶暴なウサギも居るのね〜」
「知らねぇのか?ウサギに噛まれると超痛ぇんだぞ!」

でもそれ引っ掻き傷じゃない?…と、最後にRINAの的確なツッコミが
クリーンヒットし、言葉に詰まった廉は思い切り顔をしかめる。

「…あ〜!…ったく、暑いなー!!」

独り言とは言い難い大声で半ばヤケクソ気味に吐き捨てると、彼はRINAを一睨みし
無理矢理話を切り上げ、足早にレッスン室を後にした。

「分かりやすいわね、アンタたち」
「…う……」
「ふふ、また今度詳しく聞かせなさいよ!」

悪巧みしているのが丸見えな彼女の微笑に得も言われぬ威圧感を覚え、
廉に悪いと思いつつ美子は頷く事しか出来なかった。

99 :
―――


美男名義のソロ曲“alone”を収録した、思い出深いAスタジオに隣接する、広さと設備が整った
レコーディングスタジオ。
廉に指定された通り中へ入れば、分厚いガラス越しに見える奥のブース内に立派なグランドピアノが鎮座していた。

「…ピアノかぁ……次のアルバムはバラードが多いのかな?」

誰も居ない音響スペースの空いた椅子に座り、所在無げに周囲を窺いつつ呟く。

“Miss you”が発売されて以降、A.N.JELLの曲にもっとバラードを増やして欲しいという声が増えた。
ファンを大切にする彼のこと、きっと新作アルバムにはそんなリクエストが生かされているのだろう。
表立って愛想を振り撒くファンサービスは少なくとも、仕事できちんと要望に応えるのが廉らしい。

「…これ……」

操作が難しそうな音響機器の上に無造作に置かれた譜面を発見し、好奇心を駆り立てられ手に取ってみる。
タイトル部分は廉の筆跡で“Serenade”と書かれていた。

「…何て読むんだろ?…ん〜…」


「…セレナーデ」

「!?」

初めて接する単語に眉を寄せ考えを絞っていた所、シャワーを終えた廉が音も立てずいきなり背後に現れ、
美子はお化けを見るような顔で振り返る。

「廉さん!…はぁ〜、またビックリさせられちゃいました…
何でいつも気配が無いんですか?」
「お前の反応が面白いからな。それより、聞いた事ねぇか?
セレナーデって言えば、シューベルトの名曲にもなってんのに」

ダンス時の軽装とは打って変わって黒のデザインジャケットを羽織り、ボトムには同じ素材の
スラックス、インナーにブランド製の白いVネックのシャツを合わせ、髪型もバッチリないつもの彼。
どうやら己を驚かせる為にわざと気配を消しているらしいが、その件を突っ込む隙は与えて貰えず
違う話題にすり替えられ、少々不満を残しつつ頭を横に振った。

「すみません、クラッシックはあんまり詳しくなくて…」
「そうか…じゃあ聴かせてやる。付いて来い」

手を引かれるまま椅子から立ち上がり、一緒にレコーディングブースへ続く扉を潜る。
しん、と静まり返った室内の真ん中にあるピアノの前まで来ると、美子の手を離した廉は
そのまま椅子に腰掛け鍵盤を覆うカバーを開いた。

「廉さんが弾いてくれるんですか?」
「あぁ。そこに座ってていいぞ」

合宿所の自室にあるキーボードを使い、保育士試験を控えた美子の為にピアノレッスンを
してくれてはいるが、本格的なクラッシックの曲を弾く様は見た事がない。
期待に胸を膨らませ、弾んだ足取りでブースの隅に置かれた二人掛けソファの右端に座った。

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