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2013年01月創作発表92: 週刊少年サンデーバトルロワイアル part5 (630) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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週刊少年サンデーバトルロワイアル part5


1 :2012/07/16 〜 最終レス :2012/12/30
当スレッドは週刊少年サンデーで連載されていた漫画のキャラクター達でバトルロワイアルのパロディをやろうという企画の場です
二次創作が苦手な方。人物の死亡や残酷な描写、鬱々とした展開が受け付けない方は閲覧にご注意ください。
また、当企画はリレー形式で進めていくので、書き手を常に募集しています。
文章を書くのが初めての方でも大歓迎なので興味があれば書いてみてください。

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14506/
まとめwiki
ttp://www44.atwiki.jp/sundayrowa/
前スレ
ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1323536658/

2 :
参加者名簿
からくりサーカス 14/14 
○才賀勝○加藤鳴海○才賀 エレオノール○ギイ・クリストフ・レッシュ○ルシール・ベルヌイユ
○才賀アンジェリーナ○ジョージ・ラローシュ○阿紫花英良○フェイスレス
○パウルマン&アンゼルムス○シルベストリ○ドットーレ○コロンビーヌ○才賀正二
ARMS 11/11       
○高槻涼○新宮隼人○巴武士○アル・ボーエン○キース・ブルー○兜光一○キース・シルバー
○キース・バイオレット○キース・グリーン○ユーゴー・ギルバート○コウ・カルナギ
金色のガッシュ!! 9/9
○ガッシュ・ベル○高嶺清麿○パルコ・フォルゴレ○ゼオン・ベル○ヴィンセント・バリー○ナゾナゾ博士○テッド○チェリッシュ○レイラ
  
金剛番長 8/8
○金剛晄(金剛番長)○金剛猛(日本番長)○秋山優(卑怯番長)○伊崎剣司(憲兵番長)
○桐雨刀也(居合番長)○白雪宮拳(剛力番長)○マシン番長○来音寺萬尊(念仏番長)
うしおととら 7/7    
○蒼月潮○とら○井上真由子○蒼月紫暮○秋葉流○紅煉○さとり
烈火の炎 7/7      
○花菱烈火○霧沢風子○石島土門○水鏡凍季也○小金井薫○永井木蓮○紅麗
うえきの法則 7/7    
○植木耕助○佐野清一郎○宗屋ヒデヨシ○マリリン・キャリー○バロウ・エシャロット○ロベルト・ハイドン○李崩
SPRIGAN 6/6      
○御神苗優○ジャン・ジャックモンド○朧○染井芳乃○暁巌○ボー・ブランシェ
GS美神極楽大作戦!! 6/6       
○美神令子○横島忠夫○おキヌ○ルシオラ○アシュタロス○ドクター・カオス
YAIBA 5/5       
○鉄刃○峰さやか○宮本武蔵○佐々木小次郎○鬼丸猛

計80名

3 :
【ルール】
バトルロワイアルスレ(パロロワスレ)で書くのが初めてという方は
ttp://www44.atwiki.jp/sundayrowa/pages/24.html
を参考にしてください
それでも分からなければ遠慮無く聞いて頂いて構いません

経験者の方は以下の事に留意していただけばほぼ大丈夫です
・初予約の場合は期限が3日、それ以降は7日
・ランダム支給品は1〜3個で、大きい物に関しては蔵王@烈火の炎に収納されています(蔵王の説明は下記)
・禁止エリアの発動は放送から3時間後
『蔵王の説明』
人の掌ほどのサイズの球であり、収納できる質量に限界はない
道具の出し入れを行う際は念じるのみでよい
ただし、当ロワでは以下のニ点の制限がかかる
蔵王一個につき道具一つまでしか入らない
生物を収納することができない

【制限について】
基本的には最初にそのキャラを書いた人に委ねますが、以下の二点に関してはあらかじめ制限を明記しておきます
金色のガッシュ!!の魔物の子供たち→パートナーと魔本がなくても自身の心の力を使って呪文を発動することはできますが、威力は弱体化します。
                       また魔本は誰でも読むことができますが、本人が魔本を持って呪文を唱えても本来の威力にはなりません。
                       なお、魔本が燃えたとしても死亡や魔界に送還することにはなりません。
うえきの法則の能力者達→神候補から貰った才を使って能力者でない者を傷つけても才は減少しない。

4 :
スレ立て完了ー

5 :
新スレ乙です

6 :
新スレ乙です

7 :
新スレ乙です

8 :
ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1323536658/524-
前スレに投下したらちょうど500kbになって埋まりました

9 :
投下&前スレ埋め乙!
アルとボーが実に素敵。性格が真逆なだけに、これからが楽しみ
しかしシルバーのほうに突っ込んでたら鬼丸と再会してたし、ボー命拾いしたなw せっかくテッドのおかげで生き延びたのに、そうなるワケにはいかん
最後のアルのホワイトへの言葉いいなあ

10 :
投下乙
やっぱりアルはいいなw
ボーが危ういところある分、サポートして欲しいけど
でも鬼丸追って来てるんだよなw

11 :
投下致します

12 :

<登場人物紹介>
 一人目……夢を抱く少年。
 二人目……夢を抱くのを止めた青年。
 三人目……夢を抱く事を許されなかった青年。

     ○

13 :

「……は?」
 ガッシュ・ベルの口から零れ落ちたのは、ひどく気の抜けた声。
 現状を認識出来ずにいながら、吐息と共に自然に漏れてしまった物だ。
 先程までの射抜くような視線は鳴りを潜め、目を見開いたまま放心している。
 その眼前で、ジャン・ジャックモンドは正二の所持品を回収する。
 人形をアタッシュケースに戻して蔵王に入れ、正二のリュックサックに収納する。
 終始口を利こうともせず、ジャンは幾つものリュックサックを手にガッシュの傍らを横切っていく。
 ジャンの長い金髪が、ガッシュの頬をほんの僅かに擦った。
 そのくすぐったい感触が、ガッシュを我に返す。
 覚醒してまず、正面から向き直る。
 目を背けず、眼前に広がる光景に。
 そこには、才賀正二が倒れ伏している。
 胸を大きく切り付けられ、首を切断された状態で。
「ぬ……うぐうッ」
 胃袋の内部が、体内を上昇してくる。
 食道が本来とは反対の行為を行っている感覚。
 程無くして口内に広がる酸味と異臭が、さらに吐き気を促す。
「ヌウウウ……ッ!!」
 口元を手で押さえて、込み上げてくる物を無理に胃へと戻す。
 溢れてきた涙を手の甲で拭って、離れていったジャンを視線で追う。
 ジャンが向かっているのは、ガッシュが這いずって脱出したハイエースの方。
 それに気付くや否や、ガッシュは走り出した。
 ジャンは足を止めて、廃車と化したハイエースを眺める。
 白い車体は焼け焦げてしまい、全体が黒ずんでいる。
 その理由が車体に人形が突っ込んできた所為で爆発したからだと、ジャンには分かる。遠目に惨劇を見るしか出来ずにいたのだ。
 一度炎上していたが、既に火は治まっている。
 ハイエースの左側に移り、ジャンはある事実を知る。
 爆発による衝撃の為か、左のドアが吹き飛んでいたのだ。
 そのお陰で、ガッシュは炎上する車から這い出す事が出来たのだろう。
 ジャンは静かに頷いて、車内に身体を捻じ込んでいく。
 ドアが無くなった為、容易く這入れるようになっている。
 しかし今は沈下されているとはいえ、ほんの少し前まで炎上していた車だ。勿論、熱い。
 シートは消失しているが、その他の部分は焦げた状態で残っている。
 当然這入れば、未だ熱を持った車体に肌に触れる事となる。
「……ッ」
 が、ジャンは表情を歪めるだけで、何も言わない。
 いかに獣人であろうと、無視出来る熱量では無い。
 にもかかわらず無言を貫き、運転席へと手を伸ばす。
 “お目当ての物”を掴むと、それを引きずり出しながら車外へと出る。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
 荒くなった呼吸を整えてから、ジャンは気付く。
 急に浮かべるのは、軽薄な笑み。
「何だよ、ついて来やがったのか? へッ、ガキは一人でいる事も出来ねえのかよ」
 茶化すような口調で言うが、いつの間にやら追いついていたガッシュに大きな反応は無い。
 怒りに駆られるでも、失望を露にするでも無い。
 射抜くような視線を向け、緩やかに口を開く。
「ジャンよ、お主は一体……何をするつもりなのだ?」
 そして、ジャンが“ハイエースから引きずりだした物”を指差す。

14 :

「その……、兜の亡骸にッ!!」
 ガッシュの指摘に、ジャンもまた大きな反応を見せる事は無い。
「決まってんだろうが、そんなもんはよ。
あの結局何だったのかよく分からねえ爺にしてやったのと、一つも変わらねえよ」
 今まで浮かべていたのと変わらぬ笑みを浮かべて、時間をかけて思わせぶりに答える。
「首輪をいただく以外に、もう死んじまってる奴が何の役に立つんだよ」
 再び閻水を振るい、ジャンは兜光一であった物の首を落とす。
 正二と違って焼け焦げた為に、鮮血が飛び散る事は無い。
 力無く重力に引っ張られていくだけだ。
 地面に落下した死体が、数回跳ねてから止まる。
「ジャアアアアアアアアアアアアアンッ!!」
 直後、木霊したのはガッシュの絶叫。
 声を張り上げながら、ジャンへと飛びかかる。
 魔本を持たないガッシュは、呪文を使う事が出来ない。
 文字通りに、戦う術を持たないのだ。
 それでも突発的に頭から突っ込んでいく。
 しかし、相手はジャン・ジャックモンド。
 スプリガン最速の男。
 兜の死体と共に発見した蔵王を確認しながら、難無く回避する。
「ヌ、ヌウウ……ッ」
「止めとけよ。お前、本気で俺に勝てるとか思ってねえだろうな。……夢、見てんじゃねえよ」
 唸るガッシュに、ジャンは冷たく言い放つ。
 言い切る寸前だけ、浮かべた笑みは消えていた。
 その事にはガッシュだけでなくジャン本人すら気付かず、彼は兜の首輪を眺める。
 すぐに違和感を抱く。
 既に回収した四つの首輪とは、異なっている点がある。
(どういう事だ? なんで、兜光一なんだ?
才賀正二でも無く、白雪宮拳でも無く、人形共でも無く……)
 これまでの四つは内側にすら溝一つ無かったが、兜の物体には継ぎ目が存在しているのだ。
(……いや、“兜光一だからこそ”か?)
 他の四つは、超常的な能力を持ち合わせた者に嵌められていた。
 しかし兜光一は違う。
(外されたところで脅威にならねえと、はなっから決めてかかってた訳か……?)
 如何なる技術であるのか、四つの首輪は継ぎ目が隠されている。
 そんな加工を施したのは、すなわち装着者を恐れているからであろうか。
(いや、“恐れている”は言いすぎだ。
奴にしちゃ、“念には念を入れておく”以上の意味なんざ無えだろう)
 加工にも手間がかかる筈だ。
 ならば加工する必要性に駆られぬ首輪にまで、わざわざ施す必要はない。
 そのように判断したのだろうか。

15 :
「ジャン! 私の話を」
「聞かねえよ」
 語気を強くするガッシュの声が響き、ジャンの思考は乱された。
 この件については一人になってから考え進める事にし、傍らでやかましい声が響いていても出来る作業をする事にする。
 手元にある複数のリュックサックの中身を一つに集めて、ジャンは空のデイパックを地面に捨てる。
 この作業には思いの外時間がかかったが、必要な事であった。
 ジャンは、蔵王の一つからスーパーカブを取り出す。
「じゃあな。お前とはここでお別れだ」
 運転するのに邪魔な門構えと閻水を蔵王に収納し、ジャンはカブに跨る。
 いい加減業を煮やしたのか、ガッシュはこれまで以上に口調を強くする。
「話くらい聞かせるのだ! 何故あのような事をした! 首輪を集めたいというのは分かる! 必要な事だ! しかしッ」
 何を言われたところで無視するだけだと、ジャンはカブのエンジンをかける。
「どうしてなのだ!? 私の“優しい王様”になりたいという夢を聞いて、お主は微笑んでくれたではないか!
 “いいんじゃないか”と! 確かに、そう言ってくれたではないかッ!」
 一瞬、ジャンの呼吸が止まる。
 蘇る暁や兜とのやり取り。
 聞かれていたのか。
 見られていたのか。
 そんな思いが脳内を廻る。
 そして思考が纏まり切らないまま、ジャンは叫んでいた。
「うるッせえんだよッッ!!!!」
 その顔面からは、軽薄な笑みなど消え失せていた。
     ○

16 :

「……という事だったのだ」
 ガッシュの語りが終わり、秋葉流は大きく息を吐く。
(……全くよ)
 結局、流は植木とユーゴーの待つ地点には戻らなかった。
 ユーゴーの方はともかくとして、植木と再会したくなかった。
 有無を言わさず世界の違いを思い知らせる、あの眩い視線。
 記憶の中でさえ蒼月潮を連想させるというのに、実際に受けてしまえばどうなるのか。
 流自身にさえ、見通しが付かなかった。
 そこで北ではなく東を選び、歩む最中でガッシュの声を聞いた。
 今にしてみれば意味の分かる“ジャン”という叫び。
 当時は理解出来なかったが、子供の声であるのは明白であった。
 子供に悲鳴を上げさせるような手合いであれば、視線を受けても支障は無い。むしろ鬱憤を晴らせるかもしれない。
 その当ては、大いに外れたらしい。
「で、お前はどうすんだよ」
 俯いたままのガッシュに、流は声をかける。
 潮に向けたような、刃に向けたような、植木に向けたような、笑顔が勝手に作られていた。
 意図せず表情の変わる自分に流は嫌気が差すが、胸中に留める。
「わ、私は……ジャンがあそこまで怒った理由が分からぬのだ。
それが分からなくては、また誰かを怒らせてしまうかも……」
「そんなもん、俺にも分からねえよ。そいつが教えてくれるまで、ずっと俯いてるのかよ」
「う……」
 口籠るガッシュ。
 その瞳は僅かに曇っている。
 流はその状態しか知らないというのに、本来のガッシュが潮と同じ瞳を持っていると断定していた。
 彼には、分かるのだ。
 誰よりも、分かってしまうのだ。
 何故なら、彼は――。
「黙ってちゃ分からねえよ」
「ヌゥ……」
「“優しい王様”だったか? それ、止めちまうのかよ」
「う……、うう……」
「やれやれ、全くよ」
 流は天を仰ぐ。
 こういう時、どういう風に問えばいいのか。
 それさえ、流はよく知っているのだ。
「死んじまったお前の仲間に、まだ生きてる清麿って奴に……、止めるって言えるのか?
誰も泣かずに済むように優しい王様になるって決めたのに、誰か泣かせたままでいいのかよ」
 目を丸くするガッシュ。
 暫く黙ってから、静かに結論を出す。
「……ならぬ」
 曇っていた瞳に、光が宿る。
「それだけは、絶対にならぬッ! こうして止まっている間に、誰かが泣くかもしれんのだッ!」

17 :

 自分自身ではなく、他の誰かを持ち出せばいい。
 そんな流の考え通りであった。
 思わず、流は吹き出してしまう。
「ウ、ウヌ!? 流、何故笑うのだ!?」
「いやいや、何でも無ェよ」
「ヌウ……、そうなのか? まあ良い! 流よ、私と一緒に来てはくれぬか?」
 その言葉に、流は言葉を失う。
 予期していなかった訳では無い。
 むしろ言いかねないと思っていた。
 なのに、不思議と反応を返せずにいる。
 その間も、ガッシュは流を見つめたまま。
 あの光に満ちた視線を、秋葉流に向けたまま。
「……ああ。別に構わねえよ」
 流の口が勝手に動き、ガッシュは顔を綻ばせて喜んだ。
 その手元には、二つの物が握られている。
 暫く怒鳴って落ち着いたジャンが、ガッシュに残した品。
 「一応、武器くらいはやるよ」とぶっきら棒に言って取り出した、小さなポケットナイフ。
 それから「自分が持っている訳にはいかなくなった」と顔を伏せたまま手渡してきた、白兎の耳。
 ガッシュの手の中で、白兎の耳が仄かに輝いた。
 ガッシュには嘘を吐いたが、流にはジャンが激昂している理由は明らかであった。
 立ち直ったガッシュを見て、推測は確信に変わった。
 ジャンはおそらく、ガッシュの瞳に耐えられなかったのだ。
 大きく真っ直ぐな夢を抱いた瞳の眩しさを、とても見ていられなくなったのだ。
 流もジャンと同じであるから、痛い程よく分かった。
 同じと言っても、全く同一ではない。
 流はその才能故にそうはなれなかったからこそであり、ジャンは自らの所為で夢を諦めさせられたからであろう。
 そう結論付けた流に、ガッシュが声をかける。
 見上げてくる瞳は、やはり眩しい。
 こちらを善人だと信じ切っているのだろう。
 本当の秋葉流を知らないし、見る気すら無いというのに。
「…………ッ」
 知らず、流は唇を噛んでいた。
 何を期待したのか同行すると言ってしまったが、やはり辛い。
 真っ直ぐで光り輝く視線を受け続けるのには、到底耐えられそうに無い。
 本当の秋葉流には向けられていない視線に、体が引き裂かれるような思いだ。
 依然として、風の止む気配は無い。

18 :



【C−6 北部路上/一日目 午前】
【ジャン・ジャックモンド】
[時間軸]:少なくともボー死亡後。
[状態]:疲労(大)
[装備]:H○NDA・スーパーカブ110@現実
[道具]:基本支給品一式×5、首輪×5(剛力、暁、パウルマン、アンゼルムス、正二)
     門構@烈火の炎、翠龍晶@うしおととら、閻水@烈火の炎、対AMスーツ用特殊ライフル(弾丸:11)@スプリガン、拡声機@現実
     あるるかん@からくりサーカス、カロリーメイト9000キロカロリー分(一箱消費)@現実、不明支給品2〜6(確認済み)
[基本方針]:殺し合いには乗らない。殺し合いに乗ったと思しき相手は、躊躇せずR。高槻涼に会う。
※美神と少しばかり情報を交換しました。

【C−6 寺だった瓦礫周辺/一日目 午前】
【ガッシュ・ベル】
[時間軸]:コルル戦直後
[状態]:術使用による精神ダメージ、ところどころ服が焦げている
[装備]:ポケットナイフ@現実、白兎の耳@ARMS
[道具]:なし
[基本方針]:優しい王として、泣くものがいないように頑張るッ! 流と行動する。
【秋葉流】
[時間軸]:SC28巻、守谷の車を襲撃する直前
[状態]:健康
[装備]:鋼金暗器@烈火の炎、金属片いくつか(真鍮)@現実
[道具]:基本支給品一式+水と食料二人分、ランダム支給品0〜1
     飛斬羽@烈火の炎、トライデント特製COSMOS仕様サブマシンガン@スプリガン、ワルサーP5@スプリガン
[基本方針]:――――――――

【支給品紹介】
【ポケットナイフ@現実】
巴武士に支給された。
その名の通り、ポケットに入る程の折り畳み式小型ナイフ。

※スティンガーミサイル1/1@現実、予備弾頭30発@現実の入った蔵王は、暁巌だった肉の山の周囲に転がっています。
※兜光一のリュック(基本支給品一式は、蔵王以外燃え尽きました。

19 :
終了です。

20 :
投下乙です
旧スレの感想もこちらで
アルとボーが良い感じだ!!!
どっちも好きなキャラだけど、この二人はかみ合わなそうだと思い込んでいた
いいなあ、このチーム頑張って欲しいなあ
まあ何と言うか、ボーは心眼とかなくてもわりと筒抜けな感じだけどね
本質とか全部自分で言っちゃうしね
流兄ちゃんはどう転んでもややこしい方にしか行かないのでそっとしておくとして
白兎はガッシュの力になってやって欲しい

21 :
投下乙
おおう、もう……
ジャンの気持ちが分かるから辛いね。怒鳴りたくもなるわ
そして流兄ちゃん。ガッシュ視点だといい兄貴分なんだろうけど……
ガッシュは前途多難だなぁ

22 :
投下乙
ジャンの叫びが胸に来る。ロワ開始してろくな目に遭ってないもの
ガッシュもだけど、ジャンにも頑張って欲しいな
そして流の不穏なフラグ…

23 :
投下致します。

24 :
 “魔物”が“呪文”を唱える事で発動する“術”。
 ゼオン・ベルとガッシュ・ベル兄弟の例を見るに、その能力の分類自体は受け継がれる代物であるのだろう。
 しかしながら彼等の術は“電撃”という大まかな分類こそ同一だが、細かい点で異なっている。
 決してガッシュが父より受け継いだ雷竜のみにあらず、その他の術についても言える。
 全く同じ名を冠した同じ術もあるが、同時に一方がどれだけ鍛錬を積もうと習得出来ぬ術も一方が持ち合わせていたりもする。
 つまり、魔物の扱う術とは個体それぞれによって異なる物であるのだ。
 今現在、エリアC-4の橋の上にへたり込んでいる少女がいる。
 ウェーブの掛かった金色の髪が印象的な彼女の名は、チェリッシュ。
 “魔界の王を決める”戦いの参加者であり、言うまでも無く魔物の子である。
 彼女の扱う術は“狙撃”。
 はたして狙撃手が狙撃を完遂するにあたって、重要な要素となるのは如何なる物であろうか。
 まずは確かな得物だ。照準を合わせた方向に弾が飛ばなくては、対象を狙撃する事など到底不可能である。
 次に環境。気温、気圧、湿度、風向き、風速といった外界の条件は、銃弾の軌道に大いに影響を与える。
 そして“慣れ”。得物に慣れ、環境に慣れ、狙撃に慣れる事で初めて、狙撃手は一抹も心を揺らさずして引き金を引けるようになるのだ。
 ならば、チェリッシュの場合はどうであろう。
 端的に言えば、彼女は全ての要素をクリアしている。
 呪文を唱えることで放たれる弾丸は、術者の思うままに対象を撃ち抜く。
 些細な環境の変化などでは、その呪文に対して影響など及ばない。
 幼い日より力を必要としていた過去もあり、能力にも十分に慣れている。
 だが“狙撃手が狙撃を完遂するのに重要な要素”をクリアしていながら、今のチェリッシュに正確な狙撃を行う事は出来なかった。
 何故なら、今のチェリッシュはもはや狙撃手と呼ぶに値する存在ではないのだから。
「う、うううう……」
 痙攣する形のいい唇から零れるのは、小さな呻き声。
 同じく震えている膝の上に置かれた魔本が放つ輝きは、酷く微弱で息絶える寸前の蛍のよう。
 金剛晄へと向けられた右手もまた震えている。
 術を発動するにあたり右手で照準を定めるのが常だというのに、これでは定められる物も定められない。
 その姿は、もはや狙撃呪文を十八番とする魔物のそれではなかった。
 にもかかわらず、チェリッシュは思うように動かない口で呪文を紡ぐ。
「ぎ、ぎぁ……、ぎぁの……」
 呂律が回らない。
 そんな自身とは裏腹に、脳内に鳴り響くのは警笛。
 相手に気付かれぬ内に放たねばならない。
 焦燥がますます、彼女を狙撃手から遠ざける。
 苛立ちが余計に、彼女をただの少女に近付ける。
 その事実にすら、チェリッシュは気付けぬまま。
 呼吸を整えようとして過呼吸気味になりながら、ようやく目当ての呪文を唱え切った。
「ギガノ……コファル……!」
 たとえ小声であろうと関係無く、魔物の術は発動する。
 その点で相手に捉えきれぬ声で呪文を唱えたのは、見計らった訳ではないが正解だ。
 とはいえ、如何せん籠められた力が弱すぎる。
 怯えきった彼女の“心の力”、全力の“ギガノ級”を発動出来るには程遠い。
 故に外見だけは巨大な弾丸であるものの、密度の薄い張りぼて同然の“ギガノ・コファル”しか放てなかった。
 狙撃手でない今のチェリッシュは、本来持ち合わせていた“確かな得物”さえ失っていた。
 チェリッシュの指先から射出された張りぼて同然の弾丸は、その速度さえ不十分。
 弾丸が届くより相当早く、悟られぬ間に撃ち抜くはずの相手は弾丸に勘付いた。
 チェリッシュの思考が白く染まり、その膝から彼女の魔本が滑り落ちた。
 魔本が地面に接触した微かな音で正気に戻るも、そんな彼女を待っていたのは絶望であった。
「ああ……?」
 新宮隼人から零れたのは呆けた声だ。
 何らかの物体が接近してくるのを捉えて振り返り、目に入ったのは細かくカットした宝石。
 緩やかに接近してくるそれが弾丸だなどという発想には、数々の修羅場を潜り抜けた彼でも至らない。
 不用意に触れる気は無くとも、流石に反応に戸惑う。
「どいてろ」
 呆気に取られている隼人の前に出たのは、金剛晄だ。
 退くでも迎撃するでもなく、胸を張って立ち尽くしたままその巨体で弾丸を受け止める。
 暫しの拮抗すらなく、弾丸は微細な破片へと砕け散った。
「……」

25 :
 どうやら攻撃であったらしい。
 そう認識してなお困惑する隼人に目もくれず、晄は離れた場所にいるチェリッシュを睨み付ける。
「何が何だか分からねえが、知った事か。
そこのお前、不意打ちとは一体どういうつもりだ」
 重々しい声色で、端的に問う。
 見た事も聞いた事も無い攻撃ではあったが、弾丸の飛来してきた方向にいるのはチェリッシュ一人。
 もはや、晄はチェリッシュが襲撃者であると判断していた。
「あ、あ……」
「聞こえねえな」
「あぁ……ぁ……」
「聞こえねえと言っている」
「……なあ金剛、そんな厳しい口調で言わなくてもよ」
 晄の威圧的な態度では、チェリッシュが口籠ってしまうのも無理からぬ話だ。
 そう考えての隼人の忠告は、結局最後まで告げられる事はなかった。
「コファル……コファル、コファル、コファル……!」
 真っ青な顔をしたチェリッシュが、小さな弾丸をいくつも放ってきたのだ。
 微動だにせず“ギガノ・コファル”を耐え切った晄の姿に、同じく“ギガノ・コファル”を巨体で以って受けた日本番長が重なったのだ。
 無論、そんな事は隼人と晄には知る由も無いが。
 それでも、チェリッシュの精神状態が正常ではないというのは、二人ともが察した。
「ちっ! おい金剛、どう見てもてめえが追い詰め……ああもういい!
いったん置いといてやらあ! 色々言いてえが文句は後だ、後!」
 ARMS化させた左腕から伸びる刃で弾丸を捌きながら、隼人は毒づく。
「お前、ちょっとそこで目立ってろ!」
 この一言で、晄には隼人の言わんとする内容が伝わった。
 直立不動に保たれていた体勢を崩し、大げさな動作で迫る弾丸を払い除けていく。
 あえて派手な動きを取ることで、晄はチェリッシュの意識を自身だけに向けているのだ。
「ゴウ……」
 晄の意図通りに、見る見るチェリッシュの顔色が青くなる。
 焦る気持ちに囃されて、より上級の呪文を唱えようとした瞬間。
「悪いけど、ちょっと寝ててもらうぜ」
 既にチェリッシュの背後に回り込んでいた隼人が、彼女の首筋にARMS化を解除した左手で手刀を下ろした。
 魔物の術には、“心の力”が籠められている。
 その為、水の如き心に他者の意識を投影して読み取れば、掻い潜る事とて可能であった。
 隼人が祖父から学んだ武道の技術で、チェリッシュは一撃で意識を失ってしまう。
 くずおれた彼女を片手で抱えたまま、隼人は晄に詰め寄っていく。
「お前よー……、明らかに怯えてる女の子相手に、あんな口調はねえだろ」
「普通に接していたつもりだったがな」
「お前が普通にしてっとこええんだよ!」
 隼人が叫んでも、晄は首を傾げるだけだ。
「だがお前の口調も、なかなかガラが悪いと思うが」
 挙句の果てに飛び出た言葉に肩を落としてから、隼人は真剣な表情となる。
「けどよ、この子の使ってた……あの宝石? ありゃあ、一体何なんだ……?」
「……分からん。特異体質者ならば何人も見た事があるが、どうやら勝手が違うみてえだ」
「俺も妙な奴等はよーく知ってっけど、どうにもなぁ……」
 先ほどと違い、二人して首を傾げる。
 考え込む二人を現実に戻したのは、まだ幼い少年の叫びだ。
「チェリッシュから手ぇ離せ!!!」
 チェリッシュを追いかけてきていた鉄刃が、遅まきながら到着したのだ。
 ようやく辿り着いてみれば、チェリッシュは意識を失っているではないか。
 その意識の無いチェリッシュは目付きの悪い少年に抱えられており、さらにその傍らには日本番長と酷似した男がいる。
 発見するや否や、刃の怒りは一瞬で沸点まで到達した。
 超振動ナイフを握り締めて、一気に河原へと駆け下りていく。
「なあッ!? 馬鹿野郎、お前何てもん持ってやがるッ!!」
 これに焦ったのは、超振動ナイフをよく知る隼人だ。
 ARMS化した左腕を肩口から切断されたのを筆頭に、かなり痛い目を見せられてきた代物だ。
 チェリッシュを河原に横たえて、隼人は一気に跳び上がる。
 己がいた空間に容赦無く突き刺さるナイフを見ては、表情を歪めてこう吐き捨てるしかない。
「こんの糞餓鬼……ッ!」

26 :
 即座に助太刀に入ろうとする晄に、隼人は声を張り上げる。
「やめろ、金剛ッ! このナイフとやるなら、俺のが相性いいんだよ!」
 斬られても生えてくるんだからな。
 そんな風に続けて、隼人は刃を見据える。
 振動するナイフの刀身に触れる訳にはいかない。
 つまるところ、柄かナイフを握る手だ。
 そこに裏拳でも浴びせれば、ナイフを滑り落とすだろう。
 しかしその狙いを見破られたのか、すんでの所で回避されてしまう。
 カウンターじみた突きを仰け反って避け、バックステップで距離を取る。
 刃が悪人でないのは、最初の口振りで分かっている。
 故に言葉を交わしてクールダウンさせようと目論んだのだが、せっかく開けた距離を刃はたったの三跳びで詰めてくる。
(思ったよりやるじゃねえか、この餓鬼……!)
 そんな風に思ったの矢先に、刃が声を張り上げる。
「俺は……、チェリッシュを守るって約束したんだッ!!」
 隼人は、一気に頭が冷えるのを感じた。
 思考は急速に冷え切り、ただ胸の奥だけが熱く燃え上がっていく。
 隼人の中に滾る思いに、体内に埋め込まれたナノマシンが呼応する。
 “仁愛”の意思を籠められたARMS“ナイト”が、その力をより強固な物に高めていく。
「ざッけんなッッ!!」
 再度ARMS化させた左腕に、超振動ナイフが突き刺さる。
 しかし、そこから先には進まない。
 突き刺さったまま微動だにしない。
 急に鉱物と化した隼人の左腕にか、はたまた動かぬナイフにか。
 絶句している刃に、隼人は声を荒げる。
「ただの餓鬼なら何やっても知ったこっちゃねえよッ! けどな、てめえ誰かを守るって言うんならよ……!」
 先程まで、隼人は刃の事を単なるチェリッシュの単なる同行者だと思っていた。
 チェリッシュの方が年上に見えるし、おそらくそれは間違っていないだろう。
 しかし、刃は今何と言った。
 守ると。
 そう言ったのだ。
 誰かを守る立場でありながら、下らない勘違いをしているのか。
 振るうべき力の対象を間違っているのか。
 まるで、高槻涼と出会う前の新宮隼人のように。
 それだけは許せない。
 許してしまってはいけない。
「相手間違ってんじゃねえッッ!!!」
 隼人は生身の右手で拳を握り、刃の鳩尾を殴り抜ける。
 衝撃に耐え切れず吹き飛んで行くと、河原を数回転がってやっと止まる。
 苦しそうに咳き込んでいる刃に、隼人は容赦なく問いかける。
「分かったかよ。返事しろ。返事」
「ゲホッ、ゴホッ……、ああ……ガフッ、ガハッ、おえっ……」
 鳩尾に正拳を叩き付けられた所為で、刃はえずいている。
 そんな状態になりながらも、刃は時間をかけて首を縦に動かす。
 刃は、自分の見当違いであることを理解したのだ。
 のたうち回りながら返事をしてきた姿に、隼人は思わず微笑んでしまう。
 腕に突き刺さったナイフを引き抜いて、刃の手元に放り投げて返してやる。
 しかし、どうにも強く殴りすぎたらしかった。
 一向に刃の呼吸は整わないし、地面の上で寝転がったままだ。
 仕方がないので手を貸してやろうと歩み寄っていく隼人。
 その前に、一人の男が割って入ってきた。
 局所を一枚の葉っぱで隠しているだけの、金髪を長く伸ばしたやけに濃い顔をした男。
 パルコ・フォルゴレが、やけに険しい表情で隼人を睨み付けていた。

27 :

     ○
 チェリッシュの放ったギガノ・コファルが粉砕される音を捉えたのは、軍人としての鍛錬を積んだマリリン・キャリーであった。
 他の参加者とコンタクトを取る事を望んでいた彼女は、当然のように同行者の二人に接近する意思を告げる。
 これに反対したのはフォルゴレのみであり、ドクター・カオスはあっさりと受け入れていた。
 隊長の提案かつ多数派ともなれば、隊員の反対かつ少数派など黙殺されて然るべきである。
 ちなみに、道中では以下のような会話が交わされていた。
「おいじーさん、あんた知り合いと会いたくないんじゃなかったのかよっ」
「?? お主、何を言っておるのだ?」
「さっきそんな事言ってたじゃないかっ! この裏切り者!」
「……頭でも打ったのか? この状況だぞ? どうして他者と出会える機会を自ら手放さねばならんのだ。
その程度、このわしの衰え知らずの頭脳でなくとも流石に分かるじゃろう」
「その恰好で知り合いに会ったらどうなることか、って騒いでたじゃないか!」
「……はっ! すっかり忘れておった! いかん!」
「こ、このボケ老人め〜〜! あんたの所為で〜!」
「うるさいですわっ! 戦闘音があった方へ向かってるんですのよ!?」
「イ、イエッサー隊長! ジーク隊長! 隊長万歳! だからお願い、私を守ってお願い」
「だ、ま、れ、と! 指示してるんですわ!!」
 そんなやり取りから暫し後、三人は新宮隼人と金剛晄を発見する。
 少し距離は離れた位置で止まり、所持する八倍ズーム機能搭載の暗視ゴーグルを取り出す。
 交わす言葉は聞こえずとも、行動を窺う事は可能。
 隼人の腕に抱かれた意識の無いチェリッシュを確認し、カオスとマリリンが提案したのは接触ではなく観察。
 フォルゴレがその選択に安堵し、すぐさま賛同したのは言うまでも無い。
 もともと誰かと戦う気など持ち合わせていないし、何より一度だけ覗かせてもらったゴーグルで見えた隼人と晄の姿である。
 やたら目付きが悪いロン毛の隼人は不良少年のようだし、晄は長身のフォルゴレよりさらに背が高くアメコミヒーローのような筋肉の持ち主。
 銀幕の中のフォルゴレならば話は別だが、現実のフォルゴレでは極力関わりたくない。
 目線があっただけで、財布を差し出してしまいかねない。
 大きく溜息を吐くフォルゴレであった。
「……む。もう一人現れましたわね……」
 ゴーグルを装着したマリリンの言葉に、ついついフォルゴレは思ってしまう。
(あんな怖そうな二人に関わるなんて、物好きもいたものだなぁ)
 どこか他人事のように思っていたフォルゴレだったが、続くマリリンの言葉に目を丸くするのだった。
「“子供”ですわね」
「…………へ?」
 半ば強引にゴーグルを貸してもらい、覗き込むフォルゴレ。
 暗視レンズの向こう側で、その瞳はさらに丸くなっていく。
 まだ幼い子供にしか見えない鉄刃が、ナイフを持って隼人に立ち向かっているのだ。
 横たわっているチェリッシュを気にしているのか、時たま視線がそちらの方に向いている。
 それだけで、刃が怒りを露にしている理由が分かった。
 気付かぬ内に、フォルゴレの体は震えていた。
 自分が恐れている二人に対し、まだ幼い子供が少女の為に立ち向かっているのだ。
(……まるで)
 映画の世界のパルコ・フォルゴレのようだった。
 しかし、子供の持つナイフはは不良少年に奪われてしまう。
 不良少年の左腕は、鉱物じみた剣に変形している。
 ただの人間ではないのは明らかだった。
「……フォルゴレさん? 何を!?」
 マリリンの静止に耳を貸さず、フォルゴレはゴーグルを捨てて駆け出していた。
 さながら、フィクションの世界の住人であるパルコ・フォルゴレのように。
 子供を守るために、恐るべき相手の前へと身を投げ出した。
     ○
(……こりゃ拙いな)
 隼人がそう思えたのは、チェリッシュや刃とのやり取りの直後だったからである。
 チェリッシュが晄を追い詰めた時のように、刃が飛びかかってきた時のように、また誤解されているのではないか。

28 :
 その事実に、すぐさま勘付く事が出来た。
 晄に目配せすると、どうやら彼も気付いているらしい。
「あー、えーと……、あんた、誤解してっかもしんねーけど。
いやしんねーっていうか、多分、いや違え。きっと……でもねえな……絶対! ぜってえ、誤解して」
 平穏に済ませるべく、隼人は言葉を選ぶ。
 そんな彼にしては珍しい行為が実る事は無かった。
 凄まじい速度で接近してきた何者かに、横合いから蹴り飛ばされたのだ。
 水の心で以って気配を捉えたはいいが、いきなり加速しての接近に対応する事は不可能であった。
「大丈夫か」
「……ああ。まあ痛くて立てねえとかはねえよ」
 自身を受け止めた晄の腕から離れて、先程までいた場所を見やる。
 そこに立っていたのは、チェリッシュと同じくウェーブ掛かった金髪の少女。
 チェリッシュより少し幼い外見で、髪は後ろで纏めている。
「ただ、あいつがどういう動きで攻撃してきたのかは分かんねえけどな」
 “一秒を十秒にする”能力を持つ中学生、マリリン・キャリーである。
「私が指示する前に勝手に行動されては困りますわ」
 落ち着いた口調で諌められ、フォルゴレは俯いてしまう。
 返す言葉も無く黙っていると、今度は離れた場所から声をかけられる。
「じゃが、選択自体は悪くない」
 操り糸を指に嵌めたドクター・カオスである。
 その傍らには、オリンピアが立ち尽くしている。
「そうですわね。
他参加者を殺して回る輩は倒さねばなりませんし、何か大事な情報を所持していかねない他参加者を殺されてしまってはたまりません」
「おいだから、ちょっとこっちの話を」
 またしても、隼人の言葉は途中までしか告げられない。
 能力を発動させたマリリンに、先程と同じように蹴り飛ばされたのだ。
 時間稼ぎの目論見通りに、隼人は川面に突っ込んだ。盛大に上がる水飛沫。
 初撃の勢いそのままにマリリンは晄に拳を叩き付けるが、しかし晄の強固な筋肉によってダメージを与えるに至らない。
「勘違いしているようだが」
 晄の言葉もまた言い切られない。
 マリリンが胸元からSIG-P220を取り出したのだ。
 単に撃たれるだけならば、晄が言葉を飲む必要など皆無。
 問題は標的だ。
 マリリンは拳を受けられた次の瞬間には、SIG-P220の銃口を晄の首輪に向けていた。
 装着者によって爆発の威力が異なる可能性もある以上、晄といえど無視は出来ない。
 咄嗟に首を庇ったと同時に、マリリンは能力を発動。
 十倍速で晄の足を払い、十倍速でその巨体を蹴り上げようとする。
「レベル……2ッ!」
 足が晄の肉体に触れる寸前で、マリリンは能力を次の段階に昇華させる。
 このレベル2は酷使する訳にはいかないのだが、使わねば晄の巨体を蹴り飛ばす事は叶わないと悟ったのだ。
 二十倍まで上昇した蹴りの威力で、どうにか晄を吹き飛ばす事が出来た。
 沈むより早く川面を叩き付ける事で川に沈んでしまわず、向こう岸で容易く受け身を取っているので、ダメージを期待するのはあまりに希望的観測が過ぎるが。
 隊員に指示を下すだけの隙は、十分生まれた。
「フォルゴレさん、その二人を担いで移動して下さい!」
 目を見開くフォルゴレの方を振り返らず、声を荒げる。
「ここは、私とカオスさんが引き受けますッ!!」
 まだ中学生の少女とボケ老人に戦場を任せ、一人逃亡を図れ。
 あまりに情けなく、あまりにみっともない指示。
 そう痛感していたが、それでもフォルゴレは頷く。
 子供と少女を守る為ならば、いくら恥ずかしくて惨めでも構わなかった。
 邪魔になるのでリュックサックを手放し、少女を左手で子供を右手で抱き締める。
「ゴホッ、ガハッ、ゴフッ」
 子供の方が何か言おうとしていたが、それは声にならない。
 鳩尾をあれだけの力で殴られれば当然だ。
 刃が腕の中で弱々しく動くほど、フォルゴレの抱く怒りが燃え上がり走る速度は上がっていくのだった。
 残ったマリリンとカオスには、相談すべき事があった。
「カオスさん、希望の相手などはありますか?」
「いや無い。あやつの鉱物化した腕も、もう片方の人間離れした骨格も、同様に興味深い」

29 :
「ふむむ……、でしたら」
 ほんの僅かだけ考えて、マリリンは結論を出す。
 晄と戦えば、否応なくレベル2を使う破目になるだろう。
 となれば、マリリンが選ぶのがどちらかなど決まっている。
「では、私があちらの細身の方という事で」
 冗談を交わすような口調で言ってから、川から這い出してきた隼人に飛び掛かっていった。


【C−4 河原/一日目 午前】
【金剛晄(金剛番長)】
[時間軸]:王様番長戦直前、バンカラタワーに向かう途中。
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:ランダム支給品1〜3、基本支給品一式
[基本方針]:スジを通す。誤解を解きたい。
【新宮隼人】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞〜フォートレス〜』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。
[状態]:健康、共振波を放出中、水浸し
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3(未確認)
[基本方針]:仲間たちと合流してブラックのプログラムを叩き斬る。高槻は暴走していないと確信。誤解を解きたい。
※ある程度近づかなければ、ARMSの共振を感知できないようです。完全体となった場合は不明。
【マリリン・キャリー】
[時間軸]:三次選考カプーショ戦後、植木戦前。
[状態]:健康
[装備]:軍服@うえきの法則、SIG-P220(6/9)@現実
[道具]:基本支給品一式、光界玉@烈火の炎、石板@金色のガッシュ!!、SIG-P220の予備弾薬(9/9)@現実
[基本方針]:デパートに向かう。襲ってくる敵とは戦う。隼人と戦闘。
【ドクター・カオス】
[時間軸]:妙神山壊滅以降、南極での決戦前。
[状態]:健康。精神的に少し落ち込んでる。
[装備]:スクール水着@現地調達、ファイティングナイフ@スプリガン、オリンピア@カラクリサーカス
[道具]:基本支給品一式
[基本方針]:早くまともな服を着たい。知り合いには会いたくない。晄と戦闘。

※フォルゴレのリュックサック(基本支給品一式、魅虚斗@烈火の炎、自衛ジョーの生き人形部隊@GS美神極楽大作戦!!)が、C-4河原に放置されています。

     ○
 河原から全速力で遠ざかっていたフォルゴレを引き留めたのは、彼に助けられたはずの鉄刃であった。
 どうにか呼吸が整い、やっと体が動くようになったのだ。
「止まれってんだよ、この大馬鹿ヤローッ!」
 困惑するのは、フォルゴレである。
 そんな彼に簡単に事情を説明し、刃はフォルゴレに背を向ける。
「そこでチェリッシュ見ててくれ。一っ走りして、誤解解いてこなきゃなんねえ」
「ならば、私も」
「チェリッシュ背負ったあんたより、俺のが早えだろ! 急がなきゃなんねーのが分かんねえのかッ!」
 短く言い放って、刃は地面を蹴る。
 来た道を全速力で戻っていく。
「ちくしょう……ッ!」
 思い出されるキース・ブラックの耳障りな声。

30 :
 既に何人もの参加者が命を落としているのだという宣告。
「戦う相手間違ってる場合じゃねえんだよ……ッ!」
 隼人に浴びせられた怒声が頭を駆け巡り、耳が痛かった。
 戻らねばならないという思いが脳内を支配しているせいで、刃は気付いていない。
 彼のリュックサックの中で、魔剣センサー『スパイダー』が激しく反応しているという事実に。
 気付く素振りすらない。


【C−4とD−4の間 路上/一日目 午前】
【鉄刃】
[時間軸]:織田信長御前試合の直後
[状態]:健康
[装備]:超振動ナイフ@ARMS
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2、魔剣センサー『スパイダー』@YAIBA
[基本方針]:殺し合いには乗らない。チェリッシュを守る。市街地にある反応(雷神剣)へと向かう。

     ○
「私は一体何をしているんだろうな……」
 フォルゴレの口から漏れ出したのは、徒労感に満ちた溜息混じりの泣き言。
 たまに勇気を振り絞ってみたら、とんだ勘違い。
 結局の所、他人に迷惑を掛けただけ。
 いくら立ち直るのが早いフォルゴレといえど、さすがに精神的ダメージは大きい。
「だが凹んでいる場合じゃないな!」
 しかし精神的ダメージが大きくとも、やはりフォルゴレは立ち直るのが早かった。
「考えてみれば、むしろ喜ばしい事じゃないか!
今まで会ったのが六人で、その皆が殺し合いなんてする気はないなんて!
これはさっきの放送なんか嘘っぱちで、ナゾナゾ博士達も何事も無く元気にしてるかもしれないぞ!」
 否、実際は単なる空元気に過ぎない。
 それでも、自分を奮い立たせるには思い込む事も必要なのだ。
「一人でいるのも寂しいし、私も皆の元に戻るとするか!」
 依然として目覚める気配の無いチェリッシュを担ごうとして、背後から声を浴びせられる。
「ほほう。どこに戻るのか、小生に聞かせてもらってもいいかな?」
 一瞬、絶句するフォルゴレ。
 殺し合い真っ只中という事実が、脳裏を掠める。
 返事もしないで逃亡しようかと考え、しかしと思い直す。
 いらない事をして誤解してしまったばかりだ。
 それに、今までに出会った全員が殺し合いに乗り気ではなかったのだ。
 爽やかな笑顔を作り、フォルゴレは振り返りながら答える。
「勿論、真っ直ぐ西に行けばある河原……さ……」
 言い終えたのと振り返り切ったのは、殆ど同時。
 背後にあった人影を視認するや否や、フォルゴレの声は喉の奥に引っ込んでしまう。
「そうかいそうかい、河原かい」
 愉快そうに笑うのは、白い制服を身に着けた男。
 その瞳に、フォルゴレは言葉を失うしかなかった。
 東洋人特有の黒い瞳というレベルでは無く、眼孔に闇が詰め込まれていると錯覚しかねないほどに暗い。
 パルコ・フォルゴレには、かつて非行に走っていた時期がある。
 鬱屈した精神のままに暴力を振るい、人としての道を踏み誤っていた。
 今を時めく面白おかしい映画スターの姿からは想像出来ない、荒んだ時期があった。
 だからこそ、理解出来てしまう。

31 :


32 :


33 :


34 :


35 :


36 :


37 :
連投規制なのでセルフ支援ではどうにもならないようですね……。
また夜に来ます。

38 :
 この男は、“その程度”ではない。
 若さ故の過ちでも、先の見えない未来への苛立ちでも、自暴自棄でもない。
 道を踏み外した自分自身に息苦しさを感じる事などまるでなく、むしろ自ら進んで道を踏み外している。
「だってさ。小生は彼と寝ている彼女に用があるから、二人で先に行って来たらどうだい?」
「そうさせてもらうとするよ」
「ふふ、人形と二人だけなのに文句は無いのかい?」
「ある筈が無いだろう? 僕は生き残れればそれでいい」
「それなら構わないのだけどね」
 白い服の男の背後に、もう二人。
 ひょっとこの仮面を着けたタキシード姿の男と、眼鏡にスーツの老人が立っていた。
 それすらに気付かぬほど白い服の男に意識を奪われていた事実に、フォルゴレは茫然とする。
 その傍らを仮面と老人が通り過ぎようとする。
 彼等が行けば、河原にいる四人はどうなるだろうか。
 考えたと同時に、フォルゴレの体は動いていた。
「フハハハ! 行かせてたまるものか!」
 局所を葉っぱで隠している以外に一糸纏わぬ体で、両手を広げて仁王立ち。
 立ちはだかる相手を誰一人として通さぬとばかりに、体に力を籠める。
 そうしてから、声高らかに歌い始めた。
「鉄のフォルゴレ〜〜〜無敵フォルゴレ〜〜〜〜」
 本来は自分一人ではなく、他の誰かとともに歌うのが定番。
 ここは、舞台は舞台でも演劇ではなく殺し合いの舞台。
 舞台が変われば勝手も変わる。
 フレキシブルに対応してこそ、世界に名を轟かすスター。
 一曲フルで歌い切ってから、眉を顰める三人へと高らかに宣言する。
「御存じの通り、私は鉄のフォルゴレ! またの名を無敵フォルゴレ! ここを通りたくば、私を倒してからにするがいい!」
 ややあってから、白い服の男が大きく笑い声を上げる。
 歌が心に響いたとは、流石のフォルゴレでも思い込めなかった。
 携えた剣の柄に手を置いて、白い服の男は切り出す。
 その顔には、笑みが浮かんだままだ。
「いやはや、驚いた。成程、その鍛え抜かれた肉体はまさしく鉄のようだ」
 手は柄に置かれている。
 顔には笑みが浮かんでいる。
「しかし残念だ」
 手は柄に置かれている。
 顔には笑みが浮かんでいる。
「小生にとっては、鉄など巻藁と些かも変わらぬよ」
 手が柄から離れた。
 顔には笑みが浮かんでいる。
「何を」
 フォルゴレが疑問を言い切るより早く、彼の抱いている疑問は倍増した。
 何故、オゾン臭が漂っているのか。
 何故、視界が凄まじい速度で切り替わっているのか。
 何故、地面が近付いてくるのか。
 何故、腹が熱いのか。
 何故、見慣れた自分の体が腹から下だけ残された状態で視界に入るのか。
「あっ……」
 地面に打ち付けられるが、痛みは無い。
 遅れて倒れ込む下半身を見て、フォルゴレは遅ればせながら理解した。
 どうにか首だけ動かすと、変わらぬ場所に白い服の男は屹立していた。
「そういう」
 手は柄から離れていた。
 顔には、より深くなった笑みが浮かんでいた。

39 :



【パルコ・フォルゴレ 死亡確認】
【残り56名】


【D−4 路上/一日目 午前】
【伊崎剣司(憲兵番長)】
[時間軸]:居合番長との再戦前
[状態]:疲労(小)、胸元に真一文字の傷、制服ちょい焦げ
[装備]:雷神剣@YAIBA、死亡者詳細データ端末@オリジナル
[道具]:基本支給品一式×2、錫杖@うしおととら、ランダム支給品0〜3
[基本方針]:人を斬る。おもしろいのでギイと行動。ギイとシルベストリを先に河原に向かわせる
【ギイ・クリストフ・レッシュ】
[時間軸]:本編で死亡後
[状態]:健康
[装備]:ジャック・オー・ランターン@からくりサーカス、殺鳥用ワイヤー×3@金剛番長
[道具]:基本支給品一式×3、拷問鞭@金剛番長、ランダム支給品0〜6(うち0〜2は小次郎から見て武器となるものなし)
[基本方針]:他者と組み、エレオノールを優勝させる。シルベストリと先に河原に向かう。
【シルベストリ】
[時間軸]:34巻、勝戦直前
[状態]:健康、服の胸元に真一文字の傷
[装備]:妖刀『八房』@GS美神
[道具]:ランダム支給品2(刀剣類なし、確認済み)、菊一文字@YAIBA
[基本方針]:他者と組んでフェイスレスの優勝をサポートしつつ、人間が群れる理由を解き明かす。植木耕助に会う。ギイと先に河原に向かう。
【チェリッシュ】
[時間軸]:ガッシュ戦直前
[状態]:気絶
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[基本方針]:???

40 :
また連投規制にかかってしまった……。
終了です。

41 :
投下乙です。
隼人のかっこ良さと金剛番長のチートっぷりは流石w
刃への言葉が原作の彼と相まって、そりゃそういうわなという納得感がありました。
そしてロワの華? である誤解フラグと大乱戦のフラグ。
フォルゴレは最後に漢を見せられたんだけど相手が憲兵番長だってのは悪かったなぁ……。
単体でも面白く、続きも気になる引きが見事でした改めて投下乙です。

42 :
test

43 :
投下乙!
なんという乱戦! スゲーおもしろくなってきた!w
金剛隼人ペアなんにも悪いことしてないのにマジ不憫www
それにしても刃を一喝する隼人がかっこいい。そのせいで誤解されたんだけど、でもやっぱかっけー
マリリン隊長と愉快な隊員たちのやり取りもよかっただけに、フォルゴレの脱落は残念。憲兵容赦ない
しかしチェリッシュはいったいどうなるのか……w

44 :
久しぶりに見に来たら投下&予約!
誤解フラグが重なって次が気になる
隼人はやっぱりいいキャラだなあ

45 :
投下します。

46 :
  

47 :
 

48 :
  

49 :
 ◇ ◇ ◇

「……さて」
 もうすっかり昇りきった日の下で、憲兵番長こと伊崎剣司が誰にともなく呟く。
 河原に向かったギイとシルベストリを見送ってから、とうに十分ばかし経過している。
 その間、いったいなにをしていたのかといえば、ひとえに『仕込み』をしていたのである。
 彼は人を斬る音色を愉しむことこそ最上の快楽としているが、しかしあくまで最上であって唯一ではない。
 単に人体に刃を滑り通せればそれでよいのではなく、むしろその過程をも堪能するべく趣向を凝らすタイプなのだ。
 その憲兵番長の視線の先には、地べたの上で横たわる少女――魔物の子・チェリッシュ。
 すぐ横で一人の命が奪われた事実も知らずに、未だ意識を取り戻す素振りすら見せていない。
 眠ったままの彼女に雷神剣の刃を突き刺してやるというのも、決して憲兵番長の趣向から外れていない。
 脳が鳴らす激痛という名の警笛によって目覚めたとしても、いったい自身になにがあったのかすぐには分からないだろう。
 結局理解できぬままであれば呆然としたまま息絶え、仮に理解できたとしても結局は絶望を抱いて死んでいく。
 それはそれで相当に滑稽であり、かつ身体を貫く音色も存分に味わえるであろう。
 ――が、憲兵番長は脳内に浮かんでいたその案を却下した。
 というのも、ほんの少し前に同じことをやったばかりなのだ。
 自らを鉄人と称していた西洋人――パルコ・フォルゴレを斬る際、まったく同じ手順を取っていた。
 それからまだ大して時間も経っていない以上、また異なる方法を考えねばなるまい。
 そう思い立ったがゆえに、憲兵番長は十分ほどかけて『仕込み』を行ったのだ。
 つまり――いま現在チェリッシュが生き延びているのは、ある種フォルゴレのおかげと言えるだろう。
 そのように見た場合、フォルゴレはたしかにチェリッシュの命を守ったと言えるかもしれない。
 はたしてそれが幸運であるのかどうかはさておき、だが。
「そろそろ起きてもらえないかな?」
 声をかけながら、憲兵番長はチェリッシュの脇腹を足で小突く。
 起きないのであればこのまま思い切り蹴り上げてしまってもよいが、少なくとも現段階でする気はない。
 注意深く観察したので分かっているが、まだチェリッシュの身体に目立った外傷はない。
 無傷の獲物であるにもかかわらず斬る前に傷をつけてしまうのを、憲兵番長はよしとしない。
 とはいえ、憲兵番長の身体能力は非常に高い。
 本人としては軽く小突いているつもりであっても、軍用ブーツの爪先はチェリッシュの腹に深く喰い込む。
 ほどなくしてチェリッシュは目覚めたものの、起きるや否や盛大にむせ込むのだった。
「ふふ、小生としてはそこまで力を籠めたつもりはなかったのだがね。
 いやはや、本当に申し訳ない。身体に傷がついてしまったら大変なことだ」
 わざとらしい口調ではあっても、これは間違いなく憲兵番長の本心だ。
 そんな事実に気付くはずもなく、覚醒したチェリッシュは憲兵番長を睨みつける。
 周囲の景色が切り替わっているのも、眼前にいたはずの二人が消えているのも、そもそもいつ眠ってしまっていたのかも、当然疑問ではあったが振り払った。
 思考は混乱しているが、それでも取らねばならない行動は分かった。
 むせ返る自身を眺める憲兵番長の暗く冷たい瞳が、チェリッシュの取る選択肢をたった一つにしたのだ。
「ギガノ――」
 傍らに置かれていた魔本を手に取って、呪文を唱える。
 混乱していると言っても、先ほど金剛番長を相手にしたときほどではない。
 いったん意識を失った分だけ、僅かに落ち着きを取り戻しているのだ。
 全力とはいかないにしても、先刻の張りぼて同然のものとはほど遠い。
 たしかに力の籠められた巨大な宝石が、なにもなかった空中に出現する。

50 :
 

51 :
 

52 :
   

53 :
 

54 :

「コファルッ!」
 ――それが憲兵番長の思惑通りなどと知る由もなく、チェリッシュは呪文を唱え切った。
 チェリッシュの傍らに、どうして魔本しか置かれていなかったのか。
 フォルゴレの死体も、チェリッシュのリュックサックも、なぜ片付けられていたのか。
 そもそもの話、憲兵番長はなぜそのような行為に時間を費やしたのか。
 それは、チェリッシュが単なる少女でないと分かっていたからである。
 地面に散らばっていた魔本とその説明書を読み、彼女が戦う力を所持していると知っていたのだ。
 憲兵番長は人を斬る音色を最上の快楽としているだけで、それ以外に愉しみを知らぬ人間ではない。
 戦うに足るだけの能力があるのならば、それを正面から打ち倒したいとも思う。
 そんな――戦闘狂としての性質も、持ち合わせているのだ。
 ゆえに、魔本以外の道具を回収した。
 他に戦闘に使えそうな道具はなかったのだから、武器となる魔本以外を傍らに置く意味はない。
 フォルゴレの死体を民家の陰に隠したのは、チェリッシュが心を乱さぬためである。
 魔本の説明書によって、魔物の術には『心の力』が必要なのは判明していた。
 ならば、余計な障害は取り除くべきだと考えたのだ。
 歓喜の念を隠そうともせず、憲兵番長の口元が弧を描く。
 雷神剣の柄に手をやると、昂る期待に呼応するように雷神剣が『鳴いた』。
 無数のスズメバチが羽ばたいたような音を立てて、青白い火花が飛び散らせたのだ。
 放出された電撃は刀身を覆い尽くし、眩い光を放つ雷刃を形成していく。
 この使い手の意図するままに形状を変える刃で、迫りくる巨大な宝石を両断してくれる。
 そんな憲兵番長の思いに反して、ギガノ・コファルは霧となって大気に溶けていく。
「……なに?」
 眉を潜める憲兵番長の眼前で、チェリッシュはへたり込んでいた。
 手元から滑り落ちた魔本を拾おうともせず、ただ茫然としている。
 目は見開いたまままばたき一つせず、半開きの口は小刻みに痙攣している。
 この殺し合いに巻き込まれる以前、チェリッシュはゼオン・ベルに電撃による拷問を受けている。
 雷神剣が放った電撃によりそのトラウマが蘇ったのだが、そんなことを憲兵番長が知るはずもない。
 それでも、戦闘など行えるコンディションでないのは容易に見て取れた。
「さすがに、この結末は予想していなかったな」
 淡々とした口調とは対照的に、憲兵番長は憮然たる面持ちだ。
 一瞬前までの昂揚感は完全に消え失せ、満たされぬ思いだけが胸中を渦巻いている。
 わざわざ手間をかけて準備などしたのもあって、余計に不完全燃焼だ。
 このまま震えているチェリッシュを両断したとて、到底この不満が解消されることはないだろう。
 そのように考えつつ歩み寄っていくなかで、憲兵番長はようやく気付く。
 チェリッシュの視線が憲兵番長自身ではなく、雷神剣に向けられていることに。
 怪訝に思い、雷刃の刀身を数メートル伸ばす。
 すると、チェリッシュの視線は伸びた切っ先に向けられていることが分かる。
 ここに至ってようやく、憲兵番長はチェリッシュが電撃に対して潜在的なトラウマがあることを悟った。
「なるほど」
 わざわざ口に出して大きく頷くと、憲兵番長は雷刃を解除する。
 雷神剣の刀身を覆う電撃がなくなり、その外見上は単なる日本刀と化す。
 チェリッシュの震えが僅かに治まり、過呼吸気味だった呼吸が落ち着いている。
 その動作で、憲兵番長は脳裏に浮かんだ仮説が正しかったことを確信し――地面を蹴った。
 一気にチェリッシュとの距離を詰めると、防御なぞする隙を与えずに鳩尾に軍用ブーツの爪先を抉り込む。

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「ガふッ!」
 チェリッシュは凄まじい勢いで吹き飛んで行き、民家の壁に盛大に背を打ってようやく止まる。
 整いつつあった呼吸は、先ほどより遥かに乱れてしまっている。
 どうにか呼吸を整えようとしたチェリッシュは、民家の陰に隠れたものを見つけてしまう。
 上半身と下半身で綺麗に切断された――パルコ・フォルゴレの亡骸を。
 影になっておりよくは見えなかったが、それでも死んでいるのは明らかだった。
「ぅ、ぁ、ひぃぃぃぃぃぃっ」
 反射的に走って逃げ出そうとするが、鳩尾と背に走った衝撃が大きく立ち上がることすらできない。
 どうにか這いずってでも移動しようとして、チェリッシュの視界に影が差す。
 おそるおそる振り返ると、そこには自分を蹴り飛ばした白制服の男が立っていた。
 その顔面には先ほどと異なり笑みが張り付いていたが、やはり瞳だけは変わらず冷え切ったままであった。
「訊きたいことがあるのだが」
 憲兵番長が、チェリッシュのウェーブがかった金髪に手を伸ばす。
「ぁ――」
 悲鳴を上げる暇すら、チェリッシュには与えられなかった。
 チェリッシュの髪を掴むと、憲兵番長は――そのまま真下に叩き付けたのだ。
 モチノキ町は決して発展しているワケではないが、エリアD−4は繁華街である。
 いかに都会とは言えぬ土地であろうとも、さすがに繁華街の地面はアスファルトで塗装されている。
 その硬いアスファルトに、チェリッシュは顔面から打ちつけられることとなった。
 鈍い音が辺りに響き渡るが、しかしチェリッシュの聴覚をもっとも刺激したのはまた別の音であった。
 めきゃり――という、やけに軽い響きだ。
 それが鼻が折れた音だと分かったのは、再び持ち上げられた際に顔面から地面に通じる紅い滝が見えてからだった。
「ご……ぉ……」
 意図せず、チェリッシュからくぐもった声が漏れる。
 その間も紅い滝はだくだくと流れていき、アスファルトを赤黒く染める。
 塗装されているので地中に染み込んでしまうことはなく、地上に溜まっていく。
 数十秒と待たずして、地面に赤い水たまりができあがった。
「君に『刷り込んだ』のは、いったい誰なんだい?
 それは、この殺し合いに呼び出されている誰かなのかな?」
 尋ねながら、憲兵番長は再び手を上下させた。
 紅く温かな水たまりに、チェリッシュの顔面が叩き付けられる。
 再度持ち上げられてみれば、紅い滝の水勢は増していくばかりだ。
 チェリッシュは思考を巡らせる。
 『刷り込んだ』とはなにのことなのか。
 あまりに質問が端的すぎて、いったいなにを指しているのか分からない。
 しかし答えねばなるまい。
 早く答えねば――
「聞こえてるのかな?」
 僅かに苛立ちを孕んだ声とともに、憲兵番長が腕を上下させる。
 勢いよく変化する視界。
 襲いかかる落下感。
 浴びせられる風。
 ――轟音。

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 アスファルトに打ちつけられる音以外にも、微かに聞こえるものがあった。
 折れた骨がさらに微細に砕ける。
 硬いアスファルトで肌が切れる。 
 アスファルトの破片が喰い込む。
 髪の毛が何本か引き千切られる。
 繋がっていたなにかが裂ける。
 口から空気が零れていく。
「う、ぐ、ぶ」
「まだ口を割らないのかい? 強情だねえ」
 軽口を叩くような口調とともに、またしても繰り返される。
 手放してしまいそうな意識を繋ぎとめて、チェリッシュはどうにか思考を巡らす。
 『刷り込んだ』の意味を見定めようとする。
 なにが憲兵番長の癇に障ったのか。
 思い返してみれば、彼が態度を変えたのはギガノ・コファルが消滅してからである。
 その際に関わりのある『刷り込まれた』なにかと言えば――
「ぇ、お……」
「聞き取れないな」
 何度目かになるアスファルトへの顔面ダイブ。
 もはや視界はほとんど効かず、聴覚は麻痺し、ただ落下感と痛みだけがある。
 どうにか言葉を発するべく、次に持ち上げられるときへと意識を集中させる。
 唇が震えている上に呼吸が乱れているが、どうにか搾り出すように言い放つ。
「ォ……ン! ……に……っ! 電撃の……きょぅ……ふをっ刷り込んだのは……! ゼオン・ベ――」
 最後まで言い切られることはなく、チェリッシュはアスファルトに顔面を叩き付けられる。
 答えれば解放されるという無意識のうちに抱いていた希望は、答え終わる瞬間を待たずして砕かれる。
「ふむふむ、ゼオン・ベル。
 名簿には同じ姓のガッシュ・ベルという参加者がいるが、関係はあるのかい?」
「知らな――」
 またしても言い切ることは許されず、言わんとする内容が分かるや否や叩き付けられる。
 それからなにか尋ねられることさえなく、四回ほど地面にただ顔面を打ち据えられ続ける。
「なるほどなるほど。
 そのゼオンという輩は気になるところだ。小生の獲物に先に唾をつけておくとあっては」
 最後にいっそう強く叩き付けたのちそのまま十メートルほど地面に擦りつけられて、やっとチェリッシュは解放される。
 もはやその行為に憲兵番長が鬱憤を晴らす以外の意味がないことは、チェリッシュにも理解できていた。
「う、ぅぅぅぅ…………」
 手放されても、立ち上がることはおろか這うことすらできない。
 鼻は砕け、額は割れ、顎は折れ、さらに顔面全体余すとこなく傷付き、おびただしい量の血を垂れ流しているのだ。
 動けなくて当然であり、どうにか遠ざかろうとのたうつだけで十分凄まじい生命力である。
(魔物というだけある、ということか。
 いやはや、そんなものが存在するなんてねえ)
 などと他人事のように分析しながら、憲兵番長はこれまでに出会った参加者を振り返っていく。
 『帽子屋(マッドハッター)』キース・シルバー、炎術師・花菱烈火、サムライ・佐々木小次郎に宮本武蔵、人形遣い・ギイ、自動人形・シルベストリ。
 彼らを思えば、魔物くらいいてもおかしくはないのかもしれない。
 というか、憲兵番長の友人である日本番長など怪物の類と言えなくもない。
 そこまで考えたところで、ある考えが憲兵番長の脳裏を掠めた。

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(下らぬ戯言と切り捨てていたが、『アレ』も真実かもしれないな)
 『アレ』とは、憲兵番長に支給されていた支給品のことである。
 元より、雷神剣すら説明書の文面を全面的に信用していたワケではないのだ。
 いざ手に取ってみて、雷神を前にしては信じるしかなくなったにすぎない。
「試してみるとしよう」
 あえて口に出して、地面の上でうごめくチェリッシュに歩み寄っていく。
 どうやら逃げようとしているようだが、その動きは羽を失った蝶よりも緩慢だ。
 先ほどまでと同じように髪を掴んで、無理矢理に顔面を引き寄せる。
 そうしてから、元の整った目鼻立ちが分からぬほど傷だらけの顔に向けて言い放つ。
「いやはや、少し訊くだけだというのに手荒い真似をして悪かったね」
 わざとらしい笑みを浮かべて、リュックサックから液体の入った小瓶を取り出す。
「『治して』あげるよ」
 その液体を飲んではならない。
 チェリッシュは、本能的に判断した。
 残った力を振り絞って口を閉ざす。
「遠慮しなくていいのだよ」
 そんなささやかな抵抗を、憲兵番長は嘲笑う。
 折れ曲がった鼻を潰すほどの勢いでつねられ、チェリッシュは気道を確保するために口を開くしかなくなる。
 そうして空いた口に、フタを開けられたビンが放り込まれた。
 吐き出そうにもそのまま口を掌で押さえつけられてしまい――ついには嚥下するしかなくなってしまう。
「…………え?」
 一瞬ののち、チェリッシュは呆けたような声を漏らした。
 というのも――本当に治ったのだ。
 砕けた骨は再生し、血管は繋がり、皮膚は塞がり、痛みは消し飛んだ。
 服は血塗れであるが、それだけだ。
 魔物の治癒力すら凌駕した速度で、肉体は完全に回復している。
「だから遠慮しなくていいと言ったじゃないか」
 微笑みながら、憲兵番長はチェリッシュにその液体の説明書を渡す。
 それに目を通すチェリッシュであったが、行を追うごとにどんどん顔色が青くなっていく。
 憲兵番長が飲ませた薬の名は――『神酒(ソーマ)』。
 服用すれば新陳代謝が異常加速し、老化が止まって若返る上にいかなる傷もたちどころに再生可能となる。
 まさしく、不老不死の妙薬。
 ――という触れ込みで売り捌かれた劇薬。
 実際のところ、異常加速した新陳代謝に身体がついていけるはずがない。
 膨大なエネルギーを消費してしまう上、効果が切れれば急激に老化してしまう。
 一度でも服用してしまえば、服用を続ける以外に生き延びる術はない。
「つまりだね、君は――」
 冷笑を絶やさずに、憲兵番長は続ける。

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「もしも死にたくないのであれば、いま小生が持っている三本をなんとしても飲まねばならないのだよ」
 より笑みを深くして、憲兵番長は雷神剣をチェリッシュの太ももに突き刺す。
 傷は見る見る回復していくが、チェリッシュの表情に生気が戻ることはない。
 身体は生き生きとしているというのに、表情だけが死人のようであった。
「そうだな。とりあえず、四人Rごとに一本、でどうだい?」
 チェリッシュの返事はない。
 ソーマの影響で血行はいいはずなのに、顔色はやたらと青かった。
 そんな困惑を露にするチェリッシュに対して、憲兵番長は笑みを向けたまま。
「ああ、そうか。さっきみたいになったら術は撃てないものね。
 他にRための手段が欲しいか。まったく、気が回らなくてすまないね。
 いやいや気にしなくていい。ちょうど使い道のない道具があってね。髪の長い君ならば、きっと使いこなせることだろう」
 違う――と。
 否定の声を出す前に、チェリッシュの胸には雷神剣の刀身が突き刺さっていた。
「は……?」
 事態を呑み込めぬチェリッシュが、気の抜けた声を漏らす。
 遅れて痛みがやってきたのか、表情が歪む。
 そんな様子を眺めながら、憲兵番長は口角を吊り上げた。
「うぇ、ぎぎぎぎぎぎィィィィィイィィッ!?」
 雷神剣の刀身を電撃が覆い、チェリッシュの身体に伝わっていく。
 ゼオンの拷問がフラッシュバックし、チェリッシュが体感する電撃は二倍。
 四肢が吊ったように張り上がり、眼球がぐるんと白目を剥く。
 傷口より溢れ出した赤黒い血液が、電熱で蒸発していく。
 当然、電熱を受けるのは血液だけではない。
 胸に突き刺さった雷神剣より電撃は放たれているのだから、チェリッシュは体内から焼かれていくことになる。
「ぎぎがあ゛あ゛あ゛ゔゔあああああお゛ァァァァ――ッ!?」
 張っていた手足がせわしなく動き出す。
 焼け焦げた血肉の臭いが辺りに立ち込めていく。
 数分ほど経って、ようやく憲兵番長は雷神剣を抜き取る。
 その際にわざわざ刀身を回転させたせいで、焼け焦げた肉が体外に抉り取られる。
 さながら操り糸の切れたマリオネットのように、チェリッシュはアスファルトの上にくずおれる。
 先ほどまで叩き付けられていた冷たいアスファルトが、いまとなってはやけに心地よかった。
 そんな彼女を見下ろすようにしながら、憲兵番長がしゃがみ込む。
 その右手には、内面に『髪』という漢字の描かれたソフトボール大の球体があった。
「いやはや。すぐに治る以上、これくらいしなくては『埋め込め』られないからねえ」
 チェリッシュは、脳内に浮かんだ可能性を否定する。
 さすがにするはずがないと、自分自身にそう言い聞かせる。
 そんな期待を裏切るように、憲兵番長はその球体を――チェリッシュの胸に開けられた刺し傷に押し付けた。
 そうして、そのまま傷口へと強引に押し込んでいく。

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「いぎィィィィッ! あッ、げあッ、がッ、ぎいいいいいいいいいいいいッ!!」
 焼き切られて未だ熱を持っている肉体に、異物が挿入される。
 ソフトボール大と言っても、人体に埋め込むにはあまりに巨大すぎる。
 ぶちぶち音を立てて、再生しかけていた血管や肉が千切れていく。
 断ち切られた胸骨を強引に押しのけていくのだが、押しのけられた胸骨は行き場もなく肺に突き刺さる。
 呼吸をするだけで胸に激痛が走るが、その状態を保ったまま肉体は強引に再生をしていく。
「ふむ。入り切らないか」
 そう言うと、憲兵番長は足を大きく振り上げ――
 軍用ブーツの硬いカカトで、チェリッシュの胸に埋まった球を強引に押し込んだ。
「あごぉあああおおう、う゛う゛あ゛あ゛ア゛アア゛ア゛ォォエェ゛ィ゛ィィィ――ッ!!!」
 一際大きな悲鳴が上げると、チェリッシュはまたしても意識を失う。
 口の端から溢れるよだれは、次第に泡立ったものへと変化していく。

 ◇ ◇ ◇

 治癒が終わるのを待ってから、憲兵番長はチェリッシュを蹴り起こした。
 目覚めた彼女は、もはや一切の抵抗をしなかった。
 人を殺せと指示しているにもかかわらず、ただ頷くだけだ。
「ちょうどよかったじゃないか。
 君の持っていた花は、ソーマの原料でね。
 これだけあれば、十分長生きできるだけのソーマが作れるよ」
 とんだ出まかせである。
 憲兵番長がソーマの存在を知ったのはこの殺し合いの会場に来てからであり、精製方法など教えられていない。
 そのことに気付いているのかいないのか、チェリッシュはやはり頷くだけであった。
「…………」
 無言で頷いているだけの彼女が着ているのは、血塗れの衣服ではない。
 あの服は憲兵番長に脱ぐよう命令され、なにも言わずそれに従った。
 現在、彼女が着ているのは血塗れとはほど遠い純白のドレスだ。
 支給品を確認した当初、ほんの少しだけ舞い上がってしまった――そんなウェディングドレス。
 もしもこれを着るのならば、そのときに隣にいるのはいったい誰だろう。
 そう想像したとき、不思議と浮かんだのは長い付き合いのリーゼントの少年だった。
 彼はもうこの世にはおらず、彼の屈託のない笑みとは似て非なる冷笑を浮かべる男が隣にいるのだった。
(…………死にたくない)
 ただただ、チェリッシュはそう思った。

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【D−4 路上/一日目 午前】
【伊崎剣司(憲兵番長)】
[時間軸]:居合番長との再戦前
[状態]:疲労(小)、胸元に真一文字の傷、制服ちょい焦げ
[装備]:雷神剣@YAIBA、死亡者詳細データ端末@オリジナル
[道具]:基本支給品一式×3、錫杖@うしおととら、神酒(ソーマ)×3@スプリガン、アンブロディア@スプリガン、ランダム支給品0〜1
[基本方針]:人を斬る。おもしろいのでギイと行動。ギイとシルベストリの向かった河原に向かう。

【チェリッシュ】
[時間軸]:ガッシュ戦直前
[状態]:神酒服用済み
[装備]:チェリッシュの魔本@金色のガッシュ、ウェディングドレス@現実、式髪(体内)@烈火の炎
[道具]:なし
[基本方針]:憲兵番長についていく。死にたくない。

【支給品紹介】
【神酒(ソーマ)@スプリガン】
伊崎剣司(憲兵番長)に支給された。
古代植物『アンブロディア』を精製して作り出される飲み薬。
服用すれば新陳代謝が異常加速し、老化が止まり若返る上にいかなる傷もたちどころに再生可能となる。
まさしく、不老不死の薬である。
…………という触れ込みで売り捌かれていたが、そんなおいしい話があるはずもなく。
実際のところは異常加速した新陳代謝に身体のほうがついていけず、効果が切れれば急激に老化してしまう劇薬。
一度でも服用したが最後、死ぬまで服用し続けなくてはならなくなる。
なお新陳代謝が異常加速するだけであるので、丸ごと喪失した部位まで再生するワケではない。

【アンブロディア@スプリガン】
チェリッシュに支給された。
古代植物であり、またの名を甘露草。
すでに絶滅したはずであったが、残っていた種から復元に成功した。
仙道で言う仙丹の原料になる植物であり、本来は精神そのものを物質化するための薬となる。
しかし中途半端な知識で製造することで、神酒(ソーマ)のような劇薬となってしまう。
蓮によく似た水生植物であり、白い花を咲かせる。

【式髪@烈火の炎】
宮本武蔵に支給された。
毛を硬質化させることのできる魔道具。
本来は数本抜いた髪を杭とするなど、武器を持っていないと油断している相手の不意打ちとして用いられる。
しかし麗十神衆の一人・幻獣朗の研究によって、体内に埋め込めれば髪の毛全体を一つの武器として操作することも可能だと判明した。

【ウェディングドレス@現実】
チェリッシュに支給された。
白いアレ。
女の子の夢とかいうアレ。
こういう支給品を出す際に支給品説明は必要なのかと、書いているときにいつも思う。

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投下完了。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。
支援、ありがとうございました。

82 :
投下乙です
うわー、うっわー。これはひどい(褒め言葉)
チェリッシュはどうなるかって思ってたけど最後の一押しがこれとか本当にひどい(褒め言葉)
憲兵番長は活き活きとし過ぎだと思うの本当。
改めて投下おつでした

83 :
投下乙
チェリッシュは登場話から危うかったけど、ついに…
むしろ死んだ方がマシなんじゃないかw
しかし憲兵番長はいきいきしすぎ

84 :
未予約ですが、書き終わったので投下します。

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 ◇ ◇ ◇

 石島土門がマシン番長を圧倒していたのは、本格的に戦闘が始まってから僅かな間に過ぎなかった。
 というのも当初、マシン番長は相手の戦闘能力を完全に見誤っていたのだ。
 彼の両目部分に設置されたカメラは、映ったものの外見だけでなく内部まで視ることができる。
 それで読み取れた情報によって、土門の肉体がかなり鍛え抜かれたものだとは分かった。
 常人の域を遥かに超えており、並の番長相手ならば対等に戦えるようであったが、あくまでそれだけだった。
 マシン番長は、日本最強の番長である金剛猛の能力をベースに作られている。
 二十三区計画最強との呼び声高い番長であり、事実あの金剛番長の殺害にさえ成功している。
 ゆえにマシン番長は、戦闘開始時にはすでに冷静に計算を終えていた。
 訊き出すべきことさえ訊き出して用済みになれば、石島土門を殺害するまでにかかる時間は――『十五秒未満』であると。
 が、そうはいかなかった。
 一つかねてから気になっていたことを尋ねている最中であった。
 筋肉、骨格、体勢、損傷、それらを考慮してみれば確実にありえぬ速度で、土門は立ち上がるや否や距離を詰めて拳を浴びせて来たのだ。
 百パーセント放てるはずのない一撃であり、反撃どころか回避することさえ叶わなかった。
 この際、マシン番長は彼にしては珍しく混乱した。
 改めて両の瞳で土門を眺めても、視覚情報から導き出される答えは同一である。
 なおさら混乱するハメになった。
 一度で十分であるはずの分析を二度も行い、まったく同じ結果が出た。
 となればほぼ間違いなく、それで正しいはずである。
 レーダーとは異なり、両瞳に埋め込まれたカメラとセンサーに異常は感じない。
 となれば、土門がマシン番長の分析を越えるスピードやパワーを出せるはずがない。
 にもかかわらずマシン番長の攻撃は当たらず、土門の攻撃を受けることになった。
 直線状の電撃『ライオット・ピアサー』だけでなく、威力を落とした分命中範囲の広い放射状の電撃『パニッシュメント・ボルト』をすら回避して見せた。
 分析から導き出される土門の身体能力と、実際に眼前にいる土門の身体能力。
 その激しい誤差から、マシン番長は思わぬ苦戦を強いられることとなった。
 土門がマシン番長の分析を上回る動きを発揮できたのは、彼が纏っているAM(アーマードマッスル)スーツのおかげである。
 AMスーツは精神感応金属(オリハルコン)製であり、文字通り装着者の精神に呼応して身体能力を増幅させる。
 しかしマシン番長の世界では精神感応金属の研究は進んでおらず、ゆえにその知識は内蔵されていない。
 とはいえマシン番長に搭載されたコンピュータは、成人男性サイズのロボットに埋め込むだけでも奇跡と言って過言ではないほど最新鋭の技術が詰め込まれた代物だ。
 ほんの――『三分足らず』。
 たったそれだけの間あえて防戦に回ることで、実際に想定以上の動きを見せる石島土門の身体能力を分析完了。
 筋力や骨格などから導き出される戦力と置き換えて、反撃に打って出ることにした。
 そこでようやく、マシン番長は計算と現実の誤差に混乱することはなくなった。
 以降は、ほとんど互角である。
 一方が重い一撃を決めれば、即座にもう一方がやり返す。
 合金製の肉体とAMスーツ、ともに衝撃耐久能力が高いため、その繰り返しになるばかりであった。
 そうしているうちに――
 どこからかキース・ブラックの声が響いて、土門の動きが止まる。
 相手の手が緩んだいまこそ拮抗を崩す絶好の機会であったが、マシン番長は距離を取った。
 土門が放送に耳を傾けるために止まったというのは、タイミングからして明白である。他の理由があるとは考えづらい。
 ならば放送が終わるまでの間、ナノマシンによる身体の修復に費やしたほうが効率的であろう。
 何せ、土門の身体能力を見誤っていた間、マシン番長はそれなりにダメージを受けてしまっている。
 いかにマシン番長のボディが頑丈に作られているとはいえ、AMスーツから繰り出される打撃はとても無視し続けられるものではない。
 それに現時点では戦況は拮抗しているとはいえ、相手が人間である以上必ず疲弊する。
 先に受けたダメージや消耗したエネルギーを回復すれば、その分だけ持久戦において有利になるのは明らかである。

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 直立不動の姿勢を保ちつつ身体を修復させながらも、マシン番長は放送を聞き逃さない。
 音源が特定できなかったが、レーダーのようになんらかの細工をされているとして片付ける。
 キース・ブラックの言葉を信じるとすれば、居合番長と念仏番長の二人がとうに脱落したのだという。
 才賀勝のような二十三区外の番長がいる以上、残る番長の数は不明である。
 とはいえ、標的が少なくとも二つ減ったというのは確かだ。
 マシン番長が冷徹に現状を認識していると、不意に声を浴びせられる。
 放送を聞くべく攻撃の手を止めた石島土門のものだった。
「……もう、十六人も死んだんだってよ」
「ソノヨウダナ」
 マシン番長にとって、土門は排除すべき番長の一人でしかない。
 ゆえに言葉を交わす必要などありはしないが、時間を稼げば稼いだ分だけ身体を修復できる。
 マシン番長が返事をしたのは、そんな計算あってのことだった。
 土門の浮かべる苦々しい表情なぞ、判断材料にすらなっていない。
「俺の仲間はよ、二人も呼ばれちまった」
「ソウカ」
「お前の知ってる名前はあったかよ」
「二人イタナ」
「……なにも思わねえのかよ」
「排除スベキ存在ガ死ンダトイウノナラバ、任務遂行ニ一歩前進シタコトトナルナ」
「…………」
 歯を噛み締めながら、土門は拳を固く握る。
 その目元からは、無色透明の液体が溢れていた。
 土門は太い指で拭うが、またすぐに溢れ出してくる。
 これまで、土門はマシン番長のことをひたすら殴り続けていた。
 相手がなにも知らない機械だというのなら、分かるまで殴ってやるつもりだった。
 壊れる寸前になれば、たとえ機械でも死を理解できると思っていたのだ。
 それなのに、マシン番長はどんなに殴られても眉一つ動かさない。
 いくら機械であろうと、壊れないはずがない。
 死んでしまわないはずがない。
 にもかかわらずいくら攻撃を受けても、涼しい顔をキープし続けたのだ。
 どうすればいいのか分かりかねていたときに、仲間の死を告げる放送が流れた。
 花菱烈火だけでなく、水鏡凍季也までもが死んだのだという。
 もしも烈火の最期を目の当たりにしていなければ、きっと信じていなかっただろう。
 しかし、見てしまった。
 あの、殺しても死なないと思っていた烈火でさえ――死んだのだ。
 だからであろうか、水鏡の死をも受け入れてしまった。
 信じたくなんてないのに、いつの間にか自然に。
 そのことに気付いた瞬間、土門は一気に喪失感に駆られた。
 一緒に笑うことも、言葉を交わすことも、顔を見ることさえ、もう二度と叶わないのだ。
 これが死んでしまうということなのかと、理解できた気がした。
 だというのに、マシン番長はやはり顔色を変えない。
 機械であるから顔色は変わらないのかもしれないが、動じた素振り一つ見せない。
 知っている名前が二つ呼ばれたらしいのに、だ。
 そのことが気に喰わず、土門は声を張り上げた。
「これで……こんなに死んじまってッ! お前の言う月美っていう子は笑うのかよ!!
 俺はそいつをこれっぽっちも知らねえよ! でもよ! その子は、お前が誰かを殺して笑うのかよッ!?」
 ここでようやく、マシン番長は少しばかり沈黙した。
 僅かに間を置いてから、変わらぬ冷淡な口調で告げる。
「……笑ワナイナ」

91 :
 

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95 :

 目を丸くして、土門は一瞬言葉を失う。
 予想外の返答であったが、むしろ期待通りではあった。
 それが理解できているのならば、話は早いはずだ。分かってくれるはずなのだ。
 そんな土門の思いに反して、マシン番長は言葉を続ける。
「ダカラ、殺シテカラ『仲直リ』ヲスル」
「…………は?」
「人ガ死ネバ『幽霊』ニナルノナラバ、殺シテカラ『仲直リ』スレバイイダケダ」
 今度こそ本当に、土門は言葉を失った。
 マシン番長は、幽霊などというものを信じているらしい。
 そんな相手をどうやって説得すればよいのか。
 土門は決して優秀とは言えない脳ミソを回転させるが、答えは出てこない。
「喧嘩ヲシテモ『仲直リ』スレバヨイト、月美ハ教エテクレタ」
 ただ――
 依然として答えなど出ないが、マシン番長のこの言葉が土門に火を点けた。
「あ゛?」
 自然に零れた声は、土門自身が思っていたよりずっと低かった。
「あのな、お前……!
 幽霊なんてもんがいるのかどうかなんて、知ったこっちゃねえよ。
 なんなら、俺らは悪霊とかそんなんなら何度か見てるからな。
 でも、いまはそんなもんどうでもいい。ああいう悪霊以外に、フツーに喋ったりできるヤツがいるのかは関係ねえ」
 自慢のモヒカン頭を掻き毟りながら、土門は言葉を続ける。
 説得する方法を考えるとか、そういうのはもうやめた。
 頭がよくないのに、言葉を選んでどうするのか。
 元より、土門にできるのは思い付いた端から言ってやるだけだった。
「幽霊なんてもんがいたら、仲直りできるかもしんねえよ!
 けどな! もう二度と喧嘩なんかできねえだろうが! 身体がねえんだからな!
 考えてみろ! その子の言う仲直りは、本当に単に許してもらうってだけなのかよ!
 違えだろ! 少なくとも俺は違うと思うぜ!
 また一緒に、放課後までダベったり、帰りにブラついたり、一緒に遊びに行ったり、ちょくちょく殴り合ったり――
 そのための仲直りなんだろうがッ! 喧嘩をしても仲直りすればいいんじゃねえ! また喧嘩するために仲直りするんだろうがッ!!」
 二人の少年の姿が、土門の脳裏を掠める。
 ツンツン頭の炎術士に、いつでも涼しい顔の水の剣士。
 もう二度と会うことはないだろうが、もし仮に幽霊として会うことができたとしよう。
 だとしても、それでいいのだろうか。
 二十四時間ほど話し続ければ、そりゃあ仲直りの一つや二つできるだろう。
 だとしても、それだけだ。
 幽霊なんてものがいたところで、話せるだけではないか。
 それで、誰が満足できるのか。
 そんなものに、なんの意味があるというのか。
「死んじまったら――もう終わりなんだよ!!」
 これまで以上の絶叫が、住宅街に響き渡る。
 それに対する返答はなく、辺りに静寂が広がっていく。
 マシン番長は口も開かず、月美という少女とのやり取りを思い返していた。
 喧嘩をしてしまったのならば、また仲直りをすればいい。
 そう教えてくれた少女だ。
 彼女がマシン番長に教えてくれたのは、それだけではなかった。

96 :
 

97 :
 人はRばもう二度と戻って来れないと、いま土門が言ったのと同じことを言っていた。
 だがマシン番長はこの殺し合いの舞台で、おキヌという名の幽霊と遭遇した。
 そして、判断したのだ。
 まだ幼い月美が知らなかっただけで、幽霊というものは存在するのだと。
 たしかに目の当たりにして、実際に攻撃が通り抜けたのだ。
 幽霊という存在を認めるのに十分であった。
 しかしながら、だ。
 月美は、このように言っていたではないか。
 喧嘩したあと仲直りして、もう一度友達になる際には――
『また一緒に遊ぼうね』
 そう言って微笑むのだ――と。
 おキヌとともにいたのは短い間だったが、彼女の肉体は物体をすり抜けてしまう。
 それでは、遊べないのではないか。
 であるのならば、つまりはたしてどういうことなのか。
 マシン番長のコンピュータが、時間をかけて一つの答えを導き出す。
「ヤハリ……『仲直リ』トハ、対象ヲ殺害スレバ不可能ナ行為ナノカ……?」
 思わず零れた言葉に、土門が喰いついた。
「だから、そう言ってんだろうが!
 月美っていう子を笑わせてえんなら、人殺しなんかしてんじゃねえよ!」
 安堵した様子の土門だったが、マシン番長はまたしても無言になる。
 黙って、これより取るべき行動を導こうとする。
 殺害してはいけないのならば、この場でどう立ち回るべきなのか。
 殺し合いに呼ばれている番長だけならば、殺さずに再起不能にできるだろう。
 月美曰く『喧嘩は本気でやれ(と彼女の姉が言っていたらしい)』とのことだが、難易度こそ高いが不可能ではない。
 問題は、このプログラムに無関係の番長である。
 それらを殲滅するには、殺し合いの舞台から脱出せねばならない。
 はたして、それは『誰も殺さずに』可能なのだろうか。
 答えは――出ない。
 この場所も、キース・ブラックがどれだけの戦力を有しているのかも、まったく不明なのだ。
 あまりにも情報が足りない。
 いかにマシン番長のコンピュータが優れていようと、情報が足りなければなにかを導き出すことなどできない。
「……で、結局どうすんだよお前は」
 痺れを切らしたらしく、土門が尋ねてくる。
 しかし訊かれたところで、ありもしない答えを話せるはずもない。
 ただたしかなのは、殺さないだけで番長を倒すのは変わらないということだ。
 少し離れた場所にいる土門に、マシン番長は右手を向ける。
「『ライトニング・フィスト』」
 無感情に告げると、マシン番長の右拳だけがロケットのような速度で飛んで行く。
 土門は両手で腹を庇ったがガードごと吹き飛ばされ、民家の壁に背中がぶつかることでようやく止まる。
 だが、手とは決して殴るためだけにあるのではない。
 マシン番長の拳が解かれ、土門の右腕を掴んだ状態で付属しているワイヤーが巻き取られる。
 踏ん張る土門だったが、少しずつ引き寄せられていく。
「テメェ……! もう殺しはしねえんじゃねえのかよ!?」
 マシン番長には、土門が激昂している理由が分からなかった。
「アア、殺シハシナイ。ダガ、『再起不能』ニハスル」

98 :
 

99 :

 またしても、土門がマシン番長の言葉に呆気に取られることとなった。
 最後の一人になって、望みを叶えた上で生還する。
 この場で殺し合いに乗るのは、そういうタイプであるはずだ。
 木蓮のように人を嬲りRのが趣味という輩もいるだろうが、マシン番長がそういうタイプには見えなかった。
 だから土門は、マシン番長も最後の一人になるべく人を殺そうとしているのだと思っていた。
 だというのに『殺さずに再起不能にする』などと言われれば、困惑を禁じ得ない。
「なんでだよ!? なんで、テメェはそんなことするんだよ!?」
 ずるずると引っ張られながら、土門は疑問をそのまま口にした。
 それに対し、マシン番長は当たり前のように言い放つ。
「スベテノ『番長』ヲ倒スノガ、Dr.鍵宮ニ与エラレタ使命ダカラダ」
 ここに至って、土門はやっとマシン番長が戦う理由を知った。
 てっきりキース・ブラックにでも参加者をRよう命令されたのかと思っていたが、それは勘違いであったらしい。
「……そのドクターなんとかってのは、月美って子のことかよ?」
「違ウ。別人ダ」
「…………だろうな」
 そう吐き捨てて、土門は引っ張られている方向へと飛んだ。
 そのまま空中で回転して飛び蹴りの体勢になるが、マシン番長は横に飛んで危なげなく回避する。
 右手は土門の腕を手放しており、とうにワイヤーを引き寄せて収納済みだ。
「何度も言ってるけど、俺はその月美って子を知らねえよ。
 でもな、その子が望んでねえのはきっと殺しだけじゃねえ! 再起不能にするなんてことも望んじゃいねえよ! 分かんねえのか!」
 着地したと同時に、土門は地面を蹴った。
 先ほどまでいた地点に飛び散る電撃をしり目に、マシン番長へと殴り掛かる。
 すると受けることもできただろうに、マシン番長は足裏のバーニアを噴射して遠ざかっていく。
「……分カッテイル。
 月美ハ、俺ガ戦ウコトヲ望ンデイナイ……」
 土門の読み通り、平時のマシン番長ならば距離を取るまでもなく対応可能だった。
 にもかかわらず、唐突に記憶が蘇ったのだ。
 番長抹殺プログラムに従って指示された場所に向かう際、月美は寂しげな顔をしていた。
 そんなメモリーがフラッシュバックしたせいで、反応が遅れてしまったのだ。
「ダガ!」
 声を荒げながら、マシン番長がバーニアの出力を上げる。
 戦闘や会話などの行動にリソースを割くことで、強引に思考を遅らせようとする。
 そのような行為が無意味なことは、超高性能コンピュータを内蔵されているマシン番長自信が分かっているというのに。
「『番長抹殺プログラム』ヲ放棄スルコトハデキナイ!
 命令ヲ放棄シタ機械ハ不要トサレ廃棄ノ対象トナル!
 ソウナッテシマエバ、俺ハ月美ト一緒ニイラレナクナル!」
 言いながら、マシン番長は空中を飛び回る。
 見る見る加速していき、その勢いを乗せた体当たりを見舞う。
 再びバーニアを噴射させ、吹き飛んでいく土門を追い抜く。
 体勢を立て直す暇すら与えず、拳の乱打(ラッシュ)『アサルト・フィスト』を浴びせる。
 合計二百発にも及ぶ乱打は一際大振りのアッパーで締めくくられ、土門はまた異なるほうへと吹き飛ぶ。
 民家三軒分壁を突き破った土門を掴んだのは、マシン番長の両手であった。
 またしても、手首から先を射出したのだ。

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