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2013年10エロパロ209: 【貴方なしでは】依存スレッド11【生きられない】 (540)
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【貴方なしでは】依存スレッド11【生きられない】
- 1 :2012/03/04 〜 最終レス :2013/10/03
- ・身体的、精神的、あるいは金銭や社会的地位など
ありとあらゆる”対人関係”における依存関係について小説を書いてみるスレッドです
・依存の程度は「貴方が居なければ生きられない」から「居たほうがいいかな?」ぐらいまで何でもOK
・対人ではなく対物でもOK
・男→女、女→男どちらでもOK
・キャラは既存でもオリジナルでもOK
・でも未完のまま放置は勘弁願います!
エロパロ依存スレ保管庫
http://wiki.livedoor.jp/izon_matome/
【貴方なしでは】依存スレッド10【生きられない】
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1321629440/
- 2 :
- >>1おつおつ
- 3 :
-
ィ'⌒`ヽ、
r==─‐r───{::::::::::::::::::ミ、
ゝ─'───{::::::::::::::::::厂/⌒ヽ
\:::::::fーヘノ } こ、これは>>1乙じゃなくて
`゙'゙' ト' | | そんなやZuやで働きたいだけなんだから
ゝ l | 勘違いしないでよねっ!
| ! !
| l |
| ! |
/i\_,,l '、
/ | }二フ
〈 /| /
| f | /
! | | i
- 4 :
-
__,,,,、 .,、
/'゙´,_/'″ . `\
: ./ i./ ,,..、 ヽ
. / /. l, ,! `,
.| .,..‐.、│ .|
(´゛ ,/ llヽ | こ、これは>>1乙じゃなくて
ヽ -./ ., lliヽ .| イチモツなんだから
/'",i" ゙;、 l'ii,''く .ヽ 変な勘違いしないでよね!
/ ...│ ゙l, l゙゙t, ''ii_ :.!
: /.._ / ヽ \\.`゙~''''''"./
.|-゙ノ/ : ゝ .、 ` .`''←┬゛
l゙ /.r ゛ .゙ヒ, .ヽ,  ゙̄|
. | ./ l ”'、 .゙ゝ........ん
l / ヽ .`' `、、 .,i゛
.l| ! ''''v, ゙''ー .l、
|l゙ .il、 .l .ヽ .¬---イ
.ll゙, ./ ! ,!
.!!...!! ,,゙''''ー .|
l.",! .リ |
l":| .〜''' ,. │
- 5 :
- >>4
ね
- 6 :
- >>4
ピンクでやれksがww
- 7 :
- 過疎ってるやないかい!
- 8 :
- 読み手が書き手にならなかったので
- 9 :
- カスだな
- 10 :
- 読み手が書き手になる時が来たようだな
- 11 :
- やっぱり書き手が少ないとモチベーションも保てないか
- 12 :
- 最近執筆が進まないデス……誰かエネルギー(投下)を下さい!!
- 13 :
- エネルギー不足で餓寸前なので自分も期待……
- 14 :
- 誰か書いてクレー!お願いだー!
- 15 :
- てす
- 16 :
- 「ねえ、依存症って知ってる」
「依存症?酒とかが無いと、震えたり幻覚を見たりするやつか?」
「それは禁断症状…でも、間違ってないかも」
「なんで?」
「私、ひー君にくっついていないと、震えたり眠くなったりするし」
「それはただ、寒いだけじゃ……って、抱き着くな!人の熱を奪うな!!」
「アー、ヌクイ」
「寒いなら、ストーブでもつけろよ」
「え〜、でもこうやって抱き着いていると、だんだん温かくなってくるし」
「恥ずかしくて、体温が上がってるんだよ!」
「暖房いらずだね!本当、クセになるわ〜」
「ちょ!?背中に当たってる!離れろって!」
「あ、どんどん温かくなってきた〜ウリウリ」
「恥ずかしくないのかよ!」
「この温もりのためなら、恥ずかしいことなんて何もないよ?」
「ホッカイロと一緒かよ」
「体だけじゃなく、心も温かくなるから、ひー君はホッカイロ以上だね!」
「嬉しくねぇ」
「心も体も温めてくれるなんて、ひー君しかいないもん」
「ちょ…おま…」
「もっと温まろうね」
そんな寒がり依存娘
- 17 :
- ありがてぇ!ありがてぇ!
枯れ果てた心が潤っていく!
- 18 :
- 御礼に短編書いてきたよ!
芋虫少女依存モノだからグロ注意ね!
- 19 :
- 僕の妹は芋虫だった。正確には、芋虫のような妹。
「おにーさま、おいしいですー」
しゃくしゃくと僕が与えた葉を食べる。
にこにこと笑う可愛らしい少女の首から下は、人間の手足がなく、剥き出しの裸体。
その裸体の脇腹には、小さな虫の足が生えている。
性器には毛が生えそろい、目に入る度に僕をどきりとさせる。
僕の家には、稀にこのような異形の者が生まれるのだという。
先祖が芋虫の化生であった、先祖が芋虫をし回ったから、言い伝えは様々だが、真相は分からない。
妹は本来なら慣例通りにされるはずだった。
それを僕が拒んだゆえに、こうして座敷にて飼育、そう、飼育しているのだった。
「おにーさま、あそんでー」
僕が彼女を抱っこしてやると、彼女は嬉しそうにぴこぴこと腰を振る。
そうして外を見せてやったり、本を読んでやったりすると、妹が聞いてくる。
「なめなめしよー、おにーさま」
無垢な瞳で言う妹。ごくり、と僕の喉が鳴った。
僕は寝転がり、妹がのそのそとその上に乗ってくる。
そして、妹は口で僕のズボンのチャックを下ろし、トランクスのボタンを外し、おちんちんをぱくり、とくわえた。
僕も妹の剥き出しの性器へと、舌を這わせる。
無言のまま、お互いに互いの性器を果実か何かのように舐めしゃぶり、味わう。
空間には、二人の荒い息と、むっとする野性的な卑猥な臭い。
やがてお互いに高まり合い、身体はびくびくと痙攣し合う。
僕達は絶頂を迎える。
妹の小さなお口に、どくどくと精液を流し込むと、ちゅるちゅるとそれを飲み尽くしてくれるのだった。
可愛らしい妹、僕だけの少女。
閉じ込められ、飼育され、僕しか頼れない妹に、卑劣にも僕は悪戯をするようになっていた。
僕が何をしても、構ってくれているのだと喜び、受け入れて。
妹は僕のおちんちんをぺろぺろしながら言う。
「おにーさま、うれしい?」
「ああ、嬉しいよ」
「よかったー」
「おにーさま、しあわせそうで、よかったー」
ある日、妹は繭と化していた。
僕が震えながらそれに触れると、繭を編む糸が身体に絡まっていく。
もがこうとも、暴れようとも、糸は離れはしない。
「おにーさま、つかまえたー。やっと、つかまえたよー」
繭の中から、あどけない声が、ひどく、ひどく嬉しそうな声が、聞こえた……。
- 20 :
- 御礼終了!さよなら、さよなら
- 21 :
- いいねえ!
- 22 :
- 芋虫って江戸川乱歩のあれみたいな比喩表現かと思ったらガチの妖虫かよ
GJ
- 23 :
- 御礼の御礼に、もう一本
「ねえ、依存症って知ってる?」
「また、そのネタか?今日は暖かいぞ?」
「もう!答えになってないよ!ギュー」
「抱き着くなって!てか、熱!?」
「ひー君は、今日は冷たくて気持ちいいな〜」
「お前、風邪ひいてるんじゃないのか?」
「うん!ひー君病にかかってるの!」
「なんだそりゃ……人を病原菌あつかいするな」
「ひー君に抱き着かないと、真っ直ぐ立てない病気なの」
「風邪で足にキテるせいじないか!無理しないで休めよ!」
「やだ!離れると、頭痛はするし目眩がするの」
「今度は薬あつかいですか…」
「新しい風邪の治療法だね!」
「効果があるのは、お前ぐらいだろうが」
「じゃあ、ひー君は私の特効薬なんだ」
「……あまり、嬉しくないな」
「私の薬なんだから、治るまでそばにいないと、ダメなんだからね?」
「分かったから、早く寝ろよ」
「うん…ひー君が一緒だと、風邪が早く治る気がする」
「俺にうつりそうだけどな」
「そうしたら、私がずっとそばにいてあげるからね!」
そんな風邪引き依存娘
- 24 :
- Gj!
これはおちおちしてらんない!
俺も短編書いて今日中に投下する
- 25 :
- GJッス!
一気に3作品投下されてめっちゃ潤いましたよ!
- 26 :
- ギリギリ間に合った
投下させてもらいます
- 27 :
- 大きな森に小さい小屋
夏は涼しい風が木々の隙間を潤し、冬は冷たい海風を防いでくれる
緑が生い茂り、様々な植物や動物が暮らしている森
耳を澄ませば聞こえてくる、親子鹿や小鳥の鳴き声
夜になると肉食動物の雄叫びが子守唄
この森に言葉を使う生き物は今はもう存在しない……なのに森の名前は“小人の森”
何万という生き物が存在する森の中で、なぜ小人と言う言葉を選ぶのか不思議でならないかもしれないけど、理由は分かっている
それはたった一人の小人の存在…
唯一森の中ではまったく無意味な“言葉”を使う生き物が森に住んでいるから
人間同士なら言葉は大切なもの
だけどこの森に人間なんて存在しない…居るのは四方八方に生い茂る草木と豊富な野生動物
――そして、一人の小人だけ…
ひとりぼっちの小人だけ…
△▼△▼△▼△
「今日はこれで終わりなの」
片手斧を両手で掴み薪を割る
自分の身体では両手斧は持つ事は愚か掴む事さえできない
「ありがとうございます、ありがとうございます」
切った木に頭を下げて感謝する
森の返事は…返ってこない
返事は返ってこないけど、暖かい風が私を包みこんでくれた
これが森の返事
- 28 :
- 薪を手にとり小屋の中へ戻り薪を蓙の上に乗せてひと休みすると、水が保管されている樽の栓を抜き、流れてくる水をコップで受け止める
「ごく…ごく…っ…ぷはぁ!一仕事の後の水は格別なの!」
コップを雨水で貯めたもう一つの樽から水を流して洗うと、木製の棚にコップを入れる
この小屋の中にあるモノは全て拾って来たモノ
人間が住む町に夜行くと、たまに壊れた家具を道端に放置していり事があるのだけど、それをその場で解体して持ち帰り、小屋で組み立てる
楽しみといったらこれぐらいしかないかもしれない…
だけど私はこの森で生きている
この森以外にいく場所が無いから…
「ふぅい〜…休憩終わりなの!」
自分専用に作った切株の椅子から飛んで降りると、カゴの中から木の実や花で作った首飾りや腕輪をカバンの中に入れ、草で作った靴を履いて外に飛び出した
「行ってきま〜す!」
誰も居ない小屋に手を振り走り出す
慣れた森の中を踏み外す事なく進んでいくと、小川の音が耳に入り込んできた
小川に到着すると、川沿いに降っていく
二時間ほど走っていくと、遠くに小さく灯かりの固まりが見えてきた
人間が住んでいる“町”と言われる場所だ
- 29 :
- 「よいしょ…んしょ…」
カバンから布でできた帽子を深く被り歩き出す
帽子を被らないとすぐにバレてしまうから仕方ない…
一度だけ帽子を被らずに昼間町に行った事がある
網を持った人間に追いかけ回されて、大変だった…。
生憎、足の速さなら自信があったので走って森に逃げてきた
そんな酷い目にあっても町に出掛けるのは、やっぱり森とは違う温もりがあるからだと思う…
そしてその温もりに一度触れてしまったから…
「……今日は会えるといいの」
ある人間の顔を頭に浮かべて小さく呟くと、自分の声が優しく耳を撫でた
むずむずする…
くすぐったい耳を隠すように帽子をより一層深く被り、急いで町へ向かった――
- 30 :
-
◇◆―◆―◆◇
喧騒喧しく飛び交う人々の声――誰に向けて放たれた声なのかは知らないが、無関係な私の心に靄を落とす雑音は耳障り以外のなにものでも無い
昨日も今日も明日も町の中は賑やかな色を薄めない
毎日が祭の如く、静けさそのものが敵のように騒ぎ続ける
人間、無音になると耳鳴りがするのは様々な音に囲まれて暮らしているからだ
だからこの騒がしい雑音が人間の心に安らぎをもたらせる
人間が作り出す音だから安らぎを覚えるのだ
自然の音は人間には優しすぎる…
体に流れる水、体の中に入り込む空気
町で摂取した全ての汚れを落としたい
この町で暮らして二十年が過ぎ、今年で三十五
私は人間であり続ける事に疲れていた…
高原を駆ける馬になりたい
大地を這う蛇になりたい
流れに逆らう魚になりたい
大空を飛ぶ鷹になりたい
森で暮らすオオカミになりたい
人間を…やめたい…
毎日毎日同じことを考えながら暮らしてきたある日、一人の少女と小さな橋の上で出会った
- 31 :
- 橋の石畳の上に布を引いて、一人で物を売っていたのだ
少女の身なりを見て、まず上町の人間では無い事が分かった
下層にある貧民街の子だと思ったのだ
何処かで拾ったのか、ボロボロになったワンピースに足には草が巻き付けられていた
一人で生きているのか…親の酒を買うために稼いでいるのか…はたまた親が病気なのか…
盗賊にならないだけまだマシなのだろうけど、上層に住む人間の目には良く写らないだろう
「なんだこれ?おまえこんなモノ売ってるのか」
案の定、小綺麗な格好をした子供達が数人集まってきた
「そうなの!どれか欲しいものある?」
帽子を深く被った少女の声は綺麗に透き通っている
下の川を流れる水の音と重なるほどに透き通った声だ
「こんなもん買うヤツいねーよ!」
一人の子供が布の上から首飾りを手に取ると、力いっぱい引っ張った
「あっ!おてて怪我するの!」
立ち上がり少年から首飾りを取り上げようとする
「離せよ!汚いな!」
首飾りごと彼女を突き飛ばすと、布の上に置いていたモノを蹴り飛ばし出した
「やめてなの!」
少女は慌てて布の上の商品を庇った
それでも少年達の粗暴は止まない
- 32 :
- 少女は袋の中に慌てて商品を詰め込むが、その袋さえも取り上げられ少年達で投げ合っている
小さくても人間…これが無邪気に見えるのだろか?橋を渡る大人達は見ても無視して…中には微笑みながら通りすぎて行く婦人もいる
「か、返してなの!」
少女の手の届かないよう袋を高く上げて、取れないように挑発している少年
「さわるなって言ってるだろ!この浮浪者め!」
「きゃっ!」
まとわりつく少女を少年が再度力いっぱい突き飛ばした
派手に後ろへ転がりゴンッと頭をぶつける少女
あれは痛い…
「はぁ…(そろそろ止めに入るか)」
ため息を吐き、少女に歩み寄ると、脱げた帽子を掴み少女の背後に立つ
「キミ、帽子落ッ!?」
彼女の肩を掴み話しかけようとした時、彼女の耳に異変を感じた
尖っている…耳が動物のように尖っているのだ。
「う、うわぁあ!!!なんだおまえの耳!悪魔だ悪魔!」
袋を掴んでいた少年が大きく後ずさると、彼女の耳を指差し悲鳴をあげた
「ッ!?」
帽子が脱げた事に今更気付いたのか、両手で頭を押さえ目を見開いている
「あ、あの…」
キョロキョロと周りを見渡し帽子を探す少女に再度肩を叩き話しかける
- 33 :
- 「ッ……ぁ」
肩をビクつかせ恐る恐る此方へ振り返る少女
その目は完全に恐怖の色に染まっていた
「あぁ!悪魔が逃げたぞ!」
帽子を受け取ることもせず俺の手を振り払い走って橋を渡ると、此方へ振り返る事なく町の外へと逃げていった
なぜ町の外へ?
貧民街に住んでるいるんじゃないのか?
少年達も走って少女を追いかけるが、少女の方が足が達者だ
あれは追い付けない…それに町の外までは追いかけられないだろう
子供だけで町の外に出る事は親に固く禁じられているはずだ
「……」
地面に広げられた布の上に視線を落としてみる
木の実で作ったのだろうか?
踏まれてメチャクチャになってしまっているが、無事な物も数個残っている
「しかし、これを売りに来たのか…」
木の実で作られた首飾りを手に取り眺めてみる…
上手く作られてはいるが、金を出してまで買おうとは思わないだろう
仕方ない……商品を…一応、壊れたモノも布で包み立ち上がると、彼女が姿を消した町の外へと歩き出した
「悪魔は町に来るなー!」
町の外に向かって叫ぶ少年の手には先ほど少女から奪った袋が握られている
「ぐッ、いって!なにするんだよ!」
- 34 :
- 少年の後ろ頭を平手で叩くと、手から強引に袋を取り上げた
バシンッという心地よい音と手の平に残るヒリヒリとした感覚
少しすかっとした
「家に帰ってママの胸でも吸ってろ糞ガキども」
少年達を睨みつけ言い放つと、少年達は悪態をついて走って逃げていった
他人の子供の頭を叩く俺が人の事は言えたものではないが、ろくな人間にならないだろう
「さて…と、追いかけるかな」
走って追いつくだろうか?
三十五歳を迎えたこの身体であの子に追い付けるとは思えないけど…あの耳が気になる
この町に来た当初…まだ子供だった時に一度だけ自宅の窓から見た女の子も耳が尖っていた
顔は思い出せない……キラキラと輝く髪綺麗に反るように尖った耳…それしか思い出せない
父が外灯下に捨てた食器棚を、一生懸命真夜中に解体する少女の姿をずーっと眺めていた
外灯の光に照らされた姿に見惚れていたのかもしれない…次の日、その子を探す為に公園や町中を走り回ったけど見つからなかった
結局その子はその夜にしか姿を現さなかったけど、あれは妖精だと私は思っている
だからあの少女の耳を見た瞬間、あの時の光景が走馬灯のように頭に写し出された
- 35 :
- 「はぁ…はぁっ…はぁ…ッ」
――だから俺は子供だったあの時のように、走っている
荒い砂利道を躓きながらも少女を追いかけているのだ
一時間ほど走り続けると、小川が視界に飛び込んできた
「はぁっはぁっ…痛たたたッ」
脇腹がズキズキと痛む…やはり歳だろうか?息を整え小川の上流側に目を向ける
「お?……居た」
少女を見つけた
川沿いを歩きながら、川に石を投げて遊んでいる
此処までくれば子供が追いかけて来ない事を理解しているのだろう…頭丸出しなので、此処からでも耳が丸見えだ
「お〜いっ!」
話しかけようか少し迷ったが、此処まで来て帰るのもアホらしい…
息を吸い込み、少女に聞こえるよう声をあげた
此方の声に大きく肩をビクつかせ、持っていた石をその場に落とすと、勢いよく此方へ振り向いた
「あ、待て待て!俺はこれを返しに来ただけだ!」
走って逃げようとする少女の後ろ姿に慌てて声をかけ、少女に見えるように置き去りにされた荷物を高く掲げて見せた
十メートルほど走った少女は、疲れた様子を見せる事なく立ち止まり此方へ振り返った
「これ返したいんだけどー?取りに来てくれるか〜?(警戒…されてるな)」
- 36 :
- 荷物をフリフリ振って此方へ歩いてくるように伝えるが、立ち止まったままジーっと此方を見つめている
「……お?」
数分間此方を見つめていたが、突然周りをキョロキョロ見渡すと、おどおどと此方へゆっくり歩み寄ってきた
私以外に誰か人がいないか確認したのだろう
一歩一歩ゆっくり歩いてくる女の子に何も危害を与えない事を知ってもらうために、荷物を持った右手と何も持っていない左手も一応上げておく
「これ…壊れたモノも入ってるけど、一応全部拾ってきたよ」
六メートルほど距離を保った位置で足を止めて、様子を伺っている
これ以上歩み寄ってくる気配を見せないので仕方なく、手を下にさげる
「ッ!?」
それを見た少女は、後ろへまた走って私から距離をとってしまった…
「荷物を此処に置くからな?」
ゆっくりと荷物を地面に置いて後ろへ下がる
彼女との距離が十メートルほど空いた場所で腰を石の上に落とした
じりじりと地雷でも避けてるようにいつでも逃げられる体制でカバンに近づいていく
それを鼻で笑い、眺める
小動物を相手にしているみたいで面白い
そう言えば子供を持った時もこんな感じで楽しかったかも知れない…
- 37 :
- 今では家に居てもただ息苦しい…あれだけ愛していた娘とも会話をしなくなっている
妻なんて所詮他人だ…一緒の家に居るだけのただの他人…
「なんで人間なんてのに産まれたんだ……ん?」
「どっか痛い痛いなの?」
「おわぁ!」
突然現れた覗き込む大きな瞳に身体を大きく仰け反らせると同時に足を滑らせ後ろへ倒れ込む
「だ、大丈夫なの?」
少女が慌てたように俺の手を掴むと、困惑した顔を浮かべたまま優しく引っ張った
「ありがとう」
彼女の手を掴み石に座り直すと、彼女は少しだけ距離をとって小さな石の上にお尻をポスンと落とした
足元には俺が持ってきた布と袋と帽子が置かれている
「あ、ありがとうございますなの…」
「え?あ、あぁ、別にいいよ」
お互いに頭をペコッと下げて見つめあう…。
なんだろう…相手はまだ子供なのだけど、何故か此方も童心に返ったように胸がモヤモヤする
会話が続かないと判断したのか、足元にある布を広げて商品を広げた
やはり殆どが壊れてしまっている…
少女は壊れているものとまだ無事なものを選り分けると、無事なものをカバンの中に入れだした
「ちょっとだけ聞いていいかな?」
「……?」
- 38 :
- ある程度荷物が整理されるのを見計らって少女に話しかけた
此方へ向ける少女の瞳には既に警戒よりも好奇心に満ちている気がした
「キミは何処に住んでいるのかな?」
「森の中なの」
森の中…森の中に家があるのか…
「お父さんとかお母さんも一緒に住んでるの?」
「ピピは一人なの」
「ピピ?」
「ピピはピピなの」
自分を指差す少女
少女の名前がピピらしい
「じゃあ…ピピでいいかい?」
「うん!ピピはなんて呼べばいいの?」
「私の名前はマルス」
「マルス…マルス…マルス!」
今度は私の顔を指差し満面の笑みを浮かべた
そんなに私の名前がおかしかったのだろうか?
ぴょんぴょん飛び回り私の名前を連呼している
「マルスは何処に住んでるの?」
「私は町だよ。ピピが居た所の…ピピはいつも橋の上で物を売っているのかい?」
「売ってる?ピピ売ってないの。人間にあげようと思って持っていくの」
「人間にあげる?」
「うん…ピピ一生懸命作ったから人間にあげるの」
不思議な事を言う子だと思った
あそこの人間は基本物売り目的で路上に座るのだけど…それに人間にって…まるで自分が人間じゃないみたいに……
「……ピピ…君は妖精か何かかい?」
- 39 :
- 唐突に発せられた私の言葉にピピがピタッと止まった
頭がおかしいと思われたのだろうか?
確かにおかしいと思われても仕方ないような発言だ
しかし、少女は少しだけ首を傾げた後、あっけらかんとした表情で妖精では無いと言い放った…そして
――ピピは小人なの!と付け足した
「そっか…小人か」
「驚かないの?」
不安そうに眉を歪ませ問いかけてくるピピに微笑み返す
驚いた…とは少しだけ違うかも知れない
確かに内心驚いてはいるが、それ以上に自分自身ピピが小人だという事実に納得していた
いや、事実かどうかさえ分からない
だけどピピは人間では無い…それは何となく分かった
「小人ってなに食べるんだ?」
「食べもの?落ちてる木の実とか、川の魚とかなの。あっ、木の蜜を溜めてそれを煮詰めると凄く美味しいの!溜まるまで時間がかかるけど、マルスも食べてみればいいの!」
「はは、森に入らないから食べられないんだ。今度よかったらご馳走してくれるかな?」
「ぇ…た、食べてくれるの?」
「作ってくれるなら食べるさ」
「分かったの!じゃあ今から作るの!」
料理が好きなのか、人と食事を取るのが好きなのか
ピピは身体いっぱいで喜びを表現してみせた
- 40 :
- 「それじゃあ今からピピのお家に来るの!」
あれほど警戒していたのに今は私の手を掴み森の中へと連れていこうとしている
グイグイ私の腕を引っ張るピピの後頭部を眺めながら苦笑いを浮かべた
「ピピ、残念ながら今日はダメなんだ」
優しくピピの手を掴み放す
「なんでなの?すぐにピピが作るの」
「ありがとう、今日はほら…もうすぐ暗くなってしまうだろ?家に帰らないとね」
「……」
私の発言が気に入らないのか、どこか拗ねたような表情をしている
「今度会ったら作ってくれるかい?その時は私も何か食べものを持っていくから」
「……分かったの…」
渋々納得してくれたようで、足元に置いてある荷物を纏めると肩に担いでトボトボと歩き出した
「約束だからなー!絶対に甘い蜜食べさせてくれよー!」
遠くなるピピの背中を見送り大きく手を振る
「分かったのー!絶対ぜったい約束なのーーーー!」
ピピも負けず劣らず大きく手を振ると、終始私の事を気にしながら森の中へと消えていった
「……帰るかな」
ピピが居なくなった途端、現状に引き戻されたように身体がだるくなった
- 41 :
- また会えるのだろうか?
会えるなら会いたい…そして先ほどみたいに一時でもいいから現実を遠退けてもらいたい…ピピと居た時間、私は現実の速い時間から抜け出せていた気がする
ただ少女と会話しただけなのに…俺の心は満たされていた
それはピピが現世では考えられない“小人”という夢の生き物だからだと私は思う
ただの人間の少女なら此処まで関わろうとは思わなかっただろう…
荷物もわざわざ届けに来なかったはずだ
ピピが私の理想を持っているから強く興味を引かれたのだ
そして何処と無く脳裏に昔見た少女がピピに入れ替わり、一生懸命に食器棚を解体してる姿に自然と笑いが込み上げてきた――
次会うときが楽しみだ
- 42 :
- ありがとうございました、投下終了です
一回の短編で終わらせようかと思ったけど三回ぐらいに分けます
今度はちゃんと書きますのでよろしくお願いします
- 43 :
- な
- 44 :
- の
- 45 :
- おお!!投下キテター!!
早よう続きをお願いします
- 46 :
- 待ってましたよ!
続きを期待しながら正座して待ってます
- 47 :
- GJ!
純粋無垢な娘はかわいいなあ
- 48 :
- こんばんは
他作者さまの作品でエネルギー補給して何とか書き終わりました。
正座して待ってるのもアレなんで投下します
- 49 :
- 最低な奴
「ねーーーさん。ちーーーあるんだーーい?」
「あーーーたの?そーーーそうな顔しーーって……」
「うん、………最ーー何か変なの。前みたいに私ーーーーーてくれなーーて………」
「ーーーが?」
「そう。クーーーー私に話しかーーーーなくて、ーーーーてもなんかーーーて………
私……なんーーーれる事しちゃーーーな………」
「うーーーーは心当ーーないの?」
「……ーーないの…でーーーーーおかしいの。
ーー登下校もーーーーー言っーーそれに………」
「それに?」
「うーーーーーー…何でーーの」
「ーーーーーーいのだけれど……」
「…………………………ねぇ」
「なに?」
「私…本ーーーーれちゃったのかな……」
「どうしてーーーーかしら?」
「だってそうとーーーーだもんっ!ーーーで…なんでーーーれちゃったのっ⁉」
「ーーー…」
「イヤだーーーーーーーなんて…そーーーの…グスッ…ーーーうぅっ……ヒック……」
「大ーーー……ーーーーーことをーーーになったりしないわよ」
「…グスッ…ヒック……でも…」
「きっーーーー恥ずかしいのよ。はら、友達とかーーーーれたりしたんーーーかしら?」
「本当に?…ーーーーーこと…ヒック………ーーーーいてくれるの?」
「えぇ、そのうちまーーーーてくれるわよ。大ーーー心配しないで」
ーーーーー
ーーー
ー
学園祭が終わって三日が経った。
あの夜、宮都はてっきり父や母から莉緒について問い詰められると思っていたが、それは杞憂に終わった。
一弥も香代も莉緒の事については何も触れずにいてくれた事に、宮都は少なからず感謝をした。
しかしいつまでも両親に甘える訳にもいかない。
いつかは莉緒の俺に対する異常なまでの執着心をどうにかしなくてはならないだろう。
でも今はそれよりもやるべき事がある。
- 50 :
- 「おい、キュートちゃん!こことかどうだよ?」
「ん〜、どこよ?つーかキュートちゃんて言うんじゃねーよ!」
「このイタ飯屋だよ。結構綺麗だし値段も手頃だぜ?」
「無視すんなっ!……でも准は和食派だからなぁ…」
「だからこそだよ。たまにはこういう料理も新鮮でいいんじゃないか?キュートちゃん?」
「う〜ん………だからキュートって言うなっ!」
「つーかさ、別にそこまで深く考えんでも大丈夫だろ?相手は夏目なんだし」
「准だからこそ真剣に決めたいんだよ。…いや、別に柳田の案にケチを付けてる訳じゃないからな。
むしろ休日に協力して貰って本当に感謝してんだ。
だからこれ以上キュートって言うんじゃねえっ!」
「はいはい………
それにな、別にこれくらい構わねーよ。それにこれが初デートになるんだろ?協力しないわけにはいかねーよ」
「………ん」
「なに照れてんだよ。こんな今更」
あのゲームの勝者である准が宮都に望んだ事……それはデートだった。
今までも二人きりで出かけた事は何度もあったが、デートという名目が付くのはこれが初めて。
最初は二人で出かけるだけだと高をくくっていたのだが、ここで困った事が起こった。
准は宮都に全てエスコートして欲しいとも頼んだのだ。
もちろ宮都は、これまでデートの経験など一度も無い。
そして今まで准と出かける時は、いつも二人で行き先を決めていたのだ。
だからエスコートして欲しいと言われても、どこに行けばいいかとか何をすればいいかとか全く分からなかった。
そこで宮都は柳田を頼ったのだ。
宮都が柳田を頼る事にした大きな理由は外見だった。
宮都にしては珍しく『あれだけ格好良い見た目をしていればデートの経験くらいあるだろう』という短絡的な思考である。
そんなわけで、今二人は大学のコンピュータ室でレストランを調べているのだ。
「別に照れてるわけじゃ……」
「いいや、照れてるね。思いっきり照れてる」
「だから照れてない!」
「ふーん? へー? ほー?本当ですか〜キュートちゃん?」
「………ふんっ!」
「痛ぇっ!」
思いっきりにやけている柳田に、宮都はげんこつを喰らわせる。
「お前っ⁉ そんな暴力的な奴だったのか⁉」
柳田は頭をさすりながら、驚いた表情で宮都に問いかる。
「……流石に講義中とかじゃこんな事はしねーよ。今はプライベートだからな。
だからもしも次キュートちゃんって言ったらお前をブッす!」
「………お前も普通の男だったんだな……てっきりピシッとした委員長タイプだと思ってた」
「ふんっ!イメージを壊して悪いけど俺は場所をわきまえてるだけだ。
中学の時から男友達の前ではこんな感じだったぜ?」
「『小宮 宮都の隠された本性、実は腹黒だった!』…みたいな記事書いて良いか?」
「書いた日が柳田の命日になるぞ?」
「書くのはやめるか…」
「その方がいいな、お互いに……」
- 51 :
- 宮都はパソコンに目を戻す。
ディスプレイには様々なレストランのレビューがズラリと並び、30分以上もの時間、宮都を悩ませている。
なにせファミレスでは無いのだ、レストランなのだ!
「うぅぅ……うー…う〜………」
「うーうー言うの止めろよ。スパッと決めちまえ、キュー…何でもない!」
柳田を一瞬横目でジロッと睨み、もう一度画面と睨めっこを開始する。
とにかくレストランの数が多すぎるので全く絞れないのだ。
「今更なんだけどよ…調べ方が悪いからそうなってんじゃねーのか?」
柳田はそう言って検索画面を覗き込む。
そこにあった検索ワードは……
『レストラン 花奈』
「おいっ⁉こんなんじゃ絞れるわけないだろ!」
堪らずツッコミをいれる柳田に不思議そうな表情を向ける宮都。
なぜいけないのか全く分かっていないようだ。
「なんかおかしいか?ちゃんと花奈って地名を入れたぞ?」
「これじゃ広過ぎるだろ!もっとこう……『和食』とか『駅周辺』とか入れろよ!」
そう言われると宮都はハッとした表情になり
「その手があったか!さすが柳田!」
「いや、こんなもん誰でも思いつくだろ普通」
検索ワードに『駅周辺』を追加して調べ直すと、これだけで12件に絞られた。
「おお、良い感じだな。さて、どこにするかな………」
宮都が一覧をじーっと見つめていると、横から柳田が口を出した。
「雰囲気とか重視ならこことかどうだ?値段もそんなしないみたいだし…」
柳田の指差したのはパスタ料理の店だ。
「あ、ここいいかも。和風パスタなんてのもあるし、駅からもかなり近い」
値段もドリンク、デザートがついて1,500円くらいなので、財布にも比較的優しい。
「レビューを見る限りでも結構いい店みたいだし……ここにするか」
「いいのかよ?他のところを見ないままスパッと決めちまって」
「このまま悩んでたら、いつまで経っても決まんないし」
「まぁそれもそうだな……んじゃこのページ印刷してきてやるよ」
柳田は印刷機の方へ歩いて行き、レストランの場所などを印刷して宮都に手渡した。
「ほらよ」
「サンキュ。何から何まで悪いな」
「気にすんな、困った時はお互い様だ。講義では色々世話になってるし」
「それでも気にするのが俺クオリティなんだよ。食堂行こうぜ、なんか奢るよ」
「いや、別にいいって」
「そう言うな。俺もお腹空いてるし」
- 52 :
- 宮都は遠慮する柳田を無理やり引っ張って食堂に連れて行くと、ランチの食券を買って柳田に手渡した。
「本当にいいのか?」
「当たり前だろ、ここまで来て金を払えなんて今更言わねーよ」
未だに遠慮している柳田に苦笑しながら、自分の分の食券を買い列に並ぶ。
「そ、そう?それじゃゴチになります」
二人はランチを受け取ると、適当な席に腰を落ち着かせ食事を始めた。
今日は休日でさらに時間も18時ということもあって2人以外に客は誰もいなかった。
「それにしても…デートかぁ……羨ましいなぁ〜」
不意に柳田がそう言ったので、宮都は不思議そうに見つめる。
「え…、お前だってした事あるんだろ?」
「お前は俺にケンカ売ってんのか?する相手がいねーよ」
「え………」
宮都は絶句した。
…いない?
……柳田に?
…………彼女が?
「なんだよ、その鳩が豆鉄砲食らったような顔は」
「柳田……デートの経験ないの?」
「………………………」
柳田は何も答えずランチを掻き込む。
なんとも気まずい空気を呼び込んでしまったようだ………
「なぁ、小宮。こんな言葉を知ってるか?」
柳田が宮都をジロリと睨みながら言った。
「リア充爆発しろっ!!」
それから少しして………
「はぁ〜あ!本当に!こいつは!俺の!心の傷を!抉りやがって!」
「悪かった。てっきりいるもんだと思い込んでて………」
拗ねる柳田に平謝りしている宮都。
どうやら男としての尊厳を著しく傷付けてしまったようだ。
「どうせ俺には彼女なんかいませんよ……いつも一人ぼっちですよーだ………」
「だーかーらー!悪かったってば!」
「いいよなぁ〜、勝ち組は。俺みたいな寂しい奴とは違って人生楽しそうで……俺も彼女欲しいぜチクショウ!
来世には俺にも可愛い幼馴染が欲しいぜ!ツンデレの!」
「いや、別に准は彼女ってわけじゃないからな?ただの幼馴染だからな?」
宮都は笑いながら柳田の間違いを指摘する。
そう、宮都にとって准は彼女ではなく幼馴染。
それは、これからもずっと変わらなーーー
「……………なぁ……本当にそれでいいのか?」
「え………?」
宮都は柳田が急に真面目な表情になったので面食らう。
「いや、だからさ……夏目との関係だよ。本当にそのままで良いのか?」
「いいんだよ。俺たちはこの関係を望んでーー」
「お前は確かに望んでるかもしれないけどよ……夏目の方はどうなんだ?」
「准だってこの関係の維持を望んでる。実際にそう言ってた」
(俺は確かに聞いたんだ……
准の本心をあの日に……莉緒が大学に来てから数日後の…あの日に)
- 53 :
- それでも柳田はしつこく聞いて来る。
「本当にか?本当に夏目がそう言ったのか?自分から?小宮に?お前が勝手に先を決めたとかじゃなくてか?」
「っ⁉………………」
(俺は……あの時…)
『私はね、ずっと…いつまでも宮都と一緒にいたいの。でも……』
『当ててやろうか?」』
『え?』
『でも、恋人の関係になりたいかと言えばそうじゃない、だろ?』
『!!』
『やっぱりな』
「…………………………………」
「そうなんだな?」
柳田は宮都の長い沈黙を肯定と受け取った。
「いや、でもっ!俺が間違ってたなら准は否定するハズだろ⁉准はそんな事なにもーーーー」
「なにかしら言えない理由でもあったんじゃないか?お前が何か言ったとか…」
「そんな事は………無いと思う。多分だけど………」
宮都は必に思い出す。
あの日交わした会話を、一言一句違わない様に…………
「俺はさ…夏目がお前の恋人になりたく無いと思ってるなんてどうしても考えられないんだよ。
学園祭での夏目の様子をお前は知ってるか?泣いてたんだぞ…夏目」
「な、泣いてた⁉准が⁉どうしてっ!」
宮都は机に身を乗り出して柳田に詰め寄る。
「お前のせいだろ」
「はっ⁉………え……?」
まさかそのような返答が帰ってくるとは思わなかったのか、完全に勢いを削がれてしまったようだ。
「全部聞いたよ、お前らがしてたゲームの内容を…夏目からな。
お前はどういう意図であんなゲームをやろうとしたんだよ?」
「意図って言われても………強いて言うならその方が楽しいと思ったからでーーー」
「そこから既に間違ってんだよっ!」
柳田は少し声を荒げて宮都に詰め寄った。
「な、なにが……」
「その方が面白いと思ったぁ?それはお前の思い込みだっ!
お前と離れ離れで学園祭を過ごすなんて事が夏目にとって楽しいわけねぇだろうが!」
とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、宮都の胸ぐらを掴み怒鳴りつけた。
柳田は今、明らかに怒っている。
まるで自分の事の様に……准の為に怒っている。
「本来こういう事は他人がどうこう口出ししていい問題じゃないと思う。でもな、このままじゃいくらなんでも夏目が可哀想すぎるッ!
夏目はな…お前の事が好きなんだぞ。それはちゃんと理解してんのか?」
「そんなこと言われなくても分かってる!俺だってーーー」
「愛してんのか?」
「な……⁉」
「まさかこの期に及んで好きの意味をはき違えてんじゃねぇだろうな?」
- 54 :
- 「そんな事はーーー」
『イヤなの!宮都が誰かと付き合うのがどうしても………』
『私はね、ずっと…いつまでも宮都と一緒にいたいの』
その次の日の朝、宮都の家に来た時も………
『少しでも早く宮都に会いたかった。微笑んで欲しかった……』
『私たち……ずっと一緒だよ』
この言葉には明らかに好意がある。
幼馴染としてではなく……一人の女性が男性に向ける…純粋な好意が……恋心が…
宮都もその事には、あの時既に気づいていた。
しかし…………
(そんな告白も同然の言葉や行動に対して……俺は……?)
『俺もさ、准とはいつまでも一緒にいたい。
でもさ、今の関係を変えたいかって言われると答えはNOだ』
『准、どうしたんだよ……
昨日、家で待ってろって……言っただろ?』
今の関係が好きだからという理由で…
今の関係を変えたくないというエゴで……
「逃げたんだろ?」
宮都がハッとして前を向くと、柳田が宮都を真正面から見据えていた。
「夏目の告白同然の言葉を受けて、そして逃げたんだろ?」
「…なんの事だよ……告白同然の言葉ってーーー」
「分かるだろ?あの日、森の中で、なんの会話をしたのか」
柳田は知らないはずだ…あの日の会話の事を。
それなのに…
宮都は直感で理解してしまった。
柳田はあの日の会話を知っている………
「…………なんで知ってんだよ?」
「なんでだと思う?少し考えればすぐに分かるぞ。あの日お前が何をしたのかを思い出せばな」
あの日宮都がした事……
「…………………!!まさかっ!」
あの日宮都は、告白同然の言葉を2回聞いた。
一人はもちろん准。
そしてもう一人………
- 55 :
- 「谷野か………」
「正解」
あの日宮都は、谷野からも告白同然の言葉を受け取った。
尤も、それは遠回しにではあったがキチンと断ったが………
「正確には谷野と他の4人だな。女が5人集まるとどんな事でも出来るもんだ……」
「つけられてたのか……あいつら…」
「まぁ、責めるのは酷だろ。告白を断られ、しかもその理由すら教えられなかったんだからな」
「……全部見られてたのか………マジでか…」
宮都はあの日、自分がした事を思い返す…
准に頬ずりした事や准に抱きついた事を……
今更あのくらいの事で恥ずかしいがったりはしないが、他人に見られていたのなら話は別だ………
「……恥ずかしいぜ全く…」
「両手で顔を覆うくらい恥ずかしかったのか……お前のそういう所の基準がわかんねー」
柳田は宮都と准に取材した時の事を思い返す。
あの時宮都はおでことおでこをくっ付けたり、准のほっぺたについたソースを平然と舐めたりしていた。
そのくらいのバカップルぶりを発揮したかと思えば、今度はこのくらいの事に恥ずかしがったりする。
だが決して初々しいカップルという風でもなく…親友以上かつ恋人未満という関係か……?
「まぁそんな事は今はどうでもいいか…」
「なんの話だよ?」
「なんでもねー」
そう、今は過去の2人の関係なんかどうでもいい。
重要なのは未来の2人の関係なのだから。
「それよりもだ、話を戻すぞ。今更隠しはしないが、俺はあの日の会話を知っている。」
「それなら今更俺に聞く事はないんじゃないか?」
「細かいとこは知らないんだよ。俺が知ってるのは大まかな流れだけだ。だから聞きたい。嘘は吐くなよ?」
「分かったよ」
宮都は頷いた。
- 56 :
- 柳田はすぅっと息を吸い込んでから質問する。
「あの日夏目は『この幼馴染の関係を維持する事を望んでいる』と本当に言ったのか?」
「………厳密には俺が先を予想してそれを准が肯定したんだ」
「そこの会話の流れを教えてくれ」
「えっと……
『私はね、ずっと…いつまでも宮都と一緒にいたいの。でも……』
『当ててやろうか?」』
『え?』
『でも、恋人の関係になりたいかと言えばそうじゃない、だろ?』
『!!』
『やっぱりな』
『なんでわかったか不思議か?」』
『俺もだからだよ」』
『え?』
『俺もさ、准とはいつまでも一緒にいたい。でもさ、今の関係を変えたいかって言われると答えはNOだ』
『ハハッ…なんか変だよね……。いつまでも一緒にいたいくらい好きなのに、今の関係を変えたくないなんて」』
という流れだ」
あの日の会話をそのまま柳田に伝える。
それを聞いた柳田はと言うと…
「………………………………」
信じられないといった表情で宮都を見ていた。
じーっと、穴があくのではないかという程に。
「柳田?」
「………信じられない。お前……最低だな…」
多少声が震えている。
心の底からドン引き……いや、それどころか軽蔑している。
「最低って…なんでだよ?」
一方宮都は、なぜ軽蔑されたのかも分かっていない。
「そこまで覚えていてなんで分かんねーんだ!お前自分が何したのか本当に分かってねーのか⁉」
「??」
もの凄い剣幕で捲し立てられるものの、宮都には全く分かっていない様だ。
- 57 :
- 「お前のした事を一から説明してやる!耳かっぽじってよーく聴け!
まず夏目はお前に告白同然の言葉を…つーかもはや告白の言葉を伝えた。『いつまでも一緒にいたい』ってな。
その後夏目がお前に何を言おうとしたのかまでは分からない。
でもお前は夏目が何かをいう前にこう言ったんだ。
『お前は俺の恋人になりたいわけじゃないんだろ?』ってな。
ショックだっただろうな、大好きな奴に勇気を振り絞って告白したのにそんな返答されてな!
でもこれだけだったら夏目にもまだ否定は出来たんだよ。
『ちがう、私は宮都の恋人になりたいの』ってな。
でもお前はその直後こう言ったんだ!
『俺は夏目の恋人にはなりたくない』って、ハッキリと本人に!
そんな事言われたら夏目だってそれ以上何も言えなくなるに決まってんだろ!
本人に真っ向から否定されておいて、『恋人になりたいの』なんて言えるわけない」
柳田の言葉を聞く内に、宮都の顔がみるみる青ざめて行く。
「だから夏目はお前に合わせたんだ!お前の自分勝手な妄想に合わせて自分の気持ちを押さえ込んだんだよ!」
「い、いやっ!待ってくれ!」
とんどん進んで行く話をせき止めて、宮都は柳田に意見する。
しかし依然として顔は青いままだ。
「でもあの時の准の表情はとても嘘を吐いているようには見えなかった」
今まで宮都は准が何か隠し事をしていた時は100%の確率でそれを言い当てて来た。
だからあの時宮都は全く疑わなかったのだ。
指摘されてみると何故疑わなかったのかと思うほどに………
「表情で夏目の全てを分かった気になっているのが悪い。第一本当に表情でわかるのかよ?」
「当たり前だろ!俺はあいつの幼馴染なんだ!あいつの事ならなんでもわかってるっ!」
「つまりその逆も然りって事だな」
柳田は納得したようにウンウンと頷く。
「どういう意味だよ…?」
「お前が夏目の事を何でも分かってるって事は、夏目もお前の事をなんでも分かってるって事だよ
例えば、お前がいつもどうやって嘘を見抜いているか、とか………」
それを聞いた瞬間、ただでさえ青かった宮都の顔がさらに青くなった。
今度こそ宮都は返す言葉をなくしてしまったようで、力なく椅子の背もたれに倒れ掛かり顔を手で覆った。
「……俺は…最低だ…!」
- 58 :
- 5分以上もの沈黙の後やっと絞り出したその言葉は、普段の宮都からは想像出来ないほどに震えていた。
「全部…准の事は何でも分かってるって…本当に……そう思って……俺は…」
柳田はそんな宮都の様子をただ見守っていた。
先ほどまでの怒りも今や完全になくなっている。
「一言だけ言うとな、これは全部俺の想像だ。だからこれが本当に夏目の気持ちかなんて事はわかんねーよ。
でも夏目がお前の事を好きだってことは確実だ。それくらい、見てればすぐに分かる」
宮都の心に柳田の一言一言が身に染みていく。
「だからさ、それに応えてやれよいい加減に……
お前が夏目に対して恋愛感情を持てとまでは強要しないけどよ、このまま夏目を振り回すのはもう止めてやれ
それじゃあな。昼飯ご馳走さん」
最後は優しく諭すように締めくくり柳田はランチの盆を持って席を立った。
自分の愚かさに打ちひしがれている宮都を一人残して…………
「もしもし?ーーーあぁ、そう俺。一応あいつには伝えといたから。
ちょっといきなりすぎて不自然になっちまったかも知れないけど、多分あいつは気付いてないと思うぜ?
ーーーーーーあぁ、そうだな、大分ショックを受けてたな。
ーーーーそう、やっぱり自覚がなかったみたいだった。でも本当にこれで良かったのか?
ーーーーーーいや、確かにそうだけど、君はあの子の親友なんだろ?だったら応援してあげるのが、ーーーーーーまぁな……
ーーーーーーーうん、ーーーーーーなるほど、確かに辛いよな…好きな奴の辛い顔を見るのは……
ーーーーーーーーえ?いや、違う。俺は別にそんな感情はないよ。ーーーーーー…まぁ確かに少し熱くなりすぎたかな。
ーーーーーははっそうだな。ーーーああ、ありがとう。それじゃまたな」
- 59 :
- 以上です
途中で連続投稿に引っかかったので、名前欄が変わったのは気にしないでくださいorz
- 60 :
- ああぁあぁっ!下げ忘れた!本当にごめんなさい!
いつもBB2chから投稿してるからパソコンの方は慣れてないんです。
本当にすみません、以後気をつけます
- 61 :
- グッジョブ!
- 62 :
- >>60
Gjです!
いつも楽しみに見させてもらってます
これで終わりです
投下します
- 63 :
- 「……はぁ…」
今日何度目のため息だろうか?
夕焼けに染まる赤い空を見上げながら、身体に溜まる酸素を吐き出す
身に付けている白いエプロンのヒモをほどくき橋の欄干へ雑にバサッとかけると、エプロンのすぐ横に腰かけた
町の中央にあるレストラン
自営業者としては優遇された場所に店を持たせてもらっている
多くの常連もついて、私一代で店を大きくすることもできた
娘に不十分なく生活させてやりたいと今まで頑張ってきたつもりなのだが…
――パパは私の事を何も分かってない…そんなことだからお母さんも愛想尽かすんじゃない!
娘から放たれた言葉が重くのし掛かる
妻に男が居たのは一年ほど前から気づいていた――初めは問い詰めて辞めさせようと思った…
だけど化粧が濃くなり服装が派手になっていくにつれて、妻の本当の笑顔が私に向いていない事に気づかされた…不器用な自分には妻の本当の笑顔は作れない
一年前までは苛々もしたが、今では正直妻に対して嫉妬という言葉は当てはまらない
強いて言うなら“憂い”が妥当だろう
私が浮気したとして妻は私を問い詰めるのだろうか
妻にはその資格があるのだろうか…
- 64 :
- 私に妻を問い詰める資格が無いように妻にも無いように感じるが、他人の気持ちなど分からない。
安定した収入を持っている私と、離婚するリスクを背負ってまで浮気をするのだから妻は本気なのかもしれない
それでも私は何も感じなかった…
このまま娘の事までどうでもよくなる事が“人間”として怖い反面、解放されるなら…と思ってしまう
「はぁ…戻るか…」
このままではうつ病になるまでため息を吐き続けてしまうかも知れない…
エプロンを掴み町中へと歩き出す…荒れた両手を擦り空に再度目を向けると、真っ赤に燃えた太陽が地平線へと沈んでいくのが視界に入ってきた
「行くかな…」
「マルスっ!」
太陽から目を離しレストランへ戻ろうとした時、後ろから聞き慣れない…だけど忘れられない声が耳に入り込んできた
頭に一人の小人が瞬時に浮かび上がる
「マルスやっと会えたの!」
振り返える前に背中に小さい柔らかな何かがぶつかってきた
「ピピじゃないか!久しぶりだな、元気にしてたか?」
背中に張り付りつき屈託のない笑顔を浮かべる小さな子供
予想通り頭に浮かんだ少女、小人のピピだった
「元気だらけなの!マルス会いたかったの!」
- 65 :
- 尻尾でもはえてるんじゃないだろうか?
そう思えるほど、ピピは喜びを身体全体で表した
「はは、私も会いたかったよ」
ピピの頭を撫でて微笑み返す
ピピを見ていると身体の疲れが落ちていくような気分だ
「マルス、ピピいっぱい蜜集めてたの!だから来るの遅くなっちゃったけど……今から作るから一緒に森に行くの!」
私の右手を脇に抱え込むと、町の外へ連れていこうとした
あの時の約束を覚えてくれていたのか…
「ピピ、今日はまだ仕事あるからダメなんだ」
「いつなら大丈夫?ピピそれまで待ってるの!」
「う〜ん…今日はちょっと無理かな」
今からまだレストランに戻って仕事をしなければいけない…仕事が終わるのが三時間後…外は真っ暗になるだろう
「じゃ…じゃあ此処でマルス待ってるの!」右手をぱっと放すと、橋の隅に座り込んでしまった
「待ってるって今日は多分無理だよ?」
「大丈夫なの!ピピは森に帰っても一人だから、明日まで此処で待ってるの!」
「明日も行けるか…」
「じゃ、じゃあ明後日まで待ってるの!」
ニコニコ笑顔を崩す事なく、私を見上げている
しっかりと地面に腰を落としているあたりこれは帰りそうにない…
- 66 :
- いや、今帰っても間違いなく森の入口に到着する頃には真っ暗になっているはずだ
それにピピをこんな場所に放置して行く訳にもいかない…夜になると浮浪者も彷徨くだろう…
「ピピ、それじゃ今日は私がピピに御馳走してあげるよ」
「御馳走?」
「うん、御馳走」
不思議に首を傾げ、見上げるピピに手を差し出す
何の迷いもなくその手を掴むピピを立ち上がるせると、ピピの手を引いたまま歩き出した――
◇◆―◆―◆◇
「美味しいの!凄く美味しいの!」
目の前のテーブルに並ぶマルスが作った料理を次々に口に運ぶ
「はは、ありがとう」
白い帽子と白いエプロンを着たマルスが奥から歩いてくる
それを見ながら食べる手を休める事なくマルスに話しかけた
「マルス…は…もぐ…もぐん…ぷは、ピピより料理上手いかも知れないの!」
「ゆっくり食べても誰も取らないよ」
「でも…周りにいっぱい人間いるの」
ピピの周りを囲むように人間達が料理を食べている
「これはピピのなの!誰にも渡さないの!」
この料理はマルスがピピに作ってくれたもの…絶対に誰にも渡さない
料理のお皿を真ん中寄せて手で壁を作りながら食べる事にした
- 67 :
- 「はは、でもそうやって食べてくれると作りがいがあるよ」
ピピの食べる姿がそんなにおかしいのか、マルスは口元を押さえて笑いを堪えているようだった
「むぅ…マルスにもあげないの!」
せっかくマルスにもあげようかと思ったのに…もう全部ピピが食べてしまおう
「パパ、もうそろそろ外に閉店看板を立てなきゃ…?誰その子?」
マルスが出てきた通路から一人の人間が出てきた
マルスのように髪は赤みがかっていて、綺麗な顔をした女だ
「ショアナ…」
マルスが女の子を見て小さく呟く
何処と無くマルスの表情が暗くなった気がする…食べる手を止めてショアナと呼ばれた人間に目を向けてみる
マルスと同じように、どこか気まずそうな顔をしている
「服ボロボロだけど…下の町の子?」
「まぁ…そんなところだ」
下の町?下の町とはなんだろう
聞き耳を立てながら再度食事に手を伸ばした
「貧民街の人をレストランにいれると、店の評判に関わるってママに言われたでしょ?」
「言ってたな。だけど私は下層だろうが上層だろうが差別をするつもりは一切無い」
睨むショアナに目を反らす事なく言い放つマルス
- 68 :
- いがみ合ってる…とはまた違うけど、この二人どこか似ている気がする
多分、人間で言うところの家族だと思う
ピピには存在しない家族…
触れ合い、会話をして、一緒に食事をして、仲良く一つの家で眠る
人間が捨てた絵本で読んだ事がある
「はふぃ〜、マルスすごく美味しかったの!」
食べ終えた食器を重ねて、マルスにお礼を伝えると椅子から飛び降りマルスの手を掴んだ
「ちょっと…人の父親の名前呼び捨てにしないでよ」
怒ったようにショアナが私の手をマルスの手から引き離した
「パパも早く厨房に戻ってよね!」
マルスの顔を一際強く睨み付けると、マルスを置いてさっさと中に戻ってしまった…
「あれがマルスの家族?ピピが読んだ絵本と違うの」
「人間にも色々居るからね…」
何処と無く寂しそうな表情を浮かべるマルスにピピの胸も小さく締め付けられる
ピピの頭を一度撫でると、消えそうな背中を見せながらマルスは通路へ消えていった
「マルス…」
マルスの身体から生命力を感じない…此処に来てそれは強く感じた
嫌々この場所に居るような…小さな鳥籠に閉じ込められた小鳥の如く周りを冊で囲まれているようだった――
- 69 :
-
◇◆―◆―◆◇
「あなた!一体どういうつもりなの!?」
バンッとテーブルを両手で叩き立ち上がると、夜中にも関わらず私を妻が怒鳴りつけた
「どういうつもりも何も、食事を作ると約束したから作ってやったんだ」
「あの子お金持ってないでしょ!?もし貧民街の人達があの子の話しを聞き付けて、タダ飯食べれるって勘違いしてレストランに来られたらどう対処するのよ!」
「はぁ…別にピピはそんなこと言い触らさないさ」
言い触らすもなにもピピは町に知り合いなんて私以外いないだろう…
「そんなこと分からないでしょ!?なんでそんな勝手なことばかりするのよ!」
「……」
勝手?勝手をしているのはどっちだ…と怒鳴りかえせば何か変わるのだろうか?
別に私は妻のする事に何一つ文句をつけてないのだから、私のする事にも一々口を出さないでもらいたい
「それにあの子を家に泊めるなんて…」
頭を押さえながら妻がフラフラと椅子に座る
「泊めたのはあの子を一人で帰すのは危険だと判断したからだ。小さな女の子を一人で帰す訳にもいかないだろ」
「親が居るでしょ…」
「親はいないらしい…孤児だそうだ」
貧民街に行けば孤児なんて腐るほど溢れている
- 70 :
- 妻も私の話しを疑う素振りすら見せず、頭を抱えた
何を悩む必要があるのだろうか?
これは私が個人でしている事だ、妻や娘に迷惑などかけているつもりは無い
「パパさぁ…何も分かってないよね。子供の私でも分かるよ。パパは子供のまま大人になったって感じ」
二階からショアナが降りてきた
「不思議な事を言うなショアナ…じゃあショアナが言う“分かっている事”を私に教えてくれないか?」
「……」
黙り込むショアナから目を反らし妻に目を向ける
ショアナは背伸びをして大人の会話に混ざりたいだけだ
私が正論をぶつけると必ず黙ってしまう
だから基本的にショアナの言うことは素直に聞いてやっている
だが、妻となると話は変わってくる
人間味溢れる世間体が第一にくる妻と私は話していると対立する事が多くなってしまう
昔は私も妻の話に耳を傾ける余裕もあったが、歳を取るに連れて矛盾と正論を行き来する妻の言葉に一々引っ掛かるようになってしまった
「とにかく…あの子を追い出してちょうだい」
「無理だ。外を見てモノを言え」
窓ガラスから見える外を指差す
外は小雨が降る闇夜…こんな状況で追い出すほど人間は腐っていないと思いたい
- 71 :
- 「もう我慢の限界だわ…このままでは本当に離婚してもらう事になるわよ?」
「……」
離婚と言う言葉に眉間にシワがよる
離婚するならしてもいい…だが、やはりショアナの事が気になってしまう
「私は離婚するならママに着いていくわよ?」
ショアナに目を向けると、椅子に座る私を見下ろし呟いた
「……」
私はその言葉に返す返事を持っていない…だから私は黙ってしまう
本当に此処ですべてを終わらせていいのか…
レストランは…
娘の将来は…
私が一番嫌っている人間としての欲が頭を支配する
「分かった…ピピに伝えてこよう」
二人が私を追い詰めるように見つめる
やはり私にはこの生活を捨てる勇気がなかった…
「そう…分かった。でも次は無いと思ってちょうだい」
呆れたように言葉を残すと、椅子から立ち上がり寝室へと歩いていった
「はぁあ…私も寝よっと。パパ、おやすみ」
「あぁ…おやすみ」
部屋に戻っていく娘を見送ると、わかりやすく頭を抱えた
ピピになんて言おうか…
「手っ取り早く、出ていけ…か…」
できない…そんな事を言ったらピピがどんな顔するか
それにこんな雨の中にピピを一人で…
- 72 :
- 本当に人間に嫌気がさす…
「いや…自分自身に嫌気がさす…の間違いか」
その方が的を得ている気がする
一番人間臭い自分自身に苛々するのだろう…
だからピピに執着してしまう…
ピピなら私を人間ではなく、別の生き物に変えてくれるんじゃないだろうかと…
背もたれに背を預けると、外へ目を向けた
少しだけ雨が強くなっただろうか
「ピビに理由を話して…謝ろう」
もう会ってくれなくなるだろう…ピピ自身も人間である私に嫌気がさすはずだ
ピピには人間の汚い部分を見られたくなかったが…
考えていても仕方ない
勢いよく椅子から立ち上がると、ピピが居る二階の一室へと足早にに向かった――
「ピピ…ちょっといいかい?」
ピピが居る部屋のドアをコンコンッと二回ノックする
「……」
返答は無い…
「ピピ?入っても大丈夫か?」
再度ノックをしてピピの返答を待ってみる
「……」
やはり返答は無い
もう寝てしまったのだろうか?
だとすると、よりピピに伝えづらくなってしまった
だが、これも仕方の無いこと…ピピは小人で私は人間
初めから住む世界が違っただけのことだ
「ピピ、入るぞ」
ノブに手を掛けると、ゆっくりとドアを開けた――
- 73 :
- 「…ピピ?」
扉を開けて、中に入ると居るはずのピピの姿が見えなかった
隠れているのだろうか?
まさか話しを聞かれて…
「ピピ、どこだ?」
ベッドに近づき、ベッドの下を覗き込んで見る
居ない
後はクローゼットぐらいだ
この部屋はもう一人子供ができた時のためにと作られた部屋なので、基本的にモノは置いていない
何となく足音を消しながらクローゼットへ近づいて、クローゼットに耳を当てた
何も聞こえない…
クローゼットの取っ手に手を掛け開ける
「……ピピ、何処に行ったんだ」
クローゼットの中は空っぽだった
だとすると、やはり森に帰ってしまったのだろうか…
「そりゃそうだよな…あんな話し聞かされたら」
ベッドに腰かけ何気無しに周りを見渡してみる
ふと、窓からすきま風が入って来ている事に気がついた
すきまから少し雨が入ってきて、床を濡らしている
「あっ…そう言えば…」
濡れる床を見て昔の記憶が蘇る
確かあの時も小雨の音が心地よく…だけどどこか怖く耳に響いていた
だからカーテンを閉めるために窓に歩み寄って…
「……」
自然とあの時のように足は窓際へ勝手に歩いていた――
カーテンの隙間に指を差し入れ、外に目を向けてみる
- 74 :
- 音で分かるように、やはり外は小雨が降っている
月の光でも少しわかりづらい…外灯の光を見てやっと分かる程の雨だ
その人工的に作られた光の中に、ピピは居た
雨の中、私が外灯下に捨てた使わなくなった客用のテーブルを一人解体している――
多分、他の者が見たら浮浪者がゴミをあさっているように見えるかも知れない
しかし、私にははっきりと耳に聞こえていた
――ピピは雨の中、楽しそうに鼻歌を歌いながら、ダンスを踊っているように、テーブルを解体しているのだ
子供の頃に見たあの時と同じように…
私の疑問が確信に変わった瞬間だった
あの時見た妖精は間違いなく小人のピピだ
だとしたらピピは成長していないように思う…やはり、ピピは正真正銘おとぎ話に出てくる小人なのだ
「ピピ!」
あの時は得体が知れなくて声がかけられなかった――だけど、今は違う
外灯下で鼻歌を歌う妖精は、私の知っている小人のピピなのだ
「あっ、マルス!」
私の声に気がついたピピは、窓から見下ろす私を見上げて泥だらけの顔を笑顔で輝かせた
ピカピカ光る髪は外灯の光を反射する雨の雫――
- 75 :
- 「やっぱりピピだったのか!」
窓から身体を乗りだし込み上げてくる喜びを隠す事なくピピに声をかけた
「何がなの?暇ならマルスも手伝ってなの!」
笑顔を浮かべたまま、片手を差し出すピピ
この距離では掴めない
だけどピピは目の前に私が居るかの如く手を差し出した
「こ、工具を持って行くから待っててくれ!」
それを数秒見つめた後、私は急いで部屋を飛び出した
階段ですれ違う妻の横を通り抜け――後ろから聞こえる娘の声にも耳を貸さず――私はピピの元へと走っていた
シワだらけの三十五歳の顔にもっと多くシワを寄せて
あの時、窓から見つめる事しかできなかった…私が言いたくても言えなかった言葉をピピに言いたい…
――倉庫から工具を取り出すと、慌てて外へ飛び出す
「マルス、早くするの!」
ピピは外灯の下で両手を大きく振って私を待っていた
「はぁ、はぁ、ピピ!」
「マルスどうしたの?」
息荒く走り寄ってきた私にピピは再度手を差し出した
――それを優しく握ると、ピピの瞳を見て口を開いた
「私の………ボクの友達になってくれないか?」
- 76 :
- この時、私の心は少年の様に清んでいたと思う
その証拠に、私の心には妻の事も…愛する娘の事さえも…初めから記憶に無いように綺麗に消えていたのだから
「大丈夫なの…ピピはもう決めたから。あの人間達にはマルスの――には相応しくないの。
ピピがマルスの――になってあげるの」
ピピの小さな声と雨で聞こえなかったが、ピピの顔を見る限り友達になってくれるようだ
「よし…それじゃあ解体するか!」
「おー、なの!」
この夜、私はピピと一晩中雨の中、笑い合いながらゴミを漁っていた
そしてピピと二人解体したモノを背負い歩き出すと、自分の家には帰らずピピが住む森へとそのまま向かった
ただ、どうやって来たのか分からないが、気がついた時には鬱蒼と茂る木々に囲まれた小さな小屋の中でピピと眠っていた
今まで何をしていたのだろうか?
辛かった気がする…
何が?
分からない…
だけど今が幸せだから別にいい…
「此処がピピの…ピピとマルスの家なの」
あぁ…そうだ
帰ってきたんだ…
「もう、大丈夫なの…ピピがずっと一緒に居るの」
自分の家に帰ってきたんだ――
- 77 :
- 「此処にずっと居ると辛い事も何もないの。
誰もマルスを責めない…誰もマルスを追い詰めない…誰もマルスと会わないの…私が家族なの」
家族?だから暖かいんだ――自分の家だから――自分の家族だから――
「ただいま…」
「おかえりなの…マルス」
ピピの温もりと甘い蜜の香りに包まれて、私は深い眠りについた
次起きたら温かくて甘い蜜を食べさせてくれるだろう……ピピと私の約束だから
大切な大切な…約束だか…ら…
- 78 :
- ありがとうございました、投下終了です。
短編で終わらせるのはやっぱり難しいですね…
- 79 :
- >>78
GJです!
めっちゃ心が温まりました!
- 80 :
- GJ!
包容力のある女の子はかわいいなあ
- 81 :
- 流石に人が少なすぎる
- 82 :
- まぁ読む人間居なかったら作者も離れるわな
- 83 :
- GJ‼
作者の皆さんに失礼な言い方にはなるんだけど
投下が増えれば読者も当然増えると思う
- 84 :
- 雑談でもしてたら読む人居るんだなぁって感じで投下意欲も沸くけれど、書き込みすらないスレでは作者だって書く気はおきない
夢の国が終わったあたりから人が消えたな
長編SSがまた来たらまた書き込みも増えるんだろうか…
- 85 :
- 夢の国みたいな超長編は作者さんにとって大変だろうけど、確かに長編くるとテンションがあがる
- 86 :
- お久です。
私は天秤投下する時にエロ書けないと言いましたが、あれは天秤キャラでエロを書きたくないと言う事です。
あの時はこっちを書くなんて思ってなかったですから…
ゆっくりと投下します。
- 87 :
- 〜壊れゆく安息〜
「えぇ、先ほどいらっしゃいましたよ。部屋は410号室ですね」
「そうか…ありがとう。よし、いくぞ!」
レゼダは部下を数人引き連れて宿屋の奥へと進んで行った。
宿泊客の何人かは好奇の目で彼らを見るが、それすらも今のレゼダには眼中に入らなかった。
その理由というのは……
「しかしレゼダ様。本当にあの少年は何者なんでしょうか?
グレーンスネークを1人であの様な状態にする事など本当に可能なのですか?
もしくはレゼダ様のお考え通り、あの少年はーー」
「今からそれを確認しに行くのだ。少し静かにしていろ」
もし、私の仮説が正しければ…我々はあの少年を討伐せねばなくなるかもしれん。
そう…彼が魔族だったとしたら……全ての辻褄が合うのだ………
あの時の溢れんばかりの気。
グレーンスネークを1人で始末できるほどの魔力。
そして…謎の魔術。
しかし我々に倒せるだろうか……?
グレーンスネークをも簡単にすあの少年を……
…………いや、出来る出来ないの問題ではない。
やらなくてはならないのだ。
我々が…街を守る自警団が……
この命に代えてでも………
魔族は悪。
街の中に入れてはならない。
絶対にさなくてはならない存在……
- 88 :
- 「レゼダ様、ここですね」
「ああ」
階段で向かった4階の一番奥にその部屋はあった。
扉をノックしようと手を上げたものの、その手は空中で停止し動かす事が出来なくなってしまった。
「レゼダ様?如何なさいましたか?」
部下が不審そうな目で私を覗き込んでくる。
それもそうだろう。
私の手はドアを叩く寸前でピタリと静止したのだから……
しかし私自身もなぜ手が止まってしまったのか全く分からない。
それは恐怖ゆえか、緊張ゆえか、はたまた命を救ってもらった事から来る負い目ゆえなのか………
…………私にも分からない。
「あぁ、すまない。少し考え事をしただけだ」
私はドアを叩いた。
コンッコンッ
木製のドアは小気味良い音を立てて室内の人物に来客を告げる。
「……………」
ノックからホンの数秒間、しかし私にとっては永遠とも思える時間が流れる。
相手がどの様な反応をするのか……もしいきなり攻撃して来たらどう対処すればいいのか……
たった数秒間で、50を超える様々な思いが私の中を駆け巡った。
私も部下も一言を発する事無く、只々相手の反応を待つという緊張に満ち満ちた時が流れる。
しかしその時はとても呆気ないありふれた音で終わりを迎える事となった。
- 89 :
- ガチャ……キィィ………
鍵が開く音とドアが軋みながら開く音。
そして開いたドアの先には1人の少年ーーカルディナルと名乗った少年が立っていた。
少年は私の後ろにいる数人の自警団に驚いた様子を見せる事も無くドアを大きく開き我々を中へと招き入れた。
………それはまるで、我々がやって来る事を覚悟していたかの様にも見える。
やはりこの少年は魔族なのだろうか?
それからお互いが椅子に座るまでの間、私は少年の一動一挙をつぶさに観察した。
…が、なにも不審な点や動きは見受けられなかった。
しかし油断は出来ない。
この少年は何を思っているかなど我々に知る術は無いのだから………
ここから逃げる手段?
我々を始末する手段?
それともなにも考えていない?
この少年が魔族であるというのは我々の思い違い?
……よそう、考えるだけ無駄な事だ。
そして私はここに来る前に用意しておいたセリフを口に出した。
予想はしていた。
あの蛇を1人で始末できるほどの人間など今まで存在した事は無い。
そんな事が出来るのは魔族くらいだ。
そう、俺の様に………
必ず怪しまれると思った。
だから怪しまれない様に蛇を倒す事はせず、ただ逃げ回って時間を潰そう。
そう思ってたんだよ!
そうすればその内助けが来る。
俺の事を怪しまれる事もなかった!
- 90 :
- しかし出来なかった……
イリスをレゼダという男に託して蛇と対峙した瞬間、おれの身体中を何かが駆け巡った。
それはまるで蛇の様に脚へと絡みつき、まるで水の様に俺を満たした。
最初その『何か』の正体は分からなかったが、辺りを見渡した瞬間その正体は鮮明に俺の脳を支配した。
誰もいない…
俺以外誰も……
さっきまでいた見習い達…
その責任者のレゼダという男も……
今まで片時も離れずに過ごしたイリスも………
途端に脚が竦んだ。
息が詰まり呼吸が出来なくなった。
この胸が痛いくらいに早鐘を打ち始めた。
恐怖
蛇が怖かったのではない。
『独り』が怖かったのだ。
ほんの10日前までは長き時を『独り』でいたにも関わらず俺は『独り』に恐怖した。
そしてそれを自覚した瞬間、俺の中をイリスが支配した。
イリスの声が…
イリスの笑顔が……
イリスの温かさが………
イリスとの食事が…………
イリスと共に過ごした時が……………
そして………
砂煙が周りを満たし、そこを突き抜けて鼻腔を蹂躙する血の匂い。
それもそうだろう。
俺の半径1m以内を除き、周りの大地は血を吸い紅で満たされている。
- 91 :
- 無意識の内に障壁の魔術を張っていたのだろうか、返り血は一滴たりとも身を穢してはいない。
やがて砂塵が治まり、この大地を赤く染めた生物の正体が現れた。
先ほどまで獰猛な唸り声をあげていた生物は、既に物言わぬ塊に成り果てていた。
その巨大な頭をグシャグシャに潰されて………
俺はその光景を呆然と見つめていたが、ハッと我に帰った。
どれほどの時間が過ぎ去った頃だろうか、俺は門に向かって走った。
後の事も先の事も考えずひたすら走った。
やがて門の内側からイリスの声が…泣き声が聞こえてきた時、俺は不謹慎ながらも安堵した。
街の大門が開き中からイリスが一目散に駆け寄ってきて抱きついてくれて本当に嬉しかった。
本当なら俺もイリスを抱きしめ返して……泣きたかったのかもしれない。
でも俺にはそんな事は出来ない。
俺は…イリスにとっての支えにならなくてはならないから……
どんなことがあってもイリスの前で弱い所を見せることは出来ない。
俺に出来るのはせいぜいイリスを安心させるために道化を演じることだけ……
どんなに怖いことがあっても、悲しいことがあっても……明るく振る舞う事しか出来ない。
そしてそれは……今も同じ事だ。
魔族である事を疑われるのは慣れている。
でも、その時に感じる胸に突き刺さる痛みにはいつまで経っても慣れる事はない。
でもその痛みをイリスに見せるわけにはいかない。
俺は…イリスの支えだから…………
「先ほどの失態を詫びにきた」
レゼダは俺の前に立ち上がるなり深く頭を下げ、それに倣って部下の面々も頭を下げた。
- 92 :
- 「旅人がいながら未熟な訓練生の訓練を実施したことは、完全に私の失態だった。
一歩間違えれば取り返しのつかない事態になっていたかもしれん。本当に済まなかった
私に出来る償いがあーーー」
「構わない」
俺はレゼダの謝罪を途中で遮った。
「確かにアンタには大きな失態があった。だがそれを俺に謝罪するくらいなら二度とこの様な事が起こらない様にしろ。
今回は幸いにも怪我人はいな……アンタは頭に怪我したんだっけか……重傷人はいなかったんだ。
その僥倖に感謝して次に生かす事だけを考えろ」
少し長い説教になっちまったがまぁいい。
どうせこのくらいに高い地位になっちまうと他人からの説教なんて滅多に受けないだろうからな。
いい薬になるだろう。
「それでだ。あのグレーンスネークを売却したいんだが頼めるか?」
俺にとってはこっちの話題の方が重要だ。
なにせグレーンスネークは高く売れる。
皮は丈夫な鎧や盾、鞄などに加工され肉は食用になる。
牙はナイフになり目や肝は漢方薬になる。
「分かった。せめてもの償いにこの街1番の商会に案内しよう。出来るだけ高く買い取る様にさせる」
そんな必要はないんだけどなぁ……まぁいいか、好意には甘えよう。
「ところで連れの少女の姿が無いが、どうしたんだ?出来れば彼女にも謝罪させて欲しいんだが」
「あぁ、イリスならーーー」
「ルディさ〜ん。上がりましたよ〜♪」
どうやら答える前に答えが来たようだな。
「そうか、湯加減はどう…だ…っ………」
俺、一時停止。
- 93 :
- いやなちえるえうぇ?!!??!
あなさらやくゆへや!????!
ゆれにけけやこにょ!??!!!
ねつゆぬへにりやぢ?!?!!?
……………………………………ふぅ、落ち着いた……
いや、別に賢者がどうとかじゃなくて……俺魔族だし。
うん、もうちょっと頑張ろう!
「イリス。俺、もうちょっと頑張るよ………」
「?はいっ!私も頑張ります!」
にっこりとした笑顔で応えてくれる。
なにこの子は……天使の生まれ変わりなんじゃないのか?
白い肌、美しい裸体、上気して赤らんだ顔、………美しすぎる。
……………じゃなくてっ!!
「きゃっ⁉」
急いでイリスに毛布を投げつけ体を隠す。
「ど、どうしたんですか?この毛布はーー」
「いいからしばらくそのままにしてなさい!それでお前達は……」
振り向いた先には顔をそらしてイリスを見ようとしないでいるレゼダと……
「てめぇらポケーっとしてんじゃねぇっ!とっとと出てけぇええっ!!」
仄かに気を込めて怒鳴ってやると、部下共は怯えたように逃げて行き、レゼダの方も
「あぁ…その、部屋の外で待つ。私もついて行った方が商会の面々の印象も良いだろう」
そう言い残して部屋を出て行った。
「たくっ!あの野郎共め…」
「あの?ルディさーー」
「イリスは早く浴衣を直してくれっ!」
風呂上りのイリスの格好は、この宿に置いてある瑠璃色の浴衣姿でサイズもピッタリだ。
ただ一つほど問題があって……
「……えっとこうかな?あれ?」
全く着こなせてないんだよ!
ほとんど開けた(はだけた)格好だったからな?
ぎりぎりで下の大事な所と上のお山の頂点は隠れてたけどな!!
- 94 :
- 「あっ!帯落としちゃった」
「お、おい⁉」
イリスは落とした帯を前屈みになって拾おうとすると、前でクロスしてある部分がバッサリと開いて……
「止まれえぇえぇぇ!!」
大声で静止を呼びかけてイリスを止める。
「ど、どうしたんですか?その、何か私失礼な事を……?」
うん。俺の理性に対してかなり失礼な事を……
「い、いやそうじゃなくてよ………ああそうだイリスは帯結べないんじゃないのか俺が結んでやるよ!」
一気に喋り切ってから答えを聞くよりも早く帯を拾い上げイリスの後ろに回る。
その間わずか1秒、もちろん目は瞑ったままだ!
「本当ですか?お願いします。実は難しくて結べなかったんです!」
この数日で分かったことがある。
イリスはとんでもなく不器用だ……
その度合いは話し方や生い立ちからは考えられない。
服を一人で上手に着れない。
食事も結構危なっかしい。
料理も出来ない。
恐らく掃除とかも出来ないだろうと思われる。
また、自分の事に無頓着でもある。
今の風呂上りの様子からしても分かるように恥じらいがないんだよコイツ!
今から考えてみれば、最初に会った時も薬を塗るって言った途端に服を脱ぎ始めたからな!
この10日間一体俺の理性をどれ程までに摩耗させて来たか………
- 95 :
- 「結べたぞ。キツくないか?」
「はい、大丈夫です!」
「よし、ひとまずこれで安心だな」
元気良く返事してくれるイリスの頭を撫でつつ俺は事のいきさつを手短に伝えた。
外に自警団が来ている事やイリスに謝罪したいこと、さっきの蛇を売りに行く事などだ。
「イリスはどうする?多分暇だろうし別行動でもーーー」
「行きます!ついて行きます!ルディさんと一緒にいられるなら退屈なんてありえませんっ!!」
食い気味に返事をして来た……
「そうか?そんじゃ行くか」
イリスを連れて部屋のドアを開けると、そこにはレゼダが立っていた。
「待たせてすまなかった、ちょっと準備しててな。ところで部下達の姿が見えないが?」
「部下は帰らせた。あまり大勢で向かっても邪魔だからな。それよりも……」
レゼダは先ほど俺にした通りの謝罪をイリスにもした。
イリスはそれをムスッとしながら黙って聞いていたが、謝罪が終わると『いえ、別に気にしてません』とぶっきらぼうに返事をした。
レゼダは少し気まずそうにしていたが、『商会まで案内する』と言うと先を歩き始めた。
「なぁどうしたんだ?そんなにムスッとして」
歩きながらイリスに小声で聞く。
「さっきあの人はルディさんを外においたまま扉を封印しました。そんな人なんか許したくないです」
イリスはムスッとしたまま小声で返事をした。
「……そうか。…………ありがとう」
「え?何か言いましたか?」
「いや、別になんでもない」
俺なんかの為に心から怒ってくれるイリスに感謝をしつつ、宿屋の外へ出た。
この街は大通りが二つ存在し、それが街の中心で直角にクロスしている。
そしてその大通りの両脇には沢山の店が所狭しと並んでいる。
人通りもそれなりに多く、あちこちで物の売り買いが盛んに行われているようだ。
たまに見かける狭い小道は恐らく住宅街などに繋がっているのだろう。
つまり俺たちは、この大通りから外れなければ迷子にはならないという事だ。
- 96 :
- 「この街は随分と賑わっているんだな。周りが森に囲まれているにも関わらず……結構珍しいな」
店の中には魚介類の専門店もある。
ここから海までは一体どれ程あるんだ?
「確かに凄く賑やかですね。さっきのケーキ屋さんなんかたくさん人が並んでましたよ」
さすが女の子だけはあってそういう店には敏感みたいだな。
後で買って行こうかな……
そんな会話を2人でしていると前方にいたレゼダが説明をしてくれた。
「この街はここから北に関所を設けていてな。そこで様々な物を売買しているんだ」
「魔物がいるこの御時世に関所なんか通る奴いるのか?」
「当たり前だろう?魔物を狩って生活しているハンターや鉱山目当ての団体などたくさんいる」
そ、そうなのか……
今まで関所なんか通らずに森を一直線に突き進んでいたから知らなかった………
「特にここは経済の中心を担う街バームステンから最も近い街だからな。立ち寄る人間も多い」
「あぁ…なるほど………」
イリスの方をちらっと見ると複雑な表情で俯いている。
どうやらまだ完全には吹っ切れてないみたいだな………
「それにしてもお腹空きましたね」
「そうだな。前にご飯食べたの随分昔な気がするよな。まだ4時間位しか経ってないのに……」
「ならば商会に行く前に腹拵え(はらごしらえ)でもしてはどうだ?」
そう言ってレゼダはすぐそばにあった一軒の店を指差した。
「これは何の店だ?ええ〜っと……あれはキノコの絵か?」
「採れたての山菜や野菜が美味しい店だ。味は私が保証する」
「どうする?ここでいいか?」
「はいっ!」
満場一致で店に入ると、なるほど…野菜独特の香りがする。
そして店員からメニューを受け取りイリスと一緒に眺める。
「これが美味しそうだな」
「ルディさん!こっちも美味しそうですよ!」
「そうだなぁ………迷うな……」
- 97 :
- 結局俺とイリスはサラダと山菜の揚げ物のセットを、レゼダはフルーツジュースを注文した。
「いいのか?飲み物だけで?」
「一応私はまだ仕事中だからな。食事を取ったり酒を飲むわけにもいかない」
なるほど。それは悪い事をしたかな……
「あの……ルディさん……少しおトイレに行ってきます……」
注文待ちの最中、ほんのりと顔を染めてイリスが席を立った。
別にいちいち報告しなくてもいいのに…律儀と言うかなんと言うか……
そんな事を思いながらボーッと注文を待つ体制に戻る。
するとこの機をずっと待っていたのであろうレゼダが話しかけてきた。
「…少しいいだろうか?聞きたい事があるのだが……」
その表情はかなり強張っていて、口に出す言葉を一句一言吟味しているようだった。
ここまで腫れ物扱いされると流石に少し悲しい……
でもそれも仕方のない事か……俺はこくんと頷いて先を促す事にする。
「かたじけない。早速だが…旅はどの位続けているんだ?」
「もうかなり長いこと続けている。生まれた時から親に連れられて国々を転々としていたからな」
大嘘だがな……
「親はどうしたんだ?」
俺は黙って首を横に降った。
これで恐らく通じるだろう。
……大嘘だけど。
案の定、レゼダは小さくすまない、と詫びをして次の質問に移った。
「歳は幾つだ?」
「俺は17、イリスは14」
大嘘だけどな…実際は600超えてるし………本当は何歳だっけ?
「旅の目的はなんだ?」
「特にない」
これは本当の事だ。
「ふむ……」
レゼダはなにやら考え込む仕草をしながら次の質問に移る。
- 98 :
- 「どうやら魔術を得意としているようだが何が使えるんだ?」
「一通りは使える。火炎 水 雷撃 氷 大地 風 光 その他諸々だ」
「その歳それ程までにかっ⁉」
「これ位出来ないと生きていけないような環境で育ったからな…
だからグレーンスネークも簡単に始末出来るわけだ」
「⁉」
レゼダは案の定驚いた様子を見せる。
そりゃそうだろうな。
どのように聞こうかと思っていたデリケートな話題を相手から出してくれたんだから。
「俺は実践経験だけで言えば恐らくアンタの数十倍はある。物心ついた時から戦ってるからな」
実際は数十倍じゃきかないだろうけどな。
「だから分かっちまうんだよ。アンタが何を考えているかがな。今までもそうだったし」
「……どういう意味だ?」
「別に白を切る必要なんかねぇよ。慣れてるから」
「………分かった。それでは率直に聞こう」
「どうぞ?」
「君は一体何者なんだ?」
「何者とは……魔族なのかそうではないかという事か?」
「ッ⁉」
「そんなに驚く事もないだろ?それに俺も慣れてるからな」
嘘だ。
人間から半ば恐れられ疑われる事には何百年経っても慣れる事はない。
「そしてその問いに対する答えだが……」
ここで一旦区切って溜めを作り……そして一気に吐き出す。
「仮にここで俺が魔族ではないと言ったところでアンタはそれを信じないだろ?」
「………」
「だからそれについては保留しとく。強いて言うなら旅人だとでも言うさ」
「……分かった。不快にさせてしまったならばすまない」
「不快にならないと言えば嘘になるけどよ。まぁいいさ、この位で怒る程器は小さくないつもりだ」
自分ではカラカラ笑いながら言えたとは思うが…向こうはどう受け取っただろう………
どっちにしろ空気は気まずいけどな。
- 99 :
- 「旅は楽しいか?」
向こうもそれを思ったらしく、俺に対して話題を振ってきた。
そうだな………少しからかってやろうかな。
「まぁな。何度かにかけたけど楽しい事も多い」
「君程の実力者でも危険な事があるのか?例えばどういう事が?」
「最近じゃ…そうだな………サキュバスに会った時かな」
「サキュっ⁉」
「ああ、アンタが想像した通りのサキュバスだ。あいつらはマジでうぜぇ……」
「き、君!あまりそういう話はーーー」
「森を歩いてたらいきなり飛びかかって来てよ。しかもいきなり全裸で。
よっぽど腹を空かせてたのか知らねぇが一瞬でローブを捲られてーーー」
「分かった!もういい!君がそんな辛い目に遭っていたなんて知らなかったんだ!」
「………何か勘違いしてるようだが、俺は微塵も精気を吸われてねーぞ?」
「……む?それでは何故危険な目に遭ったと言うのだ?」
「何とか逃げる事は出来たんだが、それから三晩三日追い回されたんだよ……全くの不休不眠で。
後ろを振り向くと真っ裸の女が血走った目で俺を追いかけて来ててな。その形相がぬ程怖かった」
今思い出しても悪寒が走る……あの時は本当にぬかと思った………
「なまじ美人だから対処に困るんだよ。人型でさらに美人。始末するのも心が痛むし……」
ちなみにこの出来事はイリスに出会う数日前。
バームステン近辺の森辺りでやっと逃げ切ったんだけどよ……その時運悪く近くに人間がいたんだよ。
それがあの馬鹿姉弟って訳で…俺もやっと逃げ切って油断してたんだ。
全く気付かないまま独り言で『魔族じゃなきゃ逃げきれんかったぞ!あの変態女!』ってな。
それから何度も命を狙われる羽目に……一体どこまで俺を苦しめやがるんだあのサキュバスは!
……いや、あいつのおかげで俺はイリスと出会えたんだから結果オーライか?
「それは……凄まじい体験だな………」
俺のゲンナリした表情から如何に酷い目に遭ったのか察してくれたのだろう。
レゼダの目は気の毒な少年を見るものになっていた………
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