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2013年01月創作発表33: ロボット物SS総合スレ 71号機 (555) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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ロボット物SS総合スレ 71号機


1 :2012/09/04 〜 最終レス :2013/01/03
ロボット物のアニメ・漫画・小説・ゲームの二次創作から、
オリジナルのロボット物一次創作まで 何 で も どうぞ。
・当機はSSに限らず、イラストや立体物も受け付けています。
・投下の後、しばらく雑談は控えてください。
・ガンダムやマクロス等の有名作は、該当する専用SSスレが立った場合はそちらへ。もしなければ全部ここでやればいいんじゃあないでしょうか。
・支援のご利用は計画的に。詳しくは投下の際の豆知識を参照してください。 →http://www13.atwiki.jp/sousakurobo/pages/884.html
・次スレは>>950が立てて下さい。次スレが立つまでは減速を。
・また、容量が470KBを超えた場合は要相談。
・立てられない場合は報告及び相談を。スレ立ての際は必ず宣言を行ってください。でないと、黒歴史が来るぞぉぉぉぉ!!
・とある方が言っておられました。「話題が気に入らないなら、四の五の言わずネタを振れ」雑談のネタが気に入らない時は、新しくネタを振りましょう。
・スルー検定10級実施中です。荒らしは華麗スルーしてください。それが紳士の条件です。
・着実に、一歩ずつ
まとめwiki
http://www13.atwiki.jp/sousakurobo/
ロボット作品投下用アップローダー
http://ux.getuploader.com/sousakurobo/
ロボット作品投下用アップローダー2番艦
http://ux.getuploader.com/sousakurobo2nd/
お絵かき掲示板
http://www2.atpaint.jp/sousakurobo/
ロボット物SS総合スレin避難所28号機
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1321198338/
前スレ
ロボット物SS総合スレ 70号機
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1341418413/
関連スレ
だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ7(ガンダムSS総合スレ)
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322491231/
勇者シリーズSS総合スレ Part4
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1282636520/

2 :
スレ発祥連載作品紹介!(※紹介文には多少の誇張表現も含まれています)
【荒野に生きる(仮) ◆8XPVCvJbvQ】
再生暦164年、コンクリートの荒野が広がる未来――。
獣の耳と尻尾を持つ「ヒューマニマル」の少女達はひたすらに戦う。対鋼獣用人型兵器・ヴァドルを駆って――!!
怪獣VS獣耳っ娘!? 話題騒然のデスマッチ!!
【CR ―Code Revegeon― 古時計屋 ◆klsLRI0upQ】
これは、悪夢に立ち向かうちっぽけなひとりの人間と、「怨嗟の魔王」と呼ばれた機神の物語。
アンノウンの襲撃で家族を失った潤也は、漆黒の鋼機・リベジオンの玉座に身を沈める。反逆と復讐を遂げるために……!
人類震撼! 暗黒のレコードオブウォー!
【瞬転のスプリガン ◆46YdzwwxxU】
スーパーカーから伸びる鋼の腕――神速の挙動と極微の制動を可能とする、エーテル圧式打撃マニピュレータがその正体!
異世界の侵略者・魔族により廃墟と化した街角で、幼いことねは機械仕掛けの拳法家を目撃した。
変形ロボットならではの技が炸裂する、極超音速機動武闘伝!
【パラベラム! ◆1m8GVnU0JM】
Si Vis Pacem, Para Bellum――汝、平和を欲さば、戦への備えをせよ。
遥か昔に文明がリセットされた世界。黒い機械人形(オートマタ)・リヒターと、彼のマスターとなった少女・遥(19)の神子としての生活が始まった!
軽妙な会話と、動きを魅せるアクションに定評あり? なんだかおかしなキャラ達が紡ぐ、ドタバタ日常コメディ!
「……ねぇリヒター、こんな感じでいいかな?」
<イエス・マイマスター>
【最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ ◆46YdzwwxxU】
ドゥビドゥビッドゥ! ドゥビドゥビッドゥ! ドゥビドゥビドゥビドゥビッドゥドゥビドゥビ!
今日も今日とてロボヶ丘市で激突するのは、変な正義と変な悪!
ハイテンション! 歌うスーパーロボットバトルアクション!
【少女機甲録(仮) ◆kNPkZ2h.ro】
80年ほど前に地球上に出現し、地球上全ての生物を滅ぼさんとする謎の生命体群「ワーム」
異形の敵に立ち向かうは、全長4mのパワードスーツ兵器「機士」
陸上自衛軍第28連隊 第4中隊の少女達は、血と硝煙の匂い漂う世界を生きる!
【鋼鐵の特攻兵―Gun Strike Girles― ◆6LGb3BALUde1】
近未来。人類はBUGと呼ばれる巨大生物との戦争を続けていた。
主人公・御前静を始めとした世界各国から集まった個性的な少女達は、鋼鐵の棺に身を沈めてBUGとの熾烈な戦いに身を投じていく。
戦争という極限状態の中で、少女達は傷付きながらも成長し、互いに支え合い日々を懸命に生き抜く。
やがて少女達の間に芽生えるのは、友情かそれとも――
ハードボイルドミリタリーの皮を被った百合ん百合んな物語。
欝展開はないよ!
【武神鋼臨タケミカヅチ ◆YHSi90Gnr2】
其れは鋼の人型。其れは『神』の力を降ろす為の人造の依代。
剣神はその手に太刀を担い、在らざる戦場(いくさば)を駆け抜ける。
その刃は未来を切り開けるか―
【鋼殻牙龍ドラグリヲ ◆Uu8AeR.Xso】
荒廃した世界を跋扈する、『害獣』と呼ばれる異形の災厄。
人には太刀打ち出来ぬその存在を屠る、暴君竜の如き異形の鋼。その名は「ドラグリヲ」
アルビノの少年「真継雪兎」とゴスロリ姿のナノマシン少女「カルマ」の紡ぐ物語に刮目せよ!


3 :
【守護機兵Xガードナー シクス ◆wuZfOwaq7U】
CC(コスモセンチュリー)115年。独立を宣言する火星と地球の、人類初の惑星間戦争が行われていた。
少年シュート・ダリューグは独立機動防衛部隊"Xガードナー"に参加するも自分の存在価値に惑う。
戦いを止められるのは薙払う剣か、それとも守護する盾か… あなたの護りたいモノはなんですか?
【秘神幻装ソルディアン ◆tEulldVhj8h6】
因果の日は来たり――世界は異形の怪物アバドンに覆われた。
混迷を極める世界に機械仕掛けの神々は覚醒し、かくして今まさに黙示録が再現される。
測り知れざる過去より続く闘いの行方は、如何に。
【廻るセカイ-Die andere Zukunft- ◆qwqSiWgzPU】
「もう少しで世界が滅びる」世界中にそんな噂が飛び交った。
そして噂の通り、国が、都市が、次々と地図から名前を消していく。人類は滅びを待つだけだった
舞台は架空の都市“揺籃” 特別な一人の少女と、普通の少年のRから、それは紡がれていく
「抗う術があるのに、やらないなんて選択肢、オレにはない」
……それは、似通っているようで……違う“セカイ”
【ビューティフル・ワールド the gun with the knight and the rabbit TロG ◆n41r8f8dTs】
未来へと向かっていた隆昭達は、黄金のアストライル・ギアによって次元の狭間へと飲み込まれ、別世界に辿り着く。
隆昭一行、やおよろず、レギアス、そして、神威。様々な人々の思惑がシャッフルされた物語の執着点は、果たして――――
パラべラム×ヴィルティック・シャッフルという二作品による、全く違った世界観が交じ合った物語の行く末を見届けよ。
この物語に、勝者はいない。
【『正義の執行者』 ◆8XPVCvJbvQ】
世間を震撼させたリベンジャーレディの事件から数ヵ月後。
ネットである言葉が頻繁に使用されるようになっていた。
「正義の名の下に」 その言葉と共に、人型兵器による犯罪者を処罰していく所属不明の赤い機体。
奇しくも所有する機体のフォルムが似ていたが為に、姉小路は事件に巻き込まれてしまう。
【eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― ◆5b.OeHcAI2】
ガラクタに覆われた世界の片隅で、少年と少女は一冊の書によって結ばれた。
そのRは白く、黒く塗り潰された過去を、未来を、それ以外を呼び覚ます。
迫り来るこの世ならざる怪異、有り得ざる可能性、そしてセカイの果てより来るモノ……
――総てを越え、彼らは何を見るのだろう?

4 :
【Robochemist! ◆a5iBSiEsUFpN】
物語は、新たな世代へ――
第一作の主人公、ユトとメリッサの娘が織り成す、もう一つの『Diver's shell』!!
DS伝統のポニテを受け継ぐ少女、アルメリアと、愉快な仲間達による色鮮やかな青春グラフィティ!
とくと見よ! 激突する鋼の騎士の勇姿を!
三つ編みもあるよ!
【地球防衛戦線ダイガスト 秋水 ◆3C9TspRFnQ】
異星文明、銀河列強諸国による限定戦争と言う名の侵略戦争の篝火が地球を焦がす。
帝政ツルギスタン軍を前に敗退を繰り返す自衛隊。日本が絶望に暮れたその時――
大江戸先進科学研究所のスーパーロボット、ダイガストが此処に立ち上がる!
――この国を好きではいけないのですか?
【Villetick Jumble 硬質 ◆pOWm4b0gBI】
新たなヴィルティックワールドに鈴木隆昭が帰って来た!
今度は、あの草川大輔も大騒動の渦中と、ヴィルティックに乗っかって大暴れ!
あの人や、この人に、その人! 様々な平行世界から次から次に現れるゲスト達!
まぜこぜカオスな新世界の未来を「カード」で切り開け!
【鮮血のTank soldier◆A0fDXEX2Bs 】
荒くれ共達が血とオイルとプライドを垂れ流す世界で――――――――その物語は幕を開ける。
ニヒルでクールな赤毛の少年、ひろしと無邪気な三つ編みロリっ子ロンメル。
彼と彼女と愛機タンクマキナ。二人と一機が先行き粗筋雲行き不明の荒地を駆け抜ける!
小気味の良いギャグと予想の付かない脱線の先に、一体どんな未来が待ちかえるのか……。
何処に着地するか分からない、ハチャメチャロボット活劇から目を離すな!
【ヒトの塔◆luBen/Wqmc】
一体ここは何処なのか――――――――ここではないどこかに招かれてしまった不憫な青年、ビル。
口の悪いウサギ様と掴み所の無い青年、ロビンを始めとした不思議で独特な登場人物達と霧の森。
不思議な人とロボットが織り成す世界の中で、ビルは一体何を見つけ、何を掴むのか。
謎と不思議に満ちた、まるで童話の様なロボットストーリーをご堪能あれ。
【Spartoi◆mqimtco4oQ】
 高校全体が静まりかえった試験期間中の放課後、尾崎晴道は謎の少女・来栖貴子にゲーム対戦を挑まれる。
『神速機動ラゲリオン』。この精緻な戦術性が売りのロボット格闘ゲームでネットにその名を轟かせる晴道は、しかし周囲には秘密にしていたはずのそのHNを言い当てられて動揺する。
 美しくもどこか異質な雰囲気を備えた貴子に誘われるまま、携帯ゲーム機GPGでの対戦に臨む晴道。
 少女の正体、そして目的は何なのか?
 ゲーマー少年尾崎晴道の、新たな『ゲーム』が幕を開ける。
【ロボスレ学園】
ロボット物SS総合スレ、10スレ目突破記念作品!
このスレのキャラクター達が織り成すどこまでもフリーダムな青春(?)グラフィティ! 参加者募集中!
【スーパーロボスレ大戦】
自然発生したクロスオーバー企画。
あの世界とあの世界で刺激的にヤろうぜ!

5 :
http://www13.atwiki.jp/sousakurobo/pages/265.html
・読者側は、積極的にエールや感想を送ってあげよう! 亀レスでも大感激! 作者はいつまでだって待ってるもんだぞ!
・作者側は、取り敢えずは作品で語れ! 自分のペースでも完結まで誠実に奮励努力せよ!
・半年以上生存報告がないと、作品がテンプレから削られてしまうぞ! 要注意だ!
・テンプレに載る作品は1人1つまで! 上記の他にも作品は沢山あるので、こちらもチェックだ!  http://www13.atwiki.jp/sousakurobo/pages/12.html
・我らスレ住人は、熱意に溢れた新作をいつも待ち望んでいる!次スレの紹介文には、キミのロボットも追加させてみないか!
※紹介文未定作品一覧※
・【機甲闘神Gドラスター ◆uW6wAi1FeE】 ・【英雄騎兵ミッドナイト】 ・【ブリキの騎士 ◆WTKW7E8Ucg】
・【機動修羅バイラム】 ・【都道府県対抗機動兵器決選】 ・【てのひらをたいように ◆1m8GVnU0JM】 ・【パラベラム!〜開拓者達〜 ◆RS4AXEvHJM】
・【壊れた世界の直し方 ◆H48yyfsLb6】【Diver's shell another 『primal Diver's』◆wHsYL8cZCc】
・【TONTO◆LlCp3gHAjlvd】・【グラインドハウス ◆tH6WzPVkAc】 ・【装甲騎兵ボトムズ 幻聴編】【銀の月が見る夢 ◆CC6hDu/XuQ】
紹介文はまだまだ募集中! 作者さんが、自身で考えちゃってもいいのよ!

「自作に関する絵を描いてもいい」という了承を頂いている作者さん一同はこちら↓
・TロG ◆n41r8f8dTs氏 (tueun、ROST GORL、ヴィルテック・シャッフル 他)
・シクス ◆wuZfOwaq7U氏 (守護機兵Xガードナー 他)
・PBM! の人 ◆1m8GVnU0JM氏 (パラベラム! 他)
・古時計屋 ◆klsLRI0upQ氏 (CR ―Code Revegeon―、ザ・シスターズ、シャドウミラージュ、電瞬月下)
・◆YHSi90Gnr2氏 (武神鋼臨タケミカヅチ、パラベラム! ―運び屋アルフの何ということもない一日―)
・秘神 ◆tEulldVhj8h6氏 (秘神幻装ソルディアン)
・◆Uu8AeR.Xso氏 (鋼殻牙龍ドラグリヲ)
・DS世界観の人 ◆a5iBSiEsUFpN氏 (Diver's shellシリーズ、Robochemist! 他)
・GEARSの中身 ◆B21/XLSjhE氏 (GEARS、GEARS外伝 Berserker)
・◆46YdzwwxxU氏 (瞬転のスプリガン、最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ 他)
・|・) ◆5b.OeHcAI2氏 (eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ――)
・◆uW6wAi1FeE氏 (機甲闘神Gドラスター)
・◆wHsYL8cZCc氏 (カインドマシーン 他)
・バイラム氏 (機動修羅バイラム)
>>882 ◆MVh6W.SAZtbu氏 (あるツッコミ体質の男の受難、でくのぼうと聖人 他)
・硬質 ◆BfO3GzMb/w(ヒューマン・バトロイド)
ここに名前の無い作者さんの作品を絵にしたい場合は、直接ご本人にお伺いを立ててみたらいかがかと。

―以上がテンプレとなります―

6 :
俺たちは>>1乙する事を強いられているんだ!!

7 :
特に強いられているわけではないが、>>1乙させていただく
テンプレから自作が消えていなくてほっと一息
と同時に、なんとか続きを書こうと思った

8 :
                                 ,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,
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 ヽ、::::_,.''"⌒`丶:::::::::::::::::::::::::::::::::::|         /::::::::::::::::::::::::::::::::::/
   'Y~  .    ',::f ̄ヽ:::::::::::::::::::::|        /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::/       ヽ、
   ', /_   ',:',ヽ`{::::::::::::::::::::::|      /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/         \\
    〉>./    ∪ 、}:::::::::::::::::::::|      /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::,'           ヽ:::::::`゙'' 、
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    } っ       |      \    |:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::i            ,ノ:::::::::::::::::::}
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      ヽ、   _,ノ:::::         \. |:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ̄`゙''ー‐---''"::::::::::::::::::::::::::::::/
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                            `゙''ー‐--、____,.-‐一''"´ ̄

9 :
そろそろメカ絵でも描くかな

10 :
ガンダムXは白くて美しくて>>1

11 :
>>1さん乙ですよ!

こんな夜中だけど投下しにキマシタヨ……
あと2、3回はかかると思ったけど意外とすっきりまとまって俺びっくり。
グラインドハウス最終回、はっじまっるよー

12 :
 それは少年が初めて経験した『真の勝利』だった。
「ついにタナトスvsオルフェウス、決着ゥウウウッ! アンビリバブルなことに、女神は挑戦者にほほ笑んだ!」
 会場が震えるほどの歓声を、さらに上回るほどの大声で叫ぶ実況。そしてさらにそれをかき消すマコトの雄叫び。
 マコトは全身に高圧電流を流されたような激しい感覚に酔っていた。努力と苦難の果てに掴んだ勝利は
それほどの美酒だった。
 しかしいつまでもそうしてはいられない。酔いが醒めたきっかけはスピーカーからの声だった。
「おめでとう、おめでとう」
 いつもどこか人を小馬鹿にしたような、鼻につく、嗄れた声。コラージュだ。
「おめでとうオルフェウス。君はこれでタルタロスナンバーワンだ。」
 その声にマコトの高揚した精神は一気に反転し、代わりにとてつもなく不快な感情が襲ってくる。
冷水を頭に被せられたような気分だった。
「さて、敗北の気分はどうだい、タナトス?」
 コラージュの声が筺体の向こう側へ向く。マコトもモニター越しに彼女を見た。
「意外と悪くないな。途中あれだけ不愉快だった怒りもいつの間にか無くなっている。」
「それは良かった。」
 するとモニターの画面が切り替わり、今度はコラージュの顔が大映しになる。その表情は笑っているように見えた。
「さてオルフェウス、君にはご褒美だ。権利をあげよう。『願いを叶える権利』を。」
 途端に静まりかえる会場。マコトは乾いたノドを唾で湿らせた。
 願いは決まっている――そのために戦ってきたんだから。
 しかしマコトには引っかかることがあった。
(コラージュのあの余裕、どういうことだ……?)
 画面のコラージュはいつもの通りで、とても今から自らの寄る辺を失う者には見えない。
 まさか何かすでに対策を打ってあるのか。
 不安が舌に絡みついてくる。疲労した神経が今さら腕をしびれさせる。
 だがここまできて今さら他の選択肢も無い。マコトは力を振り絞って視線を上げた――そのときだった。
 言葉を失った。
 画面には笑顔のコラージュが映っている。彼はなぜか口に1枚の写真の端をくわえていた。
 一瞬、マコトにはそれが意味するところが解らなかったが、すぐに理解した。
その写真はある少女の姿を撮影したものだった。見覚えがある……!
「それ……!」
 するとコラージュは大げさな素振りで、まるで今気づいたかのような声をあげる。
「うわぁーなんだこの女の子はーオルフェウスくんこの娘知ってるー?」
 マコトは奥歯を噛みしめ、敵意を剥き出しにしてコラージュを睨みつけた。
 あの写真に写っているのは……ユウスケの妹だ。
「クソヤロウがッ!」
 吠える。コラージュは嘲笑で返した。

13 :
「さて、どうするんだい?」
 マコトはためらう。まさかここでコラージュが人質をとってくるとは。判断に困ったので目線を観客席にやって
アヤカさんを探すが、見つからない。自分で決めるしかないのか。
 ――いや、なにを弱気になっているんだ。ここまできて退くなんてない、そうさっきも思ったろう。
 しかし……
「だんまりかい? さぁ、はやく言いなって。」
 コラージュは優しくそう語りかけてくる。マコトはイラつく感情を抑えてコラージュを睨み返し、
ついに願いを口にした――しようとした。
 観客たちとマコトの目に飛び込んだのは理解しがたい映像だった。
「え」
 コラージュはそう小さく言って、吐血した。背後からの手で押さえつけられた口元から、
鮮やかな血が溢れ出る。彼の左胸にはいつのまにかナイフが突き立てられていて、
そこから上等なスーツにじわじわと赤い染みを広げていた。
 マコトたちは絶句する。
 コラージュは最後の力で後ろを振り向こうとするが、その前に側頭部を背後の人間に思いきり肘でうたれ、
画面外に倒れて消えた。
 背後の人物の姿はカメラの前に晒されたが、未だ顔は見えない。パーカーのフードを目深にかぶった下に、
更に犬のマスクをかぶっていたからだ。彼は無言でカメラを一瞥し、手を差し伸べる。マコトは直感的に、
今だ、と理解した。
 筐体の向こう、佇むタナトスを指さして、マコトは宣言する!
「俺がタルタロスに望むのは、この犯罪組織の、永久の解散だ。
 未来永劫にわたって、二度と姿を見せるんじゃない!」
 それが崩壊の始まりだった。
 画面の向こうの犬マスクは、コラージュから奪い取ったスイッチを押す。
それはタルタロスの終わりを告げるスイッチだった。
 スイッチが押されると共に、タルタロスへ繋がる全てのネットワークが切断され、
コンピュータ内の記録媒体が焼ききれる。
 ゲームの電源は落ち、照明はオレンジ色の非常灯に切り替わった。
 同時に観客席の入り口から上がる威嚇する声。
「警察だ! ここにいる全員、違法賭博の現行犯で逮捕する!」
 騒然とする会場。入り口を塞ぐように整列しているのは、私服警官たちと、
警察手帳を掲げたアヤカ・コンドウだった。
「発砲許可は下りている! 怪我が嫌なら這いつくばれ!」
 号令と共に銃を構える警官たち。会場はパニックになった。
 アヤカはさらにインカムで機動隊突入の支持を出す。すでにタルタロスの全ての出口の前に待機していた部隊は
ついに突入した。
 今までのとは異なる種類の怒号と悲鳴と絶叫の渦の中、マコトはどうしたらいいかわからなかったが、
混乱した観客たちが金網をやぶらんばかりの勢いでぶつかってくるのに危険を感じ、入場口に向かって走り出した。

14 :
 タナトス――ミコト・イナバはコラージュが駄目になったことには少し驚いたが、
万一の想定通りにアクションを起こすことにした。
 物憂げに首をかしげ、打ち鳴らされる金網と降り注ぐ侮蔑の言葉も無視し、
少女の死体のそばの小型拳銃を拾い上げて、いつもと変わらない様子で入場口へ歩いていく。
扉を開けると、長い廊下の先の曲がり角から大勢の人間の足音が近づいてきているのがわかった。
警察か暴徒か判らないが、どっちでも同じか。
 ミコトは落ち着いた動作で廊下の角の小さな床板を持ち上げ、スライドさせた。
その下には細長い通路が開いている。これは万一を考えて作っておいた秘密の逃げ道のひとつで、
コラージュと自分しか知らない道だ。ミコトはそこに滑り込み、素早く入り口を塞いだ。
そばに備え付けの懐中電灯を拾って点ける。
 暗く狭い通路を歩く間もミコトはこれっぽっちも焦ってはいなかった。望むものは手に入れたのだし、
もともとこの組織に愛着も無い。このまま逃げおおせて、どこか外国で静かに暮らそう。
彼女は歩きながらそんなことを考えていた。
 隠し通路はやがて少し広い通路に繋がる。ここもやはり隠し通路で、地下都市建設当時の名残であり、
タルタロス施設の最深部のさらに下を通っている道だ。この道は様々な地下鉄や地下施設を繋ぎ繋ぎで伸びていて、
最果てはとある廃ビルの物置きに出るようになっている。
 全長数十キロの道のりを歩くのはなかなかに辛いが、まぁ仕方がない。
 足を踏み出したそのとき――
 ミコトは何者かの気配を感じて立ち止まった。
 通路の暗がりから何かがこちらを見ている。
 警察か? いや、それならもう何らかの警告がされているはず。
 それに……どうやら、相手はひとりのようだ。
「用があるなら手短にすませてくれない?」
 そう言って懐中電灯を前方に放り、同時に拳銃を構えて臨戦態勢に入る。
 床を転がる懐中電灯はやがて相手のつま先にぶつかって、その姿を照らし出した。
「手短に、はちょっと無理かな」
 暗闇から現れたのは、先程コラージュを刺した、犬マスクの怪人だった。彼の手にはナイフが握られている。
 ミコトはそれ以上は相手の言葉を待たずに発砲した。撃たれた衝撃で怪人の身体はぐるりと回る。
 仰向けに倒れる怪人。ミコトは銃を下ろし、死体のそばに転がる懐中電灯を拾い上げようとする。
 その瞬間だった。
 いきなり怪人が動き出して伸ばした手を掴まれる!
 ミコトは反射的に銃を構えようとするが、その前に床に引き倒された。
 体制を立て直す間もなく、怪人に馬のりにされるミコト。怪人はナイフを彼女の首に当てた。
「R判断に躊躇いがない……さすがタナトス」
 怪人はナイフを当てたまま、マスクを脱ぎ捨てた。 
「久しぶりだね」
「お前は……キムラ!」
 マスクの下から現れた顔はコウタ・キムラだった。彼はポケットから眼鏡をとりだし、身につける。
そのときにパーカーの下に着込んだ防弾チョッキがミコトには見えた。
「ここでは『ケルベロス』、だろ?」
 キムラは言う。
 ミコトはもがいたが、膝で的確に関節を押さえつけられていて、とてもはねのけられそうにない。
「貴様、なぜ……?」
 ミコトの問いにキムラは冷酷な微笑とともに答えた。
「知ってるだろ? ケルベロスは、タルタロスから逃れようとするものを決して逃さない……」
「だったら離せ。タルタロスはもう無い。」
「冗談に決まってるじゃん、馬鹿か。」

15 :
 そう言ってキムラはポケットから今度は小さな瓶をとりだし、指で蓋を開けると、その口をミコトの口元に近づける。
「暴れたら首がスパッといくよ。」
 しかしミコトは口を固く閉じ、瓶の中身を受け入れようとはしない。
それを見たキムラは仕方がないとばかりに中身を自分の口に含むと、瓶を投げ捨てて、
自由になった手でミコトの顎を無理やり開き、口移しで中の薬品を彼女に飲ませた。
 すると、ミコトの意識は速やかに混濁していく。手足から力が抜けたことを感じてから、
キムラはミコトの上からどいた。
 それから、通路のさらに奥から現れた、活躍の場が無くなって不満そうな様子の仲間たちに
ミコトの身体を背負うように指示する。
 最後にキムラは通信機を取りだした。

「――こちら『K』。目標は確保しました。」
「そう、ご苦労様。では後ほど。」
 アヤカは通信機にそう返事しつつも歩みは止めない。
 タルタロス内部の混乱は早くも鎮まりつつあった。それは機動隊や警官隊の的確な対応と、
タルタロスが解散したことによる精神的な打撃の効果が大きかったからなのだが、アヤカは不満だった。
(もう少し混乱は続くと思ったけれど……意外と根性無しばかりね)
 彼女は通信機をしまって、目的の部屋に辿り着く。その部屋はすで警官たちに制圧されていた。
「コラージュは? 見つかった?」
「いいえ、我々が突入したときにはもぬけの殻でした。」
「そう……」
 アヤカは辺りを見渡した。キムラがこの部屋でコラージュを刺したのは見ていたし、
それから警官たちがこの部屋にくるまで数分しか無かったはずだ。出入り口は封鎖しているし……となると、
やはりあそこか。
(この部屋にも隠し通路があるのね……)
 キムラとマコトの情報を合わせて彼女が独自に作った、正確なタルタロス施設の地図は、
部屋と部屋の間の不自然な空間を炙りだしていた。その空間がこの手の施設にはお決まりの隠し通路だということを
見抜いたアヤカは、あえて警官たちにはその情報を与えず、キムラを配置してタナトスを捕まえる場所としたのだった。
(隠し通路を教えたら私の目的が達成できないし……しかしコラージュを逃がすのは……)
 少し彼女は悩む。だが直後入ってきた通信にアヤカは意識を向けた。
「こちらA班、アマギ少年を保護。指示を頼む。」
「少年は本部へ移送。制圧の完了度合いを報告せよ。」
「地上施設は全て制圧。地下施設は現時点で7割程度完了しています。」
「何か問題はあるか。」
「手錠の数が足りません、近くの交番からも引っ張ってきてください。」
「了解。通信終わる。」
「了解。」
 小さく舌打ちするアヤカ。警官たちが優秀すぎて鎮圧までの時間が予想よりも短い。
これではコラージュをキムラに探してもらうことも無理そうだ。
 コラージュのほうは諦めるしかないか。組織の頭を押さえられなかったのは痛いが、
これだけ大量の検挙者をあげられたんだ、問題は無いだろう。
 部屋を出たアヤカは、ひとりになったときを見計らってキムラ用の通信機を踏みつぶす……。

16 :
 マコト・アマギは警官に一度手錠をかけられ、他の大勢と同じように床に押しつけられそうになったが、
すぐに別の警官が気づいて開放された。
 施設内の嵐は早くもおさまりつつある。マコトはふと、ミコトのことが気になった。
 彼女も観客や職員たちと同様に手錠をかけられ、床に這わされているのだろうか。……想像がつかない。
 だがこれで彼女もついに檻の中だ。刑務所できちんと罪を償って欲しい。
 長くかかるだろうが、これでいいはずだ……。
 マコトは警官に促され、タルタロスから連れ出される。
 前線基地として使われているエリュシオン4階の、例の人形が居る広い空き部屋を抜け、
警官たちが走り回るゲームセンターを抜け、土砂降りの駐車場へ出る。
 停車していた多くパトカーのうちの一台へ小走りで連れられ、乗せられた。そんな中、
ドアが閉まる瞬間に後ろを振り向いたマコトが見たタルタロスはまるで何かの抜け殻のようだった。
 パトカーはすぐに動き出す。

 ――駐車場から道路に出る瞬間、ガラス越しに目についたあの街灯の下には、誰も居なかった。
 

 翌日。
 留置場で一夜を過ごして、事情聴取を終えたマコトは、とりあえず家に帰れることになった。
 迎えに来た両親は家につくまではほぼ無言だったが、リビングに入った途端、床に泣きくずれた。
 父も母も、戸惑うマコトの頬を殴りつけ、大きな声でマコトを叱りつけてくる。
 それはマコトにとっては予想できなかったことで、しばし呆然としていたが、状況が理解できてくると、
彼の目からも涙がこぼれた。
 マコトはやっと気づいたのだった。
 

 透明な箱の中、ハヤタ・ツカサキは退屈していた。
 この何も無い日々は彼には苦痛でしかなかった。
 ただ毎日起き、食事をして、筋トレでもして時間を潰し、規定の時間に寝る。
 今のこの生活は、すでに生きる目的を達成した彼にとっては余生だ。
彼はそんなものをだらだらと送るつもりは無かった。
 もしもできるなら今すぐにでも自殺したい。死刑の執行が待ち遠しくて仕方がない。
目的の無い人生なんて拷問だ。
 ……こういうときに、ミコトが言っていた、生きることそれ自体の理由が分かっていたら、
違うのかもしれないが……。
 そんなことを思っていると、突然監視カメラのスピーカーから面会を知らせる声がする。
 唯一の楽しみと言えば、彼女をからかうくらいかな。
 顔を上げ、ガラスに近づいて彼女――アヤカ・コンドウを迎える。
「よう、久しぶり。」
 声をかけられて、彼女は微笑んだ。随分機嫌がいいようだ。ということは、もしかして……
「まさか、タルタロスをやったのか?」
「ええ、苦労したわよ。」
「マジかよ! 信じられねぇ!」
 ツカサキは興奮して飛び跳ねる。アヤカはそんな彼を見て眉をしかめた。
「この国の警察も捨てたもんじゃないな。どうやったんだ?」
「毒を征すには毒。」
「蛇の道は蛇ってか。違う犯罪組織のやつでも抱え込んだか?

17 :
 ああ、そうだ、この前あんたが話していたーー『キムラ』か? アイツを使ったのか?」
「相変わらず良くまわる頭ね。ネジが外れているのが残念だわ。」
「なるほど、タルタロスを倒す武器を手に入れるためにタルタロス自身すら利用したのか。
 よくそんな外道な手段思いつくなぁ。俺にはとてもできねーぜ。」
「どの口で言うのかしらね。」
 2人は笑う。しかしその眼だけはしっかりと相手を見据えている。
「……で、アイツはどうなった?」
「イナバのこと?」
 挑発するような表情をするアヤカ。
「……まさか、アイツがすんなり警察に捕まるわけないだろ?」
「ええ、そうね。彼女は未だに行方不明。」
「そうか……」
 肩をすくめるアヤカを見て、ツカサキは少し安堵する。その心理的に無防備な瞬間に、アヤカは牙をむいた。
「そうそう、あなたにプレゼントがあるの。」
「……プレゼント?」
「そう、あなたの大切な人から。」
 アヤカがポケットからなにか小さなものを取り出し、ガラス箱の食事を受け渡す用の隙間に置く。
 それは手のひらにすっぽり収まるほど小さな、透明な立方体で、中に球体が閉じ込められているのが見える。
 受け取って、その球体の正体を知ったとき、ツカサキは驚愕した。
 アヤカはまた微笑む。
「『あなたを待っている』だって。」
「うわあああああああッ!?」
 絶叫するツカサキ。
 その手の中にある立方体に閉じ込められていたのは、元々自分のもので、ミコトにあげたはずのもの――!
「おまえぇ!」
 ガラス面を全力で殴りつけるツカサキ。だがガラスはビクともせず、なおも箱の内側と外側を隔て続ける。
「殺してやる! お前を殺してやる! なぜお前は生きている! 人殺し! クズ! ああ――!
 ミコトを返せ! アイツを――!」
 叫びながらツカサキは殴り続けるが、拳の先の皮膚が破れ、飛び散った血で周囲が赤く染まっても、強化ガラスには傷ひとつつかない。
 アヤカ・コンドウはそんな彼をいかにも愉快そうに見上げ、そして最後にこう言った。
「これが私の復讐よ。死刑執行の日まで、私への殺意に身を焦がしなさい……!」 
 ツカサキは、また、絶叫した……。


  事件が終わって、1ヶ月が経ったころ……
 日曜日、マコト・アマギは駅前の喫茶店でコーヒーをすすっていた。
 窓の外では多くの人々が行き交っている。自分と同じ高校生、似合わないスーツ姿の若者、
派手な化粧のおばさん、下着が見えそうな服装の女性、恋人、夫婦、独りの老人……赤ん坊を抱えた女性。

18 :
 平和な光景だった。
 こうしてガラス越しに眺めていると、この世には辛いことや苦しいことなんて本当は何もないんじゃないか、
とそういう考えすら浮かぶ。
 だがたしかにこの平和な世界の裏側には、蛇と蛇が血溜まりでお互いに喰らいあうような、
そんな世界が広がっているのだ。
 頭の中に醜い欲望を隠して、切り貼りの笑顔で自分を守っている……今のマコトには周りの人間が全てそういう風に
見えていた。
 それならいっそ、最初から悪意の塊であるような人のほうが信頼できるかもしれない……そう、今しがた
店にやってきた彼女のように。
「ごめんなさい、少し遅れたわね。」
 テーブル向かいの席に座ったのはアヤカだった。彼女はシャツとロングスカートの私服姿で、
いつもまとめている長髪を今日は自由にしている。
「お久しぶりです」
 マコトは頭を下げる。
 今日、会いたいと先に言ってきたのはアヤカのほうだった。
「ごめんなさい。会議が長引いて。えっと、アメリカンひとつ。」
 店員に飲み物を注文して、アヤカはマコトに向きなおる。
「改めて、久しぶり。元気だった?」
「精神的には死にそうです」
 マコトは苦笑する。普通の日常に戻ってからもタルタロスのあの緊張感がなかなか抜けず、
神経の無駄な疲労が多い日々を彼は送っていた。
「そう……もし続くようなら医者に行ったほうがいいかもね。いい医者を知ってるわ」
「ありがとうございます。コンドウさんは最近は?」
「タルタロスの甘い汁を吸っていた上層部のお偉いさんがいなくなったからね……庁内は大混乱よ。」
「やっぱりそんな感じですか」
「それもそろそろ落ち着いてきているけどね。」
「タナトスとコラージュは見つかりましたか?」
 マコトの質問にアヤカは首を振る。
「どっちも見つかってないわ。」
「そうですか……」
 マコトは少しだけがっかりする。アヤカはそのことに気づいたが、あえて気づかないふりをした。
「復讐を達成した気分はどうだった?」
 アヤカはマコトに訊く。マコトは目を伏せた。
「虚しいだけ……ですね。たくさん苦労したのに、達成感が無い。」
「そう……残念ね。」
「『残念』……なのかな。」
「残念よ。復讐なんて所詮ただの自己満足だわ。そのために努力して、
達成したのに満足できないんじゃ、はっきりいって無駄よ。時間の無駄。」
 マコトは胸の奧が痛くなった。俺のこの数週間は、本当に無駄だったのか?
「……アヤカさんの『復讐』は、どうなりましたか。」
「それはもう……」
 彼女は満面の笑みで答える。

19 :
支援

20 :
支援

21 :
支援

22 :
「最高だったわ。私から何もかもを奪った相手に、それ以上のものをプレゼントできた」
「どういう意味ですか?」
「君は知らなくていいこと」
 ちょうどその時、アヤカの注文したコーヒーが運ばれてきて会話が途切れた。
マコトはまた視線を街にやり、長いため息をつく。
「1ヶ月経っても、まだわからないことだらけだ……あの犬のマスクの正体もわからないし。」
「……今ごろ南国でバカンスでもしてるんじゃないかしら」
「はい?」
「いえ、なんでもないわ。ところで、勉強はどう?」
「勉強……ですか」
「浮かない顔してるわね。」
「コンドウさん。」
 マコトはアヤカをまっすぐに見た。
「俺でも、警官ってなれますかね?」
「あら、意外。」
 アヤカはコーヒーを口にする。
「警官を目指すの?」
「はい」
「またどうして?」
「タルタロスを経験して、気づいたんです。」
 マコトは言った。
「この世は、戦いなんだって。」
「へぇ……」
「生きることは戦いで、力の無いやつは負けるしかないんだって。」
「なるほど?」
 アヤカの赤い唇の端が僅かにつり上がる。
「この世を生きるには力が必要で、だけどその力を、俺は人を泣かすためには使いたくないんです」
「だから警察?」
「……変、でしょうか。」
「そんなことないわ、素晴らしい。」
 うつむくマコトを励ますようにアヤカは明るい声で言う。
「『人生は戦いである』。まったくその通り。私たちの生きるこの社会は他人を蹴落とし、
引きずり落とし、自分の居場所を守るための広大な戦場よ。」
 黙り込むマコト。
「そうね、今思うとタルタロスはその縮図だったわね。敗者は引きずり落とされ、
勝者はサポーターとともに栄光を手にする……興味深いわ。」
「でも、タルタロスと社会じゃ違う部分がある」
「それは?」
「『力の使い道』……タルタロスじゃ、相手をRためにしか、力をふるえなかった。」
「そうね。それも正しい。他人のために力を使えないのがタルタロスと現実の決定的な違いね。」
 アヤカはコーヒーをすする。コーヒー豆の落ち着く香りが鼻をくすぐった。
「……このコーヒー1杯のために、地球の裏側で何人の貧しい労働者がムチをうたれているか。」
「……コンドウさん、俺にはこの街が、死者の国よりも残酷な世界に見えます。」
「現代では、人は都市で生活するだけで自覚のない大量殺人者でありうるのよ。
……世界中の皆が、君みたいに、少しでもその力を、力の無い人に積極的に分け与えようとする日が来たら、
世界は平和になるのかもね。」
「そのときが、本当のタルタロスとの決着なのかもしれないですね……」
 マコトはコーヒーを飲み干す。強い苦味があとに残った。

23 :
……時間は戻って、タルタロス壊滅の日……。
 床の血痕は徐々に小さくなってきている……。それは刺された傷が回復している証拠だが、
コラージュはそれを素直に喜べなかった。
 傷が回復しているということは、自分を生かしている高級ナノマシンを消費しているということだからだ。
タルタロスが無くなった今、その資金を確保するのも難しい。
 コラージュは暗い隠し通路からハシゴを上って、冷気に満ちた部屋へと侵入した。
 そこはタナトスの自宅地下、スーパーコンピュータ『ヘカトンケイル』が設置されている部屋で、
コラージュはタナトスに万一があった場合、ここへ来るように言われていたのだった。
 しかしコラージュにはこれからどうすればいいのかわからない。
とりあえず、刺された胸を押さえながら、モニターの前に座ってみた。
 ……しばらくすると、画面に文字が表示される――
『User:Hekatoncheir-1 よりの信号途絶』
『マニュアルにより AI:Hekatoncheir-2 AI:Hekatoncheir-3 をネットワーク上へ解放します』
『この操作によりこれらの人工知能は以後完全な自由意思により行動します 承認するならば』
 コラージュは全ての文章が表示されるまえにエンターキーを押し込んでいた。
その口元には歪んだ笑みが浮かんでいる。
「そうか……タナトス」
 凍えるような寒さのなか、彼の身体は喜びで震えていた。
「タルタロスは無くなったけど、何も終わったわけじゃないんだね……!」
 彼のその言葉に反応するように、また画面に文字が現れる……。
『そうだよ コラージュ』
 彼ははっとする。
『この世にヒトが生きるかぎり 死神の仕事は無くならない。』

 
 俺たちはいつでもタルタロスで死神と戦っている。
 打ち勝つ方法はただひとつだ――
 
 

グラインドハウス おわり

24 :
本スレ>>19-21さん
支援ありがとうございました。ちょっとこっちのミスで続き投下できなくなってすいません。
これにてグラインドハウス終了でございます。
1年以上の応援、ご愛読ありがとうございました

おまけ
イメージをふくらませるために描いた設定イラスト的なもの。
晒すタイミングがもう無いのでいっきに供養ですぜ
AACV http://dl6.getuploader.com/g/sousakurobo/1704/AACV.jpg
シンヤとパイロットスーツ http://dl6.getuploader.com/g/sousakurobo/1705/SK.jpg

25 :
投下、そして完結乙です。
確かにまとまり良い〆でしたね。
必要最低限の文章で、かつ混乱や緊張感を感じさせつつ
タルタロス壊滅を書き上げるセンス、いつもながらお見事でした。
ツカサキは…何かやってくれそうですよねぇ。
マコトも当事者でありながら、最後まで蚊帳の外というポジションなのが、
リアルと言うか、ハードと言うか。
取り敢えず、マコト君の未来に幸あれ!

26 :
新スレだというのに誰もいない…

27 :
三つ編み有効成分ミツアミン不足によるスレ停滞現象。
ロボスレではよくある事です。

28 :
まだ前スレが埋まってないじゃないすかー

29 :
明日の10時ぐらいにリベジ投下します。
久しぶりの投下になりますがよろしくお願いします。
これまでのあらすじやキャラクター
http://www13.atwiki.jp/sousakurobo/pages/890.html

30 :
投下開始しますー

31 :
前回までのあらすじ
黒峰潤也の過去。
全ての始まりへと帰還する。
家族を殺した鋼獣への復讐、それを胸に戦い続けていた頃の物語。
第七機関第四区画での轟虎との死闘。
その戦いで心身を大きく傷つけた潤也の前に一機の巨大な鋼機が現れる。
その鋼機から姿をあらわす一人の少女と犬。
それは、潤也の実の妹、黒峰咲と人語を解す犬ダグザであった。
咲が生きていた事を喜び、お互いに再会を喜ぶ潤也と咲。
しかし、咲の口から衝撃の事実が発せられる。
潤也の両親を殺したのは黒峰咲であり、今、世界中で虐殺を行なっている鋼獣を作ったのも咲だというのだ。
咲はさらに言う。
これは死の無い世界を作り上げる為の戦いなのだと・・・それを行う為には至宝と呼ばれる力が必要なのだと・・・。
そして、咲はその至宝の力を見せつけるようにして、潤也の母親である黒峰恵の人形を至宝の力で作ってみせるのだった。

http://www13.atwiki.jp/sousakurobo/pages/887.html

32 :

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 シミュレーション5。
 ■■■ての作業。
 作り上げた■■一つ一つを丁寧に組み上げる作業を始める。
 最初は、4基本形の完成を目指す。
 ―――――――■■■■、作成に成功。
 ――――――――統■■織、作成に成功。
 ―――――――――――■■■、作成に成功。
 ―――――――■経■織、作成に成功。
 4基本形の製作が完了する。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

咲は先ほどから驚き続けている潤也を見て満足したように腰に手をあてて笑みを浮かべた。
「ふっふー、驚いたでしょ、咲の『ダグザの大窯』はね、無を有にする、つまりはありとあらゆるものを作り出すことが出来るの、お母さんの器をもう一度作り上げる事だって出来るのだよ。
 咲の記憶を元に残留したお母さんの怨念も利用して、作り上げたんだ。いい出来でしょ?驚いたでしょ?」
自慢気に咲は潤也に問いかける。
「あれは本当に母さんなのか?」
「ちょっと違うかな、遺伝子的にはお母さんを完全に再現したけれど、中身は赤ん坊に近い。
今は眠っているけれど、あのお母さんにはお母さんがお母さんであるという人格を形成した経験というものが存在していない。
だから、私たちからしてみれば、限りなくお母さんに近い別物って言ったところ。」
「お前、死を超えるってのはまさか・・・。」
「流石、お兄ちゃん、勘が良い〜、そう咲は死んだ人を生き返らせるシステムを作っている最中なの。
だから言ったでしょ、咲がやろうとしている事からすれば死なんてどうでもいいものなんだって。」
「世迷言も大概にしろよ!咲!!人間が人間を作り上げるなんて、そんな事許されると思っているのか?」
「ん〜、それの何がダメなの?皆、死が怖いんだよね、だから、咲は人が生き返れるようにしようとしているだけ。
宗教とかだとよく死を美化してる事あるけれど、あれってつまりは死が怖いから死の恐怖を拭い去ろうという工夫だよね。
だからそんなもの必要ないような世界を作り上げられたらみんな幸せじゃない?それに咲はそれを絶対成功させる自信がある。」
「じゃあ、あれは何だ!!咲、お前はさっき言ったよな、あそこにいるあの母さんの紛い物は母さんである事である経験を積み重ねていないからまったくの別物だって、確かにお前の言う至宝の力は凄い・・・
 俺も信じられないものだとは思う、だが、それでは人を生き返らせる事なんてできる筈がない、出来るのは似通った人形を作って自分を慰める事だけだ!!」
そういう潤也に咲は宙に立ちながら頷く。
「そう、あのままじゃ、確かに人形。咲も結構時間をかけて何かできないかと思っていたけれど、大釜で出来るのは器を作る事だけだった。」
「なら、なんでそんな馬鹿な考えを持つ!」
「―――でも、もし、他の至宝を全部集めることが出来たらどうだと思う?」
「なにを・・・。」
「さっきも言ったけれどね、至宝は世界に四つあるの、『ブリューナク』、『クラウ・ソラス』、『ファールの聖石』、『ダグザの大釜』、これらはこの世にある絶対の一つを乗り越えることが出来る。
 そして、これらを全て手に入れたものは全能の力を手に入れることが出来るんだって・・・。」
「そんな馬鹿な話が―――」
「あ・る・の。ほら、現にダグザの大釜一つでもこれだけ凄いことが出来るでしょ?こんなものがあと世界に四つもあるとしたら、それは本当だって真実味を持つと感じない?」
『ダグザの大釜』。
咲曰く、無から有を生み出す力を持つ至宝であり、その力を用いて、無いはずの空中に足場を作り上げ、母を模した人形を作成している。
確かに信じられぬ超常の力だ。
咲が言うようにこんなものが世界に四つも存在しているのならば、確かにそのような事が可能なのかもしれない。

33 :

「だが、それは本当にこの世界に四つも存在しているのか?大体、そんなものどうやって見つける。無駄な徒労に終わる可能性も多々あるじゃないか・・・。
 まさか、世界中をしらみつぶしに探そうっていうんじゃないだろうな?どこにあるのかわからないものをアテもなく探そうなんて馬鹿な妄想抱いてるのか?」
「そうだね、本当にこの世界に至宝が四つも存在しているのか?そんな疑問をこの至宝を持ったことがない人が抱くのは当たり前なのかもしれない。
 けどね、それは確かにあるんだよ、咲はそれをもっているからわかる。至宝にはね、他の至宝を感じ取る能力を持っているんだよ。
 だって、この大気中にも至宝の一部は存在しているんだしね。」
「・・・。」
「まー、その変の難しい話は長くなるから置いておいて、要約すれば、咲には他にもそれがあるって感じ取れるって事だね。」
「だが、たとえそれがあったとしてもだ、それをこの世界からどうやって探し出す、どんな形をしているかすらわからないのだろう?」
「そうだね、でも当たりを付けることは出来るんだ。」
 咲はそういって、メタトロニウスの方に向かって宙を歩き、メタトロニウスの巨大な手のひらに飛び乗った。
 その後、手のひらからまた宙を階段を歩くようにしてその肩にいるダグザの元まで上っていく。
 
「至宝はね、この世の生命が絶滅の危機に瀕した時に生命体を救い出すために私たちに与えられたものなの。
 この星の命が危機に晒された時、その命の危機に呼応して、その至宝のもとになる設計図の在処が浮き出るようになっている。」
「命の危機?」
「まー簡単に言えば動物のR、ただ、これは老衰とかそういう自然的なのは含まれない、なんらかの外的要因から危機に晒されている事に限定されている。」
「そんなのどうやって―――」
「お兄ちゃんならわかると思うな、お兄ちゃんのその黒い機体も怨念機なんでしょ?ならば、『アレ』を体験している筈。」
『アレ』、それが指すものはおそらくは一つ。
だが、それはつまり、あの機体にもやはりDSGCシステムが搭載されていたという事に他ならない。
潤也はその時、もはや目の背けようのない証拠を目の前に見せられたのだ。
咲はあのDSGCシステムによって見せられるあの地獄の経験を体験している。
「人が死んだ時に発する怨念か・・・。」
「その通り、至宝の設計図はね、周囲にある怨念の濃度の上下によって、世界に浮き出るようになっている。
 つまりは人がたくさんRば、その近くにある至宝の設計図がそれに呼応して浮き出るって寸法だね。」
潤也は体が震えるのを感じた、それが何を意味しているか、そして咲が何をしているのか、それに対する仮説出来てしまったからだ。
そしてそれは、信じる事の出来るようなものではなかった。
しかし、それを裏付けるようにしておかしい点は確かにいくつかあった・・・。
あの鋼獣たちが真実人間を滅ぼそうとするのならば、彼らが行なっている行為はあまりにも非効率的だ。
時には人口の密集した地域に、時には人が少ない地域に現れては鋼獣達は虐殺を繰り返している。
しかし、世界の重要機関などはまるで狙って来ない。
戦争を仕掛けて勝とうというのならば、その司令塔を叩くのが上策といえたが、彼らは人をR事にしかまるで興味がないように動いてくるのである。

「ま、まさか、鋼獣があちこちで虐殺行為を行っているのは・・・。」
 肩に上りついた咲はダグザの体を抱きかかえる。
「そう、至宝を探し出すため、その為に私達は地上で戦闘を行っている。」


34 :

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

シミュレーション24
■系の制作。
成功。
■■系の制作。
成功。
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「咲・・・お前、一体自分が何を言っているのか、わかっているのか?」
そう信じられない目で見る潤也を咲は真剣な眼差しで見つめ返し、
「勿論だよ。咲は咲の理想を手に入れるため、たくさんの人を殺してみせる。ただ、それだけの話じゃない?」
「お前、人が死ぬっていう事がどういう事なのかわかっているのか?
 もうそれは二度と戻ってこない・・・そういう事なんだってお前は本当にわかっているのか?
 大体見も知らない人をどうやって蘇生するっていうんだ?」
「ふふ、お兄ちゃん、だから大丈夫なんだってばぁ、最後には咲が生き返らせるんだから・・・怨念機にはね人の魂の残滓をかき集める力があるの・・・。
 それを応用すれば全ての至宝を手に入れた後、このメタトロニウスと共に全ての人を蘇生してみせることだって可能なんだよ。」
咲は強い意志を持って語っている。
それには信念、信仰そういったモノが篭っているように潤也は感じた。
人を殺し、至宝を発現させ、それを収集し、最後に死んだ人の怨念をかき集めて蘇生する。
至宝とよばれる人知を超えた道具はそれを可能にするのだという・・・。
しかし、例え、咲の言葉を全てそのまま信じて、咲の行おうとしている事が本当に理屈の上で可能な事であったとしても、潤也にはそれが実現可能であるとは思えなかった。
止めなければならない。
これ以上、彼女が過ちを犯す前に――――
「咲、お前、それはシステムの怨念収集によって世界中の人間の怨念と死の追体験するという事なんだぞ、俺もこの機体を使ってきたからわかる・・・何度も地獄に落とされるような体験だ。
 それほどにあいつらは生を求めて、怒り狂っている。自分が自分であることを保てなくなる。そんなものを世界全てで行ったならば、お前の精神が持つ訳ながない。」
何よりも問題なのが、それだった。
鋼獣達は世界中で虐殺を行なっている。
つまり、もし至宝で人間を蘇生できることが可能だとしても、鋼獣が虐殺した世界中全ての人間の死を追体験する必要がある。
システムが動作している時に自分にのしかかる死んだ人間の記憶。
妬み。
絶望。
羨望。
憎悪。
後悔。
希望。
そんなものを何度も、何度も浴びせかけられて、つい先の戦いで潤也は自分を失いかけた。
いや、先の戦いだけじゃない、これまでの戦いの多くはアテルラナが設置したというシステムの緊急停止装置によって失った自我を強引に取り戻すことでなんとか黒峰潤也が黒峰潤也であることを保ってきたのだ。
それを世界規模でもし行うとするならば、間違いなく一瞬で黒峰咲個人の心は壊れる。
それは彼女達が殺した数だけではなく、おそらくはこれまでこの地球上で死んできた人全ての怨念をその身に受けるという事なのだ。
世界中の怨念全てからすれば、咲の心など砂粒一つにすら満たない。
当然、どんなに強固な精神を持とうと人がその身に受けられるようなものではなかった。
例え、至宝にそのような事が可能な力があったとしても、咲が人を生き返らせようと怨念を飲み込んだ時点で彼女は自我を喪失しそのような操作をすることが不可能になる。
そう、これは不可能な話なのだ。
咲がどれだけ自信を持っていようと、どれだけの強固な精神力があろうと不可能なのだ。
だから、もし、UH達にそのようなことを行わせているのが本当に咲だとするのならば止めなくてはならない。


35 :

「咲、無理だ。例え、お前の話が本当だったとしても・・・それは人の領分じゃ出来ない事だ。馬鹿な事はいますぐにやめろ。」
そう訴える潤也に咲は呆れたようにして、自分の白髪を指先でいじりながら言う。
「だから、大丈夫だって〜。」
そうやって笑う咲を呼び止めるように潤也は口を開こうとする。
しかし、それを遮るようにして咲は言う。
「はい、この話はここでおしまい。それよりお兄ちゃんも怨念機に乗ってるなんて、ビックリだよー、そうだお兄ちゃんもさ、咲に協力してくれない?
 たくさん殺してるんだけど至宝見つからなくてさ。怨念機がもう一機仲間になってくれるのならば、大きな戦力だと思うんだよねー。」
そういって、咲は手のひらを潤也に向けた。
それに追随するように咲の背にいる白い巨大な怪物は潤也とリベジオンに向けてそのリベジオンの身の丈よりも長い大鎌の尾を向ける。
そうして咲は目を瞑り呟く。
「『ダグザの大釜』にアクセス。コードリジェネレイト。」
その言葉と共に大釜の刃が展開し、尾から光が放たれてる。
その光はリベジオンを包み込んだ。
「咲、何をしてる!!」
光りに視界を奪われ、叫ぶ潤也。
「いや、何って・・・ほら、お兄ちゃんの怨念機壊れてるから直してあげようと思って・・・。」
そう言われ眩んでいた目から光の残像を取り払うように頭を振った後、潤也は周囲を見渡す。
そして潤也はそこにあるはずの無いものを見つけた、リベジオンの腕だ。
先ほど轟虎と戦いにおいて失われた筈の腕。
それが、そこに存在する。
潤也は慌てて操縦席に戻りリベジオンの現状を確認する。
四肢を失い、警報を告げ続けていたディスプレイからその警報が消えていた。
そしてその全機能が轟虎と戦う前から追っていた損傷も修復されている。
つまり、リベジオンは戦いに赴く前の状態に完全に修復されたのだ。
あの一瞬の閃光の間に・・・。
目の前で起こる・・・まるで空想を現実に行うかのような出来事に潤也は足を震えさせた。
「くすっ、さっきからモニターしてたのと、このメタトロニウスにもその機体の情報があったから簡単に再現できたんだけれどね。
 これは咲からのお兄ちゃんへの再会のお祝いだって思ってもらえばいいよ。」
咲はそう言って、明るく笑う。
その笑顔は、潤也の父と母を殺し、現在地上で行われている大量虐殺の主導者の顔とはとても思えなかった。
潤也がよく知るお人好しで、優しくて、それでいて時折乱暴で不器用な妹。
それが目の前にいる。
しかし、彼女は虐殺を続けている。
人の蘇生と不死化などという訳の分からない事を至宝という訳のわからない道具を使って成す為に・・・。
まるで酷い夢を見ているようだ。
そう目眩を感じている潤也の横で、咲は思いついたと手を叩いた。

36 :
「そうだ、お兄ちゃん。せっかくお兄ちゃんも怨念機持ってるんだし、咲の手伝いしてくれない?」
「手伝い?」
「そうそう、至宝探しのお手伝い。お兄ちゃんも一緒になってたくさん人を殺して至宝を見つけ出すの・・・。」
いつもと変わらない調子で咲はそう言う。
「――そんな事出来るわけがないだろう!!」
「いやだ、そんな怒らなくても大丈夫だよ、咲がどうせ全部生き返らせるんだし」
「そういう問題じゃない!お前は一体、自分がどういう事を言っているかまるで理解しているのかまるでわかっていない!!」
「なんで?どうせ生き返るなら、死んだって一緒だよ。」
「―――――っ。」
潤也は閉口し、己の言葉の無意味さを理解した。
会話がなりたっていない。
咲は信じているのだ。己の行う事が正しいと・・・そして、それを成すための力が自分にはあるのだと・・・。
そんなものをもはや確信に近い形で持ってしまっている。
そして咲は潤也が知るそれと変わらない口で父と母を殺し、世界中の人々を虐Rるように指示を出し、あまつさえ自分をそれに誘おうとしている。
潤也は目の前にいる少女が自分の知る妹の皮を被った自分の知らない全く別の化物なのではないかと思えてしかたなかった。
「はぁー、お兄ちゃんが手伝ってくれれば、早くお父さんとお母さんも生き返らせる事が出来るのに・・・。」
咲は残念そうにため息混じりにそう言う。
「本当に・・・お前が父さんと母さんを殺したのか?」
「うん、そうだよ、こんな風に―――。」
そう言って、咲はメタトロニウスにその鋼の掌の上にいた母の形をしたものを握りつぶした。
飛び散る血と肉片、その血の一部が潤也の頬に付着する。
「あっ・・・。」
その光景に潤也は思わず言葉を失う。
潤也の瞳に映るのはメタトロニウスの腕の隙間から血まみれになってはみ出している人の腕。
あれは母ではない。
そもそも生物であるかどうかも怪しい。
そうわかっていても、母と同じ形がしたものを無残な残骸に成り果てたのを見るのに平常心を保てるわけが無かった。
見ているだけで気が狂いそうな感覚に陥る。
あれがもし本当に母で、それをしたのが咲であるというのならば・・・。
それはもう本当に――――――
「ん、どうしたの・・・お兄ちゃん、呆気に取られちゃって?これ偽物だよ?」
ショックを受けている潤也見て少し驚いたようにして咲は言う。
偽物とはいえ母と同じ姿をしたものを殺した事に特別な感傷すら持っていないと感じさせるその物言いに潤也は言いようもない感傷を持つ。
狂っている。
黒峰咲は狂っている。
その事に悲しみと怒りとで爆発しそうになった自分を抑えながら潤也は言う。
「咲、お前、父さんと母さんを生き返らせる為にも・・・って、今、言ったよな。」
「うん。」
当たり前の事だと咲は頷く。
それに対して潤也は叫んだ。
「だったら――――R必要なんて無かったんだ!はじめから生き返らせようなんて考えてるのならば、そもそもR意味なんて無い。だいたい・・・なんでお前は父さんと母さんを殺した!!」
ここに根本的な矛盾がある。
生き返らせようとするのならば、そもそもとしてR必要がない。
そもそも咲は両親を慕っていたのだ・・・潤也の視点から見ても仲の良い親子だったと思う。
だからこそ、潤也には何故、咲がそのような凶行に移っているのか理解出来なかった。

37 :
「だから・・・理由があるって言ったでしょ・・・。」
「それは、何だ?」
「世界を死から救うため。世界を死という暗黒から抜けださせる為。」
「それじゃ、理由になっていない!大体、父さんと母さんが死んだ所で得られる力なんてたかがしれてる・・・それをなんでR必要があった!」
「これが理由なんだけどなぁー。ふふ、そうだね、ちょっとお兄ちゃんの知らない話をしようか・・・。」
「知らない話?」
そう問う潤也。
咲はメタトロニウスの装甲を愛でるようにして撫でる。
「このメタトロニウスはね、お父さんとお母さんが作ったんだよ。」
誇りのようにして咲はいう。
「なんだと・・・。」
それは潤也も知らない事実だった。
潤也の父と母は著名な機械工学の研究者である。
5年前から機関を巻き込む大プロジェクトの責任者である父と母
しかし、その研究の内容は極秘扱いとされており、実の息子である潤也も知らなかった。
「あの旅行はね、本当はこの子の起動実験の為の旅行だったんだ。お兄ちゃんは知らないと思うけどね。」
咲は愛しそうにメタトロニウスの装甲を撫でる。
「咲には適性があったらしくて、この子の適格者として選ばれたの・・・そしてあの日、初めてのこの機体を動かした時、咲は知ったんだ。」
「知った?」
「お兄ちゃんも知ってると思うけど怨念にはね、願いが込められてるんだよ。生きたい、生きていたい、誰かに死んでほしくない。誰かに生きていて欲しい。そんな願い。」
潤也もそれを知っている。
リベジオンに搭載されているDSGCシステムは不幸な末路を迎えた怨念をエネルギーに変換するシステムだ。
そのシステムは、その強大な力と引換にその死者の死の体験を搭乗者に追体験させる。
その際に死者がいつも願うのは自分をそんな末路に追いやったものへの怒りと、生きたいという願い。
先の轟虎との戦いでもそれを実感したばかりであった。
「だから咲はね、思ったんだ。誰ももう死で悲しまなくて良い世界を作る。こんな無念な思いを誰もしなくていいような世界を作りたいって・・・。」
「それの何処に生みの親をR理由がある!」
「ふふ、結論を焦っちゃだめだよ。至宝にはね、ありとあらゆる不条理を消し去るだけの力がある。それによって人は、いや、この世界に生ける全ての者は新しいステージに立てる。
 その可能性も咲は知った。けれど、それには強靭な精神力と目的意識が必要なの・・・DSGCシステムに流されない、消し去られない強い心・・・それがね。」
咲が何を言わんとしているのか潤也は漠然と理解し愕然とする。
「お、お前は・・・まさかそんな理由の為に父さんと母さんを殺したっていうのか?」
潤也は声を震わせて言う。
メタトロニウスの手のひらにある母親の模倣を見た後、笑って、
「うん、そうだよ。咲はお父さんもお母さんも今でも大好きだし、お兄ちゃんも大好き。だから、この世界の誰よりも生き返らせたい。
 そう思う心が私を強くする。那由他の怨嗟の果てで私は私であり続ける強さを持てる。」
「そんな・・・そんな理由で・・・。」
潤也は絶望感に苛まれる。
潤也にとっては最悪の記憶であり、この戦いの起点である第六区画消失事件。
あの日、咲はメタトロニウスのDSGCシステムの怨嗟のフィードバックによって、その怨嗟と同化した事を悟る。
狂ってしまったのだ、幾千幾万の怨嗟に侵食されて、その在り方を変えてしまった。
少なくとも潤也にはそうとしか思えなかった。


38 :
 

39 :

潤也は絶望感に苛まれる。
潤也にとっては最悪の記憶であり、この戦いの起点である第六区画消失事件。
あの日、咲はメタトロニウスのDSGCシステムの怨嗟のフィードバックによって、その怨嗟と同化した事を悟る。
狂ってしまったのだ、幾千幾万の怨嗟に侵食されて、その在り方を変えてしまった。
少なくとも潤也にはそうとしか思えなかった。
「だから、お兄ちゃん、一緒に来てくれない?お兄ちゃんにも手伝って欲しいんだ。」
そういって咲は手を差し伸べるようにして潤也に向ける。
咲は言う。
至宝によって人を生き返らせ、不死の世界を作ると・・・。
それによって父と母も蘇生させるのだと・・・。
それによって潤也は理解した。
既にその為に彼女の愛する父と母を殺した咲にはそれ以外の道が残されていないのだという事を・・・。
例え、その目的にたどり着くまでの手段がどれほどの凶行なのだとしても、それにたどり着くまで進み続けるしかない、そんな所まで来てしまっているのだと・・・。
けれど・・・わかっていても潤也はそれを言うことを止める事が出来ない。
「何故だ・・・なんで・・・父さんと母さんを殺した・・・。別に世界なんてどうでもいいじゃないか・・・一人の人間が世界を救うだとかそういう大それた事なんて考える必要なんてない。そんなことお前が背負う必要なんてない。」
こんな言葉はもう遅いのだとわかっている。
 
「だから――――」
咲は先と同じ言葉を繰り返そうとする。
それを遮るように潤也が叫ぶ。
「そんな答えが聞きたいんじゃない!!!!」
咲は呆れたように両手を上げて首を振る。
そして少しため息混じりに、
「はぁ、仕方ないお兄ちゃんはまだその域に達していないんだね。それじゃあ、理解できなくても仕方ないか・・・まぁ、いいよ、咲はいつでも待ってるから理解出来たら一緒に来てね。行くよ、ダグザ。」
咲は潤也に背を向けて、ダグザと共にメタロニウスの背部にある搭乗口へと移ろうとする
「待て、咲!話はまだ終わってない!!」
そう呼び止める声も聞かず咲はメタトロニウスの中に入り込んだ。
メタトロニウスの瞳が光り、それと共に巨大な六枚の翼が展開する。
「じゃあ、お兄ちゃんバイバイ〜、また何処かで〜。」
そうスピーカー越しに言って、リベジオンの4倍以上ある巨体は飛翔する。
その際に起こる暴風をリベジオンのコックピットに入る事で堪えながら、遠く離れていく咲を潤也はただ見送った。
そうして少したった後、潤也は咲の言葉を思い返し・・・コックピットの壁を叩く。
家族を失ったと思っていたあの日に立てた復讐の誓い。
UHと呼ばれる地下世界の住人達への憎悪。
それが全て間違いだと知った。
家族を殺し、あの惨劇を起こしたのは黒峰咲である。
世界各地で行われている虐殺行為は咲の指示でUHが行なっているものである。
咲の目的は至宝と呼ばれる謎の道具を用いての世界中の人間の蘇生と不死化。
それを手に入れる為に彼女はこれまでの凶行を行なってきており、そしてこれからも続けていく。
「――――はは、悪い冗談だ。」

40 :
潤也は力のない声でそう言った。
性質が悪いにも程がある。
俺は今まで一体何のために戦ってきたのだろう?
こんな機体に乗って死を何度も体験させられるような目にあって・・・。
潤也にはこれまで行なってきた事が全て無価値になったように思えた。
 
「じゃあ、俺はどうすればいい・・・。」
そう思った。
咲のやる事は間違っている。
そう漠然とは思うものの、それを否定出来るだけの理由を潤也は持っていなかった。
何故ならば、潤也自身もDSGCシステムによって死者の念に何度もその心を晒して来たのだから・・・。
だが、しかし、だからこそ・・・思う。
やはりたった一人の人間が世界全ての怨念をその身に受ける事など出来はしないと実感を持って思う。
どれほど精神を鍛えようと、どれほど強い自我があろうとそれは無理なのだ。
けれど、咲は自分がそれを超える事が出来ると信じてただ、ひたすらに人を殺し続けている。
ならば、黒峰潤也・・・お前はどうするべきか?
 
「―――――そんなの決まっている。」
そう決まっている。
――――――止めるしか、無い。
これ以上、咲が凶行を犯す前に止めるしか・・・。
けれど、それがお前に出来るのだろうか?
あれは、ただ、色んな人を救いたいだけなのだ。
死に触れすぎて、死を憎む余り、死の踏破を願っただけなのだ。
それを願い、ただ、ひたすらに走り続けている。
その為に、父と母すら手にかけてしまった。
だからこそ、もう咲はどのような説得も聞かないだろう。
咲が殺戮を止めるという事、それは父と母の死、そして己が殺してきた人々が本当に死ぬという事なのだから・・・。
既に、咲はもう後戻りの出来ない道にいる。
ゆえに黒峰咲を止めるという事は黒峰咲をRという事に他ならない。
再び自問する。
お前にそれが出来るのか?と・・・。
「――――出来る訳がない・・・。」
自虐的に言う。
黒峰潤也は黒峰咲を一人の家族として愛している。
潤也の誕生日プレゼントとして花の冠を作ってくれた咲。
祭りの射的で目当ての景品を当てられなくて涙を目に浮かべていた咲。
生まれ母親に抱えられながら産声をあげていた咲。
そのどれもが鮮明に脳裏に焼き付いている。
そんな人間を殺せる訳が無かった。
失意に暮れる。
今、知った事を忘れて全て投げ出してしまいたくなる。
けれど、そうしている間にも咲の指示の下世界中で鋼獣達が人を殺していく。
叶いもしない願いを叶える為に・・・。
咲を止めなければならないという思いと自分にはそれが出来ないという確信で潤也はがんじがらめだった。
もしかすると、咲が言っている事は全部何かの間違いかもしれない。
そうだ、咲が自分が両親を殺したとなんらかの原因で勘違いしているという可能性もある。
そうであるならば、咲を止める事を出来るかもしれない。
まだ、戻れるのだと言えるかもしれない・・・。
そう信じる事だけが、黒峰潤也に残された最後の心の拠り所であった。
リベジオンのコックピットで電子音が鳴る。
リベジオンに通信が入った事を知らせるコール音だ。
潤也はリベジオンの操縦席に座り、その通信回線を開く。
スピーカーの向こうから聞き慣れた声が聞こえてくる。

41 :

「ハロー、親愛なる兄弟、そろそろ君は僕が恋しくなってるんじゃないかと思ってね?僕はそう凄く思ってるんだけど、どう?これからちょっと会わないかい?」
その耳障りな声は深く潤也を不快にさせる。
潤也は無言で通信を切ろうとスイッチに手を伸ばす。
そこで、男は慌てたように
「おっとと、通信を切らないでくれよ、兄弟、せっかく面白い事を教えてあげようとしてるのにさ・・・。」
そう意味深にアテルラナは言った。
潤也はそれに聞き返す。
「面白いことだと?」
「そう、面白いことさ、題して『黒峰咲の真実とその仕掛け人』っていうのはどうだい?興味をそそるだろう?僕は凄いそそるね。」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
シュミレーション108
全ての器官が完成。
それを繋ぎ合わせ、人を構成する。
構成中。
――構成中。
―――――構成中。
構成完了。
作り上げた人が目を覚ます。
【結果】
失敗。
【問題点】
素体となった人間の体の再構築には成功―――人格までの模倣は不可であった。
人格を形成するにたる魂の生成とそれを形作る記憶の作成が必須と思われる。
これはダグザの大釜の力のみでは成せぬ所業であり、他の至宝の力も必要と想定。
よって未だ、人の蘇生は成功せず。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―結に続く―

42 :
というわけで終了です、連投規制くらってしまいました・・・orz
新規さん完全お断りな感じのネタバレ回です、終始ネタバレなんですが、設定を羅列するだけにもなりそうで、それを回避しようと四苦八苦した形跡が見えます。
この二章は明かせる情報は全部明かしてしまおうというある種のネタバレ回です、風呂敷を広げているように見えて、実はたたもうと書いてる側は躍起になってます(苦笑)

超ひさしぶりのリベジ投稿ですが、楽しんでもらえると・・・いいなぁ・・・。
次はたぶんそんなに遠くはない。(もはや説得力の無い発言)

43 :
代理投下終了!それではゆっくり読ませていただきますね!

44 :
投下乙です!ゆっくり読ませてもらおうかー!

45 :
>>42
投下乙です
まさか……家族自体がリべジオンに関わっていたとは……
咲ちゃんといい、うちの子といい、ロボスレは殺し愛が好きな女の子が増えてきたな!
そして潤也は……どのような決断を下すのか……
次回を楽しみにしていますね

46 :
遅ればせながら>>1乙でございます
グラインドハウスの完結&CR再開という二代ビッグニュースに戦々恐々しつつ。
BWを再開する前に感想の程を。本当に前スレから亀ばっかですみません。
>>24
まずは完結、心からおめでとうございます。
コラージュがこうもあっさりと退場したのに本気で驚きました。しかしこうも巨悪があっさりと倒れる無常感が実にグラ家だなと。
悪夢を終わらせるのが、主人公では無く巨大な存在、ひいては公的な存在である事に絶妙なリアリズムを感じたり。
ここら辺の決してキャラクターを英雄化というか、ヒロイックにさせない氏の作風が本当に好きです。リアルで。
まさか奴の正体がキムラだったとは……。そんなキムラも手玉に全てを掌握するアヤカさん凄すぎィ!
さて、悪夢から覚めて真実を知り、平穏な日々に戻って(多分)来れたマコト君。
その裏で生き残りやがったコラージュ。まだまだ、マコト君に平和な日々が訪れる気がしないのであります。ガクブル。
にしてもこのほろ苦い、良い意味で何か終わった様で何も終わっていない終わり方。氏にしか出せない持ち味と言ってもいいのでは無いのでしょうか。
グラゼロからグラ家としてある種続き物な感じになりましたが、三作目のグラ○○にもグラ家の設定や世界観は継続されるのか?
そしてマコト君の戦いはこれで本当に終わったのか? 色んなワクワクとする後味を残しながらも改めて完結、おめでとうございます&お疲れさまでした。
このパイロットスーツマジでカッコいいです。シンヤ君は本当にイケメンだな!!
AACVの良い意味でのこのずんぐりむっくりとした感じも大好きです。これで本編は軽快に動いてるんだからホントカッコいいよなー。
>>42
CR再開乙です!心よりお待ちしておりましたよ!
にしても1年振りとは何か実感沸きませんねw年を取ると時間の進みが遅く感じてしまって困る。
さてさて、再開して間もなく一気に色んな謎が咲ちゃん経由で明かされていますが、僕の足りない頭だと理解が追いつかなくて困る。
取り合えず今までの話からは考えられない位潤也兄やんが動揺してる事から限りなくヤバい事が起きてる事だけは重々理解。
というかあらすじに書いてはいますが、実際に妹が全ての元凶だと分かった瞬間の世界の歪みっぷりがヤバいですね。
咲ちゃん、いや、咲さん、いや、咲様と呼ばざるおえないこの滅茶苦茶っぷりには震える他ない。
というか鋼獣を生み出すだけでなく物体その物を生み出すとか最早神に等しいというか、邪神というか。何を言っているのか僕は。
只でさえ可愛い妹が敵に回るのもきついのに、事の発端に両親が携わってるとか潤也兄やんボロボロ過ぎるやないか……!
というかこれ、両親すらも、というか家族が皆敵に回る展開になるんですかね。まるでどこかのブレードさんやないか……!
藍ちゃんー!藍ちゃん何とかしてあげてー!
そんな潤也に手を差し伸べる予想だにしない相手。さて、最早何もかも絶望に染まった潤也をこの先待ち受ける物とは。
早く次回を読みたくて仕方ないでござる。というかコレ読んだ後、前スレのアレを読むとダメージ半端無いよww

長々とすみませんでした。CRの続き&グラ家さんの次回作を楽しみにしています。
では次のレスから5月振りのBWを投下します。以前師匠に監修を頼みましたが
今回は遥とリシェルの話に絞っている為、監修を頼むのはリヒトの話を絡ませる時になるかなぁと。では


47 :
暗く淀んだ空から容赦なく降り続いている、冷たく打ち付ける雨に身体を濡らしながらも少女は躊躇する事無く歩き続ける。

今にも折れてしまいそうな、華奢で生白い両足が、一歩、一歩と踏み出す度に跳ね返る泥水に塗れて汚れる。にも関わらず、少女は歩みを止めない。
彼女と再会した時には―――――――――久しぶりに一条遥と再会した時には綺麗に着飾られていた洋服も、既に泥塗れだ。
全身を自らの手で汚しているかのように、少女――――――――リシェル・クレサンジュは路地裏を一心不乱に歩き続ける。
路地裏はまだ昼間だというのに、どんよりとした薄暗さに満ちており先が見えない。リシェルは自分が闇の中に飲まれていく様な錯覚を覚える。
さっきまで一条遥と共に謳歌していた、明るく賑わう表通りと相反する様に僅かな光すらも届かない暗き路地裏。
レイチェルの暗部と言えるかもしれないその場所は負の空気に溢れており、ジメジメとした湿気と、言い知れない息苦しさを感じさせる。
路面には大量の水溜りが広がっており、奥に進めば進むほど、異様な圧迫感が迫ってくる。
リシェルは近くの壁に手を付きながら、確実に一歩ずつ踏み出していく。しかしこの路地裏、全く人のいる気配を感じない。
左右には老朽化している建物が軒を連ねてリシェルを冷徹に見下ろしている。崩れかかっているガレキや擦り切れたポスター、伸び放題のツタが痛々しい。
かつては様々な目的を持った人間達で賑わっていたのだろうが、今や人っ子一人、何処かへと消えてしまった様だ。
寒さからか、それとも疲れからか。呼吸が若干荒くなりながらも、リシェルは歩く。
ふと、無意識に頭の中で反芻する、記憶。まるで灯火の様な、温かく楽しい記憶が、甦ってくる。
全ては数日前だった。リシェルにとってそのRは、ある種運命のRであった。
自分と同じくらい小さな背丈ながらも、自分とは全く違う人生を辿っている少女に出会った。実年齢に比べ外見のせいで、大分幼く見えるその少女の名は、一条遥。
リシェルを見据えている、一条遥の大きな両目は、希望に満ちていた。その目は、太陽の下で健やかに育ち続ける、向日葵の様な明るさに溢れていた。
前方を軽く睨みつけて、リシェルは壁から手を離す。そろそろ終わりが見えてきたかもしれない。
我ながら粗末に程がある、変装代わりの頭部に被った麦わら帽子を目元が隠れる位深く被り直す。
この先に何があるかは分からない。表通りに出るかもしれないし、行き止まりかもしれない。リシェルとしては……まぁ、まだ結論は出すべきじゃない。
足音を隠しながらも、背後から複数の人影が迫っている事にリシェルは元々感づいている。勘付きながらも敢えて、自らを袋小路へと追い込んでいる。
逃げるのであればこんな真似をする必要は無く、人混みに紛れて行方をくらませば良い。何故、リシェルがこうして自らを不利な状況へと追い込んでいるのか。
答えは単純で、リシェルに逃げる考えは無い為である。いつ頃からか、彼女の思考は逃走から戦闘へとシフトしている。
どっちにしろ警察に追われている身、例え強引な手を使ってでも、ここで出来る限りの障害は排除しておくべきだと、リシェルは考える。
左右を見下ろしている建物が途切れ、とうとう路地裏の奥へと、リシェルは辿りつく。

48 :
路地裏の行く先は、行き止まりである。移住区として使われていたのだろうか? 正面、右左と巨大なアパートらしき建物がリシェルを阻んでいる。
当然、この建物も人の気配はまるでなく、大量に割られた窓ガラス、錆に侵され放題で茶色く染まっている壁面、剥き出しの鉄骨と人が住む以前にそもそも開発段階で放棄された様に思える。
何となく幽霊でも住み着いている様に思えるが、今の所存在を感じられるのはネズミだとかの小さな動物達程度だ。次第に雨が強まってきて、雨音が反響しては空に消える。
麦わら帽子を投げ捨てて、リシェルは足を止めて振り返る。振り返り、右手に力強く握っているパートナー、神威――――――――が変形している杖を口元へと寄せる。
と、闇の中からうっすらと、何者かが姿を現し始める。その何者かは一人、二人、三人と増え出しては、リシェルを取り囲む様に増えていく。
何者かの姿は、リシェルの命を背後から狙ってきたあの男と同じ姿――――――――顔をすっぽりと隠す様に頭部、否、全身を漆黒のローブで包んでおり得体が知れない。
あの男と同じ、と寧ろ……あの男と同類の存在だと、リシェルの中で漠然と浮かんでいた疑問が確信へと変わる。
あの男の凶行は、決して偶然ではない。最初から計画されていたのだ。
この集団に、あの男はきっとそそのかされたのだろう。私をR方法があると。
一つの疑問が解けた所で、また別の疑問がリシェルの中で沸き立つ。ならばこの集団は、何の目的で私を狙っているんだろうか? という疑問が。
至極簡単に考えれば、ライオネルの指示の下、リシェルが神威を使い、奪ってきたオートマタの神子達が復讐の為に徒党を組んできたのかもしれない。
寧ろそう考える方が自然である。いつ復讐されるかも分かんねえからいつも気を引き締めておけ、とライオネルに常々言われてはいたが……。
完全に不意を突かれた。一条遥と一緒に過ごしていた時のリシェルは、完全に気が抜けていた。油断しきっていた。
一条遥と過ごしている時間は今までに無い位幸福感があった。成す事やる事、全てが楽しかった。
あの時だけは、リシェルは一人の少女として生きる事が出来た。忌まわしい過去も、罪深き今も忘れる事が出来た。
そんな瞬間をこの集団は奪い去った。そう考えると、リシェルの中で例えようの無い感情が一寸顔を出す。
雨は豪雨へと変わり始め、鉄骨を打ち立てる雨の音がさながら機関銃の銃撃音の様だ。
リシェルの髪の毛は大量の水を帯びており、撥ねに撥ねた泥水は肌も洋服も、リシェルの全身を無残な姿へと塗りつぶす。
目の奥が猛烈に痒く、リシェルは目を擦りたい衝動に駆られるが、こんな状態で目を擦ると自ら目を潰す様な行為なので止めておく。
それにしても不思議だと、リシェルは思う。これは雨だ。顔を雨水が走っているだけだと、自分自身に言い聞かせているのに。
両目から雨水が流れて、留まる様子が無い。何度も腕で目元を拭っても、両目から雨水が止まらない。
視界がぼんやりと曇っていく。これから場合によって活発に動く必要もあるのに、これでは……いけない。
いけないというのに。こんな、事では。
「その涙は我々への同情か? それとも挑発のつもりか?」
ずいっと、ローブ集団の長らしき人物が、リシェルの真正面へと踏み出してくる。
踏み出しながら頭部を隠しているローブを両手でがっしりと掴むと、ゆっくりと上げ始めた。
ローブを顔から上げて、その人物はリシェルへと自らの顔を露出させる。
男性。それも、一言で表すのならば強面の男性で、顔に走っている幾つもの傷痕と逞しく整った眉、鋭い目付きには、幾つもの死闘を繰り広げてきたような凄身を感じられる。
正に戦士、それも熟練の戦士と呼ぶのに適したような顔付きである。本来ならば。しかしその目に、戦士らしい魂は感じられない。

49 :
光の宿っていない虚ろな目で、何かを見ている様で何も見ていない、空っぽな瞳。だが、その両目は確かに、リシェルの事を映しこんでいる。
「他人の幸福を根こそぎ奪っておいて、自分は涙を流す余裕があるとは羨ましいぞ。我々の涙はとうに枯れ果ててしまった」
そう言いながら、男性は何故かローブを跳ね上げて、鍛えに鍛え上げられた筋肉質な右腕をリシェルに見せ付ける。
その右腕、否、右手首には何の装飾もなされていない、質素なリストバンドが巻かれている。
リストバンドは質素ではあるが、何か宝石でも嵌めていたのか、真ん中の部分に球形のくぼみが作られている。
「覚えているか」
神威を構えつつ睨んでいるリシェルに、男性は声を震わせながら、言った。

「貴様にオートマタを強奪された、カルマスという哀れな男の事を」
                              ――――――――
時間を数十分前に戻そう。

「ごめんなさい! ごめんなさい!」

50 :
人混みの中を謝りつつも必死に掻き分けながら、一条遥はリヒターと共に、行方を眩ましたリシェルを探し続けている。
人にぶつからない様回避しつつ、遥はレイチェルの街を駆け抜ける。
とにかくリシェルらしき人物がいないかを逐一目を凝らして探し続けるが、こんな地道すぎる草の根運動的な探し方ですんなり見つかるとは思えない。
思えないものの、あんな別れ方をしてそのままさよならするなんてまっぴらごめんだと、遥は心の底から思う。
別れ自体が嫌なんじゃない。人には色々事情があるし、一期一会って事だがあるし。
だが、しっかりとした事情も分からず有耶無耶のまま別れる事だけは嫌だと、遥は思う。
リシェルの外見自体は非常に特徴的だ。特に琥珀色の瞳なんてまず、忘れる筈が無いし見間違える事も無い。
だがしかし、それっぽい髪の色をした人も、ましてや琥珀色の目を持つ人にすらも見掛けない。一体、リシェルはどこに行ったのだろうか。
神頼み的な感覚で、遥はリヒターを口元へと寄せて、尋ねる。
「リヒター、神威の気配……感じる?」
僅か少しでも、少しの可能性でも良い。リシェルが携帯しているであろうオートマタ――――――――神威の気配をリヒターに探って貰う。
遥は未だに、リシェルが神威の神子であると、連続オートマタ強奪事件の犯人であるという事が信じられない。
いや、まだそうだとハッキリした訳じゃない。全てはまず、リシェルを見つけて掴まえる事だ。それで全ての真実がはっきりする。
同じオートマタ同士なら少しでも波長というか、そういうのを感じられるのではないかという、浅はかな期待を遥はリヒターに寄せる。
しかしそんな雲を掴む様な期待でさえ、今の遥には重要である。ほんの少し、本当にほんの少しでも構わない。
リシェルの気配を、存在を察知する事ができれば、それで。
<……マスター、申し訳ございません。逆に気配が遠のいています>
「離れちゃってるんだ……ありがとう、リヒター。大丈夫だよ」
リヒターに優しく微笑み返しながら、遥は前を見据えてとにかく走る。
数分前の出来事が仄かに、遥の頭の中で巻き戻される。
あの出来事も、遥の必死な探索に拍車を掛けている。

                              ――――――――
遥がリシェル探索をし始める一分ほど前に時間が戻す。

遥は俄かに信じられない。信じられないが、確かにその人物は、遥の前にいる。
リシェルと全く同じ髪の色にして、どことなくリシェルと似ている顔立ち。目の色が違うのは不思議だが、それは重要な事じゃない。
リシェルに比べて大分目鼻立ちとスタイルが大人びているが、それでもしっかりとリシェルと姉妹だと分かる雰囲気。
その女性、マシェリー・ステイサムは遥に深く頭を下げる。そしてゆっくりと頭を上げると、凛としていながらも若干申し訳無さそうな声で、言った。

51 :
「私の名はレイン。レイン・クレサンジュ。仕事でマシェリー・ステイサムという名を使っているから、普段はそちらの名で呼んでほしい。
 ……いきなりこんな事を頼むのも失礼千万とは思うが」
そうして、両目に指を当てて、何かを取り出す。恐らくコンタクトレンズか―――――――と。
マシェリー、否、レインはリシェルと同じ琥珀色の両目で、遥を見据える。見据えながら、切実さをひしひしと感じる声で、言った。
「私とスネイルと一緒に、私の姉を……探してほしい」
 
遥は瞬時に思い出す。さっきまでリシェルが、遥と食事を楽しみながら切々と語っていた、自らの過去を。
リシェルは語った。自分には、事情があって離れ離れになってしまった妹がいると。その妹の名前はレイン。レイン・クレサンジュと。
もう出会う事が無いかもしれない、けれどいつかもう一度レインに会ってみたい。それで抱きしめたいと、リシェルは言った。
そんなレインが、妹は今、遥に言った。私の姉を、探してほしいと。
こんな酷な偶然があるのだろうか。離れ離れになった姉妹が、こんな場所で出会ったのに、再びすれ違うだなんて。
だとしたら、何故リシェルはようやく出会う事が出来た妹から逃げ出したのか。今まで会いたくて仕方が無い相手だった筈なのに。
いや―――――――レインだけでなく、どうして……私からも、逃げ出したのか。
遥には何もかもが分からなくなってきた。リシェルが何を思い、何を考え、姿を消したのか。何一つ、分からない。
聞きだしたい。例えエゴだろうと、リシェルに取って触れてはならない領域かもしれなくても、遥はどうしても、リシェルから聞きだしたくて仕方が無い。
寧ろ、聞かねばならないと、思う。どうして、リシェルが全てから背を向けたのか、そして逃げ出したのかを。
この事がハッキリしない限り、遥は安心して眠れない気すらしてくるから困る。
「遥ちゃん、色んな事が一気に起きすぎて頭の中大混乱だろうけど、協力してあげてくれないかな。本当に必死なんだ、この子」
ある種、一番先に突っ込みたいが突っ込んじゃいけない気がする、レインの横に立つスネイルが遥にウインクしつつそう言う。
態度自体はやおよろずにいる時の様に飄々としているが、遥には分かる。スネイルの声にふざけた様子は無く、心から頼んでいる様に聞こえる。
付き合っている期間自体は長くない所か二日三日程度だが、遥はこういう局面でスネイルがふざけた事をする様な人間では無いと信じている。
それに真剣な、切実な面持ちで遥の答えを待っているレイン。
遥は迷う事無く、即座に答えを出す。迷っている暇なんて、時間なんて一秒も、ない。
「分かりました。協力します。早くリシェルさんを見つけて、きちんと話を聞かないといけないですね」
遥の返答に、レインは心からホッとしたのか、良かった……と小声で呟き胸を撫で下ろす。
そんなマシェリーを、スネイルはニヤニヤとしながらいつもの茶化す様な声で弄る。
「良かったわねマシェリー。遥ちゃんが良い子で」
スネイルの言葉をそれとなくスルーし、レインは咳払いをすると通常時の冷静な顔付きへと切り替わる。
そして再び、今度は軽く遥に頭を下げる。顔を上げ、遥からじっと目を逸らさず、良く通る声で感謝する。
「協力してくれて、本当に有難う。心から礼を言うよ」
レインの感謝に対して、遥は軽く頭を横に振る。振って、答える。
「まだ感謝される様な事はしてないです。感謝なら、リシェルさんを見つけられた時にでも」
そうして、遥はレインとスネイルに、自分自身に言い聞かせるように力強く引き締まった声で、言う。
「一刻でも早く、リシェルさんを探し出しましょう。それで……真意を、聞きだしましょう」


52 :
 

53 :
レインとスネイルは深く頷き返す。自らの正体を隠すコンタクトレンズを、レインは入れ直す。
物言わぬその瞳には、確かな決意が籠っている。必ず、姉を探してみせるという。

                              ――――――――
回想終わり。
遥は気合いを入れる様に両頬を両手で軽く叩く。さっきにも増して足を早めて、少しでも怪しい人物がいないか目を凝らす。
今頃、自分とはまた違う手段でスネイルとレインはリシェルの探索に走っている。
二手に分かれた理由は、三人と一機で纏まって探すよりも互いに違った方向で探した方が恐らく見つけやすいというスネイルの提案だ。
もしも目出度くリシェルを見つける事が出来たらすぐさま連絡してほしいとも、スネイルは言っていた。
しかし遥の手には通信機も無ければそれに準ずる機械もない。ならばどうスネイルに連絡を入れるのかというと。

                              ――――――――
「あ、そうそう。遥ちゃん。ちょっとストップ」
話が纏まった為、今すぐにでも走りだそうとした遥をスネイルは引き留める。
急に呼びとめられて若干驚きながらも、遥は回れ右をしてスネイルの方へと向く。
遥を引き留めたスネイルは、何故か両耳を掌で軽く二回叩く。
すると両耳を覆い隠す様に突如として、大きなヘッドホンが手品の如く現れた。
言うまでもなく、このヘッドホンはスネイルがいた世界における通信機で、やおよろずがスネイルらを助けた際、夕食の席で遥はこのギミックを見ている筈なのだが。
「うわわっ!」
物凄く分かりやすいリアクションで驚嘆している遥に、スネイルは楽しそうに笑う。
一方、横に立っているレインは初めて見る筈だがそれほど驚かず、表情を変えないまま軽く瞳孔を広げている。
遥よりもレインの方がリアクションが薄いという妙な現象に苦笑しつつ、スネイルは説明する。
「その驚きっぷりナイスよ、遥ちゃん。これが通信機だってのは前説明した……多分説明したとは思うけど、これの凄い所はね。
 直接言葉を交わさずとも、脳波を受信して頭の中で喋れるって部分なの。何か私に対して頭の中だけで呟いてみて。遥ちゃん」
のうは……? 訳の分からない未来の技術に呆気に取られながらも、遥は半信半疑で頭の中だけで言葉を呟いてみる。
スネイルは遥からメッセージを受け取る為に目を瞑って集中する。受信したのか、ゆっくりと目を開けて、言った。
「……私は永遠の十七歳よ」
「流石にそれは無いだろ」
真顔で突っ込むレインを完全にスルーして、スネイルは遥に言う。
「何となく分かったかしら」
「はい! ホントに通じてビックリしました」
「ねー。科学の進歩って凄いわよね。後、私は永遠の十七歳だから」
「二回りくらい鯖読んでるだろ、いい加減にしろ」
真顔で突っ込み続けるレインに吹き出しそうになりながらも、遥は思う。科学の進歩って凄い。
そうして遥は、傍らでじっと指示を待っているリヒターに目を向ける。もしかしたら、この先リヒターには迷惑を掛けるかもしれない。
痛い思いをさせてしまうかもしれない。だから先に……と。
<マスター>
遥が何か言おうとした手前、リヒターの方から話しかけてきた。
「リヒター……」
<私は>

54 :
<私は、何があろうとマスターの命に従います。マスターの身を守る事が、私の使命です>
「……リヒター」
遥は目を閉じる。閉じて、リヒターを抱き締める。
心の中で大きく引っかかって取れない、わだかまり。疑念、不安。
どうしても、リシェルが神威の神子である事を、強奪事件の犯人だと信じたくはない自分がいる。
信じたい。人を疑うなんて事はしたくない。遥の知ってるリシェルは、読者好きで素直な、少し不思議な少女だ。とても悪事に手を染める人間には思えない。
だが、遥はハッキリと聞いていた。リシェルが持っているオートマタの名を、神威と言ったのを。
そしてリシェルを付け狙い命を狙ってきた男の存在。どう足掻いても、現実は非常にして残酷だ。
認めたくない事実が遥の前に憚る。だが、ここで目を背けて逃げだせばそこで全て終わりだ。
遥は思う。ここでもし背を向けて逃げ出したら、きっと一生後悔し続けると思う。
絶対にリシェルを見つけ出さなきゃいけない。見つけ出して、聞きださなければならない。
真実を掴まねばならない。事実という真っ暗闇の中にある、真実の光を。

「行こう、リヒター」

遥は走りだす。この先に何があろうと、その光を掴むまで決して、足は止めない。

「行っちゃったわねー」
すぐに小さくなってしまった遥の背中を眺めながら、スネイルはレイン、いや、マシェリーに目を向ける。
「さて、私達はどこから探しましょうか」
「その前にスネイル、少し良いか? ホテルに戻りたいんだが」
マシェリーの言葉にスネイルはまっ、と頬を染める。
「こんな時にホテルだなんて貴方……」
「何を想像してるかは知らんが張り倒すぞ。……緊急時に頼りになる道具を取りに行きたいんだ」

                              ――――――――
一体どれくらい走りまわったのだろうか。未だに手掛かりすらも掴めないまま、虚しく時間だけが過ぎていく。
流石に数十分以上も走り続けていると足がくたびれてくる。情けないと思いつつ、遥は早足で探索を続ける。

55 :
『どう、遥ちゃん? そっちは手掛かり掴めた?』
通信機越しにスネイルが話しかけてくる。遥は悔しげに返答する。
『いえ……まだ何も掴めてないです。ごめんなさい』
遥の返答に、スネイルは慰める様な優しい口調で答える。
『そっか……寧ろ謝るのはこっちよ、遥ちゃん。私達の方もまだ何も掴めてないの、ごめんなさい』
『いえいえ。もっと頑張って探してみます』
『うん。早く見つけてあげないとね。レインの為にも』
通信を切り、遥は一呼吸付くと再び走りだす。
とにかくリシェルらしき人物がいないか、見逃さない様に群衆に目を向ける。
しかしどれだけ注意深く観察しても、リシェルらしき人物は見掛けない。自分と同じぐらいの背丈の少女は何度も見るのだが。
どの少女も、瞳の色が琥珀色ではないし髪の色も違う。髪の毛はともかく、琥珀色の瞳は誤魔化そうとして誤魔化せる物ではない。
もしかしたら、今のリシェルは全く違う格好へと変装して潜んでいるのかもしれない。寧ろ、その可能性が高い。
それならそれで難度がグンと上がってしまう。あの特徴的な髪の毛を隠されたら、あの目を隠されてしまったらどうしようもない。
しかし、遥の辞書に諦めるという文字は無い。例えどんな小さな手掛かりでも構わない。
リシェルに辿りつく事が出来るので、あれば。
と、走りだした手前、軽くではあるが前方を歩いてきた人と肩が当たってしまった。
少し急ぎ過ぎてしまった様だ。遥はすぐに振り返って、肩をぶつけてしまったその人へと謝る。
「ごめんなさい!」
「あ、いえいえ。こちらこそ」
温和な表情を浮かべているその人物、というか少女の髪の毛は、空を連想させる様に蒼く、綺麗な紅色の大きな瞳が印象に残る。それに遥より比べて幾分背が高い。
リシェルほどではないにしろ特徴的な少女だ。遥は何となくどこかでこの少女に出会った様な気がするが、他人の空似であろう。
いけない、ここでぼんやりとしている訳にはいかない。気付けば空から一適、ニ滴と冷たい物が落ちてきて、やがてぽつぽつと降り注いでくる。
雨だ。ただでさえ状況が進んでいないのに雨まで降らすとは。遥は神に対して文句を言ってやりたい気分になる。
「それじゃあ……」
「あ、ちょっと良いですか?」
先を行こうとした瞬間、少女から呼び止められる。
人に尋ねられるのをそそくさと無視するのは遥の性格に反する。しかし余裕は無い。なるたけその問いを素早く応えようと思いながら、遥は答える。
「はい?」
「その……私の麦わら帽子を拾った人、見掛けませんでしたか? その人、何を勘違いしたのか被ったままどっか行っちゃって……」
麦わら帽子……? と遥が首を傾げていると、少女はその麦わら帽子の特徴を詳しく話し出す。
しかし遥の記憶の中に、少女が語る麦わら帽子を被っている人物は浮かんでこない。
本当に申し訳ないと思いつつ、遥はその場を後にしようとする。

56 :
「見てないですね……ごめんなさい」
「そうですか……結構外見に特徴的な人だったんで、もしかしたら見掛けたかなぁと思ったんですけど」
「どんな人なんですか?」
一刻も早く行かねばならないと思いつつ、ついつい遥は質問してしまう。
少女は、答える。
「こう、髪が白色で目の色が……なんていうんだろう」

「琥珀色、っていうのかな? そういう珍しい色の目の人だったんですけど」
―――――――遥は少女の言葉に、ポカンと口を開ける。
まさか、こんな偶然があるのだろうか。遥は神を称えたい気分になる。
しかし決して状況が好転した訳ではない。リシェルはまだレイチェルにいるとはいえ、麦わら帽子を被って変装している事が分かっただけだ。
だがそれだけが分かっただけでも良い。後はリシェルが何処に行ったのかさえ、分かれば。
「……その人、どこに行ったか分かりますか?」
興奮を抑えつつ、遥がそう聞くと少女は前を指差して答える。さっと遥は身体を翻して、少女の指先へと視線を向ける。
「何か急いでたみたいでそのまままっすぐ……追いかけようとしたんですけど、人が一杯いる中でもう追えなくなっちゃって……」
「そうですか……」
遥は少女に向き直る。向きなおって、言う。
「私、もしかしたらその人の事知ってるかもしれないです」
「本当ですか?」
軽く驚いてる少女に、遥は深く頷く。頷いて、言う。
「もし見掛けたら、というかその人を見つけたら取り返しますよ。麦わら帽子」
「あ、麦わら帽子の事ならもう良いんです。かなり使い込んでてボロボロだったし。ただ、気になる事があって……」
「気になる事?」
「その人……何か凄い思い詰めた顔してたから、どうしたのかなって……」

                              ――――――――
少女と別れた後、遥は教えて貰った通りまっすぐ正面へとリシェル探索を続ける。
少女が言った、思い詰めた顔という単語が頭を離れない。リシェル……不吉な事に巻き込まれていなければいいのだが……。
最初は小雨だった雨は次第に強さを増していき、やがてバケツを引っ繰り返したかのような暴力的な雨へと変わる。
しかし雨程度で意欲が削がれる様な遥ではない。水溜りを撥ねながら、遥は探す。探し続ける。
と、その時だ。
<マスター>
今まで黙って遥を見守っているリヒターが、口を開く。
急いでいる足を止めて、遥はリヒターに顔を向ける。

57 :
「どうしたの、リヒター?」
<……やっと、感じ取れたかもしれません。神威の存在を>
「……ホント?」
リヒターは遥を導く様に自ら動きだすと、どこかを指を指す代わりに、先端をその場所へと向ける。
遥はそのまま導かれる様に、リヒターが向いた場所へと身体を向ける。向けて――――――――遥は息を、漏らす。
リヒターが差した方向は、人の気配がまるでしない、薄暗い路地裏だ。
レイチェルの街はそこそこ熟知している遥でさえ、普段は通り過ぎてまず目に映らない路地裏。
こんな路地裏にリシェルが? と一寸思うが、リヒターは言う。
<この先から、神威の気配を感じます。それも、非常に強く>
「今神威がどんな状態なのか分かる? その……オートマタに変形してたりする?」
<マスター、申し訳無いのですがそこまでは分かりかねます。しかし神威は確実に、この奥にいます。きっと、彼女も>
容赦無く遥を打ち付ける豪雨の弾丸。服も髪もずぶ濡れになっているが、遥にその事を気にする様子は無い。
雨が降っている事すらも忘れるほど、遥の中でリシェルの事が一杯になっている。
確証は無い。確実にリシェルと神威がこの先にいるという裏付けは無い。だが、遥は進む。突き進む事にする。
何故なら、リヒターが見つけたというのだから。長く窮地を共にしたパートナーの言葉以上に、信じられる物は無い。
雨のせいもあり、路地裏は非常に空気が悪く、遥は激しく咳き込む。
咳き込みながらも、着実に進んでいく。それにしても何だろうか、この四方八方から迫ってくる、圧力の様な物は。
まるで、遥がこれ以上進む事を阻んでいるかのようだ。しかし遥は止まらない。リシェルと出会う為に、足を止める訳にはいかない。
にしても息苦しい。こんな場所で倒れでもしたら、二度と表に戻れない気がする。
息苦しいのに、両足は自然に一歩二歩と前へ前へと突き進んでいく。この先に、リシェルがいる。
そう思うと、遥の両足は無意識にでも進んでいく。今ならば、どんな障害が待ち受けていようと乗り越え、飛び越えられそうだ。
豪雨は変わらず、遥を打ちのめし続ける。こりゃ帰ったら確実に風邪引きさんだ。
ふっと、そんな軽い事が頭を過ぎった、時。

「……行き止まり?」
気付けば、路地の終わりまで辿りついていた様だ。辿りついた様だが、昼間だというのにやけに視界が暗く、前が良く見えない。
取り合えず、遥を待ち構えていたかの様に廃墟となっている建物が並んでいる事だけは分かる。その下に、誰か……。
一先ずスネイルに連絡を入れよう。そう思い、遥はスネイルへと思念を送る。

58 :
『スネイルさん、スネイルさん』
『遥ちゃん、どうしたの?』
『……リシェルさんに会えたかもしれません』
『ホント!? ちょっと待って、今場所を調べるから』
スネイルへと連絡を入れた時、ぐにゃりと、遥は何かを踏んだ。
雨でぬかんだ地面とは違う感触。固くは無いが柔らかく、それでいてぎっしりと詰まっている……。
瞬間、空に轟音を鳴り響かせながら鋭い雷が走る。雷は一瞬だけ路地を照らし、遥が踏みつけている何かを照らしだした。
……手? ……手?
落雷が照らし出したそれに、遥の思考回路は停止しそうになる。どうにか口元を押さえて、出てきそうになった物を抑える。
何で、何で人の手が地面に転がって……ここで、ここで一体何が? 乱れに乱れている思考回路を無理矢理落ち着かせて、遥は真正面へと顔を、上げる。
顔を上げた遥を迎えたのは――――――――。


                          パラべラム
                            ×
                       ヴィルティック・シャッフル
 



再び鳴り響く轟音、後、雷鳴。
雷鳴が一寸だけ照らし出したそれは―――――――ゆらりとして佇み、傍らに刀を持つ、人の形をした、ロボットの姿。
正確には、オートマタの姿だ。

そんなオートマタの近くで、片手にナイフを持つ少女は、遥に気付く。

「どうして……」
『遥ちゃん、リシェルさんに会えたの? 遥ちゃん』


59 :
スネイルの呼びかけが頭に入ってこない。
今の遥は呆然とも、唖然ともいえる表情を浮かべている。何にせよ、抱いている感情は一つ。

「どうしてこんな所にいるの……一条さん!」

今のリシェルは呆然とも、唖然ともいえる表情を浮かべている。何にせよ、抱いている感情は一つ。


                                
                             beautiful world
                         the gun with the knight and the rabbit
                           


あまりにも、酷な再会を果たしてしまう二人の少女の間で、神威がツインアイを発光させる。その様はまるで。


                                第22話

                                 「鬼」



の様だった。

『遥ちゃん、返事をして、遥ちゃん!』

次回23話 「衝突」

60 :
今更取って付けた様なあらすじ
隆昭・リヒトがやおよろずで各々の時間を過ごしている中
リシェルがオートマタの連続強奪犯かもしれないという不安に駆られている遥は
タイミングが悪い事にレイチェルでリシェルに再会してしまう。同じ頃、同伴しているスネイルはリシェルの妹であるレイン(マシェリー)と出会う。
リシェルと過ごしている内に、遥はやはりリシェルは犯人ではないのではないかと思い始める
が、その隙を狙い付けたようにリシェルを狙う男。危うい所をリシェルはレインに救われるが、何を思ったかリシェルは逃げ出す。
スネイルとレインに出会った遥は、二人と共にリシェルを追い出すが……
というのが前回の話でした。投下終わりました
色んな意味で辛い話ですが、少しでも楽しんで頂けたら
次の再開は……半年以内にどうにか(自信なし

61 :
今までのお話をウィキに収録してきました
どんな話だったっけと詳しく思い出したい人はぜひ。というか今まで怠慢ですみません
ttp://www13.atwiki.jp/sousakurobo/pages/1262.html

62 :
携帯からすみません
遅れましたが支援レスありがとうございます

63 :
投下乙です。
あがらない雨は無い…よね?

64 :
 必ず……やりとげねばならないのだ! >>1への乙など、とうに捨てている!!

65 :
 というわけで、皆さん投下乙です!
 それでは、ゆっくり読ませていただきますね!

66 :
 しかし移行に時間がかかりすぎましたのぉ。

67 :
人がいない時期ですしねェ。僕が早く感想書いて何か投下出来れば良かったんですが
んで新スレ早々スレ止めてるwwwうは、死にたいwwww

68 :
>>63
感想有難うございます
物語上の雨は後2,3話くらいで挙がりますが展開に降る雨は……
楽しみにして頂けると

69 :
>>43-44
乙ありです
>>45
感想ありです
潤也の決断に関しては楽しみにして貰って大丈夫かと
らしい理由になると思います

>>46
感想ありです
元々、情報量を3章分詰め込んでしまった内容になってしまってるせいか
ちょっと設定供給が過多気味になってしまったという気はします、書いてる時書いてる側がぐわわわな状態でした
実際のところ、自分でもちょっと説明多いなぁーと書いてて思ってて、まだちょっと続くので悪いなーという感じで・・・
咲はー、まあ、ある意味必死な子です、ほんと必死なんです、書いてる側が痛々しいと思うぐらい・・・
藍ちゃんはなんとかしようとしても逆撫でしちゃうのがあの子の可哀想な所ですw
前スレのアレは確信犯ですw

70 :
>>69
いやいやwこれからどんな風に潤也君と咲ちゃんが敵対していくのか楽しみですよw
咲ちゃんの必死さがどんな感じに物語を転がしていくのか、本当に目が離せないです
にしても毎回長い割に中身がそんな無い感想すみません

71 :
 しかし、モヤっとする展開が三回連続で投下されるとは……!

72 :
しっかし静かだな。ホント人いないね

73 :
 Gジェネも出ましたしネ。

74 :
別板の常駐スレもGジェネ効果でゆっくりだわぁ
何か盛り上がる事無いかなぁ。ロボスレ

75 :
よーしじゃあ(盛り上がるかはわからんけれども)パパ新しいやつの第一話投下しちゃうぞー
ちょっと長めなので、支援してくださると嬉しいです。

76 :
「どうかね、何千という善行によって一つのごみみたいな罪が消されると思うかね?」
(ドストエフスキー『罪と罰』)

 最初に感じたのは曖昧模糊とした、世界そのものの存在だった。
 私は世界の全体に満遍なく拡散されていて、特定の姿も意思も持ち合わせていなかった。
 それは眠りに落ちるときのまどろみが永遠に続いているような感覚で、抗いようのない安らぎが私を支配していた。
 ……その無限に広がる『私』の海の凪にひとつ、不意に波紋が発生する。
 その波紋を中心にして私の海は渦を巻きはじめる。渦は緩やかな調子から徐々に勢いを増し、
やがて凄まじい大渦となり、ついには私の海全体をそれと化し、自身すらその中に巻き込みながら、
急速に圧縮されていった。
 やがて、私の海は一滴のしずくとなり、落ちる。落ちたしずくは周囲の虚空に押し固められ、『私』を形作った。
 2本の足、2本の腕、1つの頭、正しく配置された両目、平凡な鼻、健康的な唇、くせ毛気味で外がわにはねた短めの黒髪、
あまり豊かでない胸、スポーツでそこそこ鍛えられた筋肉、そして、鼓動する心臓、目覚める脳髄。
閃光と共に一気に明るくなる世界――私は覚醒した。

 私は覚醒した。
 まず目に飛び込んできたのは真っ白な天井だった。据えられた蛍光灯の光が瞳を刺し、
私は見開いた目をすぐにまた細めた。
 次に私は強い息苦しさを感じて口を大きく開けて周囲の空気を吸おうとした。
くっついていた喉の壁がはがれるような感触がして、潰れていた肺に一気に空気がなだれ込んだ。
 咳き込みそうになった私が次に感覚したのは全身の猛烈な乾きだった。まぶたとすれて眼球が傷み、
唇の皮が広がって縦に裂けた。のどは砂漠のようで、水が欲しくなって持ち上げた手の指もカサカサに水分が失われていた。
 そうして意識を腕に向けると、私はそこに何かが刺さっていることに気づいた。
頭を少しだけ持ち上げると、自分が真っ白なベッドに寝かされていることと、
腕に刺さっているのが点滴の針であることに気づいた。自分が裸であることにも。
 疑問に思いながら胸に手をやると、ベッドのわきの心電図からのびる電極に触れた。周りを見渡す。個室だった。
 軽い毛布を身体に引き寄せて身体を隠す。点滴に心電図にこの内装……ここは病院なのだろうか。
ふと思いついて枕元を探すと、果たしてナースコールらしいスイッチが見つかった。ボタンを押す。
 少しして、ベッドの目の前の壁にあるドアが開いて、女性の看護士が2人入ってきた。
彼女たちは私の身体から電極をはがしたり、水差しを持ってきてくれたりしたが、私からの質問はほとんどを曖昧に受け流した。
 看護士は最後に私の衣服らしいものを私の膝上に置いて部屋を出ていった。丁寧にたたまれたそれを広げると、
なんだか見覚えがある気がする。
 ベッドから下りてまずは下着を身につける。下にはタイツとショートRを履き、ロングブーツに足を突っ込んだ。
飾りのサスペンダーをわきに垂らす。
 上半身は自分のお気に入りの、ゆるめのロングカットソーを袖の無いシャツの上から着た。

77 :
 身支度が済むと、他にあったはずの私物が気になったが、見当たらないので誰かに訊くことにして、
水差しの最後の1杯分をコップで飲み干してから部屋を出た。
 部屋の前の廊下は左右に伸びていて、並んだ扉と案内看板がやはりここが病院であることを示している。
 私はどこへ行けばいいのかわからなかったが、すぐに看護士が声をかけてきて、廊下の先に案内された。
そこは小さな診療室で、私は簡単な検査を受けた。どうやら目立った異常は無いらしい。
どうして私が病院にいるのかを質問すると、医師は記憶障害が出ているようだと言って、精密検査を受けるようすすめてきた。
 医師はまた、私が突然倒れたのでここに運ばれてきたのだということも教えてくれた。
原因はまだよくわからないが、まぁ恐らく貧血だろうとも。
 診察が終わって部屋を出ると、今度は看護士ではなく、見たことのないスーツ姿の男性が私を出迎えた。
彼は同い年くらいに見え、背がすらりと高く、モデルのような体型だった。顔は整っていて、清潔感のある美形だった。
 彼は私の名前を呼んだ。
「志野 真実(しの まなみ)さんですね」
 私は戸惑いつつもうなずく。
「こちらへ」
 歩きだした青年について行くと、彼は私を応接室の表示のある部屋に導いた。
 下座のソファには女性が座っていた。その女性は鏡のような黒の長髪と、長い睫毛、潤んだ黒い大きな瞳に、
柔らかい笑みを常に薄紅色の口紅がひかれた唇に浮かべた、白い肌と優しい雰囲気の女性だった。
彼女は胸元に高級そうなブローチが付いた綺麗なスーツを着ている。
 私はその姿を見て一瞬、息を止めて見とれてしまった。それほど美しい人だった。
 彼女は私にソファを勧める。それで私は我にかえった。
「はじめまして、志野さん。私はこういった者です。」
 席についた私に目の前の女性は名刺を差し出した。慣れない感じに戸惑いつつも、机の上から名刺をつまみ上げる。
「『財団法人 天照研究所 所長 天照 恵(あまてらす めぐみ)』……さん?」
 天照は深くお辞儀をする。その所作は丁寧だった。
「この街でとある研究をしております。本日は志野さんにお話がありましてお呼びいたしました。
突然のことで大変ご迷惑でしょうが、事情があってのことですので、どうかご容赦を。」
「……はぁ。」
「体調は、いかがですか?」
 天照が私を気遣うように見た。
 体調は別に普段通り、悪くない。
「もしかして、私をこの病院に運んできて下さったのは……」
「私どもでございます。」
「それは、どうもありがとうございました。」
 私は頭を下げる。天照さんはどこか憂いをこめた表情のままだった。
「どんなお礼をしたらいいか……」
「いえ、お礼は結構ですよ。」
「でもそれじゃあ」
「代わりにひとつ、質問させていただきたいのですが……」

78 :
「質問……ですか?」
「はい」
「なんでしょう」
「……もし、あなたの人生に」
 天照さんの口から発せられたのはまったく予想外の質問だった。
「もし、あなたの人生に、これから無数の、死ぬよりも辛い苦難しか待ち受けていないとして、
それでもあなたは人生を戦いますか?」
「え……?」
 私は言葉を失っていた。てっきりそんなこととは全然別の質問をされると思っていたからだ。
私は思わず視線をそらした。
「どうですか」
 天照は真剣な目でこちらを見つめてくる。ふざけている様子ではないところが、私に軽々しい返答を許さなかった。
私は質問を頭の中で繰り返す。
(もし、この先の人生に苦難しか待っていなかったとして……私は戦えるだろうか?)
 考えるまでも無い。
「人生なんだから……生きますよ、当然。」
 まだ出会って数分も経っていない相手に言うセリフじゃない。それがなんだかとてもおかしかったのと、
気まずい雰囲気ををごまかすために私は無理やり笑顔を作った。
 天照はそんな私を見て、なぜかとても悲しそうに目を伏せる。よく見ると、その目の端が潤んでいた。
彼女は泣いているのだ。
 そのことに私は気づいたが、どうすればいいのか判らず、扉のそばに立ったままの案内役の青年に目で助けを求めたり
した。しかしちょうどその時に彼には電話がかかってきたようで、携帯電話をポケットから取り出して部屋を出ていってしまった。
「あの……えと……」
 顔を伏せる天照にどう声をかけたものかわからずいると、突然部屋のドアが勢いよく開かれ、
さっきの青年が血相を変えて入ってくる。
 驚く私を尻目に彼は天照に近づいて耳打ちをする。すると彼女もハッとした様子で顔を上げて、私を向いた。
「志野さん」
「は、はい?」
「戦いの時です。」
「え?」
「時間がありません、急いで!」
 すると彼女は勢いよく立ち上がり、自分についてくるよう指示した。
 私は理解が追いつかないまま青年に促されて部屋を出る。早足で廊下を歩く天照について行くのは大変だった。
 彼女は職員用のエレベーターを使い、地下一階の駐車場まで一気に降りる。私は手続きやら入院費用の支払いが
気にかかったので、それだけ片付けたいと言ったが、青年は答えた。
「心配ありません」
「どうしてですか」
「天照さまはここの理事長です」
 私が驚いて目を丸くしていると、前を往く彼女は自嘲気味に「名前だけですよ」と言った。
 いったいこの女性はどういった人なのだろう、湧き上がる疑問を口にしようとしたとき、彼女が立ち止まった。 
「さぁ、これに乗ってください」

79 :


80 :
 彼女が示したのは駐車場に停められた、1台の大型バイクだった。
「え、これって……」
 私はそのバイクを眺める。昔のアメリカ映画でマッチョな男がルート66を全速でとばすときに乗るような車種だ。
ゴツゴツしたフォルムに太い排気パイプ、大型エンジン、黒い外装……機械にうとい私でも名前は知っているほど有名な車種。
「『ハーレーダビッドソン』……ですよね?」
「はい、ちなみに大排気量型です。」
 さらりと受け流そうとする天照を私は振り向く。
「私、免許持って無いんですけど。」
「大丈夫ですよ」
「バイクなんて触ったこともないんですけど」
「大丈夫ですよ」
「そもそもなんで私をこれに乗せようとしてるんですか」
「大丈夫じゃないからです。」
 最後の言葉だけ声の真剣さがまるで違っていた。天照の大きな瞳は形容しがたいプレッシャーを放っていて、
その圧力に負けた私は、納得できないままバイクのシートに跨った。
「これでいいですか」
「ハンドルを握ってください」
 従う。
「いいですか、これから何があっても、絶対に驚いてハンドルを手放したりしないように」
 そう言うと天照はキーを取り出してバイクに挿した。そしてそれを捻った直後――不思議なことが起こった。
 まずエンジンが唸りを上げ、ヘッドライトがいきなり点いた。体を強く揺さぶるエンジンの拍動に震える間もなく、
今度は『車体』が大きく沈む――え?
 すると次の瞬間、ハーレーが吠えた。
《ガオオオオオオオッ!》
「きゃああああ!」
 思わず体を縮めようとするが、手は恐怖のあまりハンドルから離れない。ふわりと身体が浮いた。
 前輪が持ち上がり、車体が生き物のように身震いし、一気に最高回転数までぶち上げられた後輪が
アスファルトとの摩擦で白煙を上げた。
 そして数秒後、そのハーレーは凄まじい勢いで地下駐車場から道路へと飛び出していったのだった。

 焦げ臭さと排気ガスの臭いを残してハーレーが駐車場から飛び出していったのを見届けて、
天照と青年はお互いに顔を見合わせ、頷いた。
「私たちも急ぎましょう」
 天照が言うと青年はスーツの袖をまくって腕全体を包む奇妙な機械を露出させた。その機械は真鍮のような鈍い輝きを
持つ素材で作られていて、色とりどりのツマミやメモリ、そして小さなディスクドライブが備わっていた。
「今回の『ばつ』は?」
 天照が訊く。青年は機械をいじりながら答えた。

81 :
「断頭台型です。予想通りとても巨大で、彼だけでは対応しきれません。」
「断頭台……『最も人道的な処刑用具』。」
「人道的でもそうでなくとも、人をR道具なのには変わりません……調整完了です。」
 彼は言いながら機械のスイッチを押す。すると真鍮製の機械の中でディスクが回転しはじめ、
凄まじい静電気を発生させて周囲の空気をスパークさせる。
「魔法の儀式をコンピュータ上でエミュレート……再現率99.9%。座標設定は既定値を使用。
生贄はダミーデータで代用。環境は満月の夜を再現。予想成功率82.6%……微妙なラインですね。
あとは所長の承認をお願いします。」
「失敗しませんように。承認します。」
「魔法の使用が承認されました。では所長、失礼します。」
 青年は天照を空いているほうの腕でぎゅっと体に引き寄せる。天照の方も青年を強く抱きしめた。
「発動まで3……2……1……ワープ!」
 その合図と同時に空気が焼ける連続した音と恐ろしいほどの静電気の嵐が巻き起こり、その中で2人の人間の体が光と化すと、
収縮して、消えた。

 私が掴まるバイクは地下駐車場から飛び出した後、目の前の道路の車線のど真ん中を爆走し始めた。
そのあまりの出来事にまるでついていけていない私は他の自動車にぶつかるかもしれない恐怖と、
振り落とされそうな危険に体を強ばらせるしかできなかった。
 だからこの街が今、異常な状況にあることにもすぐには気づけなかった。
 道行く自動車や通行人は皆足を止めて私の後方の空を見上げている。建物の中にいる人々も全員が窓から頭だけを
つき出して、あんぐりと口を開けている。
 バイクの強烈な振動とスピードに徐々に慣れてきた私は、誰も私を咎めないことと、
周囲が異様に静かであることにやっと気がつき、道路脇の人々のその姿を見て、
彼らが目を奪われているものが果たして何なのか確かめようと、タイミングを見てふり返った。
 そこにあったのは――(なんじゃありゃ)
 理解できないものがそこにあった。
 バイクの後方の空、ビルの谷間に平然と浮かんでいたのはギロチン……断頭台だった。
歴史の教科書の挿絵で見たことのある、中世ヨーロッパで盛んに使われたあの処刑用具がぽっかりと空中に浮いている。
しかしそれは私の知っているそれよりずっと巨大で、まるで巨人のためのものとしか思えないようなサイズだった。
 全高は数十メートルもあろうかという巨大な黒い断頭台が街のど真ん中に音も無く浮いている……街の人々が
固まったまま動けなくなるのは当然だった。意味不明すぎる。
 バイクは信号も無視し、街のメインストリートを北に向かって走っていた。時々対向車などの障害物が行く手を塞ぐが、
そんなときはバイクは肉食獣のように勝手に空高く跳躍して飛び越える。私は最初はそれにも驚いたが、
2回3回と繰り返すうちにだんだんとジェットコースターのように思えてきて、すこし楽しくなってきていた。 
 そしてそのうちに疑問を抱いた。
(このバイク、どこへ向かっているんだろう?)
 答えはすぐに与えられた。
 バイクはひときわ大きく跳躍し、目の前に迫った白く大きいドーム状の建物がある土地の中に飛び込んだ。
どうやらここが目的地らしい。バイクは少し速度をゆるめ、玄関らしい場所の前まで進んだところでついに止まった。

82 :
 恐る恐るハンドルから手を放す。どうやら完全に停止したらしいことを知ると、全身から力が抜けて、私はシートの上でうなだれた。
 だが休憩する間もなく、玄関から出てきた男が私に近づき、建物に入るよう促してくる。
私はその男の顔を見てぎょっとした。さっきの青年だった。
「え? え?」
「時間がありません。歩けますか?」
「は、はいなんとか」
「では急いで。」
 急かされて、私は少しムッとした。
「さっきから何なんですか、いきなりこんないろいろと……」
「あとでご説明いたします。今は私どもの指示に従ってください。」
「このバイク、勝手に動いたんですよ!」
「躾けられていますから変なことはしなかったはずですが」
「バカにしてるんですか」
「そんなことは」
「このバイクも、あの空に浮くギロチンも、意味がわからない!
 ここはどこなんですか? あの女の人――天照さんはいったい何者なんですか?」
 私の質問攻めにも青年は少しも動じる様子を見せない。彼は微笑して、なおも言った。
「それらのご説明は、落ちついたらいたします。」
「今、してください!」
「いいですか、志野さん。」
 青年は私の目を覗き込んでくる。
「あの断頭台は、人に害を与えます。」
「え……?」
 いきなり何の話かわからない。
「あれを放置していたら、多くの人が苦しみます。そして、それを救えるのは貴女だけなのです。」
「何を言って……?」
「私たちには貴女が必要なのです。貴女の当然の疑問も、必ず後ほど説明いたします。
ですから、どうか、どうか今は私たちの指示に従ってください。」
 彼の言葉は熱っぽく、嘘や欺瞞の色は少しも見えない。私はその真摯な眼差しに貫かれ、思わず頷いた。
 すると彼はニコリと笑って、私を施設内へと促した。

 少し足を踏み入れただけで、この施設がどうやらとんでもない広さを持っているらしいことが直感的に理解できた。
 玄関から左右に伸びる真っ白な廊下の先は遥か遠くにあって、しかも途中でいくつも枝分かれしている。
もし青年から離れてしまったらすぐに迷ってしまうだろう。
 青年は迷いのない歩調で廊下を進み、階段を上って、また長い廊下へ出た。
その弓なりに椀曲した廊下は片方の壁の全面がガラス張りになっていて、中庭のように施設の中心にある広い空間を
見下ろせるようになっていた。
 私は歩きながらそのガラスに近づき、下方を見下ろすと、思わず声が出た。

83 :


84 :
「何あれ?」
 巨大なドーム型の施設は中が広大な円形の砂場になっていて、私たちはその円周に沿った廊下を歩いていた。
砂場は白い綺麗な砂が丁寧にならされていて、表面に足あとがいくつかある以外は完全に平らで、美しく思えた。
 しかし私が目を奪われ、疑問を抱かせたのはその中心に寝そべっているものだった。
 それは巨人の骸骨だった。
 砂場の真ん中に大の字になっているのは巨大な金属製の人体模型に見えた。
頑丈そうな金属フレームに動脈のような色とりどりのケーブルが巻き付き、
内臓のように各部に収められた太いシリンダーやこれまた巨大なディスクドライブや、
円筒形をしたなんだかわからない装置に繋がっている。
 そしてそれら全てを包むように、直線的なデザインの鎧のようなものが一番外がわにある。
全体としての印象は『ガイコツ騎士』のような感じだ。
「あれは『サンドゴーレム』です。」
 いつの間にかそばに立っていた青年がそう示す。
「サンドゴーレム?」
「貴女がこれから操る身体です。」
「え?」
 青年は私から顔を背け、今度はセキュリティのかかったドアを開けた。
「こちらです。」
 ドアの先へ入るとそこはまた雰囲気が違った広い部屋だった。
大学の講義室のように階段状に並んだ机の上には用途がまったく予想がつかない真鍮製の器具がずらりと並んでいて、
時々そこにゴムホースでつながれたフラスコがあやしい色に発光し、虹色の煙を噴出させている。
月や太陽の彫刻がされた円形の装置が細かい歯車でぐるぐると回り、
昔科学博物館で見たことがあるようなガラス球の装置の中で電流が蛇のようにうねっていた。
と思うと一転、ひどく現実味のあるどっしりとしたパソコンとディスプレイがそこに繋がっていたりして、
それがこの装置をいっそう冗談めかしていた。
 そしてところ狭しと並べられたそれら装置の合間を、アオザイにも似た構造の白装束を着た人々がせわしなく
行き来している。彼らはどうやらこの装置を使った作業の真っ最中のようで、ときどきリーダーらしい人物が
大声で指示を飛ばしているのが見えた。
 ふと、私は天井を見上げる――そこには直径10メートルはゆうにあるであろう水晶玉がどういうわけか支えもなく
浮いていて、その内側に見覚えのあるものが見えていた――あの断頭台だ。
水晶玉は町中に浮かぶ断頭台を映し出している。
 そのファンタジー映画の中でしか見たことがないような光景に私は言葉を失っていたが、やがて声をかけられた。
「『天照研究所』へようこそ。」
 はっとして見ると、そこにはやはり天照恵が立っていた。彼女は病院で出会ったときのスーツ姿ではなく、
他の人たちと同じような白いアオザイにさらに上から白衣を羽織っている奇妙な格好をしていた。
「理由も言わずにお連れして本当に申しわけありません。ですが事態は急を要するのです――」
「――ここが、天照研究所、なんですか?」
 天照は微笑み「はい。」
「当研究所ではオカルトと科学の融合である、『魔学』を研究しております。」
「……はい?」
「いわゆる『魔法』と呼ばれる古代の技術を科学的に理解し、従来の心理学的医学的民俗学的な理解ではなく、
現実の物理現象を伴う『技術』として――」

85 :
「――ちょ、ちょっと待って」
「理解が追いつきませんか?」
「全然。」
「当然でしょうね、魔学は秘密の技術ですから。」
 天照は落ちついたら様子でそういってのける。私は混乱していた。
「いやいや、いくらなんでもあり得ないでしょう? この21世紀に魔法って……特撮番組じゃあるまいし。」
「信じませんか?」
「当たり前です!」
「でも、志野さんはもうその一片を体感しましたよね?」
 またハッとした。そうだ、つい数分前まで、私は魔法としか思えないような体験をしたじゃないか――獣のように
唸り声をあげ、自ら走る大型バイクの背に乗って私はここまで来ていたのだ。
(そんな、まさか……いや、でも……)
 無言になった私の様子を察して、天照は両手を広げ、また優しく微笑む。
「にわかには信じられなくて当然です。魔学は教科書にも載っていないし、
あなたの生活に関わることもないのですから。」
「……なんで、秘密なんですか。」
 すると天照は残念そうに視線を落とす。
「この技術が世に出てしまったら困る人たちがこの世にはたくさんいるんですよ。」
 そう言った。
 私は彼女がまた視線を上げるのを待つ。
 待って、訊いた。
「どうして、私をここに?」
 それこそが一番訊きたいことだった。病院のベッドで目覚めた直後の人間をこんな目に合わせるなんて、
正気の沙汰じゃない。
 すると天照はまた深々と頭を下げる。
「やむを得ない事情があるのです。……志野さん、お願いします。」
 ――直後に発せられた言葉は、この常識外れの1日の中でも、一番常識から外れていた――

「巨大ロボットのパイロットになって、街の人々を守ってください。」

「すいません、意味が不明なんですけど」
 私の返答に天照は首をかしげる。
「どのあたりがですか?」
「全部です。」
「全部……ですか?」
 ……どうやらとぼけているわけではないらしい。私は少し声を大きくした。
「『巨大ロボットのパイロットになって街の人々を守ってほしい』だなんて、さすがに信じられませんよ」
 繰り返した天照の言葉は、自ら口にするとますますバカらしく思えた。
さすがに巨大ロボットは現実離れしすぎている……たとえ魔学とやらが本物だったとしても、
そんなものの存在は簡単には信じられなかった。
 おまけに『パイロットになれ』とも彼女は言った。なんだその展開は。
まさかこのあと白い包帯似合う女の子が担架で運ばれてくるわけでもあるまいし。

86 :
 冷静になった頭にだんだんと怒りが湧いてきた。こっちはさっき病院のベッドで目覚めたばかりなんだ。
それを理事長だかなんだかしらないがいきなりこんなところまで引っ張ってきて……
おまけにバイクで死ぬほど怖い思いもした。いったい何のつもりなんだ!
「私は帰ります。お母さんも心配していますし……」
「ま、待って」
 踵を返して部屋の出口に向かおうとした私を青年が慌てた様子で引き止める。彼は私の進路を塞ぐように立った。
「どいてください。」
「志野さん、あなたは『戦う』と病院で言ってくださったじゃないですか!」
「こんな冗談につき合うとは言ってません」
「冗談だなんて!」
 青年は悲痛な声をあげ、そこに立ちすくんだ。私はそのわきをすり抜けようとする――
「お待ちください」
 今度は天照の声が背後から私を引き止めた。私は振り返らずに言う。
「病院まで運んでくださってありがとうございました。」
 それを別れの言葉にするつもりだったが天照はなおも「どうか、どうか」と私の背中に言葉を投げかける。
「突然ここにお連れした非礼は心からお詫び申し上げます。ですがやむを得ない事情があったのです。
どうか、どうかご理解を。」
「やむを得ない事情?」
 私はまだ振り向かない。
「はい。」
「どんな事情?」
「本当は志野さんがすっかり回復されてから、また改めてお伺いするつもりでした。
ですが『ばつ』の出現が予想以上に早かったのです。」
「『ばつ』?」
「あの断頭台です。」
 私はここに運ばれる途中バイクの背から見上げた、あの巨大な黒い断頭台を思い出した。
あの、静かで、不気味な影……。
 私は振り返って訊いた。
「あれはいったい?」
「正式には『超高密度精神体タイプX』通称『×(ばつ)』。」
「『×』? なんで『ばつ』?」
「『タイプX』だからです。」
「『タイプX』って?」
「分類上の区分です、それ自体に大した意味はありません。」
「……生き物なんですか?」
「幽霊みたいなものです。」
「幽霊……」
「幽霊の中でも最悪の、大悪霊です。」
 それを聞いて私は玄関での青年の言葉を思い出した。
「『人に害を与える』?」
「これをご覧ください。」
 頷いて彼女が示したのは上の水晶玉ではなく、すぐそばにある小さな薄型ディスプレイだった。

87 :
 私はそれを覗く。そこに映る映像を目にすると同時に身体に悪寒が走った。
 画面は町中のどこかの道路脇から空中の断頭台を見上げていた。
どうやら人がリアルタイムで撮影しているものようで、その画像にはブレがある。
 断頭台はさっき見たように音も無く宙に浮いていた。それはやはり巨大で、
断頭台横にある6階建てのデパートの建物とほぼ同じ全高だ。
 ふと、私はその断頭台の下に散らばるあるものに気づく――
 最初は小さな虫のように見えた。が、すぐに断頭台との比較からそう錯覚しただけだということに気づいた。
 それは人間だった。多くの人間が体を丸め、頭を抱え、芋虫のように断頭台の真下に散らかっているのだ。
彼らはうめき声ひとつ上げず、死んでいるように見えたが、ときどき痙攣のように身体を弓なりに引きつらせてのばし、
そしてまた頭を抱えて丸まった。
(いったいあの人たちは何を?)
 その疑問の答えはすぐに与えられた。
「『×』の生物の精神への干渉作用により、心に想像を絶するほどのストレスを受けているのです。
このままでは心が壊れて廃人になってしまいます。」
「そんな……はやく助けないと!」
「私たちの仲間が救出にあたっていますが、焼け石に水です」
「警察は!?」
「魔学によって防御しなければ警察も太刀打ちできません。それに、被害を無くすには大元を絶たないと」
 そこまで言われて、私はやっと理解した。
「そうか……だから私に……」
「ご理解いただけましたか。」
 天照は神妙な顔つきだ。私には彼女たちを批判していたのがとんでもない過ちのように感じられ、
少し恥ずかしさを覚えた。
 だがしかし、最後にこれだけはどうしても訊いておきたかった。
「……なんで、私なんですか」
 天照は静かに答える。
「『戦い』を選択したからです。」
「納得できません。」
 ぴしゃりと私は言った。
 天照はそれを聞いて、まさに望み絶たれたという思いを表情に滲ませた。
「――だから終わったあとでまた、ちゃんと説明をお願いします。」
 私がそう言葉を続けると、天照はびっくりしたように顔を上げた。
「引き受けていただけるのですか?」
「ピンチの人を助けるなんて、当たり前のジョーシキでしょ!」
 天照と青年の憂鬱を吹き飛ばしてやるつもりで、私は笑顔で明るくそう言ってやったのだった。

 【断罪巨人 シンブレイカー】


88 :

 

89 :
投下終了です。ID:cVZl/HYaさん、支援ありがとうございました。
初回から説明回だよ! 前作前々作がリアル系だったから今回はスーパー系目指すよ!


90 :
おう乙〜
皆気付かないかも知れんから敢えてあげとくね

91 :
なにこれ楽しそう

92 :
投下乙です。筆が早いなぁ、羨ましい。
毎度毎度生を強いられ、毎度毎度カッコいい主人公。
うぅむ、今回も惚れる!
それでは次回を楽しみにしてますね。

93 :
>>89
 投下乙です!
 それでは、ゆっくり読ませていただきますね!

94 :
規制長すぎワロタ……いつまで串使って書き込みゃいいんだ……とりあえずグラゼロ氏投下乙!それではゆっくり読ませてもらうぜメーン!

95 :
 age氏はまだ規制ですか。長いですね……。

96 :
今ソフトバンクが一斉規制であと一か月くらい書き込めないんだぜー
こういう自分もソフトバンクのホストだから串使ってるぜー

97 :
ID被ったなwww

98 :
ですねwww

99 :
 これは紛らわしいw
 そっかー、1ヶ月規制かー……。

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