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2013年10エロパロ696: 【強制】サイボーグ娘!SSスレ 第3章【任意】 (178)
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【強制】サイボーグ娘!SSスレ 第3章【任意】
- 1 :2012/12/04 〜 最終レス :2013/10/04
- サイボーグ娘に萌えるSSスレです。
人工皮膚系・金属外骨格系どちらも(それ以外も)OKです。
アンドロイド娘は完全人工な娘、サイボーグ娘は生身だったのを機械に改造した娘です。
区別の目安としては、脳味噌が生身か造り物か、という事になります。
個人サイトへの批判、荒らし行為はNGです。2chの中で解決すること。
■関連スレ
【機械化】サイボーグ娘!二十人目【義体化】
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/feti/1256433007/
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11 (SSスレ)
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1331083148/
■まとめサイト
サイボーグ娘スレッドSS保管庫
http://pinksaturn.h.fc2.com/hokanko/
■前スレ
【強制】サイボーグ娘!SSスレ 第2章【任意】
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1252021836/
- 2 :
- 私は、機械の身体になりたての頃、この身体が大嫌いだったんだ。
まず、ごはんを食べられないことが嫌。うー、正確に言えば、食事はできます。
栄養カプセルっていう世にも味気ないシロモノを水なしで飲み込むことが、私に
とっての食事でした。でも、一般的には、それは食事と呼べるものではないし、
それ以外のものを口にできるような構造に、この身体は、なってない。舌はついて
いるけど、飾りみたいなもので、味なんてこれっぽっちもわかりはしない。食欲、
性欲、睡眠欲が人間の三大欲求ってよく言われるけど、そのうちの三分の一が
永遠に私から消え去ったことになる。これって、人生が三分の一短くなったのと、
ほとんど同じ事だよね。
他にも、嫌いなトコロは沢山ある。ありすぎて、いちいち挙げていけばキリが
ないくらい。義体なんて所詮、生身の身体の代用品でしかないわけで、生身の
身体の感覚を、完全に再現することなんて、まだまだ夢物語だって分かっては
いるけど、地球が50億年かけて作り出した肉体の神秘に比べると、余りにも
稚拙でお粗末なお人形さんには、失望することばかりだった。
もちろん、機械の身体になったからこそ、得たものも、ないわけじゃないよ。
女性にとっては、憧れともいえる永遠の若さってものを、外見だけでも手に入れた
ことになるし、物理的な衝撃には、生身の身体に比べたらずっと強くて怪我知らず。
風邪だってひかずにいつだって健康そのもの。リミッターを外せば120馬力も
出せる力持ち。他にも他にも・・・。まっ、どれもこれも、メリットっていうより、
活用すればするほど自分が、もうニンゲンとはかけ離れた存在なんだってことを
思い知るだけのような気がするけどね。はは。
・・・でも、イソジマ電工に入社して、ケアサポーターとして義体化一級のユーザー
さんたちの担当をさせていただく立場になりますと、やっぱり、そんな考え方も多少は
変わってくるわけです。
突然の事故に、不治の病。理由はイロイロあるけれど、義体化一級のユーザーさんは、
私も含めて皆、の淵に片足どころか両足までどっぷり浸かった状態から、奇跡的に
生き返ることができた人たちばかり。たとえ身体が全部機械になってしまったとしても、
せっかく助かった命なんだ。新しい身体に一日も早く慣れてもらって、できるだけ早く
社会に復帰してほしいって思うよね。
- 3 :
- そのために、まず、私が、自分の身体と向き合わなきゃいけない。それで身体の機能を
ばんばん使いこなして、ユーザーさんに、義体って便利なのですよー、こんなこともできるの
ですよーって、実際に示してあげなきゃいけないって思ってる。自分の身体を使って
お手本を見せられるっていうのは、他のケアサポーターには無い、私だけの個性なんだからね。
と、まあそんなわけで前置きが長くなってしまったけれど、最近は、私も義体の機能も
積極的に使うようにしている。以前は、時計機能を使うことすら抵抗あったから、大きな
進歩だって思いませんか。私って、オトナになったって思いませんか。
ちなみに最近のマイブームは、義体の自動発声機能。しゃべりたいことを前もって録音して
おきさえすれば、自分で意識せずとも義体の補助AIが勝手にしゃべってくれるという
優れもの。どんなときに使うかっていうとさ、たとえば、今みたいなときに使えばいいんだよ。
ふふふっ。
えーっと、今、私がいるのは、菖蒲端のワイ横の、とある価格破壊系のラブホテルの一室。
ラブホとは思えないほどの飾りっ気のなさで、下品な言い方をすれば、やれればいいやって感じ。
藤原も私も忙しくて、ようやく菖蒲端駅で落ち合えたのは、金曜日の終電も間近の時間帯。
もう少し時間があれば、ホントは藤原に付き合って、どこかお店に飲みにでも行くところなんだけど、
時間も時間だし、もう直接ホテルに行こうってことになったってわけ。
でね、鼻息荒くしている藤原には、大変申し訳なくって直接言えなかったんだけど、正直今日、
私は、「してしまう」ことについて、余り乗り気ではない。実は、ここ一週間、あるユーザーさんの
義体トラブルが続いて、ずーっと残業だったんだよね。機械の身体だから、働きづめでも肉体的に
疲れるってことはないけれど、それでもロクに睡眠も取れないとなれば話は別。もし生身なら、
たぶん目の下に大きなくまを作っていてもおかしくない。藤原には申し訳ないけど、やっと仕事から
解放されて緊張感が緩んだこともあって、今すぐにでも寝たい気分なんだ。とはいえ、せっかく
ホテルまで来て、バタンキューでは、ここまで付き合ってくれた藤原に余りにも申し訳なさすぎるよね。
そこで役に立つのが、この義体の自動発声機能です。
- 4 :
- 藤原がシャワーを浴びている隙に、義体が汚れていないから、今日はシャワー浴びなくていい、
なんて適当に一緒にシャワーに入らない理由をつけた私は、着ているスーツやら下着は綺麗
さっぱり脱いで、いつでも藤原君を受け入れられますよ的体制を整えた後、ベッドにごろんと
仰向けに寝そべりながら、早速、これからの準備することにする。
「んっ」
目をきゅっとつむって、サポートコンピューターにアクセス。まぶたを閉じた私の視界に表示
されるのは、サポコンの義体設定とメンテナンスの画面。
まず、義体の性感の数値は最低にしておく。藤原には申し分けないが、今日は性欲より睡眠欲が
勝っているのである。変に感じてしまって、眠れないと困るのだ。
それから、いよいよ自動発声機能を使う。藤原のナニが、あそこに入っている間は、あらかじめ
録音しておいた
「藤原大好き、藤原大好き(中略)、もっとして、もっとして(中略)、いいよう、いいよう、すごく
いいよう、あっあっあっ(以下省略)」
というフレーズが、私の意志と無関係に喉の奥のスピーカーから出るようにセッティングして
おく。ちなみにこれ、寮で、皆が寝静まった夜中に、ゼッタイに音漏れしないように布団を頭から
すっぽりかぶりながら録音した自信作だ。
藤原は、小さなシャワールームから出てくるとすぐ、ざっと身体を拭いただけの、まだ湯気が
ぽかぽかたつ身体のまま、ベッドに寝ている私に向かって、一直線に飛びかかってきた。
「よしよし、いい子ちゃん、いい子ちゃん」
上から覆いかぶさる藤原の顔をそっとつかんで、お互い目を見つめ合ったあと軽くキス。
それから、藤原の背中に手をまわして、ぎゅっとお互いの身体と頭を抱き寄せる。
(藤原、ごめん。本当にごめんね)
私は天井を見つめながら、軽く微笑んだ後、すとんと眠りに落ちて行った。あとの、藤原との
おつきあいは、補助AIくん、君にまかせたからね。
どのくらい、時間がたったものやら。
・・・・・・ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!
両方の、ほっぺたを手のひらで、軽く叩かれ続けた私は、夢の世界から無理やりゲンジツに
引き戻された。
「いいよう、いいよう、すごくいいよう!」
なんだ、この耳障りな声はって、一瞬思ったけど、よく考えた補助AIに操作をまかせた
私の声だった。
- 5 :
- 「ふじわら、一体なんなのさ」/「あっあっあっあっあっ」
しまった。うっかり、自動発声機能もセットしたまましゃべってしまい、一人ハモリをしてしまった。
あわてて、目をつむってサポコンを操作して、自動発声をカットする。恐る恐る目を開けると、
目の前で藤原が睨んでた。やばい、ばれたかも。
「裕子さん、ちょっといいかな」
藤原は、私と身体をつなぐのをやめて、ベッドの上で正座。ちんちんおっ立てて裸で正座とか、
超恰好悪いんですケドって、からかいたかったけど、そう言える雰囲気でなし。私も、裸で正座して
藤原と向き合う。
「あのね。俺が気づかないと思ってる訳?」
「え・・・えと、何をですか・・・」
すっとぼけて、天井を見上げる私。もう心当たりがありすぎて、藤原を正視できない。
「俺から全部言わせる気?じゃあ、はっきり言わせてもらうけど、俺、機械人形を抱く趣味は
ないから」
「あ・・・言っちゃったね。藤原、言っちゃいけないことを言った」
「言うよ。言うさ。何やったか知らないけど、さっきの明らかに裕子さんじゃなかったよね。
そうでしょ」
「う・・・えと・・・それはその・・・疲れてたから・・・」
図星を突かれた私は、あっさり白旗をあげた。確かに、さっきの私は、私でない違う何かだった。
機械人形と言われるのも無理はない。
「裕子さんが疲れてるのに気が付かない俺が悪いのかもしれないけど、疲れてるなら、疲れてるって
言ってほしかった。ちょっと人を馬鹿にしすぎじゃないか」
そう言うなり、立ち上がって服を着始める藤原。
「ちょっと、どこ行くのさ」
「やる気失せた。帰る」
後は、私が何を言っても全部無視。最後に
「そんなことばっかりしてると、裕子さん、いつかきっとしっぺ返しが来ると思うよ」
なんて言い捨てて部屋から出て行ってしまった。私は、閉じたドアに向かって、しばらくあっかんべー。
なんて憎たらしいんだろうね。確かに私も悪かったけどさ、私の言うことに耳も貸さないで一方的に
出ていくなんて、ひどすぎるよ。いっとくけど、こっちは義体化一級の身体障碍者なんですからね。
そういう私に対するいたわりの気持ちなんて、一切ないよね。こっちがどれだけ、ヒトとして当たり前の
ことができなくなってるのか、知りもしないくせに。そんな私が、少しくらい機械の身体の機能を使って
ラクしたっていいじゃないか。そんなの、できなくなっってしまった、もっとずっとすっとたくさんのことに
対する、ほんのちょっぴりのお返しみたいなものだ。使って当然の権利だ。しっぺ返しなんて来るわけ
ないよ。
- 6 :
- XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX
「えー、それではみなさん、朝礼をはじめます」
心なしか、けだるい雰囲気が漂う月曜朝のケアサポート課。いつも通りの、朝8時50分きっかりの
課長の掛け声に、皆がのろのろ立ち上がる。
「今日の担当は八木橋君だったかな」
「あっ、はい」
朝礼は、持ち回りで担当が決まっていて、担当は皆の前で3分ほどフリーテーマでスピーチすること
になっている。私は、機械の身体のくせに、生身の頃から引き続きの極端なあがり症で、人前で話
すと、胸が苦しくなって声が出なくなる。もう心臓もないし、汗もかかないのにこのありさま。だから、
この朝礼当番というのが嫌で嫌でたまらなかった。
でもさ、最近、妙案を思いついてしまったんだよね。前の日に、話す内容をあらかじめ決めて
しまって、それをサポートコンピューターに記憶させてしまえばいいのです。そして当日に、自動
発声機能を使って、その内容を補助AIに話してもらうんだ。私ってば、すごい頭がいいじゃないか。
私は、心なしか颯爽と課長の隣に歩み出る。ケアサポート課の皆さんが一斉に私に注目。
いつもならこの時点で、完全に気持ちが舞い上がってしまう私だけど、今日は余裕たっぷり。
だって、しゃべるのは、私じゃなくて補助AIだもん。そうだ。朝から元気の良いところを皆に
見せつけてやろう。いつもより音声を少し大きめにしてみよう。
私は、目をつむってサポートコンピュータを操作し、音声フォルダにアクセス。
「藤原大好き、藤原大好き(中略)、もっとして、もっとして(中略)、いいよう、いいよう、すごくいいよう、あっあっあっ(以下省略)」
しまったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!
おしまい
- 7 :
- お久しぶりです。投下していたのは、すいぶん前のことですが
ヤギーを覚えて下さっている方が多くて、嬉しくなってしまい
ついつい投下してしまいした。
そうしたら、いきなりの容量オーバー。
あわてて新スレを立てたものの、前スレに新スレへの告知もできない始末。
いきなり住民の皆さまにご迷惑をおかけしてしまい、
何とお詫びを申し上げたらよいのか…大変申し訳ないです。
- 8 :
- 突然結構な量がまとめて投下されているなあと、ぼけーっと読み進めていったら・・・・
ぎゃーー!!
ヤギー!?
新作ゥゥ!?
ぎゃー!!うれしいです。
ホント好きですありがとうございます。
- 9 :
- 久しぶりのヤギーキターーーーーー!
自動で喘ぎ声とか、バレるってw
セ◯oスはコミュニケーションなのです…
- 10 :
- 円の大きさ間違えたorz
- 11 :
- ヤギー キタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!
藤原マジガンガレ!
そしてヤギードンマイ!www
最後にスレ立て乙!
新作増えると良いなぁ
- 12 :
- >>7
まだスレを見捨ててなかったのかと驚いたわ
御無沙汰ですな。相変わらずGJ!です。
また投下してください。お待ちしています。
- 13 :
- 麻痺した部分を切断して人工物に付け換えるか悩む娘
そういう話は今までにありますか?
- 14 :
- test
- 15 :
- うるさいお前なんかロボットだ
- 16 :
- と、近所の子供に言われて凹むヤギーであった
- 17 :
- やっぱりサイボーグが居る世の中になると
サイボーグを人間扱いしなかった罪とかできるんだろうね
現行法でもサイボーグをロボット呼ばわりすれば名誉毀損罪くらいは適用できそうだけど
- 18 :
- >>17
前提として、義体を中の人と同一であるとみなすか、あくまでも中の人の
所有物とするか、で、解釈は分かれそう。
後者であれば「中の人ではなく義体そのものに対して言った」という
ことにすれば罪には問われないのでは。
義手や義足に対して「人間扱い」しなかったのと同じ法的取扱いです。
- 19 :
- うーん、義足の人に「この義足野郎!」とか言ったら
義足部分だけじゃなくて本体の人まで中傷する事にしかならんような。
だから「義体に対して言ったんだ」はあんまり通用しなさそう
- 20 :
- あと、生身の体だけでは人間として機能できない(生命維持できない)状況の時、
機能・生命を保つために必要な機械に対して人間扱いしないのも、現行法でも罪に問われそうだ。
たとえば人工呼吸機や人工心臓を勝手に電源OFFしたら人罪や人未遂罪が適用されるだろうし
- 21 :
- こーゆー話を見るとそりゃファンタシースター等機械人種のいる世界は人権でモメるわと実感する
- 22 :
- >>13
このスレでは出てなかったと思う
という事でよろしく(ぇ
医療行為としてサイボーグ化を行う場合、当然の事ながら
生身で残った部分は切り落として機械化しちゃいけないって事になるだろうね
機能全廃ならともかく、中途半端に残っていた場合に義体化するにできないという状況はあるだろう
というか実際に現実の世界で似たような話はあったりする…。
脚を切断して義足を使うという時に、中途半端な位置で切断するよりきりの良い位置で切断したほうが
義足使用時の能力が上がるという事があるけれど
病気で切断する場合、本人がじっくり考えてから切断を実行することができる分、多めに切って貰える場合が多いが
事故などで突然ダメになった場合、生きてる部分をなるべく残す(そして後から追加で切断したりは出来ない)そうな。
機能全廃でも生きてる場合(麻痺とか)、将来の医学向上による治療の可能性もまた切断するか否かの悩みの種になりそうだ。
- 23 :
- >>21
リアルだって肌の色だの髪の色の違い『だけ』で差別の対象になるんだぜ?
チョーセンジン?と言うだけで『シャベツニダ!』とか騒ぐ連中も居るけど、
実際には肌の色が白い人種が頂点であるとか勘違いしてる連中とか見てると、
理屈なんか関係なく「あっちはこっちと違う」だけで差別のタネには十分なりうる。
- 24 :
- 前スレでリハビリ室と言う短編を書いたものです。
なんとなく続きを書いてみましたので投下してみます。
なお、誠に勝手ながらヤギーワールドをシェアさせていただきました。
世界観的な部分での設定を共用させて頂きましたので、お含みおき下さい。
これを含め9レス分です。
よろしくお付き合いください。
- 25 :
- 「こらぁ!ゆうちゃんまちなさーい!」
「やーだよぉー!」
小さなサイボーグのシルエットが廊下を走っていく。
4歳か5歳かの男の子がカチャン!カチャン!と賑やかな音を立てて走っている。
その後には生命維持装置の電源パックを抱えたまま、義体制御内科のスタッフが一緒に成って走っていた。
「こらッ! ゆうすけッ!」
「あッ!」
母親と思しき女性に怒鳴られてビクッと体が震え、直立不動になった子供。
スタッフがその後からがっちりと抱きしめて持ち上げた。
小児型サイボーグとは言え、その重量は10kgや20kgじゃきかない金属の塊だ。
調整用の設備が備え付けられたストレッチャーに押し付けられて、体のコントロールを切られてしまった。
「あぁ! ずるい!」
「はぁはぁはぁ・・・・ ゆうちゃんはまだ走っちゃダメなんだから」
「すいません、この子ったら・・・・」
若い母親に額をペチリと叩かれて、小さな男の子が笑っている。
「また鬼ごっこしようねッ!」
「はぁはぁはぁ もうちょっと・・・・ 調整したらね」
一年と数ヶ月前。幼稚園へと向かう園児バスが事故を起こした。
大手運送会社のトラックが衝突し、この子は首から下を全て挟まれて、ほぼ即だった筈だ
しかし、事故を起こした会社は全面的な資金提供を約束した。
その結果、僅か3例目の5歳未満サイボーグとしてセンターへ送り込まれてきた。
人体の成長と言う、まだまだ未知数な事象を研究する意味でも貴重なサンプル。
あっと言う間に幼年サイボーグの体が準備され、この男の子はセンター一番の有名人になった。
そして、沈滞する空気をかき混ぜる清涼剤として重宝されつつ、ここを生活の場としているのだった。
「ゆうちゃん良いよ。ちょっと立ってみて」
男の子の周りには白衣のスタッフやエンジニアが輪になっている。
廊下に座ったり膝立ちになったりしながら様子を見ている。
生命維持装置をリュック型にして背中に背負った男の子のサイボーグが、カーペットの上へ立ち上がった。
身体を構成するフレーム部分の物理的容量が小さすぎて、十分な容量のバッテリーが収まりきらないのだ。
結果的にランドセルを背負ったような形状となった男の子。
「ボクこれで学校行ける?」
「そうだな、ゆうちゃん良い子にしていたら学校行ける様になるぞ」
「やったー!」
毎日毎日。センターの窓から下を眺め、同世代の子供達が遊びながら学校に向かうのを眺めている。
だがこの子は、同世代の子供達が小学校へ行く様になっても、このセンターから出る事すら出来ない。
そしておそらく、この先5年程度はここから出る事も出来ないだろう。
ボディ内に生命維持装置を収められるようになるサイズへ『成長』するか。
さもなくば機材そのものが画期的に小型化しないと、この子は僅かに残った生体部品・・・・
脳とそれを取り巻く首から上の『生身な部分』の生命活動を維持する事すら出来ない。
「ゆうちゃん、夕方になったらもう一度検査するから、それまでは遊んでいて良いよ」
「わかった!」
「入っちゃいけない所へ入って身体が止まっちゃったら誰か呼ぶんだよ?いいね?」
「うん!」
この子にとっては、ここのセンターそのものが学校だった。
大人たちばかりのセンターだけど、そこに居るのは様々な年齢層のサイボーグ。
- 26 :
- 半身サイボーグから、脳以外は完全義体化のサイボーグまで。
様々な種類の処置を施された人がリハビリと言う名の調整を続けている。
「先生。いつもご迷惑をおかけしています」
「いえいえ、お母さん。ゆうちゃんがここを明るくしてくれてますよ。あの子は強いなと思います」
「そう言っていただけると助かります」
「あ、むしろ私達が助けられてますよ。その意味じゃ」
男の子の母親と担当医やケアマネが立ち話している。
その周りで男の子がチョロチョロと遊びまわっているのだけど。
「あ!おねぇちゃん!」
男の子がニコニコしながら走って行った先には、女性型のサイボーグが立っていた。
「ゆうちゃんそれ何?」
「ランドセル!」
「そっかぁー いいなぁ」
まだ人工皮膚などの塗布貼り付けを終えていない、シルバーに光るボディの彼女。
ゆったりとした白いガウンに袖を通しフードを深く被り、まるで修道僧とでも言うようなスタイルで居る。
軽金属がむき出しになったボディには衣類など必要ないのだけど、逆説的に言えばそれは裸でもある訳で。
年頃の女の子の羞恥心を守るための僅かな衣は、見た目以上に意味を持っていた。
スッと腰を落として片方だけ膝立ちになって、彼女は男の子のランドセルを少し持ち上げている。
数本のケーブルが繋がっているのだけど、一番重要なのは電源なんだろうと言う事はすぐに分かった。
「いつもご迷惑をおかけします。まだまだ大変な時だと言うのに」
男の子の母親が頭を下げた。
「あ、全然ですよ。それよりいつも私が励まされてます。ゆうちゃん見てると私も頑張らなきゃって」
「そう言ってくれると私も助かります。月並みですけど頑張って」
「ありがとうございます」
青く高い冬空から透明な光が窓越しに降り注いでいる暖かなリハビリセンターの中。。
おねぇちゃんと呼ばれた彼女は、実はまだ脳髄など生体部品が納められた頭部の後ろ側が機械むき出しだ。
小さな男の子を見ながらアレコレと話しているのだけど、処置室Cと書かれたドアが開いてナースが顔を出した。
「はーい どーぞ って、あれ、お話中でしたか」
「あ、いま行きます」
「じゃぁ、頑張って」
「どうもありがとうございます」
一歩室内へ入ってみると、そこには幾つもモニターが並んでいる電子の要塞状態だった。
そして、まるで歯医者の診察椅子のような大きくて深い椅子が一脚。
彼女が腰掛けると椅子が深く深く倒れて行き、彼女は大きな天窓を見る形になった。
頚椎部分には大きな穴が開いていて、ケーブルなどが通るようになっている。
アシスタントが何本ものケーブルを持ってきて、彼女の頚椎部分へ光ファイバーが差し込んだ。
リハビリはいまだ進行中であり、そしてサイボーグへの転換作業も未だ進行中で完了を見ていない。
彼女が見上げてて見ている青い空に、彼女にしか見えない文字が浮かびあがった。
「あ! すごい!」
「どう?輝度調整してみるから、ちょうどいいところで合図して」
オペレーターの声が部屋に響く。
- 27 :
- 義体制御内科のネームプレートが胸に光る男性は、幾つもの端末情報が並ぶモニターの前に座っている。
左目側にはヘッドマウントディスプレーを装着しており、擬似的に彼女と同じ視界を実現していた。
「この辺りです」
「そう・・・・ うーん ほんとに平気?」
マウスをカチカチと鳴らしながらパラメーターのスライドバーをいじっている。
「僕から見るとモニター光度を生網膜で再処理してるからなぁ」
生身の人間が持つ幅広い調整能力を、機械の身体は100%で再現出来る訳ではない。
だけど、機械的なリミッター、プログラム上での数値的な丸め処理は生身の速度にヒケを取らない。
「これって直接神経に情報を送ってるんですよね?」
「そうだけど、正確に言うと違うんだ。神経に送ってるんじゃなくて脳に送ってる」
「じゃぁ数値的に大きすぎると脳がヤケドするんですか?」
「あぁ、そんな事は無いよ。ただ、あまり良い事じゃない。生体部分にはストレスになるからね」
真っ青な空に浮かぶ半透明の文字列。左の上にはデジタルな文字の時計表示。
右の上には義体が4個装着しているバッテリー残量情報や作動空気圧を生み出すコンプレッサーの熱状況。
3種類チャンネルある広域帯高速通信のバンド別受信状況などが示されている。
「パッと見で瞬間的に理解できるよね?」
「はい。授業で習いましたから」
そう。彼女は既に200単位を越える義体制御の授業を終えている。
単に動かせるようになる事だけがリハビリでは無いのだ。
彼女が『入っている』全身義体は、非常に高度な技術を投入し建造された科学技術の芸術的な結晶そのもの。
だが、この時代最先端の技術を持ってしても、メンテナンスフリーには、まだまだ程遠いのが実情だ。
生身の人間とて『生身の体との付き合い方』は母親に産み落とされてから長年掛けて自然に覚えていく。
それを彼女は駆け足で覚えねばならない。僅か2週間程度の間に学問として・・・・だ。
機械の身体に休息は必要ない。しかし、僅かに残された生体部品は定期的に栄養や休息を必要とする。
だからこそ、機械部分と生体部分の付き合い方の違い、バランス感覚を彼女は覚えておかねばならない。
「だいぶ上手くなったね。これなら試験も通りそうだ」
「通って欲しいです。外に出たいし」
「制御とか操縦系はもう一人前かな?」
完全義体化された彼女のような存在は、ある意味で特殊な乗り物のオペレーターなのだ。
だからこそ、車やバイクや、そういった運転免許に相当する試験を受けねばならない。
出先でのトラブルをある程度は自己解決出来る様でなければ、完全義体化人間失格。
万が一にも暴走したり、或いはパワー制御リミッターが壊れた場合の対処能力が求められる。
そして、それだけじゃなく。制御OSにウィルスを送り込まれて、犯罪に巻き込まれないように。
悪意ある第三者によるハッキングを受け、本人の意思とは関係なく遠隔操作されないように。
人事件や凶悪犯罪を発生させないようにする為の知識と技術を習得しなければならない。
自動車の所有者には、犯罪に使われないようにする為に管理が求められているのと一緒。
走行中に故障して周囲に迷惑を掛けたり、或いは交通事故を発生させ無い様にするのと一緒。
自分の身体を完全に自分の制御下に置く為の、細かなすり合わせもまたリハビリの一環。
学科と実技の両試験をパスし、義体免許を取得しなければ、ここのセンターから出る事すら出来ない。
彼女が今居るのは、悪意ある接触から完全に遮断される閉鎖環境。いわば電子情報の無菌室。
だけど、外界は様々な違法電波や悪意あるアクセス信号が渦巻く『雑菌だらけ』な世界。
人の悪意の底深さと暗い闇の深さを、彼女はまだ、知識でしか知らない・・・・
- 28 :
- 視界のマウスカーソルを動かしてみようか」
「はい」
視界に小さな矢印が現れた。
左右の眼球をうごかして視界範囲をコントロールすると、画面内の文字列も自動的にレイアウトを変える。
視野の中で邪魔にならず、しかも文字認識できるギリギリの所にボンヤリと浮かんでいる。
そこへマウスのカーソルを持って行くのだけど、実際、言うほど簡単な事じゃない。
物体を浮遊させる魔法とでも言うのだろうか。架空の存在へ意識を注ぐと言う表現しようの無い行為。
何となくやり方を会得するしかないのだから、これはもう練習あるのみだ。
「視界の左側に小さな■が有るよね?見える?」
「はい、見えます。赤いのと白いの」
「その赤いほうが義体のシステムタブだよ。白いほうは通信システムタブだ」
「でもまだアンテナと接続してないです」
「そうだね。まだもうちょっと先だ」
wi-fiなどを使った端末通信機能をサイボーグは持っている。
わざわざ有線にしなくても少々のデータならやり取りできたほうが便利だからだ。
ただ、それを使いこなすのは個人の資質、或いは、頭の回転の速さ。
パソコンを使いこなすのと同様に、義体を上手く使いこなす事もユーザーは要求される。
「赤いほうを開けました」
「そしたらそこに実行中のアプリ一覧が有ると思う」
「はい、見えます」
「今はまだ上から、パワー制御・姿勢制御・電源管理・通信管理・アプリ管理の5つだね」
「はい」
オペレーターが端末をカチカチと操作すると、アクセスランプが高速で点滅し始めた。
情報が義体へ『流れ込んでいく』のを視覚的に再現している。
「いまそこに防壁管理と言う項目が追加されたね?」
「はい、出てきました。ファイヤーウォールですね」
「そうだね。ただ、この防壁はそんじょそこらの甘っちょろいモンじゃないよ」
彼女の視界中央付近に半透明のプログレスバーが浮かぶ。その向こうを雲の塊が流れる。
データー転送中の文字と、転送済み容量の表示。推定終了時間まで表示されている。
なんとも古風と言うべきか、それとも親切と褒めるべきかを彼女は思った。
「君のストア容量はメインバンクだけで400TB位あるから、少々の事じゃ一杯にならないけど」
転送完了の文字が出て、その下に[root a:b:c / xx]の文字が出る。
「制御関連のプログラム階層処理は習ったよね?」
「はい、一昨日の教室で」
「そうか。じゃぁ表示の意味は分かるね」
「もちろん」
義体を制御するOSの収められたサブ電脳は身体の3箇所に独立してマウントされている。
専用回線で相互通信を行いながら、それぞれがある程度独立した権限を持って義体をパラレル機能している。
そして、それらはそれぞれが異なる種類の防壁を持っていて、外部からのハッキングなどに備えていた。
より簡単に乗っ取られないよう、用心する仕組みに成っているからだ。
彼女が『入っている』完全義体は上位2社と言うよりビッグツーと呼ぶべき、イソジマ電工製でもギガティクス社製でもない。
元々は完全AI作動なアンドロイドを作っていた東亞重工系のグループ企業である佐川精密の『作品』だ。
バイオ系セクサロイドや極限環境下労働デコットなどを得意としていた企業であるが、全身義体に関しては最後発と言っていい。
それ故に上位2社の様々な事例を鑑み、先行2社とは違うアプローチで市場浸透を図っている。
- 29 :
- 企業として得意なAIやバイオ技術に関して言えば上位2社を軽く凌駕する技術もノウハウもある。
しかし、そこに『人』が絡むとなると、全く話は変わってくる。
ケアマネージャーを配し、手厚いサポートでユーザーの心を掴むイソジマ系。
必要な機能を投入し、機械と人間の融合を進め極限状況下労働などで絶対の強みを見せるギガティクス系。
いくつかの弱小メーカーグループの中にあって、佐川精密の方針は『安全性』と『快適性』に定められた。
どれほど悪意ある第3者が良からぬちょっかいを出してきたとしても。
全国レベルで次々とハッキングを受けて全身義体使用者がセンターに隔離される事態になっても。
佐川の義体はスタンドアロンで安全に快適に日常を送り続けられる筈。
その為の、心配性もここに極まれりと言われるほどの厳重な防衛体制は全てユーザーを思っての事。
万が一、サブ電脳のどれか一つが乗っ取られた場合。
残り二つが合議制で感染したサブ電脳を切り離しシステムから完全隔離処理する仕組み。
用心には用心を重ねていると言えうるのだけど、それとは別にもう一つのサブ電脳もまた頭部にあった。
脳幹などの生体部品を管理し、サブ電脳との情報通信を監視する為の、全く異なる言語で書かれたOS。
『ゴーストライン防壁』と呼ばれる、本人の思考までもが乗っ取られないようにする為の防壁。
間違った情報を脳に送り、本人が錯乱状態や恐慌状態や、それだけでなく。
完全パニック状態になり衝動自などしないようにするための、一番重要な抵抗システム。
かつての古い時代に描かれたSFコミックの架空用語が、今現在の公式文書などでも普通に使われている。
本人の意思がなくなってしまえば、義体は遠隔操作される端末と同じ。
無差別大量人や自爆テロや広域破壊工作などに使われたとしても、まだ外見的に『本人が残っている』と成れば、警察組織などは銃撃など機械的な破壊を伴った攻撃的強制停止措置を行えない。
だからこそ、このファイヤーウォール設置は物凄く重要なのだった。
「君のアクセスキーの一番重要な物が必要になる。脳波通信の波形を記録してあるんだけど・・・・」
視界の中に2次元バーコードが浮かんでいる。
8ビットの縦横が組み合わさった128ビットの暗号キー。
「この画像をとにかく覚えて。ここは理屈じゃないよ。力技だ。君の生体脳に擦り込むしかない」
「うー こういうの苦手」
「だけど、仕方が無いんだよ。これを3種類組み合わせて一辺が32768ビットの3次元暗号コードにするんだ」
「3次元ですか?」
「そう。これで大体35兆通りの基本暗号パターンが生成できる」
カチャカチャとキーボードを叩く音が聞こえる。
視界の中に二つ目三つ目の2次現バーコードが浮かび上がった。
「今から定期的に試験するソフトを入れておくよ。不定期に視界へ浮かび上がるから・・・・」
システムタブのアプリ管理部分がジンワリと光っている。
意識の中のカーソルを動かして光っている部分をタッチすると、[記憶トレーニング]の文字が出てきた。
「このアプリは不定期で3種類のうちどれかを示してくる。合計正答率99.5%を達成すると出現回数が減るから」
そんな説明を受けているうちに、視界の中へ[第1回試験]の文字と共に、16マスの空欄が現れた。
□□□□ 第1回試験
□□□□ パターン1
□□□□ レベル1
□□□□ 正答率0%
「説明は要らないよね。それぞれのマスをクリックして反転させてやればいい」
「あぁ、なるほど・・・・」
- 30 :
- 彼女の瞳が赤く光る。それは電脳領域にアクセスしている外的サイン。
「えーっと」
いくつかのパターンを思い出してビットを反転させてやる。
□■■□
■□□□
■■□■
□□■□ [Enter? Y/N]
画面の中にクラッカーの弾ける簡単なアニメーションが再生されて、大きめの文字で[正解!]が出た。
「おぉ!優秀だ!その調子だね。3種類の正答率平均が上がってくると2つ同時や3つ同時になるから」
再び視界の中にマスが現れる。
□□□□ □□□□ □□□□ Test Sample
□□□□ □□□□ □□□□ レベル9
□□□□ □□□□ □□□□
□□□□ □□□□ □□□□
これ、全部覚えられるのか?と不安になるのだけど、逆に言えば覚えないとここから出られない。
「あまり根詰めても人間の脳は覚えないよ。ゲーム感覚と言うか暇つぶしのつもりでやればいい」
「はい、分かりました」
「何段と回答難易度が上がっていくと。最初は時間無制限だけど、時間制限が付いたりするからね」
オペレーターが再びマウスをカチカチと動かし始めると、画面の中の表示が切り替わって表示が消えた。
それだけじゃなく、視界のあちこちに浮いていた表示が全部消えてしまった。
「視界がクリアになった?」
「はい、全部消えました」
「これが生身の視界。表示が浮かぶと君のようなサイボーグの視界。どっちが便利?」
「えぇっと・・・・ 要らない時に消せる方が良いです」
「じゃ、しばらく常時表示にしておくよ。明日まで様子を見よう」
「はい」
「今日初めて視界割り込み表示のソフトを入れたにしては上出来だね」
カチカチとキーボードを叩く音が聞こえて、再び視界の中に色々な表示が浮かび始めた。
「まだ市販のソフトを入れちゃだめだよ?焦らずじっくりやろう。試験まで2ヶ月有るから」
「はい。ありがとうございました」
彼女は自分の首筋へ手を伸ばし、ロックを外してケーブルを引き抜いた。
光ケーブルを抜いた瞬間に外界の光が受光部を照らして一瞬ビクッとなる。
「ほらぁ! まずは端子のスイッチ切ってからだよ」
「うー!またやっちゃった!」
プラグ&プレイ対応なソケットモジュールだけど、それなりのお作法があるのは自明の理。
一つ一つ覚えていかなければならないお作法の多くが、実は彼女自身を守る為に必要な事。
それを彼女自身が深く理解する事もまた、社会復帰リハビリのもう一つの重要なテーマ。
ソケット部分にカバーを取り付け、その上から首筋をすっぽりと隠す帽子をかぶった。
年頃のお嬢さんなのだから、あまりにもむき出しな姿を人前に晒すのは、やはり恥ずかしい。
「ありがとうございました」
「無理しないで」
- 31 :
- そう挨拶して部屋を出る。
カーペット敷きの廊下を歩いていくのだけど、最近では随分と歩くさまも人並みになってきた。
背筋を伸ばし膝をあまり曲げず、美しいフォームで歩く練習。
二足歩行ロボットがまだまだ発展途上時代に有ったような無様な姿にはなっていない。
ふと目をやった窓の外。
大きなイチョウの木が黄色い葉っぱを風に飛ばしていた。
歩道の上には舞い散った葉っぱが降り積もって子供達が遊んでいる。
センターの外はもう冬が来ている。
「外を歩きたいなぁ・・・・」
ぼそっと呟いて窓に左の手を触れた。
まだカバーの付いていない指先は、軽金属製の機械がむき出しだ。
右の手も持ち上げて窓に触れる。暖かいとか冷たいとか、そう言う情報はまだ入ってこない。
どこか自嘲気味に笑って、ジッと手を見ている。
「機械なんだなぁ 今の私」
なんとなく泣きたい様な気分だったのだけど。でも、落ち込んでばかりも居られない。
これといってやる事も無いし、試験に備えて勉強するくらいの手持ち無沙汰な時間。
個室になっている自分の病室へ戻って行くと、サイボーグ専用寝台の上に何かが乗っていた。
最初は何か荷物かと思ったのだけど、良く見たら様々な光沢を放つサイボーグだった。
そしてそれは彼女自身も知っている存在・・・・
「ゆうちゃん?」
そっと近づいて肩を揺すってみる。だけど、全く反応がない。
センサーの電源が入ってなければ、この子はんでいるのと同じだ。
「ゆうちゃん どうしたの?」
男の子の胸の部分にある小さな液晶へ目をやると、残りのバッテリー容量が15%を切っている警告が出ていた。
「おねぇちゃーん ねむーい」
「ゆうちゃん ランドセルは?」
「知らない」
電源容量が絶望的に足らない小児型の場合は残量低下で危険な領域へ入るとスリープモードに落ちるんだろう。
生体部分を『生かしておく為』の予備バッテリーに切り替えてもスリープモードだと3時間が限度だとか。
そろそろ充電してあげないと、この子の生体部品がんでしまう・・・・・・
「じゃぁ ゆうちゃんのお部屋行って寝ようか? おねぇちゃん連れて行ってあげるね」
「・・・・やだ」
「どうしたの?」
「あそこさみしいからやだ おねぇちゃんとねる」
・・・・そうか。
この子は全身サイボーグだけど、心は5歳の男の子なんだ。
いつも人が居るサポセンの前の特等室だけど、常時、人が居るわけじゃないんだ。
まだまだ甘えたい歳なんだよなぁ・・・・・
「じゃぁ、おねぇちゃんと一緒に寝ちゃおうか」
「うん」
「その前に、これを繋がないとまたゆうちゃん叱られちゃうよ?」
- 32 :
- 男の子の腹部にある小さなハッチを開けると、彼女の物とはサイズが少々違う電源コードが現れた。
成人サイズであれば通常型のアース付き3Pコンセントプラグなのだけど、この子の電源コードはUSBサイズ。
「おねぇちゃん 繋いでくれる?」
「うん いいよ」
彼女はベッドの上に横になった。
自分のコンセントをベッド脇の専用電源タップに繋ぎ、電源スイッチを入れる。
給電が開始されると、視界の中のバッテリーマークにコンセントプラグのピクトサインが表示された。
残りのバッテリー容量から見て、充電完了まで約2時間。
だけど・・・・
「ゆうちゃん もうちょっとこっち来て」
「うん」
モゾモゾとベッドの上を這い上がってくる男の子。
まるで母親に甘えて抱きつくようにしている。
彼女は男の子のケーブルを延ばして、電源コード収納部にあるオプション用のUSB端末に繋いだ。
視界の中のUSBポートを示すピクトサインに[外部へ電源供給中]の文字が浮かぶ。
「おやすみ ゆうちゃん」
「おねぇちゃん おやすみ」
省エネモードだったにも拘らず動いた事で、残りのバッテリ容量が10%を切ってしまったようだ。
男の子は成人型よりも遥かにバッテリの容量が少ない関係で、残量が50%を越えないとダメらしい。
意識レベルが睡眠モードで落ちるように仕向けられ、『寝る子は育つ』を地で行くように眠ってしまう。
まるで寝息を立てているように呼吸しているのだけど、この子もまた空気作動型のサイボーグ。
それはコンプレッサーを冷却する為の空気循環でしかなく、生暖かい排気だけが出てくる
ただ、彼女にとって小さな男の子に頼られ寝かしつけると言う行為が、母性本能をくすぐられる事だった。
男の子の意識レベルが睡眠モードに入ったのを確認して、サポセンのスタッフを呼ぶ。
「あらら ゆうちゃんたら」
「このままで良いですよ。お昼寝です」
「じゃぁ、目が覚めたら呼んでね」
「はい」
本当は午後一番で身体運動ソフトの再調整をするはずだったのだけど、どうやらプランは延期のようだ。
食事や睡眠をそれほど必要としないとはいえ、生体部品である脳はこのような状況になると、やはり睡眠モードに移行を提案してくる。
サイボーグには必要ないのだけど、でも、脳の中にある人間の部分がそれを必要としているのだから。
彼女は薄がけのタオルケットを片手で器用に広げて、男の子と一緒になって被った。
こんなシエスタも悪くないな。
ふと、そんな事を思っていた。
−終−
- 33 :
- SF要素満載のファイヤーウォールアクセスキー設置作業も良いですが、
自分の電源を子供に与える疑似授乳行為とか、
必要もないのにタオルケットをかけるとか、
そういうサイボーグになっても残る人間性に、たまらなく萌えます。
GJです。ありがとうございました。
- 34 :
- >>24
キュンキュンに萌えるシーン満載ですね!
GJ!でした。続きに期待しています。
- 35 :
- >>32
遅まきながら最後のパートで凄く和んだよ。
投下GJ!です。凄く良い感じです。
マッタリと続きに期待しています。
あと、そろそろキャラに名前つけてあげてください。
感情移入しやすくなるんで。
- 36 :
- そうだね。キャラに名前がほしい。
ヤギーワールドシェアだそうだから、
同じように愛されるキャラになってほしいね。
- 37 :
- あけましておめでとうございます。
新年早々ですが第3話を書き上げましたので早速ですが投下いたします。
主人公の彼女は名前をちゃんと考えて有りますが、次のお話でのキーパーツですので、まだ伏せてあります。
申し上げありませんが、ご理解くださいませ>各位様
では、10レスほどお付き合いください。
本年もよろしくお願いいたします。
- 38 :
- 全ての感覚を遮断された真っ白な世界。眩いほどに真っ白な世界。
どこからかチョロチョロと水の流れる音だけが聞こえてくる。
白い世界の中にフッとフォルムが現れ始め、眩さが落ち着き始めた。
白い壁。白い天井。床まで白い。そっと足を下ろすと、足裏にひんやりとした感触があった。
―― 夢?
まだ彼女は事態が飲み込めない。
彼女の見ている世界は、病院の標準ベッドが一基だけ置いてある小さな部屋だ。
―― 脳が夢を見てる・・・・・
真っ白のワンピース姿で彼女は腰掛けている。
彼女は不意に自分の頬をつねってみた。
鋭い痛み。そして、視線の先には驚くべきもの。
自分の手に爪が、皮膚が、筋肉が付いている。
―― うそ
ヒョイと手を返してみれば、見覚えのある手相の掌。
手を握ってみれば、皮膚が弛んでいって折りたたまれる感覚がある。
そっとベッドから立ち上がってみた。
身体の中で音がする。骨がこすれギリギリと鳴る。
そして予期しない感覚が体内を走る。
鼓動。
胸の中に心拍を感じた。
狐につままれたなどと言うのだが、本当に化かされているんじゃないかと錯覚する。
不安そうに部屋の中を見渡して見つけたのは、白い壁にぶら下がっている鏡。
恐る恐るその前に立って鏡を覗き込む。
肩甲骨を通り越し、腰まで伸びる黒髪。健康的な肌の色の顔。
ワンピースの下には柔らかな肉体。
―― これって・・・・・
部屋の隅にあるドアを見つけた。
病院の風景な部屋の中にある、引き戸のドア。
なにか凄く怖いモノが向こう側に有るような気がしたけど・・・・
「遠慮なく開けてみて」
―― え?
「いま君が見ているのは仮想現実。実態の君はサポートベッドの上でスパゲッティシンドロームだよ」
風景な部屋の片隅に、音も無くフッと薄型テレビが姿を現した。
たった一つしかないスイッチをオンにすると、鈍い音を立てて映像を映し始める。
ネットワーク接続試験中と言うキャプション表示と共に、だんだんと映像が浮かび上がってきた。
背もたれの倒れた大きな椅子に腰掛けている、見覚えのあるサイボーグむき出し姿の女性。
―― じゃぁ 今の私は?
そのサイボーグの女性の前で、見覚えのある男性が手を振っている。
[義体心療内科]のネームプレートがチラリと見えた。
- 39 :
- 「いま君はわが社の提供している仮想空間の中にいる」
―― 仮想空間?
「そう。全国に居る、わが社の義体ユーザーだけが入ってくるSNSだよ」
―― SNSですか?
「そうとも。ブログとかでキャラ作りして参加するのがあるよね」
―― はい。私もやってました。
「その仕組みの仮想空間版だ」
―― ・・・・すごい!
「いま君が居るのは桜ヶ丘と言う仮想住所の君の私室。ただし、まだ仮登録だけどね」
ドアを開けて部屋を出ると、大きなフェンス張りのバルコニーへ出た。
ちょっと高い位置から街を見下ろすような格好だ。
頬を撫でる暖かな春風が気持ち良い。
降り注ぐ光に確かな温もりを感じる。
随分と忘れていた、懐かしい感覚。
「ビジョンのレイアウトが滅茶苦茶なのは勘弁して欲しい。実際にそんな構造の家は無いからね」
そんな言葉が聞こえるのだけど、彼女の精神はそっちを全く気にしていなかった。
太陽に向かって大きく両手を突き上げ、全身に太陽の光を感じている。
背中の腱が伸びてふとももの裏側まで延びる感触を味わう。
胸の中で一際大きく鼓動が走っている。
―― これ、全部仮想現実なんですか?
「そうだよ。今は佐川製の義体ユーザーしか入れない、電子の箱庭だよ。」
―― でも、太陽も風も心臓も・・・・
「君が感じてるのは、君の脳の記憶野に残っている情報を励起しているからだよ」
―― じゃぁ、これ全部私の記憶?
「そう。そしてその記憶野の情報を一旦電子情報としてホストにストアし、若干手を加えてリロードしている」
―― 私の記憶を吸い取られてるの?
「吸い取られてると言うのは表現的に正しくない。君の記憶をみんなが共有しているんだ」
―― みんなって?
「佐川精密の全身義体を使っているみんなだよ。君が感じた太陽や風や鼓動の情報を皆が味わっている」
―― じゃぁ いま私が見ている世界は?
「日本各地のこんな風景を見てきたって人達の記憶を繋ぎ合わせてる、仮想の日本だよ」
仮想・・・・
彼女の脳裏に少しだけ暗い影がよぎる。
現実じゃないと言う部分が殊更にクローズアップされている。
- 40 :
- ―― じゃぁ、全部作り物なんですね?
「そうだね、作り物だね。だけど、作り物ゆえにこんな事も出来るよ」
―― え?
さっきまで居た白い部屋の中に誰かが居る気配を感じた。
慌てて振り返ると、その部屋の中に人影があった。
大手チェーン系カレーショップのユニフォームを来た男性。
「お待たせしました! 野菜ミックスカレー300gです」
部屋の中から良い香りがしてきた。
香り・・・・ そう!匂いだ!匂いを感じる!
いま現状、機械の身体で唯一再現し切れていないものがこれ。
脳が直接感じると言う唯一の感触器官。臭覚。
バイオ系のセンサーを接続するまでは、サイボーグに臭いの情報は無い。
全く動けない状態から調整を重ねる事4ヶ月弱。
100日を越えて遮断され続けていた感覚が蘇ってくる。
そして、その香りは味覚神経を刺激するカレーのスパイス臭。
突き抜けるような香りが脳を直撃する!
「食べてみて」
―― たっ! 食べられるんですか?
「ここは仮想現実だよ?何でも出来る。空も飛べる。おなか一杯ケーキ食べながらコーラ飲んでも太らないし」
ドキドキしながら・・・・部屋を覗く。
そうだ、これだ!この感覚だ!
胸がときめく時に感じる鼓動感!
部屋に足を踏み入れると、小さなテーブルの上にはお皿に乗ったカレーライスとグラスに入った氷水。
紙ナプキンの上に置かれたスプーンを持って、コップの水に浸して、そして・・・・ そして・・・・
「どうしたの? 美味しそうに見えない?」
―― 久しぶりなんで、どうやって食べればいいか忘れちゃって
気が付けばテーブルの上に涙が零れていた。
ポタリ・・・・ ポタリ・・・・
「最初はみんなそんな反応だよ」
―― いただきます
カレースプーンがライスの山に突き刺さる。カレールーを絡めて山から離陸する。
そのまま口の中へと運ばれた、カレーの絡まった炊き立てご飯の味わい・・・・・
―― おいしい・・・・
心からの言葉が口を突いて出てくる。
食べ物を食べると言う行為そのものが、これほど重要だったのか!と驚く。
カレーの合間に呑む水の、その、喉を通って胃の府へと落ちていく感覚までが感動の嵐だった。
一心不乱にカレーを食べ続けた。辛味を感じて舌がヒリヒリするような感触を楽しんだ。
余計な事を考えず一気呵成に流し込んで満足して、グラスの水を飲み干して・・・・
- 41 :
- ただ、ふと。気が付いてしまった。
何で気が付いてしまったんだ!と、自分を責めたくなる。
―― でも、これ。仮想なんですよね?
「もちろんそうだよ。全部作り物」
全部作り物・・・・
その言葉が胸に突き刺さった。
自分が食べてるわけじゃない。自分は食べ物を必要としない。
外部から給電されてバッテリーに電気を貯めて動く、電気仕掛けの機械人形。
その現実が改めて突き刺さった。拭い切れない現実と言う奴が襲い掛かってきた。
―― でも 私は 電気仕掛けの・・・・
スプーンをお皿に置いて、そしてもう一度涙を浮かべる。
どうしようもない現実が襲い掛かってきたのだけど。
もう何度も何度も開き直ったと思ってきたのだけれど。
だけど、どんなに覚悟を決めたと思っても、それはただの、上っ面だけの。
どこか概念的な自分を騙すための、偽りの覚悟でしかないと思い知らされた。
「そうだよ。君の身体は電気仕掛けの人形だ。それは間違いない。けど、それを制御しているのはなんだい?」
何処か冷たい口調で聞こえるオペレーターの言葉。
何を言わんとしているのか。その核心を思い浮かばない。
「君の身体は125ボルトのバッテリーで動くコンプレッサーが作った圧縮空気で動いている」
その口調は教え諭すものでもなく、また、何かを問いかけ、思考を促すものでもなく。
まるで取扱説明書を読み上げる声のように。抑揚も無く感動も無く。ただ、淡々としている。
「熱も圧力も痛みでさえも、光神経が送る数値情報でしかない。足の裏に踏みしめる大地の温もりも感じない」
崖っぷちで飛び降りようとしている自志願者に向かって『早く飛べ!』とでも言っているかのように。
目を覚ましたときに、機械の身体になっていた衝撃からやっと立ち直ってきた筈なのに。
誤魔化したり意図的に無視したりしてきた部分の、そのやっと固まった瘡蓋を力一杯はがすかのように。
「今更どこか希望や救済や奇跡なんか無いよ。今の君は外見的はただの、そう、操り人形(たんまつ)だ」
冷酷無比に。
傲岸不遜に。
一番弱い部分を突き刺してえぐって切り裂く刃物のように。
いままで必に思いとどめてきた感情が、今まさに溢れかかっている。
涙もこぼれなくなって、ただ呆然とカレー皿を眺めて放心している。
「だけど・・・・ 君はAIかい?」
機械のような。マシンボイスのような抑揚の無い問いかけ。
「コンピューターの作り出した電子情報の模擬人格かい?」
少し小さな声。
だけど、ほんの僅かに温かみがあった。
- 42 :
- 「プログラムに沿って動くロボットかい?」
―― 違う
「なんだって?」
―― 違う!
「じゃぁ、一体なんだって言うんだい?」
―― 私は・・・・ 私は・・・・
「わたしは?」
―― 私は私でしかない! 私だもの! 私は私!
「そうだ。その通りだ。君は君でしかない。自分を自分足らしめているのは自分しかないんだよ」
まるで父親が子供に語りかけるように。
まるで神父が信徒へ語りかけるように。
「自分を自分足らしめている物はただ一つ。それは自分の意思だ。そうだろう?」
彼女は白い部屋を飛び出した。
誰かの指示ではなく、自分の意思として、仮想空間の中を走った。
「君は君の意志がある限り、たとえ人工血液と人工脳液の中に浮かぶ脳髄だけだったとしても」
訳も無くあのバルコニーへ飛び出て太陽を眺めた。
自分の記憶の再生であるならば、あの太陽は私の物だ!と思った。
「電気仕掛けの操り人形の中に入った総計2kgに満たないタンパク質の塊だけだったとしても」
眩い太陽に目を細め、流れる風に髪をなびかせた。
全ては仮想空間の作り物だったとしても。
コンピューターが作り出した幻だったとしても。
「君は人間だ。人間は魂の、心の、意志の生き物だ」
―― 意思
「そう。意思だよ。AIには欲望や目的といった意思が無いんだよ」
―― 目的?
「そう目的だ。生きる目的。一番汚くて一番ピュアなもの。欲が無いんだよ。これはAIでは作り出せない」
―― でも、仮想空間の物を欲しがっても本物じゃないですよ。私は本物にさわりたいです。
「生身で感じる全てが本物だなんて、一体どこの誰が保障してくれるんだい?」
―― え?そんな事言っても・・・・・
「そうだとも。味を感じるのは舌? 臭いを感じるのは鼻? 全ては脳がそう処理しているだけだ」
―― 処理している・・・・
「脳と言うコンピューターが作り出した夢と言う幻想でも味を感じるだろ?それと一緒だよ」
突然視界が真っ白に染まった。
- 43 :
- ホワイトアウトした視界の中に、デジタル時計の表示が浮かび上がった。
小さな■のタブが視界の隅にいくつか浮かび、その反対側にはバッテリー表示が漂っている。
「おかえり! カレーライスは美味しかったかい?」
「はい? え? あ・・・・ おっ 美味しかったです」
「そう、良かった。ところでなんか気が付かない?」
「えっ?」
そう問いかけられ、彼女は視界の中へ注意の先を送り込んだ。
各パラメーター表示におかしいところは無い。
さっきまで1メモリ無くなっていたバッテリーが一杯になっているくらいだ。
「特に・・・・ 強いて言えばバッテリーの残量が・・・・ あぁっ!!!!」
「わかった?」
「はい! わかった! わかった!!!!」
オペレーターが笑いながら端末を操作している。
彼女の視界に[!]マークが表示された。
「君がカレーを食べている間にバッテリー管理ソフトをバージョンアップしておいたよ」
「うそ・・・・ 信じられない・・・・ これって」
「さっき言った通りだよ。どんな情報も脳が処理してるだけなんだ。だから逆に言えばなんでも出来る」
「今日はその為の・・・・」
「そーいうこと。いいもんでしょ?ソフト同士のAPIを再調整してある。ソフト同士がリンクできるんだ」
実はさっきから、彼女はある感覚を味わっている。
仮想空間で食べたカレーライスの味でも、喉を流れた水の感触でもない。
もっともっと、原始的で原罪的で、そして、人の心理に忠実なもの。
「おなか一杯になるって、こんな感覚でしたよね」
涙を流すほど嬉しい感触。満腹感を彼女は味わっている。
満腹中枢が刺激され、幸福感を感じつつも『やばい!太る!』と慄く。
それを見透かしていたかのように、水を差すような言葉が投げかけられる。
「ただ、ここから先は冷たい現実だ。覚悟は良い?」
急速に世界が色を取り戻した。大きな窓の外に葉を殆んど落としたポプラ並木が並んでいる。
少し曇っている空だけど、彼女の視界にはさっき見た太陽の眩い残像が浮かんでいる。
「バッテリー残量が90%を越えると満腹感を感じる。そして逆に言えば」
「空腹感ですか?お腹空いたって?」
「そうだ。残量が30%を切ると空腹感を感じ始める筈だ。ついでに言うと15%を切るとフラフラし始めるよ」
「フラフラ?」
「そう。低血糖症で手足が震えたりフラフラしたりする。生身の身体と同じ感覚だね」
「分かりやすいですね。アナクロで」
やっと彼女の顔に笑みが浮かんだ。
少し立ち直った?
いや、違う。
全て吹っ切れた。
そんな清清しい表情だ。
「お昼はもう良いね。『お腹一杯』だろ?」
「はい。ちょっと食べすぎです」
「大丈夫だよ。ドラム缶一杯食べたって太らないから。むしろ食べ過ぎて太る義体を作りたいくらいだ」
「でも、良いですね。これ。美味しいケーキの食べ歩きとか」
「ハハハ!それは無理だ。どんな美味しいケーキもまず数値情報化しないと。または誰かの記憶を共有するか」
- 44 :
- なんだ・・・・
ちょっとガッカリしたようにして彼女はむくれている。
ただ、それを見ていたオペレーターがニヤリと笑う。
「まぁ、生身の身体の連中じゃこれは出来ないよ。それに」
「それに?」
「それに、数値情報化済みの美味しい物だけ食べられるのは我々の特権」
「あ、そうか。不味かったら仮想化しないんだ」
「そうそう。その通り」
オペレーターがニッと笑ってサムアップしている。
「生身の連中は食べ過ぎれば太るし、呑みすぎれば二日酔いだけど、我々はボタン一つで酔いから醒める」
「そうですね・・・・ って、え?我々って・・・・」
「あれ?言わなかったっけ?」
オペレータの左目が赤く光る。
国際規格で定められた全身義体に義務付けられる外部表示。
サイボーグが電脳体で何か作業している時に出てくるサイン。
カチカチ・・・・ カチャン
右手で左腕を持って肩の付け根で分離させてしまったオペレーター。
「ほら、僕も全身サイボーグだよ。ちょっと古いけど」
自嘲気味に笑ったオペレーター。
再び腕を分離面に宛がってガチャガチャと音を立てている。
「君が入っている4000シリーズ、LX4000Fは、いま僕が使っているLX1000Mの4世代後のタイプなんだよ」
「じゃぁ、先生は佐川精密の社員さんなんですか?」
「そうだよ?でも、正確に言うと佐川系の関連企業だね。佐川メディカルの社員」
「初めて知りました」
「制御内科は佐川精密系、構造外科は東亞重工系の人間が多いんだよ」
「そうなんですか」
「僕は元々医者だったんだけど佐川で義体化してから心療内科に転職さ」
優しく語り掛けていたオペレータは椅子から立ち上がって、彼女の頚椎に差し込まれたプラグを抜き始めた。
プラグを抜く時に暗幕代わりのハンカチで光ケーブルのソケットを隠すのは優しさだ。
光神経を使ってやり取りする以上、ケーブルの無くなった接続面に環境光が入るのは辛いのだろう。
むき出しになった皮膚の接触神経の上でを虫が這うようなものだ。
「君のように落ち込んでる人を助けたかった。なんせ元々医者だからさぁ」
「ほっとけなかったんですね」
「そうだね。自分もサイボーグになってみて良くわかったよ」
彼女はソケット部にカバーを掛けて光が入らないようにして、やっと椅子から立ち上がった。
身体の内側から聞こえるのは、心臓の鼓動や関節の軋みではなく、スクロールコンプレッサーの音。
そして、各部のアクチュエーターや空気シリンダーの給排気音。
どんなに取り繕っても、彼女はやはり、電気仕掛けの操り人形(たんまつ)でしかない。
だけど、その中身には意思のある人が入っているのだと、今は胸を張って言えると。
そんな自信に満ちたような表情を浮かべていた。
「元お医者さんですと、やっぱり使命感みたいなものが・・・・」
「使命感かどうかは分からないけど。あ、あと、元医者じゃなくて、今も医者だよ。サイボーグのお医者さん」
「あ。失礼しました」
「いいんだよ。制御内科も構造外科もみんな医者だ。治す系の医者。ボクは心療内科。癒す系だね」
- 45 :
- 癒す系。どこかちょっと恥ずかしそうにそう言って、サイボーグのお医者さんは笑った。
「人間は心の生き物だってさっき言いましたよね」
「そうだとも。どんなに精巧に作ったAIだったとしても、その反応はただの予定調和だよ」
「予定調和?」
「そう。こう反応したら相手が喜ぶ。その反対の反応をしたら相手が悲しむ。最近のAIはそこまで計算する」
「確率論的な物ですか?それとも統計論?」
「単に乱数だとボクなんかは思ってるけどね。でも、中には本当に凄いAIもあったりするんだ」
「そうですか」
「だけどね」
彼女はふと、首筋にあるジャックのカバーがちゃんと閉まっているかを確認した。
無意識の動作だけど、段々とサイボーグ慣れしている証拠でもある。
その背にガウンを掛けて、それから、金属むき出しの指でも持ちやすいように書類を調えて、手にもって。
女性的な優しい笑みを作ってオペレーターを見た彼女。
「だけど、なんですか?」
「やっぱりね。心が無いんだよ。相手を喜ばせようとするのはAIでも出来るけど。でも」
「心ですか・・・・」
「そうなんだよ。どんなに作りこんでも、むしろ作りこめば作りこむほど機械的に成ってしまう」
・・・・機械的
身体が機械だからかな?
いや、そうじゃないよね
いろんな事が頭の中をぐるぐると駆け巡り、答えの出ない問いで少々混乱する。
だけど、なんとなくハッと気が付く事もまた思い出された。
「実際、人が対応してくれる受付窓口でも機械的な対応されると気分悪いですけど・・・・」
「そう言うことだよ。最後は人の温もりなんだよ。だって」
接続器のメイン電源を落としてカバーを掛けながらオペレーターが窓の外を見た。
葉を落とした並木越しに市井の生活が垣間見える。様々な人が生きている。
「生きることそれ自体を目的にするのは人間だけでしょ。AIもロボットも目的が有るから作られる」
「逆説的ですね」
「そう。だからこそさっきの言葉なんだよ。人間は魂の、心の、意志の生き物だってね」
「良い言葉ですね」
「だろ? なんせ」
後片付けを終えドサリと椅子に腰を下ろして笑っているオペレーター。
椅子のサスペンションがグッと沈むのはサイボーグの証。
「昔読んだ漫画のね。敵方のボスがサイボーグでね。だけど自分は人間だって言い切ってて」
楽しそうに笑うオペレータに釣られて彼女も笑みを浮かべる。
「回り全てを巻き込んで戦争を始めてみんなしちゃんだけど。それを見て楽しそうに笑うんだよ」
え?戦争?す? 物騒な言葉に一瞬うろたえる。
だけどそれが漫画の中なのだと思い出して、少し安堵もする。
「生きる目的が戦争なんだと。そう言ってね。戦争の歓喜を味わう為に。その為に生きているんだと」
「だから・・・・ 魂の、心の、意志の生き物なんですね」
「そうゆうこと。もっとわがままになりなよ。自分が楽しいのが一番大事だよ。そして」
「そして?」
オペレーターの笑みが何処か子供っぽいいたずらっぽさを帯びてきた。
楽しい遊びを心行くまで楽しんでいる幼子のような、そんな表情。
- 46 :
- 「我々にしか出来ない事を見せ付けてやればいい。生身では出来ない事をね。サイボーグの特権だよ」
「特権ですか?」
「そう。特権だ。君いまいくつだっけ?」
「18です」
「そうか。じゃぁ後20年経ったら分かるよ。なんせ僕らは外見上、自然に歳を取らないからね」
ハハハハ!と笑いながら立ち上がって彼女に退室を促した。
滑らかに動く肢体が良く整備されている事を連想させる。
「僕のL1000シリーズは駆動部が超音波モーターなんだ。だから完全無音型。ただ、電気だけは3倍喰う」
「じゃぁバッテリーが大変ですね」
「そうなんだ。だからL1000以降は油圧に水圧に空気圧。完全電動は姿を消した。だからこれを使い続けてる」
「更新しないんですか?」
「しないよ。まぁ、超音波モーター式が出れば話は別だけど。それに、意地を張ってるおかげでいい事もある」
「なんですか?それは」
「ぼくね。実は今年で55歳なんだ」
「うそ!」
「だろ?」
ニヤッと笑った男性型サイボーグ。
その姿はどう見たって20代後半位の、まだまだ若々しい姿だ。
最近でこそ40歳50歳に見える男盛りのサイボーグも増えてきたのだけど。
「そろそろ外見の処理をする頃だよね?」
「はい。来週には」
「そうか。じゃぁ、来週合う時には普通の服を着ているはずだね」
「たぶんそうなると思います」
「来週を楽しみにしているよ。じゃぁ、お疲れさん。試験ガンバんなよ」
「ありがとうございます」
軽くお辞儀をして彼女は歩き出した。
まだまだ身体の各部から空気圧の作動音が聞こえてる。
ただ、先月に比べれば歩くフォームは格段に綺麗になった上に、動きに優雅さが出てきた。
機械じみたぎこちない動きは影を潜め、ちょっとした振る舞いに女性らしさが出るようになっている。
リハビリフロアのスタッフが皆それに気が付いているのだけど、当の本人はまだ気が付いて無い様だ。
今日はやる事も無いし、検査もないし手持ち無沙汰。
いつの間にか夕暮れの日差しになりつつある外を一瞥してから、彼女はカレーライスの味を思い出していた。
−終−
- 47 :
- まさかここで少佐が出てくるとはなぁw
投下GJ!でした。次のお話にも期待しています。
- 48 :
- GJ!
うーん、まさに「我思う、故に我あり」な話だなー。
- 49 :
- 考えてみればその通りだよなって話。
化け物の様な人間と人間の様な化け物の違いか。
そう考えると少佐の言葉は重いな。
良い話でした。GJ!です。
- 50 :
- 戦うサイボーグ娘成分が少なくなってきたので、つい出来心で書いてみた。
所要時間40分足らず何で誤字脱字/乱文乱筆笑って許してw
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
いつもと同じ日常が毎日続くなんて当たり前だと思っていたのは、もうどれくらい前だったのか自分でも解らなくなっている。今こ
こにある現実は、一面の焼け野原と崩れかかったビルの残骸と、そして焼けただれた自家用車達の虚しい車列。自治省衛生局が回収し
たらしいドローンの感染体は、おそらくすでに超高周波焼却炉でちりも残らず焼かれたはずだ。
西暦2150年を超えた辺りの出来事。恒星間飛行デバイス『ハイパードライブ』の実用化により、地球人類の活動圏は遠くオリオンの
ベテルギュース領域まで広がっていた。人口爆発に歯止めが効かない状況下で取られた地球連邦政府の政策は、新たな人類生存可能惑
星への植民政策だった。
より高性能なハイパードライブ搭載型のスペースシップが量産され、地球銀河系の深淵部へ向けて続々と旅立っていった植民船団が
地球へと戻ってきた2200年頃。地球上で始まった小さな異変は瞬く間に地上を覆い尽くしていった。
地球人類のRNA遺伝子を直接書き換えてしまう未知のウィルスは、いかなる手段を持ってしても抗体を作り出す事が敵わず、地球上
のすべての陸地に収まりきれずに人工大陸まで作って納めていた300億を超える人々が、ばたばたと病に倒れ命を失っていった。
だが、それは恐怖の前段階に過ぎぬ事を『不幸にも生き残ってしまった人々』は味わうことになる。
その未知のウィルスは体をまるで生きた人間のようにカモフラージュさせ、あたかも未だ正常に生きていると錯覚させるほどに自
然な振る舞いでウィルスの再拡散を図っていた。基本的人権の解釈論対立でもめている間に、未感染か感染済みか解らぬままのウィル
スキャリアとかしたドローンが恐ろしい勢いでウィルスを再拡散させ、連邦議会が議論の一致を見て感染者を隔離すると決定した時、
すでに未感染の人類は5億を切るほどに減少していたのだった。
その生き残った人々が取った政策はあまりに苛烈だった。
感染済みの者は容赦なく、例外なく、躊躇無く抹消された。まるでゾンビのように緩慢な動きで暴れるドローンは、瞬く間に一掃さ
れたのだった。また、感染済みながら意識がかろうじて残っている者は、たとえ本人の意識が残っていても、遠慮無く射され、ウィ
ルスを焼き払うために反応炉の中へ投げ込まれてしまった。
だが、その過程でおよそ100万人に一人の割合でウィルスに何らかの抗体を持つ人類が確認された。彼らはウィルスに感染後も意識
や自由を失ったり乗っ取られたりすること無く、本人の意識を高いレベルで保ったままウィルスと共存していた。初期段階では躊躇無
くされていた彼らだが、ある時、ドローンとなった感染者が彼らを襲わないと言う事が確認されたのだ。その時点でウィルスと共存
する者達は、すべての自由を奪われ、未感染者の守護者としてウィルスと戦うための『高度有機生命体兵器』として扱われることが決
定した。
全く別の星系から持ち込まれた未知のウィルスは、わずか数個のタンパク質構成体からなる単純な組成であったが、およそ0.01ピコ
リットルの血液・体液などが空気中を漂ったとしても、それが生身の皮膚に触れた瞬間に表面のタンパク質へと浸潤し自己複製を開始
していく凶悪な感染力であった。
故に、ウィルスへ抵抗するべく編成された防護隊とも言うべき公衆衛生局のスタッフは皆、高度にサイボーグ化された『元・人間』
とも言うべき機械達だ。外界と完全に遮断されたドーム型のコロニーが世界各所に建設され、人類はその中でのみ生存を許されたのだ
が、何らかの手違いでその中へドローンやキャリアーが進入してしまった場合、そのコロニーは例外なく『完全焼却』される運命にあ
る。その、最も汚れ役な作業を請け負う彼らは、ウィルスに抵抗を示した感染済みの人々の脳髄だけを移植された機械としてのみ存在
を許されている。
そして今、つい最近焼き払われたコロニーNo.4900135『西東京シティ』の中心部で、真新しい銀色のボディを輝かせているサイボー
グが4名。焼け野原の旧市街地を眺めていた。
――ッピ! 『ユニット8013!14!15!16!早く移動しろ!エリアコード2146より2158のエリアにドローンが確認された!』
直接脳内に響く指令の声。
- 51 :
- 脳以外のすべてを機械に改造されたサイボーグ清掃員たち。
「早く移動しろって」「またやり直し?それとも」
「やっぱまとめて焼き払わなきゃ駄目なのね」
「人使い荒いよねぇ」
――ッピ! 『おまえら、まだ人間のつもりか?もう諦めろ。さもないと次のメンテタイム抜きの懲罰だ』
「あ〜ぁ やってらんないよ」
「んだ方がよかったね」
直接の脳波通信でやりとりする彼ら・・・・ いや、彼女らは、ここのコロニーで生き残った人々のために改造された抗体持ちの元女子
高生。ユニットナンバー8013非公式ユニット名『yuka』、8014『mai』、8015『mana』8016『nori』。全く面識の無かった彼女たちだ
が、ナパーム弾に焼かれた市街地の中で回収された体のうち、わずかな生体反応が検出された者のみを集めて改造されたのだがら、
逆に言えば強運の持ち主といえるのだろう。
全く同じ外見のボディを持つ彼女達は、首の辺りから上だけが人工皮膚と非生体系素材で作られた生身のような頭部を持つサイボー
グだった。高純度弾力系アクリル体で作られた眼球の色だけが違う、顔の作りまで同一の量産型ユニットだ。
「ねーねー!良いもの見つけた!」
「なに?」
「ほら!ヘアカラースプレー!」
「あぁぁ!」
緑やら黄色やらの塗料が入ったエナメル系の艶あり塗料缶。もちろん、生身の人間になんか使える開けが無い。だが、彼女達の毛髪
は耐熱シリコン系のアンテナを兼ねた放熱デバイスでもあるから・・・・・
「マナは緑だから髪も緑ね!」
シュー!
「どう?」
「あ!似合う似合う!」
気がつけばサイボーグ達の髪の色が見事に四色に分かれていた。
――ッピ!『おーまーえーらぁ!』
「はいはい。わかりましたよ−」
「いまいきまーす!」
「バッテリーが残り少ないから稼働限界まで3時間ちょいでーす」
「武装もあんまり無いんで補給して欲しいでーす」
6輪バギーに全員が乗って移動を開始する。運転するのはマナ。ユニットナンバー8015。ほんの3週間前まで、毎日のように通ってい
た学校が焼け野原にぽつんと残っていた。どこからか煙の臭いがしていた。涙も流れなくなった瞳で皆が学校の残骸を見ている。もっ
と勉強が出来て頭脳明晰で、そして、ウィルス感染するような遊びをしていなければ・・・・
「また学校行きたいね」
誰かがそうつぶやいた。だけどそんな日常はもう戻ってこない。幾人ものエンジニアに囲まれた作業台の上で彼女達が目を覚ました
時、そんなものはもう遙か遠くの世界の出来事に成り下がっていた。来る日も来る日も、自分たちの体の構造と武器弾薬の使い方を強
制的に学ばされて、そして問答無用でコロニーの外へたたき出されて、ドローン狩りの実地訓練をやらされて。
ふかふかのベッドの上で暖かい毛布にくるまって眠ることも無く、湯気の立つ熱いスープに笑みを浮かべることも無く、毎日毎日、
充電時間以外のすべてをキャリアーとドローンの焼却に充てる日々を繰り返している。
「ちゃっちゃと終わらせてベースへ戻ろうよ」
「そうだね」
砂ゲムリをあげて走っていく電動バギーの単調な音。
彼女達の終わらない旅は続く。
- 52 :
- △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
まぁ、こんな感じ。
笑って許してww
気が向いたら続き書くかも。
じゃ
- 53 :
- GJ!良さげな感じですね。
>ウィルス感染するような遊びをしていなければ・・・・
ってのは、具体的にどんな遊びなのかが、
続きを書く事があれば明かされてゆくことになるのでしょうか。
ただ、もうちょっと科学的考証をしっかりやったほうがいいかなーってのがちょっと残念に思いました。
・人間の遺伝子が保存されるのに使われてるのはRNAでは無くてDNAです。人体においてはRNAはメッセンジャーRNAやトランスファーRNAのような「一時的」な目的に使われます。
・「遺伝子を直接書き換えるウイルス」とは普通のウイルスとどのように異なるのか?という点が気になります。
・「超高周波焼却炉」はきっと電磁波なんだと思いますが、電磁波は普通「周波数」じゃなくて「波長」で表します。だから「超短波焼却炉」となるのではないでしょうか。
・電磁波の紫外線やX線やガンマ線が遺伝子を破壊して危険(=菌に有用)なのは、原子サイズの物体が共鳴しやすい波長だからなので、それより短い波長の電磁波が有効かどうかは不明。(赤外線で暖まるのは同様に分子スケールでの共鳴が起こりやすいからです)
・「ゾンビ化」における、「んでるのに生きてるかのようなカモフラージュ」がどのような状態であるかの、考証に基づく具体的な設定がなされてると説得力がグッと増します。
というところがちょっと気になったところです。
もしよろしければ参考にしてみて下さい。
ちなみに、
・およそ0.01ピコリットルの体液で感染
っていうのは、軽く検証してみた限りではおかしな事は無いみたいです。
- 54 :
- 古代の遺跡を探索していたら、守護者的なサイボーグ娘に捕まるという電波が飛んできた
元ネタはPSP2∞
>>52の流れを止めちまうけど、頑張ってSSにしてみようかと。アリ?
- 55 :
- >>54
いちいち聞くな、そんなこと。
電波の赴くまま、どんどん書いて萌えさせてくれ頼みます。
- 56 :
- 闘うサイボーグ娘は大好物です。
ほのぼの日常系は別腹です。
SSドンと来い!
沢山書いてくれると嬉しい
- 57 :
- >>54
ユーリィ・キューブがサイボーグ娘だったらなーと思ったことが何度あったことか
いやああいう性格が好きな訳じゃなくて、遺跡の守護者が役目を解かれて主人公と行動を共にするという
シュチュエーションが良いんだけど。
- 58 :
- >>54
ムーの白鯨のマドーラがそんな設定だな。
古代の超先進文明によってサイボーグになったんだっけ。
- 59 :
- 髪を後ろで縛り、セーターとシャツをまくり、フロントホックのブラジャーを外すと、世間の標準から見て大きな範疇に入り、なおかつ弾力もある乳房が露わになる。
「お待たせ、竜也ちゃん」
私は今にも泣き出しそうな顔をしている赤ちゃん──先月生まれた息子の竜也ちゃんを抱き寄せ、片方の乳首を小さな口に咥えさせると、竜也ちゃんは口を動かしてお乳を吸い始め、コクンコクンと飲んでいく。
少しして、お乳が出なくなったのか竜也ちゃんの口の動きが止まったら、ほっぺを軽くつまんで乳首から口を外し、反対側を咥えさせると、またお乳を吸ってくる。
やがて両方の乳房から飲み終わり、軽く背中を叩くと、竜也ちゃんの口からケプッと空気が漏れる。
「良し」
私は部屋の片隅にあるベビーベッドに竜也ちゃんを寝かせると、台所へ向かう。
「さてと……」
私はセーターとシャツ、ブラジャーを脱いで椅子に掛ける。
『胸部メンテナンスハッチ・OPEN』
人工義眼の網膜に投影されたコマンドメニューから目的のコマンドを選択すると、プシュッと軽い音を立てて胸が両開きになる。
「今回も良く飲んでるわね」
両乳房のタンクを取り外し、中身がほとんど無くなっているのを確認すると、消毒が済んでいる換えのタンクにミルクを入れ、同じく消毒済みの乳首と一緒に付け替える。
乳房のタンクと乳首の交換を済ませて胸を閉めると、『胸部メンテナンスハッチ・OPEN』の表示が視界から消え、代わりに『乳房内タンク・加熱中』の表示が現れる。
これで何時間か後、竜也ちゃんがまたお乳を欲しがる時には適温で授乳が出来ると言うわけだ。
「ん──こっちも良し」
念のため、手で乳房と乳首を触り、感度も確認していると、
「寒いのに、何て格好してるんだよ、絵里先生」
ブルッと身体を震わせながら、竜也ちゃんの父親──つまり私の夫が入ってくる。
「機械の体は風邪なんて引かないわよ。むしろ冷やした方がちょうど良いの」
そう答えつつも、向こうが見ていて気分的にもっと寒くなると言う事は分かるから、ブラジャーを付け直し、服を着る。
「そう言う剣也君こそ、風邪を引かないように気をつけてね。しっかり働いて、一家の主としての甲斐性付けて貰わなきゃ。私も一緒に稼ぐけど、父親が母親のヒモじゃ、竜也ちゃんが可哀想だし」
剣也君は「分かってるよ」と答えながら、居間に移動する。そうしてベビーベッドの上から剣也君が覗き込むと、父親のお帰りに竜也ちゃんがキャッキャと笑ってくる。
「それにしてもさ、この子は俺にも似てるけど、ちゃんと先生にも似てるんだな」
実の親子なんだから当たり前の事を言うと思うだろうが、剣也君の言いたい事が別にある事はすぐに分かった。
「それはまあ、生身の時と同じじゃないけど、似た姿に作ってあるのよ、この義体は」
服を着終わって、私も居間に入りながら答える。
「こうなる事まで考えて作ったわけじゃないけどね──」
つい口からポロッと続きが出て、
「何か言った?」
振り向く剣也君に、私は「別に」ととぼける。
危ない危ない。
別に今更知られてどうなるとも思わないが、それでも剣也君に知られたくない事というのもあるのだ。
それにしても、本当に『組織』にいた頃は、私がこうなる事なんて想像さえしていなかった。
敵である剣也君に助けられて、一緒に『組織』を相手に戦って、遂には剣也君と結婚して、子供まで産んで、今こうして3人で暮らしてるなんて──
- 60 :
- 当たり前な話だけど、私も最初から機械の体だったわけじゃない。
ちゃんと生身の身体を持ってこの世に生まれてきたし、私を産んだ母がいて、父がいて、そして姉がいた──。
私より2歳年上だった姉は、勉強が出来て、スポーツも複数の部活から助っ人の依頼が来るほどで、何より道ですれ違う人が10人中10人が振り向くだろうと思うほど綺麗な人だった。
けれど、そんな姉を持った妹──勉強は出来ても姉には追いつけず、スポーツは全く駄目、おまけにガリガリの貧相な体型──の立場を考えて欲しい。
どんなに頑張っても追い抜けない、追いつけない姉の存在は、物心ついた時から大きなコンプレックスになって、私にのしかかってきた。
これで能力の違いを鼻に掛けるような高慢な性格だったら憎みようがあったが、姉はいつも私の事を気遣って、「無理しなくていいのよ」と言ってくれた。
両親も姉と私を比べる事はせず、「あなたはあなたなんだから」と言ってきたが、逆に姉との差を意識する事になり、年を経るごとに私は意固地になっていった。
私は姉に対して口をきこうとしなくなり、姉が何を言ってきても私は聞かないふりを続けた。
そうして周囲の声をシャットアウトした私は、自身のアイデンティティーを確立するべく唯一の取り柄である勉強で姉を負かそうと、持てる時間の全てを費やした。
けれど、崩壊の時は何の前触れもなくやって来た。
あれは、私が16歳、姉が18歳。春の足音が日々近づくある日の事だった。
その年大学に合格した姉は、両親と一緒に合格祝いの買い物へ行き、私は当然ながら一緒に行くのを断って勉強に没頭していた。
だがその日の午後、突然警察から電話が掛かってきて、両親と姉が乗った車が交通事故に遭った事を知らされ、私は頭が真っ白になりながらも病院へ急いだ。
けれど私を待っていたのは、霊安室で物言わぬ骸となった家族で、特に姉の遺体は相手の車が衝突した最も近い位置に座っていたために、原形を留めてさえいなかった。
事故の理由が相手側の明らかな不注意だった事も、向こうの運転手もんでいた事も、私にはどうでも良かった。
ただ、私が姉に追いつく事はもう一生無くなってしまった事が、私の中に大きく深い喪失感となって残ってしまったのだ。
なまじ知識があるせいで、それで全てに投げやりになり、無気力になってしまえば、その先の人生はすぐに行き詰まってしまう事が分かってしまったから、投げ出す事も出来なかった。
結局私は、目的を失ったまま勉強という道を進むしかなくなったのだ。
- 61 :
- そうして時は流れ、私は学校の偏差値や教師の薦め、その他諸々に流されるように研究者への道を進み、生体工学の最先端の世界へ入って行った。
けど、社会というのは勉強が出来るイコール優秀とは限らなくて、周りとの協調性や、目上の印象を良くするためのいわゆる要領の良さが重要な場合もあり、研究の世界でもそれは例外ではなかった。
そして、家族とさえ繋がろうとせずに思春期を送った私にまともなコミュニケーション能力が備わっているわけがなかった。
あっという間に周囲から孤立した私だったが、意固地な私は逆に群れなければ何も出来ない低能な連中と他人を見下し、自分一人で実績を上げてやろうと研究に没頭した。
寝食を惜しみ、有形無形の圧力にさらされ、文字通り身を削って私の研究は次第に形を為していき、これで周囲を見返してやると息巻いていた矢先、二度目の崩壊は訪れた。
上層部とそいつらの腰巾着共の裏工作によって私の研究は全て横取りされ、私は無能のレッテルを貼られて研究所を追われる事になったのだ。
私を呼び出した研究所の所長が何を言ってきたかは想像が付くが、恨みと憎しみで一杯だった私の耳には一切入らなかった。
気が付けば私の目の前には血塗れでデスクに突っ伏す所長の姿があり、頭が真っ白になった私は急いでその場から逃げ出し、無我夢中で身を隠した。
とは言え所詮は頭脳しか取り柄のない女一人、普通ならすぐに警察に捕まって、新聞記事の一部になって私の人生は終わっていた事だろう。だがそこへ手を差し伸べる奴らがいた。
それは薬物や機械化で改造した動物や人間、人工臓器や兵器などを世界中の軍隊や金持ちに売る『組織』で、私はその誘いに即座に飛びついた。
表の世界に居場所を失って、他に生きる道がなかったという理由もあったが、何よりその時の私は社会も善悪も、そして人間さえもどうでもよくなっていた。
だから私は表の世界にいた時から進めていた義肢の研究を更に飛躍させ、人間の全身を精巧に模倣した義体を完成させるに当たって、自身の脳を移植させる事に何のためらいもなかった。
そうして私は生体脳を除く全身を機械化したサイボーグになった。
嫌いだった私の生身の肉体を捨てて、
それ以上に嫌いだった姉が成長していたら、こんな大人になっていただろうという姿になって──
- 62 :
- それからしばらくの間は順調だった。
全身義体の技術を完成させた実績もあったけれど、それ以上に『組織』の男達の私を見る目が大きく変わり、好意的に接するようになったのだ。
もっともそれは有能な者に対する尊敬や敬意ではなく、私の外見に対する下心である事は明白だったが、私は不愉快にならなかった。
この美しさが精巧に作られた作り物である事は分かっているくせに、外見だけであっさり態度を変える、馬鹿で単純な奴ら──
私は腹の中で見下しつつも、表面上は彼らに感謝を返し、時には機械化のせいで満たされない食欲の代わりに増大する性欲を満たす相手とした。
そうして姉の似姿を穢す事は、私の人生を歪ませた姉に対する復讐にもなった。
ところが順風満帆の時は永遠には続かなかった。
『組織』が改造用素体として確保した1人の少年が、改造手術の直前に常人の何十倍もの身体能力を発揮する超能力に覚醒し、『組織』の構成員達を片っ端から倒して逃亡したのだ。
幸か不幸か私は別の用事でその事件に立ち会う事がなく、『組織』の方でもすぐに排除できるさして重大ではないイレギュラーとしてその少年──剣也君をみなしていた。
ところが彼は『組織』の差し向けた刺客をことごとく返り討ちにして、その中には私自身が開発に関わった改造人間も含まれていたために、『組織』の中で私の立場が危うくなってきた。
私は起回生のため、彼の能力や動向を探り、機会があれば籠絡、もしくは暗するスパイの任務に自ら志願し、彼の通う高校に保険医として潜り込んだ。
高校でも男達を中心に私は好意的に受け入れられ、どこも人を外見だけで判断するのかと内心呆れ、見下しつつも、私は容姿を鼻に掛けない優しい保険医を演じた。
そうして保険医の仕事の傍ら、私は密かに剣也君の情報を探り、一方で最悪『組織』から粛正が差し向けられた時のために逃走する準備も進め、状況がどう転んでも生き延びられるよう努めた。
けれど私が思っていた以上に『組織』の動きは早かった。
私が離れている間に、『組織』の研究セクション内では私を排除して取って代わろうとするグループが発言力を増し、そいつらがスパイの反逆の危険性を声高に主張したらしい。
そうして私の知らない所で処分を決定した『組織』は、直後に差し向けた刺客の戦闘用サイボーグが剣也君を抹するためのサポートを私に命じ──実際は抹のための捨て石にされるはずだった。
けれど運命は皮肉なもので、他人が使い捨てにされるのを黙って見ていられないと、敵であるはずの剣也君に、私は間一髪の所で助けられたのだ。
家族の敵である『組織』の一員に対して、熱血漢というかお人好しというか、正直私は呆れたが、もはや同じ『組織』の敵となった者同士、剣也君と一緒に戦う事になった。
とは言うものの、最初は利害の一致で繋がっている者としてしか剣也君を見ていなかった。
表面上、私は持てる能力と、『組織』にいた頃から蓄積してきた情報をフル活用して、彼の戦いをサポートしていたけれど、心の中ではある種の諦めを抱いていた。
所詮この子も他の奴らと同じように、私を外見でしか見ていない、あとは私と同じように利害の一致でしか繋がっていないんだ、と──
でも、ある日『組織』のある幹部の作戦で剣也君と分断された私は、向こうの圧倒的な戦闘力の前にまともに太刀打ちできず、私は裏切りの制裁として少しずつ義体を破壊されていった。
剣也君が向こうの敵を倒して助けに来てくれた時には、私は腕をもぎ取られた左の肩口や、身中のあちこちの傷口から機械部品を覗かせ、ちぎれた配線が火花を散らしていた。
もちろん顔も例外ではなく、人工皮膚が半分ほど剥がれて金属製の頭蓋骨と片方の電子義眼が露出している有様だった。
けど剣也君は、そんな無残で醜い姿をさらす私を目の当たりにしても、目を逸らすどころか、その目には嫌悪感を一切見せなかった。
それどころか、「醜い姿でしょう? いくら外見を綺麗に作ったってそれが裏切り者のスパイ人形の本当の姿よ」とせせら笑う『組織』の女幹部に対し、
「てめえのその心の方がよっぽど醜いよ」
そう怒りも露わに、既に一仕事済ませて疲労とダメージが残る身体にも関わらず、剣也君は敵を打ち倒した。
それでも女幹部の言葉に、自分の身体が機械、作り物である事を再認識させられ、心を抉られた私に、剣也君は言ってくれた。
「生身でも機械でも関係ない。自分の心が、意志がある限り、先生は人間だ」
その言葉を聞いた時、私は嬉しかった。
そして、剣也君と身体はもちろん、心も繋がりたいと思った。
それは紛れもない、初恋だった──
- 63 :
- それから後の『組織』との戦いは、私にしてみればおまけのようなものだ。
『組織』はその後も刺客を送り続けてきたが、ことごとく剣也君が返り討ちにして、その傍らには常に私がサポートとして付いていた。
そのうち敵の勢いが落ち始めたのを見て取った私達は攻撃に転じ、『組織』の拠点を1つ1つ潰していき、遂には最後の基地を潰して『組織』のトップも倒した。
『組織』が壊滅した後も、剣也君と私は残党を相手に戦ってきたが、それもすぐに終わりが見えてきて、私はある恐怖を抱いた。
このまま『組織』がなくなったら、私と剣也君を繋ぐものが無くなってしまう──
だから私は剣也君が高校を卒業する日を前に、『組織』が研究していた人工子宮を完成させて身体に増設し、『最後のセックス』で剣也君との子供を妊娠させた。いわゆる既成事実作りというやつだ。
けど、そんな事をするまでもなく、剣也君はずっと前から私の事を好きでいてくれたらしかった。
それを知った時、私は剣也君と、心から繋がったのだと感じた。
剣也君は自分の心と意志を持っている事が人間の条件だと言ったけれど、私の考えは少し違う。
自分の心と意志を持たずに生きる者は、例え生身の身体だったとしても『人形』でしかなく、心と意志を持つ事で『人』になる。
そして他人と関係を持ち、繋がる事で『人』は『人間』になる。
そう言う意味では、私はあの日、初めて『人間』になれたのだった──。
その後私達は、当初は『組織』からの逃走用に準備していたルートを使って今の場所に落ち着くと、そこで竜也ちゃんを出産した。
とは言っても全てが順調だったわけじゃない。
最初は私の臍から直接人工子宮に栄養を供給していたのだが、予定通りに成長せず、食べ物からの栄養でないと駄目なんじゃないかと言う剣也君の意見で、口から摂取した食べ物から栄養を抽出して人工子宮に送るように改造した。
だとしたらちゃんとした味がしないと胎教に悪いんじゃないかと思い、剣也君にも手伝って貰って、味覚のセンサーも作った。
それらを全部ひっくるめてたった数ヶ月で完成させてしまうなんて、我ながら驚異的な速さと言える。いわゆる愛の力というやつかしら?
- 64 :
- 「ねえ剣也君、私の事、『組織』のスパイだって知る前から好きだったって言ったわよね。それってやっぱり理由は顔?」
ちょっと意地悪な質問をする私に、剣也君は「ん〜」と困った顔をして、
「それもあったけど、何て言うのかな? どこか寂しそうに見えたんだよな」
「寂しそう、ね……」
昔なら鼻で笑っていた所だが、今は何となく納得できる。
昔は満たされない食欲の代わりに性欲が増大していると思っていたが、剣也君と結婚して、竜也ちゃんがお腹の中にいた間、私はセックスをする気が昔のように起きなくなっていた。
もしかしたら、他人との繋がりを拒絶しているつもりでも、心のどこかでは他人と繋がっていたいと思っていて、それがセックスしたいという欲望になって吹き出していたのかも知れない。
私は戸棚の上から鏡を取って見る。
(ねえ姉さん、姉さんの顔を勝手に私の顔にした事、やっぱり怒ってる?)
鏡に映る姉の顔に向けて、私は心の中で問い掛ける。
剣也君と出会う前は、天国とか地獄なんて信じてなかったけど、今は違う。
『信じる』というよりは、『あって欲しいと思っている』という方が正しいけど。
機械の体でも、脳が生身である以上、いつかは私にもが訪れる。
でもその後も多分先にんでいるだろう剣也君と一緒にいたいから、多分彼は天国行きだろうから私も天国へ行きたい。
それに、両親と姉にも、ちゃんと正面から向かい合って謝りたい。
あの時は意固地になってごめんね、と。
姉さんの姿で色々悪い事をやってごめんね、と。
そのためにも、『組織』にいた時やそれ以前に犯した罪をきちんと償って、更にそれ以上に沢山良い事をしなくちゃいけないと思う。
とは言っても──
「ねえ剣也君」
後ろから剣也君を抱き締めて、
「久しぶりに、しましょう」
甘えた声で私が誘うと、
「おいおい、俺は仕事から帰ったばかりで疲れてるんだから勘弁してよ、先生」
困ったように剣也君は答えるが、私は片方の腕を下から剣也君の方へ回し、
「そう言ってる割には、こっちは元気じゃない。身体は正直ね」
剣也君の膨らんだ股間を撫で回して私は言う。
「待てよ、竜也が──」
「今ミルクをあげたばかりだから、1時間は軽く大丈夫よ。どうせお風呂に入るんだからその前に、ね──」
私は剣也君の前に回り、彼の口を私の口で塞いで抗議の声を封じ、その勢いで床に押し倒した。
剣也君と竜也ちゃん──新しく出来た家族のおかげで、私は人間でいられる。
それには生身の部分がいくら残っているかなんて関係ない。
とは言え昔ほど激しく求めないものの、やっぱりセックスはやめられない。
もちろん今の私の身体は剣也君専用、だけどね──
終
- 65 :
- こんばんは、前スレで「卒業・保健室にて」を掲載した者です。
今回は前作から約1年後、絵里先生視点で書いてみました。
前回と比べてエッチ要素は少なく、心理描写に重点を置いてみましたが、いかがなものでしょうか?
- 66 :
- くそぅ末永く爆発するがよい
- 67 :
- 萌えも掴みながら、ストーリーもしっかりしているから感情移入しやすくて、イイネ
GJ
- 68 :
- ここで余り見られない艶な官能表現とか、とてもよかったです。
- 69 :
- 乙〜
- 70 :
- >>46の続きを書いてみました。あれこれと話しを転がしています。
次くらいで終わりますので、もうちょっとお付き合いください。
これを含め12レスを予定しています。
- 71 :
- 電話ボックスより一回り小さな箱が部屋の中で異彩を放っている。
唐突に運び込まれたその箱は、これから彼女の安住の地になるはずだと言う。
訝しがる彼女を横目に、東亞重工のツナギを着たスタッフがテキパキと組み立てて行くのだが。
まだむき出しの機械部分を見られたくない彼女の落ち着かない様子など眼中に無く、気が付けば窓一つ無い箱が完成していた。
「では、納品を終ります。ネゴシェーションは佐川さんの方でお願いしますね」
じゃ。
一言で言えばそんな感じだ。彼女の事は一切関知せずと言った様子で、スタッフ達は部屋を出て行った。
無視されたらされたで少々機嫌も悪く成ろうかと言うもの。年頃の乙女心は何かと傷つきやすいのだ。
だが、そんな彼女の意向など頭から無視するように、センターの女性スタッフが部屋にやってきた。
「さて、少々驚いたと思いますが……」
制御内科のお医者さんがやってきて、心の準備も無いままに説明を始めた。
はじめて見る人だなぁ……
ちょっと警戒しているのだけど、スタッフは余り気に留めてないようだ。
「これは通常動力型サイボーグ向けの保安装置付きクレードル。意味の説明は要らないよね。携帯の充電スタン
ドをクレードルって言うでしょ?そもそものクレードルってのは揺りかごって意味なんだけど、これはもうその
まんまの意味で、サイボーグ向けに作られた揺りかごです。バッテリの残量が乏しい状態の時に充電中モードへ
陥ると自分の意思じゃ動けなくなるでしょ?その時の為の、いわば逃げ込み先って意味もあるしね。そしてもう
一つ重要な機能があって……まぁ、それはこれから調整しつつ説明するけどね」
スタッフに手招きされてその箱へと近づいた彼女は、半ば強制的に上着を脱がされた。
まだ鈍い光を反射する機械の身体なのだけど、だいぶそれにも慣れてきた頃合とも言える。
それゆえだろうか。余り面識の無い人にこの姿を見せるのが少々恥ずかしい。
機械である姿が恥ずかしいのではなく、年頃の女の子が裸を見せるのと同じ理由……
「あぁ、ゴメンゴメン。だけど、私は年間200件位こういう仕事してるから、余り気にしないで」
スタッフが妙な笑い方をしつつ、箱の脇に立って小さなボタンを押した。
「私がこのハッチを開けられるのはあと3回だけね。4回目からはあなた以外開ける事すら出来なくなる」
シューっとエアシリンダーの伸びる音が聞こえて、観音開き状になったハッチが開いた。
中には高級な革張りの椅子が一基だけ備え付けてある。
ヘッドレスト部分には様々な接続端子があり、彼女の知識にある全てのコネクターが備え付けられていた。
その箱の右手には、100ボルトと200ボルトの給電コンセントがあり、急速充電対応型なのが見て取れる。
反対側の左手には透明なパイプの先端に逆止弁の付いた水物補給のホースが3種類用意されている。
「見れば意味は分かるよね?この中に入ってあなたが補給を受けている間、この箱があなたの安全を担保する」
彼女は再びちょいちょいと手招きされた。
入ってみろと言わんばかりに招かれたので、言われるとおりに中へと入ると、なんとも不思議な視界。
妙な感動と言うか『自分が機械になった』のを妙な部分で実感する。
しかし、そんな感情を他所に、スタッフは彼女の左右わき腹にある整備ハッチを唐突に開け始めた。
「こっち側は給電スポット。通常充電なら6時間半、200なら3時間ほどで空っぽのバッテリーが満タンよ」
スタッフは勝手に100ボルトのコンセントを接続し始めた。視界の中に給電中を示すピクトサインが現れる。
ただ、仮にも17歳の夢見る乙女(?)で有るからして、勝手に身体を触られるのはあまり良い気がしない。
しかもまるで、家電製品のコンセントを無造作に差し込むように扱われているのだ。
人扱いされてないと言うのは、実は地味にショックなのだけど……
「こっち側は見て分かるとおりの生理補給と排出よ。上から生理食塩水、ブドウ糖溶液、ドレン排出パイプ」
- 72 :
- 彼女のような全身サイボーグとて、脳と周辺の細胞は生身なのだから栄養が必要になる。
その為に補給するのが生理食塩水とブドウ糖溶液。
高分子構成体で作られた人工心臓で脳内へ送り込まれる人工血液の機能保全の為には生理食塩水が必要だ。
人工血液や脳液などは定期的なオーバーホールで新品に交換される。
しかし、ある程度運び出される老廃物の不活性化にはそれなりの手順が必要だ。
一定のペースで溜まっていく生理的な『ゴミ』はドレン排出と言う形で体外廃棄されるようになっている。
今までは通常型ベッドの上でナース姿のスタッフが手を貸してくれていた。
だけど、そろそろこの程度のメンテナンスは自分で出来なくてはならない。
そうでなければ義体使用免許は交付されないし、彼女自身がここから飛び立つ事も出来ないと言うことだ。
「次の段階だけど、これも、もう分かるよね?」
スタッフが彼女の首裏辺りへ幾つかのコネクターを差し込んだ。
全く無造作にポンポンと差し込まれたので、一瞬背筋がゾクッとした。
彼女の視界に有線接続のマークが浮かぶのだけど、それより、不快感の方が大きい。
ちょっと不機嫌っぽい表情を浮かべたのだけど、スタッフは全く持って意に介してなかった。
「ちょっと待ってね。今システムを起動させるから」
スタッフが持っていたタブレットPCを起動させると、彼女の視界へ一斉様々な情報が浮かび上がった。
それと同時に制御用のソフトが『注ぎ込まれる』のを彼女自身が感じている。
かなり大きなソフトなのだけど、有線接続時の高速転送はストレスらしき物を一切感じない優れものだ。
ただし、家電製品か工業製品みたいに扱われている気分の悪さだけは如何ともしがたい。
ここに居る限りは全く持ってその通りの扱いである事など、とっくに承知しているつもりだったのだが……
「接続IDが表示されているかな?」
「……はい。見えています」
何処か不機嫌そうに応えた。だけどやっぱり意に介してないようだ。
「ちょっと集中して」
いや、分かってるのかな?少しそんな気にもなる。
集中を促された以上は頑張るべきなのだろう。
彼女は視界に浮かぶ数字の文字列に意識を注ぎ込んだ。
0049-3540-4351-2219-0113
「最初の四桁0049は日本の国番号。サイボーグの国籍。次の四桁3540は佐川精密の企業識別番号、そして」
「4351は私のこの身体ですね?」
「そう。空気作動型4000シリーズ。3は内部バッテリー充電駆動型。5はバッテリー容量種別。1は女性型」
「最後の8桁は私の人格識別IDですよね?」
「その通り!まぁ、サイボーグが2000万人も居る訳じゃないけどね」
視界の中の数列が鈍く点滅を始めた。
「問題なければ視界の中の『次へ』ってボタンを押して」
「はい」
視界の中のカーソルを押してやると、画面の中に幾つかの画像が浮かんだ。
円や三角、四角と言った単純な図形の画像たち。
「その画像のうち、最初は三角を選んでいて。その画像は自分の意思で差し替えられるから」
「あそっか、そうすれば正解は自分しか分からないって訳ですね」
「飲み込み良いわねぇ!優秀な生徒さんは好きよ。男も女も」
- 73 :
- そう言いつつ、スタッフが箱の内側にあるボタンを押した。
もう一度シューと音を立てて箱の扉が閉まった。
僅かに見える隙間の向こうで手を振るスタッフが見えた。
箱の中にうっすらと明かりが燈っていて、彼女の軽金属の身体がぼんやりと光っていた。
「今度はあなたの脳へ直接話しかけている。聞こえる?」
「はい」
「これから視界の中にダイアログが出るから。ウィザード方式なんで、そのまま手続きして」
「わかりました」
一瞬視界が瞬き、その直後にダイアログボックスが現れた。
先ほどの数列をポチポチと入力すると、今度は複数画像選択方式のパスワード。
全て入力すると本人認証確認の文字と共に、桜ヶ丘へ行きますか?との表示が現れた。
「これは……?」
「あれ?まだ行ってない?ウチのSNS」
「あ、一度だけ見た事がありますけど」
「じゃぁ心配ないね。とりあえず行ってみれば分かるよ。切り替え自体は25mm秒で終わるから」
「切り替え?」
「そう。切り替え。あなたの脳が感じる情報を義体信号から仮想空間信号へ切り替えるのよ」
「つまりSNSへ入るわけですね」
「その通り!今からストロボが光るけど、3回目で切り替え完了よ。後は好きに動いて良し!」
え?なに?どう言う事?
事態を飲み込めないままに、唐突なストロボの光。
1秒おき程度の感覚で3回光った。
3回目の光を感じた直後、視界の中の様々なデータ表示が全部消えた。
そして、急に身体全部がズシッと重くなったような感じがした。
生身の身体に戻ったような錯覚。
「あれ?この後どうするんですか?」
だけど、何の返答も無い。
どうしたもんかなぁと考えていたのだけど、それより興味の方が勝ったようだ。
正面にある扉をぐいと押したら、あっけなくパタンと開いた。
まるで隠れん坊の最中に飛び込んだ洋服タンスの中の様な気分だ。
椅子から立ち上がって箱から出てみると、なんとも不思議な部屋の中だった。
大き目のベッドと壁に備え付けのテーブルと、その向こうにあるユニットバスの付いたトイレ。
壁には大きな窓が一つあり、部屋の中にはシンプルな明かりが燈っている。
部屋の出口脇にはカードキーの刺さったセキュリティスイッチ。
なんか、どこかで見たようなビジネスホテルのシングルルームみたいな部屋。
振り返ると、例の箱が扉を開けたままでそこにあった。
―― 好きに動いて良し!
その言葉を思い出し、勇気を出して部屋の扉を開けてみた。
やはり、どこかのビジネスホテルのような建物だ。
そしてそれは彼女が普段生活していた建物に似ていた。
意を決し部屋を出て廊下を歩くとエレベーターが有った。無意識にカードキーを抜き取っていた。
とりあえずフロントの文字が見えるフロアのボタンを押して下の階へと降りて行くのだが。
『お出かけ時には携帯電話を忘れずに!お持ちでないお客様はフロントまで!』
エレベーターの中の掲示板には大きめの文字で書かれた注意書きがあった。
え?携帯?こっちに持ってこれるの?ちょっと不思議を通り越している。
- 74 :
- そんなこんなでモタモタしている内に、エレベーターの扉が開いた。
ドアの真正面にはホテルのフロント状態になっているカウンターがあった。
「おぉ、来た来た。待ってたよぉ〜♪」
さっきまで『現実世界』に居たはずの女性スタッフが黒のスーツ姿で椅子に腰掛けていた。
「これを忘れずに持って行って。と言っても、その格好じゃマズイわねぇ いけてない!」
はい!と渡されたスマホ状の携帯電話を受け取りつつ、大きな姿見で自分を眺める。
リハビリセンターで機械部分を隠す為に着ているフードの付いたガウンを裸の上に羽織っている姿。
さすがにちょっと恥ずかしくなったけど、でも、どうすれば……
「アプリが色々と入っているけど、重要なのは通話機能と、ここからログアウトする為のアプリ」
彼女の戸惑いを全く気にせず、スタッフは説明を再開した。
勝手にスマホの表示面を生身の指で触ると、画面が出てきた。
上から覗き込んでぽちぽちと操作を始めているのだが。
「通話機能はこの世界の管理者と話をする為のもの。まぁ、色々と呼び出されることも有るけどね」
スタッフの指がソフトを起動させる。
すると画面にオペレーターの文字が浮かび『もしもし〜』と気の抜けた声。
「あ〜ホテルカリフォルニャーです。今から法務局へ仮登録の方を送り出します。あとよろしく」
『はい、了解しました。では何かありましたら呼んでください。じゃぁ』
ガチャ…… ツーッ ツーッ ツーッ ……
「道に迷ったり変なのに声掛けられたり、あと、プログラムの範囲外へ落ちそうになったら電話する。いいね?」
「あ、はい」
「意味分からなくても方法は覚えておく。あとで役に立つ。そんな感じよ」
スタッフの指が違うソフトを起動した。
「こっちはログアウト用アプリ。外部から、つまりリアル世界の方であなたに用が出来たとか、或いはあなた自
身に用が発生した場合、このソフトを使って仮想世界からログアウトする。ほら、起動画面が出た」
画面にログアウトマネージャーの文字が表示されている。
今現在、仮想空間のどこにいるのか?と、リアルのほうでの義体状態が表示されている。
電源充電量とフル充電までの推定予想時間。それと、各種消耗品などの補給やドレン排出のデータ。
それだけじゃなく、リアル世界の方の状況。気温や天候や時間など。片隅にニュースの文字もあった。
「ソフトのメニューにログアウトと言うのがあるから、それを押すとリアル世界へ戻れるの。やってみる?」
「はい、じゃぁとりあえず」
指で操作するとメニューバーからログアウトの文字が出てきた。
そっとタッチしてみると、ログアウトまで10秒の文字。
「この10秒の間に色々出来る。恋人と最後の生キスしたり。案外長いモンよ?最後に心の準備をして……
一瞬パッと世界が白く染まった。そして視界の中に様々な情報表示が浮かんだ。
再び薄暗い箱の中にいるのが分かった。
どうやって開けるんだろう?と思ったけど、真正面に『開く』と言うボタンを見つけた。
カチャ
無意識にボタンへ触れたら機械的な音を残して鍵が開いたようだ。
その後で再び空気シリンダーの作動音が響く。ゆっくりと開いたドアの向こうにさっきのスタッフ。
- 75 :
- 「あれ?先に戻ってこられたんですか?」
「ん?あ、あぁ、あっちのか。あっちのはここでアクセスしてたの。私は1級オペレーターの資格持ちだからね」
首筋に幾つもケーブルを刺したままのスタッフが笑っている。
ケーブルの先は箱の外にある小さな扉の中だ。
「完全に無防備になるのは電源切って補給中の間だけ。なれてくればこんな芸当も可能になるのよ」
つまり、この人もサイボーグだ……
彼女が不快感を覚えていた行為の殆んどが、むしろスタッフには自然なことなんだと気が付いた。
「まぁ、良くある笑い話よ。飛行機に乗る時に、自分の身体を手荷物扱いにしちゃうとか」
ヘラヘラと笑う姿が、かなりのベテランぶりを発揮していた。
だけど、やっぱり、あまり良い気分じゃない。
「移動中はあっちでひたすら仕事してるとかね……」
「飛行機に乗ってる時とかでも通信できるんですか?」
「あ、そうじゃなくて、スタンドアロンの仮想空間があるのよ。通称『引き篭もりルーム』っての」
アハハと無邪気に笑っているのだけど、目が笑っていない。
そうか。サイボーグって目が笑わないんだ。変なところに気が付いて苦笑いだ。
「身体の方の補給が終わってないからもう一度あっちへ行こうか。今日はパレフェスだし」
「パレフェス?」
「そう。まぁ、見れば分かるよ」
もう一度さっきと同じ手続きをして仮想空間へとログインした。
同じ様にフロントへ行くと、今度はさっきのスタッフが佐川精密のつなぎ姿で待っていた。
「衣装選ぼうか?」
「衣装?」
「そう。パレードはみんなが主役だから」
おいでおいでされて付いて行くと、ホテルのような施設の奥にある衣装室へと案内された。
アニメに出てくるヒロインみたいな衣装から、レオタードやら、ちょっとエッチなものやら。
これ、どこに布が付いてるの?と聞きたくなるような、ほぼ紐しかない物まで。
「デビュー戦は目立つの重視よねぇ〜♪」
アレコレと物色している間に、彼女はふと部屋の隅にあった棚へ目をやった。
どこにでもあるような、デニムのパンツと、あまり色気の無いブラウス。
ちょっと色の濃いカーディガンを羽織って出来上がり。
「それで良いの?」
「ダメですか?」
「……デビュー戦にしては地味ね」
意味が分からぬままホテルを一歩出る。
すると、目の前の大通りには夜店屋台や趣向を凝らした見世物や、練り歩きの仮装行列が続いている。
どこからか賑やかな音がして、振り返ると大きな山車がゴロゴロと通過して行く。
山車の横には大きなディスプレーがあって、どこで何をやっているのか?が表示されていた。
「今日はこのSNSのお祭の日なのよ。この日にあわせて色んなものがデビューするの」
「色んなものって?」
「例えば新しい食品のメニューとかサイボーグだと難しいアトラクションとか」
「・・・・そうなんですか。たしかにそれじゃぁお祭り騒ぎですね」
「でしょ。そして、もう一つ。SNSにログインするようになった新人もこの日にデビューよ」
「ど…… どうやって?」
- 76 :
- スタッフがニヤリと笑う。
今度は目まで笑っている。
笑顔ってこうじゃないと変だなと気が付く。
「この通りを突き当りまで行くとお城が有るから、そこへ行けば後は分かる筈」
唐突に背中をドンと叩かれて通りへ押し出された。
ホテルの玄関の自動ドアがスーッと閉まる。
そのガラスの向こうでスタッフが手を振っていた。
―― この通りを……
彼女が飛び出たのは、まるでどこかの街の歩行者天国。
たくさんの人々が趣向を凝らした格好で歩いていた。
「お嬢ちゃん!君は今日デビューだね?」
全く知らないおじさんが、小汚い浪人姿で歩いている。
無精ひげを伸ばし、ボサボサ頭をだらしなく紐で縛った姿。
「俺はさぁ こっちへ来ると、ひげを剃るのが楽しみでさぁ」
懐に突っ込んでいた手が出てくると、そこには電動シェーバーがあった。
ジョリジョリジョリジョリ………
「生身だった頃はひげ剃りながら考え事していたんだよ。その頃を思い出すんだ」
独り言とも語りかけとも付かない言葉を残して、おじさんはどこかへ歩み去っていった。
辺りをよく観察すれば、ここに居る人々は皆、現実世界の機械の身体では出来ない事をしている。
ひげ剃りだとか、あるいは爪切りだとか。
そういった生理現象の物理対処こそが生を実感する事なんじゃ無いか?と。
ふと、そんな事を思う。
フラフラと通りを歩きながら屋台を覗き、匂いに釣られて次々とウィンドショッピング。
「おいしそう……」
ぼそっと呟いた自分の言葉にビックリする。
『食べたい』だなんて感情は、この半年位すっかり忘れていた。
そもそも、食べると言う行為自体が無縁の事になってしまったのだ。
「お嬢ちゃん?食べてくかい?」
威勢の良い売り子の声に、ちょっと下がって生笑い。
お金持ってないから買えません……そう言いたいけど。
「金なんかいらねーよ!ほら!持ってきな!」
ポンと渡されたのは焼きたてのお好み焼き。立ち上る湯気の香りが鼻空をくすぐる。
ソースの香り立つお好み焼きを二つ折りにして紙袋に挟んで、その隙間にはマヨネーズと青海苔。
おもわず生唾を飲み込む……
「そうか お嬢ちゃん今日がデビューか じゃぁしょーがねーな」
くるくると焼き鏝のへらを回しながら、焼き台の向こうでおじさんが笑ってる。
「ほれ、冷めねーうちに噛み付きな!うちのはうめーぞ!」
一口食べてみる。口の中には独特のソースの香り。マヨネーズのコク。青海苔のフレーバー。
なにより、舌の上に広がる『熱さ』と『香ばしさ』が刺激的だ。
- 77 :
- 「おいしい!」
「んだろぉ! ほれ、もう一枚持ってきな!」
ポンと手渡されてどうしようかと戸惑っていると、向かいのラムネ屋で手招きする人影が見えた。
「おーい! こっちにもおいでよ」
お好み焼き屋のオヤジさんにお礼を言ってからラムネ屋へと行ってみる。
でっかい氷の中に突き刺さったラムネのビンがキンキンに冷えてそうでおいしそうだ。
「一本飲んでくかい?ほら」
ポンッ!と蓋を潰して泡の漏れるラムネを貰って、そのまま一気に口を突けた。
喉を通る冷たいラムネの味がしみて行く様だ。鼻を通り抜ける香りに自然と笑顔になる。
「今日はお金の要らない日だよ。新人歓迎デーって言ってね。月に一回ある新人デビューの日だ」
「お金が要らないって……」
「聞いたとおりだよ。どうせここは仮想空間だ。その気になればなんでも用意できる。それに」
ラムネ屋のオヤジさんが指差した先には、暮れ行く空に聳える大きなお城が見えた。
「あそこが法務局。通称お城と呼ばれ取るがね。あそこで登録して住人になるまではお客さんだ」
「住人ってなんですか?」
「この世界に住人登録して市民になることだ。アカウントを作るのを住人登録って言うんだよ」
お好み焼きとラムネのビンを持ったまま、彼女はお城を見上げている。
「お客さんは飲み食い自由!それがお祭りの日の掟だ。そもそも一番最初はね」
得意げになって話をしているオヤジが急に黙った。
あれ?っと思って振り返ると、見上げるような体躯の警察官が立っていた。
「続きは本官が説明いたしましょう。よろしいですか?」
あれ?何処かで見たな……
間違いなくこの人見た事があるな……
誰だっけ……
「まだ思い出さない?」
「あの…… どこでお会いしましたっけ?」
「冷たいなぁ ほら 良く思いだしてよ」
「……すいません」
全く思い出せないで居るのだけど、見上げるほどの警察官がやおら目の前で逆立ちになった。
そのまま腕立て伏せを初めて、そしてニコッと笑った。
「ジャイロセンサーの調整はちゃんと出来た?」
「あぁ! わかった!」
「思い出してくれた?」
「はい!」
そうだ。
一番最初に目を覚まして、何も分からないままベッドの上で寝転がっていた頃だ。
まだ全くと言って良いほど身体を動かせなくて、一番最初の動作ソフトの使い方を学んでいた頃。
リハビリ室で不可抗力で抱きしめてくれた……
「久しぶりです」
「良かった。思い出してくれたか」
- 78 :
- 「でも、どうしてここが?」
「今日はデビューの日だから、そこらをウロウロしていれば見つかると思っていたんだよ」
「ありがとうございます。でも、なんで?」
「だってほら。デートしようって約束したから」
力強くサムアップしてニッと笑う彼。
周りのオヤジ衆がぞろぞろと集まってくる。
「おいおい!ゆーと!先にお城だろ?」
「そうだ!先に住民登録だ」
「モタモタしてっと!強制ログアウトだぞ?」
さて。どうしたものか?
「あっ あの。 とりあえず」
「そうだな!とりあえず」
「とりあえず?」
「逃げよう!」
「え?」
唐突に腕をつかまれて引っぱられた。
急加速したGに引っぱられてお好み焼きとラムネのビンが地面に落ちた。
だけど、彼は全く意に介さず走り始めた。どこをどう走ったのか分からない。
ただただ、強く手を握られ、そのまま引っぱられて走った。
胸が痛くなるほど心臓が早鐘を打ち、弾けるほどのビートを刻む鼓動を感じた。
大通りを横切り、小さなバス停の前を駆け抜け、建ち並ぶ商店と商店の間の細い道を駆け上がる。
彼女がふと見上げた先には、こんもりと茂る小高い丘。古い石畳の階段が続いていて、所々に街灯が燈る。
刹那、手を引く彼の力がグンと一段強くなった。
坂道を引っぱられるようにして上がっていった先には、笑い顔の狐像が並ぶ神社の境内だった。
ハァハァハァ……
彼女は肩で息をしている。
しかし、手を握って走っていた筈の彼は、全く息が乱れていなかった。
「……君がいま吸ってるのは酸素?」
あ!このセリフは映画で見た!
と同時に、意味がわかった。
乱れていた息がすっと収まる。
そして苦笑い。
サイボーグに呼吸は必要ない。
仮想空間じゃ酸欠の心配は無い。
「凄い静か……」
「だろ?」
静まり返った深い森。
どこまでも続くような木立の向こうに何かの気配がする。
「何が居るの?」
「うーん…… 猿とか鹿とか熊とか」
「くま?」
「そう。熊」
思わずジッと森の奥を凝視してしまうのだけど……
- 79 :
- 「あぁ。心配ないよ。教われる事は100%どころか1000%無い」
「あ、そっか。仮想空間だから」
「そうそう。走って行って飛び蹴りくれても大丈夫」
二人してゲラゲラと笑う。
心から笑って笑って。
そして、沈黙。
黙って見詰め合う……
「どうしてこんなことしたんですか?」
「それってどう言う意味?」
「まるで誘拐されたみたい」
「誘拐は失礼だろ。誘拐は。興味わいた女の子がこっち来るの待ってたんだ」
「待ってたんですか?」
「そう。だって名前知らないしID分からないしメルアドも携番も知らないし。だからパレードを待ってた」
真っ直ぐ目を見て正面から口説かれている。
そんな気持ちよさに身悶えるほどだ。
「誰かに見られてますよ?」
「そうだね。きっとシスオペが見てるし、センターのスタッフも大慌てで領域を探してるよ」
「しすおぺ?」
「そう。システムオペレーター。このネットワークの管理人。センターのスタッフとは別に居るんだ」
「……偉い人なんですね」
「そうだね。ある意味えらいね。えらい事ばかり経験してるって意味で」
再び二人してゲラゲラと笑った。
「だってさ。この仮想空間じゃ何でも出来るんだよ。逆に言えば誰かが常に調整してるんだ」
「そうですよね。自動化されてるわけじゃないって聞いてますし」
「と言う事はだよ?どこかで恋人同士がこっそりデートしてて」
「うん」
「その二人が良い空気になっちゃって」
「うん」
「そこで突然男が女の服を脱がせ始めた!とかになった場合」
「……あ、そうか。常に見られてるんですね」
「そう。逆に言うと手出しできない所で見せ付けられて我慢してるんだよ」
ジーっと見つめあう一瞬。
彼女の顔が僅かに赤くなった。
「いま、シスオペがそう調整したよ。どっかで見てるな」
「自分じゃ気が付かなかったですけど……」
「普通は気が付かないよ。自然の摂理って奴だね」
「シスオペさんも……」
「も?」
「人間ですか?」
「知らない」
アハハハと口を開いて笑う。
だけど、その意味を理解していない訳じゃない。
完全に動けなくなった人や、自立した意思を示せなくなった人など。
つまり『ほぼ人間を辞めた人』などの脳が再利用されている可能性を否定できないから……
「俺、雄斗。田辺雄斗。仲間からはユートって呼ばれてる。だからユートと呼んでくれ」
「ゆーと……」
「そう。ユートだ」
- 80 :
- 雄斗はどこか少年のように悪戯っぽく笑った。
これから始まるハプニングを期待してニヤニヤする少年のような笑み。
新しい宝物を見つけて無邪気に笑う子供のような笑み。
雄斗の前には今、その新しい宝物がある。
「……弥生です。渋谷弥生」
「やよいか。綺麗な名前だね。3月生まれ?」
「保護されたのが3月だったから弥生なんです」
「……え?保護?」
「うん」
彼女の……弥生の表情が、まるで雲の落とす陰の様にスーッと曇った。
まるでんだ魚の目のように、無表情になって瞬きすら無くなって。
そして。
「渋谷駅のコインロッカーから生まれたんです。お母さんは結局最後まで分からなかったの。遺伝学的には
平均的日本人だって言われたけど、父親だと名乗り出た人はロシア人系の北海道の人だった」
「……えっと、なんだっけ…… そうだ。コインロッカーベイビーっての?」
「そうです」
重い沈黙。
10秒か20秒か分からないけど、でも、痛いほどの沈黙。
だが、弥生が悲しそうな表情で雄斗を見上げた瞬間だった。
雄斗は突然に弥生を抱きしめて、後ろ手に頭を押さえつけ、そっと上を向かせた。
そしてそのまま……
「キスして良い?」
「・・・・・・・・・・!」
強引に唇を重ねた。
強く強く吸い込むようにして。
「まだ良いって言ってないのに!」
「否定しなかったから良いもんだと思った。だめ?」
「もう!」
弥生の眦から涙がこぼれた。
涙がこぼれながら、弥生が笑った。
「1年ぶりぐらいに泣いちゃった」
「もしかして泣き虫系?」
「涙腺弱いの」
もう一度ギュッと弥生を抱きしめた雄斗。
それほど身長差があるわけではないが、それでも雄斗の頬は弥生の頭にちょうど言い高さだ。
「サイボーグは泣かないよ。泣けないんじゃない。泣かないんだ。でも、こっちに来たら泣けば良いよ」
「また呼んでくれる?」
「名前が分かったから、今度は呼び出すよ。」
「うん」
弥生の手を取ってぎゅっと握って。
雄斗がちょっと恥ずかしそうにしながら、でも、真っ直ぐに見つめている。
「そろそろ強制ログアウトされるよ」
「強制?」
「そう。シスオペと一緒にスタッフが見てるはずだ。現実世界へ引き戻される」
「そうですね。だけど、仕方ないです。困る人も居るでしょうから」
- 81 :
- 何処か達観したような弥生の笑み。
雄斗は弥生の波乱に満ちた人生を感じた。
「また誘拐デートしよう。今度は正規ルートでちょ……
最後の言葉が半分くらいノイズで消えかかっていた。
幽霊のように消え行く姿の弥生が、ゆっくりと頷きながら消えていった。
−終−
- 82 :
- GJ!です
- 83 :
- サイボーグは目が笑わないというのがいいな。
なるほどそうかと思わせる。
- 84 :
- 家電製品のように扱われるって部分も教育の一環なんだな
妙な部分が生々しくて良いね!
投下乙でした。弥生に幸多からんことを。
- 85 :
- 実際には、多分何をさしおいてもまず笑顔だけは作れるように技術が発展しそうな気はするけれど
特に目のまわりとか
でもまあ話としては面白い.
- 86 :
- ところでこのスレ的にサイボーグ男子はあり?なし?
ちょっとひねってサイボーグ男の娘ならOK?
某所の画像を見たら強めの電波が降ってきたんで短編書きたいw
- 87 :
- サイボーグ「娘」スレだから、男子のサイボーグはどうしても脇役扱いされそうだな
あとサイボーグ男子が主人公だと、萌えよりも燃えを重視したガチバトル系って感じがする
- 88 :
- せっかくなんだから載せてみればいいんじゃないかな。
- 89 :
- サイボーグで男の娘の場合は性転換に当るのかな?w
それはそうと、サイボーグ男子のガチバトル系とかも、読んでみたい気はする。
お色気要員じゃなくて十分戦力になるヒロインサイボーグ込みとかだと尚宜しい!
期待してるよん。
- 90 :
- 男が苦手な人も居るから、名前欄か何かでちゃんと区別できるようにだけしてくれればと。
- 91 :
- サイボーグの男と言うととりあえず浮かぶのが
ドワォなヤクザウェポン野郎にナチスの科学は世界一チイイイイ!!な奴が出てくる
- 92 :
- サイボーグ009とか攻殻とかじゃなくてシュトロハイムってさぁw
- 93 :
- サイボーグな男は、サイボーグ爺ちゃんGじゃないのか?
- 94 :
- 男性型サイボーグだと→http://nyuge3.cocolog-nifty.com/nyuge/images/2009/04/08/106.jpg この人(?)が印象深い
- 95 :
- 少佐の様にどんな存在だろうと人間だって言えるキャラも良いよな
- 96 :
- 新作出そうかな・・・
- 97 :
- 銃夢について話せる奴はいないのか
エロパロ民と試行錯誤しながら書きたいのに書けない・・・
- 98 :
- 銃夢って結局のところ話がループし続けてる気がする。
初期の頃の、ひたすら絶望と戦うみたいな話の頃が良かった。
- 99 :
- >97
サイボーグとしての葛藤とかがなかなか感じにくいんだよなぁ
設定としては良いんだけど、最近じゃあバトル漫画に重点を置いてるから
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