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2012年07月創作発表155: 中学生バトルロワイアル part3 (439)
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中学生バトルロワイアル part3
- 1 :12/04 〜 最終レス :12/08
- 中学生キャラでバトルロワイアルのパロディを行うリレーSS企画です。
企画の性質上版権キャラの死亡、流血、残虐描写が含まれますので御了承の上閲覧ください。
この企画はみんなで創り上げる企画です。書き手初心者でも大歓迎。
何か分からないことがあれば気軽にご質問くださいませ。きっと優しい誰かが答えてくれます!
みんなでワイワイ楽しんでいきましょう!
まとめwiki
http://www38.atwiki.jp/jhs-rowa/
したらば避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/14963/
前スレ
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1321012130/
参加者名簿
【バトルロワイアル】6/6
○七原秋也/○中川典子/○相馬光子/○滝口優一郎/○桐山和雄/○月岡彰
【テニスの王子様】5/6
○越前リョーマ/●手塚国光/○真田弦一郎/○切原赤也/○跡部景吾/○遠山金太郎
【GTO】5/6
○菊池善人/○吉川昇/○神崎麗美/○相沢雅/●渋谷翔/○常盤愛
【うえきの法則】6/6
○植木耕助/○佐野清一郎/○宗屋ヒデヨシ/○マリリン・キャリー/○バロウ・エシャロット/○ロベルト・ハイドン
【未来日記】4/5
○天野雪輝/○我妻由乃/○秋瀬或/○高坂王子/●日野日向
【ゆるゆり】5/5
○赤座あかり/○歳納京子/○船見結衣/○吉川ちなつ/○杉浦綾乃
【ヱヴァンゲリヲン新劇場版】4/5
○碇シンジ/○綾波レイ/○式波・アスカ・ラングレー/●真希波・マリ・イラストリアス/○鈴原トウジ
【とある科学の超電磁砲】3/4
○御坂美琴/○白井黒子/○初春飾利/●佐天涙子
【ひぐらしのなく頃に】3/4
○前原圭一/○竜宮レナ/○園崎魅音/●園崎詩音
【幽☆遊☆白書】2/4
○浦飯幽助/●桑原和真/●雪村螢子/○御手洗清志
男子24/27名 女子19/24名 残り43名
- 2 :
- 【キャラクターの能力制限について】
バトルロワイアルが崩壊する類の能力に関しては完全禁止とする。
(例:即脱出可能な桑原の次元刀、エヴァンゲリオンやN2爆雷などのマップ全域を破壊可能な兵器など)
その他の超人技については威力減衰消耗増大という形で作品間のバランスを取っていく。
上記の二点を基本方針とし、細かい調整は本編で定める。問題が起きた場合はその都度対応していく。
【うえきの法則】キャラクターの「能力を非能力者に使うと才が減る」という設定は無し。
【開始時の所持品について】
参加者には開始時に支給品として以下の物資が与えられる。
「水と食料」「ランダム支給品(1〜3個)」「携帯電話」
支給品は四次元式のデイパックに入って支給される。
ランダム支給品にて著しくバランスを壊すアイテム、リレーが困難となるアイテムを支給することは原則禁止とする。
【携帯電話について】
携帯電話の各種機能が他ロワでいう基本支給品に相当する。
アドレス帳→参加者名簿、GPS機能→地図&現在地確認、ライト機能→懐中電灯などなど。
電話やメール、ネット接続など通信に関する機能は制限されている。
その他の機能については本編での描写を優先する。
必ずしも全参加者に同一タイプの携帯電話が支給されているとは限らない。
【未来日記について】
未来日記の主観はその時点での持ち主のものとなる。
(雪輝以外のキャラが無差別日記を所持していた場合、予知されるのは雪輝の周囲の未来ではなくその時点で所持している人物の周囲の未来)
未来日記の持ち主となる場合、何らかの形で持ち主となる契約をする必要がある。
他人に譲渡する際、持ち主の上書き登録も可能だが、上書きした時点で予知の内容は書き換えられる。
孫日記以外の未来日記が破壊された場合、その時点での持ち主登録者は死亡する。
雪輝日記、(Neo)高坂KING日記はそれぞれ我妻由乃、高坂王子への支給とする。(両者のランダム支給品枠を1消費する)
その他の日記についてはランダム支給品とする。原作での日記所有者に支給することも可能。
【作中での時間表記】
深 夜:0〜2
黎 明:2〜4
早 朝:4〜6
朝 :6〜8
午 前:8〜10
昼 :10〜12
日 中:12〜14
午 後:14〜16
夕 方:16〜18
夜 :18〜20
夜 中:20〜22
真夜中:22〜24
【放送について】
0時、6時、12時、18時と六時間ごとに途中経過を各参加者に通告する放送を行う。
放送は支給された携帯電話を通じて行われる。
【予約制について】
トリップをつけしたらばの予約スレに書きたいキャラを宣言することで5日間の予約をすることが出来ます。
誰かが予約している間、他の書き手は予約済みキャラが登場するSSを投下することが出来ません。
また、当ロワにおいて予約制は権利であり義務ではありません。
予約なしでのサプライズ投下、予約キャラと未予約キャラを組み合わせたSSの投下も可能です。
もちろん未予約投下の前に他の書き手が該当キャラを予約した場合SSは無効となってしまいますのでご注意ください。
- 3 :
- 前スレでちょうど容量埋まりました
投下終了です
- 4 :
- 投下乙です!
うおー、まさかここでマリリンが落ちるとは……!
由乃の策略が見事にハマっての大物喰いだなぁ
緊張感ある文章に唸らされる戦術にと読み応え抜群でした
すっごく面白かったです!
- 5 :
- 投下乙です
ここまで細かくて読み応えある作品を書けるとは…
すげえぜ
- 6 :
- ウィキの支給品リストを見て、ふと思った
・テニスラケット
・穴掘り用シャベル
・日本刀
・赤外線暗視スコープ
・セグウェイ
・血のり
・コンタクトレンズと目薬のセット
支給品だけ見せられたら、とても出典元が「テニスを題材にした青春漫画」だとは想像できないだろうな
- 7 :
- 新テニになってから訳の分かんないアイテムがいっぱい出てきたからねw
そういや、意外なことにまだ乾汁出てないんだな
テニヌからは必須支給品だと思ってたのに
- 8 :
- >>7
見た目からしてヤバいと分かる代物だから、ギャグでも誤って口にしたりしないだろうし
武器として使うにも「相手に飲ませる」というプロセスが必要だからなぁ
劇場版(恐竜を滅ぼした方)では、乾汁で敵の見張りを昏倒させて監禁から脱出したりと、実戦的な使い方をしてたけどw
かといって、このロワで乾汁を耐えられそうな参加者となると…
黒子(味覚が怪しい描写あり)がもしかしたらってぐらいか。あとはやられそう
(天界人や魔族も味覚耐性はないだろうし)
- 9 :
- 支給品の話題になったついでにまとめてみた。
現在の不明支給品
結衣 0〜2
レナ 0〜1
桐山 0〜2(詩音のもってたやつ)
ヒデヨシ1〜3
黒子 0〜1
ロベルト0〜1
秋瀬 0〜1
月岡 0〜2
真田 0〜1
初春 1(桑原のもってたやつ)
由乃 0〜1
跡部様 0〜2
滝口 1〜3
圭一 0〜2
御手洗 0〜2
美琴 1〜3
ちなつ 0〜2
光子 0〜1(武器じゃない)
雅 0〜2
バロウ 0〜2(手塚がもってたやつ)
植木 1〜4(日向の支給品含む)
幽助 1〜3(螢子のもってたやつ)
リョーマ0〜1
レイ 0〜2
綾乃 1〜3
菊池 1〜3
シンジ 1〜3
まだ支給品が丸ごとのこってるやつもけっこういるね
- 10 :
- 乾汁は水筒に入れればおk
んで説明書には「健康ドリンク」とでも書けば疑わずにグイッと飲むっしょ
- 11 :
- 健康ドリンク…間違ってはいないなw
- 12 :
- 予約分、投下します
- 13 :
-
ある時の七原秋也は、桐山和雄にはっきりと殺意を持っていた。
桐山もまた、あのプログラムに巻き込まれた被害者の一人だとは分かっていた。
感情を持たないで生まれついたことが、桐山自身の罪ではないことも分かっていた。
それでも、冷酷な殺人マシーンとしての桐山和雄を恐れ、殺してやると思ったことがあった。
3年B組のクラスメイトを、何人も殺した男。
二度、秋也を殺しかけた男。
大事な中川典子の顔に、傷をつけた男。
恩人であり親友の、川田章吾が死ぬ原因を作った男。
彼について思い出そうとすれば、放物線を描いて飛ぶ手榴弾だとか、トラックとライトバンでのカーチェイスだとか、防弾チョッキを着て起き上がり川田を撃った姿だとか、殺伐とした情景しか浮かばない。
どんな死に顔だったのかも覚えていない。
ただ、殺した瞬間にこみあげてきた虚しさと、雲散霧消した殺意の残りかすみたいな感傷だけは、その身にしみて記憶していた。
人間なら何人も殺してきた秋也だったが、『死闘』と呼べる経験をしたのは、桐山和雄との二度にわたる戦いだけだ。
忘れられない人間の一人。今現在も憎んでいるかと聞かれると、複雑な感傷を覚える人間。
いや、人間というよりは、怪物。
その怪物は今、七原秋也の仲間になっている。
「この銃は七原が持っていてくれるか?」
桐山は少女の遺体から回収したグロック29のガンバレルを握り、秋也へと差し出した。
ほんの数分前まで、か殺されるかの駆け引きをしていたとは思えない気軽さだった。
「いいのか?」
聞き返すと、桐山はショットガンを持つ七原と、手ぶらのヒデヨシを交互に見て、言った。
「俺の支給品は機関銃だから、もう一人援護射撃できる奴がいた方がありがたい。その散弾銃では援護は向かないだろうしな」
「分かった。じゃあ、俺のグレネードも全員に一個ずつ渡しておくよ」
拳銃と手榴弾を交換し、ヒデヨシにもスモークグレネードをひとつ渡す。
向こうが拳銃を預けた以上、こちらも各自で持てる武器は、渡しておくのが筋だろう。
桐山の裏切りを警戒して武器を渡すことを躊躇い、戦力配分を誤るような愚をおかすわけにはいかない。
ヒデヨシが、回収された二個のディパック――緑髪の少女と佐天涙子のものだ――を見下ろして、おずおずと会話に参加する。
「食料や水は公平に分けるとして……ぶっちゃけ携帯電話が二個余るな。予備があって困るものじゃないけど、誰が持つ? 誰が持っても同じだろうけど」
目線はあまり桐山を見ないように、秋也の方を向く。
桐山が荷物を回収している間に、桐山が既に死んだクラスメイトだということ、感情の欠落した人間だということは話している。
しかし警戒しているのは、ショッキングな話を聞いたからだけではないだろう。
さっきまで自分を銃殺しようとしていたばかりか、これからも気が変われば殺そうとしてくる男と、仲間として行動することになったのだから。
むしろ、文句も言わずに頷いてくれただけ、ありがたいことなのだ。
- 14 :
-
「お前は宗屋、だったな。『誰が持っても同じ』と言ったが……未来日記を持っていないのか?」
「未来日記?」
聞き慣れない言葉に、ヒデヨシと顔を見合わせる。
桐山は懐から、ハイテクそうな形の携帯電話を取り出した。
「俺に支給された日記が、この『コピー日記』だ。他人が持っている未来日記の機能を、任意でコピーして未来予知をする。
今のところは、佐野という男が持っていた未来日記をコピーしている」
コピー日記と契約できる番号が書かれた紙を支給されたこと、
契約した時に、主催者の一味らしいムルムルという子どもと会話したこと、
未来日記には色々な種類があるらしいこと、それらを桐山は淡々と説明していった。
なるほどな、と秋也は頷く。
一瞬で会場まで送ってくれるわ、死人を生き返らせるわとサービス精神旺盛な主催者さんは、
支給品にまでその得体の知れない力を利用したというわけだ。
こんな支給品があるなら、戦術の組み立てもずいぶん違ってくるぞと秋也は嘆息する。
未来日記という強力アイテムは、それだけで所有者の生命線になりかねない。
携帯電話をもう一つ持っていれば、日記のフェイクになったりと使える機会もあるだろう。
コピー日記は壊れても所有者にリスクがないらしいから、予備の携帯があれば壊れても再契約できるかもしれない。
結局、既に未来日記を持っている桐山が予備の携帯電話を一個持つことになった。
もう一つの携帯電話は、一人だけ銃器を持たないということで、何となくヒデヨシの手に渡る。
その他食料なども三等分して、桐山が仕切り直す。
「全員の装備については改めて確認したいところだが、先に済ませておきたい作業がある。
それが終われば、装備確認も含めて情報交換をしよう。そして当面の方針を決める」
「先に済ませたいこと……?」
ヒデヨシは首をかしげたが、秋也には桐山のやりたいことが読めた。
地面にまだ、分配されていない道具がひとつ、残っていたからだ。
クレイモア地雷を危険だからと収納して、拳銃とナイフを装備し、食糧や水なんかを三等分して、ひとつだけ残った支給品。
緑髪の殺人者が隠し持っていた最後の武器は、大鋸だった。
ぎざぎざした刃渡りの両端に持ち手があり、二人で挽くものなのだと分かる。
刃渡りは大きかったが、実戦で使うならナイフの方がだいぶ使いやすそうだった。
切断する道具。
それを拾い上げて、桐山は言った。
「死体から首輪を回収してくる。首輪の解除にはサンプルが要るからな」
なるほどと、ヒデヨシの顔に一瞬だけ納得が宿り、
「え……? 回収って……」
首輪を回収する。
その意味することがどういうことなのか、理解して凍りついた。
- 15 :
- まずいな、と秋也は直感する。
佐天涙子の死亡、仲間だった佐野のマーダー化、山小屋でのひと悶着、得体の知れない桐山との同盟と。
ヒデヨシの受けたショックはあまりにも連続している。
ここでさらに揺さぶりを食らってしまったのだ。
「お前……死体から首を切って、首輪を取るっていうのか?」
絞り出すように、ヒデヨシは声を出した。
「そうしないと、首輪がどうなってるか調べられないだろう」
ごく平静に、桐山は回答する。
ヒデヨシは、再び銃口を向けられたみたいに言葉に窮した。
それでも、今度は桐山の眼をしっかり睨み返して、意地を張るように仁王立ちしていた。
感情論が通じない相手だと知っていて、それでも言わずにいられないのだろう。
「だけど……ぶっちゃけ、これじゃ首輪が欲しいから、アイツを殺して奪ったみたいじゃねえか」
再び意味をなした言葉は、ひどく弱弱しいものだった。
無理もない。
相手を殺さなくとも勝ち残れるし、ことが目的でもない。ヒデヨシはそういう世界の住人だ。
自ら殺した人間の死体をさらに冒涜して、首を切り落とすような所業なんて想像の中にさえなかったのだろう。
「殺した時点ではそこまで利を考えていなかった。結果論だ」
「そりゃそうだろうけど……ぶっちゃけ、他の方法はないのか? 首を斬らずに首輪を外せるかとか……」
「『無理に外そうとすれば爆発する』という制約が持続しているか分からない以上、首輪を切ったり解体するようなやり方で外すのは危険が大きい。
極力、首輪には衝撃を与えない方法がベストだ。それにこの先都合よく首のない死体と出くわす期待もできない……七原、手を貸してくれ」
やはりそうなるか、と秋也は腹をくくった。
鋸は二人用なのだ。ならば首の切断作業には、二人が必要になる。
「分かった、ちょっと待ってくれ」
桐山を遺体へと先に行かせた。訴えるような表情をしたヒデヨシと目を合わせる。
「宗屋……俺だって、酷いことをしてるとは思ってる。相手が悪い奴だからって、死んだ後も貶められていいはずないからな」
「七原……でも、ぶっちゃけお前だって、前の時はそんなことせずに首輪を外したんだろ?」
「あの時は、あらかじめ解除する方法が分かってたからな」
過去の秋也のようだった。
心ないかのように冷静に振舞う川田に、反発ばかりしていたころの秋也だった。
殺し合いでは、他人のことを気にかけた人間から死んでいくことを川田は知っていた。
秋也も頭では分かっていたが、川田ほど割り切ることができなかったから、事あるごとに川田に食ってかかった。
ヒデヨシだって、分かっている。分からないほど、頭の働かない少年ではない。
だからヒデヨシに必要なのは、自分たちがすることを正当化し、罪の意識を軽くしてやる言葉だろう。
「首を斬るなんて、誰だって気分のいいことじゃない。でも、誰かがやらなきゃいけないんだ。
今、大事にしなきゃいけないのは、死んでる人間より生きてる皆なんだから」
こんな時、川田だったらどう言うだろう。
秋也はちょっとだけ考えた。
そして、言った。
あの時と、同じ言葉を。
「宗屋。誰かを大事にするってことは、別の誰かを大事にしないってことなんだ。
他人を想いすぎて、自分や仲間を真似をしちゃいけない」
――誰かを愛するっていうのは、別の誰かを愛さないっていうことだ。典子サンが大事なら、行くな。
- 16 :
- 拡声器を使ったクラスメイトたちを助けに向かおうとした時、川田はそう言って秋也を止めた。
本当に優先すべきものを守りたいなら、耐えなければいけないこともあるのだと、厳しい言葉で諭した。
ヒデヨシが顔を上げた。
茫然と、衝撃を受けたような顔をしている。
「別の誰かを、大事に、しない……」
届いた。
佐天涙子が死んだ時、悔しがって下を向いていた時とは違う。
今度は、ちゃんと言葉が届いている。
そのことに少し安心して、秋也は桐山が待つ遺体へと歩み寄った。
◆
少女の胴体は、適当な切り株の上にのせられていた。
台座があった方が刃物を入れやすいからだろう。
邪魔になりそうな長い緑髪をどけて、死体の横たわる左右に二人でしゃがむ。
白いうなじが、二人の眼下に晒されている。
鋸を首と垂直な角度で持ち、その刃物をうなじへとくいこませた。
ギザギザした刃を突き立て、「せーの」と掛け声、同時に挽く。
使い慣れない包丁で肉を切る時に似た、弾性のある抵抗感が手に伝わった。
引く際に必要なのは、腕力よりも二人の呼吸だ。
むしろ、力はほとんど必要なかった。
力をいれるタイミングを重ねれば、ニンジンでも斬るようにすいすいと刃物が埋まっていく。
むしろ、刃がすいと通るときに持ち手に伝わる、柔らかさこそが問題だった。
お前が今切っているのは人間の首なんだぞと実感させ、指先から肩までに鳥肌が立つ。
「七原」
なるべく手元を見ないように、顔をしかめて斬り進んでいた時だった。
桐山の方から、秋也へと話しかけてきた。
「さっき、俺が『首輪を回収する』と言うのを予想していたみたいだったな」
「……ああ、プログラムの時も、首輪をつけられたんだ」
そう言えばこの桐山は、あの修学旅行のバスに乗っていないのだ。
つまり、大東亜共和国のプログラムに関して、テレビのニュースで聞いたぐらいの知識しか持ち合わせてないことになる。
「その首輪は解除できる代物だった?」
「やり方さえ分かればな。その時に解除してくれた奴はここにはいないけど」
「七原にも解除はできるか?」
「あの時と同じタイプの首輪だったらな。ただしコイツがそうかは分からないぜ?
見たところ形は似ているけど、同じものかはもっと明るいところで見てみないとな」
「そうか」
淡々と聞かれ、淡々と答える。
これは、気を紛らわすのにちょうどいいかもしれないと思った。
考えながら話していれば、少しは手元のおぞましさを忘れられるから。
鋸の刃が、骨を削り進む。
シュコシュコと丸太でも斬るように、頭と胴体を繋ぐ大黒柱に切れ目が入っていく。
その感触を努めて意識しないようにと、秋也は桐山との会話を続けた。
- 17 :
-
- 18 :
- 「それから、『禁止エリア』っていう仕組みがあった」
「そこに入ると、首輪を爆破される?」
「ああ、放送の時に指定されるんだ。時間がたつごとに動ける範囲が狭くなるから、皆追い立てられる」
「会場を広く取るなら、必要な措置だろうな。皆が籠城を決め込んでいたら、ゲームが成り立たなくなる」
「そういうことだ。会場の広さからして、今回の殺し合いでも導入されてるかもしれないな」
「なるほど、放送で指定される可能性があるな。
その場合は、放送の内容次第でも、今回の殺し合いがプログラムに似せた企画かどうかの、傍証にはなるだろう」
理解が早い桐山の応答は素早く、
会話を楽しんでいる自分がいることに、秋也は気づく。
事務的なことしか話さない会話はかえって気楽で、内心に沈殿する不安や負荷を紛らわすのにちょうどよかったからだろう。
それは優しさなどではなく、桐山がそういう性質をしているだけのことだけど。
「めぐりあわせってのは、皮肉で不思議だな……」
「どうした?」
「なんでもない」
ここに来て、秋也は驚いている。
利用して対象には変わりなく、その時は容赦なくことに、覚悟はあれど迷いはないのに。
今この瞬間に、かつての仇敵と、気の置けない距離にいるのだから。
ちなみに、この場合の『気の置けない』は、間違って覚えられやすい意味と、本来の意味と、両方の用法だけれど。
ぶちぶちっと皮の裂ける音を最後に、少女の首がごろりとはずれた。
◆
七原秋也は、自分と宗屋ヒデヨシとの関係を、かつての川田章吾と七原自身の関係のようなものだと考えていた。
両者の関係性は、確かによく似ている。
しかし、決定的に違うところがあった。
七原秋也は、プログラムを経験するまで、ごく普通の中学生だったが、宗屋ヒデヨシは、そうではなかったということだ。
ヒデヨシには、『戦い』の経験があった。
現実にはあり得ないような力を持つ、『能力者』だった。
殺し合いと比べればずっと甘っちょろい戦いだったけれど、現実にはあり得ないような非日常を経験していた。
他の能力者と比べて断然に弱い能力だったけれど、それでも『能力がない普通の人間よりは、役に立てることがあるはずだ』と思うには、十分すぎた。
しかし、そのささやかな自負を、緑髪の少女の襲撃と、佐天涙子の死によって、いともややすく撃ち砕かれた。
思い知らされた無力さの、度合いが違っていたのだ。
◆
- 19 :
-
木材を切り開いて作られた広場の端で、遺体の解体作業が行われている。
その現場を直視したくなくて、宗屋ヒデヨシは広場の向こう端で、桐山たちに背を向けるようにして座った。
まるでサスペンスドラマに出てくる、犯人役の隠ぺい工作みたいだと思った。
シュコシュコという硬いものを斬る音が微かに聞こえてきて、音の正体が怖くなり耳も塞ぐ。
そのシュコシュコにまじって、ぶつぶつと二人が会話を交わす声も。
ヒデヨシのいる場所からは話の全容まで聞こえない。
けれど、首輪がどうとか、放送がどうとか相談していることは聞き取れる。
きっと、この殺し合いを打開する為の、建設的な話なのだろう。
桐山について裏切りの危険はあれど、あの二人は経験もあれば知恵も働く、頼りになる存在なのだ。それも分かる。
それでも、感情はまた別だった。
なんであいつらは、あんなおぞましい作業をしながら、冷静で建設的な会話ができるんだろう。
助けてくれた七原に対して、そんな想いをいだいてしまう。
頭の中に、七原から言われた言葉がリピート再生された。
――誰かを大事にするってことは、別の誰かを大事にしないってことなんだ
その言葉に、衝撃を受けた。
人間に優先順位をつける必要がある時ぐらいは、分かる。
ヒデヨシにも、覚えがある。
『たいようの家』の子どもたちの面倒をみる為に、バトル参加を断念しようとした時期があったからだ。
誰かを守ろうとすれば、別の誰かを守ることはできなくなる。
しかし、その言葉を受け入れようとすると、心の別の場所で、反発の声があがるのだ。
植木なら、七原の言葉をどう思うだろうか。
そう考えると、ヒデヨシの頭が疼くように痛むのだ。
植木耕助。
皆を助ける、『正義』を貫こうとしている男。
初めて会った時も、出会って半日の知り合いでしかないヒデヨシと『たいようの家』の子どもたちを守る為に戦ってくれた。
仲間を大事にするけれど、敵だからといってないがしろにしない。
悪党に利用されている気の弱い少年を、敵のチームの能力者だろうと気にせず助けた。
マリリンチームと戦った時は、敵として勝ち星を拾いながらも、マリリンの心を救ってみせた。
友達の天界獣を死なせたくないから九つ星天界人になるのを諦め、星の数をそのままでバトルに勝ち進んできた。
あの恐ろしいロベルトでさえ、戦っている途中でも不慮の事故から庇ったと聞く。
そして、能力者の戦いを勝ち残ることで、地獄に落ちてしまった小林や犬丸、ネロという神候補たちまでも助けようとしている。
いつだって植木耕助は、みんなを守ろうとしてきた。
誰かを守ろうとすることで、誰かを犠牲にするなんて、絶対に認めなかった。
そのやり方で、勝ち抜いて来た。
どんなにピンチでも、植木なら何とかしてくれる。皆を助けてくれる。
ヒデヨシはそう信じてきた。
植木ほどの力があれば、『みんなを大事にする』ことができるんじゃないか。
自分にそれができないのは、ただヒデヨシに力が足りないだけなんじゃないか。
ヒデヨシの結論は、どうしてもそこで根を降ろしてしまう。
この殺し合いが始まってから、ヒデヨシは一番役に立っていなかった。
能力も何もない七原や桐山の方が、よほど冷静に動けているし、戦力として機能しているし、脱出の為の知恵を絞れていた。
現に、桐山も拳銃での援護射撃をヒデヨシではなく七原へと任せた。
そこに悪意などはない。ヒデヨシは本当に銃が扱えないのだから。
七原が銃器の扱いに慣れていることは、先刻の戦いで明らかだったし、必要ならば撃つ覚悟もあった。桐山もそれを見ていたから、七原の方に預けたのだろう。
それでも、その事実はヒデヨシにとって、『戦力不足だと思われている』と実感するのに十分だった。
- 20 :
- 頭脳でも、戦闘力でも、コピー日記のような支給品でも劣っている――
――支給品。
慌ててディパックを開ける。手がすべりそうになる。
ジッパーを引くや手を突っ込み、一枚のメモ用紙を取り出した。
思い出した。
紙切れだと思って、説明書の文字を前半まで読んだだけで、すぐディパックにしまいこんでいた。
ハズレ支給品だと、放置していた。
その後に佐天や秋也と、学園都市やら大東亜共和国やらの話を聞いたおかげで、すっかり意識から飛んでいた。
最後に『電話番号』が書かれていることさえ、気づいていなかった。
無差別日記。
電話番号をメモした紙には、そういう名前が書かれていた。
説明書には『未来日記』という言葉はなく、無差別日記とだけ書かれていた。
だから桐山の話を聞いても、思い出すのに時間がかかった。
胡散臭かった。
神候補が与えてくれる『能力』とは、関係がなさそうだった。
そういう理由をつけて意識の外に追いだしていたけれど、考えないことにしていた本当の理由は、別にあった。
『携帯が壊れれば持ち主が死んでしまう』という限定条件が、怖かったのだ。
神候補のバトルには、限定条件というリスクがある。けれど、それらはそこまで重くない。
ヒデヨシに至っては、『能力を使う間だけ、手足の指のどれかを折り曲げておく』という、ほぼノーリスクに近い条件だ。
強力な能力の中には寿命が短くなる条件なんかもあったけれど、少しの失敗が即死に繋がるような厳しい条件はなかった。
本当に効果があるか分からないものの為に命を懸けるのが怖くて、気にしないことにしていた。
もし、あの時に契約していれば、どうなったか。
頭をぶん殴られて、脳震蕩になったような衝撃に襲われた。
あの時に契約していれば、
佐天涙子が死ぬことはなかった。
未来予知とやらがどこまですごいのかは知らないが、ドアを開けたとたんに襲って来る敵のことぐらいは予知できただろう。
分かっていれば、あの襲撃はたやすく回避できた。
佐天の死は避けられなかったと、七原はヒデヨシを慰めた。
嘘だ。
力さえあれば、佐天は死なずに済んだんじゃないか。
力さえあれば、誰かを切り捨てなくても、誰かを守れる。
- 21 :
-
力さえ、あれば。
力が、
力が、ある。
力が、ここにある。
ヒデヨシの手が、携帯電話に向かってのび――
――その手が、とまった。
今、契約するのはまずい。
鋸の音が、ヒデヨシを冷静に戻す。
シュコシュコと、桐山たちが鋸を動かしている。
今はまずい。
桐山和雄がいて、コピー日記がある。
もし無差別日記のことを教えてしまえば、桐山はすぐさまコピー日記にコピーするだろう。
みすみす強くさせる機会を与えるには、桐山は恐ろしかった。
無差別日記は、予知の範囲がとても広いのだから。
今は、まずい。
今は、まだダメだ。
でも、いつかは。
重たいものがドサリと落ちるような音がして、ヒデヨシに首が斬られたことを教えた。
【B-6/山小屋前/一日目・早朝】
- 22 :
- 【桐山和雄@バトルロワイヤル】
[状態]:右腕に打撲
[装備]:M&K MP5SD@ひぐらしのなく頃に、コピー日記@未来日記、メダルゲームのコイン×7@とある科学の超電磁砲(上着のポケットの中) 、コンバットナイフ@現実
[道具]:基本支給品一式×2(携帯電話は予備が一機)、M&K MP5SDのマガジン(残り5個)、クレイモア地雷とリモコン@現実、スモークグレネード×1@現実
基本行動方針:仲間を集め脱出する。非協力的な者や殺し合いに乗った者は
1:今後の方針決定も兼ねて、情報交換をする
2:七原と協力し、互いを利用する。
3:七原との協定に従い、脱出の手段と人材が整うまでは、非協力的な人物とも協力を敷くように努力する。
4:3を実行する上でのリスクが、脱出できなくなるリスクを上回れば、七原との協定を破り、宗屋ら非協力的な人間を。
[備考]
基本支給品の携帯電話はiPhonです。
コピー日記が殺人日記の能力をコピーしました。
コピー日記は基本支給品の携帯電話とは別の携帯で支給されています。
【七原秋也@バトルロワイアル】
[状態]:健康
[装備]:スモークグレネード×2、レミントンM31RS@バトルロワイアル、グロック29(残弾10)
[道具]:基本支給品一式 、二人引き鋸@現実、園崎詩音の首輪
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:今後の方針決定も兼ねて、情報交換をする
2:桐山を利用しつつ、不穏な行動を抑制する。
3:桐山を隙を伺う。(前回の桐山戦と同様に容赦なく)
【宗屋ヒデヨシ@うえきの法則】
[状態]:健康
[装備]: スモークグレネード×1@現実
[道具]:基本支給品一式(携帯電話は二機)、『無差別日記』契約の電話番号が書かれた紙@未来日記、不明支給品0〜2
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:力がほしい……。
2:桐山との同盟を拒絶したいが、七原に反論できる立場でもない
3:佐野と和解したい
4:桐山にばれないようなやり方で、無差別日記と契約したい
[備考]
山小屋付近に、園崎詩音の首切断死体が放置されています。
【二人挽き鋸@現実】
園崎詩音に支給。
両端を二人で持ち、左右に挽くようにして使う形の鋸。刃の長さはおよそ二尺二寸(約36cm)。
昔は大木を伐採する際に使われていたが、現在はチェーンソーなどが普及したこともあってほとんど使われていない。
【無差別日記@未来日記】
宗屋ヒデヨシに支給。
天野雪輝の未来日記。
自分を中心とした周囲の未来を無差別に予知する。どんなに細かいことでも分刻みで予知する為に、全日記中でも最多の情報量を誇るが、周囲を傍観するスタンスで書かれているために、所有者本人の情報は一切予知されないという弱点もある。
また、予知未来は所有者の主観に左右される為、所有者が間違った情報を把握した場合、間違った情報のまま予知をしてしまう。
――――
投下終了です
- 23 :
- 投下乙です。
水面下で進む不和が行く末を不安にさせますねえ。
七原が柔軟に対応してるけどどこまで緩衝材として行動できるか。
桐山と七原は切り捨てる覚悟があるけどヒデヨシは全くないし…。
- 24 :
- 投下乙!
原作バトロワファンとしては夢のような展開ですわ
まだ不安要素はあるとはいえ、桐山と七原の二人がこんな風に会話するのを見られるなんてなぁ
- 25 :
- 予約破棄していた分が完成したので投下します。
- 26 :
- 図書館。それは知の集合地。書籍という形でまとめられた知識が、そこには多く存在している。
菊地善人と杉浦綾乃の二人もまた、知を求めてこの施設へと足を踏み入れた。
「……どうやら中には誰もいないみたいだな。よし、話してた通り俺はPC関連の本を、杉浦は脱出に繋がりそうな本を探す。
もし何かあったらお互いすぐに声を掛け合うこと、図書館で大声なんて御法度もいいとこだが、今はそんなことも言ってられないからな」
「分かりました。それじゃ菊地さん、またあとで」
菊地と別れ、綾乃は脱出に繋がりそうな本を探す。
……とはいえ、どのような本が脱出に繋がるんだろうか?
いたって普通の女子中学生に過ぎない綾乃にとって、このような状況というのはまさに想像の埒外。
いったいどのような情報が有効になるのかさえ見当もつかない有様だ。
(えっと、確か菊地さんが言っていたのは……)
まず、この場所が何処なのかを把握する必要がある。
普通の図書館にはその地ゆかりの民族史、郷土史といった専門書を置くコーナーがある。
それを読むことが出来れば少なくともこの街がどの地方にあるのか、近隣の市町村との交通関係はどうなっているのかくらいは把握できるはずなのだが――
「うぅ……何これ。いったいどれが何なんだか……」
確かにこの図書館にも郷土史をはじめとした地域専門コーナーが用意されていた。
しかし、手当たり次第に本をめくったところで、ここがいったい何処なのかは分からない。
情報が欠落しているのではない。むしろその逆だ。
本来なら郷土史の棚に置かれるのは、とある一つの地域に関する書籍のはずだが、ここに置かれている本は一冊一冊がまったく違う地域のことについて書かれているのだ。
ある本には東京の歴史、地理が。ある本には蟲寄市という聞いたこともない街の詳細が。
「あ、これ七森の本だ……」
綾乃たちの住む七森町に関する本もあることから、ここには綾乃たち参加者ゆかりの地について書かれたものが集められているのではないだろうかと推測する。
綾波レイたちがいたという第3新東京市に関する本もあり、他には学園都市や大東亜共和国という綾乃の中の常識では到底考えられないような都市、国の成り立ちを書いた本もあった。
これらの街は、いずれも綾乃の知る現代日本には存在しないものである。
レイたちとの情報交換において挙がった「パラレルワールド」という言葉が、途端に現実味を帯びてきた。
(つまり、この『学園都市』の『能力者』みたいな人たちも、ここには連れてこられてるってことかしら――?
えっ、この大東亜共和国の戦闘実験第六十八番プログラムって……!)
自分たちが今置かれている状況に酷似したそれ――大東亜共和国のプログラムはクラス単位で行われているなど細かいところでは違いがあるが――は、特に綾乃の興味をひいた。
わけも分からずに殺し合いを強要されている――そう思っていたのだが、どうやらこのような殺し合いが『社会の一般常識』となっている恐ろしい国があるのだという。
大東亜共和国。第二次世界大戦でもしも日本が勝利し、そのまま軍国主義が極端化していたら――という、趣味の悪いSFのような設定のその国では、『防衛上の必要』を名目に中学三年生に殺し合いをさせている。
いったいどうしてそんなとち狂った法案がまかり通っているのか。その法案を擁護する『四月演説』なる演説の内容を読んでも、まるで理解は出来ない。
だが――綾乃たちが巻き込まれているこの殺し合い、それを開催した人物、或いは組織はこの戦闘実験第六十八番プログラムを基にしている可能性がある。
脱出そのものに有効な情報ではないかもしれないが、主催者の思惑を知るという意味では重要な情報になり得る。
この大東亜共和国に関する本については、あとで菊地にも読んでもらって意見を聞きたいところだ。
また、プログラムについてより詳しく知っているであろう大東亜共和国の人間がこの殺し合いに巻き込まれている可能性も、少なからず存在している。
(みんな訳も分からないまま連れてこられてるのかと思ってたけど……
もしかしたら、今何が起きているのか知ってる人がいるのかも?)
- 27 :
- 先行きのまるで見えない道すじに、一つの光が差したような気がした。
このついでに会場になっている街についてもなにか情報が得られないものかと携帯に内蔵されている地図と本の中の地図とを見比べる作業を進めるも、
郷土史のコーナーに置かれていた本の中に会場について書かれているものはないようだった。
もののついでだと日本地図を開いてしらみつぶしに探してみることも考えてはみたものの、作業の労力を考えると今最優先すべきことでもないだろうと脳内で却下。
どうせこのあと海洋研究所へも行くのだ、そちらのほうに詳しい情報が残されている可能性だってある。
収穫といえそうな書籍の類を何冊かデイパックの中に詰め、一旦菊地と合流すべく綾乃は郷土史コーナーから離れる。
何の気なしに本棚に収められている本のタイトルをちらちらと見ながら歩いていく。
『そして誰もいなくなった』『神様ゲーム』『少女七竈と七人の可愛そうな大人』『冷たい校舎の時は止まる』……
読んだことはない、けれど何故か心惹かれるタイトル。
その中に一つ、ひときわ目を引くタイトルがあった。綾乃は思わずそれを手に取り、ぱらぱらとページをめくり始めた。
◇
「ふぅ……ま、こんなもんか」
PCコーナー、雑誌コーナーから役に立ちそうな教則本を手当たり次第ぶっこ抜き、図書館職員室に備え付けられていたPCの前に陣取った菊地。
綾乃に最新型携帯電話とやらの超技術を教えてもらったときは自分の知識は古臭いカビの生えたものになってしまったんじゃないかと心配していたが、どうやら杞憂に終わったようだ。
確かにPCのスペックなどはケタ違いに上がっており、特にカスタムメイドされた風でもない公共PCでさえ菊地の知るどの機種よりも高性能だったが、基本的にやることは変わりない。
「だいたい、オレが知ってた知識自体別にハッキング特化だったわけでもないからな……
むしろ固定観念がない分、新しい知識がすんなり入ってきてラッキーってか?
ハッキングといえば、砂クジラのやつ、オレがこんな超絶スペックのPC弄ってるなんて知ったら泣いて悔しがるかもな、ハハッ」
ハッキング技術でいえば菊地では足元にも及ばないほどの猛者、砂クジラ。
なんとか彼とのホットラインを繋ぐことが出来れば脱出する上で大きな助けになってくれるだろうことは間違いないのだが……
(仮にネット回線を確保出来たところで、砂クジラまで繋がるかどうか……
そもそも、『この世界』に砂クジラはいるのか?)
パラレルワールド。タイムスリップ。
情報交換で浮かび上がったこの可能性を認めてしまうと、この会場からの脱出はまだしも、日常への帰還は途端に困難になってしまう。
少なくとも菊地は『別の世界』から『自分の世界』に移動する術など知らないし、そんなことが容易に出来るとも考えていなかった。
しかし『この世界』が『自分の世界』とイコールで結ばれないのならば――
(うーん、面白そうなもんもいっぱいありそうだし、新世界に適応するというのも一つの手だけど……
やっぱり、みんなと一緒に三年四組に帰りたいよな)
しかしこれで、帰還へのハードルは更に上がったわけだ。
幾つか使えそうなネタは考えているものの、現実的かどうか言えばまだまだ実用不可能のネタばかり。
うーむ……と、眉間にシワを寄せながら菊地は自身に支給されたデイパックをまさぐる。
取り出したるは、菊地善人の支給品その1。ヴァージニア・スリム・メンソール。月岡彰が愛飲していたタバコの銘柄だ。
とりあえず休息を兼ねて一服しようという心づもりだ。手慣れた様子で煙草の封を切り、一本取り出す。
「ん……おいおい、火がないぞ火が。ったく、気が利かねーなぁ」
「それ以前に、未成年の喫煙は禁止ですっ!」
声の方向に振り向くと、そこにはカンカンに怒った綾乃の姿があった。
バツの悪そうな顔をして、菊地は弁解の言葉をぺらぺらと連ねていく。
いやぁ、オレもこのキンキュージタイに緊張しちゃってさ、ほら、大人ってよくタバコで気を紛らわすって言うから。
もしかしたら一本吸ったら楽になるんじゃないかって魔が差しちゃったわけですよ、ええ。
いやいや、初めてだって。ボク真面目ですよ? 全国模試で上位とか取っちゃいますよ?
「箱を開けるの、すっごく慣れてる感じでしたけど?」
「いやぁ……ハハハ」
「そこ、笑ってごまかさない! ……はぁ、菊地さんって凄い人だと思ってたのに」
- 28 :
- はぁ、と嘆息を漏らす綾乃を見て、
「もしかしておまえ、そっちの方が地なのか?
大人しい優等生タイプかと思ってたんだけど意外と世話焼き女房タイプだったんだな。いい嫁さんになるぞ」
と、菊地は率直な感想を漏らした。
な、な、な、な、なと声にならない声を上げながら赤面したところを見るに、菊地の推測は当たっていたらしい。
「なんだよ、それならそうと早く言ってくれればこっちもそれなりの対応するのにな」
「菊地さんは年上だし、そういうわけにもいきません」
まだ頬を赤くしながらきっぱりと断りを入れる綾乃。
まだまだ菊地との関係は堅そうだが、初対面だった頃に比べればいくらか気を許し、杉浦綾乃本来の性格が出始めていた。
なかなか素直になれないところ。誰よりも他人のことを気にかけているところ。
そして――実はすごく、臆病なところ。
「あの……話は変わるんですけど、菊地さんに聞いてみたいことがあって。この本のことなんですけど」
綾乃は手に持った一冊の本を菊地へと差し出す。
その本のタイトルは、『何故人は人を殺してはいけないのか』
「私、考えたんです。私たちは……人を、殺さなきゃ、自分が死んでしまうような状況になってて。
でも私は、人を殺したくなんてない。どころか、傷つけるのでさえ嫌なんです。こんな考え方は……甘いんでしょうか?」
綾乃の声は震えていた。彼女なりに真剣に考えて、それでもなお答えの出なかった問いなのだろう。
人は人を殺してはいけないのか。逆に言えば――人は人を殺しても、許されるのだろうか。
これはいずれ菊地自身も向き合わなくてはならない問題だ。
だから、綾乃の真摯な思いを受け、自分も誠意ある回答をしよう。
「――そうだな、菊地先生の補習講座といこうか」
◇
「まず杉浦。おまえは――人をことは、悪だと思っている。そうだな?」
「え……あ、はい。だって、人を殺したらいけないということは、当たり前のルールですよ」
「でもオレたちが今置かれている状況は、その『当たり前』が通用しない状況なんだ。
だからここは一つずつ、前提から吟味していこう。まず一つ。殺人は、悪だと断定できるか」
綾乃を机の向かい側に座らせ、対面する形で話を進めていく。
菊地の投げかけた問いに、綾乃はしばし頭を悩ませ、彼女なりの言葉で考えを述べる。
「私は……やっぱり、悪だと思います。なんで悪なのかというと……それは、人の死というのは基本的には何も生み出さないから。
誰かが死んで嬉しがる人というのは、確かにいるかもしれません。でも、それ以上に悲しむ人がいっぱいいるはずです。
その人がいなくなって困ることも、いっぱいあるはずなんです。だからやっぱり、人をことはいけないこと。そう思います」
途中で言葉に詰まりながら、綾乃は己の考えを言い切った。それを聞いた菊地はあっさりと、
「うん、そうだな。杉浦の言うとおり、殺人は悪だ。これは人類が歴史の中で培ってきた、一つの真理とも言える」
「あ、あっさりいきましたねー……」
「まぁ、ここでいちいち止まる暇もないからな。じゃあ次だ。
殺人は悪だというのは、人類の共通認識だ。禁忌を破れば当然報いや罰を受ける。
だが、殺人が肯定・許容されるケースというのも存在する」
そこで一旦菊地は言葉を切り、綾乃の反応を窺う。
「それって……正当防衛や、緊急避難の話ですか?」
「お、よく知ってるな。それだよそれ。正当防衛に、緊急避難――これらのケースの場合、殺人は罰せられることがない。
そしてこの状況下では、正当防衛や緊急避難が当てはまる事態が多く発生すると考えられる。
自分、もしくは他者の権利が不当に侵害されようとしている場合、それを守るための必要性ある行動は正当防衛とみなされ、罪に問われない。
殺されそうになったから、相手を返り討ちにした。過剰防衛だと判断されるかもしれないが、本来の殺人という罪に対して、罰は軽減される」
- 29 :
- 緊急避難の例話として、カルネアデスの板という問題がある。
とある船が難破し、乗組員たちが海に投げ出された。
一人の男は幸運にも一片の板切れにしがみつくことが出来たのだが、もう一人その板切れにつかまろうとする男が近づいてきた。
板切れは小さく、二人分の体重がかかれば二人とも沈んでしまうだろう。
そう考えた男は後から来た男を追い払い、水死させ、自分一人だけ助かった。
救助された男は殺人罪で裁判にかけられたが、状況を加味され、罪には問われなかったという。
「だから……人を殺してもいいってことですか」
「人を殺してもいいだなんてことはない。人を殺しても、状況によっては許されるってだけの話だ。
しかもこれはオレたちが知ってる世界の事例だからな、この世界でも適用されるかはオレにもわからん」
「でも、いくら法律で許されてるからって、やっていいことと悪いことの区別とはまた別でしょう?
……いくら許されるとしても、やっぱり私は人を殺したくなんかないです……」
殺人が許容される状況は存在する。そのことだけならば、菊地に相談する以前から知ってはいた。
だがそれでもなお綾乃は、殺人という行為そのものを許容することは出来ない。
状況が状況なのだから仕方がないと加害者になれるほど、人の良心や規律というものはあやふやなものではないと信じたかった。
「その気持ちは分かるけどな……もしお前が誰かにナイフを、銃を突き付けられたとしても、同じことが言えるのか?」
「それは……」
「杉浦の友だちが誰かに殺されそうになっていたとき、お前はそいつを助けるためだとしても、暴力という手段を否定するのか?」
「…………」
「……いや、言い過ぎたな。そうだな、こう考えてくれ。オレたちは誰かに自分の主張を伝えるとき、言葉を使うだろ。
時にはそれが、言葉以外のものになったりもする。暴力なんかにな。そして暴力ってのは、容易に言葉より強い手段になり得る。
殺人はその中でもとびきりに強い手段だよ。なんせ相手はそれ以上反対も拒絶も出来なくなるんだからな。
一方的で、理不尽で、強い手段だ。だから杉浦、おまえは殺人を否定してもいいが、それに代わるだけの手段を提示しなくちゃならない」
現代社会では殺人のカウンターとして法律があり、罰則があり、殺人という手段をがんじがらめに縛っている。
一個人が自衛の策を練らずとも、国や警察が代わりに守ってくれていた。
だがこの場所においては、各々が自らの身を守る方策を考え、実行しなければならない。
「だからオレは、考えに考え抜いた末に周りの人間全員を殺して最後の一人になろうとする選択そのものを否定するつもりはない。
それ以外に方法がないと分かれば、オレだってそれを選ぶかもしれない。
他人のそれにオレが巻き込まれて死んじまうのはまっぴらごめんだけどな」
「……私だって、理屈では分かってるんです。でも……」
「んー、やっぱり言い過ぎたか? ごめんな、杉浦の考えを責めるつもりはなかったんだ。
オレだって、杉浦の考え方は立派だと思うよ。こんな状況でも信じられる人間がいるとすれば、それは杉浦みたいな人間だと思うぜ。
だけどその考えはやっぱり甘くて脆い。いざ実際に暴力の前に晒されたとき、力の伴わない理想はあっさりと壊される。
だから……これは宿題だな。おまえがそれでもなお暴力を否定するなら、暴力に対抗できるだけの何かを見つけるんだ」
それが出来ないなら、綾乃の理想はいずれ人を。
積極的な殺人の肯定だけではなく、消極的な殺人の否定もまた誰かを可能性があるということを、綾乃は知っておかなくてはならない。
いざ岐路に立たされたとき、覚悟を以て選択したのか状況に流されたまま選ばされたのかでは大きな違いがある。
綾乃が悩むというのなら、とことん悩ませてやれればいいと菊地は思う。
悩みに悩んだ末に選んだ答えならば、きっと後悔はしない。
自分がやるべきは、安易な答えを与えることではなく、綾乃自身が納得できる答えへの道筋をそっと照らしてやることだ。
(ま……こんなエラソーなこと言ってるオレだって、自分がどうすりゃいいのかハッキリした答えなんて出せてないんだけどな)
- 30 :
- いずれは菊地自身も選ばなければならない。
破天荒な担任とクラスメイトに囲まれたおかげでクソ度胸だけはついた自信があるものの、いざ人を殺せるのかと問われれば、そんな覚悟などまだこれっぽっちも固まっていなかった。
やらなければやられるという極限状態に置かれているといわれても、実際に交戦したわけではないのだから仕方がないのかもしれない。
だが最初の戦闘において覚悟が決まっていなかったためにあっさりと殺された――なんて洒落にもならない。
懐に忍ばせた、菊地善人の支給品その2。
制服の内ポケットに入るほどの大きさの拳銃――俗にいうデリンジャーが、菊地の残る支給品だった。
予備弾薬はなく、撃てるのは最初から装填されている二発だけ。
だがその二発があれば、その気になれば二人ことだって出来る。
今のところ自衛、あるいは交渉の材料としてしか使うつもりはない――しかしこの銃を使わざるを得ない状況に陥ったとき。
菊地にとってこの引き金は、どれほど重くなるのだろうか。
やり場のない思いを抱えながら、菊地は無性にタバコを吸いたい気分になっていた。
【G-7/図書館/一日目 早朝】
【杉浦綾乃@ゆるゆり】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1〜3
基本行動方針:みんなと協力して生きて帰る
1:菊地とともに行動。放送後、海洋研究所へ。
2:第二〜第四放送の間に、学校に立ち寄る。
3:と、歳納京子のことなんて全然気になってなんかないんだからねっ!
【菊地善人@GTO】
[状態]:健康
[装備]:デリンジャー@バトルロワイアル
[道具]:基本支給品一式、ヴァージニア・スリム・メンソール@バトルロワイアル
基本行動方針:生きて帰る
1:放送までPCの操作方法に慣れる。放送後、海洋研究所へ。
2:第二〜第四放送の間に、学校に立ち寄る。
【ヴァージニア・スリム・メンソール@バトルロワイアル】
菊地善人に支給。月岡彰の部屋に山積みになっている輸入煙草。
大東亜共和国では簡単に手に入らない代物だが、現代日本では一箱440円で購入可能。
【デリンジャー@バトルロワイアル】
菊地善人に支給。原作バトルロワイアルでは月岡彰に支給されていた。
非常に小型のため持ち運びしやすく、フィクションなどではもしものときの備えとして隠し持っているガンマンも多い。
装弾数は二。予備弾薬は付属していないが、同型の弾丸があれば装弾可能である。
----
以上で投下終了です。
期限を超過しての投下になってしまい、申し訳ありません。
誤字脱字、矛盾点などお気づきになられましたら御指摘お願いします。
- 31 :
- >>30
投下乙です!
この二人は良い一般人してるなぁ
ロワで正当防衛か緊急避難という考えを思い浮かべる参加者はいても
こういう風にじっくり他参加者と議論する機会ってないから新鮮でした
そして図書館の本が元ネタ知ってるといちいち楽しすぎるw
ちなみに桜庭作品では、少女には向かない職業が一番好きです>なぜ人が人を殺してはいけないのか
あとひとつだけ。綾乃が本を何冊かディパックに入れたと描写がありますが、状態表の持ち物に書いたほうがいいのでは…
- 32 :
- >>31
御指摘ありがとうございます。
状態表に追記するのを忘れていました。wiki収録時に修正しておきます。
- 33 :
- そろそろ時期も良い頃だろうということで、一つ提案があります。
現在かなりのキャラが早朝の時間帯まで書かれており、深夜、黎明の時間帯のキャラもこのまま放送を迎えても問題無いと思われる状態です。
そこで第一放送以前のSSの投下期限を五月末日までとし、六月以降は第一放送後のSS投下を解禁しようと思うのですがどうでしょうか?
◆j1I31zelYA氏をはじめ、他の書き手の皆様の意見を聞きたいです。
もし放送前のネタを考えている方がいれば、あと二週間の内に頑張って投下まで……!w
いや、個人的には放送が投下されたあとに「実は放送前にこんなことがあったんだよ」と放送前の出来事を描くSSがあっても全然問題無いと思っているので、そこまで焦らなくともいいんですが。
- 34 :
- >>33
個人的には賛成です。
必ずしも全員を早朝まで進めなきゃいけない必要はありませんし、
放送前のSSが有りならいくらでも描きようはあると思いますし
こちらとしても、放送前に書いておきたかった話は全て投下し終わってますので
- 35 :
- おお、いよいよ放送行くのか
wktkだなw
- 36 :
- 胸熱だな
- 37 :
- 特に反対もないようなので、六月一日の0:00をもって第一放送後パートの予約を解禁します
ところで誰か放送SSを書いてみたい方はいらっしゃいますか?
今から一週間ほど様子を見て、誰もいないようでしたら自分が書くつもりなんですが、
自分が書くと本当に死者の読み上げだけの業務連絡話になってしまうと思います
舞台裏だとか伏線だとかを仕込みたいという方がいれば名乗り出たほうがよろしいんじゃないかなーってw
- 38 :
- そろそろ放送だな
- 39 :
- 仮投下が来ていたので代理投下します
- 40 :
- 僕が彼を見つけたとき、その場にへたり込んでいて、とても危険に見えた。
危険というのは誰かを襲おうとしているとか、今すぐ処置をしないといけない大怪我を負っているわけでもない。
例えるなら、何かの刺激ですぐ自殺してしまいそうな、そんな危うさだった。
まるで――少し前の僕みたいな。
彼には僕のことが見えてなかったみたいで横から声をかけたら肩がびくんと跳ねた。
「驚かせてごめん、僕は殺し合いなんかに乗ってないから安心して。それで、君に、何があったの?」
本来なら名前とかそういうのを聞くべきなんだけど、あえて単刀直入に聞いた。
多分、それを一番最初に聞いた方がいいと思ったから。
彼は今にも泣き出しそうな顔で、
「俺が……俺が、日向を……」
日向っていうのはアドレス帳にあった日野日向って人のことかな……
でも「俺が」ってどういうことなんだろう?
僕が聞く前に彼の方から続きを言ってくれた。
「俺が、日向を殺したんだ……!」
「え……?」
俺が殺したって?
ならなんでそこまでショックを受けているんだろう。
事故で死んでしまったとか?
そこで、僕は彼の傍らにあった携帯電話に気がついた。
開いたまま放置されていて画面が真っ黒になっている。
「これ、いいかな?」
一応断ってから携帯電話を手に取る。
僕だけ立ちっ放しというのもなんだから、隣に座り込んだ。
電源が切れていたのではなく、スリープ状態になっていたみたいで、適当に何かのボタンに触れた拍子に画面が明るくなる。
出てきたのはメモの画面みたいだけど……この内容って
「こんなの……納得できるわけないじゃないか」
彼――名前を植木というらしい――確かにここにあるのが本当だとしたら「殺した」の意味もわかる。
だからって、この文章だけで死を突きつけられたって?
でも、他にここまでショックを受けるような理由が見当たらない。
――ということは事実なんだろうか。
確認した方がいいのかな。
「植木君……でいいんだよね、ここに書いてあるのは本当なの?とても信じられないんだけど……」
「……未来日記の予知は全部本当だって、日向が言ってた」
未来日記?
初めて聞く単語だ。
だけど、予知、ということは、つまり、そういうことなのだろう。
これを見る限り植木君も僕と同じでこの殺し合いを止めたいと思ってる人間なんだ。
きっと協力しあえるかもしれない。
「――僕もね、植木君と同じなんだ。
力があったのに、あるとき間違えちゃって取り返しのつかないことになって……
でも、そのときの決断を間違ってたとは思わないんだ。
だからこそ、この殺し合いを止めたいと思ってる。
植木君は――どうなの?」
細部をひどくぼかした、抽象的な言葉になってしまった。
それでも、どこかに響いたみたいで、返事をくれた。
- 41 :
- 「俺も、殺し合いを止めたい……
だけど、今の俺には力がないんだ。
力があれば、バロウを止められたかもしれない、
日向が死ななくて済んだかもしれないのに――」
「なら、ますます僕と一緒だね。
今の僕はエヴァも何もないただの中学生なんだ。
それでも、まだ手遅れなわけじゃない。
今からでもこんな馬鹿げた殺し合いを止められると思うんだ。
一緒に、殺し合いを止めようよ!」
最後は自然と力が入ってしまった。
わざわざ座ったのにいつの間にか立ち上がってしまっている。
けど、この「予知」には殺されるのをわかってて逃がしたようなことが書かれていた。
きっと、植木君が殺し合いを止めるのに必要な人間だったから日向さんは自分を犠牲にできたのだろう。
だとしたら、いつまでもここで落ち込んでていいわけがない。
「俺なんかで……いいのか?」
「もちろんだよ。
それに今もどこかで誰かが襲われているかもしれない。
少しでも早く行動した方がいいと思うんだ。
――日向さんのためにも」
日向さんの名前を出したら雷に打たれたような顔になった。
普通はそうだろう。
傷口を抉るようなものだ。
だからといって放っておくわけにもいかないんだ。
「日向さんは植木君のためを思ってここまで逃がしたんだろう?
今するべきはここで落ち込むことじゃなくて殺し合いを止めることだと思うんだけど、違うかな?」
「そう……だな。
その通りだよな」
どうやら、立ち直ってくれた……のかな。
「おし、日向のためにも絶対止めてやるぞ!」
前触れもなく立ち上がって叫んだ。
きっと、もう大丈夫だろう。
でも、ちょっと声が大きすぎないかな……
「……あ、そういえば俺お前の名前聞いてねえぞ」
「あ……確かに言ってなかったね。
僕は碇シンジ、シンジでいいよ」
「俺は植木耕助だ、よろしくな」
「ちょっと移動しない?
考えたくないけど近くに危険な人がいたら今の声を聞かれてるかもしれないし、
適当な民家とかでいいからさ」
言ってから気付いたけどこれ家宅侵入だ……
そうでなくとも、普通に考えたら鍵がかかってるよね。
とりあえず目に付いた一番近くの民家を確かめてみる。
鍵はかかっていなかった。
地図を見る限り第三新東京市とは違う場所のようだし、わざわざ殺し合いのために作ったとか?
「シンジ、どうしたんだ?急に立ち止まって」
考え込んでいたら声をかけられた。
- 42 :
- 「ちょっと考え事をね……中に人はいなさそうだしとりあえず入ろうよ」
この殺し合いは謎が多すぎる。
他の参加者とも情報交換をしたいな……
でも、まずは支給品を確認しよう。
僕は植木君と一緒に民家に入った。
◆
「えっと、植木君たちは次の神様を決める戦いがあって、そこで佐野って人やヒデヨシって人とチームを組んで戦っていた、と」
「その通りだ」
支給品の確認とともに情報交換をして能力者バトルのことを聞いたんだけど、なんというか、荒唐無稽な内容だった。
まあ、エヴァや使徒のことも負けず劣らず夢物語のようだとは思うけど。
そして、植木君の支給品が二つと日向さんの支給品が一つと僕の支給品が三つ。
植木君には怪獣の着ぐるみとテニスのラケットが支給されていた。
着ぐるみには見覚えがあったらしく、真っ先に頭を外して中身を確認してた。
聞くところによると中によっちゃん(植木君を担当している神候補らしい)が入っていたんだとか。
ラケットはいたって普通のラケットだった。
持っておいて損はないだろう――少なくとも着ぐるみよりは。
日向さんのデイパックに入っていたのは目印留というシールが20枚。
貼った本人しか剥がせないという特殊なシールらしいけど今のところ使い道は見当たらないかな……
僕の支給品は拳銃と3本セットのペットボトルと一枚のメモ。
拳銃は正式名称がニューナンブM60といって警察で使われているものと同じ種類らしい。
使徒との戦いのときに陽電子砲を撃ったことはあるけど、今回銃口を向けるのは使徒じゃなくて人間だ。
護身のためであってもできれば使いたくない。
デイパックにしまっておこう。
赤、青、黒のおどろおどろしい液体が入っているペットボトルの説明書には乾汁セットBと書かれている。
赤がペナル茶、青が青酢、黒が粉悪秘胃という名前だそうだ。
試しに青酢のペットボトルを開けてみたら涙が出た。
開けただけなのに。
別の意味で使いたくない……
これもデイパックに封印しよう。
そして、メモには『探偵日記』の説明と電話番号。
さっき植木君が話した未来日記のことと同じなのかな?
「植木君はさ、日向さんから未来日記の契約の仕方って教えてもらったりした?」
「いや、俺はそういうのは聞いてねえ」
植木君も知らないのか……
ちょっと怖いけど、番号に電話してみる。
「ムルムルじゃ。用件はなんじゃ?」
すぐ反応があった。
かわいらしい女の子の声で、最初に聞いた男の声とは全く違う。
「碇シンジだけど、この番号に電話することで『探偵日記』と契約できるんだよね?」
「その通りじゃが今すぐ契約するのか?」
「いや、先にいくつか聞きたいことがあるんだけど……」
「答えられる範囲でならいくらでも答えるぞ、好きなだけ聞くがよい」
「『日記所有者の行動を予知する』って書いてあるけどただ日記を持ってるだけじゃ予知の対象にならないんだよね?」
「うむ、契約済の未来日記所有者しか予知することはできんから気をつけることじゃ」
「じゃあ、予知できる範囲はどれくらいの広さになるの?」
「所有者がいるエリアのみじゃな」
「なるほど……」
- 43 :
-
探偵日記についての質問はこれで終わり。
壊されたら死ぬということもないらしいし(ということは壊されたら死ぬという未来日記が他にあるのだろうか)、契約しても問題はなさそう。
そこに、一つの考えがよぎる。
「質問はこれで終わりか?」
「えっと、もし今ここで探偵日記と契約して、それからこの電話で他の日記の契約の電話番号に電話したらどうなるの?」
「あー、それはできんのう。基本的に一台につき日記は一つじゃからな」
一台につき一つ……じゃあ他の電話から電話すれば一人で複数持つこともきるのかな。
「わかった。探偵日記と契約するよ」
「了承した。新しい日記所有者『碇シンジ』よ、お主の健闘を祈っておる」
ザザ…ザ…とノイズが入る。
メモ帳を確認したら確かに予知が書かれていた。
「シンジ、終わったのか?」
僕が電話をしている間待っててくれた植木君が声をかけてきた。
「うん、待たせてごめんね」
「いや、気にすることねえぞ」
「それで、ちょっと確認したいことがあるからもう一回電話したいんだ」
「もう一回電話?シンジはもう日記と契約したんだろ?」
「そうなんだけど、こっちの探偵日記じゃなくて友情日記の方だよ」
「つまり……どうなるんだ?」
「僕も完全にわかっているわけじゃないんだけど……とにかくやってみた方が早いかも」
友情日記の発信者履歴を見ると、一つだけ番号があった。
これが契約のための電話番号でいいんだろう。
「ムルムルじゃ。用件はなんじゃ?」
さっきと同じでムルムルと呼ばれた少女(だよね?)が出た。
「碇シンジだけど、友情日記と契約できるかな?」
「もちろんできるぞ」
あれ……?
今し方電話したばかりなのにそれについては聞かないのかな。
「でも、予知の範囲について先に聞いておいてもいいかな」
「うむ、何なりと聞くがよい」
「友情日記には友達なら誰でも予知の対象になるの?」
「所有者がいるエリアとその周囲8エリアの合計9エリアの中にいる場合限定じゃがな」
「探偵日記よりは広いんだ……」
「む、お主なぜ探偵日記のことを知っておるのじゃ」
「……なぜも何もたった今契約したばかりなんだけど」
「あ……所有者が現れたらさっさと教えろと言ったじゃろうがバカ者!」
急に怒鳴られてびっくりしたけど、今のは僕に向けて言った言葉じゃないよね。
――と、いうことはさっき探偵日記の契約のために電話したムルムルとは別のムルムル?
しばらく小さな声で(多分受話器の部分を手で覆っているのだろう)ムルムルの口論が聞こえたけど、少し待ったらムルムルが電話に戻って来た。
「と、取り乱して失礼したのじゃ。契約するなら早くしてくほしいのじゃ」
「もう一つだけ聞きたいんだけど、もしこの電話から他の人がこの番号に電話したらどうなるの?」
「その場合は所有者の上書きになるの」
「それは何度でも可能かな?」
「まあ……システム上は問題ないの」
- 44 :
- 「ありがとう、友情日記と契約するよ」
「了承した。新しい日記所有者『碇シンジ』よ、お主の健闘を祈っておる」
さっきと同じ言葉だったけど早口で切り方も乱雑だった。
電話の向こう側で何があったんだろう……
そして再びノイズがして予知が書き換わる。
植木君の未来が予知されていたけど、他の人の予知については書かれていない。
少なくとも近くに綾波もアスカもトウジもいないみたいだ。
そういえば――二号機の中にいたあの人もいたとしたら予知の対象になるのかな……
ムルムルに確認しておけばよかった。
「今度は、何をしたんだ?」
「聞いての通り友情日記と契約したんだ。それでさ」
「今から植木君が友情日記と契約してよ」
「ちょっと待ってくれ、俺には意味がよくわからねえんだけど……
友情日記は今シンジが契約したばっかりじゃねえか」
「この日記は両方とも自分だけでなく他人のことも予知できるんだ。
探偵日記は日記所有者が対象だから変わらないけど、友情日記は違う。
もしも周りに植木君の友達がいたら予知できるかもしれないだろう?」
「なるほど、そういうことか。
俺には絶対考えつかねえよ。
あれ?……そもそもシンジが契約したのに俺がしても大丈夫なのか?」
「それは今確認したから問題ないと思う」
「よし、わかった」
今度は僕が待つ番だった。
といっても植木君の契約自体はすぐに終わったけど。
「どうだった?」
「ダメだ。シンジの未来しか見れねえ」
「そうか……」
植木君が契約したことで僕の探偵日記の予知も変わっている。
今のところ僕の日記には植木君の未来、植木君の日記には僕の未来が書かれていた。
友達の無事を確認できないのが残念だったけど、お互いがお互いの未来を予知しあう形でサポートしあえる。
「エリアを移動しない?
そうしたら新しく予知できるエリアが3つ増えるし。
そのときに日記を交換して契約し直せばいいしさ」
「日記を交換する意味がわからねえぞ?
友情日記だけ契約すればいいと思うんだけど」
「その通りだけど、一人で二つ持つと自然と両手が塞がるし二人の未来を一人に集めるのはちょっと危ないと思うから」
「まあ、シンジがそう言うんならいいぞ。それで、どっちに向かうんだ?」
「人が集まることを考えたら中央の方がいいよね……診療所とかどうかな?」
そのときだった。
携帯電話が震えだす。
時間を確認したら、6時だった。
- 45 :
- 【F-7/民家/一日目 早朝】
【植木耕助@うえきの法則】
[状態]:精神ショック(小)
[装備]:友情日記@未来日記
[道具]:基本支給品一式×2、遠山金太郎のラケット@テニスの王子様、ヨッチャンの着ぐるみ@うえきの法則、目印留@幽☆遊☆白書
基本行動方針:絶対に殺し合いをやめさせる
0:放送を聞く。
1:日向のためにももう落ち込んでいられねえ。
2:シンジと協力して殺し合いを止める。
3:日記を使って佐野とヒデヨシとテンコとマリリンも探す。
[備考]
※参戦時期は、第三次選考最終日の、バロウVS佐野戦の直前。
※『友情日記』の予知の範囲はは自身がいるエリアと周囲8エリア内にいる計9エリア内に限定されています。
※日野日向から、7月21日(参戦時期)時点で彼女の知っていた情報を、かなり詳しく教わりました。
※碇シンジから、エヴァンゲリオンや使徒について大まかに教わりました。
【碇シンジ@エヴァンゲリオン新劇場版】
[状態]: 健康
[装備]: 探偵日記@未来日記
[道具]:基本支給品一式、ニューナンブM60@GTO、乾汁セットB@テニスの王子様
基本行動方針:エヴァンゲリオンパイロットとして、殺し合いには乗らずにアスカ、綾波、トウジを助ける
0:放送を聞く。
1:アスカを探しだして謝罪。信用を取り戻す。
2:植木君と協力して殺し合いを止める。
3:日記を使って綾波、トウジを探す。植木君の他にも、信用できる人がいれば協力を頼みたい。
[備考]
※参戦時期は第10使徒と交戦する直前。
※アスカがどちらの方向に逃げたか、把握していません。
※『探偵日記』の予知の範囲はは自身がいるエリアと周囲8エリア内にいる計9エリア内に限定されています。
※植木耕助から能力者バトルについて大まかに教わりました。
- 46 :
- 【ヨッチャンの着ぐるみ@うえきの法則】
植木耕助に支給。
神候補淀川(よっちゃん)がうえき達に媚びを売るために色々送り付け、最後の仕上げによっちゃん自身が入りサプライズをしようとしていたが……
もちろん中によっちゃんは入っていない。
【遠山金太郎のラケット@テニスの王子様】
植木耕助に支給。
やはり作中では超常現象を起こしているが、あくまでも普通のラケットである。
【目印留@幽☆遊☆白書】
日野日向に支給。
霊界探偵七つ道具の一つ。
貼った者の気紋を記憶し、その当人(またはその気紋をコピーした者)にしか剥がせない。
20枚入り。
【探偵日記@未来日記】
碇シンジに支給。
孫日記所有者『秋瀬或』の日記。
日記所有者の行動を予知する未来日記。
このロワでは、予知の範囲が同じエリア内と周囲8エリアの計9エリア内にいる契約済みの未来日記に限定されている。
【ニューナンブM60@GTO】
碇シンジに支給。
装弾数5発。
日本の警察官が一般的に使っている拳銃。
勅使河原が学校籠城事件を起こした際に、警官から奪ったもの。
【乾汁セットB@テニスの王子様】
碇シンジに支給。
中身はペナル茶と青酢と粉悪秘胃(各500ml)。
ペナル茶はまだ一般人でも飲むことができるが青酢以降は不二ですら卒倒する代物。
これがBだということはAやC以降も存在する……?
- 47 :
- 失礼、間違えました
>>45以降はこちらが正しい本文になります
――――
【F-7/民家/一日目 早朝】
【植木耕助@うえきの法則】
[状態]:精神ショック(小)
[装備]:友情日記@未来日記
[道具]:基本支給品一式×2、遠山金太郎のラケット@テニスの王子様、よっちゃんが入っていた着ぐるみ@うえきの法則、目印留@幽☆遊☆白書
基本行動方針:絶対に殺し合いをやめさせる
0:放送を聞く。
1:日向のためにももう落ち込んでいられねえ。
2:シンジと協力して殺し合いを止める。
3:日記を使って佐野とヒデヨシとテンコとマリリンも探す。
[備考]
※参戦時期は、第三次選考最終日の、バロウVS佐野戦の直前。
※『友情日記』の予知の範囲はは自身がいるエリアと周囲8エリア内にいる計9エリア内に限定されています。
※日野日向から、7月21日(参戦時期)時点で彼女の知っていた情報を、かなり詳しく教わりました。
※碇シンジから、エヴァンゲリオンや使徒について大まかに教わりました。
【碇シンジ@エヴァンゲリオン新劇場版】
[状態]: 健康
[装備]: 探偵日記@未来日記
[道具]:基本支給品一式、ニューナンブM60@GTO、乾汁セットB@テニスの王子様
基本行動方針:エヴァンゲリオンパイロットとして、殺し合いには乗らずにアスカ、綾波、トウジを助ける
0:放送を聞く。
1:アスカを探しだして謝罪。信用を取り戻す。
2:植木君と協力して殺し合いを止める。
3:日記を使って綾波、トウジを探す。植木君の他にも、信用できる人がいれば協力を頼みたい。
[備考]
※参戦時期は第10使徒と交戦する直前。
※アスカがどちらの方向に逃げたか、把握していません。
※『探偵日記』の予知の範囲は自身がいるエリア内に限定されています。
※植木耕助から能力者バトルについて大まかに教わりました。
- 48 :
- 【よっちゃんが入っていた着ぐるみ@うえきの法則】
植木耕助に支給。
神候補淀川(よっちゃん)がうえき達に媚びを売るために色々送り付け、最後の仕上げによっちゃん自身が入りサプライズをしようとしていたが……
もちろん中によっちゃんは入っていない。
【遠山金太郎のラケット@テニスの王子様】
植木耕助に支給。
やはり作中では超常現象を起こしているが、あくまでも普通のラケットである。
【目印留@幽☆遊☆白書】
日野日向に支給。
霊界探偵七つ道具の一つ。
貼った者の気紋を記憶し、その当人(またはその気紋をコピーした者)にしか剥がせない。
20枚入り。
【探偵日記@未来日記】
碇シンジに支給。
孫日記所有者『秋瀬或』の日記。
日記所有者の行動を予知する未来日記。
このロワでは、予知の範囲が同じエリア内にいる契約済みの未来日記に限定されている。
【ニューナンブM60@GTO】
碇シンジに支給。
装弾数5発。
日本の警察官が一般的に使っている拳銃。
勅使河原が学校籠城事件を起こした際に、警官から奪ったもの。
【乾汁セットB@テニスの王子様】
碇シンジに支給。
中身はペナル茶と青酢と粉悪秘胃(各500ml)。
ペナル茶はまだ一般人でも飲むことができるが青酢以降は不二ですら卒倒する代物。
これがBだということはAやC以降も存在する……?
――――
代理投下終了です
- 49 :
- 投下&代理投下乙です!
なんという未来日記のバーゲンセールw
まさかシンジがこんなに頼りになるだなんて、さすが新劇仕様のシンジさんは一味違うぜ!
植木と二人、正統派主人公コンビということで頑張って欲しいところですな。
はたして乾汁が猛威を振るうときは来るのだろうか……ゴクリ……
遅れましたが放送案を投下します
- 50 :
- 会場に存在する全ての携帯電話が一斉に音を鳴らす。
メロディではなく、単音を繰り返すアラーム。
着信音は五秒ほどで消え、参加者たちが通話ボタンを押さずとも自動的に通話状態となった。
携帯電話から聞こえてくる声は、六時間前にこの催しの説明をした声と同一。
「――これより、第一回目の放送を始める。
その前に一つ注意をしておくが、この放送は一度しか行われない。
内容を聞き逃してもこちらから再度情報を提示することはない――それを踏まえた上で、心して聞くが良い。
まずはこの六時間で死亡した者の名前を読み上げる。
――桑原和真。
――佐天涙子。
――渋谷翔。
――園崎詩音。
――手塚国光。
――日野日向。
――真希波・マリ・イラストリアス。
――マリリン・キャリー。
――雪村螢子。
以上の9名が早くも脱落した者たちとなる。残りは42名――あと41人死ぬまで、この催しは続く。
早く楽になりたいのなら、今隣にいる者と殺し合うことだ。最後の一人となる以外に、ここから解放される術はない。
さて――次の放送はまた六時間後となる。それでは変わらず殺し合いに励んでくれたまえ、諸君」
告げることだけを告げ、声からの一方的な通話は終了する。
放送を挟んだところで何も変わりはしない。中学生たちの殺し合いは、未だ終わりも見えぬまま、ただただ続く。
【一日目午前六時】
【残り42人】
- 51 :
- 短い&シンプルですが、これで問題ないようならおよそ三時間後の6月1日0:00に放送後SSの予約解禁となります。
書き手数的に予約合戦とはならないような気もしますが、みんなでドキドキしながら解禁を待ちましょう!
- 52 :
- >>51
自分はこれで構わないと思いますよ
しかし、禁止エリアのないロワとは新鮮だ
- 53 :
- では、放送後一話目、予約をした四人で投下します
- 54 :
-
【0】
「近くで見ると、高いっスね……」
「ええ……」
「どーしましょうか。全部の階を見て回ったりしたら、学校には間に合いそうにないっスよ」
「そうね……」
「今回はざっと見て回るだけにしますか。……怪しい部屋がすぐ分かればいいんスけど」
「監視カメラがある部屋なら……? それらしい場所を探せるかも、しれないわ」
「でもこういう色んな施設がある建物って、防犯を仕切る場所もばらばらに作ってあったりしますよ。
あの合宿所も、警備会社を雇うのとは別に監視カメラを……何でもないっス」
「詳しいのね」
「まぁ、こういうことに慣れてなくもないと言うか……」
「潜入捜査の経験が?」
「泥棒でしたけどね…………(ボソ)酒を盗みに行かされたなんて言えないし」
「……?」
「とにかく! ……まずは最上階に行きましょーか。見晴らしも良さそうだし」
「さっき案内板を見たけど、北塔の最上階は市長室だったわ。そこなら?」
「悪くないっスね。市長の部屋なら、ここがどこなのか分かるかもしれないし」
そんな会話を交わして、しばらくの時間が流れた。
空が、薄い水彩絵の具を少しずつ垂らすように、ゆっくりと白みはじめていた。
白さをますにつれて、未明の林道は木々の輪郭をはっきりと、濃くしていく。
浮かびあがる景色の中で、ひときわ目立つ双子の塔があった。
夜露の冷やかな匂いが薫る林道脇のベンチに、綾波レイは深く背中を預ける。
ぼんやりと、『ビル』という簡素な名前を戴いたツインタワーを見上げた。
およそ30階はあるだろうか。10階のあたりと、25階のあたりに、二つのタワーを繋ぐ連絡橋がかかる。
ここまで近づくと、首を痛くなるほど傾けなければ天辺まで見えない。
市街地の開発に取り残された広葉樹林の一帯で、とても都会的なその高層ビルだけが、いびつなほどに浮き上がって見えた。
もう少し時間がたち朝日がのぼる時間になれば、より遠くのエリアからでも、この異質な建造物を目にすることができるだろう。
そう、あと十数分かそこらで、午前6時という区切りがやってくる。
定時放送、という儀式が起こる。
何も考えず、さっさとビルの中に入ろうとしたレイを制止したのは越前リョーマだった。
放送まで時間がせまっている。そして、建物の中の電波状況もよく分からない。
電波の届きにくい場所で放送が始まったりしたら、大事な知らせを聞き逃しかねない。
建物の中に先客がいて、接触に時間を取られる可能性もある。探索は探索、放送は放送で集中した方がいい。
正論だった。民間人とは思えないほど落ちついている。
出会ってから今までも、どちらかと言えば彼に助けられたことの方が多い。
やはり協力者は必要だと実感した一方で、どう距離をとればいいんだろうという緊張も強かった。
同年代の、しかもどちらかと言えば年下の少年と交流した経験なんて、皆無に等しい。
- 55 :
- 支援
- 56 :
- 支援
- 57 :
- そんな彼はというと、付近の自販機を壊して入手したミネラルウォーターとスポーツ飲料をディパックにつめこんでいた。
ディパックをのぞきこもうとするペンペンと仲良く口論(?)をする。
「くぁーくぁー?」
「言っとくけど、ビールはないから」
「ぐぎゃー!!」
「自販機にビールがあるわけないじゃん。だいたいファミレスでも飲んだくせに」
「ぐぎゅ……」
こういう会話を見る限りでは、ペンペンと鈴原トウジのやり取りを思い出す。
記憶にある比較できる思い出は、その程度しかなかった。
少年は予備の水分をたっぷり確保すると、ベンチの右端にどっかと腰かける。
手元に残した『Fanta』という銘柄のジュース缶を開けて、飲みはじめた。
ちなみにレイの両手にも、自販機から取ってもらった『あったかい』お茶のボトルがある。
こくこくと、小さな嚥下の音。
そして訪れる、沈黙の時間。
「……………………越前くん、ひとつ聞いてもいい?」
「何スか?」
放送までの数分間。
行動を起こすには時間が足りていないが、緊張を保ちながら待つだけでは、余りにも長い。
焦燥をまぎらわす手段として、レイは初めて自分からの会話を切りだした。
「例えば……の話」
「はぁ」
「もし、『あなたが帰らないと人類が滅びる』って、言われたらどうする? 殺し合いで優勝して生還する?」
「それって……式波さんのことっスか?」
「……そう」
二号機パイロットの少女は、『人類を守るために生還する』と言っていた。
そんな少女と次に出会った時に、どんな話をすればいいのか、レイには分からない。
そもそも綾波レイは、人類を守る為にエヴァに乗っていたわけではなかった。
パイロットとしての生き方以外が、用意されていなかったからだ。
だから、アスカの言い分に対抗できるだけの言葉を持ち合わせていない。
ならば、彼女と同じく『エヴァに乗る以外の生き方がある人』なら、彼女の気持ちが分かるかもしれない。
「綾波さんはその辺どう思ってるんスか? 綾波さんもパイロットなんでしょ?」
「エヴァには……バックアップがあるから。パイロットにも、操縦者にも」
「なら心配しなくてもいいじゃないスか」
「でも、あの人はそう思ってないかも……」
バックアップがいるとは赤木リツコの言葉そのままだったが、この言葉は正確じゃない。
綾波レイがパイロットとして生きていること自体、碇ゲンドウが望んでくれたからだけに過ぎない。
その役割にしても、絶対に綾波レイでなければならないということはない。
――私が死んでも、代わりはいる。
だからここにいるレイが生還できなくても、人類がどうにかなったりはしない。
- 58 :
- 支援
- 59 :
- 支援
- 60 :
- 支援
- 61 :
- リョーマは、ちょっとだけ考えこんでいた。
「俺は、命令されて不特定多数のために戦わされたことなんてないから、そこんとこは分かりませんけど」
ペンペンの頭を、触りごこちがいいのかさわさわと撫でて。
「でも俺、元から生きて帰るつもりだったよ」
顔をあげ、射ぬくような眼つきでレイを見据える。
出会ったばかりの時も同じ視線を向けられたけど、その時は何も感じなかった。
けれど、ファミレスで他人を見ようと意識してからは、逆に向けられる視線が怖くなる。
レイの人を見る眼は貧弱なのに、リョーマの眼力はとても強く、そして誰にも臆することがなかった。
この人は強いのかな、弱いのかな、と中身を見抜かれている気さえしてくる。
「だから、誰かに生きて帰れって言われなくても変わらないっスよ。
今だって生きて帰るつもりだし、それでも殺し合いするつもりはない。
だからパイロットだったとしても、同じなんじゃないっスか?
つーか、人殺しになって帰ろうってのに、正義の味方ヅラされるのってムカつく」
自分が帰れなかった場合に死ぬ大勢を軽視したとも取れる回答。でも、そうじゃないことは伝わった。
自分自身の生きたいという意志を、人類の存亡という大義名分のもとに無視されたくないという意地なのだろう。
それはつまり、自分の命に価値があると、当たり前に自信を持っているということだ。
「生きて帰ったら、やりたいこと、あるの?」
だから、もっと詳しく聞いてみようと思った。
「そーっスね。戦ってみたい人もいっぱいいるし、出たい大会もあるし、一緒にやってきた人たちもいるし。
U−17選抜が終わったら、世界もまだまだ見て回りたいし。行ってみたい場所とかもけっこうあるし……」
楽しそうに、自分がやりたいこと、実現可能な未来の夢をいくつも挙げていく。
そして、それらは『エヴァに乗らない幸せがある人』の夢だった。
世界。
行ってみたい場所。
自分の命には価値があるという自信。
どこにでも行けるし、やりたいことができる人なのだ。
ネルフという、囲われた水槽の中でしか生きていけないレイとは違う。
しかし、二号機の少女は、エヴァを唯一の居場所だと主張していた。
彼の答えでは、彼女の参考にはならないか。
「あの人は、エヴァに乗る以外のやりたいことがなかったのかも……私とは違うのに」
「どう違うんスか?」
「皆と違うのは、私の方。私は、エヴァに乗る以外のことで必要とされていないから。
私も、エヴァを通してしか人と繋がれないから」
そう言えば。
父親の言うことを聞いて初めて絆ができるなんておかしいと、この少年は言っていた。
今になって、なんとなくその意味が分かる。
彼はきっと、誰の命令をきくこともなく絆をつくってきたのだ。
好きなことを介した繋がりとか、己の道を切り開く力とかで、自分の居場所を見つけてきたのだろう。
- 62 :
-
- 63 :
-
- 64 :
-
- 65 :
-
「意味がよく分かんないんスけど……」
リョーマはけげんそうに眉をひそめ、半ば苛立つように、
「それって、勝手に自分で限界を決めこんでるだけなんじゃないっスか。
綾波さんみたいなこと言う人なら割と見ましたよ。やる前から『どーせ自分には無理だ』って言ってるの」
――カチン
頭の中で、そんな音がなった気がした。
どうして出会って数時間の人間に、ここまで言われるんだろう。
ヤシマ作戦の少し前、ゲンドウに冷淡だったシンジを叩いたときのような、むかむかした気持ちになる。
何も知らないのに、私が持てないものをこの人は当たり前に持っているのに。
言葉にすれば、そういう言い分になる感情。
「だって、私はやり方を知らないもの。誰も、それ以外を求めなかった。
私は人形じゃなくて、自分の意志でエヴァに乗ってて、それで十分」
考える前に、感情が言葉を出していた。
私は人形じゃない。
そんな言葉が出て来たのは、二号機の彼女との喧嘩が頭にあったからかもしれない。
「だったら、ここにいるアンタは何なんスか?」
ビシッ
持っていた棒を先端で持って、教えさとすようにレイに向けた。
率直。闊達。不遜。野放図。そんな語彙が想起される。
「ここに使徒っていう怪物はいないし、綾波さんにエヴァに乗れって言う人もいないんでしょ?
なら、綾波さんは俺らと違わないじゃないっスか」
パリン、と。
レイの心を、覆っていた何かが、砕ける音がした。
なんでだろう。
この少年と違わない。
そんなことあるはずない。
他人からどう言われようと、水槽の中の魚だという現実は変わらないのだから。
けれど、その通りなのだ。ここには碇ゲンドウもエヴァもいない。
エヴァンゲリオンのパイロットだなんて身分は、何の役にも立たない。
それでもレイは、シンジを助けようと動いている。
その為に、他者と関係を築こうとしている。
自分の意志で動き、自分の希望で、絆を作ろうとしている。
「私が……」
- 66 :
-
- 67 :
-
- 68 :
-
エヴァンゲリオンのパイロットでも碇ゲンドウの道具でもなく、
ただの人間として生きている綾波レイは、ここに存在している……。
「私が死んでも、代わりはいないの……?」
今、ここにいて、碇シンジを守ろうとしている綾波レイに代わりはいない。
代わりを用意する大人がいない。
「いないに決まってるじゃないっスか」
リョーマが当然のように頷く。
手がかたかたと震える。
ペットボトルの中のお茶が揺れる。
この震えは何だろうか。
興奮?
驚愕?
あるいは、喜び?
でも、恐怖でないことだけは確かだ。
自分の常識を、いとも簡単に打ち壊した少年を見つめる。
彼は、自分の言葉がもたらした化学反応に、思いのほか戸惑っているようだった。
言いたいことは言ったとばかりに、Fantaの残りを飲みきりつつ、携帯を開いて時間を確認する。
落ちついているように見えて、彼も『放送』とやらに緊張しているのかもしれない。
――それが、放送の始まる少し前に交わされた会話だった。
平穏でいられるのも今のうちだということを、彼らは知らない。
【1】
『さて――次の放送はまた六時間後となる。それでは変わらず殺し合いに励んでくれたまえ、諸君』
- 69 :
-
- 70 :
-
- 71 :
- 支援
- 72 :
-
碇シンジの名前は、呼ばれなかった。
それはつまり、彼がまだ生きているということだ。
安堵らしき感情が、レイの心をいっぱいに満たす。
……良かった。
それでも、死亡者の多さは深刻だった。
全参加者の約五分の一が死亡。このペースで殺し合いが進行すれば、二日もかからずに最後の一人が決まってしまう。
時間はそんなに残されていないのかもしれない。
……早く、碇くんを見つけないと。
決意を新たにすることで、生まれた焦燥を押し。
そんなことに一喜一憂していたから、気づくのが遅れた。
「ぶ、ちょう……?」
死亡者を読み上げる途中で、少年が呆けたような表情へ変わったことに。
『驚く』以外の反応を停止して、口を半開きにしている越前リョーマに。
部長。
かろうじて聞きとれた言葉で、記憶が繋がる。
リョーマが、『部長』と呼んでいた人物。
手塚国光。
出会ったばかりの時にした情報交換と、二号機の少女に説明した時と、ファミレスでの情報交換と、三度も名前を聞けば、さすがに思い出せる。
知り合いの中でも、最も親しい関係だった、らしい。
その名前が、放送で呼ばれていた。
その名前が、リョーマを『停止』させている。
それはこういう場合に起こり得る、顔から血の気が引くだとか、ショックを受けた顔とは違っていて、
ただ『停止している』という風に見えた。
まるで、その言葉が頭に浸透するのに、すごく時間がかかっているみたいに。
目を見開いて、口を半開きにして。
それが、さっきまでの自信満々な姿とはだいぶ印象が違っていて、
レイはうっすらと恐怖めいた感情を覚える。
実際の時間にして、ほんの数秒のことだっただろう。
やがて、リョーマの口は言葉を取り戻した。
その口が、動いて形作った言葉は。
「嘘……」
信じられないという、現実の否定。
「あの……」
その拒絶は、何だか良くない兆候のように見えて、
レイは、声をかけなければと思った。
- 73 :
-
- 74 :
- けれど、何を言えばいいのかが分からない。
ヤシマ作戦の時に弱音を吐くシンジを見たことはある。
でも、あの時のシンジはレイが知らないところで葛城ミサトに慰められていた。
どういう言葉をかけるのが適切なのか。想像する力は、いまだレイには欠けている。
だから、真実だと思われることを口にした。
「たぶん、嘘じゃない。そんな嘘ついてもすぐにばれるし、動揺を狙うなら他に有効な手段はあるから」
「嘘だっ!!」
噛みつくように、叫ばれた。
その表情は、感情の機微に疎いレイにも必死に見えて、剣幕にたじたじとなる。
リョーマのそばにいたペンペンが、怯えて5歩ばかり後退した。
「あ……」
一人と一羽の反応に対して、その顔に浮かんだのは、後悔の色。
自分で自分の叫び声に驚いて、正気を取り戻したみたいに。
まるで、自分でも言うつもりがなかったことを、言ってしまったみたいに。
ガラにもなく駄々をこねてしまった、大人びた子どもがするように、
帽子のツバをずらして、表情を隠し。
「……ごめんなさい」
頭を下げる。
そして、頭を上げる。
帽子で隠れたまま、どんな顔をしているかがうかがえない。
気まずい沈黙は、三十秒も続かなかった。
ガタン、と音を立てて。
リョーマは、ベンチから無造作に立ち上がる。
そのまま、どこかにスタスタと、道をそれて歩いていこうとした。
5メートルほど歩きかけたところで、はたと、レイを思い出したかのように引き返し。
「しばらくしたら、戻るから。今は一人にさせて、ください」
声が震えるのを押さえつけるように、短く区切るようにして言った。
ビルに向かうんじゃなかったのとか、そんなことが言える空気ではなかったし、
さすがのレイもそこまで空気が読めないわけではない。
「ぐぎゃー!」
ペンペンがとがめるような声をあげ、リョーマを追いかけようとした。
しかし、リョーマの左手に押し帰される。
「綾波さんを見てて」
そう言われると、ペンペンは納得したように引きさがる。
鳥頭にも、知り合いの女性――レイのことだが――を一人きりにするのが不味いぐらいは分かるらしい。
そしてリョーマにも、それだけの自制をきかす余力はあるらしい。
申し訳なさそうに一度だけ振り返ると、彼は木々を縫って姿を消した。
姿が見えなくなると、レイは胸に手を当てる。
ゆっくりと、深呼吸。
怒鳴られたことによる鼓動の加速は、まだおさまりきっていなかった。
謝られてしまったけれど、怒ってはいない。
むしろ、リョーマの『弱さ』を見たことに対する驚きが強い。
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- 恐ろしいぐらい冷静で、我が道を行く強さを持った人間だと思っていた。
それでも、ネルフに来たばかりの頃のシンジがそうしていたように、弱い一面を見せることがある。
もしかしたら、彼と自分たちはそこまで違わないのかもしれないと思いなおし、
ほんの少し前に言われた『違わない』という言葉が意識される。
越前リョーマは、『手塚国光』という人物が死んだことで、衝撃を受けたように見えた。
それはつまり、それだけ親しい相手だったのかもしれない。
……もし、碇くんの名前が呼ばれたら、私はどうなってしまうんだろう。
碇シンジが、死んでしまった時。
綾波レイはどう思うのか。
――ダメ。
『想像さえしたくない』と心が拒絶する。
どうなってしまうか分からない。
たぶん、さっきの彼みたいに、まだ自制の効いた反応は取れないだろう。
レイを生かしている大きな要素が、失われるだろうという恐怖がある。
ひょこひょこ近づいてきたペンペンを、ディパックの中に半ば無理やり押し込んだ。
発作的な動作だったけれど、次に起こす行動は、頭にありありと思い描けた。
がたん、と乱暴に立ち上がる。
そんなに恐れているなら、いっそやろうとしている仕事を何もかも放り出して、碇くんの元へ走るべきじゃないのか。
やみくもに動いても仕方ないとかそんな理屈は無視して、碇シンジのことだけを考えて、それ以外の全てを頭から追いだした方が楽じゃないのか。
そんな誘惑が、衝動として生まれていた。
シンジがいつ死んでしまうか分からない。放送を聞いたことで、そういう焦りが生まれてしまったこともある。
――でも
ふたたび、深呼吸を繰り返した。
落ちつくように、落ちつくように、と己に言い聞かせる。
そして、ベンチに座り直した。
焦りは、ある。
だからといって、せっかく作れた絆を、放り出していいとも思えなかった。
自分一人の力だけではシンジを守れないと、その無力さを痛感したこともある。
しかし、最たる理由が、さっきの会話にあった。
リョーマの言ってくれた言葉がなければ、レイは今でも、自分を代替可能だと思い込んだままだっただろう。
そのことが、一人で走り出すことを躊躇わせた。
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- 81 :
-
しばらくここで、リョーマを待つ。
本当なら、こういう時は同行者として支えることをすべきなのかもしれないけど、
まずは『戻って来る』という言葉を信じてみよう。
時間がたっても戻らないようなら、見に行こう。
彼が戻ってきたら、予定通りにビルを探索しよう。
そう踏ん切りをつけると、レイはベンチに深く座り直した。
――結果を言えば、この待機という判断が、彼女を一人で危険人物と接触させてしまった。
【2】
歩いて、歩いて、歩いて。
さすがに、歩きすぎたかと、足をとめた。
ざわざわと、広葉樹林が朝の風にざわめく。
これ以上進むと迷うと、警告しているみたいだった。
見上げてみれば、緑葉の天蓋の隙間から、夜明け前の白い空がちらちらと見える。
高い空を首をぼーっと見上げたまま、木の幹を背もたれにして、腰を降ろす。
ずるずる、と。
腐葉土の地面に、じかに座り込む。
道中の風景すら、ろくに記憶する余裕はなかった。
まぁ、帰る時に迷子になることはないだろう。
それぐらいの距離を空けて、リョーマは一人を望んだ。
「はぁ…………」
部長が、手塚国光が、死んだらしい。
嘘だ。
嘘だと否定したのが、嘘だった。
それなのに、現実を拒絶して、本当のことを言った綾波レイを否定した。
みっともなかった。
さっきまでは、自分の方が彼女の面倒をみたつもりになっていたのに、
こんな形で、ビルに入るのを遅らせて、足を引っ張っている。
本当は、分かっている。
ここでは、殺し合いをやっていることを。
式波アスカに襲われた時、リョーマだって、一歩間違えれば死んでいた。
脳震蕩だけで済んだのは、運が良かったからに過ぎない。
だから、手塚部長が死んだって何らおかしくない。
あの部長を殺せるほど強い人がいたのかもしれないし、
あの部長を油断させられるほど弱い人がいたのかもしれない。
信じられないけど、きっと本当に死んだんだろう。
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「部長が…………もう、いない」
言葉にすると、お腹のあたりからぞわぞわっと寒気がせり上がってきた。
足を体育座りの形にして、膝に頭をのせる。
甘かった。
危険な場所だという理解なら、あったつもりだった。
殺し合いに乗っている人間にも、会った。
それでも、知っている人たちは、皆は死んだりしないと、思いこんでいた。
だって、皆、強いんだから。
テニスの試合や合宿で危険な目に遭ったことはあるけど、それだって無事に乗り越えてきたのだ。
死んでいるところなんか想像もつかないぐらい、生命力のあり余ったヤツらだったから。
今回だって、一人も欠けることなくいられると、楽観していた。
どんな風に死んだか、死因の説明でもしてくれたら、また違ったのかもしれない。
でも、電話口の声だけで、脱落者として呼ばれただけで、実感など得られはしなかった。
ましてや、あの手塚部長だったから。
思い返せば、試合するたびに何かと怪我をしていた気もするけど、それでもちゃんと治してきたし。
肩を治しに九州に行った時だって、全国大会に間に合うように帰って来たし。
全国大会だって優勝したから、これからは一人のテニスプレイヤーとして、世界で活躍するはずだったのに。
まだまだ、これからだったはずなのに。
死んだら悲しむ人だって、たくさんいるのに。
青学の部員も、他校生の中にも、竜崎のばーさんも……会ったことないけど、部長の家族とかも。
きっと、皆が悲しむ。
そう言えば。
仮に、殺し合いが終わって、元の世界に帰れたとして、
部長のことを報告するのは、きっとリョーマの役割になるはずだ。
『部長は殺し合いに巻き込まれて死にました』なんて告げたら。
大石副部長は、どんな顔をするだろう。
不二先輩は。英二先輩は。乾先輩は。河村先輩は。桃先輩は。海堂先輩は。
「うわ、嫌だ……」
想像してしまって、うめき声が漏れた。
嫌だ。
嫌すぎる。
想像するだけで、胃がねじ切れそうになる。
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- なんでそんなことしなきゃいけないんだと、部長に愚痴りたくなる一方で、
なんでこんな実務的なことしか考えられないんだろうと、我ながら呆れたりもする。
本当ならもっと、先輩が死んでしまって哀しいとかの感情が先行するはずじゃないのか。
映画とかだとこういう時は、一人でこっそり泣いたりする場面だろう。
泣くというのはリョーマの性格からかけ離れているし、泣きたくなんかないにしても、だ。
悲しんで、心の整理をつける時間じゃないのか。
そして、いつまでも悲しんでいられないと、気持ちを切り替えて戻って来る。
たぶん、この状況ではそういう冷静さが求められている。
そうしないと、今度は自分が死ぬ番になる。
戦いの場で最も致命的となる隙は、心を弱くすることなのだから。
いわゆる心の整理ってやつをつけて、ちゃんと戻らないと。
こころの、せいりを……。
「整理って、どうやるのさ……」
誰かと死に別れるなんて、初めてだった。
人よりも色んな体験をして、中学一年生にしては経験豊富な半生を過ごした自信ならある。
でも、身近な人間に、死なれたことなんてなかった。
テニスの試合で負けるのとは全然違う。
試合では、負けてもすぐに切り替えられる。負けてもどこかわくわくする。
次に試合する時は負けてたまるかと、強い自分のままでいられる。
けど、死んだらそこでおしまいになってしまう。
もっともっと、たくさん試合をするはずだった。
部長が卒業するまでには、きちんと決着をつけようと思っていたのに。
終わらない、はずだったのに。
手塚はドイツに行って、リョーマは世界を旅して。
テニスをしていれば、どこにいても繋がっていられると信じていた。
だから、全国大会が終わってからも、安心して……と言うか、無断で、旅立つことができた。
手塚の方も、そんなこちらの機微を分かっていたみたいで、帰って来ても「アメリカはどうだった?」と聞いてきたぐらいだった。
絶対に切れなかったはずの繋がりが、切れた。
なんで簡単に死んでるんだよ、と毒づく。
簡単に整理がつかないなら、考えるだけ無駄かもしれない。
頭の隅っこに追いやって、待たせている綾波レイのところに戻るのが手っとり早い。
でもそれはそれで、現実から逃げているみたいで嫌だった。
いつもはクールなリョーマでも、お世話になった人が死んで泣けないともなれば、自己嫌悪だって覚える。
処理できない感情を抱えたまま立ち上がることができず、
足で腐葉土をダン、と踏みならした。
ただひとつはっきりと認めてしまったのは、
この殺し合いで、リョーマは決して強くないということだ。
あんなにたくさんの人間が死んでいくのをどうにもできず、
自分の感情に整理をつけて、いつもの強気さを取り戻すことさえできないのだから。
【5】
いつもはクール(本人主観)な高坂王子とて、仲間がば涙も流す。
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「ちくしょうっ……日野ぉ……」
ぽたぽたと、涙を地面にこぼしながら、歩き続ける。
歩くのをやめなかったのは、ただの惰性。
そして、待ち合わせ場所に着けば何か得られるという希望だった。
希望は、見覚えのある建物の姿をしていた。
放送が始まる直前、高坂は驚くべき発見をしていた。
目指していた目的地の、外観がはっきりと見えてきたのだ。
桜見市市民タワー。
まさに、ここに来る前に高坂たちが突入しようとしていた建物ではないか。
それがどうしてここにあるのか。
そもそもあんな建物を、どうやったら手間暇かけて移築するなんて真似ができるのか。
決まっている。主催者がそれだけの神様みたいな力を持っているからだ。
神様みたいな力を持っていて、あの市民タワーをわざわざ移築するほど思い入れのありそうなやつ。
決まっている、11thだ。
もしくは、桜見市を舞台にして殺し合いを開いているデウスの一味だ。
やはり、この殺し合いは、未来日記のサバイバルゲームが関係しているんだ。
だったら、前の殺し合いの1stだった天野雪輝が何か知っているかもしれないし、秋瀬或が何らかの推測をしているかもしれない。
何より、この建物を目印として、秋瀬や日野が集まるかもしれない。
ビルに着く前から主催者の重要な情報を手に入れて、これはかなり再先が良いんじゃないかと喜んだ。
そこに、放送だった。
日野日向が死んだ。
否定する材料は何も無かった。
口うるさいし、無視されたり邪見に扱われることも多かったけど、数々のピンチを共に乗り切って来た友人だった。
疑う余地はなかった。
マリリンのような化け物女がいるのだから。
彼女のような能力者と遭遇してしまえば、一般中学生の日向など簡単に殺されてしまうだろう。
そのマリリンも、死んでいた。
全く安心材料にならなかった。あのマリリンさえも殺せるほどの化物がいることになるのだから。
神崎麗美の名前は、呼ばれなかった。
それだけが、救いだった。
とにかく、タワーを目指す。
神崎は生きているんだから、俺がタワーに着いておかないと。
それに、秋瀬或が来ていることを祈る気持ちもあった。
誰かがタワーにいてくれればいい。
そうすりゃ、絶望的な気持ちを、ちょっとでも忘れられるんだから。
- 97 :
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- 98 :
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「スン……ヒック…………ック……」
誰か、いた。
路傍にうずくまって、小さな少女が泣いていた。
見覚えのある制服に、神崎が先回りしていたかと喜びかけたが、すぐに別人だと分かる。
頭のてっぺんでふたつにくくられたツインテールと、小柄な容姿。
無警戒に、警戒する気力さえないかのように、力のない泣き声を漏らす姿は、どう見ても危険人物のそれではなかった。
自分より弱い、無条件で保護すべき類の生き物だ。
この女も、放送で仲間の名前が呼ばれたのかもしれない。
そんな共感と同情心が働き、高坂は身構えることなく近づいて行った。
【6】
かえりみれば、病院に向かうかどうか決めるだけで、だいぶ時間を使ってしまった。
道の駅を出て、最初は病院を目指しかけた。
逆ナン日記は渋谷翔に会えると予知していたし、彼なら生き残る為に色々と利用できそうだったからだ。
渋谷のテコンドーの腕前は愛よりも優れている。
それだけに裏切られた時のリスクも大きいが、そういった危険性もひっくるめて見知った仲だ。
こちらが同盟を誘えば、向こうだって簡単に乗ってくれるはずという読みもあった。
しかし、到着する直前になって、日記の予知が書き変わった。
ノイズが駆け抜けた画面に新しく写っていたのは、リーゼントに学ランの少年。
名前は浦飯幽助。
そして、予知に書かれた『遭遇する場所』が問題だった。
病院の病室番号だけでなく、こう書かれていた。
『渋谷翔の死体の前』。
これの意味は明らかだ。
渋谷翔は、浦飯幽助に殺された。少なくとも、殺害現場にいる。
一瞬で予知が切り替わったことからして、がしらに殺された線が高い。
悩んだ。
あの、反則的に強い渋谷を殺せるほどの実力者。
死の蛭(デス・ペンタゴン)で脅迫して従わせれば、強力な戦力となるのは間違いない。
けれど、普段の渋谷翔は、気弱な少年を演じている。そんな少年を即殺害するなら、躊躇なく殺し合いに乗っている可能性が濃厚だ。
色じかけで男を油断させるのは得意だけれど、相手が見敵必殺状態で、しかも渋谷より強いとなれば、視界に入ったとたんに殺されるかもしれない。
熟考した末に、浦飯幽助は『保留』とした。
学籍簿を見ても、浦飯幽助と同じ学校の生徒は2人もいる。いずれどこか別の経由で、彼に対する情報が入ってくることもあるだろう。
こうして一人の男とも出会わず、愛は放送を迎えた。
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