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多ジャンルバトルロワイアル Part.17


1 :2013/10/10 〜 最終レス :2013/10/20
ここは様々な作品のキャラを使ってバトルロワイアルの企画をリレー小説で行おうというスレです。
みんなでワイワイSSをつないで楽しみましょう。一見さんも、SSを書いたことのない人も大歓迎。
初投下で空気が読めないかもしれない? SS自体あまり書いたことがなくて不安?
気にせずにどうぞ! 投下しなくちゃ始まりません。
キン肉マンのラーメンマン先生曰く「最後に勝負を決めるのは技(SSの質)ではない! 精神力だ! 心だ!」
リレー小説バトルロワイアル企画とは……
原作バトルロワイアル同様にルールなし、特定会場で最後の一人が生き残るまで続くという企画です。
キャラをみんなでリレーし、交わらせ、最後の一人になるまでリレーを行う、みんなで物語を作るスレです。
ここしか書けない、このキャラしか書けないという人も分かる範囲で書けるし、
次どうなるかを期待して次の人にバトンを渡すこともできます。
全ての作品を知りつくてしなければ参加できない企画ではないので、興味が沸いたらぜひ参加を!
詳細ルールに関してはこちらを
ttp://www44.atwiki.jp/tarowa/pages/13.html
〜予約、トリップについて〜
予約する際はトリップをつけてしたらばの予約スレに書き込んでおいてください。
トリップのつけかたは、名前欄に #の後に半角8文字以下、全角4文字以下の好きな言葉を打ち込んで書きこんで。
したらばに予約するのは、「他の人が書いてるから避けよう」という心理を利用し、予約だけして放置することで
企画を妨げる「予約荒らし」という行為を防ぐためです。予約期間は5日(120時間)ですが、
間に合わないからもうちょっと伸ばして!という報告があればさらに2日予約期間を追加(48時間)できます。
したらば(予約などいろいろな時にご利用を)
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/11918/
wiki(まとめサイトです)
http://www44.atwiki.jp/tarowa

2 :
★キャラクター能力制限★
・シャナ@灼眼のシャナ、C.C.@コードギアスは再生能力を落とす&急所(頭)をぶち抜かれたら即死。
・ルルーシュ・ランペルージ@コードギアスのギアス能力は、「R」「殺せ」など、 直接相手や自分の生死に関わる命令は無効。(「死ぬ気で頑張れ」などはあり)
・らき☆すたキャラのオタ知識、ラノベ知識は制限。
・仮面ライダー龍騎キャラのミラーワールドへの侵入禁止。
・ローゼンメイデンキャラのnのフィールドへの侵入は禁止。
・泉新一@寄生獣はミギー付き。
・シャナ@灼眼のシャナの封絶は禁止。
・雛見沢症候群@ひぐらしのなく頃には、まあ、空気読む方向で。
★支給品としてのアイテム制限
・KMF@コードギアスなどのロボ系は禁止。
・仮面ライダー龍騎キャラには、自分のカードデッキを支給品枠2つ分としてカウントして支給。それ以外のキャラに支給される場合は支給品1つの扱い。
・デスノート@DEATH NOTEは禁止。
・サタンサーベル@仮面ライダーBLACKはシャドームーンから没収&世紀王の呼び寄せ禁止。
・カードデッキの変身は10分で解除。
・カードデッキは変身すれば1時間、ファイナルベントを使えば更に1時間使用不可となる。

3 :
1/6【コードギアス 反逆のルルーシュ@アニメ】
● ルルーシュ・ランペルージ/ ● 枢木スザク/ ● C.C./ ● ロロ・ランペルージ/ ● 篠崎咲世子/●ジェレミア・ゴットバルト
0/6【ひぐらしのなく頃に@ゲーム】
● 前原圭一/ ● 竜宮レナ/ ● 園崎魅音/ ● 北条沙都子/ ● 園崎詩音/ ● 北条悟史
1/5【スクライド@アニメ】
● カズマ/ ● 劉鳳/ ● 由詑かなみ/○ストレイト・クーガー/ ● 橘あすか
1/5【らき☆すた@漫画】
● 泉こなた/○柊つかさ/ ● 柊かがみ/ ● 高良みゆき/ ● 岩崎みなみ
1/5【るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-@漫画】
● 緋村剣心/ ● 斎藤一/○志々雄真実/ ● 瀬田宗次郎/ ● 雪代縁
1/4【仮面ライダー龍騎@実写】
● 城戸真司/○北岡秀一/ ● 浅倉威/ ● 東條悟
0/4【ルパン三世@アニメ】
● ルパン三世/ ● 次元大介/ ● 石川五ェ門/ ● 銭形警部
1/4【ローゼンメイデン@アニメ】
● 真紅/ ● 水銀燈/○翠星石/ ● 蒼星石
1/3【ガン×ソード@アニメ】
○ヴァン/ ● レイ・ラングレン/ ● ミハエル・ギャレット
0/3【寄生獣@漫画】
● 泉新一/ ● 田村玲子/ ● 後藤
0/3【ゼロの使い魔@小説】
● ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール/ ● 平賀才人/ ● タバサ(シャルロット・エレーヌ・オルレアン)
0/3【バトルロワイアル@小説】
● 稲田瑞穂/ ● 千草貴子/ ● 三村信史
0/2【相棒@実写】
● 杉下右京/ ● 亀山薫
1/2【仮面ライダーBLACK@実写】
● 南光太郎/○シャドームーン
1/2【真・女神転生if...@ゲーム】
● 男主人公/○狭間偉出夫
0/2【DEATH NOTE@漫画】
● 夜神月/ ● L
1/2【TRICK@実写】
● 山田奈緒子/○上田次郎
0/2【バトルロワイアル@漫画】
● 織田敏憲/ ● 桐山和雄
0/1【ヴィオラートのアトリエ@ゲーム】
● アイゼル・ワイマール
0/1【灼眼のシャナ@小説】
● シャナ
9/65

4 :
スレ立て終了です。

5 :
スレ立て乙です!

6 :
引き続き支援

7 :
 

8 :
 

9 :
「それに……まだ俺の命は残ってる」
ゆっくりと立ち上がるクーガー。
「せっかくこうして残ってるんだ、最期の一滴まで使わないと勿体無い」
「何を、何をする気です、クーガー?」
「拳や剣ならともかく、このストレイト・クーガーが蹴りで負けるってのは我慢できねえ」
カズマが拳に絶対の自信を持っているように、クーガーも己の脚に絶対の自信を持っている。
そのクーガーが蹴りで死ぬなど、自らの誇りが許さない。
だから、蹴り返す。
既に生命は風前の灯火、今にも付きてしまいそうな蝋燭と同じだ。
それでも微かに残っているのなら、派手に燃やし尽くすのがストレイト・クーガーの生き様である。
「志々雄の野郎は翠星石が絶対にぶっ飛ばすから、お前はもう休んでろです!」
「そいつは出来ない相談だ、これは俺の我儘だ、やりたいからやるんだ」
視線の先にいるのは、リュウガ――――志々雄真実の姿。
今にも燃え尽きしまいそうだというのに、その双眸は仇敵の姿をハッキリと写している。
身体は死に掛けていても、心はまだ死んでいない。
精神が肉体に及ぼす影響は確かに存在する。
腹に風穴が空こうと、ストレイト・クーガーは己の脚で立ち上がることができた。
「意地があるんですよ、男には」
周囲に散らばる茨や植物、花弁や羽が粒子化し、クーガーの身体に吸収されていく。
クーガーの全身が七色に輝き、砕けた装甲が見る見るうちに修復していった。
己のエゴを貫く力、アルターによる最期の輝き。
流線型の装甲を纏ったクーガーは、クラウチングスタートの体勢を取る。
「受けろよ、俺達の速さを」
踵と背中のブースターを同時に始動。
背中からエネルギーを噴出しながら、両脚で地面を蹴り上げる。
その走りは第一歩目から常に最高速。
あまりの速度に衝撃波を生み出し、それすらも彼方へと置き去りにする。
速さを証明するために、僅かに残った命という燃料すらも振り絞り。
クーガーは音よりも、光よりも、誰よりも速く走る。
「受けてやるよ、お前の速さを」
ゾルダの相手をドラグブラッカーに押し付け、志々雄は天高くへとヒノカグツチを掲げる。
クーガーが全力で仕掛けてくるのなら、志々雄が全力で迎え撃つのも必然。
ヒノカグツチの全発火能力を開放し、深紅色の刀身を紅蓮の炎で燃やす。
炎神の炎は周辺の酸素を燃焼させ、やがて轟々と音を立てながら渦を巻き始めた。
志々雄が剣を振り降ろす。
クーガーが蹴りを繰り出す。
タイミングは寸分の狂いもなく同時。
「終 の 秘 剣 ・ 火 産 霊 神 !!!!」
「瞬殺のファイナルブリットオオオオオオオォォォォォォォォォ――――――――ッ!!!!」
剣と脚が衝突する。
炎と衝撃波がぶつかり合う。
極限まで辿り着いた技同士の衝突は、その他の者を遠ざけるように爆風を巻き起こす。

10 :
C

11 :
sien

12 :
 

13 :
支援

14 :
「フフ……ハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
仮面の奥から志々雄の哄笑が木霊する。
ヒノカグツチから吹き荒れる炎により、クーガーの肉体が炎に侵食され始めたことに気付いたのだ。
火産霊神とは相手を炎で焼くのではなく、相手を炎に変えていく技。
だが、この剣はそれすらも超越した。
元来の火産霊神とは違い、この技は全てを炎へと変える。
焼けることも溶けることも許さず、塵や炭も残さず、相手の全てを炎へと突き落とす。
ここに来て、志々雄は究極の秘剣を完成させたのだ。
名付けるのならば、この魔剣に習って『火之迦具土』とでもするべきだろうか。
最速すらも凌駕した炎は、クーガーのありとあらゆる全てを上塗りしていった。
「もう……何もいらない……」
炎の中から声が聞こえる。
「身体も命も全部くれてやる」
肉体が焼失したはずなのに、クーガーの声が聞こえる。
「だから寄越せ……速さを!」
炎の奥が七色に煌きを放つ。
呼応するように炎が揺らぎ始め、やがて煌きの中へと吸収されていく。
志々雄がそれに気付いた時にはもう遅い。
吸い込まれた炎は光の外周を覆うように装甲を形成し、やがて人型のシルエットを完成させた。
そのシルエットが誰かなど、今更語るまでもない。
最速の男・ストレイト・クーガー。
「アルターを進化させやがったのか……!」
ここに来て、彼のアルターは更なる進化を遂げた。
金属から炎へと変化した装甲。
それを身に纏い――――否、今の彼はアルターそのものだ。
彼の肉体はアルターに変換され、炎の魔人としてクーガーはこの世界に存在している。
己の全てを代償に、クーガーは限界を越えたのだ。
「すいませんねェ田村さん、でも一緒に通行料を払ったんだ、特等席でお見せしますよ、文化の真髄をッ!!」
ヒノカグツチの刀身を蹴り、上空へ跳び上がるクーガー。
空中で宙返りをし、足先を志々雄に向ける。
地上で燻っていた炎が舞い上がり、紅色の龍に変化。
龍は荒れ狂うようにクーガーの回りを旋回した後、彼の背後から炎を吹き掛ける。
炎のエネルギーを受けたクーガーは、一気に急降下した。
「これが俺達の速さだあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――ッ!!!!!!!」
そうして、脚と剣は再び衝突する。

 ☆ ☆ ☆

15 :
支援

16 :
sien

17 :
支援

18 :
支援

19 :
「ケホッ、ケホッ、どうなったです……?」
目を擦りながら翠星石は呟く。
煙が舞っているため、まともに目を開けることすらままならない。
つかさと共に見届けようとしたが、爆発が発生したせいで結末までは分からなかったのだ。
「ありがとう、翠星石ちゃん」
「こ、このくらい翠星石ならお茶の子さいさいです!」
爆発の規模は凄まじく、数十メートル以上離れたところまで余波が飛んできた。
翠星石がバリアを張っていなければ、二人とも吹き飛ばされていただろう。
つかさが感謝の意を示すと、翠星石は恥ずかしそうにそっぽを向く。
「つかさちゃん、大丈夫だった?」
煙の中から現れたのはゾルダだ。
ドラグブラッカーがミラーワールドに避難したため、つかさの安否を確認しに来たのだ。
「はい、翠星石ちゃんに助けてもらいました」
「そっか、一応礼は言っておくよ」
「お前に感謝されても嬉しくねーですよ」
「やな奴。で、あっちはどうなったの?」
クーガーと志々雄が大技同士で衝突したのだから、互いに無事で済むわけがない。
煙の中を寂しげに見つける翠星石。
クーガーは衝突の以前から致命傷を負っていた。
その状態で自らの肉体をアルターに変換し、志々雄と衝突したのだ。
クーガーの命は燃え尽きた。
彼は最後の一滴まで命を振り絞り、速さの先へと旅立っていったのだ。
「ありがとうです」
クーガーが全力で向き合ってくれなければ、自分は決定的な間違いを犯すところだった。
それを自覚しているからこそ、翠星石は感謝の言葉を口にする。
「後は翠星石が頑張るから、お前は天国でのんびりしてろです」
クーガーの死は堪えられないほどに悲しいが、今はそれに浸っていられる状況ではない。
翠星石にはまだやらなければならないことが残されている。
泣くのは全てが終わってからだ。
「あれは……あいつの持ってた剣か?」
煙が流れていき、遠くまで見渡せるようになる。
そうして視界に飛び込んできたのは、地面に突き刺さった深紅色の剣。
志々雄が操っていた魔剣・ヒノカグツチだ。
クーガーに蹴り飛ばされた結果、あそこに突き刺さったのだろう。
それはつまり志々雄が押し負けたという証である。

20 :
C

21 :
支援

22 :
「あの包帯お化け、死にやがったですか」
「だろうね、これで残ってるのは――――」

「勝手にRなよ」

煙の中から声が響く。
その瞬間、周囲の炎が一気に膨張するように猛り始める。
まるで主の生還を喜ぶように、炎は歓喜の産声を上げている。
そして煙が破裂するように散開し、中から現れたのは影の戦士。
仮面ライダーリュウガ・志々雄真実。
「なん、で……」
両腕の手甲は砕け散り、胸部の装甲に大きな穴が空き、強化スーツの至るところが破けている。
デッキにすら罅が入っているが、それでも志々雄真実は生き残った。
クーガーの決死の一撃を受けて尚、志々雄は健在であった。
「理由なんか一つしか無えだろ。俺が強くて、アイツが弱かった。それだけだ」
「ふざけんなです! クーガーは弱くなんかない、負けたのはお前です!」
「生き残ったのは俺だ。死んだ奴は勝者になれねぇ」
クーガーの命を賭した特攻でも志々雄を殺せなかった。
その事実はクーガーの死が無駄死にだと嘲っているようで、翠星石は許容することができなかった。
「お前は私がぶっ倒すです、元はといえば翠星石がお前に手を貸したのが全ての原因、だからこれは翠星石の責任です」
静かに怒りを燃やす翠星石。
ゾルダもつかさを背後へと移動させ、マグナバイザーの銃口を向ける。
一触即発の状況。
誰かが動けば、それが新たな抗争の合図になるのだろう。
一秒、二秒、十秒と経過して、動く者が現れる。
「……揺れてる?」
それは、この空間だった。
空間内がまるで地震が起こったかのように震動している。
その強さは生半可ではなく、つかさはその場に座り込んでしまう。
それでも震動は衰えることなく、時間を重ねるごとに増していく。
唸るような轟音が耳を支配した頃には、ゾルダですらも立っていることができなくなっていた。
「ッ……これは?」
全ての者が辺りを見回す中、轟音の中に奇妙な音が混じり始める。
それに真っ先に反応したのはゾルダだった。
というよりは、ゾルダ以外は反応することができなかった。
志々雄は音の意味を理解できず、翠星石やつかさの耳にはそもそも聞こえていない。
それもそうだろう。
この音の正体を知っているのは、この中でゾルダだけなのだから。
不快感と警戒心を煽られる耳鳴りのような音。
ゾルダと志々雄のみに届いた音の正体は、ミラーモンスターが出現した時の合図だ。

23 :
  

24 :
支援

25 :
支援

26 :
C

27 :
「なにあれ!?」
天上を指差しながらつかさが叫ぶ。
それに応じて全員が上を向くと、そこには奇妙な物体が浮いていた。
大きさはおよそ一メートルほどだろうか。
完璧な比率の立方体であり、六面全てが鏡張りになっている。
しかしその鏡面は、絵の具をぶち撒けたような混色が渦巻いていた。
立方体の正体はゾルダにも分からなかったが、混色の正体はこの場にいる全員が知っている。
nのフィールドへの入り口が繋がっている時のものだ。
「身体が……引っ張られる!?」
しばらく立方体を見上げていると、ゾルダは自身がそれに引っ張られてることに気付いた。
重力に逆らって、ゾルダの身体が浮き上がっていく。
つかさと翠星石は無事だが、横を見ると志々雄の姿が同じ高さにある。
地上に戻ろうとしても、身体が浮き上がる方が圧倒的に早い。
見る見るうちにゾルダと志々雄は立方体に近付いていき、やがてその中へと吸い込まれていった。
「北岡さんと志々雄さんが消えちゃった」
二人が居なくなると震動は次第に小さくなり、天上に浮いていた立方体も姿を消している。
何が起きたのか理解できず、つかさは首を傾げるばかりだ。
翠星石もnのフィールドに吸い込まれたのか等と呟いているが、真実に辿り着くことはできない。
分かっているのは、この場で戦えるのが翠星石だけということ。
そして――――
「最後に残ったのは貴様か」
創世王・シャドームーンは未だに健在だということ。
「つかさ、私の後ろに隠れてるです」
カシャ、カシャとレッグトリガーが上下する足音は、多くの者に絶対的な恐怖を刻み付けてきた。
一般人であるつかさは尚更であり、身体を震わしながら翠星石の背後に隠れる。
「断言してやる、今の貴様が一人で私に勝てる可能性は万に一つもない」
五つのローザミスティカとキングストーンの力を得た翠星石は、本来なら最強の名を欲しいがままにするはずだった。
しかし、今のシャドームーンは創世王の力を我が物にしている。
世紀王と創世王では格が違う。
一度は埋まったはずの力量差が、今は再び開いてしまったのである。
「黙りやがれです」
「ここまで来て力の差すら理解できなくなったか
 キングストーンの力に耐えられず、とうとう頭が触れてしまったようだな」
「んなわけねえです。お前こそ頭がおかしくなったですか?」
シャドームーンの顔を見上げ、翠星石は嘲るように喉を鳴らす。

28 :
支援

29 :
  

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支援

31 :
支援

32 :
 

33 :
「お前と私の実力差なんざ百も承知ですよ、それでも翠星石はお前を倒さなきゃいけないんです」
「倒せると思うのか?」
「倒せる倒せないじゃない、倒すんです!
 お前をこのまま放っておけば、きっと全部の世界をぶっ壊しちまうです
 私の世界も、真司の世界も、クーガーや劉鳳の世界も、新一の世界も、つかさの世界も
 そんなの絶対に許さない! お前はここで私が止めるです!」
シャドームーンと翠星石の実力差は明確だが、それはあまりに些末な問題である。
ここでシャドームーンを止められなければ、全ての世界がゴルゴムの支配する地獄に変わるだろう。
ジュンやのりのような罪のない人達が終わりのない苦痛を味わい続けることになる。
そんなことが許されていいはずがない。
彼らを守るためならば、翠星石はシャドームーンと戦う覚悟があった。
「それに、今の翠星石は一人じゃないです」
「なに?」
「私には友達が出来たです……初めての友達です」
背後のつかさに目配せする翠星石。
長い生涯の中、つかさは初めて出来た友達だ。
つかさやその友人達を散々侮辱したのに、一方的に傷つけたのに、つかさは翠星石のことを許してくれた。
そして、初めての友達になってくれた。
「ならば貴様を殺した後で、その娘も地獄に送ってやろう」
「ふざけたこと抜かすのもいい加減にしろですキュウリ野郎。つかさは絶対に私が守るですよ
 もし指一本でもつかさに触れようとしたら、その時は私がお前をぶっ殺してやるですッ!!」
大事な友達を守るためならば、翠星石はシャドームーンをR覚悟があった。
「フッ、いいだろう」
シャドームーンがサタンサーベルを構える。
翠星石も庭師の如雨露を取り出し、シャドームーンの翠緑の複眼を睨み上げた。
互いの殺気が交錯し、空気が張り詰めていく。
そして、互いに武器を振り上げた瞬間。
「待てよ」
遠くから、男の声が響いた。

  ☆ ☆ ☆

気が付いた時、北岡と志々雄は白い空間に立っていた。
空間内にあるのは二人の影と空に浮かぶ立方体だけ。
傍に居たはずの翠星石やつかさも、唯一の出入り口だった木製の扉もない。
シャドームーンが抉じ開けた穴や戦闘の痕跡もなく、果てしない白が広がるばかりである。
何が起きたのか理解できず、額に皺を寄せる北岡。
しかし、この空間の正体には薄々感づいていた。
この肌を刺すような空気は、元の世界で自分達が戦い続けてきたミラーワールドのものだ。

34 :
 

35 :
「ここが『みらーわーるど』か、殺伐としてて俺好みの場所だ」
志々雄も正体に気付いたのか、興味深そうに辺りを見回している。
ミラーワールドは鏡写しの世界であり、全ての物体が現実と反転している。
だが元の空間が何も無かったため、大きな変化は見当たらなかった。
「で、これはおたくの仕業なわけ?」
「いや、いくら俺でもここまで大それたことは”まだ”出来ないさ」
理解不能な状況に追いやられたにも関わらず、志々雄は楽しそうに笑っている。
その態度から浅倉が連想され、北岡は不愉快そうに顔を歪めた。
「だが、この原因ならもう検討が付いてるぜ。おそらくアンタもじゃねえか?」
「……多分だけどね」
ずっと考えていた可能性だった。
最初に気付いたのは、名簿に東條の名前を確認した時。
死んだはずの彼の名前を見て、北岡はふと疑問を覚えた。
――――ライダーバトルはまだ有効なのではないかと。
東條――――タイガは脱落したはずなのに、どうして殺し合いに参加しているのか。
デッキが支給されていない可能性も考えたが、後にタイガに変身していたことが判明している。
他にもシザース、インペラーといった脱落者が復活しており、さらに神崎士郎の奥の手だったオーディンも主催が掌握している。
奪い取ったにしては、手が込み過ぎているのだ。
ここで脳裏を過った可能性。
もしかしたら、ライダーバトルそのものを主催が乗っ取ったのではないか。
考えれば考えるほど、この可能性は北岡の中で膨らんでいく。
そして、この可能性は正解だった。
バトルロワイアルの影に隠れて、もう一つのバトルロワイアルが進行していた。
十三人の仮面ライダー同士による殺し合い。
カードデッキが支給された表向きの理由は、誰にでも優勝の可能性を持たせるためだ。
特殊な才能や経験が無くても強大な力を身に纏えるカードデッキは、参加者間の差を埋めるのに絶好の道具だった。
だが、表があれば裏がある。
カードデッキが支給された理由はもう一つあった。

六十四人の消滅と引き換えに、あらゆる願いを叶える自在法・【バトルロワイアル】
これによって殺し合いは管理されていたが、物事には想定外の事態が付き纏うものだ。
自在法が打ち破られ、願いを叶えられなくなってしまうかもしれない。
そういった事態に陥った時の対策として、V.V.は予備の手段を用意していた。
それこそがカードデッキであり、これらが支給された裏の理由である。
他のライダーが全滅した時、最後に残ったライダーは願いを叶えることができる。
奇跡を起こすための手段として、V.V.はカードデッキを支給していたのだ。
主催側がオーディンに加えてガイとライアを保有していたため、本来ならばライダーが最後の一人まで減ることはない。
万が一の事態が起こった場合のみ、これらのデッキを解放する予定だった。
しかし、物語は想定外の方向に進んだ。
鷹野がオーディンを持ち出し、V.V.と観柳がガイとライアに変身した。
予期せぬ形で全てのライダーが盤上に上ることになったのだ。

36 :
支援

37 :
支援

38 :
「あの鏡は最後の戦いに邪魔が入らないよう、ミラーワールドの中に俺達を隔離したって所だろうな」
白い空間内に突如として現れた立方体の名はコアミラー。
ミラーワールドの力の源であり、謂わば核のようなものである。
今に至るまで、コアミラーはラプラスの魔が作った空間に安置されていた。
だが彼の死で空間が不安定になったところで、クーガーと志々雄の衝突が時空間を大きく歪めた。
その結果、コアミラーはライダー達のいる場所へと辿り着くことができたのだ。
そもそも何故V.V.はカードデッキを選んだのか。
その理由はそれらの技術の根底に兄弟愛があったからだ。
ミラーワールドが開かれた理由は、神崎士郎が神崎優衣を救うために他ならない。
たった一人の妹を救うために全てを犠牲にする覚悟をもった士郎に対し、V.V.は深い共感を覚えた。
兄弟愛を最も美しい関係と考えるV.V.にとって、士郎はとても安心できる存在だった。
だが、士郎は最終的に妹を救うことを断念した。
V.V.は不満を覚えたが、それも士郎の選んだ道だろう。
これにより彼の世界とミラーワールドの関係は途絶え、ミラーワールドは放置されることとなった。
それをV.V.が再利用し、バトルロワイアルの中に組み込んだのだ。
「もう俺達以外にライダーは居ないようだな」
「つまりは俺かアンタ、生き残った方が最後の一人ってことだな」
北岡秀一――――仮面ライダーゾルダ。
志々雄真実――――仮面ライダーリュウガ。
生き残ったどちらかが己の欲望を満たすことができる。
この戦いはそういうものだ。
「戦いを降りたはずの俺が残っちゃうなんて、何の因果だろうねえ」
「そのまま脱落しても構わないぜ」
「いや、悪いけど、遠慮しておくよ」
困ったように溜息を吐き、北岡――――ゾルダは志々雄――――リュウガへと向き直る。
「ライダー同士の戦いとかは関係なしに、お前は倒したいと思ってたからね」
「アンタに怨みを買う真似をした覚えはないんだがな」
「ランスロットの件、忘れたとは言わせないよ」
「あの死に損ないの復讐ってか、随分と仲間思いじゃねえか」
「復讐? 馬鹿言うなよ、嫌いな奴のためにわざわざそんなことしないさ」
出会った当初からジェレミアは生きることを諦めていた。
そんな奴に背中を預けられないと叫んだが、彼が聞き入れることはなかった。
生き残るために戦うと言って、最後は勝手に死んでいった。
つかさを悲しませないと言ったのに、彼女を動けなくなるくらい悲しませた。
そんなジェレミアが、ゾルダはずっと気に入らなかった。
「馬鹿だよね、アイツ。死んだら終わりだってのにさ」
「アンタとは気が合いそうだな、命を投げ捨てるのは阿呆のすることだぜ」
「ジェレミアも、五ェ門も、城戸も、次元も、蒼嶋も、ヴァンも、クーガーも……
 どいつもこいつも馬鹿ばっかりだよ、命を何だと思ってるのさ」
自分の命以上に大切な物などない。
命とはたった一つの宝であり、どんな欲望もこれを対価とすることはできない。
金も、権力も、女も、命があるからこそ価値を持つ。
それを分かっていない奴は、命を対価にしてしまう奴は、どうしようもないほどに馬鹿なのだ。

39 :
 

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支援

41 :
支援

42 :
支援

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「でも、俺やお前よりはマシな人間だ」
だが、その馬鹿は少しだけ眩しかった。
「いや、お前とも比べられたくないかな。正真正銘のクズのお前とはね」
多ジャンルバトルロワイアルのホームページにより、ゾルダは志々雄の情報を得ている。
そこに書き連ねられていた数々の悪行を見て、ゾルダは吐き気を覚えた。
弱肉強食を理由に人々を蹂躙する志々雄は、正真正銘の悪党である。
「お前が願いを叶えたら世界は滅茶苦茶になる、だから俺は死ぬわけにはいかない」
「アンタも弱肉強食の理に納得できない口か、聡明に見えたがどうやら買い被りだったようだな」
「いや、この世は弱肉強食だと思うよ。だから俺達みたいのがいるんだ」
ゾルダの言葉の真意を計りかねているのか、リュウガは言葉を返さない。
「弁護士ってのは弱い奴の味方なんだよ」
マグナバイザーの銃口をリュウガへと向ける。
「ああ、明治時代にはまだ弁護士って居なかったっけ」
「似たようなのはいたさ」
「そう。お前に今度会ったら言おうと思ってたんだけどさ、二十八にもなって世界征服とか恥ずかしくないの?」
「いい年してスーパー弁護士を名乗ってる爺には言われたくないな」
「俺より百年以上も昔の土人がなに言ってるのさ
「そういやお前を倒したい理由を言ってなかったよね。一言で言うとな、気に入らないんだよ、お前」
「ハンッ、テメエにどう思われようが興味はねえが、その程度の力でこの俺に勝てるつもりか?」
「お前こそ、そんなにボロボロで大丈夫なの?」
リュウガの全身はクーガーの一撃で大きく傷付いている。
一方でゾルダの負傷は皆無に等しく、戦闘を始める前から大きな差が付いていた。
「テメエを相手にするのはちょうどいいハンデだと思ったが、そう言うならこいつを使わせてもらうぜ」
デッキから一枚のカードを抜き取るリュウガ。
そのまま見せつけるように掲げると、彼の周囲を疾風が吹き始める。
彼の手にあるのは、ナイトが所持していた疾風のサバイブカード。
ナイトのデッキが破壊された際に失敬していたのである。
変化した召喚器にカードを放り込むと、リュウガを覆うように竜巻が発生。
それが収まった時には、リュウガは再びサバイブ形態へと進化していた。
「もう一度聞いてやる。お前如きの力でこの志々雄真実に勝てるつもりか?」
刺のように鋭利な装甲を纏い、リュウガは言い放つ。
ヒノカグツチは無くとも、禍々しいまでの実力は健在だった。
「そのつもりだよ」
リュウガとの実力差など百も承知である。
だからこそ、ふてぶてしく笑う。
力で負けている上に気持ちでも負ければ、それこそ完全に勝ち目は無くなってしまう。
今でこそ落ちぶれてしまったが、ライダーバトルが始まった頃のゾルダは他のライダーを圧倒していた。
あの頃のゾルダに戻ることができれば、リュウガを撃破することができるかもしれない。
だから、今だけは仮面を被る。
ゾルダの仮面をきつく被り、目の前のライダーと戦う。
「ならその過剰過ぎる自信ごと斬り殺してやるよ」
最後のライダーバトルが幕を開ける。

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  ☆ ☆ ☆

気が付いた時、男は教会の中に居た。
石造りの堅牢な建築であり、眩い太陽すらも屋根が遮っている。
壇上へと敷かれた赤い絨毯の上に男は立っていて、隣には純白のドレスを着た女がいた。
誰なんだろうと考えるが、思い出すことはできない。
気まずくなって顔を逸らすと、周囲に配置された長椅子が目に入った
一定間隔で配置されているそれには何人かの人達が座っている。
壇上から見て手前の席に座っているのは、夫婦と思われる一組の男女。
長い金髪に和装の男と、寄り添うように座っている短髪の女だ。
絨毯を挟んで隣の椅子に座っているのは、和服を着た十代と思われる姉弟。
姉の方はもう大人だが、逆に弟はまだまだ子供である。
面倒臭そうに座っている弟を、姉が宥めているのが印象的だった。
彼らの後ろの椅子では、二人組の青年が談笑している。
友人なのだろうか、二人はとても仲が良さそうだった。
そして、一番後ろには男と女が一人ずつ座っている。
一人は立派な髭を蓄えた中年の男性。
もう一人は明るい黄緑色の長髪をした若い女だった。
ここに来て、彼は結婚式の途中だったことを思い出す。
自分は新郎で、隣にいる女は新婦。
女が着ていたのはウェディングドレスで、椅子に座っている人達は来賓だ。
世界一愛していて、何よりも夢中な女。
そんな女と、自分は結婚する。
幸せの絶頂にいる自分達は、これから永遠の愛を誓い合うのだ。
女の歩調に合わせて、ゆっくりとヴァージンロードを歩いていく。
すると椅子に腰掛けていた人達が一斉に拍手を始める。
無数の拍手が贈られる中、男と女は壇上へと歩き続ける。
周囲の人々は何処かで会ったような気がしたが、ハッキリと思い出すことはできない。
会ったことがあるという認識だけが、ぼんやりと頭の中を渦巻いていた。
ついに壇上へと辿り着く。
身体をくるりと返し、座席を見渡せるように立つ。
後は互いの指輪を交換し、誓いのキスをするだけだ。
薬指に嵌めていた指輪を外した男は、隣にいる女と向き合う。

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50 :
「……おい」
向き合って、気付かされる。
「なんでそんな顔してるんだよ」
女がとても悲しそうな顔をしていることに。
お嫁さんというのは、幸せで幸せで幸せの絶頂の時になるものだ。
だが、今の女は違う。
幸せの絶頂にいるはずの人間は、こんな悲しそうな顔をしない。
「分かってるよ、分かってるって、これは夢なんだろ」
とっくに気付いていた。
エレナは死んだ。
■■■■は死んだ、ガドヴェドは死んだ。
レイは死んだ。シノは死んだ。縁は死んだ。巴は死んだ。光太郎は死んだ。信彦は死んだ。
死んだ奴は蘇らない。
だから、これは夢なのだ。
「……これは」
エレナが持っていたのは蛮刀だった。
エレナが遺した形見であり、自分の復讐を手伝ってくれた愛刀。
まだ戦えと言うつもりなのか。
せっかく用意したタキシードは血塗れになり、身体はボロボロな上に右目は欠けてしまっている。
もう、十分だろう、休ませてくれ。
そんな弱音を漏らそうとして、男はぐっと飲み込んだ。
まだ何も終わっていない。
シャドームーンとの決着も付けていないし、カギ爪の男を殺していない。
男の旅はまだ途中なのだ。
男はエレナを愛した。
エレナは男を愛した。
馬鹿で無鉄砲で乱暴で一途な男を、エレナは愛したのだ。
だから、男が自分を裏切るわけにはいかない。
自分を裏切るということは、エレナを裏切るということだからだ。
「悪いな、心配掛けた」
男は蛮刀を受け取ると、教会の出口へと進んでゆく。
夢は所詮、夢なのだ。
いつかは必ず終わりが訪れるのである。
「いってらっしゃい、ヴァン」
「ああ、いってきます」
そして、男は夢から醒める。

  ☆ ☆ ☆

「……ヴァン」
背後に現れた男を見て、翠星石は呆けたように呟く。
彼の傷は相当深く、そのまま死んだと思っていたからだ。

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「まだ生きていたか」
傷だらけのヴァンを見て、シャドームーンはゴキブリのようだと評する。
つかさによって応急処置は施されているが、それでも完治には程遠い状態だ。
それなのに、ヴァンは敵意を剥き出しにしている。
ここまで傷付いて尚、ヴァンの瞳の中の炎は消えていなかった。
「いや、もしかしたら死んでたかもしれねえな」
先程見たばかりだというのに、夢の内容はハッキリと思い出せない。
多分、幸せな夢だったのだろう。
そのまま夢を見続けていれば、ずっと幸せなままだったのかもしれない。
「でもな、まだ何も終わっちゃいないんだ」
しかし、ヴァンは目覚めた。
目覚めたということは、夢の中の自分はそれを選んだのだろう。
だったら、突き進むだけである。
そもそも夫婦というのは、幸せも悲しみも分かち合うものだ。
夫が一人で幸せになるなど、妻に対する最大限の裏切りである。
「だったら死んでる場合じゃねえだろうがあああぁぁぁッ!!!!」
だから、ヴァンは吠えた。
全身を激痛に支配され、血液は足りず、視界は半分欠けている。
目の前に立ちはだかるのは創世王・シャドームーン。
ナイトのデッキは破壊され、彼に残された武器は一振りの剣だけ。
絶体絶命、しかし問題はない。
彼が持っているのは、世界で一番愛している人から託された剣なのだから。
「そうか。ならば二度と生き返らないように八つ裂きにしてやる」
距離を詰め、ヴァンへと斬り掛かるシャドームーン。
だが、その脚はすぐに止まった。
地中から伸びた無数の轍が絡み付き、シャドームーンの動きを阻害しているのだ。
「また貴様か、何度も何度も目障りな傀儡だ」
「お前を倒せるなら、何度だって繰り返してやるです!」
シャドームーンが強引に踏み出すと、轍は簡単に引き千切られてしまう。
それでも一秒だけシャドームーンを足止めできた。
背後を振り返る翠星石。
そこには蛮刀を握り締めたヴァンの姿があった。

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支援ビンビング!

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チリン、と音が鳴る。
蛮刀の鍔から切っ先に掛けて青色の電流が迸り、刀身に円形の穴がいくつも開いていく。
天空を仰ぐように蛮刀を掲げ、袈裟懸けに一閃。
腰を下ろし、逆袈裟に一閃。
綺麗に繋がった剣筋は、空中にV字の軌跡を描く。
それは剣を呼び寄せるための合図。
本来なら封印されていたはずの行為だ。
一個人が運用する兵器としては強力過ぎるため、ギアスによってそれは禁じられていた。
しかし、ギアスは決して万能ではない。
クーガーが、後藤が、翠星石が自力で破ったように、ヴァンも絶対遵守の力に打ち勝ったのだ。
天が鳴き、地が動く。
次元を越え、空間を突き破り、神は裁きが飛来する。
天空の白を切り裂き、地面へと突き刺さる剣。
その剣の名は――――ダン・オブ・サーズデイ。
「ロボット……?」
背後に現れた鋼鉄の巨人を見て、翠星石は呆気に取られている。
オリジナル専用ヨロイの一機、ダン・オブ・サーズデイ。
全てのヨロイの開祖であり、刀を武器として戦う機体。
胸や脚を白い装甲が覆い、その隙間から黒い身体が見え隠れしていた。
それがヴァンに残された、正真正銘最後の剣だ。
ヴァンが何処に居ようとも、呼び寄せれば剣は駆け付ける。
例えここが世界の片隅に捨て置かれた小さな空間だとしても、だ。
王が己の騎馬を呼び寄せることができるなら、騎士が己の剣を呼び寄せられるのも当然だろう。
「ヴァン……」
いつの間にかダンの胸部へと移動しているヴァン。
胸部の装甲が床のように開き、その上に彼は立っているのだ。
「何の用だ」
「そ、その、翠星石が色々と迷惑を掛けちまったです。だから……ごめんなさい」
あからさまに不機嫌そうなヴァンの態度に、翠星石は意味もなく怯えてしまう。
しかし、それでも彼に謝罪しなければならなかった。
「……俺よりももっと謝らなきゃいけない奴がいるだろ」
それだけ吐き捨てると、ヴァンは視線をシャドームーンへと据える。
「それが貴様の本当の力か、面白い」
自らの何倍も巨大なロボットと対峙しても、シャドームーンに動揺や畏怖はない。
創世王は全世界を支配する存在。
頂に立つ者は、大衆の前で定期的に虎を殺して見せなくはならない。
逆らう者は圧倒的な力で叩きのめし、二度と歯向かう気が起きないように屈服させる。
そうすることで自らに刃向おうと思わせる馬鹿が出ないようにするのだ。
倒す相手が強ければ強いほど、その効果は上がる。
故にどんな強者が相手になったとしても、王は真っ向から捻じ伏せなければいけないのだ。
「行くぜ」
ヴァンは蛮刀を逆手に持ち替え、G-ER流体で構成された床へと突き刺す。
開いていた穴が塞がり、右手と蛮刀の柄が一体化。
胸部の装甲が閉じると同時にヴァンを機体の奥へと送り込み、薄暗い青色で彩られたコックピットを形成する。

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「Wake Up! ダン!」
彼の合図により、一面の青は輝かんばかりの白へと変化する。
機体の黒い部分はG-ER流体の青に点滅し、それが収まると共にダンの目は赤色に染まった。
「掛かって来い、捻り潰してやる」
勢いよく刀を振り上げ、そのまま垂直に振り下ろすダン。
サタンサーベルを横に構え、剣撃を受け止めるシャドームーン。
たったそれだけのやり取りで、想像を絶する衝撃をもたらす。
地面は陥没し、粉塵が舞い散り、烈風が巻き起こる。
だが、それでも互いに微動だにしない。
己の剣に力を込め、全力で鎬を削り合う。
人間の何倍もの体躯を持つダンは、その大きさに見合った力を持つ。
それを相手にして尚、シャドームーンは互角に渡り合っていた。
「それで全力か、創世王さんよ」
「減らず口を叩いている余裕があるのか?」
空いている左腕を掲げ、シャドービームを照射するシャドームーン。
狙いはコックピット。
操縦者を直接潰した方が手っとり早いと考えたのだ。
「あるから言ってんだろ」
しかし、シャドービームは届かない。
コックピットに到達する寸前、白い障壁によって阻まれる。
メッツァとの戦いで会得した電磁シールドを展開したのだ。
シャドービームにエネルギーを割いたことで剣を握る力が弱まり、それが一瞬の隙となる。
その結果ダンの力が上回り、シャドームーンの身体を巨剣が押し潰した。
「シャドームーンさんを倒した……?」
「あの程度で倒れるなら、とっくの昔に翠星石がボコボコにしてるですよ」
翠星石が解説した瞬間、粉塵の中から翠緑の光線が伸びる。
「人形のように障壁を張ることが出来たか、下等な虫共の考えることは同じだな」
粉塵の中から現れたシャドームーンに目立った外傷は無かった。
自身の何倍もの大きさの剣に押し潰されたにも関わらず、シャドームーンは致命傷には至らない。
それどころか即座に反撃を仕掛けてくる始末だ。
「テメエの方がよっぽどゴキブリだぜ」
皮肉を吐きながら、ダンは再び刀を構える。
シャドームーンもその双眸でダンを見据え、静かにサタンサーベルを突き出す。
轟音が再び鳴り響く。
「つかさ、一端離れるですよ!」
二人の激突は衝撃波を生み、周辺一帯に甚大な被害をもたらしていた
翠星石はバリアでそれを遮るが、彼らの激突は何度も何度も続いている。
翠星石には問題なかったが、つかさは身動きを取ることができない。
黒翼から龍の顎を伸ばし、その場に立ち尽くしているつかさを呑み込む。
間髪入れずに翼を広げ、衝撃波の届かない地点まで飛行する。
一度体勢を立て直す必要があると判断したのだ。

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「ごめんね、やっぱり戦うことになると役立たなくて……」
「バカ! つかさがそんなこと心配しなくていいんです!」
「でも……」
二人が剣を打ち合う度に、爆発でも起きたのかと勘違いするような音が轟く。
衝撃波は届かなくても震動は伝わり、まるで断続的に地震が起きているかのようだ。
「……それなら、私と契約してくれますか?」
少しの間悩んだ後、翠星石はその言葉を口にする。
先程シャドームーンを足止めした際、翠星石は数秒は稼げると考えていた。
だが、轍は一瞬で引き千切られてしまった。
志々雄との契約を破棄したことで、茨が轍に戻ってしまったからだ。
今のシャドームーンを相手にするには、キングストーンとローザミスティカだけでは力不足である。
人間と契約しなければ、シャドームーンと渡り合うことはできない。
たった一度のやり取りだが、翠星石はそれを痛感していた。
「うん、私が役に立つなら力を貸すよ」
「ちょっ、いくらなんでも早過ぎですよ! ちょっとは悩まないのですか!?」
悩む素振りを見せず即答するつかさ。
翠星石にとってはありがたいが、あまりの即答ぶりに拍子抜けしてしまう。
こんな簡単に人を信用してしまって、この人間は大丈夫なのだろうか。
「だって、翠星石ちゃんが必要だと思ったんでしょ?」
「確かにそうですけど……。
 お前を見てると、コロッと騙されないか不安になるです」
「ううん、翠星石ちゃんはそんなことしないって信じてるから」
屈託のない笑顔を浮かべ、つかさは翠星石の瞳を覗き込んでくる。
数秒の間、彼女達は互いを見つめ合う。
しかし恥ずかしくなったのか、翠星石は顔を熟れた果実のように赤く染めてそっぽを向いた。
「そそそそそそんな目で翠星石を見んなです! さっさと契約をするですよ!」
「う、うん。でも私はどうすればいいの?」
「この指輪にキスしやがれです」
左手を差し出す翠星石。
その薬指には薔薇の装飾が施された黄金の指輪が嵌められている。
キスと聞いてつかさは頬をほんのりと赤くするが、やがて決心したように指輪にくちづけをした。
「熱っ……」
翠星石の指輪が緑色に輝き、共鳴するようにつかさの左手も光に包まれる。
その光が収まった時には、つかさの薬指に鮮やかな緑色の花弁に彩られた指輪が装着されていた。

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「力が……力が溢れてくるですよ……」
胸の前で手を組み、翠星石は目を瞑る。
するとその身体は様々な色の光に彩られ、まるで翠星石を祝福するように交じり合う。
翠星石の身体から溢れているのは、キングストーンの強烈過ぎる閃光ではない。
彼女の内側で眠る姉妹達の魂が放つ優しい色合いの光だ。
正規の手順で契約を結んだことで、翠星石の力は格段に強くなっている。
いや、それだけではない。
かつて水銀燈が蒼星石のローザミスティカを強奪した時、彼女の身体になかなか馴染まないという現象が起きた。
今の翠星石に起きているのはその逆。
ドールと媒介者が心の底から信じ合ってるからこそ、この輝きは生まれているのである。
兄貴分から力を託され、信じ合える友を得て、翠星石は本当の強さを取り戻した。
今の翠星石はキングストーンすらも乗り越える。
「じゃあ、行ってくるですよ」
お互いに笑い合い、翠星石は戦いへと戻る。
その足取りは何処までも軽かった。
「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
埒が明かないと判断したヴァンは、刀を分割して二刀流に持ち変えていた。
一撃は軽くなった分、手数が増している。
これで有利に事が運ぶと考えたが、シャドームーンはその上を行っていた。
一方の刀をサタンサーベルで受けつつ、もう一方の刀は格闘でいなし、隙を見せれば即座に反撃を行う。
シャドームーンの一撃は、ダンの頑丈な装甲すらも容易く破壊する。
煉獄を相手にした時のように、身長差など物ともしていない。
形勢はシャドームーンに傾きつつあった。
「貴様の力はその程度か、口ほどにもない」
頭上に迫る刃を最小限の動きで避け、カウンターの要領でシャドービームを発射する。
電磁シールドを展しようとするが間に合わず、シャドービームは左肩の装甲に着弾。
大きな爆発を起こし、その周辺を抉り取るように粉砕した。
シャドームーンの翠緑の双眼には、ダンの弱所がハッキリと映っているのである。
それだけではない。
マイティアイは相手を解析し、その全てを白日の下に曝す。
相手の一挙手一投足が情報であり、シャドームーンの改造された脳に収集されていく。
初撃では有効だった電磁シールドも、今は強度や発動までの時間が把握されてしまっている。
長期戦になればなるほど不利になっていくのだ。

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「なら、これならどうだ!」
背中のブースターを駆動させ、上空へ飛び上がるダン。
そのまま二本の刀を一本に戻し、加速をつけて急降下しようとする。
だが、シャドームーンは同じ高さまで跳び上がってきた。
レッグトリガーの超振動による脚力を用い、ダンと同じ高度まで跳躍したのだ。
地上からおよそ百メートル。
シャドーチャージャーが明滅し、サタンサーベルの刀身にエネルギーが集合する。
ダンはとっさに防御しようとするが、シャドームーンの方が速かった。
キングストーンの加護を受けたサタンサーベルが、装甲が砕けて剥き出しになった左肩へと侵入する。
そのままサタンサーベルは機械を切り抜き、やがて出口へと到達した。
血液のように飛び散るG-ER流体。
ダンの左腕が切断され、地上へと落下した。
「ぐおおおおおぉぉぉぉッ!!」
ダンのダメージが電流となり、操縦者へと襲い掛かる。
耐え難い苦痛であったが、ヴァンは操縦桿になった蛮刀の柄を握り締めて堪えた。
しかしそんなことは関係ないというように、シャドービームの体勢を取るシャドームーン。
この一撃が命中すれば、ダンであっても破壊は免れないだろう。
「しゃんとしやがれです!」
シャドームーンの身体を真下から成長した巨大な植物が呑み込む。
下を向くと、植物の根本に翠星石の姿があった。
腰に刀を溜め、即座に急加速するダン。
そのまま居合い切りの要領で刀を抜き、拘束されているシャドームーンに一閃を加える。
巨剣の斬撃を喰らったシャドームーンは、為す術なく地上へと落下した。
「大丈夫ですか!?」
「……うるせえ」
翼を広げて横に並んでいる翠星石を一瞥し、ヴァンは不愉快そうに吐き捨てる。
そんな態度に翠星石は文句を付けようとするが、真下から放射された光線がそれを阻害した。
ダンと翠星石を同時に狙ったものであり、拡散されているため威力は削がれている。
それでも元の威力が高すぎるため、直撃すればただでは済まなかった。
「クソッ、なんて野郎だ」
必死に操縦桿を動かし、網のように張り巡らされたシャドービームを避け続ける。
避け切れない分は電磁シールドで相Rるが、それでも限界があった。
直撃する度に装甲は削れ、内装が剥き出しになっていく。
シャドービームの性能は威力や飛距離等、あらゆる方面で大きく向上している。
しかし一番の問題は技の威力ではなく、発射口であるシャドームーン自身の異常な耐久力だ。
首輪の爆発に巻き込まれても、ダンの斬撃を受けても、シャドームーンは立ち上がってくる。
それに加えて、キングストーンによる回復力も驚異だ。
シャドームーンを倒すには、一撃で相手を葬るような大技が必要なのだ。

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「……」
シャドービームの追撃を抜け切り、ヴァンは極限まで張りつめていた緊張の糸を僅かだが解す。
全身を覆っていた装甲は大半が砕け、G-ER繊維で形成される肉体が剥き出しになっていた。
今のヴァンと同様、ダンの身体も傷だらけである。
だからだろうか。
操縦者とヨロイの状態が重なったせいか、今のヴァンの脳は澄み切っていた。
痛みで意識が飛びそうだというのに、嵐のように思考が溢れていく。
エレナのこと、カギ爪の男のこと、エンドレス・イリュージョンで連んでいた連中のこと――――シャドームーンのこと。
C.C.が死んだ今、シャドームーンが最も古い付き合いの参加者になっている。
東條や縁と争いを始めようとしていた最中、シャドームーンは突然現れた。
サタンサーベルの奪還が目的だったようだが、最後は殺戮の限りを尽くしていった。
その後も何度か顔を合わせ、一時ではあるが肩を並べて戦ってもいた。
だが、結局は敵なのだ。
共闘することはあっても、決して仲間ではない。
最後には殺さなければいけない存在なのだ。
そして、その最後とは今だ。
銀の月との関係を清算するのは今なのだ。
「長過ぎたな」
寄り道をし過ぎた、と感じる。
シャドームーンも所詮は通過点であり、カギ爪の男に辿り着くまでの道程なのだ。
だから、ここで終わりにする。
言葉は必要ない。
シャドームーンとの関係の中にあるのは、結局のところ戦いだけだ。
他のオリジナル用のヨロイと違い、重火器は搭載されていない。
ヴォルケインのキャノンのような高威力の兵器もない。
ダンの武器はあくまで刀。
刀一筋で戦うのがダン・オブ・サーズデイなのだ。
「おい、アンタ」
「翠星石ですか?」
「そう、アンタだ」
あくまで名前で呼ばないヴァンに対し、翠星石は呆れたように溜息を吐く。
「少しだけでいい、アイツの動きを止めろ」
それだけ告げると、ダンは飛び去っていってしまう。
突然の申し出に翠星石は混乱するが、シャドームーンが跳躍するために膝を屈めているのが見えた。
「この辺でいいか」
ひたすら上昇を続けたダンは、高度二百メートルのところにいる。
シャドームーンの姿を認識できる最大限の高度を保った距離だ。
この距離から下降すれば、刀にも勢いが乗る。
シャドームーンの頑強な鎧を打ち破るには、もはやこれ以外の手段は無かった。
片腕で剣を振るっていても勝機は薄く、必殺の一撃を放つ必要があるのだ。
残った右腕で刀の柄を握り締め、ゆっくりと下界を見下ろすヴァン。
翠星石が奮闘しているようだが、まだシャドームーンの動きを止めるには至っていない。

78 :
支援

79 :
待つ。
刃を下に向け、虎視眈々とシャドームーンの動きを追う。
刹那の隙も逃さぬよう、無言で刀を構え続ける。
先程までは溢れていた思考が、今はぴたりと鳴り止んでいた。
ヴァンの頭にあるのはたった一つだけ。
シャドームーンをR。
それだけだ。
「ッ!」
そして、その時は訪れる。
茨、蔦、花弁、黒羽の四つが同時にシャドームーンの四肢に絡み付いたのだ。
「チェエエエエエエエエエエスッ!!!!」
ブースターを最大出力で稼働。
強烈な推進力により機体が押され、ダンは瞬く間に空を駆け降りていく。
地上にいるシャドームーンを斬りRため、一騎当千の勢いで走り抜ける。
そして、刀を大きく振り被った。
二百メートルの距離は滑走路。
ここで助走を付け、飛行機が陸から飛び立つように相手を叩き斬る。
シャドービームで四肢を拘束していた物体を凪ぎ払うシャドームーン。
だが、遅い。
ダンは既に地上へと到達し、その刀を振り降ろしていた。
「トオオオオオオオオオオオオウッ!!!!」
サタンサーベルを振り翳し、ダンの一撃を受け止めるシャドームーン。
その瞬間、再び空間内を巨大な振動が襲う。
大地は悲鳴のように唸り声を上げ、大気はそれを克明に周囲へと伝達する。
巨大な金属の塊が二百メートルの高さから急降下したのだ。
シャドームーンであってもそれを易々と受け止めることはできない。
みしみしと強化外装・シルバーガードが軋みを上げる。
その身体は地面へとめり込んでいき、人工筋肉・フィルブローンからは蒸気が立ちこめる。
両手でサタンサーベルの柄を握り、さらにキングストーンのエネルギーを刀身へと送り込む。
エルボートリガーの超振動とキングストーンのエネルギーが加わり、サタンサーベルの威力は大きく向上する。
それでもまだシャドームーンの方が押されていた。
「こうでなくては……面白くないッ!」
今まで冷酷を貫いていたシャドームーンが、ここに来て興奮したように声を上げる。
生身で世紀王と渡り合った男が、今は創世王と化した自分を打ち倒そうとしているのだ。
自分が創世王を取り込んで成長したように、ヴァンも次々と新たな力を披露している。
創世王となっても敵が存在することが、シャドームーンは純粋に嬉しかった。
強者を完膚なきまでに叩きのめしてこそ、王の威厳は保たれるというものだ。
「シャドービームッ!!」
キングストーンにエネルギーを密集させ、螺旋状の光線として放射する。
ダンに避ける術はなく、機械の身体はあっという間に翠緑の光で呑まれていく。
今までの戦闘で装甲の大半が剥がれていたため、光線は直にその身体を苛んでいった。

80 :
 

81 :
支援

82 :
支援

83 :
支援

84 :
支援

85 :
「ぐああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
電流が迸る音に紛れ、耳を覆いたくなるような絶叫が鳴り響く。
電気に近い性質を持つシャドービームは、ダンを通じてヴァンの肉体すらも破壊する。
掠っただけでも被害をもたらす光線が、途切れなく肉体にまとわりついているのだ。
意識は酩酊し、皮膚は爛れ、筋肉は痙攣し、血液は沸騰する。
強烈な電流によって神経繊維は焼き切れ、人間が感じることのできるあらゆる激痛がヴァンの全身を蝕んでいった。
「何故だ」
それなのに。
「何故、まだ私が押されている」
未だにヴァンの力は衰えない。
それどころか刀に込められた力はさらに増しつつあった。
「……何でかって、そんなの決まってんだろ」
シャドーチャージャーは途切れることなくシャドービームを発射し続けている。
ダンは全身から火花を飛び散らせ、至るところから黒煙を昇らせている。
この損傷具合で、創世王に勝る力を出せるわけがない。
マイティアイによる分析結果は完璧だったはずだ。
「お前をRために決まってるだろうがあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
ピシリ、と音が鳴る。
その音源はダンの身体からでも、シャドームーンの身体からでも無かった。
音の正体、それは――――
絶対に折れることのない、折れてはならない証。
ゴルゴムの、創世王の象徴。
魔剣・サタンサーベルに亀裂が入った音だった。
「馬鹿な!? サタンサーベルが折れるだと!!」
象徴は砕け散る。
サタンサーベルの刀身は根本から折れ、真っ二つになって宙を舞う。
そして――――
「チェストオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
サタンサーベルの防御を破った斬撃は、シャドームーンの装甲すらも斬り裂いた。
「ぐ……おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
ダン・オブ・サーズデイは刀を象徴としたヨロイ。
故に斬れないものなど存在しない。
ダンの刀はシルバーガードを突き抜け、フィルブローンすらも一刀両断した。
シャドームーンは仮面の下から低い声を漏らし、おぼつかない足取りで後退していく。
傷口から火花と煙を飛び散らし、その度に銀色の破片が足下へと落ちていった。
たった一撃だが、その被害はあまりにも甚大。
創世王と化したシャドームーンですら、まともに立っていることができない。

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「これで……全部終わりだ」
だが、それはヴァンにとっては最大の好機。
長過ぎた因縁を清算し、次に進むための好機なのだ。
十メートルほど背後へと下がり、突き出すように刀を腰に構えるダン。
そうして、再びブースターを点火。
G-ER流体と同色の青い光を噴出し、ダンはシャドームーンへと突進する。
今のシャドームーンは反撃も、迎撃も、回避も、防御すらもままならない。
「死いいいいいいいいいいいいいいいねええええええええええええええええッ!!!!!!」
多くの思いを乗せた刀が、ついに銀の月を突き抜ける。





――――はずだった。





シャドームーンに刀が到達する直前、ダンの動きはピタリと停止してしまう。
ブースターの噴出も止み、身体から光が失われていく。
あと数センチでシャドームーンを串刺しにできるのに、ダンは刀を突き出したまま動かない。
まるで時間が止まっているようだ。
しかし、ダンの身体からは火花や煙が上がっている。
先程よりもその強さは増し、パチパチと音を鳴らしていた。
翠星石とつかさは、呆然としながらダンを見上げている。
「どうしたです、なんで動かないんです? あと少しであいつを殺せるじゃないですか」
ダンを見上げながら、翠星石は狼狽している。
あれだけシャドームーンを敵視していたヴァンが、何故この期に及んでトドメを刺さないのか。
翠星石はその理由を理解することができない。
ダンの瞳からは、燃え盛る炎のような赤は消えている。
だが、翠星石は気付かない。
つかさも気付かない。
気付いたのは、シャドームーンだけだった。
「……死んだか」
淡々とした口調でシャドームーンは言う。
ダンの刃は届かなかった。
今までの傷に加え、シャドービームを長時間も浴び続けたのが原因だ。
あと一歩、あと数センチのところで、ヴァンの命は尽き果てた。
操縦桿を握り締めながら、無職のヴァンは死んでいた。

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ゾルダとリュウガの戦いは佳境を迎えていた。
ミラーワールドに侵入してから五分が経過し、互いのデッキのカードも半分ほどに減っている。
だが、戦況は五分ではない。
一方的ではないが、やはりどちらかに傾きつつある。
ただし、リュウガの方ではない。
僅かだが、ゾルダの方が優勢だった。
ゾルダの身長以上の大きさを持つ巨大な一門砲・ギガランチャーから砲弾が発射される。
リュウガがレーザーでそれを迎撃すると、大きな爆発と煙を起こした。
大量の煙が視界を塞ぐ中、ゾルダはひたすらにギガランチャーを乱射する。
相手の居場所は分からないが、広範囲攻撃で全てを制圧するのがゾルダなのだ。
一片の容赦もなく、リュウガへの殺意をもって、ゾルダは砲撃を続ける。
圧倒的なまでの絨毯爆撃に押されているのか、リュウガの反撃が飛んでくることはない。
だが、ゾルダは奇妙な違和感を覚えていた。
あまりにも呆気なさ過ぎるのだ。
暖簾に腕押しと言うべきか、いくらなんでも手応えが無さ過ぎる。
今のリュウガはヒノカグツチを失い、大きな傷を負っている。
だとしても狭間やシャドームーンにすら匹敵する力を持っていたリュウガサバイブにしては、あまりに弱すぎるのではないか。
煙が晴れ、リュウガの身体を視認できるようになる。
そこに新しい傷は存在しなかった。
「おたく、やる気あるの?」
抱いていた疑問をぶつける。
「おいおい、少しは自信を持てよ。お前の砲撃が強すぎるから防御するしかないんだろうが」
「嘘を吐くなよ」
リュウガは明らかに嘘を吐いている。
攻撃的な性質を持つリュウガであれば、ゾルダの砲撃を強引に突破して接近戦に持ち込むなど容易いはずである。
ゾルダとしては遠隔戦の方が都合がいいが、それでもあまりに上手く行きすぎているのだ。
ゾルダとリュウガサバイブの間にある戦力差を北岡は理解してないわけではなかった。
単純な数値の大小もそうだし、変身者の力量差もある。
真っ向から挑めば、やはり勝機はない。
しかし、ゾルダは志々雄真実のたった一つの弱点を知っている。
大火傷で体温調節が出来なくなった志々雄は、十五分しか戦うことができない。
だからこそ人間離れした力を持っていながら、十本刀を始めとした組織を作った。
この弱点を突けば、勝利を掴むことができるのではないかと考えたのだ。
詳細な時間までは分からないが、リュウガは自分達よりも早く戦闘を始めていた。
今の時点でも十分以上は経過しているだろう。
ライダーの変身が解除されないのは、おそらくデッキ自体に特殊な制限が設けられていたからだ。
十分しか変身できないという制限は、本来はミラーワールドの限界滞在時間を表しているものだ。
連続変身が出来なくなっていたのと同様に、主催側がデッキに細工をしていたのだろう。
それがキングストーンの影響で解除され、ライダーは本来の力を発揮できるようになったのだ。

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