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宮前おじいちゃんのおはなし。


1 :2012/10/18 〜 最終レス :2012/11/20
宮前さん
・某リハビリ病院に入院
・78歳、大好きな奥さんと二人暮らし
・軽度の歩行困難
・小柄.いつもニット帽かぶってる
初めてだけど、誰かに聞いてもらいたくて、スレを立てました。
3ヶ月くらい前から今日までのできごと。
おそらくだいぶ読みづらいだろうかと思いますが…誰か読んでくださる人がいれば嬉しく思います。

2 :
私の祖父が入院した。
買い物の途中に倒れて、救急搬送。
脳内出血の重いもんで一時は生死をさまよったが一命をとりとめ、
1ヶ月程してリハビリ専門病院に転院した。
そのころのおじいちゃんは簡単に言うと、
生後数ヶ月のR児みたいなかんじ。
声はほとんど出なくって、起きてたり、眠ってたり。
もちろん飲食できない。
胃に栄養分を通すためのチューブをつけてた。
もちろんオムツ。

3 :
       何    言    っ    て    ん    だ    こ    い    つ

                       / ̄ ̄ ̄ ̄\
                      /;;::       ::;ヽ        ,,ト、,, ,,ィ ,ィ
         ____ .         |;;:: ィ●ァ  ィ●ァ::;;|   _,,-;" '' ゛''" ゛';__
         /     \          |;;::        ::;;|   .ヽ/""゛゛''`';, ノr´)
      /   ⌒  ⌒ \      |;;::   c{ っ  ::;;|  .,;'゛/__   _ "iヽ;ミ
    /    (●)  (●) \       |;;::  __  ::;;;|  ,,'"|( d  /oノ ド゛ `ミ
     |   、" ゙)(__人__)"  ).    ヽ;;::  ー  ::;;/ r ";,| ▼    ド゛ `ミ
    \      。` ⌒゚:j´ ,/ j゙~~|    \;;::  ::;;/  (`ヽ';ヽ_人__ノ  /  ,,ミ゛、
 __/          \  |__|     .|;;::  ::;;|    ヽ、 '';,i⌒⌒  /   リ  ヽ、
 | | /   ,             \n||| | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/` ィ'r`''''""´  ,,ミ゛    |
 | | /  ./   ∩∧__,∧ ♪ ( こ| |             |\♪  ∧__,∧∩  .i    |
 | | | ⌒ーn ヽ( ^ω^ )7 \ (⊆.| |             | | i`( ^ω^ )ノ  |   |
  ̄ \_、 ./`ヽJ   ,‐┘ ̄ .  | |             | ̄ └‐、   ィ^.、 ´   ノ ̄ ̄ ̄ ̄
        ´`ヽ、_  ノ 二二二lニ|_|___________|      ゝ  _,r`  ,/
 .    ♪ 彡  `) ).        |_|___________|       ( (´ ♪ ミ
                         _|_|__|_

4 :
宮前さんはそのリハビリ専門病院の病室で出会った。
4人部屋の、おじいちゃんの向かい。
宮前さんは小柄なおじいちゃんで、目はぎょろっとしてて。
千と千尋に出てくるカエルに紺のニット帽をかぶせた感じ。
ベッドの上にちょこんと座ってた。
「えらい可哀想な…」って思ってたのかな、
そんな顔してこっち見てた。
挨拶を交わすくらいで、当初はそんな関わりがなかったけど、
ほとんど毎日おじいちゃんのお見舞いに行ってたから、
その中で自然と宮前さんについても詳しくなっていった。

5 :
基本、宮前さんは眠ってるか、座ってこっちを見てるか。
奥さんが2、3日に1度来てくれるときは、これでもかってくらいに甘えてた。
奥さんは大阪のおばちゃん!ってかんじの人で、こぎれいだけどド派手。
さばさばしてて、宮前さんにも容赦なかった。
でも、バランスがとれてるっていうのかな、
お似合いの夫婦。

6 :
奥さんが帰るときは、必ずエレベーターまでお見送り。
奥さんがエレベーターに乗って帰って行ったあとも、
数分の間はじっと、そこから動かないでエレベーターを見つめてた。
宮前さんは病気の後遺症で物忘れが多くなってるみたいで、
忘れちゃ行けないように、奥さんといつも文通みたいなことしてた。
奥さんがお見舞いに来たときに必ず、
小学生のころに使ってた落書き帳みたいなのに
1ページずつ手紙を書いていってた。
奥さんがこない日は、ガサゴソ荷物をあさって、その手紙を小さな声を出しながら読んで→
ため息→なおす→ガサゴソ→読む→ため息→なおす…みたいなことを続けてた。

7 :
ある日の夕方、病室に入って行くと、宮前さんがぐずぐず号泣してた。
「だっで…だっで…ずびずびずび」
「そんなんゆうたかてしゃーないやないの!」
「だっで…だっで…わしが帰らな、母さん(奥さん)一人でご飯どうすんの?ずびずび」
「わたしはこっから帰ってコンビニで何か買って帰るから、大丈夫!」
「でも…でも…なんでこんなときに…ずびずび」
その時間はちょうど宮前さんのリハビリの時間やったみたいで、担当の先生焦ってた。
「だっで…おまえの誕生日…一人で過ごすなんか可哀想やんか…ずびずび」
「大丈夫!父さん(宮前さん)が帰って来てからお祝いしてくれたらいいから、それでいいやん!」
「だっで…だっで…ずびずびずび」
「父さん、お誕生日お祝いしてくれるって気持ちあるんやったら泣き止んで?私そっちの方が嬉しいわ」
「うん………

………ずびずびぐすんぐすん」
「父さん退院したらケーキかって、ふたりでお祝いしような」
何かのドラマかと思った。
後ろで聞いてて、感動した。

8 :
ぼふっ

9 :
宮前おじいさん可愛い

10 :
読んでくれてありがとう。
嬉しいです(^^)
今日も少しだけ、よろしくお願いします。

ある日、いつものように病室に行って、私と母とで、私のおじいちゃんのリハビリを見てた。
おじいちゃんは入院時より少しだけ病状が良くなって、目を覚ましていることが多くなってた。
リハビリの先生がおじいちゃんを車いすに移動させるとき、いつもはだらーんとしててなされるがままだったけどその日は初めて、「んーーーっ」て声を出して、顔もしかめっつらで、
左手でベッドのさくをぐーっとに握って、頑張って立とうとしてた。
その姿を見て、私と母も「頑張れ、頑張れ」って、小さい声で応援してた。
そしたら後ろからも「頑張れ、頑張れ」って小さい声がした。
振り返ってみると、宮前さんがベッドの上で起き上がって、両手をかまえるように胸の前で握って(ファイティングポーズみたいな)真剣な顔でおじいちゃんを応援してくれてた。

11 :
そこらへんからかな、宮前さんと私たち家族(主に私)はちょくちょくお話するようになった。
そこでわかったこと。
宮前さんは私に奥さんの話をするときは偉そうに話す。
「あいつが〜」みたいに。
でも、奥さんが来て甘えるときは、「母さん」とか「お母さん」になる。
声も少し高くなる。

12 :
私のおじいちゃんと宮前さんは同じ日に入院したんだけど、最初の方は宮前さんは携帯電話を首からぶら下げてた。
奥さんと自由に連絡が取れるように。
最初の方はしょっちゅう奥さんに電話してたし、しょっちゅう奥さんからも電話がかかってきてた。
宮前さんが電話かけるときは、小さな背中をさらにせばめて、尖った口をさらに尖らせて、右手に構えてひそひそとしゃべる。
ただ、宮前さんのひそひそ声は大きい。普通に聞こえる。
奥さんから電話がかかってくると、ものすごい大きな着信音がする。たぶんボリューム最大。
かけたときは弱気。
「おかあさーん。今日は来てくれへんのーん?」
みたいな。高い声の甘えた声で話す。
かかってきたときはちょっと強気。
思春期の男の子か。

13 :
ある日、物忘れの多い宮前さんは携帯電話の使い方を忘れた。
ボリューム最大であろう着信音が何度も鳴る。
鳴り続ける携帯を耳にあてて「もしもし」って言ってみたり、ぽちぽちいろんなボタンを押してみたり。
この頃はまだまそんなに親しくなかったから、そんな宮前さんに声かけれなかった。
携帯電話が鳴り止むと、しばらく着信を待ってるような感じで両手で携帯を持って、じっと見つめてた。
飽きたらベッドに横になって即寝。
その日はそんなのを繰り返してた。

14 :
そう言えば、宮前さん、らんま1/2に出てくる小さいおじいさんにも似てる。
ギョロ目と小さいところと尖った口が。
頭ははげてなくって、いつもニット帽やけど。
そしてえろくないけど。
あんなに小さくもないけど。

15 :
次の日、病室に入ると宮前さんの奥さんも来てた。
宮前さんはいつもみたいにベッドの上に座って、首からぶら下げた携帯をいじりながらなんか話してた。
奥さんはわーわーずっとしゃべってた。
奥さんの声は旧どらえもんの声を高くした感じ。大きい声ではきはきと話す。
宮前さん、自分がどのように電話に出れず、操作したかを説明。これを何度も繰り返す。
奥さんは、自分がどれだけ心配したか、なんで電話に出なかったの?と聞くだけ聞いて、それらを何度も繰り返す。
お互いの話をお互いが聞かず、それぞれがそれぞれの話を続ける。
年をとったら人の話を聞かなくなるって聞くけど、本当やったんやーなんて思いつつ、
それが自然に成り立っているふたりの関係を、素敵だな、なんて思った。

16 :
しばらく私のおじいちゃんの方に集中してたから、経緯はわからないけど、
気付いたときには宮前さん夫婦は上記のスパイラルから抜け出してた。
奥さんが宮前さんの携帯電話にその場で電話をかけ、宮前さんが取ってみる、ってことになってた。
(宮前さんはベッドの上、奥さんはベッドの横のいすに座ってる)

奥「ほいじゃあかけんで、」
宮「うん、かけてー」
ここで2人共耳に携帯電話をあてる。
奥「あんたはまだ耳に当てたらだめやないのーほらちゃんと持って」
奥さん的確なつっこみ。
宮前さん、携帯電話を両手で持って着信を待ち構える。
不自然な沈黙の直後、最大ボリュームの着信音が鳴り響く。
奥「なった!なった!」
宮「なった!母さん、なった!」
ふたりともなぜかハイテンション。

17 :
奥さんの助けがあって、宮前さんの携帯との通話に成功。
ここでやっと2人共耳に携帯電話をあてる。
奥「もしもしー。おとーさん、おとーさん、聞こえてますか?」
奥さん後ろを向く。
もちろん声は大きい。
宮「もしも………………………えっ?」
おとーさん、の時点で、宮前さん、奥さんの方を向く。
奥「おとーさん、おとーさん、聞こえてますか?」
奥さん再チャレンジ。
宮前さん、携帯電話を耳から外して、膝の上に置いて、奥さんの方を向いたまま、
宮「うん、聞こえてるよ」
コントかと思った。

18 :
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19 :
奥「あんたー!携帯電話耳から離してしもたら意味ないやないのー!」
嬉々とした表情で振り返った奥さん、的確なつっこみ。
宮前さん、耳に携帯をあてる。従順。
奥「もしもし、おとーさん、おとーさん」
今度は宮前さんと向かい合いながら話す奥さん。
宮「もしもし、もしもし………聞こえます、おかーさん」
奥「あんたちゃんと電話のほうから聞こえてる?もういっこの耳からじゃない?」
宮崎さん、片方の耳を手で塞ぐ。
宮「もしもし、おかー」
奥「もしもし、おとーさん」
宮「聞こえる!聞こえる!」
奥「では、切りますよ」
宮「はい」
ひとまず、携帯の故障ではないことが確認できたみたい。
奥さんはそのあと、宮前さんにわーわー携帯の出かたを教えてた。
宮前さんはふんふん聞いてた。

20 :
私と母は笑いをこらえるのに必死で、もうだめだった。
というか、ちょっと笑ってしまってた。
携帯電話事件はこれで無事に終わった。

21 :
全部とばした

22 :
http://www.youtube.com/watch?v=wcLNteez3c4

23 :
>>1
ワロタw
でも誕生日のくだりは泣いた…
もっと宮前さん知りたい。続き待ってるよん

24 :
あーひま
>>1まだぁ?

25 :
読んでくれてありがとう(^^)
今からまた少し書きます。よろしくお願いします。

ある日、宮前さんはいつものように、奥さんからのメッセージを読んでた。
私のおじいちゃんのベッドが向かいにあるから、一応こっちに背を向けて、
ベッドのふちに腰掛けて、おそらく本人なりの小声で。
内容を完璧には覚えてないけど、宮前さんが読んでた感じは、こんなのだった↓
「9月○日、○よーび。おとーさん、今日はたいちょーどーですか。
私は、きょーは、足のびょーいんに行くので、おとーさんの病院には行けません。
明日、9月○日は行きます。リハビリがんばってくださいね」
奥さんの手紙はいつもリハビリ…のくだりで終わる。

26 :
>>25
はじまた\(^o^)/

27 :
宮前さんは不満げに何かぶつぶつ言ってた。
私のおじいちゃんのリハビリが一段落ついたので、
宮前さんの方を見てみた。
ら、待ってました!って感じで宮前さんがこっち見てた。
宮「今日は何日?」
私「○日ですよー」
宮「こんなもん……わからんわなあ!」
宮前さん苦笑しながら、奥さんのメッセージを見せてくれた。
宮「今日が何日かわからんな、あいつがいつ来よるかなんて、わからんわなー!
  こんなん、今日の日付も書いといてくれな…わからんわー!」
ちょっと偉そうに奥さんを批判する宮前さん。
宮前さんのベッド脇にはカレンダー。
確かに今日が何日かわからな、奥さん来る日もわからん…
なんて妙に納得してしまったけど。
これも病気の後遺症なのかな。
もしかしたら宮前さんはもとから相当天然だったのかなーなんて真面目に考えた。

28 :
その日初めて文通ノートを見せてもらった。
宮前さんの奥さんからのメッセージは、
筆ペンみたいなもので、超特大サイズで書かれてあった。
毎回、宮前さんを気遣うひとこと、明日(明後日)は○○で来れません、
次はいつ来るか(○月○日って書いてある)、リハビリ頑張ってね」の文字。
温かい人だなと思った。

29 :
もう泣いてるんすけと…
宮前さんのじいちゃん…奥さん…素敵すぐる(;_q)

30 :
宮前さんの奥さんは70代後半、声は初代どらえもんの声を高くした感じ、
髪型は林家パー子。化粧もばっちり、唇はいつもショッキングピンク。
いつも明るくって元気。優しい。
とても気さくな方で、きっとお友達も多いと思う。
奥さんはいつも、電車とバスを乗り継いで病院へ来る。
宮前さんが入院するようになってから、膝を痛めてしまったらしい。
腰もまがっていて、杖を持って歩いてる。
宮前さん夫婦には遠方に嫁いだ娘さんが一人いるそう。
宮前さんが入院してから約3ヶ月のあいだ、
娘さんを見かけることはなかった。
病院から帰ろうとすると必ず
「もう帰るんか。もうちょっとおってよ」なんて甘える宮前さんに
「私かてしんどいのよー」なんて、笑顔で言ってたけど、
本当にしんどかったと思う。

31 :
読んでるよ

32 :
29さん、ありがとうございます。
私に文章能力があれば、もっと正確に宮前さん夫婦のことをお伝えする事が出来るのにと歯がゆい気持ちですが…
それでも、宮前さん夫婦の素敵さが伝わって嬉しく思います(^^)
またぽつぽつ書きに来ますので、どうぞよろしくお願いします。

33 :
呼んでません

34 :
>>32
読みやすくておもしろいよん
書ける時でいいから連載がんばれよw

35 :
>>33
んじゃ書くなよ馬鹿なのw

36 :
こんばんは。
温かいコメントありがとうございます(^^)
記憶が薄れてしまう前に、覚えてる事全部書いていきたいと思います。

37 :
私のおじいちゃんの病状は入院当初よりだいぶ回復してきた。
起きてる時間が多くなった。
言葉は出ないけど、声は出るようになった。
たまに笑顔を見せてくれたり、拒否反応を示すこともでてきた。
だからこそ、やんちゃになった。
一時期、おじいちゃんは鼻チューブを頻繁に抜くようになった。

38 :
私や私の家族がいるときは手を握ったり、気をそらせたり、
ときには力づくでも鼻チューブ抜きを防ぐ事が出来た。
私たちがいても、オムツ替えの間のわずかな隙に鼻チューブを抜くこともあった。
そんなおじいちゃんを目の当たりにして、
いつからか宮前さんがおじいちゃんを見ててくれるようになった。
私が病院へ行くと、
「今朝も抜いとったわー」とか、
「今日は抜かんと頑張ってはるよー」とか、
教えてくれるようになった。

39 :
宮前さんの奥さんが来てるときは、ふたりして見ててくれた。
ある日は、私がお見舞いに行った直前に抜いたそうで、
夫婦そろって、抜くに至った経緯を話してくれた。
奥「さっきまではちゃんと我慢してはったんよ。
  でも、私がこの人(宮前さん)の方向いてる隙にぽっと抜いてしまってはったんよ
  ついさっきまでちゃんと我慢してはったんよー」
宮前さんも同時にしゃべってたけど、奥さんの声が通るのと、勢いがあるのとであんまり聞き取れなかった。
ちゃんとふたりに向かって返答したけど。

40 :
鼻チューブを入れる時は、看護士さんによってはなかなか痛いらしい。
入れてしまえば違和感がある程度だそうだけど。
私のおじいちゃんも、入れる時はすごく嫌がったし、むせるし、
苦しそうに顔を真っ赤にして抵抗してた。
宮前さんはいつも、
ベッドに寝てるか、そのまま座ってるか、リハビリしてるかのどれかだった。
鼻チューブを入れるときはいつも、座って、おじいちゃんを見てた。
見てたというより、応援してくれてた。
あるときは目を真っ赤にして、ぐすんぐすん言ってた。
そのときは宮前さん風邪なんかなーとかって思ってたけど、
奥さんが来てるときに「かわいそうやーかわいそうやー」って言って
また目を真っ赤にして、ぐすんぐすん言ってたから、
おじいちゃんを見て、泣いてくれてるってことに気付いた。

41 :
ある日、病院へいくと、
宮前おじいちゃんはリハビリの先生と奥さんのふたりから、
説教を受けてるっぽい日があった。
奥さんがわーわー行ってるのと、
部屋に入ると、宮前さんが小さな背中をさらに小さくしてたから
なんとなくそう思った。

42 :
宮前さんは両足共、足先からひざまで包帯みたいなものでぐるぐる巻にされてた。
宮「こんなんしとっても一緒やん…なんも悪いとこないのに…」
奥「悪いとこないことない。あんたは膝に水がたまってるんやって。しとかなあかんの」
先生「そうですよーそうですよー」
宮「そんなことゆうたかて…こんなんしとっても一緒やん…なんも悪いとこないのに…」
奥「悪いとこないこと…
こんな会話をずっと繰り返してた。
奥さんが頼もしかった。
でも、宮前さんはどうも納得行かない様子だった。

43 :
また別の日、その日は宮前さんの奥さんの来ない日だった。
ベッドの上で座ってる宮前さんからのちらちらした視線を感じた。
宮「こんなもん、〜〜〜…なあ、」
ふと目が合ったと同時くらいに宮前さんは話し始めた。
宮前さんは後遺症からか、ときどき何を話しているのかわからないときがある。
私「どうしたんですか?」
宮前さんはペラッと布団をめくり、投げ出した両足のズボンの裾をめくってった。
宮「ほら見て。ここ、こーんなぐるぐる巻きにされてもうて…ほらー」
両足の膝の上までくりくりと裾をめくっていき、
サポーターみたいなものを外して
包帯みたいなものもほどいてった。

44 :
宮「ほら、なーんも悪いことないのに、こんなぐるぐる巻きにされて。
  これじゃもっと悪なってしまうわ!」
どや!って感じの苦笑じみた表情で言う宮前さん。
だけどその両膝は、素人の私からしても不自然に腫れているのがわかった。
私「え!めっちゃ腫れてますやん!!!
  両方とも………痛くないんですか??」
ちょっとオーバーめに言ってみた。
宮「………痛ないよー。………腫れてるかな??」
宮前さん、ドヤ顔から一変、不安そうな顔になって、
いそいそと包帯みたいなものたちを元通りにもどしてった。
この出来事があってから、
宮前さんはぐるぐる巻きの両足について何も言わなくなった。

45 :
その後わかったこと。
階段の多いところに住んでる宮前さんは
家に帰って生活をするためのリハビリとして、
段差の上り下りの練習をしてたそう。
先生曰く、宮前さんが頑張りすぎ、膝に水がたまってしまったとのこと。
(私も宮前さんがベッドの上で膝の曲げ伸ばしの自主練習をしていたのを何度も見た)
膝はどんどん悪くなって、少しの移動、
トイレに行くときも、奥さんをお見送りに行くときも、
車イスで移動するように、ということになった。

46 :
それでも聞かない宮前さん。
(ただ忘れてしまってただけかも知れないが。)
奥さんがお手洗いに行ってるだけでも
「どーこ行ったんやろなあ…」とかってぶつぶつ言いながら、
トテトテと歩いていってしまう。
ある日、奥さんが帰ろうとすると、
奥さんがとっさにバッと振り返って
「アカン!!!あんたじっとしとかなー!!!」ってものすごい大きい声で言った。

47 :
奥さんの俊敏な動きにびっくりしながら宮前さんの方を見ると、
宮前さんは布団をめくって足をベッドの外にやったところだった。
さすが奥さんの勘だなって思った。
「ん。」ってしょんぼりしながら宮前さんは言って
奥さんは再三「見送りはいいからじっとしてなさい」って言って。
そして奥さんは帰ってった。

48 :
宮前さんは何考えてるのかよくわからん表情で
じーっと一点を見つめてて。
しばらく経って、なんか音がするなと思って振り返ってみたら、
宮前さんが車いすに乗って病室から出てくとこだった。
ちょうど私も帰る時間だったので、
その少し後に病室から出て行くと、
宮前さんは奥さんが降りて行ったであろうエレベーターの前で
じっとエレベーターを見つめてた。

49 :
時間的に、きっと奥さんのお見送りはできなかったと思う。
宮前さんの背中が寂しそうで、なんとなく、声をかけることができなかった。

50 :
宮前さんが言ってた。
「うちはふたり暮らしやから、俺がここへおったらあいつはひとりやねん」
「ひとりでご飯作って、食べて、ひとりで生活してるから、心配や」
「昔は良かったよ、娘が嫁いで、ふたりで暮らすのん。楽しかった」
「やっぱり家族は近くにおるのが安心やな。あんたとこみたいに」
「今あいつが倒れてしもたら、誰もみるもんがおらへんから心配や。俺が元気やったらみてやれるのに…」
私は、いろいろあって、今もあんまり人を信じられないけど、
宮前さんと接してると、この世には本当に心根の良い人もいるんだなって実感できた。

51 :
ある日、宮前さんがずびずび言ってた。
というより、嗚咽に近いものがあった。
奥さんも宮前さんの背中をさすって、珍しく真剣な顔してた。

52 :
通勤中なのに涙が…

53 :
宮前さんになにが!?

54 :
続き待ってる!

55 :
読んでくださってありがとうございます*
51の続きを書いていきます。
いつもと明らかに様子が違うので、ちょっと気になってた。
ふたりの会話(主に奥さんが話してた)を聞いてわかったこと。

宮前さんは、山手の一軒家に住んでいる。
坂道が多く、玄関に入るまでも階段がある。
その家に帰るために、宮前さんはリハビリを頑張っていたけれど、
膝の状態や体の状態、今後のことを考え、奥さんが引っ越しを決めたとのことだった。
奥「あんたの事考えてのことやねん、わかってな」
宮「ずびずび……あー………じゃあ俺はもうあっこには帰れんのかあ………ぐすんぐすん」
奥「新しいおうちはマンションで小さいとこやけど、ふたりで頑張って行こう」

56 :
宮「迷惑かけるなあ……」
奥「家はそんままおいとくから、マンションで暮らして、父さんの具合が良うなったら、またいっしょに帰ろう」
宮「………ぐすんぐすん」
奥「あんたが植えてたんも、今きれいに咲いてるよーあれも取ってしまわんなあかんけど」
宮「そーかー…………ぐすんぐすん」
奥「いっしょにいちから、な、頑張ろうな、父さん」
宮前さんの背中をさする奥さんの小さな背中が、私には少し不安げにうつった。
でも、宮前さんの奥さんは強い人だと思う。

57 :
それから2、3日後かな。詳しくは忘れたけど。
宮前さんが写真を眺めてて、それを見せてくれた。
宮「これ、俺が植えてん」
ちょっと誇らしげな顔、もといドヤ顔で。
尖った口の端をにやっとつり上げながら。
おそらく使い捨てカメラで撮った写真。
満開のコスモスが写ってた。

58 :
私「きれいですねー」
宮「やろー。でもなー、こっから引っ越すねんなー」
写真を眺めながら、宮前さんは言った。
宮前さんは私には弱いところを見せない。
愚痴は言うけど、辛さやしんどさは見せない。
泣いたり、甘えたりするのは、奥さんにだけ。

59 :
泣けるーこんな夫婦ほんまにおるんやぁ(T-T)
こんな伴侶みつけたいわぁ。泣ける。。泣ける。。

60 :
宮前さんはよく一緒に
私のおじいちゃんのリハビリを見てくれてた。
私のおじいちゃんは後遺症が重く、
その頃はベッドの上でのリハビリが主だったから。
上手くいくと、目をらんらんと輝かせながら
尖った口で、「ようしはったな」って言ってくれたり
「おおー パチパチパチ」って拍手してくれたりとか
純粋に喜んでくれた。
あんまり自発的な人でないから、
目が合ったときとか、何か言ってくれてた。
多分、気を使ってくれてたんだと思う。

61 :
>>59さん
素敵なコメント、ありがとうございます(^^)
宮前さん夫婦の素敵さを誰かにも知ってもらいたくて、このスレを立てました。
そのように感じていただけて、本当に嬉しく思います。
10月18日までの出来事ですが
思い出す限り書いて行きたいと思いますので、
ときどき見にきてくださると嬉しいです。

62 :
私のおじいちゃんが少しの間、車いすに乗れるようになった。
その日から、リハビリは極力、リハビリ専用室でするようになった。
リハビリ専用室には、他の患者さんも20〜30人くらいて、
それぞれがそれぞれのリハビリをしている。

63 :
ある日、おじいちゃんのリハビリについていくと
リハビリ中の宮前さんを見かけた。
先生といっしょに座って、
一生懸命、言われた通りに足をパタパタさせてた。
「いち、に、さん、、、」って数えながら。
手をぐーぱーさせたり、首のストレッチをしたり。
リハビリしてるときももちろん、ニット帽をかぶってた。
可愛いかった。

64 :
ある日は、おじいちゃんのリハビリを見ていると、
すぐ隣のスロープに宮前さんがやってきた。
お互い頭をペコッと下げて挨拶をするだけだった。
宮前さんはスロープを両手につかんで、その間を一歩一歩歩いて行く。
宮前さんは後遺症からか、いつも屈んで超小刻みに歩いてたんだけど、
リハビリの最中はひとつひとつ、先生の指示通りに歩いてた。
背筋をのばしてーとか、いろいろ。(忘れちゃった)
先生が「そう!宮前さん!そうです!」とかってほめてくれてたけど
宮前さんは何ともないようなふうを装って歩いてた。
完全にドヤ顔だった。

65 :
宮前さんがスロープを往復し終えるころには、
いつもの超小刻み歩き方ではなく、元気な人と同じように歩けてて、
リハビリってすごいなあって、改めて感じたくらいだった。
宮前さんのリハビリが終わり、宮前さんは先生に車イスを押されながら、私の前を通った。
純粋に『宮前さん頑張ってはるなあ』って思ったし、宮前さんドヤ顔だし、
「頑張ってましたねー。すごい!」って言ったら、
照れたような笑顔で「そうかな。ありがとー」って言ってくれた。

66 :
おじいちゃんのリハビリが終わって部屋に帰ると、
宮前さんはドヤ顔のままだったから、もう一度声をかけてみた。
私「さっき頑張ってはりましたねー」
宮「そうかなー。先生の言う通りにしてただけやけどな。ちゃんと歩けとった?」
尖った口をさらに尖らせて、目をきょろきょろさせて言う宮前さん。
素直な人だなと思った。
私「歩けてましたよー!」
宮「そうかなー。先生の言う通りにしてただけやけどな。」
宮前さん、誇らしげな顔してた。
私の祖母も十数年入院していて、
その間、何度かリハビリをしてもらってた期間がある。
その中で、祖母も含め、いろいろな患者さんに出会ってきたけど
宮前さんほど一生懸命に頑張ってリハビリに取り組む人は、ごく少数だと思う。

67 :
宮前さんの奥さんは前程頻繁に病院に来れなくなった。
それでも、3日に1日くらいは来てたかな。
引っ越しの準備をしないといけないから。
来ても、前程元気に溢れてはいなかった。
表情や歩き方で、疲れているのがわかった。
私は、宮前さんの奥さんが心配だった。
無理をしないで欲しいけど…
でも、そんな事言ったら余計元気に振る舞ってしまいそうな人だったから
何も言えなかった。

68 :
奥さんは帰るときに必ず、
「明日、明後日は来れないので、お父さんをよろしくお願いします」
って私に言うようになった。
私はそのとき
「あんまりご無理なさらないでくださいね」
「引っ越しの人出が足りなかったら、いつでも声かけてくださいね」
とかって、声をかけることしかできなかった。
何かもっとできることがあったのかもしれない。
でも、私にはそれしかできなかった。

69 :
私はだいたいお昼過ぎにいつもお見舞いに行く。
宮前さんの奥さんは私より前か、それか16時くらいに来るかのどちらかだった。

70 :
期待あげ

71 :
70さんありがとう(^^)
今日も少しだけ書いて行きます。

72 :
後遺症からか、物忘れの多い宮前さんのために、
奥さんはいつもらくがき帳みたいなものにメッセージを書いて帰る。
奥さんが来る予定の日、
私が病室に行って、奥さんがまだ来ていないときには必ず
「今日は何日な?」って聞いてくる。
私「○日ですよ」
宮「○日か。あいつ来よれへんのかな。今日来るって書いてあるのに」
宮前さんはいつも笑顔でそう言う。
ほんとは寂しいんだろうけど。

73 :
最初の方、私は
「きっと来ますよ」「来るといいですねー」
とかって答えてた。
奥さんが来るって書いてる日(らくがき帳に)は絶対に来るの、知ってたから。
それに対して宮前さんはいつも
「ほんまに来るんかいなあー!」
って余計に強がった。
から、対応をちょっと変えてみた。

74 :
宮「今日は何日な?」
私「○日ですよ」
宮「○日か。あいつ来よれへんのかな。今日来るって書いてあるのに」
私「最近引っ越しとかでしんどいんちゃうかなあ..」
宮前さん、ここでハッとした顔になる。
私、罪悪感にさいなまれる。

75 :
私「元気に来てくれはるといいですね」
宮「うん……うん。」
宮前さんコクコクと頷く。
宮「あいつもたいへんやねんな、山を下って、ほいでここまでまた来んなあかんから…」
宮前さん遠い目。

この対応はもうしないことにした。

76 :
宮「今日は何日な?」
私「○日ですよ」
宮「○日か。あいつ来よれへんのかな。今日来るって書いてあるのに」
私「ねー。どうなんでしょうね。来はるかなあ」
宮「なあ。俺にもわからんわ」
宮前さんの笑顔と共に話が終わった。

この対応も、もうしないことにした。

77 :
宮「今日は何日な?」
私「○日ですよ」
宮「○日か。あいつ来よれへんのかな。今日来るって書いてあるのに」
私「いつも16時くらいに来てますやん!!まだ○時ですよ!!ほらー(私の時計を見せる)まだもうちょっともうちょっと!!」
大阪のおばちゃんって感じで、ぐいぐい行ってみた。
奥さんだったらこんな対応するかなーと思って。

78 :
宮「……そうかなー。来るかなあ……」
宮前さんは尖った口をさらに尖らせて、照れたような顔で下を向いてた。
私「いっつも来てますやん、16時まであと○時間くらいやから…もうちょっともうちょっと!!」
宮「そうかな、来るかなー」
宮前さんは笑顔だった。
ほくほくした表情、ふふん♪って感じ。
これが宮前さんの求めてた対応のように思えた。
以後、宮前さんの「今日は何日な?」に対して、
いつもこの決まりきったやりとりをするようになった。

79 :
ある日、私のおじいちゃんの調子が悪く、
呼んでも呼んでも目を覚ましてくれない日があった。
ときどきそんな日があったけど、
宮前さんはいつも
「ちょっと声出してくれりゃあ嬉しいのになあー」
とかって励ましてくれてた。

80 :
その日はなんとなーく、
おじいちゃんを無理矢理起こそうとするのはやめようと思って
おじいちゃんと宮前さんのベッドの間くらいでのんびりしてた。
宮「でも……あんたとこ、いいなあ」
宮前さんがベッドの上に座りながら言った。

81 :
宮「あんたとこ、おじいさんはいっつもお見舞いにきてもうてるやん。幸せ者やで」
私「そうかなあ」
宮「うん。そやそや。でも…………ちょっとだけでもわからんのかな?」
私「どうやろねー」
ぐっすり眠る私のおじいちゃんを見ながら、宮前さんは言った。
私のおじいちゃんは、言葉が出ないどころか、
私や家族を認識できているのかどうかもわからない。
宮「ちょっとだけでもわかってくれてたら、いいのにな」
宮前さんの言葉が、温かかった。

82 :
ある日もまた、私のおじいちゃんが眠ったまま起きてくれなかった。
そんな日はたいてい、私はおじいちゃんに一方的に話し続けてた。
天気のこと、気候のこと、最近あった出来事とか。
だけど、その日はたまたま、
元気だった頃のおじいちゃんを思い出して
センチメンタルな気持ちになってたから、
自然とその頃の思い出話をしてた。
宮前さんは、ベッドで寝てた。
(宮前さんは、寝てるときもニット帽)

83 :
「おじいちゃんが田舎の料理教えてくれた時のこと、覚えてる?
 あれ、私ひとりで作れるようになったよ。今度また作ってみようと思うねん」
おじいちゃんはぐっすり眠ったまま。
私は、その時のエピソードとか、調理法についてどうしたらいいと思う?とかって一方的に話し続けてた。
私のおじいちゃんにはもう前みたいに元気になる見込みはない。
だから、話しててだんだん悲しくなってきて、
そうなると、余計にささいな出来事が思い出されて、
気付いた頃には結構時間が経ってたと思う。

84 :
「ずびずび………」
鼻をすするような音が聞こえて振り返ると、
宮前さんがベッドの上に座ってた。
目を真っ赤にしながら、あからさまによその方を向いた。
けど、涙がぽろぽろ頬を伝ってて、泣いてるのがバレバレだった。
次の日から、宮前さんは頻繁に、
「ちょっとでもわかって、声出してくれたら嬉しいな」
って言ってくれるようになった。

85 :
ある日、病室に入ると、
宮前さんが病院服の上にニットのセーターを来て、ベッドの上に座ってた。
平然とした顔してるけど、口元は笑ってて、目もいつもより大きく開いてて、
もうなんか言ってよ!って感じのオーラが宮前さんからにじみでてた。

86 :
私「宮前さん、セーターめっちゃ似合ってはるー!」
宮「そう?そう?そう?」
それはそれは嬉しそうな笑顔で、宮前さんは言った。
宮「最近涼しなってきたからー。ほら、中にシャツも来てんねん」
首元からぐいっと襟を引っ張りだして、
中に来てるシャツまで見せてくれた。
そんな宮前さんが可愛いかった。

87 :
奥さんは、いつもしんどそうだった。
見た感じ、痛めてる膝は悪化してるみたいだった。
一度私が帰るときに、病院の出入り口でばったり会ったけど、
私が声をかけるまで、奥さんはつらそうな顔をしてた。
「宮前さん?」って私が声をかけると、
「あらこんにちはー!」ってとたんに笑顔になって言ってくれたけど。
ひとりで引っ越しの準備や手続きしてるんやもん。
そりゃあしんどかったろうにな。

88 :
ある日、宮前さんの奥さんがわーわー言ってた。
宮前さんの帽子を取ったり、かぶせたりしながら。
病室に行って最初に目に飛び込んで来た光景がそれだったから、
なんかもう、笑けてしまってだめだった。

89 :
ふたりの会話のスパイラルによると、
奥「ほら、もうあんたこんなに髪の毛伸びてるやんーなんでもっと早う言わんかったのーん」
宮「そんな伸びてるかな」
奥「伸びてるよーもう可哀想に、母さんが看護婦さんに言って、美容師の人に来てもらうからな」
宮「うん」
こんな話を繰り返し繰り返ししてた。
宮前さんは終止甘えた声、なされるがまま。

90 :
病院では出張美容師さんのサービスを受ける事ができる。
それで、89から数日の間にはもう、宮前さんの頭はすっきりとしてた。
その日も、もうなんか言ってよ!って感じのオーラが宮前さんからにじみでてたけど
もう私のおじいちゃんのリハビリが始まってたから、
すぐには宮前さんとお話ができなかった。
宮前さんはニット帽を取って、かぶって、なんてしてた。

91 :
私のおじいちゃんのリハビリが一段落ついて、その日初めて宮前さんに話しかけた。
私「髪切りましたねー!すっきりしてる」
宮「………そう?」
それはそれは嬉しそうな笑顔で、宮前さんは言った。
ちゃんとニット帽を取って、髪型を見せてくれた。
宮「後ろも大丈夫?変じゃない?」
きれいに切りそろえられた白髪が、また可愛らしかった。
そして、宮前さんは禿げてはいなかった。

92 :
思いつく限りに書いてったら、時間軸がバラバラだ。
読んでくれてる人いたらごめんなさい。
でもあともう少しなので、よろしくお願いします。

93 :
ある日、病室に行くと、奥さんと宮前さんが仲良くテレビを観ていた。
仲良くといっても、テレビにはイヤホンが差してあって、
宮前さんが一人で両方のイヤホンを独占していた。
病室には一人一人にテレビが用意されている。
プリペイドカードを購入して、それでテレビが観れる。

94 :
私「テレビいいですねー」
宮前さんはテレビに真剣で気付かない。
奥「そやねん。この人リハビリ以外なんにもする事ないから、可哀想やなーと思って」
超ヒソヒソ声で話す奥さん。宮前さんイヤホンしてるのに。
奥「この人相撲が好きやから。もうすぐ始まるでしょ?」
確かこの日は、9月場所が始まる数日前だったと思う。
愛されてるな、宮前さん。

95 :
奥「前々からテレビみーゆうてたんやけどな、
  病室の人誰もみてないから俺もみいひん、ゆうて聞かんかったんよー」
宮前さん夫婦はいつも声が大きいけど、
こんな風に気を使ってたって事は知らなかった。
奥「それでも、どうしても相撲だけは見せてあげたかってん」
奥さん、いい笑顔してた。

96 :
奥さんはその後、
一通りテレビの使い方を宮前さんにレクチャーしてた。
奥「ここ押したらつく!」
宮「ここ押したら、つく……(電源ボタンを入れる)」
奥「ここは音の大きさ!」
宮「ここは音の、大きさ……(音量ボタンを押す)」
このとき、宮前さんはイヤホンつけっぱなしだったから
いつもより声が大きかった。
宮「母さん、母さん、聞こえへんくなった!壊れたんか!」
奥「あんたが音量ボタン押すからや!」
当たり前だけど、奥さんは、宮前さんの扱いに慣れている。

97 :
その日、奥さんが帰ったあと、
宮前さんはテレビに夢中だった。
次の日も、宮前さんはテレビに夢中だった。
しっかりイヤホンもつけて、
もちろんニット帽もかぶって、
ベッドに座ってテレビを観ていた。

98 :
やだー終わらないでーーー!!!
ずっと読んでたい。
ずっと続けようず

99 :
うちのばぁちゃんも脳梗塞で>>1さんのおじいちゃんと同じような感じ。
リハビリはしてないからもう寝たきりさん。寝てるときの方が多い。
でも>>1さんみたいにずっと話しかけ続けたことなんてなかったよ…
今は遠くでなかなか行けないけど、
行った時もっとたくさん話しかければよかった…。
しかし宮前のおじいちゃん可愛いすぎるなぁ。めちゃ和む。。

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