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中学生バトルロワイアル part5


1 :2013/03/13 〜 最終レス :2013/06/04
中学生キャラでバトルロワイアルのパロディを行うリレーSS企画です。
企画の性質上版権キャラの死亡、流血、残虐描写が含まれますので御了承の上閲覧ください。
この企画はみんなで創り上げる企画です。書き手初心者でも大歓迎。
何か分からないことがあれば気軽にご質問くださいませ。きっと優しい誰かが答えてくれます!
みんなでワイワイ楽しんでいきましょう!
まとめwiki
http://www38.atwiki.jp/jhs-rowa/
したらば避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/14963/
前スレ
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1347278746/
参加者名簿
【バトルロワイアル】3/6
○七原秋也/●中川典子/○相馬光子/ ●滝口優一郎 /●桐山和雄/○月岡彰
【テニスの王子様】4/6
○越前リョーマ/ ●手塚国光 /○真田弦一郎/○切原赤也/ ●跡部景吾 /○遠山金太郎
【GTO】3/6
○菊地善人/ ●吉川のぼる /○神崎麗美/●相沢雅/ ●渋谷翔 /○常盤愛
【うえきの法則】5/6
○植木耕助/○佐野清一郎/○宗屋ヒデヨシ/ ●マリリン・キャリー /○バロウ・エシャロット/○ロベルト・ハイドン
【未来日記】4/5
○天野雪輝/○我妻由乃/○秋瀬或/○高坂王子/ ●日野日向
【ゆるゆり】3/5
●赤座あかり/ ●歳納京子 /○船見結衣/○吉川ちなつ/○杉浦綾乃
【ヱヴァンゲリヲン新劇場版】2/5
●碇シンジ/○綾波レイ/○式波・アスカ・ラングレー/ ●真希波・マリ・イラストリアス / ●鈴原トウジ
【とある科学の超電磁砲】3/4
○御坂美琴/○白井黒子/○初春飾利/ ●佐天涙子
【ひぐらしのなく頃に】1/4
●前原圭一/○竜宮レナ/●園崎魅音/ ●園崎詩音
【幽☆遊☆白書】2/4
○浦飯幽助/ ●桑原和真 / ●雪村螢子 /○御手洗清志
男子17/27名 女子13/24名 残り30名

2 :
【常盤愛@GTO】
[状態]:右手前腕に打撲
[装備]:逆ナン日記@未来日記、即席ハルバード(鉈@ひぐらしのなく頃に+現地調達のモップの柄)
[道具]:基本支給品一式、学籍簿@オリジナル、トウガラシ爆弾(残り6個)@GTO、ガムテープ@現地調達
基本行動方針:生き残る。手段は選ばない
1:???
[備考]
※参戦時期は、21巻時点のどこかです。
幽助とはまだ断片的にしか情報交換をしていません。
【秋瀬或@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:The rader@未来日記、セグウェイ@テニスの王子様
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(0〜1)、火炎放射器(燃料残り7回分)@現実
基本行動方針:この世界の謎を解く。天野雪輝を幸福にする。
1:浦飯君と共に常盤愛を追う。
2:越前リョーマ、跡部景吾、切原赤也に会ったら、手塚の最期と遺言を伝える。
3:殺し合いを止める、か……。
[備考]
参戦時期は『本人の認識している限りでは』47話でデウスに謁見し、死人が生き返るかを尋ねた直後です。
『The rader』の予知は、よほどのことがない限り他者に明かすつもりはありません
『The rader』の予知が放送後に当たっていたかどうか、内容が変動するかどうかは、次以降の書き手さんに任せます。
幽助とはまだ断片的にしか情報交換をしていません。
【浦飯幽助@幽遊白書】
[状態]:精神に深い傷、魅音の言葉に動揺、貧血(大)、左頬に傷
[装備]:携帯電話(携帯電話レーダー機能付き)
[道具]:基本支給品一式×3、血まみれのナイフ@現実、不明支給品1〜3
基本行動方針:殺し合いを潰した後に、螢子蘇生の可能性に賭ける……?
1:常盤愛を追い、話を聞く
2:圭一から聞いた危険人物(雪輝、金太郎、赤也、リョーマ、レイ)を探す
3:Rしかない相手は、R?
[備考]
秋瀬、常盤とはまだ断片的にしか情報交換をしていません。
常盤愛がまだレーダーの探知範囲(100メートル以内)にいるどうかは、後続の書き手さんに任せます。
――――
以上で代理投下終了です。
前スレ容量オーバーの為、状態表のみ此方に貼りました。

3 :
月報集計者様いつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
72話(+4) 30/51(-3) 58.8(-5.9)

4 :
投下乙です!
世界観が違うがゆえのいざこざが……
今まで物語に加われてなかった感じの幽助だけど、ここからまた動き出せそうですね
まったくタイプが違う二人の探偵の活躍に期待

5 :
おお、予約来てる!

6 :
tes

7 :
――ちょっと寂しくっても、ちょっとカチンってきても
――ちょっとスベっちゃっても、ドンマイドンマイドンマイドンマイ!

☆   ☆   ☆

学校でも見かけるような、折り畳み式の白い長テーブル。
それを二つくっつける形で、植木耕助と菊地善人は向かい合わせに座っている。
そして杉浦綾乃の席は、菊地の左隣に。
三人が、図書館の別室で情報交換の続きをしていた。
机と椅子、そしてキャスター付きのホワイトボード以外に何も無いコンファレンスルームは、ひどく殺風景でもあり、平和でもある。
ひとたび室外に踏み出せば、壁も半壊され本棚もぐちゃぐちゃになった図書閲覧室があるなど予想もできないだろう。
仲間がひとり欠けた。殺された。
それでも彼ら彼女らは、それまでと同じように机を囲んでいた。
それは『何も変わらない』という意味では冷たいし、『日常』があるという意味では優しい。
会話をして、休息をして、そして食べるための時間だった。
「つまり日野さんとやらの関わってた殺し合いにも『神様』が出て来たってことか」
「ああ。でも日向も、今回その『神様』が関係してるかまでは分かんねぇって言ってた」
主な話題は、植木耕助と碇シンジのこれまでについて、『補修授業』の一件で中断されていた続きだった。
失った仲間について語らせる過酷な行為でもあったが、しかし少しでも多くの情報を集めるために、ひいては皆が生き延びるために共有しておかければいけない。
植木もそれが分かっているから、学校に行きたい気持ちのはやりを堪えて真剣に話し合う。
菊地や綾乃も、碇シンジが綾波レイのことを気にかけていた以上、情報交換が終わったら合流に向かおうという案に依存はない。
「『神様』については、聞いた話だけじゃ判断しようがないな。
その『天野雪輝』と『我妻由乃』はまだ生きてるようだし、今はまだ保留にしとこう」
「二人をぶん殴ってバカな考えを止めさせてから、詳しく聞くってことだな」
「そうしたいところだな。まったく、事情を知ってそうなヤツが乗ってる可能性大ってのは困った話だぜ」
言葉を交わす合い間を利用して、少年たちはぱくりぱくりと支給食料をほおばっている。
菊地善人は、給食に出るようなコッペパンに直接かぶりつく。
植木耕輔は、一口サイズの乾パンをひとつずつ口に放り込む。
食欲旺盛な中学生にとっては粗食だったけれど、戦闘がもたらした心身の疲労を少しでも補おうとするようにもりもりと摂取する。
綾乃はファミレスで間食していたこともあってさほど空腹ではなかったけれど、食欲旺盛にしている少年たちを感心したように見ていた。
こんなことなら、もっと料理を覚えておくのだったかもしれないと思う。
事務室には冷蔵庫があったから、食材でもあれば調理できたかもしれないのに。
そこまで発想したところで、気づく。
突撃銃の他にもランダム支給品として、ちょっとした食べ物がディパックに入っていたことを。
あれを食べるとしたら、今のうちしかないだろう。
膝を打ち、明るい声で言った。
「そうだ、スイカがあったんだったわ。ちょっと切ってきますね」



8 :
乾燥したパンの後にスイカというのもおかしな食べ合わせだったけれど、植木たちは十分にうれしそうな(そしてクーラーボックスごと支給されていたことに驚いたような)反応を見せた。
最初にスイカを見つけたときは困惑したけれど、あんな反応をされると心なしかいそいそとする。
「ん、しょ……っと」
バレーボールほどのそれを給湯室に運び込み、まな板の上にのせる。
料理はお母さんの手伝い程度にしか経験していないけれど、スイカを切り分けるくらいはできるはず。
包丁をあてがい、刃を差し込んで真下に押しこむよう思いっきり力をこめる。
『すだん!』と豪快な音を立てて、スイカを両断した包丁がまな板に激突した。
「で、できたっ……」
反動でしりもちをつきかけながらも、ぱっくりと二つに割れたスイカをほっとして落ちないよう支える。
スイカの赤い断面が、切り口を晒していた。
「あ……」
とても濃く赤かった。
黒い種が飛び散った、赤くて紅いスイカの果肉。
切断された衝撃で、まな板の各所に赤い果汁を飛び散らせている。
赤い色。
あんなものを見せられた後では、連想するのは、人間の血でしかなくて――

違う。

しかしその連想は、すぐに塗り換えられた。
本物の血とは、ほど遠い。
碇シンジから流された血は、もっと赤黒くて、粘性があった。
こんな水彩絵の具みたいな色じゃなくて、もっとどろりとしていた。
そういえば内臓から吐き出された血は黒っぽい色をしているのだとか、家庭の医学に関する番組で見た覚えがある。
そして色々と気の付く菊地も、その違いは一目瞭然だったからこそスイカを食べることに賛成したのだろう。
「もう、びっくりさせないでよっ」
ひやりとしたことの責任をスイカに押し付けて、ほっと胸をなでおろす。
その『胸をなでおろす』という行為をする自分が、不思議だった。
そうか、私はもう血が流れるとか死ぬとかに立ち会ってしまったんだと、改めて自覚する。
知り合いが殺されるところを、見た。
だけでなく、その遺体を埋葬するところにさえ立ち会ったのだ。
さっきまで生きていた人間を地面の中に埋めてしまうなんて、そんな経験など日本に住んでいれば中学生どころか大人にだってほとんどありえない。
内臓をひどく損傷させたまま地面に埋もれていく碇シンジを見て、もっとどうにかしてあげられなかったのかと思った。
殺し合いの真っ最中でなければ、遺体をきれいにしてくれる大人だっていただろうに。
盛り土が完成したときは、こんなにあっさりしたものなのかと思った。
死んだ人を埋めるというのは、うまく表現できないけれど、もっと気が狂いそうになるような作業じゃないかという想像があったから。
もっとも、そのすぐ後には号泣することになったのだけれど。

9 :
 

10 :
友達が死んだときに泣かないでどうするんだ、と菊地は言った。
半分になったスイカを、まる一個は食べられないかとひとつ脇にどけ、ひとつをまな板の中央に戻した。
包丁をあてがって、悲しかったことを綾乃は反芻する。
友達が死んだ。
友達、でいいのだろうか。
どうしても、綾乃は首をかしげてしまう。
過ごした時間は、短かった。
しかし植木にも菊地にも、泣く理由はあった。
たとえば、植木が泣かないのは嘘だと思う。
植木は人の善意を強く信じているし、誰とでも仲良くなろうとする。
綾乃のことも、大切な仲間として認めてくれている。
出会ったばかりなのに、バロウという襲撃者から守ろうとしてくれた。
同行することになったから。碇シンジとの口論をとりなしてくれたから。
たったそれだけのことでも、菊地と綾乃をも『仲間』として守るには充分な理由となるようだった。
そんな情のあつい植木が、最も長くともに過ごし、果てには互いの信念をぶつけ合った友達の死に涙を流さないはずがない。
菊地にとっても、植木との交流はあった。
中学生としては抜きんでて聡明な菊地にとって、教師はともかく同年代の男子に、それも技能ではなく精神に、『敵わない』と思わされたことなどあまりなかったのだろう。
碇シンジは『植木を置いて逃げる』という合理的な判断に一石を投じ、どこかお気楽だった菊地の根っこを叩き直していった。
きっとその印象は強烈だった。
植木や菊地と碇の間には、時間では測れない絆が育つに足るものがあった。
半分になったスイカをさらに半分に切り分ける。
四分の一になったスイカを真横に90度回して、右から左へと包丁をいれていった。
種を取りやすく切る方法もあるらしいけれど、料理に詳しくない綾乃はそこまでは知らない。
そんな2人に比べて、綾乃とシンジの関係はあまりにも薄い。
たった数十分ばかり、情報交換をしただけの関係である。
もし綾波レイに会って、あなたと碇くんはどんな友達だったのかと聞かれたりしたら、答えられないだろう。
よくも悪くも馴れ馴れしい歳納京子と違って、一度や二度の会話を交わした段階で友情を抱けるほど綾乃の『友達』の基準は軽くない。
と言うかたいていの中学生の基準はそうだろう。
穏便に出会った。自己紹介をした。
綾波レイについて(主に菊地が)説明した。これまでの経緯を少し聞いた。
シンジと綾乃の交流は、ほぼこれだけに終始してしまう。
彼と植木との間にうまれた剣呑さを見てつい口をはさんだりもしたけれど、そのきっかけも注目も、植木の歪みに向いていた。
もちろん、殺し合いに巻き込まれた同士の連帯感とか、アスカ・ラングレーが殺し合いに乗ったことを心配する気持ちはあったけれど。
例えば、シンジと植木が本当にこじれそうになった時も、植木に対して複雑な感情を抱くだけで、仲裁はすっかり菊地を頼みにしていた。
例えば、菊地とシンジの間で植木を助けに戻るかどうか議論になった時も、黙ってことのなりゆきを見ていただけだった。

11 :
 

12 :
例えばシンジたちが心配で戻った時も銃は構えていたけれど、それを撃って救援ができたかは怪しく、場に流されていただけだった。
これだけ傍観者に徹していたような薄さで『共にいた時間は短かったけれど、固い友情がありました』などと言えば、シンジの元からの友達に怒りを買ってもおかしくない。
でも、綾乃は悲しいと思った。
その気持ちに嘘はない。
それは、植木から最後に交わしたシンジとのやり取りについて聞いたから。
シンジが植木に教えたことについて、知ったからだった。
何も、植木とシンジの友情にもらい泣きをしたわけじゃない。
ただ、そんなことを人に教えられる碇シンジという少年が、永久に失われたことが悲しかった。
そんな少年に対して綾乃は傍観者の立場しか果たせず、そしてもっと彼のことを知ろうとしても、死んでしまってはそれがかなわないことが悲しかった。
もうその距離を埋めようとしても埋められない、そんなありえた『これから』が失われたことが悲しかった。
シンジにとってはただの知り合いでしかなかっただろう自分がこうなのだから、元からのシンジの友達とか、家族とか、綾波レイという少女はもっと辛い想いをするのだろう。

だから、だれかが死ぬことは悲しい。
だから、人を殺さないですむ方法がほしい。
大きな深皿を探し出し、ひんやりと冷たそうな果肉をみせるスイカをすとんと並べる。
きれいに並べられてこれから胃袋の中に入るスイカは、さっきとは真逆に、生きているという実感を与えた。



『だーかーらっ!! 未来日記とゲームのルールに関する質問以外は受け付けんと、何度も言っておるじゃろうがっ!』
「いや、こいつは未来日記に関する質問だぜ? だってそうだろ?
具体的にどうすれば首輪が爆発するか知ってなきゃ、前触れも無しに『DEAD END』が出たりして日記の信頼性を損なうかもしれないんだから――」
『こ、じ、つ、け、る、なっ!』
激しい苛立ちのこもった電話越しの少女の声が、拡声ボタンでも押したかのように閲覧室に響いた。
『契約するつもりのない冷やかし電話はお断りじゃっっ!! お主はしばらく電話をかけてくるなぁっ!』
「おいおい誰も契約しないとは言ってな――」
――ブツン。
質問責めにあって我慢の限界に達したムルムルが、とうとう通話を切る。

13 :
ためしに再び電話をかけてみたが、ワン切りで済まされる。
別の携帯電話からかけてみても、菊地が「もしもし」と一声しゃべるだけで、通話主は警戒したようにブチっと切ってきた。
どうやら『しばらくかけてくるな』という罰則はただの脅しではなかったらしい。この『しばらく』がいつまでを指すかは不明瞭だが。
「ちっ、我慢の短いヤツだなぁ。こちとら勝手に殺し合いに呼ばれてるんだから、クレームつけられるぐらい予想しとけってんだ」
愚痴をこぼして携帯電話をテーブルに置くと、向かいの席には目を点にした植木耕助がいる。
「すごいな菊地。しつこいクレーマーのおばちゃんみたいだった」
「……褒め言葉だと受け取るよ」
「それで、色々聞いてたけど、なんか分かったのか?」
「ゲームの裏側に関することは口が固かったよ。でも、この『日記』に関することは色々と分かったぜ」
ちら、と目を落としたテーブルにあるのは、碇シンジの残した探偵日記(が登録された携帯電話)と植木の契約した友情日記、そして菊地自身の携帯電話だった。
「おお! たとえばどんなだ?」
「そうだな、まず、俺の携帯にも『友情日記』を同時契約できるか聞いてみたんだが……これはアウトだった。
ゲーム中に動かしていい未来日記は、一種類につき一台のみ。特殊な例外をのぞいて、封数の携帯電話で同じ携帯を動かすことはできないんだとさ」
「そういやシンジが、契約できるのは一つの携帯に一種類までだって言ってたな。その逆もそうってことなのか」
「ああ。『特殊な例外』ってのは今のところ不明だが、もしかしたら予知するために二台以上の携帯が必要な日記があるのかもしれないな」
「あれ? でも待てよ。そうなると『友情日記』の番号を知ってるヤツが、俺の知らないところで電話して契約したらどうなるんだ。
契約は上書きされるんだから、携帯がいつの間にか契約切れてるってこともあるのか?」
「それについても聞いてみた。上書きの契約が可能な条件は、ふたつあるんだそうだ。
ひとつは前の所有者が亡くなってしまった場合。
もう一つは『その時点で契約している携帯電話』から電話をかけて契約した場合」
「……ってことは。所有者から携帯を奪い取って、契約するのはアリ。
でも、番号を知ってるだけじゃ、すでに所有者がいると契約できないってことか。
あ、そういえば! 俺とシンジが友情日記を交代で契約してた時も、携帯を交換してから電話してたな。だから上書きで契約できたのか」
「そういうことだな。なかなか頭の回転が早いじゃないか。
実際問題、そういう制限をつけたのは懸命だと思うぜ?
電話番号を教えるだけで契約できたり、同じ日記を複数の携帯で動かせるなら所有者が増やし放題だからな。
みんながバンバン日記を増やしてるようじゃ、ゲームを管理運営してる側だって把握が面倒になるだろうさ」
「じゃあ、これから日記で知り合いを探すときも、携帯を交換してから予知し合ったほうがいいんだな」
「そういうことだな。俺はしばらく電話禁止みたいだから、お前と杉浦に交代で使ってもらおう。あと、その予知できる知り合いについても詳しく聞いたよ」
「?」

14 :
 

15 :
「この『友情日記』の『友情』の定義についてだが。
まず、『お互いに協力できると信頼し合ってる関係』ぐらいになれば、予知ができるってことだ。
つまり、厳密な意味での『友情』じゃなくてもいいってことだな。
ただし、それでもある程度の深い関係は必要らしい。ちょっと会話をした程度じゃアウトなんだと。
ある程度は関係を深めた参加者でないと予知できないそうだ。
こんなことなら、綾波さんたちとはもっとじっくり時間を取って付き合っておくんだったよ」
「気にすんなって。合流場所が決まってるってだけでも安心してるんだからさ」
「ありがとよ、植木……それで、もうひとつの前提だが。
『友情』については『双方向』じゃなきゃいけない。そうでなきゃ『信頼関係』とは呼べないから当然だな。
一方が、『アイツなら大丈夫だ』と思ってるだけの片思いじゃ足りないってことだ。
ムルムルは『参戦時期による』のがどーたらとぼやいてたけど、この言葉の意味はよく分からない。
ただ、この条件だと、俺の知り合いでは『渋谷翔』はアウト。『相沢雅』と『常盤愛』は微妙になっちまうな。
相沢は付き合い長いけど、最近は向こうから距離を取ってるところがあるし。
常盤とは和解したけど、『仲良くなった』かって言うと……あんなことやらされちまったしなぁ」
「どうした菊地、顔が赤いぞ?」
「なんでもない。とにかく常盤との関係は、ちょっと特殊なんだ」
「ふーん? でもその条件だと、俺のチームの仲間は、まず大丈夫だな」
「元からのチームメイトって意味じゃ植木たちは盤石だろうな。
そうだ、ここまでは『友情』の定義の最低ラインについてだけど、上限についても確認しておいた」
「上限?」
「関係がさらに発展しちまった場合、たとえば男女で恋愛関係に突入した場合だな。
これも普通は『友情』と言いにくいだろうけど、こっちも問題なく予知されるそうだ」
「恋愛感情になったらって。菊地、もしかしてお前、綾乃のことが……」
「い、一般論としてだっつーの。『吊り橋効果』って言葉もあるぐらいだし、こんな状況じゃそういう関係の連中が生まれてもおかしくないだろ?
……って、そう言えば杉浦のやつ、遅いな」



スイカだけじゃ物足りないかと、飲み物を探そうとしたのがよくなかった。
冷蔵庫を開けたところで、見つけてしまったのだ。
それが、綾乃を猛烈に悩ませていた。
「うぅ〜…………」
杉浦綾乃は、プリンが好物だった。
人からはツンデレと言われる綾乃でも、プリンに対する好意だけは隠そうとしないぐらい好きだった。
しかもフルーツプリンだった。
ちょっと高そうなケーキ屋さんの、おしゃれなデザインのカップに入っていた。
普段食べているプリンの、倍の値段はする高級プリンだった。
一個しかなかった。
これがもし三個あれば『せっかく見つけたからついでに持ってきました。ついでですから』とよそおい、スイカに添えて三人一緒に食べただろうに。
しかし、一個しかないのである。
これを綾乃だけが食べるということは『一人じめしちゃうぐらい、私はプリンが食べたいんですよー』とアピールすることであって。
これがいつもの生徒会の冷蔵庫ならば、ラッキーとばかりに素直に誰の目もはばからず食べていただろうに。
しかしここにいるのは、仲間とはいえ知り合ったばかりの男の子二人なのだ。
しかもうち一人は、年上なのだ。
なんだ、杉浦ってそんなにプリンが好きなんだな。子どもっぽいところもあるじゃないか。

16 :
 

17 :
呆れたような、もしかすると微笑ましいものを見るような目でそう言われることを予想して、ぐっと気恥かしさがこみ上げてきた。
女子校に通う綾乃にとって、『男子中学生』とは事前データのない種族である。
歳納京子に馴れ馴れしくされるのとは、また別種の緊張感がある。
こんなこと、気にするのもいちいち大げさなのかもしれない。
別にプリンが好きだなんて恥ずかしいことじゃないんだし、好きなんですとひとつことわっていただいてしまえばいいだけのこと。
そうは言い聞かせてみたけれど、いざ『実はプリン大好きなんですよー、えへ』とか言ってみて、
『実はオレも好きだったんだー』『なに、植木もなのか。よし、じゃんけんだな』なんて展開が起こってしまったらどうしよう。
ほかの2人にこのプリンを取られてしまったら、ちょっと泣ける。
意地汚い。こんな時に。さっきまで死を悼んでいたのに。
そうは思ってみても、美味しそうなものは美味しそうに見えてしまう。
……ちょっと考えすぎだろうか。
世の中には『ドーナツが大好き』という一点だけでキャラ立てをしているアイドルもいるらしいけれど、さすがに綾乃はそこまで極端な方向性を進みたくはない。
そう言えば。
最近もこんな風に、冷蔵庫の中をずっと覗き込んで、悩んでいたことがあった。
もっともあのときは、食べたいんじゃなくて、食べられなくて悩んでいた。
歳納京子からプレゼントされた、アイスクリーム。
冷凍庫を開けて、そこにあるのを見つめるだけで頬が『にへら』と緩んで顔が紅潮して。
けれど、食べることは絶対にできなかった。食べてしまったら、なくなっちゃうから。
歳納京子。
自称『杉浦綾乃のライバル』。
あいつは今頃、どうしているだろうか。
痛い目にあってないだろうか。人に迷惑をかけてないだろうか。
最初は後者の心配ばかりしていたけれど、今では前者のほうが気がかりだった。
さっきの綾乃たちみたいに殺し合いに乗った人に襲われたらひとたまりもないし……それに今となっては、後者はあまり心配いらないとも思える。
確かに歳納京子にはお調子者で空気を読まないところがあったけれど、たとえば生徒会の大室櫻子のように真の意味で空気が読めないわけじゃなかった。
決してバカではなかったし、不思議な安定感みたいなものがあった。
ライバルと呼んでくれたことは嬉しかったけれど……いや、変な意味じゃなくて。
実のところ綾乃は、ずっと負け越しのままだった。(一度だけ同人活動の締め切りのせいでおじゃんになったけれど)
それは、数値化される成績だけに限らない、あえて言葉にすれば強烈な『個性』のようなものだった。
歳納京子にも杉浦綾乃にも、植木のような戦闘力や菊地のような考察力はない。
戦いとは縁のない日常を過ごしているという点ではいずれも等しく『一般人』に過ぎない。
それでも、歳納京子は『一般人』ではあっても『普通』ではなかった。
歳納京子ほど強烈な女子中学生は、(綾乃の贔屓目を差し引いても)日本中探したところでそうそう見つからないだろう。
ひとたび口を開けばぶっとんだ発想を次々と思いつき、自由奔放かつ意味不明な言動で、絶えず周囲をツッコミに忙しくさせるようなトラブルメーカーかつ企画立案者。
『恋人ごっこやろーぜ!』とか、そんな突飛なことを次々に言って、みんなを引っ張る。
でもそれだけ騒がしいのをなぜか許してしまうというか、かく言う綾乃もそういう騒がしいところを見ているのが何だか安心するというか、ときめくところもあって……違う、今のは無し。
とにかく、ごらく部でもクラスの友人同士の交流でも、常に輪の中心にいるような少女だった。
そしてほとんど勉強しないのに成績学年トップを維持するような不可思議なおつむの持ち主であり。
趣味として打ちこんでいる同人誌の方面ではイベントの完売必須な売れっ子作家だと聞く。
そんな女の子が、杉浦綾乃のライバルだった。
とても尖っている。際立っている。
その一方で、杉浦綾乃は『普通』なのだと気付く。

18 :
 

19 :
 

20 :
周囲からは、ツンデレだと言われる。
親友からは、純情で一途で可愛いと言われることがある。
生徒会の後輩からは、しっかりした人だと言ってもらえる。
ツンデレや純情呼ばわりには言い返したいこともあるけれど、その『ツンデレ』も『純情』もつまるところ、特定の人物に対する反応でしかないものであって。
『そいつ』がいなければ成り立たない。
それに、『しっかり』しているのだって別に綾乃に限ったことじゃない。
中学生にして1人暮らしなんかしていて、お泊まり会にごらく部や綾乃たちをしょっちゅう自宅に招いて面倒をみてくれて、
家事全般も余裕でこなしてしまう船見結衣なんかの方が、ずっとしっかりしているし中学生離れしている。
よく影が薄いとか普通のいい子という扱いを受けている赤座あかりにしても、実は普通じゃない。
あれだけ『特徴を言ってみて』と言われても『いい子』と『普通』しか浮かんでこない女の子なんて、逆にぜんぜん普通じゃない。
それを長所と解釈するかは人によるだろうけど、とにかく彼女も別の方向に尖っている。
ごらく部の彼女らだけじゃない。
池田千歳の想像している独特の発想(エッチなこと含む)と鼻血も。そしていつも綾乃を助けてくれるという絶妙なフォローの神がかりも。
大室櫻子の突拍子もないおバカさも、古谷向日葵が持つ13歳とは思えないほどの母性も。
松本生徒会長のミステリアスな存在感も、西垣先生のマッドサイエンティストっぷりも。
みんな『普通』ばなれしたところを持っていた。
みんなが、そういうのが無い杉浦綾乃を友人として認めてくれていることは知っている。
菊地や植木だって、綾乃のことを仲間として認めてくれている。
おかげでちょっとぐらいは自信も持てるようになったし、『宿題』を成し遂げるという決意だって揺るがない。
だから、この悩みは、ぜいたくな無いものねだり。
心配はノンノンノートルダムと言ってばっさり切り落とせるような、ちょっとしたトゲでしかない。
それでも、とびっきり感傷的な言い方をするなら、こういうことだ。
綾乃ができることは、他の人にだってできる。
綾乃にしかできないことは、何もない。
そして綾乃に提示された『宿題』は、はっきりした模範解答の無い、たくさんの人が確たる答えを持てないような考えごとだ。
それはつまり、皆が考えてもわからないことなら、綾乃にもわからないということにならないか。
「……って、たかがプリンひとつで、私はなんでそこまで考えてるのよ!」
深く考えたところで自分を客観視して、ついセルフ突っ込みをいれた。
いや、そもそも、こんな冷蔵庫の前でプリンを凝視して考え込むことなんてなかったんだ。
二人の前で食べるのが恥ずかしいなら、給湯室でこっそり食べてさっさと戻ればよかったんだから。
「ちょ、ちょっと食べて戻るだけ……ばれなきゃいいのよ。ばれなきゃ……」
我に返り、いそいそとフルーツプリンを手に取る。
さて、スプーンはどこだったかしらと給湯室を見回し、
給湯室の入り口で、菊地と植木がじっと見つめているのと目があった。

21 :
 

22 :
 

23 :
 

24 :
                !?



杉浦綾乃。
生徒会副会長なのに、人から注目されるのには弱い。
ずっと見られていた。もしかすると、独り言をつぶやいたところまで見られていた。
そんなシチュエーションに遭遇すれば、言葉を返すこともできずに固まるしかない。
菊地と植木は、形容しがたい表情をしていた。
しかしやがて、植木耕助がその状況を理解する。
納得したという顔をして、手をぽんと叩き、言った。
「なんだ、綾乃はプリンが食べたかったのか」
悪意のない、しかし『かいしんのいちげき』に匹敵する攻撃。
ぼっと、首から上で火事が起こったように顔が熱く紅潮した。
菊地が『あちゃー』と声には出さずに、心中でつぶやく。
「……っ!」
プリンを持ったまま、窓の方へと、走った。
カーテンを体にぐるぐると巻きつけて、隠れる。
「綾乃?」
「おい、杉浦、大丈夫だ、大丈夫だって!」


「……………さがさないでください」

逃避に走った綾乃をカーテンのうらから呼び戻すのに、菊地たちはずいぶんと労力を要した。



どうにか三人仲良くスイカを(そして綾乃はプリンを)食べて。
情報の共有もすべて終わって、植木は『探偵日記』の契約を、綾乃は『友情日記』の契約を済ませる。
そして、図書館を出発するときがやってきた。
色々な出来事が起こった建物を、がれきを踏み越えて抜け出していく。
桜の木を一度だけ振り返る、三人の表情は静かだった。
「さて、これから仕事は山積みだな」
「ああ、殺し合いに乗ったヤツから、オレも含めてみんなを守る。
それにシンジから頼まれた、二人の女の子も護る」
「はい、海洋研究所に行って、その前に学校で綾波さんたちと合流して、碇くんのことを教えてあげなきゃ。
そして、私は宿題の答えを見つけるんです、絶対に」
綾乃はもう一度「絶対に」と繰り返した。
そんな綾乃を見て、菊地がふっと真剣な表情を崩す。

25 :
                !?



杉浦綾乃。
生徒会副会長なのに、人から注目されるのには弱い。
ずっと見られていた。もしかすると、独り言をつぶやいたところまで見られていた。
そんなシチュエーションに遭遇すれば、言葉を返すこともできずに固まるしかない。
菊地と植木は、形容しがたい表情をしていた。
しかしやがて、植木耕助がその状況を理解する。
納得したという顔をして、手をぽんと叩き、言った。
「なんだ、綾乃はプリンが食べたかったのか」
悪意のない、しかし『かいしんのいちげき』に匹敵する攻撃。
ぼっと、首から上で火事が起こったように顔が熱く紅潮した。
菊地が『あちゃー』と声には出さずに、心中でつぶやく。
「……っ!」
プリンを持ったまま、窓の方へと、走った。
カーテンを体にぐるぐると巻きつけて、隠れる。
「綾乃?」
「おい、杉浦、大丈夫だ、大丈夫だって!」


「……………さがさないでください」

逃避に走った綾乃をカーテンのうらから呼び戻すのに、菊地たちはずいぶんと労力を要した。

26 :
「なぁ杉浦。真剣なのはいいけど、あんまり難しく考えることないんだぞ?
ここに来てからお前だってずいぶん特殊な経験をしてるんだから、そのうち自然と答えが出ることだってあるさ」
「え……?」
どきりと、綾乃の心臓が不穏な音をたてる。
まさに不安に思っていたことを、見抜かれたような気がしたからだ。
「な、なんで分かったんですか…?」
「いや、さっきから宿題宿題って繰り返してたから、気負ってるのかと思ってさ」
菊地は表情をくずして、にやりと笑ってみせた。
その気遣いに感嘆していた綾乃も、あれ、と首をかしげた。
それは、いつものニヒルな笑い方ではなかった。
どちらかと言えば――そう、魔女っ子ミラクるんのコスプレを人に勧めたりする歳納京子の、いたずらっぽい笑みに似ていた。
「例えばいっそのこと、『戦いをやめてくれるたびに一枚脱ぎます』ってのはどうだ?
男子連中は全員、それで止まるかもしれないぜ?」


              !?


綾乃の表情が凍りつき――赤面に転じる。
菊地善人にとっては、『いつもの悪ふざけ』の延長線上だった。
言っていいことと悪いこともわきまえているし、杉浦綾乃が初心なことも把握している。
しかし彼もまた健全な男子中学生であり、『あの3年4組』の一員だったのだ。
純粋無垢な野村朋子に『鬼塚先生にサービスしたいなら下着を脱げ』と提案する(そして実行までさせてしまう)ぐらいには悪ノリするし、クラスの女子もそんな男子たちにけっこう寛容だったりする。
例えば文化祭で『きわどい服』を着たコスプレ喫茶が出し物に提案されるぐらいにはフランクである。
しかし、ゆる(い)ゆり時空の住人に、GTO(グレートティーチャー鬼塚)時空のジョークは刺激が強すぎた。

「へ……へっ……へんたあああああぁぁぁぁぁぁぁいぃっっっ!!」

『コスプレしろ』ならばまだともかく、『脱げ』は完全にアウト。
悲鳴をあげて全力でダッシュし、図書館の建物の陰に隠れる綾乃。
さっきと既視感のある反応だった
前回と違うのは、前回は味方だったもう一人が、そうじゃないということだった。
「菊地……お前、それは無いんじゃ……」
植木耕助も好意を持つ女の子だっている(らしい)健全な男子中学生とはいえ、数か月前までは小学生だった身分である。
この年代で二歳の違いは大きいし、しかも植木自身もそうとうに品行方正な学生だった。
よって菊地に対しても、例えば道で会った男から『どうかぼくを眼鏡好きにしてください』と泣いて頼まれたような、そんな性癖の相手を見るような目になっている。
「いや、その…………謝ってくるよ」
植木のフォローは期待できないぞと、観念して建物の裏手へと向かった。
どうなだめたものかと考えあぐねて、足が重たくなる己に気づく。

27 :
>>24
あ、被ったw
すいません、支援でこっちも連投規制かかりそうなのでそのままお願いしていいですか?

28 :
(もしかしてオレ、この手の反応をする女子には慣れてないのか?
相沢や飯島は、もっとキャンキャン噛みついてくるタイプだったし)
鬼塚や村井国男たちクラスの三バカともよくつるんでいるのだから、女子からバカだスケベだと言われることに耐性はあった。
しかしギャーギャー騒ぐのではなく、いちいち初心な反応で恥じらうような女子は新鮮だった。
……もし己が自室ではエロ本を片手に合成写真を作っているとばれたら、もう口をきいてもらえないかもしれない。
そんなことを想像して苦笑すると、建物の角を曲がる。
「えいっ!」
すぱん、と警戒な音がして、菊地の頭頂部が叩かれた。
「うおっ――」
角を曲がったとたんの不意打ちだった。
菊地は驚き、鈍痛に額を抑える。
その右手にハリセンを高々と掲げた綾乃が、くすりと笑う。
「杉浦……もしかして、わざとか?」
「わ、私だって十二時間も一緒にいれば、ちょっとは慣れますよ!
でも、次からはほどほどにしてくださいね!」
どこか勝ち誇ったような顔でびしっとハリセンを向ける綾乃に、菊地も『いっぱい食わされた』と嬉しいくやしさがこみ上げる。
「あーあ。一本取られたな」
「綾乃……なんか、たくましくなったなぁ」
二人のやり取りを感心したようにつぶやく植木に、綾乃も得意げに言い放った。

「もちろん! もう心配ないないナイアガラの、余裕ありまくり有馬温泉だから!」

ひくっと。
菊地の頬が、反応にこまって引きつる。
(だ、ダジャレか? でも『ないないナイアガラ』って、洒落って言うよりただ韻を踏んでるだけなんじゃ……)
「ぶっ……!」
しかし、もう一人の聞き手である植木は噴出した。
綾乃にとっては幸運なことに、ツボにはまってしまったらしい。
両こぶしをぐっと握って、綾乃流の景気づけに同調するように言う。
「その意気だぞ綾乃! ファイトファイト、ファイファイビーチだ!」
「ぶっ……!」
返されたダジャレはこれまた綾乃のツボを刺激したらしい。
顔を横に向けて、笑いをこらえるように口元を抑える。
(え、ちょっと待て。これってダジャレネタの流れか……?)
とっさに上手い返しの出ない菊地だったが、ほかの2人が元気を出したというのに1人で白けているわけにもいかない。
あわてて『それっぽいセンス』のダジャレをひねり出す。

29 :
 

30 :
「ダ、ダジャレかー。そう言えば、授業でもよく暗記に使ってたよなー。メソメソメソポタミア、とか……」
しかし2人は、これに青い顔をした。
「メソメソ……?」
「それはちょっと……」
「待て! お前らがその反応は理不尽じゃないか?」
ショックを受けた菊地に、綾乃と植木がはっとする。
「な、なかなかいいセンスだったぞ。どんどんぼけロンドンだ!」
「そ、そう、もっと聞きたいですよ! お笑い推奨、水晶浜海水浴場です!」
(き、気を使われたのか……?)
相変わらずよく分からないセンスのダジャレによる畳みかけだったけれど、必死そうにフォローしようとする2人はおかしかった。
気づけば「ぷっ」と小さな笑いが漏れる。

まだ、目に涙の跡を残しながらも。
三人ともが笑っていた。

【G-7/図書館付近/一日目 昼】
【杉浦綾乃@ゆるゆり】
[状態]:健康
[装備]:ハリセン@ゆるゆり、友情日記@未来日記
[道具]:基本支給品一式、AK-47@現実、図書館の書籍数冊、加地リョウジのスイカ(残り半玉)@エヴァンゲリオン新劇場版
基本行動方針:みんなと協力して生きて帰る
1:誰も殺さずにみんなで生き残る方法を見つけたい。
2:学校を経由して、海洋研究所へ向かう。
3:と、歳納京子のことなんて全然気になってなんかないんだからねっ!
[備考]
※植木耕助から能力者バトルについて大まかに教わりました。
【菊地善人@GTO】
[状態]:健康
[装備]:デリンジャー@バトルロワイアル
[道具]:基本支給品一式、ヴァージニア・スリム・メンソール@バトルロワイアル 、図書館の書籍数冊
基本行動方針:生きて帰る
1:学校を経由して、海洋研究所へ向かう。
[備考]
※植木耕助から能力者バトルについて大まかに教わりました。
※ムルムルの怒りを買ったために、しばらく未来日記の契約ができなくなりました。(いつまで続くかは任せます)

31 :
 

32 :
 

33 :
【植木耕助@うえきの法則】
[状態]:全身打撲
[装備]:探偵日記@未来日記
[道具]:基本支給品一式×3、遠山金太郎のラケット@テニスの王子様、よっちゃんが入っていた着ぐるみ@うえきの法則、目印留@幽☆遊☆白書
    ニューナンブM60@GTO、乾汁セットB@テニスの王子様
基本行動方針:絶対に殺し合いをやめさせる
1:自分自身を含めて、全員を救ってみせる。
2:学校へ向かい、綾波レイを保護する。
3:皆と協力して殺し合いを止める。
4:日記を使って佐野とヒデヨシとテンコも探す。
[備考]
※参戦時期は、第三次選考最終日の、バロウVS佐野戦の直前。
※『友情日記』の予知の範囲はは自身がいるエリアと周囲8エリア内にいる計9エリア内に限定されています。
※日野日向から、7月21日(参戦時期)時点で彼女の知っていた情報を、かなり詳しく教わりました。
※碇シンジから、エヴァンゲリエヴァンゲリオンや使徒について大まかに教わりました。
※レベル2の能力に目覚めました。
【加持リョウジのスイカ@エヴァンゲリオン新劇場版】
杉浦綾乃に支給。
特務機関NERV所属の加持リョウジが、任務の片手間にジオフロント内の畑で栽培していたスイカ。ほどよく冷やされた状態で支給。
碇シンジも収穫を手伝わされている。
【ハリセン@ゆるゆり】
杉浦綾乃に支給。
歳納京子の人格転換をもとに戻すために、『頭部に衝撃をあたえるもの』として用意したうちの道具のひとつ。
ーーーー
投下終了です
どなたか代理投下をお願いします

34 :
投下&代理投下乙です!
ゆりゆららな日常を送っていた綾乃の等身大な中学生らしさが愛らしくていじらしい
思春期な子なら誰でも考える「個性」についてであったり、プリンをどうするか真剣に悩む姿であったり、善人を異性として意識しちゃう純情なハートだったり。
こういった日常的描写を通して彼女の魅力が伝わってきてによによが止まらないー

35 :
投下乙です。
ナイスつなぎ話、シンジが死んだ後の三人を丁寧に書いていますねぇ。
綾乃の一般人らしさだったり、植木の純朴さだったり、菊池の飄々さだったり。
それぞれが個性を出してうまいなあ

36 :
tes

37 :
支援の当てができたんで最初からこっちに投下します。

38 :
「人間とは浅ましい、醜い生き物だ」
ロベルト・ハイドンは両手を広げ、役者のように芝居がかった口調で言葉を紡ぐ。
自分の勝利以外は見えない、聞こえない。
最強の能力者という肩書きは伊達ではないと態度で物語っている。
まるで、神の如き振る舞いだ。その余裕たっぷりなロベルトを彼らはこう思うのだ。
「ハッ! ざけてんやないで!!!」
――潰したいと!
「ふん、気に入らんな。人間というもの、一括りを醜いとぬかすか」
「いいオトコもたくさんいるのに失礼しちゃうわね」
佐野が手ぬぐいを鉄に変え、数本のブーメランを投擲。
ブーメランの群れは俊敏にロベルトを襲うが、彼は避けるまでもなくただ微笑むのみ。
理想を現実に変える能力によって、最強の鎧を身につけた今の自分は腕を振るだけで弾き返すことができる。
鉄だろうと神器だろうと、彼を貫くものは存在しない。弾かれたブーメランを一瞥もせずに口元を歪め、嘲笑う。
「手ぬぐいを鉄に変える能力だっけ? そんなちっぽけな能力で僕に傷が付けられると思わないでほしいな」
「ならば、更なる研鑽を持った一撃で崩すのみ!」
「……っ!?」
その最強の余裕からか、いつの間にかに接近していた真田に視線を合わせるのが遅れてしまった。
いやいや、おかしい。数秒間目をそらしていただけで離れていた距離がこうも縮まるはずがない。
迸る木刀を避けながら、ロベルトは必死に思考を重ねるが、真田の速さは一向に解明できない。
「崩せるものかっ! 君に何がわかる! 僕の苦しみはそんな簡単に消えるものじゃない!
 いつだってそうだ、人は超常の力を恐れる! 石を投げて、気持ち悪いと喚き散らす!」
「確かにそのような人間もいるかもしれん。だが、全ての人間がそうだとは限らん。
 貴様に対しても、手を伸ばしてきた人はいるはずだ」
「戯言を! きっと内では打算ばかりのエゴしかない醜い存在なんだよ、人間は!」
真田の言葉を皮切りに、ふつふつと自分の中で憎しみが表に出始める。
人間は醜い、滅ぼすべきだと。彼の中の天界人の血が彼らの怨嗟に悲鳴を上げている。

39 :
sien

40 :
 

41 :
「だから、R! 人間は滅ぶべきなんだよ!」
ロベルトは木刀を躱した瞬間、電光石火を足に装着し真田から距離を取った。
真田達と言葉を交わしていいると自分がわからなくなってしまう。故に、神器による殲滅を。
電光石火を解除して、掌に力を溜め、鉄を放とうとした瞬間。
「あら、アタシを忘れてないかしら?」
「ぐっ……!」
真田と佐野から離れたと思ったら今度は気持ち悪いオカマ男が背後に迫り、拳を彼の顔に叩きこんでいた。
顔面は服に覆われていない為に鈍い痛みが普通に通ってしまう。
次いで放たれる蹴りを後ろへと跳躍することで躱すが、間髪入れずに佐野がブーメランを投擲。
ロベルトは常に動かざるを得ない状況へと陥っていく。
押されている。最強であるロベルトが劣勢を強いられている。
それは、彼のプライドを逆なでするには十分すぎるぐらいに怒りと焦りを高まらせた。
(くそっ! くそっ! 何なんだよ!)
此処に至るまで、ロベルトは自分の能力に頼りながら戦ってきた。
それは、最強の能力に頼りきりの力任せの戦いであり、追い詰められた経験はほぼ皆無に等しい。
要するに、彼は戦闘経験が圧倒的に不足しているのだ。
持っている能力が最強であっても、使い手の経験が不足していれば宝の持ち腐れである。
「へっ、焦ってるんやないか? ロベルトォ!」
能力頼りにせず、自らの知能で能力者の闘いを勝ち抜いてきた佐野。
弛まぬ訓練を常に行うことで自らを高め続けてきた真田。
アウトローの集団に身を委ね、喧嘩に明け暮れて、バトル・ロワイアルという空間でも自分を見失わなかった月岡。
無敵とも言える能力に胡座をかいていたロベルトに全く敵わないということがあろうか!
「ふざけるなっ! 訳がわからないよ、お前らはそんなにも他人を信じられる訳はなんだ!
 どうして、簡単に背中を預けられる! ああ、おかしいんだよ、人間はもっと醜いはずなのに!」
汗ばむ額を服の袖で拭いながら、ロベルトは大きな声で叫ぶ。
おかしいのは僕じゃない、世界の方だ。彼らが狂っているんだ。
正義は此方にあり、決して人間を滅ぼすという選択肢は間違っていないはずなのに。
何故、彼らはこうも眩い輝きを見せつけてくれるのだろう。

42 :
支援

43 :
sien

44 :
「答えろ、答えてくれ! 君達は何を想って! 何を考えて! 人間を信じることができる!」
「ん? そんなん簡単やろ? 世の中そんなに捨てたもんじゃないって思っとるからや」
「しれたこと。世界は広い、姑息な輩も数多くいるが、それと同等に真っ直ぐな者達もいる。
 少なくとも、俺が知っている中にいるからな。安心して、肩を並べられる」
「アタシもアナタと同じ人間不信みたいなものだったけどね。でも、イイ男ってのはやっぱいるもんなのよ。
 惚れた男が皆真っ直ぐでかっこいいから、アタシにも手を差し伸べてくれるイケメンなのよねぇ。
 なら、そんなイケメンな人達に少しでも近づきたいってのも乙女心なのよ」
「……いい男と背中を預けることに何の関係があるんや」
「関係大有りよォ〜。そんなイケメンに尽くす乙女ってのも素敵じゃない?」
「よくわからんが、貴様は柱になるということでいいのだろう」
三者三様にロベルトの問いに答えを返す。
それは彼がこれまで出会ってきた人間とは違う真っ直ぐの瞳。
小さな頃、友達に裏切られて人間に絶望したロベルトにとってありえないもの。
だから、ロベルトはますます人間についてわからなくなってしまう。
彼らの言葉によって、彼の抱く人間を滅ぼすという願いに亀裂が入っていく。
何よりも願っていたはずなのに、ヒビが生まれている。
彼らの濁りのない意志がロベルトの心を徐々に解きほぐしていった。
「嘘だ、嘘だ! 僕の見てきた人間は醜くて、自分のことしか考えていなかった!」
「ちゃうやろ、ロベルト。その答えは間違っとる。それにな、人間っていうもんは変わろうと思えば変わっていくもんなんや」
「簡単に掌クルクル〜って感じかしら? アタシも同じようなものだしねっ」
「たるんどる、男なら真っ直ぐといかんか! それに、貴様もだ。貴様が思う程、人間は浅ましくはない。
 貴様の勝手な価値観だけで俺達を測るな。貴様の方こそ、見誤っているのではないか!」
弾かれる鉄槍とブーメラン、神器を出す隙間さえ与えない連続攻撃。
距離を取って放とうにも、真田が雷を思わせる光速で迫ってくる。
そして、真田を何とかやり過ごしても月岡か佐野が彼の意識を刈り取ろうと間合いに入る。
このままだと敗北してしまう。
最強であるはずの自分が人間相手に膝を屈してもいいのか?
否。まだ、終わりじゃない。
戦って人間を滅ぼすまで、ロベルトの歩みは止まってはならないのだから。

45 :
sien

46 :
「違う、違うっっっっ! 人間は、滅ぼすべきなんだ! ああ、そうさ!
 もしも、人間が正しいというのなら! どうして! どうして……っ!」
ロベルトは認めない。真っ直ぐに立っている彼らを。
認めてしまったら、今まで自分が歩んできた道は何だったのか。
積み重ねてきた憎しみが全て無駄になってしまうのではないか。
そんなこと、彼は認めない、認めてなるものか。
考えれば考える程に、迷いの螺旋へと思考が落ちていく。
「あの時、僕を救けてくれなかったんだよ! 僕を救けてくれたのは同じ天界人である父さんだけだったのに!」
もはや今のロベルトになりふりを構う余裕はなかった。
そして、彼の口走っている言葉が理不尽な論調であることはロベルトにもわかっている。
彼らは自分とは違う国に住んでいて、助けることなんて不可能だった。
支離滅裂な論理、自分でも何を言っているのかわからない。
「僕はただ、普通に友達と暮らしてければ……満足だったのに」
思い浮かべるのは小さな頃。誰からも恐れられた自分に笑いかけてくれたごく一部の友達。
彼らは超常の力を持つ自分に対して、笑いかけてくれた。小さな手を取って街中を駆けまわったりもした。
楽しかった。
本当の友達だと思っていた。
彼らと一緒に過ごす時間はかけがえのないものだって感じていた。
「だけど、全部嘘だった。分かり合えることなんてない、僕を体の良い壁役のような扱いにしてたのが真実さ。
 大人も子供も人間の誰も彼もが僕を忌避の目で見ていた。僕を僕として見てくれた人は誰もいない」
そんな刹那の楽園は偽りだった。結局、ロベルトは孤独だった。
あの時、差し伸べてくれた手は嘘だったのか? 
あの時、見せてくれた笑顔は打算しかなかったのか?
その答えは今でもわからないけれど、人間を滅ぼすという願いは、その時から自分の全てとさえ感じられた。
だって、その願いは比類なきものだから。
ロベルトの根幹、今までを支えている心臓のようなものだから。

47 :
支援

48 :
sien

49 :
「僕は譲れない。譲ってたまるか。止めれるものか」
「……むっつりとニヤニヤ笑ってた前よかずっとわかりやすいで、今のお前。
 その上で、俺の本心を言ったる。ふざけんなよ、馬鹿野郎ッ!」
「……っ!?」
「確かにお前は俺なんか考えもつかんような苦しい目にもあったんやろうな。
 人間を憎んで滅ぼしたいって思えるぐらいに」
想いの弾丸全て吐き出したロベルトに対して、佐野は再び答えを返す。
佐野も能力者の闘いで色々な人間を見てきた。
ロベルト十団のように身勝手な願いを叶えようとした人間達だって多く見てきた。
彼の願いは理解できなくもないのだ。
だけど、理解できるが故に、否定する。
「人間は弱いんや。ロベルト、お前の言う通りクソみてーな奴等が多い。
 せやけどな、人間皆がクソっていうんはおかしいやろ? その中には優しい奴だっておるんや」
――お前が俺に思い出させてくれたんや、赤座。
彼女の優しさがあったからこそ、佐野はここにいる。
一つの選択肢が違っていれば、ロベルト側にいてもおかしくなかった佐野を、此方側へと戻してくれたあかりの意志に殉じる為に。
だからこそ。彼の側に立っていた可能性を孕んでいる佐野がロベルトを止めなければならない。
鏡写しの自分を救うことで、あかりの分まで笑顔を増やすことが、今の佐野が抱く願い。
「なぁ、ロベルト。意地張っとらんで素直になってみたらどうなんや?
 救けてほしいなら救けてって言えばええ! 手を握ってほしいなら手を伸ばせばええ。
 まー、伸ばさんでもな……その手、絶対に離さんぐらい強く握りしめたるけどなぁ!」
佐野は手ぬぐいの束を幾層のブーメランへと変化させ、投擲。
オールレンジから刃を疾走らせ、ロベルトの行動を封じる。
だが、その程度で封じられていたら最強は名乗れない。
疾走する刃を弾きながらも、ロベルトは能力を併用して鉄を放つ。
絶対命中を付加させた完全無欠の砲弾だ。
縦横無尽に駆ける砲弾が三人に命中し、地面へと縛り付ける。

50 :
支援

51 :
支援

52 :
支援

53 :
「認め、ない! 僕は手を伸ばさない! 
 救いなんて、君達に頭を垂れるなんてするか!」
「あの、ねぇ、別にそんなことを、アタシ達は望んじゃいないわよ」
ゴホゴホと痛みに身を捩らせながら、月岡が立ち上がる。
ふらふらになりながらも、ロベルトの方をしっかりと見つめ、ゆっくりと言葉を放つ。
「アナタ、勘違いしてるわ。頭を垂れる必要なんてないの。
 アタシ達は対等な関係。同じ学生でしょ? 馬鹿な夢を一緒に追いかける友達になろうって言ってるのよ」
月岡が髪を整え直しながらゆっくりとロベルトへと近寄っていく。
説得なんて柄じゃないし、自分でも馬鹿なことをしている自覚があるけれど。
「後ろ暗いこともあるでしょうけどね。それも含めてアナタなの。ね、手を伸ばしてみない?」
――手塚クンならこうするわ。なら、アタシも同じ。
バロウとの闘いでも手塚は最後まで仲間と敵のことを案じていた。
自分の信念に従って、その生命が潰えるまで彼は彼のまま、真っ直ぐな姿勢で前を向いていた。
そんな姿に、月岡は憧れて今までの生き方を変えようと決意したのだから。
「やめろ、やめろ……! これ以上、僕に近づくなぁぁぁぁああああっ!」
だから、今度こそ。あの時、成し得なかった事をやってみせる。
例え、この身尽き果てようとも、惚れた男に並び立てる乙女へと。
眼前に見えるドリル状の突起――百鬼夜行が自分を貫こうとしても、その意志は変わらない。
(ごめんなさい、手塚クン……アタシもそっちに行くわ……)
数秒後に自分は死ぬ。それでも、後悔はない。
惚れた男と同じ道を歩めたならば本望だ。
しかし、百鬼夜行が貫いたのは月岡ではなく。

54 :
支援

55 :
支援

56 :
「ア、アナタっ」
(い、ったいなぁ……! 鉄板仕込んどいたはずなんやけど……こうも、簡単に貫かれるなんて、な)
佐野が寸前で月岡を突き飛ばし、代わりに百鬼夜行を受け止めていたのである。
腹部には鉄に変えた手ぬぐいを仕込んでいたのだが、鉄程度の防御で防げると思っていた佐野が甘かった。
百鬼夜行は鉄を貫き、胴体を貫通している。
きっと、自分は長くない。口から吐き出された血の量が死を予感させる。
「せや、けどっ! 今が、チャンスやで……っ!」
佐野の途切れ途切れの声と同時に地を駆ける男が一人。
真田である。
月岡と佐野が注意を惹きつけている内に、ロベルトとの距離は縮まっていた。
そして、その速さは雷の如く。普通に疾走るのなど比にもならない。
遠距離ならともかく、接近すれば戦える。
真田は足に力を込め、更なる加速を身体に加えていく。
「ロベルトォォォォォオオオオ!!!!!!!」
「……っ! 来るなって、言ってるだろ!」
ロベルトは一旦、百鬼夜行を解除。そして、佐野へと向けていた掌を真田へと変える。
加えて、能力による絶対破砕、絶対命中の特性を付与し、鉄の弾丸を放つ。
如何に真田が雷を超える速さを持ち、未来予知を狂わせようとも弾丸の道筋は変わらない。
能力の通り、弾丸は確かに真田へとぶち当たる。
「この程度で、俺が止められる、ものかぁぁぁぁああああっ!!!」
しかし、真田は退かない。
鉄の衝撃で頭部からは血が流れ出し、両目が塞がれても。
手に持つ木刀が何処かに吹き飛んで、武器がなくなろうとも。
彼の両足はまだしっかりと力を伴っている。彼の両手はまだ、誰かの手を掴み取ることができる。
ならば、それでいい。この体が動く限り、真田弦一郎という男はどこまでも疾走るのだから。
そして、ロベルトとの距離が手と手を繋ぐことができるまでに縮め、真田はしっかりと両手で彼の肩を掴む。
鉄を受けたとは思えない、しっかりとした力が肩にかかる。

57 :
支援!

58 :
支援!

59 :
「何で、倒れないんだよ。血が、すごく出てるんだぞ?」
「しれたこと、其処に、俺が貫くべき想いがあるからだ。あいつらは貴様に手を伸ばすと言った。
 ならば、俺も伸ばそう。やり直せる、同じ道を歩めると何度でも言ってやる。
 それにだ、血が流れる程度で、俺は止まらんぞ?」
垂れ流れる血でロベルトの顔が見えないが、心の目ではしっかりと映る。
彼が泣いている姿が。もがき苦しみながらも手を伸ばそうかと躊躇する姿が。
どうも、自分は他人には厳しいつもりなのに肝心な所で甘くなってしまう。
手を伸ばし、一緒に歩めやしないかと考えてしまう。
「無理だ、無理だよ……僕はもう人を殺している。佐野君も直に死んでしまう。君達を散々に嬲ったのは僕なんだぞ!?」
「それでも! お前に手を伸ばす! 救いに来たぞ、と叫ぼう! まだ、間に合うと俺は信じる!」
「は。ははっ、馬鹿、じゃないの……」
「目の前で苦しむ者を救えるなら馬鹿でも構わん。俺はな……今からでも、共に歩めると信じているぞ。後は、貴様次第だ」
「僕、次第だって?」
「この手を取れ。貴様が、やり直したいと願うなら。もう一度、世界を広げたいと思ったなら」
「…………正直、人間はまだ好きにはなれない。滅ぼそうという考えは完全には捨てきれない。
 だけど、君達みたいな人は信じてもいいかもしれない。ちょっとだけど、思ったんだ。
 それでも、僕は君の手を取ってもいいのかい?」
「いいに決まってるだろう。人はいきなり変われん。少しずつ、世界を見ていけばいいさ。存外に貴様を包む世界は醜くもないぞ」
ニヤリと、口を釣り上げて笑う真田に、ロベルトは躊躇しながらも困ったように、薄っすらと微笑みを見せる。
「へっ。こうして見ると、ロベルトも普通の中学生やな」
「そうねぇ。でも、今の方が素敵よ? 押し殺していない分、彼らしさがとってもキュートで」
「……お前も、変わってんなぁ」
「ちょっと、乙女に向かって変わってるとは何よ、もう! それよりも、アナタは大丈夫なの?」
「大丈夫とは言えへん……はよ、出血を止めへんとな」
真田達が笑う姿を遠目で見ていた佐野達も釣られて笑い声を上げる。
たくさんの血を流し、あかりのような犠牲を生んだロベルトの襲撃だったけれど。伸ばした手は掴まれることなく、地に落ちたけれど。
最後に伸ばした手だけは掴み返してくれたじゃないか。
絶望ばかりの世界でも希望は存在すると立証できたじゃないか。

60 :
支援

61 :
支援!

62 :
支援

63 :
(やったで、赤座。俺はお前のようにやれたで……)
これから先もこのようにうまくいくとは限らない。
今は四人全員五体満足で生きているが、の誰かが死ぬ可能性だって低くはない。
それでも、今は。今だけは、この充実感に身を委ねたい。
救われぬものに救いの手を伸ばせたことが、嬉しくて。
じれったい暑さを生み出している太陽が、自分達を祝福していると信じられた。

【C-6/ホテル内ロビー跡地/一日目・昼間】

【佐野清一郎@うえきの法則】
[状態]:ダメージ(大)、腹部脇貫通痕(応急処置をしないと死にます)
[装備]:殺人日記@未来日記、月島狩人の犬@未来日記
[道具]:基本支給品一式、ロンギヌスの槍(仮)@ヱヴァンゲリヲン新劇場版 、手ぬぐいの詰まった箱@うえきの法則
基本行動方針:もう殺さない
1:休みたい、傷の手当をしたい。
2:赤座あかりの遺志を無駄にしない
[備考]
殺人日記の日記所有者となったため、佐野の携帯電話が殺人日記になりました。
殺人日記を破壊されると死亡します。
『強くなりたい』という願望が芽生えつつあります。
月島狩人の犬は、ある程度の指示に従う模様。ただし飼育日記を介していないので、犬からの意思は伝わりません。

【真田弦一郎@テニスの王子様】
[状態]:ダメージ(大)、頭部出血(この影響で視界不明瞭)
[装備]:木刀@GTO
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1、赤外線暗視スコープ@テニスの王子様
基本行動方針:殺し合いには乗らない。皆で這いあがる道を探す
1:ロベルトと共に這い上がる。
2:知り合いと合流する。特に赤也に関しては不安。
3:秋瀬或の『友人』に会えたら、伝言を伝える。
[備考]
手塚の遺言を受け取りました。
秋瀬或からデウスをめぐる殺し合いのことを聞きました。(ただし未来日記の存在や、天野雪輝をはじめ知人の具体的情報は教えられていません)

64 :
支援

65 :
支援

66 :
【月岡彰@バトルロワイアル】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2、
警備ロボット@とある科学の超電磁砲、タバコ×3箱(1本消費)@現地調達
基本行動方針:アタシは――手塚クンの意思を継ぐわ
1:こういう熱い友情も素敵!
2:手塚の意思を汲み、越前リョーマ、跡部景吾、遠山金太郎、切原赤也と合流する。
3:桐山クンにはあんまり会いたくないわ…。
[備考]
秋瀬或からデウスをめぐる殺し合いのことを聞きました。(ただし未来日記の存在や、天野雪輝をはじめ知人の具体的情報は教えられていません)

【ロベルト・ハイドン@うえきの法則】
[状態]:神器十数発(寿命十数年分)消費 (新たに4年分消費)、全身に打撲と軽度の火傷、額から出血
[装備]: 衣服に能力発動(決して破損しない)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(0〜1) 、風紀委員の盾@とある科学の超電磁砲
基本行動方針:人を信じてみるのも、悪くないのかもしれない。
1:まだ、答えは出ないけれど……今は、人を信じてみたい。
[備考]
※参戦時期は、ドグラマンションに植木たちを招く直前です。
※御手洗から浦飯幽助、桑原和真のことを簡単に聞きました。
※何らかの理由で十ツ星神器“魔王”が出せないと知りました。(能力制限には気づいていません)
[備考]
ホテル内ロビーは半壊しました。
桐山和雄の支給品全ては、爆破により破壊されました。
飼育日記の犬は、一匹をのぞいて全滅しました。

67 :
真田達の足元に飛んできたロケット弾が炎を吹き散らすまでは、信じられた。





「やっぱり、人間は……醜いじゃないか」
真田が咄嗟に伸ばした手は、空を掴むのみ。
血塗れの視界に存在するのは、爆発を一手に受けるロベルトの姿。
悔しそうに、悲しそうに。泣き笑いを見せるロベルトが最後にそっと囁いた言葉は、爆炎に消える。
これより先は、嘘に潰される希望の饗宴。
誰も、誰一人。救われることは、ない。

######

68 :
「…………ぁ」
地面から吹き出した灼炎の熱風が身体を焦がす。
余りにも突然のことで、真田は声が出なかった。
何故、自分は宙に浮いている? 爆風がいきなり来たのは?
宙から地面へと転がり、熱に焼かれた身体に衝撃が突き刺さる。
決して出すまいと思っていた苦悶の声が喉から漏れ出した。
「ロベ、ルト……月岡……っ、佐、野……」
立ち上がらなければ。爆発により即死しないだけ、奇跡的だ。
肉体が限界を越えようとも、前を向かなければ。
自分は救うと、這い上がると誓ったのだから。
仲間を護る、それが真田弦一郎が貫く意志。
真田は、横に転がっていた木刀を手探りで拾う。
そして、それを支えに、ふらふらになりながらも何とか立ち上がる。
見える世界は薄暗く、血で汚れた目はハッキリとした姿を映さない。
「何処、にいる! 生きてるなら返事をしろ!」
だが、この耳はまだ音を拾えている。
爆音で傷ついた現状でも、誰かの声を聞くことができるなら、十全だ。
「ゲホッ、コホッアタシ達『はっ! バーーーーーカ!!!!! お前以外全員ぶっ殺したってのォ!!!!
 生きてるのはテメエだけだ! 悔しいか?? なぁなぁ、悔しいか???? 悔しいなら決めてみせろよ、仇討ちってもんをさぁ!!!!』……ちょっ!」
「貴様……貴様ぁぁぁぁあああああああぁぁぁああああああああああああっっっ!!!!」
ああ、聞こえた。確かにこの耳に届いたとも。
自分達を後ろから陥れた下手人の『声』が!
許せない、許せるものか。
やっと、ロベルトは人を信じようと思えたのだ。
救けて、と真田達に言えるようになったのだ。
それを横から割り込む無粋な真似をした下手人だけは、許せない。

69 :
支援

70 :
「貴様だけは! 貴様、だけは――――! その根性、叩き斬る!!!!」
軋む足も、流れだす血も、火傷でかぶれた肌も、小さな雑音と下手人の大きな罵声も。
今は考えない。この時だけ、今この瞬間だけは。
真田弦一郎は刃を振るう鬼となろう。
ただ、この木刀で下手人を斬り捨てることを脳に刻む!
「動く、ことッ!!!! 雷霆の、如しぃいっ!!!!!!!」
本来、この技はテニスをする為に編み出した技だ。
奥義である『風林火陰山雷』は、誰かを傷つける技ではない。
暴力に使うなど、真田としても強い拒否感がある。
しかし、そのリミッターは下手人の嘲笑、爆発による深い怪我の影響で完全に外れている。
加えて、両目は血で汚れ、誰が誰であるか分別をつけることは不可能だ。
頼りになるのは下手人の罵声のみ。声以外で人を判断できる材料が、ない。
「この一撃に、沈め……っ!」
怒りで冷静さを失った真田は気づかない。
手に持った木刀を振るう先にいる人が――。
「待って、真田クン!!」
「…………な、に?」
――月岡彰だということに。
だが、気づいた時にはもう手遅れだった。振るった木刀は速度を増し、月岡の腹部に吸い込まれていく。
ぐしゃりと、肉が潰れる音が響いた。声を上げることすらできず、血を吐きながら月岡は地面へと倒れこんだ。
血で赤く染まった視界に見えるのは血塗れで動かない月岡、悔しそうに顔を怒りに歪める佐野。
そして。
「ロベ、ルト」
真田を庇ったのだろう、もはや判別不可能にまで焼かれた顔と傷一つない服を身に付けたロベルトだった肉塊。
目に映る光景は、絶望だった。
這い上がることができない、地獄だった。

71 :
しえn

72 :
「――――――――!」
哭いた。声にならない大声で、哭いた。
謝罪した。何度も、何度も。声が枯れるまで。
仲間を殺してしまった自分が憎かった。
意思を貫くと言っておきながら、ただ場を掻き回しただけのこの身体を引き裂きたかった。
再び、爆炎に包まれ身体が焼かれようとも。
叫び声を止めることはなかった。
死ぬ最後の瞬間まで。
誰を救えなかった両手を。殺人者でしかない血塗れの両手を。天に伸ばして。
真田弦一郎は哭き続けた。
「悪いな。ぶっちゃけると、こうするしかお前らは殺せなかったんだよ」

######

「この糞野郎が……! 正々堂々と戦えや……っ!」
深い傷を負っていた佐野は見ていることしかできなかった。
最初に真田達が爆炎に包まれて吹き飛んだ。
そして、ロベルトは真田を庇って爆発を一手に受けた。
この時点では佐野達も現状が掴めずにただ硬直していた。
しかし、二人はすぐに切り替える。
襲撃者が現れた。ならば、何とか二人を助け出し、逃げなければ。
そう思い、炎に濡れながらも何とか立ち上がった真田の元へと声をかけようとした瞬間。
「仕方ねぇだろ、俺は弱い。お前ら相手に真正面から戦うなんてできるかよ」
宗屋ヒデヨシが月岡に『声』を貼りつけたのだ。
佐野は知る由もないが、ヒデヨシが持つ能力は声を似顔絵に変える能力。
撹乱を主な使い道とするこの力は奇襲には打ってつけである。
現に、真田はこの声に騙されて、月岡に木刀を叩きつけたのだから。
意気消沈し、哭き続けていた真田をこのヒデヨシが止めとばかりにロケット弾を撃ちこんだ時、佐野は何も出来なかった。
仲間が死にゆくのを黙って見ているしかなかった。
「どこまでも、腐ってやがるなぁ……!」
「仕方ねぇだろ、これは救う為に必要な過程なんだ。ぶっちゃけ、俺だって本当は殺りたくなかった。
 でも、こいつらは今殺しとかねぇと後々厄介だ。そうだろ? だから、戻ってきたんだ」
「ざけんなや……! んなことで殺されてたまるか!」
傷の手当をしていなかった佐野は起き上がることすらままならない。
肝心な時に何もできない自分に腹が立つ。
何故、もっと周りを見ていなかった。殺し合いなのだ、この場は。ヒデヨシみたいなゲス野郎がいることを、頭に入れなかった佐野達のミスだ。
とことん卑怯に狙い撃ってくるヒデヨシに佐野は歯を食いしばり、険しい視線を送る。

73 :
支援

74 :
「……っ、ぁ」
「ん? まだ生きてるのか? 畜生、アレでもう終わったと思っていたのに……」
瞬間。今までびくりとも動かなかった月岡の体が微かに動く。
真田の『雷』だけでは死ななかったのか、ふるふると震えながら小さな呻き声を上げる。
それをみたヒデヨシが、真田の焼死体の近くに転がっているデイバッグを漁り、拳銃を取り出した。
そして、銃口が藻掻き苦しんでいる月岡へと向けられる。
「丁度いいもんを見つけたし、殺さないとな。全てをチャラにして、救わねぇと。やりたくねぇけど、やらねぇと。
 ごめんな。後できっと救うから。俺か植木が優勝したら元通りになっからさ」
佐野は動かない身体に無理矢理力を入れ、這いながらもヒデヨシへと手を伸ばす。
これ以上、奪う必要なんてないはずだ。もう、自分達は戦えないはずだ。
だから、その銃口を納めてくれ。
「おい、待てや……! 待て、待つんやぁ!!!! やめろ!! やめ」
言葉の末まで、ヒデヨシは待ってくれなかった。
引き金かけられた指は引かれ、銃口から発射された弾丸は月岡の頭を粉々に打ち砕いた。
また、一人。目の前で仲間が死んだ。
数分前まで笑っていた空間が、今では自分とヒデヨシ以外は二度と動かない死の空間と化している。
「……俺は、なにも、護れへん、かった、のか?」
「佐野なら絶対に死なねぇと思ってたけど、やっぱ殺し合いなんだな……。
 畜生、まさかこんなことになるなんてぶっちゃけ想像もしなかったぜ」
憎い。憎い。
今なら、憎しみだけで人を殺せると思うぐらいに脳が沸騰している。

75 :
支援

76 :
(力を寄越せぇぇぇぇっ!! こいつを殺せるだけの力を! 俺に寄越せ!
 許さへん、絶対に! 俺が、R! 強く、なりたいんや! 早く!)
せめて、仲間の敵を討てるだけの能力を。
このペテン師を殺して、これ以上の被害を拡大させないだけの能力を。
『強くなりたい』という意志が、佐野の頭に充満した。
そして、その渇望が佐野の能力をレベル2へと押し上げる。
本人は気づきもしないが、彼の願いが強固なものとなって能力を変質させたのだ。
(戦え! 戦え! 俺と、戦えや! 謝っても許さん! 絶対に殺してやる!
 だから、こっち向けや! 俺の方を見ろや! ヒデヨシぃぃぃぃぃぃぃッッッ!!!)
だが、その時は余りにも遅すぎた。
もう声も出せない程に、佐野は消耗していたのだから。
ロベルト戦から出血を止めずにいたツケが此処で回ってきたのだ。
意識こそあるが、身体はもう動かない。
もはや、憎しみの意識を抱くだけ。佐野の命は尽き果てている。
届かない憎しみと後悔の怨嗟を上げながら、孤独に死ぬ。
仲間を失い、思い出した優しさも消え去り、全てを奪われた佐野清一郎の最後は、嘘に潰される。

######

佐野清一郎が繋いだ道も。
真田弦一郎が貫いた意志も。
ロベルト・ハイドンが掴み取った世界も。
月岡彰が受け継いだ想いも。
あったはずの希望を踏み潰し、ヒデヨシは前を向く。
全てを殺し、全てを救う為に。
「間違ってねぇ、俺は間違ってねぇよ。全員救えるなら、こうする方が正しいんだ。
 俺か植木が勝ち抜いた先にこそ、『正義』はあるんだから」

【佐野清一郎@うえきの法則 死亡】
【ロベルト・ハイドン@うえきの法則 死亡】
【月岡彰@バトル・ロワイアル 死亡】
【真田弦一郎@ひぐらしのなく頃に 死亡】
【残り 26人】

77 :
【C-6/ホテル内ロビー跡地/一日目・昼間】

【宗屋ヒデヨシ@うえきの法則】
[状態]:冷静
[装備]:無差別日記@未来日記、パンツァーファウストIII(0/1)予備カートリッジ×2
[道具]:基本支給品一式(携帯電話は他に1機)、『無差別日記』契約の電話番号が書かれた紙@未来日記、不明支給品0〜2
 基本行動方針:植木か自分が優勝して 、神の力で全てをチャラにする
 1:騙して、後ろからRことをメインに駆け回る。
 [備考]
 無差別日記と契約しました。
 ※基本支給品一式×4、不明支給品0〜4 、風紀委員の盾@とある科学の超電磁砲
 警備ロボット@とある科学の超電磁砲、タバコ×3箱(1本消費)@現地調達、木刀@GTO
 赤外線暗視スコープ@テニスの王子様、殺人日記@未来日記、月島狩人の犬@未来日記、
 決して破損しない衣服、ロンギヌスの槍(仮)@ヱヴァンゲリヲン新劇場版 、
 手ぬぐいの詰まった箱@うえきの法則がヒデヨシの近くに転がっています。

【パンツァーファウストIII】
 宗屋ヒデヨシに支給。ドイツのデュナミトノーベル社が開発した携帯式対戦車擲弾発射器。
 戦車を正面から撃破できる強力な貫通力を持ち、人員携帯型ロケット弾としては最大級の貫通力がある。取り扱いも簡単である。

78 :
投下終了です、支援ありがとうございましたっ!

79 :
おっと、状態表ミスっと。
【佐野清一郎@うえきの法則 死亡】
【ロベルト・ハイドン@うえきの法則 死亡】
【月岡彰@バトル・ロワイアル 死亡】
【真田弦一郎@テニスの王子様 死亡】
【残り 26人】
失礼しましたっ!

80 :
投下乙です!とりあえず一言
ヒデヨシイイイイイイイイイてめええええええええええ!!!
三人のコンビネーションとかロベルトへの救いとか全部吹っ飛ばされた!
ここまで容赦なく上げて落とされたらもうこの感想しか浮かばない!

81 :
あんたそれ背中刺す刃さんのほうやん!
状態表出たからって油断できねええ!

82 :
投下乙
衝撃過ぎて言葉にならなかったわ…
やっとロベルト浄化で四人揃って良いチームになりそうだと思ってたから無念でならない
真田は最期にえぐい目に遭っちまったな
俺も言っとく、ヒデヨシてめえええええええええええええええ

83 :
したらばのものを代理投下します

84 :
「いってぇ……」
がっぷりと。
右の手の甲に噛み傷をこしらえて、宗屋ヒデヨシは歩いていた。
それは、首尾よく皆殺しにした一同の支給品を回収した際に負った傷。
佐野清一郎が連れていた犬に、噛みつかれた。
戦いの間は避難させていたらしいその犬を、役に立たないかと連れ出そうとして。
危うく食い殺されるという勢いで襲われかけ、拾った盾で殴りつけるという乱闘まで演じるハメになった。
かりそめの関係だというのに、いっちょまえに赤座あかりに忠誠心でも抱いていたのか。
「『これはみんなを助けるためなんだ』って、犬に説明しても分かんねぇよなぁ。
いや、人間でも分かってもらえねぇか。佐野だって……」
血に濡れた手を、痛そうに抑えながらヒデヨシは思い出す。
佐野清一郎から、仲間だったヤツから、怨嗟の声を浴びせかけられた。
オレは、みんなを助けたくてがんばってるのに。
みんなのために、怖いのも嫌なのも我慢して、仲間まで殺したのに。
それなのに憎しみを一身に背負うハメになるんだから、まったく報われない。
「『たいようの家』のみんなには、俺がこんなことしてるなんて、ぶっちゃけ言えねぇよ……」
自分を兄のように慕ってくれる孤児たちの、きらきらした笑顔を思い出す。
まぶしい笑顔の記憶は、まるで毒のようだった。
あの子どもたちは、包丁で人を刺し殺したり、ロケットランチャーをぶっ放すヒデヨシを見たら、泣くなんてもんじゃないだろう。
だから、こんなことあってはならない。
あってはならないから、なかったことにする。チャラにする。
「これがオレの……宗屋ヒデヨシの、殺し合いの間だけの『正義』だ」
言い放ち、ヒデヨシは歩く。
噛まれた右手を、痛そうに抑えながら。
【C-6/ホテル付近/一日目・昼間】

【宗屋ヒデヨシ@うえきの法則】
[状態]:冷静 、右手に怪我(噛み傷)
[装備]:無差別日記@未来日記、パンツァーファウストIII(0/1)予備カートリッジ×2、コルトパイソン(5/6) 予備弾×30、決して破損しない衣服
[道具]:基本支給品一式×5、『無差別日記』契約の電話番号が書かれた紙@未来日記、不明支給品0〜6、風紀委員の盾@とある科学の超電磁砲
 警備ロボット@とある科学の超電磁砲、タバコ×3箱(1本消費)@現地調達、木刀@GTO
 赤外線暗視スコープ@テニスの王子様、ロンギヌスの槍(仮)@ヱヴァンゲリヲン新劇場版 、手ぬぐいの詰まった箱@うえきの法則
 基本行動方針:植木か自分が優勝して 、神の力で全てをチャラにする
 1:騙して、後ろからRことをメインに駆け回る。
 [備考]
 無差別日記と契約しました。

悪魔は、獲物を探していた。
目障りな『人間』を、片っ端から潰すために。
目障りな、信用できないものをすべて潰していけば、心地いい場所になると思ったから。
だというのに。

85 :
「いや、まさか。まさかだろ……」
宗屋ヒデヨシがなしとげた、『正義』の跡地。
そこで、切原赤也という名前の悪魔は立ちすくんでいた。
そこにあったのは、ひとつの偶然。
ある意味では奇跡。
ある意味では神様のいたずら。
ある意味では、とてつもなく悪趣味なボタンのかけ違い。
「こいつが……そんなわけ……」
判別不可能な焼死体がひとつ。
幾発も拳銃で頭を打ち抜かれた大柄な男の死体。
大量の血を流して絶命する、羽織を着た少年の死体。
どういうわけか、上着とズボンを脱がされている男の死体。しかも人相に見覚えがある。
ちょっと周りを見渡せば、広間の壁際によりかかっているのは体に何かの破片が突き刺さった男の死体だった。
そしてうじゃうじゃと、折り重なるように倒れた犬の群れの死体まで。
死体だらけの、地獄の景色。
それだけなら、なんのことはない。
すでにして悪魔は、もっともグロテスクな死体に遭遇し、完膚なきまでにその死体を貶めている。
それらがただの『人間の死体の群れ』ならば、高らかにざまぁみろと大笑いさえしただろう。
「こんなうさんくさい携帯に書かれてることが、信じられるわけねーよっ……」
しかし、興味本位で死体を見下ろして『それ』を目にとめてしまった。
浴衣の男がこぶしに握っていたそれ。
ただひとつだけ、宗屋ヒデヨシの見落としたもの。
いくらヒデヨシが覚悟を定めたとはいえ、仲間だった男の身ぐるみまで検分するほどの度胸をつけるには早すぎた。
すでにして武装は充実していたし、友人だった佐野だけは直接に手にかけずに済んだという安堵もおおいに手伝って。
支給品あさりは彼のチェックだけが無意識に甘くなる。
それがゆえに、彼はひとつだけ見落とした。

殺人日記。

佐野清一郎は、ロベルトらとの戦いにおいて、一度もそれを使わなかった。
しかしいまわの際に、佐野清一郎は強く明確な『殺意』を持った。
宗屋ヒデヨシに対して、殺してやると。
『DEAD END』表示も、未来が変わるノイズ音も、爆炎の残り火にさえぎられていたけれど。
こと切れるまでのわずかな時間、殺意を汲み取った殺人日記の文面はわずかに書き換わる。
体力は尽き果て、何もできなかったれど。
ヒデヨシをR手段を欲した佐野清一郎は、その日記を握ったまま絶命した。
だからそこには、書かれてしまう。
『DEAD END』が表示される直前の、最後の予知に。
『燃える[真田弦一郎]の死体から火を消して、ディパックを剥がしにかかる宗屋ヒデヨシ』を、
佐野清一郎の視点から見た短い描写が。

86 :
「真田、副部長……?」



いつも、そう呼んでいた。
とても強くて、とてもおっかない、絶対的存在の立海ナンバー2。
炭化した気持ち悪い黒いかたまりを、その呼び名で呼びたいはずがない。
きっと浴衣の男が、死に際になっておかしなことをメモ帳に打ち込んだに違いない。
真田副部長が死ぬはずない。あの大きな背中が、地に倒れることなんてあるはずない。

――あの手塚国光でさえ死んでしまう場所でも?

愕然と見開かれた赤い瞳は、次なる証拠を見つけてしまう。
半壊した大ホールの瓦礫に挟まれて、微風になびく――

――黒い帽子。

焼け焦げていたけれど、その真っ黒な帽子は、確かに見慣れたもので。
ここで死んでいった人間の誰かが、絶命する直前に爆風に攫われたものだと察することができた。

「副部長……っ!」

叫び、駆け出し。
まろぶような足取りで帽子へとたどり着き。
見つけてしまう。
キャップの裏面、几帳面に生真面目に書かれた、『真田弦一郎』という名前書き。
「い、いや……まさか。まさかだろ?」
赤也は、笑おうとする。笑い飛ばそうとする。
しかし、笑えない。
笑うには、その人物が赤也にとって大きすぎた。
「んなわけないっすよね……こんなわけ分かんないうちに死ぬはずないっすよねぇ?」
振り返り、どうしようもないほどに炭化したそれを凝視する。
人の形をしたそれは炎の作用で収縮しても大きく、生前の身長も180センチをくだらないと見えた。
テニス部ならば大柄な生徒も多数所属しているが、中学生でその身長に達する人間はなかなかいないことぐらい、赤也でも知っている。

87 :
「い、いや、ないでしょ? 俺をハメて、びびらせようとする誰かの仕業なんだろ?
うっかり副部長が帽子を落っことしただけで、実はこの近くでぴんぴんしてるんでしょ?」
早口で問いかけ、しかし答えは記憶の声が返す。
『手塚国光』と名前を呼んだ、放送の記憶が。
ふらふらと、歩き。
焼死体へと、歩いていき。
堪え切れずに、とうとう赤也は叫んでいた。
「出てきてくださいよ!! いくらでも鉄拳制裁していいっすから!
たるんどるって怒って、げんこつ食らわせていいっすから!!
問題起こして、副部長の足引っ張ったりしませんから!
もうバスで寝過ごして、遅刻したりしませんからっ。 
丸井先輩と隠れてお菓子食べたりないし。
土足でベンチにあがったりしないし。
もう絶対に、言うこと、きいて……」
ぺたりと、顔の判別もつかなくなった真っ黒い頭部の前に、しゃがみこむ。
真っ赤にそまった手を、地面についた。
白髪が日光を遮って、真田弦一郎と認めてしまった男の遺体に影をつくった。
「立海は負けてはならないって、耳にタコができるほど言ってたじゃないっすか……」
苛々していた。
悪魔はずっとずっと、苛々していた。
けれど、悪魔は喪失という感情を知らなかった。
胸の内を乾いた冷たい風が狂うような、こんなどうしようもないものは知らない。
それは、切原赤也にとって、失われていいはずがない人物だから。
うるさいし、厳しいし、時代遅れのような言動と行動だし。
テニス部の先輩でさえなければ、絶対に関わり合いになりたくない類の人種だ。
事あるごとに立海大テニス部部員の何たるかを説いて、ちょっとでもハメを外すと頬への鉄拳か頭へのげんこつが待っている。目障りだと思ったことだって、数知れない。
しかし、どれほどその背中が大きいかということも、知っている。
「オレの野望は、アンタと、幸村部長と柳先輩を倒すことだって。
ずっとそう言ってたじゃないっすか……」

88 :
そこには。
そこだけには。
人間も悪魔も正しいも間違いも関係がなかった。
ただ、敬愛する先輩を失った、後輩の姿があるだけだった。
「ふくぶちょぉ……」
うめくような声を、聞きつけたのか。
とことこと、被り物をした奇妙な犬が赤也のもとに歩いてきた。
『人間』ではない、生き物。
それだけのことでも、今の赤也の警戒を解くには充分となる。
ただ無防備に、呆けた瞳で、赤也はその生き物の接近を感知する。
そいつは、焼死体と、それを見て
口元を、赤也の頬によせた。
べろり、と。
ざらざらした舌で、涙を舐めとられる。
それが、臨界点になった。
溢れる。
溢れだす。
声が。
涙が。
感情が。

慟哭が。

「うぅ――ぅぅっぐうぅ――う゛っ――ひっ、ぐっ――――z______う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っっ――z______!!」

89 :
その目を赤く染めていたのは、怒りによる目の充血ではなかった。
涙腺を決壊させ、溢れるかぎりの涙をこぼす、悲しみの腫れだった。
それは、かつて一度だけ見せたことのある、『正気を保ったままの悪魔』。
黒の章の蝕みが除かれたわけではない。
ましてや奇跡でも聖書(Rル)の導きでもなんでもない、当たり前のこと。
たとえ歪んでいても、暴力の道を歩いていても、大切な仲間を失えば悲しい。
そして、悲しみで心がいっぱいになってしまえば、怒りはひっこめるしかないのだ。

子どものように求め、赤子のように泣き。
切原赤也は、ただただ悲しんだ。



「なんなんだよ、これ……」
テンコは、悲しみと諦念と摩耗の淵にいた。
だんだんと弱っていく赤座あかりを、ずっと脈拍が途切れるまで看取り。
苦労して、変身できない小さな体で本当に苦労して、赤座あかりの体に刺さった包丁をぬいてやり。
そうしてふらふらと佐野の向かった先に進み出て、絶望の景色を目の当たりにする。
何が起こってそうなったのかはわからない。
しかし、あかりの祈りが、佐野の決意が、踏みにじられたことだけは理解できた。
すべてが失われた光景と、不可解な数多くの死体と、せっかくまた仲間になれた佐野清一郎の亡骸と。
こんなのって、ないだろう。
それが第一声。
そして、いたのが泣き叫ぶ赤い色を纏った少年。
ドアの陰に隠れるテンコには、まるで気づいていない。

「話しかけて、いいのか……?」

天界人でなければ偏見はないとはいえ、本来のテンコは相当に人見知りする性質である。
いや、それでも普通の人間ならばつい話しかけていただろうが、少年の姿はあまりにも凶悪に過ぎた。
まして焼死体の男がどちらの側に味方していたのかを知らないテンコからすれば、
その死体にとっては味方にあたるらしい赤い肌の少年は、悪人なのかどうか判断する材料がない。
しかし。
あんな風に悲しんでいる男をただ放置するのも、忍びないことのように思えた。
ただし。
何が起こったのか事情を聴きだしたい、問いただしたい思いとはべつに。
ただひたすら泣き叫ぶその姿は、気が済むまで泣かせてやりたいという哀れさをも強くかきたてた。

90 :
そんなテンコの悩みを遮るように、その音は聞こえた。
単音のアラームが、ディパックの内からけたたましく鳴り響く。
携帯電話が、二回目の放送の始まりを告げた。
【C-6/ホテル内ロビー跡地/一日目・昼間(放送直前)】
【切原赤也@テニスの王子様】
[状態]:『正気のデビル化』状態 、大泣き、『黒の章』を見たため精神的に不安定、ただし殺人に対する躊躇はなし
[装備]:越前リョーマのラケット@テニスの王子様、燐火円礫刀@幽☆遊☆白書
[道具]:基本支給品一式、バールのようなもの、弓矢@バトル・ロワイアル、矢×数本
基本行動方針:知り合い以外の人間をR
1:???
[備考]:正気の悪魔化状態がいつまで続くかは、後続の書き手さんに任せます
【テンコ@うえきの法則】
[状態]:少年を観察中。声をかけるかどうか決める。

91 :
投下乙です。
あかやん、知っちまったかー。
無残な遺体だもんな、そら泣き喚くわ。
どんなに汚れても仲間意識だけは忘れないあかやんは何だかんだでいい奴なんだよなあ。

92 :
お二方投下乙です!
王道の救い展開かと思ったらド外道ミサイルがぁぁああああああ!
無慈悲すぎるよ……
赤也までこんなに傷つけてヒデヨシのやつ……

93 :
これで登場人物の中のマーダーの割合がだいたい8/26か
狡猾な奴も多いし、どう転ぶかわからなくなってきたな…

94 :
月報です
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
75話(+3) 26/51(-4) 51.0(-7.8)

95 :
そういえば秋瀬くんが結衣にALL DEAD END見せた時に
The raderにノイズが走ってたけどあれって何が書き換わってたんだろ

96 :
309 名前:子どもたちは毒と遊ぶ  ◆j1I31zelYA[sage] 投稿日:2013/05/31(金) 00:12:10 ID:fdA0wjM2

ぐしゃり

そんな音がしたかどうかは定かではないが。
そこには目を覆いたくなるほどの損壊を果たしたモノが『二人』、仲良く転がっていた。
『仲良く』というのは、その二人が密着して絶命を果たしていたからだ。
太陽の光をさんさんと受ける白いセメントのタイルに、少年があおむけになって。
その上に緑髪の少女が、覆いかぶさるようにして。
その少女は、御坂美琴らも知っている人物だった。
知っているどころか、別れてから数時間しかたっていない。
「ぅぇ……」
「――っ!」
「園崎さん…………よね……?」
デパートの屋上へと足を踏み入れた五人は、監視カメラに映っていた通りの死体と対面を果たした。
さっきは『転がっている』という言葉で表現されたけれど、適切ではない。
遠目に見ても、セメントに『貼りついている』と言った方が正しい。
セメントに密着した少年の後頭部は、半分ぐらいが真っ平らに潰れてぺったりとタイルに吸着している。
その部分の頭蓋骨は砕けているらしく、付近に脳髄の飛沫をピッピッと描いていた。
首から下は体の各所が凹んだり折れ曲がったりして、壊れたマネキンのような有様だった。
おそらくは頭からセメントに叩きつけられ、そこを起点として首から下を幾度か屋上にバウンドさせたのだろう。
少年を後頭部から激突させた原因は、その顔面を鷲掴みにしていた少女の右手であるらしかった。
万力をこめて少年の顔に食い込ませていたそれは、死後もなお少年の皮膚にがっちり食いこんで彼の死に顔を隠す。
こちらは上半身から先に『転落した』らしく、服の下からのぞく肌が皮下出血によるすさまじい紫色のまだらを見せている。
なぜ、付近で最も高い建造物の屋上に、『転落』死体が存在するのか。
その答えは、少女が背中に背負ったジェットエンジンのような機械(半壊)がうっすらと説明していた。
「何があったって言うのよ……」
別れて間もないうちに、死体になって帰ってきた園崎魅音。
その変わり果てた姿に美琴はそれ以上の言葉を失い、握った両手をわななかせる。
悪い夢のよう。
そんな言葉が似合った。
放送で佐天涙子の死を聞いたときは、悲しんだし、怒ったし、許せなかった。
でも、逃避したいという感情だけはなかった。
けれど、今この場にあるこの『死』は違う。
目をそむけたくなるほど無残で、目をそらしてはならないと理解させるほどに理不尽な、見知った少女の残骸だった。

97 :
「交戦して、揉み合いになって、落ちた。そういうことじゃないかしら」
式波・アスカ・ラングレーはそう言って、園崎魅音だったものへと一歩、また一歩と歩み寄っていく。
いつもの落ち着いた尊大さを保とうとする声も、元同行者のグロテスクな遺体を前にしてはややこわばっていた。
それでも真っ先に動こうとするのは、御坂美琴よりも弱い部分を見せまいとする意地やプライドであったり、ここで怖がるような人間がいざというときに殺せるはずがないという内心の叱咤であったり。
「それって、一緒に落ちてきた人に……ころ、されたってことですか?」
アスカとは対照的にじりじりと後退しながらも、それでも屋上を離れる気を見せないのは吉川ちなつだった。
ゲーム開始直後に、殺されかけたのは覚えている。最初の6時間で9人の人間が死んだことも知っている。
それでも、最初に目撃した死体が知り合いのものだなんて、しかもこんな唐突に『落ちてくる』なんて。
ひどい。こわい。どうして。
感想は単語という形でしか、浮かびあがってこない。
そして、ついさっきまで一緒にいた少女の死を悲しむよりも、むごたらしい死体が気持ち悪い、離れたいという嫌な感情さえ先行してしまう。
それでもなお、己を律するのは御坂美琴を守るという誓いを立てたから。
しかし、誰もがそんな決意をもって死者と向き合ったわけではなかった。
「――ごめんなさいっ」
口元を手でおさえ、耐えられないとばかりに屋内へと駆け戻ったのは相馬光子だった。
「追いかけてくるよ」
そして、そんな少女の背中を追うことを買って出たのが、この場にいる唯一の少年、御手洗清志。
目覚めた当初は、放送前に起こった「殺し合いに乗っていたんじゃないのか疑惑」から、光子以外の全員から疑いの目で見られもしていた。
しかし、目覚めた彼自身が『白髪で赤い異形に変身する悪魔みたいな男に襲われた』と証言したこと。
そして、その『悪魔』のことを語る彼の様子がひどく怯えたように生々しく、真に迫っていたこと。
何より、彼を疑っている筆頭であったアスカ・ラングレーが、てのひらを返したようにあっさりと嫌疑をといたために、うたぐる人間がいなくなってしまったこと。
そして、彼のことを介抱していた相馬光子に、ひどく感銘を受けたらしく何度も礼を言っていたことがあった。
御手洗が光子に向ける視線は、とても穏やかなものだった。
そんなことから『まだ完全に信用はしきれないけれど、相馬さんを害することは無さそう』という枕詞付きで、アスカをのぞいた一同の警戒を解いていた。

98 :
311 名前:子どもたちは毒と遊ぶ  ◆j1I31zelYA[sage] 投稿日:2013/05/31(金) 00:14:55 ID:fdA0wjM2
そんな光子たちの反応を受けて、美琴はちなつの方を気づかわしげに見やる。
「吉川さんも、無理することないのよ。相馬さんたちと下で――」
「いえ、私はここにいます」
声が震えないように硬い声で、ちなつはかたくなさを表明する。
御坂美琴をサポートすると決めたからには、彼女が目をそむけずに踏みとどまっているものから、己が逃げ出すわけにいかなかった。
この死体発見までに進行していた話し合いでも、御坂美琴はグループを分割して行動することを渋っていた。
それは『私があなたを守る』という吉川ちなつの約束を尊重してくれたからでもあり、それ自体はとっても嬉しい。
しかし、それはちなつたちをそばにいて守ろうとするためであり、パートナーとして認められたからではないのだ。
必死の意気ごみに、アスカが冷淡な声をあびせる。
「見ない方が身のためだって言ってるのよ。あんたに遺体をあらためるなんてできないでしょ?」
すでに魅音だったもののそばにしゃがみこみ、手がかりがないか観察しようという姿勢だった。
さすがに美琴もその言いようをとがめる。
「ちょっと式波さん、そんなこと」
「じゃああんたは、死体の観察を見学させたいわけ? 一般人が好きこのんで見るものじゃないでしょ」
「それは……」
言い分自体は、『ちなつのため』という風に聞こえるし、だからこそ美琴は困った風になる。
それはつまり、美琴自身もちなつに『見せたくない』ということ。
ちなつはうつむき、唇を小さく噛んだ。
ここで、食い下がる言葉を思いつけない自分自身を痛感する。
死体をこうして直視することにさえ生理的嫌悪感でたまらなくなる女子中学生が、何かをできる領分などない。
「だったら、後ろむいて座ってます。園崎さんたちに何があったのかは聞きたいですから」
『これ』は、ちなつには無理だ。
ほかのことを頑張るしかないと切り替えて、後ろを向く。
それでもアスカに対する少しの反発と、言いようのない悔しさがあった。



99 :
312 名前:子どもたちは毒と遊ぶ  ◆j1I31zelYA[sage] 投稿日:2013/05/31(金) 00:15:51 ID:fdA0wjM2
「これでよしっと……どうしたの御手洗くん?」
「いや……死体の男の方が着てた服に心当たりがあってね。ほら、あの『悪魔』と一緒にいたヤツに似てるなって思ったんだ」
「ふぅん……でも、その彼だった方が好都合ね。あなたの正体を知ってる人間が一人減ったってことだもの」
「でもあの連中、僕の話を鵜呑みにしすぎやしないか? いくら僕が『領域(テリトリー)』を伏せているからって、女子と2人きりにするのを止めもしないなんて」
「だってあなた、ひとつも嘘は言ってないもの。『先に襲いかかったのはどっちだったか』を言わなかっただけだわ」
「それもそうだな」
「それに、おバカさんたちならこう考えるものよ。
『この人は乗ってない。だって殺し合いに乗っていたらか弱い相馬さんと2人きりでいた時に、何もしないはずがない』ってね」
「なるほど」
「おかげで、手に入ったわね。あなたの欲しがってた、たくさんのお水」
「ああ。でもどうしてトイレなんだい? デパートの売り場にボトル入りのがいくらでもあるだろう」
「なるべくカメラに映らない方がいいと思ったのよ。『プログラム』の時は小さなミスが命取りになりかけたから」
「ふぅん、慎重派なんだな。じゃあ光子、次はどうする?」
「そうそう、人前では『光子』って呼んじゃダメよ。こんなに短い間に親密になり過ぎても、かえって不自然だからね」
「うん、分かってるよ。『相馬さん』」
「そうね……いったん管理室に戻ろうかしら。あたしの勘では、そろそろアスカさんが焦れて――」



ボロボロになっていたジェットエンジンのような機械は、軽く動かしただけで自壊して、魅音の肩から外れた。
そろそろと、少年の顔に食い込んでいた魅音の指を剥がす。
そうしなければ、園崎魅音の遺体をうつぶせから解放してやれない。
べっとりと屋上とお見合いさせたまま転がしっぱなしにしてしまう。
「うっ……」
「ずいぶんと、撃たれてるようね……」
触れた遺体にまだ『あたたかさ』が残っていることにぞっとして。その『ぞっとした』ことに、罪の意識を覚えて。
そろそろと仰向けに寝かせると、赤黒い血まみれの腹部が剥き出しになった。
その凶器が、少年の手に握られたブローニング・ハイパワーであることは分かった。
「どうやら……こいつに襲われて逃げようとしたけど、落とし合いになったとみてよさそうね」
言葉だけは、せいいっぱいに冷静。
しかしそう語るアスカの視線は、それを直視できずに屋上のタイルへと落ちていた。
美琴も似たようなもので、仰向けに晒された死に顔が思いのほか安らかだったことに、力が抜けそうなほどほっとしてしまう。
「相沢さんは……無事かしら?」
「知らない……仮に生きてたとしても、居場所がつかめないんじゃどうしようもないわよ」

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