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2012年6月漫画サロン486: 福本漫画バトルロワイアル part.8 (343)
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福本漫画バトルロワイアル part.8
- 1 :11/06/05 〜 最終レス :12/06/20
- 福本漫画のキャラだけでのバトルロワイアルをしようというリレー小説企画スレです。
前スレ 福本漫画バトルロワイヤル
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1212909658/l50
福本漫画バトルロワイヤル part.2
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1216725766/l50
福本漫画バトルロワイヤル part.3
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1227249586/150
福本漫画バトルロワイヤル part.4
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1240318445/l50
福本漫画バトルロワイヤル part.5
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1250696919/
福本漫画バトルロワイアル part.6
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1260650346/
福本漫画バトルロワイアル part.7
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1271079773/
まとめ ttp://www31.atwiki.jp/fukumotoroyale/
避難所 ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/11641/
2chパロロワ事典@Wiki ttp://www11.atwiki.jp/row/
- 2 :
- 書き手の注意点
・予約は任意
・予約後一週間経過で予約取り消し
・本スレ投下前にしたらばの一時投下スレに投下する時も、
予約スレに予約をおこなうこと。
・トリップ必須(捨てトリ可)
・無理して体を壊さない
・完結に向けて諦めない
・予約はしたらば「予約スレ」にてお待ちしてます
キャラが死んでも、泣かない、暴れない、騒がない!!
- 3 :
- 【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
優勝賞金は10億円。
また、1億円を主催者側に払うことで途中棄権の権利が購入できる。
参加者には食料などの他1000万円分のチップが支給され、
他者からの奪取やギャンブルルームでのやりとりが許されている(後述)。
ちなみに獲得した金はゲーム終了後も参加者本人のものとなる。
【支給品】
数日分の食料と水、1000万円分のチップ、地図、コンパス、筆記用具、時計
以上の物品が全員に均等に振り分けられる他、
ランダムに選ばれた武器や道具が0〜3品支給される。
- 4 :
- 【ギャンブル関連】
主催者側が管理する「ギャンブルルーム」が島内に点在。
参加者は30分につき1人100万円の利用料を支払わなければならない。
施設内には様々なギャンブルグッズが揃っており、行うギャンブルの選択は自由。
また、賭けるものは、金、武器、命など何でも良い。
ギャンブルルーム内での暴力行為は禁止されており、過程はどうであれ結果には必ず従わなければならない。
禁則事項を破った場合、首輪が爆発する。
【首輪について】
参加者全員に取り付けられた首輪は、以下の条件で爆発する。
・定時放送で指定された禁止エリア内に入ったとき
・首輪を無理矢理取り外そうと負荷を加えたり、外そうとしたことが運営側に知られたとき
・ギャンブルルームに関する禁則行為(暴力、取り決めの不履行等)を犯したとき
なお、主催者側の判断により手動で爆発させることも可能である。
- 5 :
- 【定時放送】
主催側が0:00、6:00、12:00、18:00と、6時間毎に行う。
内容は、禁止エリア、死亡者、残り人数の発表と連絡事項。
【作中での時間表記】 ※ゲームスタートは12:00
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
真昼:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
- 6 :
- 【参加者一覧】
【アカギ 〜闇に降り立った天才〜】3/8
○赤木しげる(19歳)/●南郷/●安岡/●市川/●浦部/●治/○平山幸雄/○鷲巣巌
【賭博黙示録カイジ】2/7
○伊藤開司/●遠藤勇次/●船井譲次/●安藤守/●石田光司/●利根川幸雄/○佐原
【賭博破壊録カイジ】1/4
●大槻/○一条/●坂崎孝太郎/●三好智広
【賭博堕天録カイジ】1/3
●坂崎美心/●村岡隆/○兵藤和也
【銀と金】3/8
○森田鉄雄/○平井銀二/●有賀研二/○田中沙織/●神威秀峰/
●神威勝広(四男)/●吉住邦男(五男)/●川松良平
【天 天和通りの快男児】3/4
●天貴史/○井川ひろゆき/○原田克美/○沢田
【賭博覇王伝零】1/4
○宇海零/●板倉/●末崎/●標
【無頼伝涯】1/3
○工藤涯/●澤井/●石原
【最強伝説黒沢】3/4
○黒沢/○仲根秀平/○しづか/●赤松修平
【残り18/45名】
- 7 :
- 【予約について】
キャラ被りを防ぐため、任意で自分の書きたいキャラクターを予約することができます。
したらばの「予約スレ」に、トリップ付きで予約するキャラクターを宣言をしてください。
有効期間は予約当日から一週間。
期限が切れても投下はできますが、混乱を招くため歓迎されません。
間に合いそうにない場合は、【期限が切れる前に】延長を申請するか、予約破棄宣言をお願いします。
延長申請がない場合、予約は解消され、そのキャラクターはフリーになります。
【他、書き手の注意点】
作品投下はトリップ必須(捨てトリ可)。
内容に自信がなかったり、新たな設定を加えたりした場合は
本投下前にしたらばの「一時投下スレ」に投下するとアドバイスをもらえます。
さるさん規制を喰らった場合もそちらにどうぞ。
- 8 :
- >>1乙…圧倒的に乙…!
前スレの感想を。本文長すぎるってなんだよ…
- 9 :
- >分別 そうきたか! というかんじでした。断片的な情報がまとまっていくさまがすごく面白かった。
3人寄れば文殊の知恵っていうけど、天才の頭脳をもつ零と、ある意味行動力のあるカイジ2人で10人分の価値ありそう
零のもつ標のメモと、カイジの実際に会った人物、容姿や特徴などを書き込んだらもっと精密なリストになりそう。
涯や沢田、他の仲間とも共有できるし、今後の行動にすごく有効活用できそうですね。
- 10 :
- >愚者 仲根と黒沢、沙織としづか、遠藤と佐原…あらゆる対比、因縁、思惑が絡み合って面白かった。
涯と赤松の関係みたくなったら、仲根も救われてたかもしれない…タイミング悪かったな。あとで黒沢、後悔しそう。
佐原は一線越えてしまったか…殺意をはっきり持って殺した所が遠藤と違う所ですね。
俺以上の愚か者、と言ったのが印象的。佐原、ライフルを使いこなせるようになればやっかいなマーダーになりそう。
- 11 :
- >>1スレ立てありがとうございます
前スレ最後に投下された「愚者」の感想!
前後編の大作投下乙でした
まず、黒沢さんのロワ内での女運の良さ(悪さ?)がなんとも言えないw
3人しかいない女性参加者をコンプリート・・・!
しづかは強い女だね
沙織もある意味ではそうなんだけど、かわいそう
山場が近い雰囲気だけど二人ともがんばってほしい
遠藤の退場も惜しいんだけど、何よりも佐原の今後が気になります
佐原はかなり波乱万丈なロワライフだよね・・・
- 12 :
- 愚者読んだけど佐原が何故遠藤を撃ったか理解できない
中で遠藤が4人を殺そうとしているのに外から先手しかける理由がないでしょ
他の4人に反撃されたり逃げられたりするかもしれないのに
遠藤の仕事が終わってから仕掛けても十分だと思うんだけど
- 13 :
- 佐原が遠藤さんを撃ったことについては、たしかに>>12の指摘通りだよね。
でも、ロワの中での精神状態に整合性を求めすぎるのもどうかなってところ。
自分は、状況が判断できないような状態だったのかなと素直に解釈することにした。
っていっても佐原も冷静に五人全員殺そうって考えてるわけだし、
遠藤が四人を殺そうとしてるっていう状況も理解出来てる。
今までの話の中で、佐原は一貫して生還重視で物事もちゃんと判断してきてるから
その疑問自体(何故遠藤を撃ったか?)については否定できないかなぁと思う。
- 14 :
- ご意見ありがとうございます。
佐原の件ですが、全員、殺害する気だったので窓に近い遠藤から狙ったというつもりだったんです。
遠藤が窓に寄りかかることで残り全員が逆に狙いづらく、逆に遠藤が窓から消えれば、後は全員銃るのは容易いと考えて。
>>12様が言うように待てば良かったのですが…。(メタ的に言うと待ったところで遠藤は殺害しないのですが…)
どうしましょう。
破棄の方がよろしいでしょうか。
- 15 :
- 指摘は全体の一部分についてだけですので、破棄という言葉を出すのは早計すぎるかなと・・・
したらばの議論スレで話し合うのはいかがでしょうか
>>12さんの意見で論点は明らかになっているので、
そのあたりを修正できるかどうかの意見交換をしません?
作者さん的に修正不可だと思われたりしてるようでしたら話はまた変わるんですけども
いずれにしても、ここで話すよりはしたらば向きの内容になってくると思います
- 16 :
- そうですね。
どのように修正すべきか、議論スレにて意見を募りたいと思います。
ご返答ありがとうございます。
- 17 :
- お久しぶりです。
愚者(後編)の改訂版をしたらばの一時投下スレに投下しました。
お時間がある方はどうか確認をよろしくお願い致します。
- 18 :
- 先日は大変失礼いたしました。
先日の「愚者」であった矛盾点を修正した話をしたらばの一時投下スレにあげました。
お時間がありましたら、どうか問題がないかどうか確認をお願い致します。
- 19 :
- 先日はご迷惑おかけして申し訳ございませんでした。
「愚者」(後編)の修正が完成しましたので、投下します。
- 20 :
- 霧も、東からの日光によって大分霞みつつある。
それでも、霧と同系色の鈍色の色彩は森に溶け込み続け、なお不吉さを仄めかしている。
その森の中を佐原は歩いていた。
風の音に人の気配を感じ、佐原はあの場から逃げ出した。
逃げて隠れて、また、逃げて――。
自分はどこへ向かっているのか。
何から逃げているのか。
佐原自身にも分からない。
「南郷……」
疲弊した佐原の意識の中心を占めていたのは死にゆく南郷の姿だった。
南郷の首が弾ける直前、佐原は南郷を抱きかかえた。会話もした。
その南郷が自分の目の前でたんぱく質のかたまりになり果ててしまったのだ。
もし、過去に戻れたら――。
南郷の足の痛みを察し、肩を貸していたら――。
南郷は今頃、穏健に頬笑みながら、佐原の隣にいたのかもしれない。
「南郷……すまねぇ……」
佐原の頬に熱い涙が一滴滴り落ちる。
しかし、それとは対照的に、心には冷めた論理が蛇のようにとぐろを巻いて潜んでいた。
「南郷は……優しすぎた……」
- 21 :
- 南郷の優しさが佐原の支えとなっていた時もあった。
平常時であれば、その成熟した気質に恭敬の念を抱いていたのかもしれない。
しかし、今回、それは佐原に別の面を見せてしまっていた。
「これは殺し合いなんだ……甘さを見せれば…気を緩めてしまえば…次に死ぬのは自分っ……!」
ば、何もできなくなる。
どんなに無様でも生き続けなければ、これまで紡いできた生の歩みが全て無駄になる。
南郷の気遣いは生きるチャンスの放棄――生存競争からの脱落である。
生への渇望が至らなかったばかりに――。
「そうさ……俺達のような弱者はいつのまにかどんどん隅に追いやられ……ふと気がついたらはじき出されていたという愚か者……このまんまじゃ……椅子取りゲームで椅子をもらえなかった落ちこぼれだ……」
皮肉にも、その言葉はカイジが限定ジャンケンの際に導き出した人生の道理そのものであった。
「俺は……死にたくないっ……!!!」
心からの願望を口から漏れ出したその時だった。
乾いた銃声が轟き渡った。
「なっ!!」
- 22 :
- 佐原はとっさに木の陰に隠れて目を凝らす。
銃声の方角にあったのは一軒の民家であった。
「あそこからだ……」
危険人物が潜んでいる可能性がある。
生きる本能からなのか。
濁っていた神経が、まるで涼風に吹き払われたかのように研ぎ澄まされていく。
今後のためにどんな人物か確認しておいた方がいいと判断した佐原は一流のスパイの如く俊敏に走ると、民家の壁に身体を預け、窓を覗きこむ。
(えっ!)
佐原の背筋に冷たい汗が滲む。
室内にいたのは棒立ちになっている4人の男女、そして、窓に背を向けた遠藤の姿であった。
4人の男女は凍りついた表情で遠藤を見つめている。
当然である。
遠藤の手には拳銃が握られているのだから。
(あいつ……)
あの4人に待ち受けている事象は小学生が習う算数の解答ぐらい明瞭なものだろう。
(遠藤はこいつらをっ…!)
佐原は帝愛のゲーム、そして、このバトルロワイアルを経て、一つの真理に辿りついていた。
(人生ってのは自分のものじゃない……奪い取った誰かの物なんだ……勝ち続けなければ、武器を持って戦い続けなければ……死ぬしかないっ……!)
- 23 :
- 「これが現実ってもんだっ……!」
佐原は静かな足取りで歩み出した。
目的地は窓の延長線上にある一本の木。
その木に寄りかかると、ライフルを肩づけして構え、スコープを覗きこんだ。
遠藤の背中がスコープに映る。
遠藤と佐原の距離は50メートルぐらい。
下手な行動と取らなければ気付かれることはないだろう。
「遠藤……」
佐原はゆっくり息を吐いた。
ライフルの銃身に心拍と呼吸を合わせていく。
遠藤はまもなくあの4人を殺害するだろう。
遠藤が4人を殺害した直後、遠藤の頭部を撃つ。
こうして、室内にいる5人全員を処理する。
必ずしも完璧とは言えないが、勝算は高い。
「俺はやれるっ……!俺はっ……!」
佐原は何度も同じ言葉を繰り返す。
人を決心はついた。
後は時期に投ずるのみである。
しかし、その威勢のいい言葉とは裏腹に、ライフルを持つ腕は痙攣を起こしているかのように震えていた。
「なっ……!」
我に返り、己の身に降りかかっている異常に気付いた。
腕だけではない。
膝は一歩でも動かせば、跪いてしまいそうなほどに脱力し、顔からは怯えが皮膚の下から滲み出ている。
明らかに精神は殺人を拒んでいた。
- 24 :
- 「何をやっているんだ、俺はっ……!」
己を叱咤し、佐原は再び、ライフルを構え直す。
しかし、スコープは路頭に迷ったかのように泳ぎ続け、遠藤の頭部どころか、窓すら全うに写そうとしない。
佐原は殺人への畏怖に呑まれていた。
生物とは文字通り、『生きている物』。
それ故に、命を奪う者は敵である。
もし、人を殺せば、他の人間は自分を敵――殺人という卑しき行為に及んでしまった不浄の存在――と認識してしまうだろう。
一度、敵と見なされた存在に待ち受けているのは、周囲からの排除行為――報復の殺人。
行為の軽さに反して、その代償はあまりにも高すぎた。
「やらなくちゃ……俺は……やらなくちゃ……死ぬしかないんだ……」
体中の震えを止めることができぬまま、自分自身への鼓舞はいつしか“可能”から“義務”へと変化していた。
「遠藤っ……早くあいつらを撃ち殺してくれ……」
- 25 :
- (あのオヤジ、銃を持っていやがったかっ!!)
しづかはギリリと歯噛みして遠藤を睨みつけた。
ぎこちない動作で立ちあがり、窓に寄りかかっているところから、身体のどこかを負傷しているようではある。
そのような弱体の男をぶちのめすのは、本来のしづかにとって造作もない。
しかし、その右手に握られている拳銃が反撃の妨げとなっていた。
(くそっ!!!あの銃さえ奪うことができりゃあ……!)
しづかは一条に復讐するために、確実に息の根を止めることができる凶器を欲していた。
もし、遠藤から取り上げることができれば、立場が優位になるどころか、復讐への大きな足掛かりとなる。
(あいつからどうやって奪うかだが……)
遠藤は左手にノートパソコンとディバックを抱えている。
身体が不自由なため、どこか煩わしそうである。
(あのノートパソコンとディバックが左手からずり落ちた時に……その隙をついて……)
可能性がないわけではないが、あまりにも都合が良すぎる展開だ。
(あの男の隙をつく方法なんて……えっ……あれは……?)
鈍色の光が窓に映った。
しづかは目を凝らし、その正体に絶句した。
金髪の男がこちらに向かって銃を構えている。
「外に銃を持った野郎がいるっ!!!!!」
「何っ!!!」
遠藤はハッと振り返り、表情を凍らせた。
「あいつは……」
半ば悲鳴に近い声で、遠藤はしづか達に叫ぶ。
「お前ら、逃げろっ!!!!!」
- 26 :
- 「何っ!!!」
佐原は苦々しそうに漏らす。
ここに来て、遠藤が佐原の存在に気付いてしまった。
遠藤は取り乱したように背後の4人に叫んでいる。
「まずいっ!!!」
佐原の脳天に電撃が走った。
遠藤達は一目散にあの場から逃げていくだろう。
もし、彼らが佐原のことを広めれば、佐原にはそれ相当の報いが来るはずである。
佐原の排除――報復の殺人。
僅か数秒の間に、思考が暗転し、これまでの記憶が駆け巡る。
脳漿を飛び散らせる南郷。
細切れの肉片になり果てていく板倉。
他の誰かに殺され、彼らのようになってたまるものか。
「俺は……」
ふと、記憶の中で遠藤の言葉が過った。
――――棄権費用がほしいんだろ……?殺るなら今だぞ…
「……死にたくねぇっ!!!!!」
狂乱に啼きながら佐原は引き金を引き絞った。
- 27 :
- 銃の轟音と砕け散るガラスの音が響き渡る。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!!!」
しづか達はその場にしゃがみ込んだ。
「何が起こったんだっ!!」
しづかは反射的に窓の方を見上げた。
遠藤は何が起こったのか分からないという表情のまま、上半身をぐらつかせている。
その胸部は血に染まっていた。
「う…撃たれたっ…!」
しづかを含め、全員の顔から血の気が失せる。
窓の外に暗殺者がいて、自分達は狭い部屋の中で身を寄せ合っている。
これを追いつめられた獲物と言わず、なんと表現すればいいのか。
遠藤の身体が崩れ、床に倒れたのが合図だった。
「逃げろっ!!!!!」
黒沢はとっさに沙織を俵のように抱きかかえ、玄関に向かって走り出した。
「くそっ!」
しづかも全力で駆けた。
しかし、玄関ではなく、遠藤の方にである。
「何をしているっ!!しづかっ!!」
仲根は手を伸ばし、しづかを呼び止める。
その必死な声を無視し、しづかはうつ伏せになっている遠藤の手から拳銃とノートパソコンをはぎ取った。
「しづかっ!!!」
仲根はしづかの腕を強く引っ張る。
何発もの銃声を背にし、二人は廊下を走り抜けた。
二人が外へ出た頃には、黒沢と沙織は霞みそうなほどに遠くを走っていた。
ふと、しづかは横目を使って仲根を伺う。
仲根は切なげな表情で黒沢の背中を見つめていた。
見知らぬ土地に一人取り残されてしまった幼子のような寂しさを滲ませて――。
- 28 :
- 遠藤は力の限りの呼吸を繰り返し、自力の延命を続けていた。
失血で意識が霞む。
身体が床に縫い付けられたかのように重く、身体の中心はただ、熱いとしか感じられない。
肺に穴が空いてしまったのだろう。
口から血が逆流する。
自分の命はもう長くはない。
受け入れざるを得ない事実であった。
「遠藤……まだ、生きていたか……」
佐原は遠藤の傍らに歩み寄った。
遠藤は忌々しげに睨みつける。
「どう……して……撃ちやがっ……」
遠藤の言葉は途中で切れた。
佐原がライフルの銃口を遠藤の頭部に突き付けたからだ。
「俺には時間がない……」
佐原の声はがらんどうの洞を吹き抜ける隙間風のように虚ろでありながら、その瞳は銃口と同じように揺れ動かない。
「ショッピングモールで言ったお前の言葉……“参加者を殺して、棄権費用を稼ぐか、優勝を狙うかしかないな…”って……それが俺に残された選択だって……今なら分かる……その意味が……」
「なっ……!」
遠藤は愕然とした。
それは遠藤が佐原に対して投げかけた試金石の言葉。
遠藤の愚かさ、佐原の賢さを決定づける分岐点となった言葉でもある。
あの時、二人の明暗を分けた言葉が、今、ここで新たな分岐を生み出している。
「あぁ……言っていたな……俺は……」
泣きたいのか、苛立っているのか、滑稽なのか、惨めなのか。
自分でも理解しがたい感情は、もはや皮肉めいた苦笑でしか表現できない。
- 29 :
- 「くそっ……」
一体、どこで自分の運命が狂ってしまったのか。
治を殺してしまった時なのか。
沙織に襲われてしまった時なのか。
森田と別れてしまった時なのか。
森田と出会ってしまった時なのか。
帝愛に騙されてこのゲームに参加させられてしまった時なのか。
もし、それらのどこかで別の選択をしていたら――
「まぁ……いいか……」
運命に『もし』なんて存在しない。
それはその時の最良の選択をした後で、もう一方の破天荒な道はどうだったのか…と覗く行為、いわば運命への冒涜だ。
「佐原……これ…だけは…言っておく……」
遠藤は最後の最後、残された力を振り絞って、今の佐原にとって最もふさわしい言葉を吐き捨てた。
「お前は…俺以上の…愚か者だっ……!」
佐原は黙って引き金を引いた。
銃声の轟きはただ一発。
呆気ないほど短く響き、遠藤の命を摘み取った。
- 30 :
- こちらで以上です。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
- 31 :
- まとめ読みしてる最中
ここは濃いな…
- 32 :
- 書き手が本気で書いているのが伝わるよな。
- 33 :
- 薄かったら福本じゃないもんなw
- 34 :
- 賭博覇王伝零再開オメ!
- 35 :
- 予約きたぁぁぁぁ><
- 36 :
- 今回は長くなってしまい、
一つにまとめるとwikiに収録しきれないので前後編に分割しました。
まず前編を今から投下します。
- 37 :
- 田中沙織を抱えながら、黒沢はひた走った。
腕の中で暴れる成人女性一人に加え、
様々な武器やいくつもの支給品一式を背負う逃避は確実に黒沢の体力を奪ったが、
もう佐原から狙われることはないと言い切れるだけの距離を移動できたのは
黒沢自慢の体力に加えて火事場の馬鹿力が発揮されたからかもしれない。
かくして二人は民家から十分に距離を取り、
佐原が追ってくるとしてもしばらくは安全だろうと言えるだけの状況になっていた。
黒沢にとって解決するべき問題は、
“佐原から逃げること”ではなく“沙織を落ち着かせること”に変化している。
道中、絶えることなく混乱したようすで悲鳴をあげていた沙織に、
黒沢はいっそ口を塞いでしまおうかとさえ思ったものだ。
当然、あのような――突然に目の前の人間が撃たれるという事態に直面すれば
誰だろうと少なからず動揺する。
それでも、生きるためには逃げるしかない。
佐原以外にも敵がいるのだということを意識しながら、そして逃げるしかないのだ。
沙織を置いて逃げることなど出来はせず、
半ば反射的に彼女を引き連れて黒沢は民家を飛び出した。
はじめこそ大人しくしていたものの、
遅れてきた恐怖に怯えて腕の中で暴れ叫ぶ沙織に呆れ、そして焦りながらも
ようやく身を隠せそうな森に入り込むと、そこで黒沢は足を止めた。
「落ち着いてくれっ・・・頼む・・・」
息を整えながら沙織を地面に下ろす。
黒沢が二言目を紡ぐより早く、沙織は乱暴に武器類を抱え込んだ。
とりわけ石田の首輪を大事そうに撫でながら、覚束無い足取りで黒沢から後ずさる。
- 38 :
-
黒沢が歩み寄ろうと体を動かすだけで、沙織はヒステリックに悲鳴をあげる始末だ。
荒い呼気からもわかるように、錯乱状態なのだろう。
佐原の陰に怯えているのか、
すでに存在しないはずの何かを見ているのだろうか、
沙織の開かれた瞳孔には、敵意を欠片も見せない黒沢だけが映る。
黒沢は努めて冷静な調子で、沙織を宥めた。
「近くにはもう敵がいないから大丈夫だが・・・オレから離れると・・・危ない・・!
オレは襲わないぞっ・・・オレはあんたを守る・・・だから安心しろ・・・・!」
白み始めた空の光が、森に染み渡りつつあった。
暗闇に姿を隠すことは、もう出来ない。
大きな声で問答を繰り返していては、格好の餌食になるだけだ。
沙織が地面にへたりこんだのを見て、ひとまずは落ち着いたと判断し、
黒沢はデイパックからマップを取り出した。
ただただ走り続けてきたため、今どのあたりにいるのか、方向感覚が失われている。
ひとまずは現在地を確認するのが先決だろう。そう判断したのだ。
改めて現在位置を知った黒沢は愕然とする。
この森、石田の死に場所が近い。
もしも沙織がそのことに気づいてしまったら――更に精神状態が悪化する可能性は十分にある。
沙織が察する前に、森から移動するのが最善だろう。
「だが・・引き返すことは出来ない・・・!」
元来た道を引き返せるほどの度胸はない。
そうとなれば進むしかないのだが、当て所もなく歩き回っても事態は好転しないだろう。
どこか身を隠せる場所、沙織を匿える場所を探さなければならない。
黒沢の視線がマップ上を行き来する。
- 39 :
-
「病院か・・・」
黒沢の目に留まったのは、現在地から南に位置する病院だった。
さほど距離は離れておらず、森を抜けてしばらく歩けば簡単に辿り着けそうに思われる。
それに加えて、黒沢には病院に惹かれる理由が芽生えていた。
田中沙織が正気を失っているのは間違いない。
これが演技だとしたら、彼女は並々ならぬ手練手管の持ち主だ。
もし真実がそうであるならば、黒沢自身どうしようも騙されるしかない。
黒沢の思考が、数時間前に遡る。
沙織と出会ったときのことを、思い返す。
『私、昔は医療に携わっていたことがあるので…』
そう、沙織はかつて医療関係者だった。
治を診た様子からも、このことが嘘だとは思えない。
「記憶喪失の人間が昔の思い出に触れることで記憶を取り戻す・・・。
よくあるストーリー・・・!ドラマ・・・映画・・・よくあること・・・!
だとすると・・・あるかもしれないっ・・・・!彼女の場合も・・・」
沙織を病院に連れていくことで、
そこで見る何かがきっかけになって正気を取り戻すのではないか。
黒沢の考えはそう至る。
彼女が正気を取り戻したとき、また黒沢を襲うことがあるかもしれないが
それでも現状よりは、話が通じるだけまともだろう。
沙織がいつまでもこの状態では黒沢も彼女を守りきれない。
気がふれた人間を正常に戻すことが簡単だとは思わないが、
可能性を捨てることはできなかった。
- 40 :
-
「田中さん、行こう・・・!病院へ・・・!」
俯き座り込んでいる沙織を支えながら立ち上がらせると、黒沢は明るい声で言う。
「少し歩けば着くから頑張ろうっ・・・・!
こんなときこそ・・・・明るくっ・・・前向きに・・・!」
沙織は焦点の合わない目で黒沢を見返した。
抵抗の意思はない、と判断した黒沢は、沙織の手を引いて歩き始める。
民家から逃げくる時とは打って変わり、道中沙織は大人しく黒沢の後を付いて歩いた。
少しの寂しさと同時にどこか間の抜けた安心感を纏いながら、二人は森を進んでいく。
程なくして森を抜け、目前は薄暗い鬱蒼たる景色から、近代味を感じさせる開けた風景へと変わる。
舗装された道路の先には、病院らしき建物の影が確認できた。
「あれだ・・・!」
『安全』という病院のイメージからかけ離れた重苦しい雰囲気に
黒沢は戸惑いを感じながら、それでも目的地への到達を目指して更に行く。
振り返り、沙織の様子を確認すると、
どうやら何かしら感じる部分があるらしく、険しい表情で小さく何かを呟いていた。
相も変わらず石田の首輪を大事に握り締めながらも、
移動に慣れてきたのか、足取りはしっかりとしている。
そうして沙織の手を引きながら、道路に沿って移動していたその時だった。
突然に近くの茂みが揺り動いたのだ。
- 41 :
- 咄嗟のことで何の対応もできずに、黒沢は立ち止まるほかなかった。
一歩後をついて歩いていた沙織の体が、黒沢の背中にぶつかる。
不思議そうにする沙織の顔を伺う余裕もなく、黒沢は茂みの向こうを睨みつける。
様子からして、茂みを動かすその存在は猫やうさぎといった小動物ではない。
相手が人間だろうことは疑いようがない状況だった。
がさり、と再び草草が擦れ合う音がなる。
事態に気づいた沙織が、震えながら声をあげた。
「何っ・・・!?いや・・・いやっ・・・・こないでっ・・・!」
沙織の声で、もはやこちらの存在は確実に知れてしまっただろう。
再び沙織を抱えて走り逃げるだけの体力は、今は残っていない。
黒沢はデイパックに突き刺したスコップを抜き、
沙織を背後に庇う体制をとりながら構えた。
「出てこいっ・・・・!」
黒沢の低く唸るような声を受けて草むらから登場したのは、
人間味を感じさせない白髪の若い男であった。
彼の手に黒く光るそれは、拳銃。銃口は黒沢に向いている。
「ぐっ・・・!」
予想していなかった、といえば嘘になるだろう。
しかしながら、その銃口の奥の深い闇は、黒沢を動揺させるには十分であった。
「あんただけでも逃げろっ・・・!」
黒沢は、足が竦んで動けずにいる沙織を一喝するが
それでも彼女は黒沢の背中から離れられない。
石田の首輪を強く抱きしめながら、肩を丸めて慄いている。
- 42 :
-
「くそぅっ・・・・!」
黒沢の、スコップを握る手に力がこもる。
数歩近づかなければスコップを振り下ろしたところで男に届かない。
対する白髪の男は引き金を引きさえすれば、
今この瞬間にでも黒沢を撃ち抜くことができるだろう。
体格差は明白であり、肉弾戦に持ち込めれば勝ち目は見えるはずなのだが、
銃器を前にした黒沢には怖じ恐れる気持ちが湧き出て止まらない。
目前の男は二回りほど年下に見えるが、それでも歴戦の風格を持ちあわせており
黒沢にとっては、さながらライオンに狙われる獲物のような、生きた心地のしない数秒が続く。
何故撃たないのか、何故動かないのか。
黒沢は全てを計り兼ねたまま、額に汗が流れるのを感じていた。
つもりならば、様子見の必要などないはずだった。
頭に発砲してしまえば、黒沢たちに為す術などなかったのだから。
黒沢と沙織が強力な武器を持っている可能性を危惧していたとしても
――事実、沙織は遠距離攻撃可能な武器を持っているのだが
例えそれを知っていたとしても、先手を打つ余裕はあっただろう。
「逃げろっ田中さんっ・・・・・!」
張り詰めた空気に耐え切れなくなった黒沢は、喉の奥から再び声を絞り出した。
相手から見て黒沢の背後は死角。田中沙織の存在は視認できないはずだ。
姿こそ見えないものの、声を聞かれてしまっているため
当然こちらが二人組だということは知られている。
それでも、動きが読めない位置にいる沙織を頼るのは効果的である。
沙織が何らかの行動を起こしてくれさえすれば、おそらく相手に僅かな隙が生まれる。
その隙を利用して 黒沢が体ごと突進でも出来ようものならば、状況は一転するだろう。
- 43 :
-
「田中さ・・・」
黒沢が沙織の名前を繰り返しかけた瞬間、白髪の男がそれを遮るように呟いた。
「田中沙織・・・?」
「し・・・知り合いかっ・・・田中さんの・・・あんた・・・」
黒沢は思わずスコップを構える腕を降ろし、聞き返す。
依然として銃口は黒沢を捉えて離さないが、心なしか男の表情が切り替わったように思えた。
田中沙織の前科を鑑みれば、この男が沙織を憎んでいる可能性も十分にある。
沙織の名前を安易に出してしまったことを一瞬後悔するが、
しかし黒沢は場を切り抜けるため、覚悟を決めて男を見据えた。
「田中さんは今・・・まともに会話もできない・・・!
だが・・・あんたに危害は加えない・・・!オレも・・・田中さんもっ・・・・」
まずは、こちらに戦意がないことを伝える。
どう逃げたとしても、これだけの近距離で銃を構えられていては無傷で済まないはずだ。
黒沢が現時点で相手の男に危害を加えるつもりがないことは確かだった。
加えることが出来ない状況である、というのが正しいのだが、
それでも争いなど望んでいないことは本心だ。
平和的に解決できるのであれば、それこそ望む道であり選ぶべき道なのだ。
とにかく、時間稼ぎであったとしても会話の余地があるのならば試すべきで、
もしかするとそこから突破口が見えるかも知れないと、黒沢は期待していた。
「オレは黒沢ってんだ・・・見知らぬ男から襲われたところを逃げてきた・・・!」
- 44 :
-
白髪の男が銃口を下げるのを見計らって、黒沢もスコップを地面に投げる。
一触即発の空気は僅かに緩み、黒沢に深呼吸をするだけの余裕を与えた。
相手は少なくともあの遠藤のように沙織を忌んでいるわけではないのだとわかる。
黒沢は続けて言葉を発していく。
「オレは・・・田中さんのことを詳しくは知らない・・・・!
会って間もなく彼女はこんな状態になっちまったもんだから・・・」
沙織と出会ってから今までのことを詳細に話すようなゆとりはない。
かなり大雑把に掻い摘んだ経緯ではあるが、黒沢は正直に告げる。
白髪の男は黙ってそれを聞いていた。
何かに納得するかのように数度頷いてから、男は口を開く。
「田中沙織、あんたを探しまわってる人間がいる」
その人物は“味方”なのか?
黒沢がそう問おうとするが、突然に背後の気配が一変する。
沙織の体が小刻みに震え出す。黒沢にも背中越しに伝いくる程の震え。
続いて呼吸が乱れ始め、小さかった震えは次第に沙織の肩を大きく揺らすほどになる。
明らかに様子がおかしい。
唐突な変容に驚きながら、黒沢は振り返り、沙織を落ち着かせようと試みる。
「田中さんっ・・・」
「いやぁっ!」
差し伸べられた黒沢の手を勢い良く振り払うと、沙織は尻餅をついて後ずさった。
視線は黒沢の向こうを彷徨っている。
その先は白髪の男なのか、それも違うようで、
どうやら見えない何かに怯えているようであった。
しかし、黒沢には状況がわからない。
黒沢の視点から考えると、沙織は白髪の男に対して恐怖しているのだと解釈するほかない。
- 45 :
-
「・・・ジ・・・こないで・・・」
徐々に沙織の声が大きくなる。
繰り返し呟かれているその言葉を聞くべく、黒沢は耳を傾けた。
「カイジっ・・・とう・・かいじ・・・こないで・・・あっちいってっ・・・・!」
「えっ・・・カイジ?」
沙織の口から紡ぎだされる言葉は、黒沢にとって意外そのものであった。
この状況でカイジという単語が出てくるということは、
即ち沙織は、この白髪の男をカイジと呼んでいるのではないか。
この男がカイジ?沙織はカイジと面識がある?
そして、沙織は恐慌状態に陥るほどにカイジを恐れている……。
黒沢は現在までに、三人の人物からカイジの名を聞いたことになる。
美心の大切な人である“カイジ”。
石田が誇らしげに『凄い青年』と称した“カイジ”。
沙織がひどく恐れる“カイジ”。
黒沢は混乱した。
美心のいう“カイジ”。彼女にとって特別な人間であるということしかわからない。
石田が言う“カイジ”は、ホテルでのルール説明時に目立っていたあの男。
間近で顔を確認したわけではないが、
髪色からして現在接している白髪の男とは別人であると考えられる。
最期に、沙織の知る“カイジ”は、どうやら白髪の男のことらしい。
先程から頻りに「こないで」と呟いている様子からも、決して友好的な関係ではないことが伺えた。
- 46 :
-
石田の指すカイジは黒髪。沙織の指すカイジは白髪。
全ての人間が嘘をついていないとするならば、カイジは最低二人、最高で三人存在することになる。
思案の果てその結論に達した黒沢は頭を抱えた。
(まさか・・・まさか複数・・・!?
この島に・・・カイジという男が何人もいるのかっ・・・?)
しかしその考えも、数時間前の記憶を手繰り寄せれば否定せざるをえなくなる。
遠藤の支給品であるノートパソコンを覗いたときのこと。
黒沢の脳裏に焼き付いているのは赤松の雄姿、そして改めて直面した美心や治、石田の死である。
されども、さらに深く記憶を掘り返してみれば、カイジについての情報も見えてくる。
ノートパソコンと対峙したその時、黒沢は自身の目的を忘れきってはいなかった。
美心のために、カイジを捜すという約束――謂わば決意。
赤松への想いで胸中一杯であったことは事実だが、無意識に黒沢はカイジという名前を探していた。
ノートパソコンの画面上に目を走らせたとき、
カイジという名前が複数あればいくら黒沢といえども気がついたはずなのだ。
黒沢の覚えている限りでは、カイジという名前は伊藤開司ただ一人であった。
すると、当然カイジ複数人説は潰える。
「田中さん大丈夫だぞっ・・・!襲ってきたりはしないから・・・大丈夫・・」
黒沢は思考を巡らせながらも、過呼吸気味の沙織に再度手を差し伸べる。
沙織は冷や汗を滲ませながら、石田の首輪をきつく抱きしめていた。
その顔面は、恐怖のあまりか蒼白である。
恐怖で蒼白。
そのワードが脳裏を過ぎった瞬間、新たな閃きが黒沢に訪れる。
- 47 :
-
(恐怖で血の気が引く・・・白くなる・・・白・・・・白髪・・・
そうかっ・・・!恐怖だっ・・・!!恐怖のショックで白髪に・・・!)
ホテルで見知らぬ少年を庇った黒髪のカイジは、
もちろん石田の知るカイジであり、そして美心の大切な人であった。
カイジはこの島で巻き起こったゲーム、何らかの衝撃的な事態の中で
極めて激しいショックを受け、その結果白髪になってしまう。
黒髪のカイジと、白髪のカイジは同一人物だったのである。
これが、最終的に黒沢が行き着いた答えであった。
そう、偶然にも出会ったこの男こそが、捜し求めたカイジなのだ。
「カイジ君・・・カイジ・・・ぐうぅ・・・!」
黒沢は美心や石田のことを思い出し、
感極まって鼻水混じりの涙を流しながら白髪の男へと向き直る。
何故、沙織はカイジを恐れているのか。
その疑問は解かれないまま――そもそも黒沢はその点を疑問視せずにいるのだが、
美心、そして石田が求めた“カイジ”なる人物が目の前にいるのだと思うと、
流れる涙を止めることなど出来ようがなかった。
これまで黒沢は、美心の慕うカイジという人物、
おそらくは美心の親類である、その男を探すという目的を持ってきた。
それは、美心のメッセージをカイジに届けるため。
美心の最期を伝え、そしてラジカセを託すためである。
石田の言葉が後押しとなり、カイジに会わなければならないという気持ちは大きいものとなっていた。
赤松が死に、仲根ともあのような別れ方をしてしまった以上、
黒沢にとって会いたいと思える人物は残すところカイジのみ。
- 48 :
-
そのカイジが、まさか目の前にいるとは……黒沢は必死に声を噛み殺しながら泣いた。
当然、いつまでも泣いてはいられない。
顔をぐしゃぐしゃにしつつも、黒沢は白髪の男に伝えるべき言葉を伝える。
「渡さなければならないものがあるっ・・・!この・・・声を・・・!
美心の声を聞いてやってくれ・・・!どうかこの・・・メッセージをっ・・・・!」
黒沢は溢れでてくる鼻水を拭ってから、ナップザックに手を突っ込みラジカセを探し出す。
つかつかと白髪の男に歩み寄り、美心の支給品であったラジカセを差し向けると
男は変わらぬ無表情で、それを受け取った。
「カイジ君・・・美心はっ・・・オレの美心は天国にっ・・・・・!」
「美心・・・?」
「わかるっ・・・・死を認めたくない気持ち・・・痛いほど・・・!」
尚も溢れる水分で顔中を濡らしながら、黒沢は深く頷いた。
美心と過ごした幸せな時間、美心を守りきれなかった後悔や、
美心のためにラジカセを届けると決めたその覚悟。
様々な感情が黒沢の中を駆け巡っている。
美心の意志をカイジに伝える――この目的は達成された。
充実感を覚えながらも、黒沢にはもう一つの為すべきことが思い浮かぶ。
そう、石田の意志を継ぐことだ。沙織を、守ることだ。
かつて美心を守れなかった自分を、黒沢は恥じていた。
惚れた女の一人も守れないとは、これではあまりに哀しい恋物語だ、と嘆いていた。
そこに、現れたのが沙織の存在である。
警戒するべきなのは事実であったが、
沙織が保護者を必要としている現状を実感している。
彼女の容姿が美しいということもポイントの一つではあったものの、
やはり大きいのは、田中沙織を守って死んでいった石田の心を継がなければならないという気持ちだ。
- 49 :
-
(今度こそは・・・田中さんの正気を取り戻して・・・彼女を正しい道へ導き・・・そして・・・!)
ちらり、と沙織を見やる黒沢。
視線など感じもしないのか、沙織は両腕で頭を守るような姿勢で蹲っていた。
右手に握られた石田の首輪が、ちょうど頭上に掲げられて鈍く光っている。
さながら、それは天使の輪のようで、黒沢は再び白衣の天使という言葉を思い出していた。
(きっと田中さんも本来は天使・・・・!悪魔などではなく・・・死神などではなく・・・・!)
美心を守り切ることが出来なかったこと。
仲根に正しい道を伝えきることが出来なかったこと。
そして、沙織を守るために散っていった石田。
黒沢は三人の姿を描きながら『沙織の正気を取り戻して見せる』と腹を決めた。
草を踏む音で、黒沢の思考は現実に引き戻される。
白髪の男が、黒沢を横切り、通りすぎて沙織へと歩み寄っていく音であった。
「あっ・・・カイジ君っ・・・・!」
これ以上沙織の容態を悪化させるわけにはいかないと、黒沢も白髪の男の後を追う。
沙織は相変わらず縮こまって震えていた。
一歩一歩悠々とした足取りで、白髪の男は沙織に向かって声をかける。
「田中さん、あんた・・・」
その瞬間であった。
白髪の男から声が発せられた瞬間、沙織は悲鳴をあげながら弾けるように立ち上がり、
辺りに放っていた武器や支給品の類を背負うと、足をもつれさせながら森へ後戻りだしたのだ。
「いやああっいやっ・・・!ごめんなさいっ・・・!ごめんなさい・・!許して・・・」
- 50 :
-
辺りに響き渡る沙織の声。誰に向けた謝罪なのか、黒沢は知る由もない。
ただ一つ、沙織は白髪の男から逃れるために立ち上がったことは、確実だと言えるだろう。
「あらら」
さして驚く様子でもなく呟き立ち止まる白髪の男を追い越しながら、黒沢は叫ぶ。
「田中さん・・・!森に戻ったら危ない・・・!」
黒沢の忠告など意に介さず、沙織は森の中へ逃げこもうと進んでいった。
追いかけるしかない。黒沢は荷物を背負い直し、疲れきった足腰に鞭打って走りだす。
ここでカイジと別れるのは惜しい。それでも、黒沢は沙織を守ると決めたのだ。
「カイジくん!」
黒沢は振り向き様、白髪の男へと声をあげた。
沙織との距離が開かないうちに、彼女を保護しなければならない。
カイジに伝えたいこと、カイジと話したいことは山のようにあるが、
黒沢は大切だと思われることを選んで、白髪の男に伝えた。
「石田さんは・・・石田さんは君を探してた・・・・!
でも・・・田中さんを守るために散った・・・!勇敢に・・・
そのことも・・・カイジ君に伝えておくっ・・・・!」
沙織に向き直ると、いつの間にやら彼女は移動速度を早めて、
もはや逃げ走るような形で森を目指していた。
木々の中に入り込まれてしまっては、見失う危険性がある。
白髪の男を一瞥してから、黒沢は走りだした。
黒沢は、沙織のために目的地に設定した病院を目前にしながらも、
沙織のために森へ駆け戻っていったのである。
- 51 :
- 【D-5/森の前/早朝】
【黒沢】
[状態]:健康 疲労
[道具]:不明支給品0〜3 支給品一式×2 金属のシャベル 特殊カラースプレー(赤)
[所持金]:2000万円
[思考]:沙織を正気に戻す 沙織を保護する 情報を集める 自分のせいで赤松が・・・
※デイバック×2とダイナマイト4本は【C-4/民家】に放置されています。
【田中沙織】
[状態]:精神崩壊 重度の精神消耗 肩に軽い打撲、擦り傷 腹部と頬に打撲 右腕に軽い切傷 背中に軽い打撲
[道具]:支給品一式×3(ペンのみ1つ) 30発マガジン×3 マガジン防弾ヘルメット 参加者名簿 ボウガン ボウガンの矢(残り6本) 手榴弾×1 石田の首輪
[所持金]:1億200万円
[思考]:カイジから逃れる 石田(の首輪)を守りたい 死にたくない
一条、利根川、和也、鷲巣、涯、赤松、その二人と合流した人物(確認できず)に警戒
※沙織の首輪は、大型火災によって電池内の水分が蒸発し、2日目夜18時30分頃に機能停止する予定。(沙織は気がついていません)
※標の首を確認したことから、この島には有賀のような殺人鬼がいると警戒しています。
※サブマシンガンウージー(弾切れ)、三好の支給品である、グレネードランチャー ゴム弾×8 木刀 支給品一式、有賀が残した不明支給品×6がD-5の別荘に放置されております。
※イングラムM11は石田の側にありますが、爆発に巻き込まれて使用できない可能性があります。
※石田の死により、精神的ショックをさらに受けて幼児退行してしまっています。
※石田の首輪はほぼ無傷ですが、システムに何らかの損傷がある可能性があります。
------------------------------------------
前編は以上です。
後編は時間を置いて投下します(といっても日付が変わらないうちに)。
- 52 :
- 後編を投下します。
- 53 :
- 市川との一戦を終えたひろゆきと平山は、ギャンブルルーム前で佇んでいた。
どのような形であれ、人の死は精神を摩耗させる。
市川が晴れ晴れしい気持ちで死んでいっただろうことを知っていても
特に平山の心は鬱々としていた。
「まさかこんな短時間に二人もことになるとはな・・・」
薄ら明るい空を仰ぎながら呟く平山の肩を、ひろゆきはそっと叩いた。
利根川も市川も、乗り越えなければならない壁だった。
殺傷に貴賎などありはしない。
それでもひろゆきは平山に、
前を向いて歩いていくだけの資格があるのだということを伝えたかった。
アカギは市川の亡骸まで歩み寄りしばらくそれを見下ろしていたが、
目当ての首輪が跡形もないと気付くと、再びギャンブルルーム前まで戻ってくる。
「あんたらはこれからどうする」
アカギの問いに、ひろゆきと平山は顔を見合わせた。
平山にとって第一に目的としていた首の針具の取り外しは達成された。
利根川が死んだ今、最も恐れていた人物は潰えたことになる。
気になるのはカイジの状況と、田中沙織のこと。
そして、先刻受けた何者からかの宣戦布告だった。
ひろゆきは、今後平山と行動を共にしていく心積もりでいるものの、
アカギと真正面からの博打がしたいという気持ちは未だ捨てられずにいる。
市川と囲んだ卓だけでは、満足できないという本音があった。
しかしながら、第三回放送の時間が迫っている状況で再びギャンブルを持ちかけても、
それが叶う公算は極めて低いだろうとわかっていた。
そして、天の死を前にしたことで、自分本位な目的の他に、
このゲームを止めなければならないという使命感が生まれたのも事実である。
- 54 :
-
二人に共通して挙げられる具体的な目標は、『カイジとの合流』になるだろう。
アカギの述べた“これからどうする”という言葉からは、
アカギ自身は既に行先を定めているのだろうと推測できる。
「・・・お前はどうするんだ」
聞き返す平山に、アカギは薄く笑いながら答えた。
「もう一人・・・厄介なジジイを探さなきゃならない」
再び、ひろゆきと平山は視線を交わす。
気味の悪い宣戦布告を受けたこの状況で、
ひろゆきも平山も、アカギと別行動をしたいとは思っていない。
人探しとなれば、ひろゆきの持つ首輪探知機が役に立つことは予想できるため、
尚の事、三人で立ち回ったほうがいいはずだ。
しかし、厄介なジジイ――つまり市川の他にも
アカギに因縁を持つ老人がいるということだろうか。
また市川戦のような出来事に出くわすことになるかもしれない。
数秒の沈黙の後、ふと平山があることを思い出す。
ひろゆきと平山は、病院で出会った老人から、アカギへの伝言を預かっていたのだ。
「そういえば・・・アカギ。お前への言付けを頼まれているんだ」
「ああ、そうだった。僕達が病院にいたとき・・・三、四時間前だったか・・・
鷲巣って爺さんが言っていた・・・!“病院で待機している”と・・・」
鷲巣、という名前を憎々しげに扱いながら、ひろゆきがアカギに話す。
「なぁ、厄介なジジイっていうのはひょっとしてこの・・・」
- 55 :
-
眉を顰めるひろゆきに、アカギはいつものように底の知れない笑みを浮かべた。
「丁度いい・・・別行動だ・・・!オレは病院に戻るよ・・・!」
アカギはもう一人の老人
――鷲巣に会うため、単独で病院に向かうと言う。
ひろゆきは鷲巣に良い印象を抱いてはいない。
異常に攻撃的であり、とりわけ平山に対して執拗に突っかかってくる
子供じみた言動で傲慢な、まさしく厄介者であると認識していた。
足手まといな老人の一体どこにアカギの気を引く要素があるのだろうか。
「伝言を頼まれたのは四時間近く前の話だっ・・・!
鷲巣は怪我をしていたし・・・第一あの爺さんが何の役に立つ・・・?」
少し声を荒らげながら、アカギを引きとめようとするひろゆき。
対するアカギは、ひろゆきを横目に悠然とした様子で答えた。
「鷲巣には“情報”を集めさせている・・・。
そして・・・・意味がある・・・!あの場所に戻ることには・・・・・!」
言葉でアカギを止めることなど出来ようがない。
ひろゆきは口に手を当てて溜息をついた。
鷲巣との合流は都合が悪い。
それに加えて病院を警戒する理由が、ひろゆきにはあった。
- 56 :
- 盗聴器を持っていたのは利根川。
盗聴器の声の主は利根川の一味――頂点に和也を置く危険グループの人間である。
天に爆発物で攻撃をしかけたのも、おそらくは利根川たちだ。
病院付近で利根川と一条という男が、事の顛末を見張っていたのは間違いない。
また、病院前のギャンブルルームに一人滞在していた光点が兵藤和也である確率は高い。
すると、病院付近は利根川、一条、和也たちの本拠地だという可能性が生まれる。
黙りこんでしまったひろゆきに続いて、今度は平山がアカギに食い下ろうとする。
「でもっ・・病院付近は危険だっ・・・!まだ爆発物が仕掛けられているかも知れない・・・!
それに病院方向っていえば、盗聴器の・・・あの声の主が・・・」
そこまで言いかけた言葉を、はっと飲み込んで
平山は気まずそうにアカギの様子を伺った。
当初は和也グループを奇襲するという強気な策さえ練っていた平山であったが、
それ以上に強気な態度でターゲット宣言を下した盗聴者に恐ろしさを感じていた。
これまでの状況を組み立てていけば、盗聴器の向こうにいる正体は凡そ見当がつく。
そして、病院前のギャンブルルームが彼らの拠点であることもおそらくは事実である。
病院に近づくということは、盗聴者に近づくことなるかもしれないのだ。
もはや奇襲など不可能なのではないか。
盗聴者――ギャンブルルームの和也は、
今まさに火にいる夏の虫を待っている状況なのではないか。
しかし、アカギがそれを恐れるだろうか。有り得ない。
アカギは例えそこが業火であろうとも飛び込んでいく。
事実、平山の言いかけた言葉に反応して、アカギは口の端を不気味に上げた。
もはや、アカギが病院方向へ戻ることを止めは出来ないだろう。
仕方なく、ひろゆきはアカギへ新たな提案を持ちかけた。
- 57 :
- 「病院まで同行する・・・!僕には首輪探知機がある・・・・!役に立てるだろっ・・・!
病院内に存在する光点の動きが不穏ならば相応の対策を打つことが出来るだろうし・・・」
鷲巣と会うという点には賛成できないが、
病院に戻ることについてはひろゆきも候補として考えていたところだった。
天の遺物の確認と、遺体の弔いを行いたかったからだ。
「お、おい、ひろゆきっ・・・!」
平山は焦り顔でひろゆきを見る。
首輪探知機によって事前に危険を回避できるとはいえ、不安は付きまとい続けるだろう。
ましてや、危険値の高い病院に乗り込むとなれば、尚更である。
そもそもが、病院などの建造物は首輪探知機と相性が悪い。
例えば病院内で探知機の画面に3つの光点が映しだされていたとして、
光点の主が別々の階にいる場合でも、光は画面上同じ平面に並ぶ。
横の探知は出来ても、縦の探知は出来ない。
これが首輪探知機の欠点であることは、以前病院を訪れたときに学んでいた。
また、自信満々に平山たちをと言ってのけた盗聴器の向こうの声に対して
こちら側が持ち合わせている武器はひろゆきの日本刀と利根川が遺した拳銃のみ。
アカギがどのような武器を隠し持っているかはわからないが、
少なくとも平山自身は、身を守れるアイテムを持っていない。
敵地――かもしれない場所――に乗り込むには、戦力不足が過ぎる。
しかし消極的な平山を余所に、アカギは病院へと歩き出してしまう。
同行なら勝手にしろと言わんばかりのその背中を、ひろゆきも追いかける。
そうなると平山も、置いて行かれてはたまらないと仕方なく
二人と共に病院に向かうことにしたのだった。
- 58 :
-
* * *
一行は、もうしばらく歩けば病院が見えるだろう、というところで立ち止まり
草むらで身を隠しながら首輪探知機の電源を入れた。
ここは、数時間前アカギの後を追うために探知機を確認した場所と凡そ同じはずだ。
前回の探知結果と照らし合わせることが出来れば、より深い情報になるだろう。
平山は数時間前の記憶を呼び起こしながら画面を覗き込む。
病院付近には六つの光点が存在していた。
前回と同じ位置に光る点は二つ。
まず病院から離れた場所に光る一点。
この光は病院のちょうど正面にあるギャンブルルームあたりに位置している。
そこに何者かが一人で滞在している、ということも自ずと導きだされる。
アカギと合流する前から変わらずに、その人物はギャンブルルームに滞在し続けていることになる。
ひろゆきと平山の予想が正しければ、この光点は兵藤和也である。
「こいつは一人で何時間も・・・・一体何をしているんだ・・・・・?」
平山が当然の疑問を口にする。
利根川は死んだ。一条はギャンブルルームに戻っていないらしい。
ただ一人、動くことなくギャンブルルームに滞在する様子からは並々ならぬ余裕を感じさせる。
興味深そうに画面を見ていたアカギは顔を上げると、「なるほどな」と独りごちた。
草むらに位置する動いていないもう一つの光点は、おそらく前回の考察の通り死者の首輪だろう。
平山はそのことをアカギに伝えると死体を探しだしかねない、と思い触れずにおく。
「あ・・・」
- 59 :
-
病院内に位置するだろう光点に目を移しそうとしたその時、平山は思わず声をあげた。
病院前、天貴史の光にあたるものがない。
つまり、天の首輪が探知機に反応していないか、探知範囲外に移動したと考えられる。
首輪が爆発してしまったのか。
あるいは、アカギのように平気で人の首を切ろうとする人間がいないとも限らない。
どちらにしても、天を深く慕っていたひろゆきに見せたい様子でないことは確かだった。
「平山、どうした・・・?」
「い・・・いや・・・なんでもない・・・!」
ひろゆきも馬鹿じゃない。既に気づいているのかも知れない。
平山は気まずさを覚えながら、病院の中で寄り添うように動く二つの光点に視線を移した。
「このどちらかが鷲巣か、あるいはどちらも違うかも知れない・・・。
利根川の仲間という可能性も十分にあるが・・・・」
ひろゆきの言葉に、アカギと平山は頷いて答える。
一条が病院付近に出戻ってきている可能性は十分に考えられた。
鷲巣が未だ病院内で待機しているのならば、この光点は鷲巣と一条か。
しかし銃を持っていた一条に手負いの老人をことなど容易いはず。
そう考えると、鷲巣は既に死亡していてもおかしくはない。
何にせよ、いずれかの光点が鷲巣であるという考えは超希望的観測に他ならないのだ。
前回と同じ位置にある二つの光点。
病院内で移動する二つの光点。
それらについて簡単な推測を行ってから、ひろゆき達は残りの二点に目を移す。
北の森林から南下してくる二つの光点――現時点で最も無視できないものだ。
このまま進めば、この二点とひろゆき達は病院前でかち合ってしまうだろう。
ひろゆきは口元に手をあてて悩んだ。
- 60 :
-
「歩くスピードを早めて、彼らより先に病院に到着するか・・・?
逆にしばらく待機して、彼らの動きを見るというのもアリだが・・・」
この二点の正体は皆目見当がつかなかった。
移動速度は早くない。
互いにかなり近い距離で歩いているため、この二人は味方同士か、
とにかく、追って追われての関係でないことだけは確かだ。
「利根川たちの仲間かもしれない・・・様子を見たほうがいいんじゃないか・・・・?」
平山の意見に、ひろゆきも首を縦に振る。
しかしアカギだけは、服についた土を振り払いながら立ち上がり、
どうやらただ待つつもりはないらしい。
「今からその二点と接触する・・・!」
「・・・はぁっ!?」
アカギの言葉に、平山は素っ頓狂な声をあげながら反論の意を示す。
この二つの光点は、自分たちにとって敵であるか、味方であるか、
あるいは敵になってしまうか味方になってくれるかわからない相手だ。
「草陰からこいつらの正体を確認して・・・それから考えても遅くないだろっ・・・!」
平山の意見は尤もであった。
ひろゆきも同意するが、アカギは引かない。
アカギに機嫌を損ねられては困る、ということで
またしても、ひろゆきと平山が折れることで事態は収束する。
- 61 :
- 接触のためのプランはこうである。
まず、光点がこのまま南下を続けることを前提として、
通り道になる場所付近でアカギが待機する。
アカギから離れた地点で、ひろゆきと平山は待機。
光点を発する二人と接触するのはアカギ一人。
一人で接触を計りたがるアカギと、
こちらから向かっていく必要はないという平山の主張を折衷した待ち伏せ案だった。
同時に、首輪探知機という貴重なアイテムを持つひろゆきを優先的に守る意味もある。
草むらの影から相手がやってくる様子を観察し、
三人が知る限りの危険人物ではなければ、アカギは利根川の拳銃を構えながら道路へ出る。
手の打ちようがない危険人物、あるいは人目でそうとわかる状態の人物ならば
アカギはそのまま草むらで待機。
当然、光点の正体が見知った仲間であれば、銃を構える必要もなくなるだろう。
数分後、予定通りひろゆきと平山は、
アカギから離れた場所でしゃがみ込んで待機することとなった。
もしも不穏な事態が生じた場合、
ひろゆきたちは防犯ブザーを鳴らして相手の注意を引きつけるつもりでいる。
アカギから借りたロープで、防犯ブザーには簡単な仕掛けが施されていた。
二人が隠れている場所から離れた木に防犯ブザーをくくりつけ、ロープの端を結びつけておく。
ロープの逆端を引けば、ブザーが鳴る。
数メートル離れた場所からでもブザーを鳴らすことが出来る仕組みだ。
運がよければ、相手はブザーの方に注意を向けてくれるかも知れない。
この辺りは人間の背を覆うほどの高さまで草が育っていため
草むらに後退して逃げさえすれば、相手から激しい攻撃を受けることなく済むはずだ。
つまりは、一瞬でも相手に隙が生まれれば、逃げおおせる勝算がある。
- 62 :
- 投下乙です。
沙織はアカギとカイジを重ねちゃったか…。
抜けているようでやる男、黒沢。
頑張れ…マジ頑張れっ!
でも、沙織の動向次第では危険かも。
後編も楽しみにしております。
- 63 :
-
草葉の合間から時折のぞく白髪を眺めながら二人がしばらく待っていると、
道路の先から体格のいい大男が歩いて来るのが見えた。
彼が光点の正体である。
その歩き方から、もう一人はすぐ背後にいるらしいとわかるが、
ひろゆき達の位置から確認することは出来ない。
「平山、あの男誰だかわかるか・・・・?」
「いや・・・知らないな・・・」
緊迫した表情ではあるが、ユーモラスな顔つきの中年男である。
見たところ、両手に武器は持っていない。
もしもこの大男が背負っているスコップを武器としているのならば、
拳銃を持つアカギに勝ち目はある。
「後ろが気になるが・・・」
「見えないな・・・ここからじゃ・・・」
いくら手前の男が大柄とはいえ、
歩いている最中にすっかり全身が隠れてしまうほどなのだから
大男の後ろにいる人物は小柄だと言えるだろう。
「おい平山、足元を見てみろっ・・・!」
「え?」
「違う、あの男の足元だっ・・・」
自らの足元を見下ろす平山の頭をはたきながら、ひろゆきが示すのは
大男が歩くたびに足の間から見え隠れする、もうひとつの光点の正体である。
「あれは・・・女・・・?」
歩き方、細さ、靴――確信を持てはしないが、女である可能性は高そうだ。
- 64 :
-
大男は時折後ろを気にしながら、道路沿いを進んでくる。
落ち着いているのか、単に注意が不足しているだけなのか、
ゆったりとした足取りで、堂々と道路の真ん中を歩く姿は
息苦しいこの島ではなかなか見られないものだろう。
男は丁度草むらの、アカギが隠れているあたりで立ち止まる。
「気づかれたか・・・?」
ひろゆきが呟くとほぼ同時に、大男の背後から女性の細い声があがった。
「何っ・・・!?いや・・・いやっ・・・・こないでっ・・・!」
その叫びが辺りに反響する間に、
大男は覚悟を決めたか、スコップを構えて草むらに向かって吠えだした。
「出てこいっ・・・・!」
アカギは大男に従って素直に草むらか道路へと歩み寄る。
警戒のためなのか、拳銃を大男に向けながらも、
果たして撃つ気があるのかないのか、それは実銃ではなくモデルガンである。
当然、緊張感に包まれている相手側も、
アカギから距離を置いて観察しているひろゆき達にもそのことはわからない。
「やっぱり後ろは女か・・・」
- 65 :
-
先程の悲鳴を受けて、ひろゆきが呟く。
女、というとまず思い浮かぶのは田中沙織である。
彼女以外にも女性参加者が複数いるようならば、
いよいよ主催者の外道具合が浮き彫りになるな、とひろゆきは思った。
尤も、このようなゲームを開催している時点で参加者の性別など関係なく
十分に怒りの矛先になりうるのだが。
「しかし・・・大丈夫か・・・?」
「頭なんて大体あんなもんさ・・・うまくいってる方だよ」
心配そうな表情の平山に、ひろゆきは自身の経験を照らし合わせながら答えた。
大男の注意は完全にアカギに引きつけられている。
周囲に他の人間がいる可能性など、考えもできない状況なのだろう。
ひろゆきと平山が小声で会話をしていても、こちらに気づく気配はない。
そのまま――アカギと大男が沈黙を保ったまま、しばらくの時が流れる。
拳銃を突きつけられている大男はともかくとして、
何故アカギはアクションを起こさないのだろうか。
大男がどのようにしてこの局面を切り抜けるのか、見定めようとでも言うのか。
膠着状態を打ち破ったのは大男の方であった。
「逃げろっ田中さんっ・・・・・!」
男は背後に向かって、搾り出すような声をあげる。
“田中”という言葉に、草むらで待機中のひろゆき達も反応する。
「まさか・・・田中沙織・・・?」
「これって・・・やばいんじゃないかっ・・・・・!」
- 66 :
-
田中沙織――彼女についての情報は、ひろゆきと平山で交換してあった。
二人の知る限りでは、沙織は少なくとも一人は殺している。
武器や支給品の類をカイジから奪い去り、棄権のために動いているはずだった。
彼女が既に棄権が不可能だと知っているのか、それとも知らないのか、
棄権不可と知った上で優勝狙いに切り替えている可能性もある。
この大男を上手く利用することで、効率よくのし上がっていくつもりなのかもしれない。
田中沙織は現段階で、危険人物とまでは言い切れなくとも、
準危険人物、要注意人物であることに間違いはない。
その田中沙織がもしこの場にいるのならば――
そして、アカギが沙織のことを知らないようであれば、事態がどう展開するのか想像がつかない。
「田中沙織・・・?」
「し・・・知り合いかっ・・・田中さんの・・・あんた・・・」
しかし、ひろゆき達の予想に反して、アカギは田中沙織を知っているようだった。
先刻黒沢が叫んだ“田中さん”というワードに反応し、
その正体が田中沙織であるかどうかを、大男に問うたのだ。
それに対する男の答えから、どうやら彼の後ろに隠れているのは沙織であるとわかる。
そして大男が述べる次の言葉は、ひろゆき達の予想に再び反するものであった。
「田中さんは今・・・まともに会話もできない・・・!
だが・・・あんたに危害は加えない・・・!オレも・・・田中さんもっ・・・・」
まともに会話できない――その言葉が何を意味するのか、
可能性があまりに多すぎて、特定しようがない。
順当なところで、深い怪我を負っているため喋れない、という状況だろうか。
相変わらず大男の影に隠れている沙織にやきもきしながら、
ひろゆき達は成り行きを見守っていた。
- 67 :
-
「オレは黒沢ってんだ・・・見知らぬ男から襲われたところを逃げてきた・・・!」
大男は“黒沢”と名乗ると、スコップを地面に投げ置いた。
敵意がないことの証明らしい。
その後、黒沢は沙織を“こんな状態”と称して状況を簡単に説明した。
やり取りのさなか、全く姿を見せない沙織に、
ひろゆきと平山は、暗い想像を巡らせる。
まともに会話できない状態とは、一体どのような姿を指すのだろう。
「カイジのことを考えれば・・・田中との接触は望むところだったはずなんだが・・・」
複雑な表情で溜息をつく平山に、ひろゆきも同意する。
「しかし・・・アカギも田中沙織のことを知っていたんだな・・・。
どの時点で面識を持ったのかによるが・・・場合によっては危ないな・・・」
ひろゆきと平山は、沙織がどのような行動をとってきたのか
その負の側面を一部ではあるが知っている。
だが、アカギがどの程度の情報を持っているのかは、まったく未知である。
こんなことならば、アカギとも精密に情報交換をしておけばよかったと、
当然のことながら二人は後悔していた。
二人の後悔と不安を余所に、
アカギは意外にもひろゆき達が求めるに近い言動をする。
「田中沙織、あんたを探しまわってる人間がいる」
直入に切り出すアカギ。
どうやら、アカギは沙織とカイジの関係を知っているらしい。
この発言が吉と出るか凶と出るかはわからないが、
少なくとも沙織にカイジの想いを伝える切欠にはなるはずだ。
- 68 :
-
おそらくカイジは今なお、沙織のために走り回っている。
平山は、最後にカイジと出会ったときのことを思い出しながら
どうか生きていてくれ、と心から願った。
「おい平山・・・様子がおかしいぞ・・・!」
ひろゆきの声に、平山は現実に引き戻される。
いつのまにやら黒沢はこちらに背を向けているが、
それに加えて位置取りが変わったおかげで、隠れて見えなかった沙織の姿が確認できる。
そう、その女性は間違いなく田中沙織であった。
酷い外傷は見受けられず、自身の足でしっかりと立っている。
しかし、そう見えたのも一瞬のことで、
次の瞬間には黒沢の手を振り払いながら尻餅をつき、震えて縮こまる沙織がいた。
視線はアカギの方向へ向いているが、焦点は定まらず、涙を流している。
明らかに、正常な人間の反応ではなかった。
「まさか・・・“まともに会話できない”ってのは・・・・」
薄々勘づき始める二人の耳に、決定的な言葉が聞こえてくる。
「カイジっ・・・とう・・かいじ・・・こないで・・・あっちいってっ・・・・!」
沙織の口から飛び出したのは、カイジという単語。
当然、ここから見える範囲にカイジなどいない。
それでも、まるでカイジが見えているかのように、彼女は震えていた。
「おかしくなっちまったのか・・・・?」
- 69 :
- 平山は唖然とした表情で沙織を見た。
もしかして、という可能性が確信に変わる。
沙織の精神はもはや均衡を失っているのだろう。
「それにしても・・・突然“カイジ”って・・・どういうことだ・・・?」
それまで静かに黒沢の背後に隠れていた沙織が、
アカギの一言を切欠に急変した。
“あんたを探しまわっている人がいる”という言葉がそんなにおそろしく思えたのだろうか。
そこからすぐにカイジという人物を結び付けられるものだろうか。
ピンとこない様子の平山に、ひろゆきは自分の見解を話す。
「もしかして・・・田中沙織は“声”でパニックを起こしてるんじゃないか・・・?」
「どういうことだ・・・?」
「似てないか・・・?アカギとカイジの“声”・・・!」
なるほど、本人たちの雰囲気や紡ぐ言葉が似つかないためわからなかったが、
“声”のみに注意して聞いてみると、確かに似ているかも知れない。
加えて、「探し回っている」という単語もポイントだったのだろう。
ひろゆきは、カイジと田中沙織の経緯を思い返し、
あのような別れ方をしたカイジと再会したくないのだ、と解釈した。
「田中さん大丈夫だぞっ・・・!襲ってきたりはしないから・・・大丈夫・・」
黒沢は必死に田中を宥めている。
銃をもつ相手に平気で背を向けるとは、
それでよくここまで生き抜いてこれたな、とひろゆきは感心する。
しかし、アカギへの警戒心よりも沙織へ保護欲が上回っているのだとすれば、
黒沢という男は沙織にとって最高のボディーガードだ。
- 70 :
- 沙織の、カイジと口論していた様子、そして赤松と涯に相対していた姿が脳裏に過ぎる。
生きるために敵意のない人間をも裏切り、そして無抵抗の人間にも攻撃を加える。
この状況で、自ら生還のために行動を起こせる女が、
か弱いただの庇護対象で済むはずなどない。
一連の行動全ては黒沢を騙し利用するための演技なのではないか。
そんな下賎な予測さえ思い浮かんでしまう。
しかし、先程からの沙織の言動は彼女にとってメリットがない。
すると、精神崩壊したことは事実である、と信じるしかないのか。
考え込むひろゆきの隣で、平山は表情を翳らせていた。
「あんな状態じゃ・・・もしも本物のカイジと再会でもした日には・・・」
カイジは沙織を探しているはずだ。
沙織を守るためのカイジの行動だが、裏目に出かねない。
心神喪失状態である沙織が、人を殺し続けているとは思えないことだけが
カイジにとっての救いになり得るかも知れない、と平山は思った。
黒沢は事態を理解出来ていないようで、棒立ちで佇んでいる。
またアカギも、平山と間違われるのならばまだしも、
似通わない人違いをされているとは思っていないだろう。
ここは、状況を把握した自分たちが間に入って話を落ち着かせるべきなのではないか。
そういった考えに至った平山は目配せをするが、
一方のひろゆきは険しい表情で首を横に振った。
自分たちが弁明すれば沙織や黒沢も納得するだろうと考えた平山に対し、
ひろゆきは真逆の可能性を危惧していた。
彼を足止めさせるのは、田中沙織と面識があるという事実である。
平山も、以前沙織と出会っている。
ひろゆきに至っては、沙織がカイジを置き去ったその場面に居合わせていたのだ。
カイジの虚像に怯えるほどにまで陥っている沙織の状況を考えれば、
顔見知りが二人も登場したとなった時、事態の悪化も有り得る。
- 71 :
-
出ようにも出られない。アカギを見守るしかない。
ひろゆきと平山は、仕方なく草むらで待機することを選んだ。
ちょうどその時、黒沢が突如唸り出す。
「カイジ君・・・カイジ・・・ぐうぅ・・・!」
肩を震わせ始めた黒沢に、ひろゆき達は面食らった。
涙声でアカギに振り向いた黒沢の顔は、想像に違わず涙まみれである。
体のどこにそんな大量の水分があるのだと問いたくなるほどに顔を濡らしている。
「今カイジって言ったよな・・・あの男まで誤解を・・・?」
黒沢の醜態に驚きつつも、ひろゆきは冷静に状況を分析する。
沙織とカイジは面識がある。
黒沢とカイジは――面識がないのだろう。
沙織がアカギを“カイジ”と呼んだため、黒沢もそう思い込んでしまったのだ。
しかし、カイジを全く知らない人間ならば、この反応はおかしい。
つまり黒沢は、カイジの名前のみを伝え聞いていたと考えられる。
それにしても、あの涙は何を意味するのか。
ひろゆきの疑問は黒沢の次の言葉で氷解した。
「渡さなければならないものがあるっ・・・!この・・・声を・・・!
美心の声を聞いてやってくれ・・・!どうかこの・・・メッセージをっ・・・・!」
黒沢はどこか満足気な表情でそう言うと、“カイジ”に何かを手渡した。
カイジにそれを渡すため、カイジを探していたのだろう。
顔も見知らぬはずの相手を探していた――
言葉の中にあった“美心”という人間に頼まれでもしたのか。
渡したかったものを、渡したかった人に手渡すことが出来る。
当然のようで、この島ではあまりに難しい。
渡した何かがよほど重要なものならば、黒沢が涙を流すのも理解できるだろう。
- 72 :
-
「カイジ君・・・美心はっ・・・オレの美心は天国にっ・・・・・!」
感情が昂ったか、次第に黒沢の声のトーンがあがっていく。
“カイジ”という単語があがる度に、沙織の顔色は悪くなり、体を抱えながら震え続けている。
黒沢という男、何かに夢中になると周りが見えなくなるタイプなのだろう。
アカギはどんな顔をして黒沢の話を聞いているのか。
こちらに背を向けた彼の表情はわからないが、
すっかり“カイジ”扱いされていることを肯定も否定もせず、
流れに身をまかせるつもりなのかも知れない。
黒沢の鼻をすする音だけがしばらく響いていた。
今度の沈黙を破ったのは、アカギの行動である。
アカギは黒沢を通り越し、沙織へと歩み寄りはじめたのだ。
「ばっ・・・バカ、あいつなんで近づいたりなんか・・・!」
歩き出したアカギを見て、平山は思わず身を乗り出した。
理由がわからないにせよ、沙織がアカギを怖がっていることは
当事者のアカギにだってわかるはずだ。
「首輪だ・・・!」
ひろゆきはしゃがみこんでいる田中沙織の手元を指さした。
沙織の手の中に光るもの、それは首輪。
それも大きな損傷のない、謂わば完全品と見受けられる。
どういった経緯で手にしているのかはわからないが、
ナップザックや衣服に隠すでもなくそれを持ち歩いている様子から
沙織にとってその首輪は何か意味があるのだろうということだけは推測できた。
- 73 :
- 利根川の遺体を切り落とそうとしてまで求めている首輪、
それを見とめたためにアカギは沙織に歩み寄ったのだろう。
平山も気付き、そして呆れたように溜息をついた。
アカギは黒沢に止められても尚、沙織に接近する。
「田中さん、あんた・・・」
挙句、沙織に声をかける始末である。
わざとやっているのだろうか、しかし沙織はその声に過剰に反応する。
「いやああっいやっ・・・!ごめんなさいっ・・・!ごめんなさい・・!許して・・・」
弾けるように立ち上がると、病院とは正反対の方向へ駆けだしてしまった。
黒沢も、沙織を追って走りだす。
「おいおいどうするんだよっ・・・!」
草陰から心配する平山達を余所に、アカギは黒沢と沙織の様子をただ見つめていた。
黒沢はそんなアカギに“石田”という人物についての言葉をかけて、森へ走り去っていく。
「・・・・なんだったんだ」
防犯ブザーの出番がなかったことに少し安堵しながらも、
平山は気抜けした調子で声をあげる。
「僅かだが情報は得られたし・・・接触は成功なんじゃないか・・・?
アカギが何の目的を持っていてそれを達成したのかどうかは計り知れないが・・・」
「まぁ・・・そうだな・・・結果的には・・・」
- 74 :
-
誰一人怪我をせずに事態が収束したのは大きい。
加えて、黒沢という男はゲームに乗ってはいないらしいことと
田中沙織の現状を確認できたのだから、今回の接触の成果はあったと言える。
沙織はカイジを恐れている――カイジにとって嬉しくはない情報だろうが、
それでも、保護してくれる人間と出会えていることは確かだ。
沙織があのような精神状態になっていたことは、
顔見知り程度のひろゆきや平山にとっても少なからずショックであった。
沙織を探しまわっているカイジともなれば、打ちのめされることは間違いない。
沙織については良い情報、悪い情報がイーブンといったところか。
小さくなっていく黒沢の影をいくらか見送ってから、
アカギは再び草むらに分け入り、ひろゆき達の元へと帰ってきた。
「おいアカギっ・・・!おまえ何を考えて」
一連の流れを見ていて溜まった不満を、平山はアカギにぶつけようとする。
しかしそれは、アカギの言葉に遮られてしまった。
「代わりに伝えておいてよ」
ラジカセを投げよこすアカギに、二人は狼狽する。
「伝えておいてって・・・カイジを探してこれを渡せってことか・・・?」
「アンタ、その探知機があるんだから適任だろ・・・。
ここから先は一人で動かせてもらう・・・!」
何が面白いのかアカギはクククと笑うと、
呆然とする二人を一瞥して再び草むらをかき分け道路へ向かい出す。
- 75 :
-
利根川絡みのこと、沙織絡みのこと。カイジに話しておきたい事項は多い。
いずれはカイジと合流したいと思っていたし、
ひろゆき、平山共に、機会があればカイジを捜索しようと考えていた。
しかしこのタイミング――
病院を前にした今は、この場にいる身内の安全確保が優先である。
一人で乗り込もうというアカギを引き止めるのが先決だ。
「病院は危険な場所だぞ・・・!この島のどこだって危険に決まっているが・・・・
僕たちと行動すれば探知機によって危険度を軽減できる・・・・!」
危険度など、アカギが気にしているとは思えない。
それを理解してはいるものの、今のひろゆきにはその程度のことしか言えなかった。
そしてやはり、アカギの返答はひろゆきが望んだものとはかけ離れていた。
「最後にカイジにあったのはE-2エリアだったかな・・・
第二回放送の前田から随分経つが・・・」
「カイジの捜索なら病院での用事が済んでからでもっ・・・!」
割合に引き際の悪いひろゆきを横目に、
平山は今になって再び、天の遺体のことを思い出していた。
アカギとカイジ、どちらをとるのかという状況。
目の前にいるアカギ、そして自分によくしてくれたカイジ。
選択は悩ましい。
けれど、そこにひろゆきが加わるとどうか。
病院に乗り込むということは、危険に飛び込むということ。
もしもそこで乱戦でも起きて、命を落とすことになったら――
そうでなくとも、例えば現在自分たちの命綱になっている探知機を奪われでもしたら
損害は計り知れない大きさになるだろう。
- 76 :
-
平山は結局どちらの側にもつけないまま、状況を見守るに留まっていた。
だが例え平山がひろゆきに加勢したとしても、結果は変わらないだろう。
「探知機の情報ならさっき見せてもらっただけで十分・・・・!
どうせ室内でそれは大して役に立たない・・・
敵の手に渡るリスクを負うくらいなら別行動だ・・・!」
アカギが尤もらしい理由を述べるが、それでもひろゆきは納得しなかった。
「だけどっ・・・」
「危険など・・・構わない・・・むしろ望むところさ・・・・!」
アカギは最後にそう残すと、草むらをすり抜けて道路へ出てしまう。
あまりのスピードに反応しきれず、結局置いてけぼりを食らう形で、
ひろゆき達は目的をカイジの捜索へと切り替えざるをえなくなった。
アカギと数時間行動を共にしてわかったのは、
この男を止めることなど出来はしないということだ。
- 77 :
- 【E-5/道路沿い/早朝】
【赤木しげる】
[状態]:健康
[道具]:ロープ3本 不明支給品0〜1(確認済み)支給品一式×3(市川、利根川の分) 浦部、有賀の首輪(爆発済み)対人用地雷 デリンジャーの弾(残り25発) ジャックのノミ モデルガン 手榴弾 ICレコーダー カイジからのメモ
[所持金]:700万円
[思考]:もう一つのギャンブルとして主催者を 死体を捜して首輪を調べる 首輪をはずして主催者側に潜り込む
※主催者はD-4のホテルにいると狙いをつけています。
※2日目夕方にE-4にて平井銀二と再会する約束をしました。
※鷲巣巌を手札として入手。回数は有限で協力を得られる。(回数はアカギと鷲巣のみが知っています)
※鷲巣巌に100万分の貸し。
※首輪に関する情報(但しまだ推測の域を出ない)が書かれたメモをカイジから貰いました。
※参加者名簿を見たため、また、カイジから聞いた情報により、 帝愛関係者(危険人物)、また過去に帝愛の行ったゲームの参加者の顔と名前を把握しています。
※過去に主催者が開催したゲームを知る者、その参加者との接触を最優先に考えています。 接触後、情報を引き出せない様ならばギャンブルでの実力行使に出るつもりです。
※危険人物でも優秀な相手ならば、ギャンブルで勝利して味方につけようと考えています。
※カイジを、別行動をとる条件で味方にしました。
※和也に、しづかに仕掛けた罠を外したことがばれました。
※和也から殺害ターゲット宣言をされました。
- 78 :
-
【平山幸雄】
[状態]:左肩に銃創
[道具]:支給品一式 カイジからのメモ 防犯ブザー Eカードの耳用針具 Eカード用のリモコン 針具取り外し用工具 小型ラジカセ ロープ1本
[所持金]:1000万円
[思考]:カイジに会う 田中沙織を気にかける
※カイジからのメモで脱出の権利は嘘だと知りました。
※カイジに譲った参加者名簿、パンフレットの内容は一字一句違わず正確に記憶しています。ただし、平山の持っていた名簿には顔写真、トトカルチョの数字がありませんでした。
※平山が今までに出会った、顔と名前を一致させている人物(かつ生存者)
大敵>利根川、一条、兵藤和也 たぶん敵>平井銀二、原田克美、鷲巣巌 市川
味方>井川ひろゆき、伊藤開司 ?>田中沙織、赤木しげる 主催者>黒崎
(補足>首輪探知機は、死んでいる参加者の首輪の位置も表示しますが、爆発済みの首輪からは電波を受信できない為、表示しません。)
※和也から殺害ターゲット宣言をされました。
【井川ひろゆき】
[状態]:健康
[道具]:日本刀 首輪探知機 懐中電灯 村岡の誓約書 ニセアカギの名刺 アカギからのメモ 支給品一式×2 (地図のみ1枚)
[所持金]:1500万円
[思考]:この島からの脱出 カイジに会う 極力人は殺さない 赤木しげるとのギャンブル
※カイジからのメモで脱出の権利は嘘だと知りました。
※和也から殺害ターゲット宣言をされました。
--------------------------
以上で投下終了です。
誤字や改行などはウィキ収録の際に訂正します。
何かありましたらご指摘お願いします。
- 79 :
- 投下乙です。
良かった…誰も死ななかった(最近、退場者が連発していたので)
まさかここでハギーネタが出るとは思いませんでした。
確かにアカギとカイジの声はそっくり…というかほぼ同一人物ですね。
病院へ走っちゃったアカギ。
和也達でも勝てる気がしない…何なんだ、この頼もしさは。
迷走する黒沢・沙織コンビ。
どうなるんだろう。
録なことにはならないんだろうな…。
- 80 :
- 長編投下乙です。
声優ネタ(?)きたw
ひろゆきおコンビは頭脳派同士だけどぶつかり合うことなく互いの長所を活かし合ってて好きだ。
考察とかも微妙に別角度だから面白い。
アカギの持ち物にデリンジャーの弾しかないけど(前話でも)
利根川の持ち物は拾ってるからデリンジャー自体も持ってるんだよね?
- 81 :
- >>80様
申し訳ございません。
それは前作『逆境の闘牌』で私がやってしまったミスです。
wikiでは修正します。
- 82 :
- 投下乙です。
黒沢さんの妄想が場違いなほどメルヘンでかわいいです。
このまま黒沢さんがヒーローでいてほしいなぁ。
- 83 :
- 久々に笑ったよ!
いやぁ面白かった
声ってのはアニメ見てないからわからんけど声優一緒なんだなぁ
イメージ湧かない…w
ところで定時放送はまだなんかな?
- 84 :
- 銀さん、原田、森田がまだ早朝時間帯にいるから放送はもうちょっと先っぽい
放送を先に投下してそれに合わせて到達してないキャラの話を
辻褄合わせながら投下するのも有りっていえば有りだけど
でも森田は定時放送までにやることいろいろあるし…
放送が近づいてきてることは確かだよね
放送到達記念でラジオとか投票とか、またやるのかな?
- 85 :
- 投下乙!
目の付け所がいいですね。確かに同じ声で「田中さん」呼ばれると、沙織からしたら怖いw
前編読みながら、「えぇー間違えるかなー?」と思っていたら、後編の解明編(声が似ていたから)というのが判明って感じで
凝っていて面白かった!
歪みねぇ黒沢さんと、黒沢の盛り上がりっぷりを見ても微動だにしないアカギ…wwwじわじわくるwww
- 86 :
- >>84様
ラジオは絶対やります。
ゲスト様も数名候補がおります。
投票もできればやりたいと考えております。
ただ、書かなくてははいけないキャラがその3人のほかに黒崎もおまして…
正直、この4人はどうすればいいのか分からないというのが、私の今の状態です。
けど、最近投下を再開してくれたジャッサンなら…
何とかしてくれるはずっ…!
アイディアが欲しいです…。
- 87 :
- あららワロタw
- 88 :
- 保守
- 89 :
- 来た…っ
予約っ!!!
- 90 :
- 商店街の端に位置する家屋の前で、原田克美は一人立っていた。
埃っぽい家屋から解放されて触れる外気は程よい冷たさで、
原田の中に残っていた僅かな眠気を取り払っていく。
軽く伸びをすると、背骨が鳴る。
平井銀二という男は只者ではない。
敵ではないと頭でわかっていても、どうしても体は緊張してしまうようだ。
原田は無意識にスーツの内ポケットへと手を伸ばした。
されど目当てには触れられない。
タバコもライターも主催側に取り上げられている。
空のポケットに指を入れるまで忘れていたその事実に、原田は苦笑いした。
先ほど「一服したい」という原田の申し出を快く受けいれた銀二は、
当然原田が服するタバコを持ち合わせていないことに気づいていたはずだ。
どんな顔をして屋内に戻ればいいのやら、眉根を寄せて考える。
* * *
ここに腰を落ち着けて数時間、原田は平井銀二と共に病院の見張りを続けてきた。
銀二の思惑を遂げるためには「病院」を、観察することが不可欠だという。
原田の立場上、銀二の行動に従うほかない。
また、原田自身の考えも銀二に従うべきなのだろうと着地していた。
見張りの中で、原田はこの島で殺し合いが起きているという事実を改めて知る。
深夜から早朝にかけて、病院付近では幾度かの交戦があった。
その全てを銀二はメモに記録し、また原田にもそのように促していた。
――AM1:00頃、病院内を移動する光あり。明かりのついた部屋がひとつ。
メモは、銀二が記したこの一文から始まる。
- 91 :
- 「病院」という響きから連想されるイメージは大きく分けて二通り。
まず一つ目は、“恐怖”である。
例えば、幼子が注射を嫌がるような。
あるいは心霊番組で取り上げられる廃病院に戦慄するような。
そして二つ目が、“希望”だ。
命を救う、命を繋ぐための施設なのだから必然であろう。
このゲームに参加させられた人間たちがどちらの印象を抱いているのかは知れない。
それでも、ゲームが進行するにつれて増える怪我人たちが
病院に救いと希望を求めて集うのは想像に難くない。
そしてそれを狙う狡猾な輩の存在も、おそらくはある。
この数時間の間に、病院内で参加者間の争いが起きたことは
原田自身 目の当たりにしている。
原田はあくまでそれらの傍観者であり、現場の惨状を詳細に知ることはできない。
それでも――である原田でさえ経験したことのない喧騒が
病院を取り巻いていることは事実であった。
生と死が隣合わせであるとはよく言ったもので
原田にとって、まさしく今病院がその象徴のように思えてならない。
――AM1:30頃、病院前で爆破音。地雷か。立て続けに銃声。
二階を移動していた光が階下へ。
病院前一回目の交戦は最初のメモの一文から三十分後のことである。
この時、原田らが滞在する家屋には一人の訪問者がいた。
森田鉄雄、強運を持つ男。
銀二に代わって、病院の見張りは原田が務めていたが
爆破音や銃声は銀二、森田の耳にも届いたはずだ。
まさか爆薬の類が支給されているとは思いもよらずに若干の動揺を見せた原田に対し
二人は変わらず会話に集中していた。
なるほど、銀二が頼るだけのことはあるのか、と森田に感心しながら
原田はメモにペンを走らせ状況を記録したのだった。
- 92 :
-
それまで見張りをしていた銀二曰く、
病院では少なくとも三つのグループが動いていたらしい。
そのうち二つは同一勢力の可能性もあるというが、
なにせ深夜の出来事であったため、詳細はわからない。
地雷、銃声の交戦を受けて、二階をうろついていた光の主たちが階下へ移動。
彼らは危険な階下まで移動せずとも、二階から外の様子を伺うことが出来たはずだ。
わざわざ移動したということは、現場を直接確認する必要があったのではないか。
銀二はのちに、地雷と銃声を伴う交戦に仲間が巻き込まれ、
彼らはそれを助けるために二階から駆けつけたのではないかという推察をしている。
――AM1:40頃、人の出入りあり。依然明かりのついた部屋がひとつ。
爆破音の直後二階から一階へと移動した光がそのまま、このとき玄関付近でちらついていた。
周囲を気にしてか、何度か消灯と点灯を繰り返し、最後に消灯して辺りは静まった。
騒動の現場、そこには死体が転がっているのかもしれない。
相変わらず一階のとある一室は照明が点いたままであった。
病院前が静けさを取り戻そうという頃、森田は銀二との対話を終えて立ち上がった。
主催側と首輪の回収をかけてギャンブルしているという森田。
まさに先ほど首輪が落ちている可能性の上がった病院へ向かうのだろうか。
そう予想した原田だったが、銀二は思わぬ言葉を口にする。
「…原田さんがギャンブルで勝った相手に村岡という男がいる」
銀二は森田に村岡の存在を伝える。
言葉だけを見れば親切心で情報を与えたように思われるが、
その実、「村岡のいるE-2エリアへ行きなさい」と誘導しているかのような調子であった。
- 93 :
-
やり取りの中に、おそらく二人にしかわからない暗黙の了解が含まれているのだろう。
これから森田も銀二の下、共に動く仲間となるはずなのだから。
原田はそう考えながら、民家を後にする森田を見送った。
残った銀二に、原田は走り書きを渡す。
『病院周辺はゴタゴタしとる。迂闊には近づけん』
爆破音と銃声、当然銀二も事態を理解している。
原田の渡した紙をくしゃりと握りつぶしながら頷いた。
視線を病院に戻しながら、原田は森田についての印象を思い返していた。
切れ者、銀二と再会するだけの運の良さも持ち合わせている。
落ち着いていたし、頼りがいのある仲間になるだろう。
自然と口の端があがる。戦力が増えるのは大歓迎だ。
しかし、銀二は原田とは対照的に一抹の寂しさのようなものを漂わせる。
森田の去った方向を見つめながら、力強く言うのだった。
「森田はもう来ませんよ・・・私の前には・・・仲間としてはね」
『森田は仲間になりえなかった』――銀二の言葉は、原田の期待していたものとは正反対だ。
なぜ?と純粋な疑問が浮かぶ。
森田は銀二と気心の知れた関係だったはずだ。
それに加えて、原田もこのゲームで共闘するにあたり森田に好印象を抱いている。
何よりも森田が持っている可能性がある“ゲーム主催者と直接交渉窓口”は
原田の求めていたものだったのだから、森田を逃すのはあまりに惜しいのだ。
銀二から森田と袂を分かつ理由を説明されても、
蚊帳の外の原田からすれば到底納得できるものではない。
釈然としないまま、それでも銀二を問い詰めることもできずに原田は見張りを再開したのだった。
- 94 :
-
――AM2:00頃、玄関前で時折光が見える。何かの作業中か。
――AM3:00頃、ようやく玄関前から人影が消える。
森田が去ってからまもなく、玄関前で再び光が点灯する。
病院内から持ち出した懐中電灯だろう、あまりに無用心にその光は闇夜を照らしていた。
死体漁りでもしているのだろうか。
しばらく黙って様子を見ていたが原田だが、玄関前の人影は作業をしつづける。
遺品を持ち去るだけにしては、時間がかかりすぎであろう。
また地雷を埋めているのか?いや、もしかしたら死体を埋葬しようとしているのか?
時間をかけて何らかの作業を遂げた人影は、一時間後に玄関前から姿を消す。
首をかしげる原田に、部屋の隅で何やら作業をしていた銀二が声をかける。
「森田の来訪でろくに仮眠もとれなかったでしょう・・・」
見張りの交代の申し出であったが、原田はそれを断った。
行動に支障があるほどの強い眠気はもう去っている。
普段どおり動ける程度には、体の調子を保てていた。
仮眠などよりも、原田は銀二に問いたいことが積み重なってそればかり気になったのだ。
『いつまで見張りを続ける?』
カメラの死角を意識しながら、原田はメモに率直な疑問を綴り銀二にぶつけた。
民家に腰を落ち着けてからこの時点まで、2時間は経っていた。
銀二から告げられたのは行動方針の一部のみであり、
そしてそれは主催を打ち倒すための手段にしてはあまりに地道なものだった。
こうしてここで病院を見張り続けることで、いったい何がわかるというのか。
森田と三人で病院に乗り込めばよかったのではないか。
何故、あのように森田を病院から遠ざける言動をとったのか。
- 95 :
- 「しかし・・・森田が主催と契約を交わしていたとは思いませんでした。
彼の行動が吉と出るか凶と出るかわかりませんが・・・・」
「主催と対話できる可能性ってもんがわかっただけでも十分や」
カモフラージュのための会話を交わしながら、原田は銀二からメモの返答を受け取る。
『今まで理由も告げずに行動を縛ったことを謝罪する。
スキャンダルを掴むには病院の捜査は最重要。
そのために見張りは欠かせない。見張りの意味は確かにある。
まず第一に、私はマークされているため病院を調べる機会に限りがある。
来たるべきチャンスに備えて無駄な動きを控え、病院の近くで待機したい。
第二に、私はとある可能性を疑っている。
病院に目をつけているのが我らだけではない、という可能性を。
スキャンダルを知る者が他にいたらどうか。
その人物が、我らと同じ目的とは限らない。
スキャンダルの“証拠探し”ではなく“証拠潰し”を狙う連中がいるかもしれない。
聡明な貴方のこと、察しているだろうが
私はこの“証拠”を掴めさえすれば命をも厭わない。当然方法も厭わぬ。
巨悪と共に心中する覚悟がある。
そして原田さんはメッセンジャー・・・確実に生き延びてもらわなければ困る。
謂わば、貴方は生を誓った者・・・私は死を誓った者・・・!』
原田が痺れを切らしはじめていたことに気づいていたのだろう。
いつまで見張りを続けるのかと原田が問う前から、この文章は用意されていたようだ。
メモの一枚目には見張りの理由が書かれている。
主催にとって不自然に思われない位置から、病院に不自然な動きがないか見張る。
なるほど、銀二の立場からすれば意味があるともいえる。
原田にとって説得力に欠ける内容であることは事実だったが、
複数枚に及ぶメモに目を通すため、適当な会話と相槌で場を取り持つしかない。
- 96 :
- 「森田が頼りにならないとなると・・・人材探しも本腰を入れる必要がありますね・・・
赤木しげると伊藤開司、村岡隆とは再会の目処が立っている・・・。
私から推薦したいのは先程の通り宇海零という少年です・・・!
あとは・・・井川ひろゆきくん・・・でしたか」
「他にも主催を倒すために動いてる人間がいれば積極的に引き入れたいところやな」
原田が静かに一枚目のメモをずらす。
下から現れる二枚目のメモにはこれからの行動について書かれていた。
病院を見張り続けるだけでは埒があかないと考える原田には最も興味深い部分である。
『これから原田さんには島南を回ってきてほしい。
目につくものがないか、大まかで構わない。
G-4が禁止エリアになったことから、港の存在は確定的と見ている。
また、主催陣が港の詮索を危惧していることもほぼ確定的。
首輪が作動している限り港に入れなくなった今、
我々は秘密裏に港を探る必要はない。むしろ港を目眩ましに利用する。
私はその間別行動を取るが、一時間後再びこの民家に集合のこと。
電灯なしで室内が見渡せる時刻になってから病院に移動(日の出がAM5:30前後)。
主催は私や貴方のように“見込みのある人物”には易々と手を下せない事情がある。
そのため、あるラインまでは一種の安全圏。
一線を越えたその時に私の身に何が起きるかはわからない。
そしてその一線は我々の目には見えない。
慎重に慎重を重ねても不十分なほどのギャンブル。
しかしその一線を越えると決めた限りは引き下がれない。
こちらはギリギリまで悟られぬよう尽くすことで抵抗する。』
今までの銀二からの言葉に比べ具体的なそのメモの内容に、原田は思わず目を見張る。
『島南、港を探せ』というメモを受け取ったのは第二回の放送前だったか。
港の捜索はG-4が禁止エリアになったことで先延ばしになっていたのだ。
港を目眩ましに利用する、とはつまるところ
銀二の関心の先が病院ではなく港であるというアピールの実行を意味するのだろう。
- 97 :
-
表面上のためだけだった会話を、徐々にシフトしていく。
二人が別行動をとっても違和感がないように、
原田が港へ向かっても不自然にならぬように、足場を固める必要があるからだ。
「もう一つ・・・気になることがあるんですよ・・・!
我々がどうやってこの島に連れてこられたか・・・その手段・・・!」
「手段か・・・たぶん空か、海やろな・・・・」
「そうでしょうね・・・。
島の大きさや参加者の人数を考慮すると、海路が濃厚・・・!」
「参加者全員を乗せて来られるだけの大きさの船なら港が必要やな・・・
海岸線沿いを見てまわるか・・・?脱出の手がかりがあるかもしれん」
「フフ・・・そうですね・・・港探しは、同じように考える人間・・・
優勝狙いではなく脱出を見据えることが出来る人間と会う切欠になるでしょうし・・・」
「となれば・・・行動あるのみや」
「二手に分かれましょう・・・・原田さんは南下してください。
私は南東方向を回ってきます・・・
目ぼしいものが見つからずとも・・・日が昇る前に再びこの民家に戻ってきてください。
第三回放送が近いですし、長時間の単独行動は控えたい・・・。
この辺りは外灯もあり道も開けていますからくれぐれも周囲の気配に気をつけて・・・」
会話の合間、原田は三枚目のメモに目を通す。
- 98 :
-
『本来ならば、病院の捜査という命の危険を伴う行為は
ゲームに終止符を打てるタイミングで行いたかった。
例えば、カイジら対主催グループが十分に成熟した時。
主催陣がそちらに目をとられるだろう時。
私は対主催グループを隠れ蓑に使う心積もりだ。
先ほどまで私は、更に病院捜査のための準備を続け、
病院に突入するのはアカギやカイジと一旦合流した後を予定していた。
しかしその予定は変更。我々も森田の行動に合わせる。
森田のことだ、主催からの依頼は達成すると見込んでいる。
森田の狙いは第3回放送までに依頼を達成した場合の報酬、
進入禁止エリアの解除権と思われる。
この解除権が行使されるタイミング――
つまり主催と対主催陣営が大きく動くと予想されるタイミングこそが
我々が行動するにふさわしいチャンスとなる。
第3回放送がAM6:00、解除権の行使はAM7:00まで。
この時間帯が勝負。森田の強運に乗る形を取る。』
銀二がスキャンダルの裏付けを病院に求めていることは、既に原田も承知している。
その裏付け――証拠を掴むことが出来るのならば、命を投げ出す覚悟だということも。
証拠を掴むまでは、そうと主催に気取られてはならない。
掴んで以降も、折角の証拠を潰されてはたまらない。
となれば、対主催グループが主催を追い詰めている時分に
その裏でスキャンダルの証拠探しをするというのは理にかなっている。
証拠を掴む頃、対主催の人間が主催陣の喉元まで迫っていれば、
もしくは脱出の目処が立っているようならば尚の事都合がいい。
しかし、先刻の来訪者である森田がイレギュラーだった。
森田は既に主催とのギャンブルという段階にまで至っていたのだから。
彼は“仲間”ではないが、決して敵でない。銀二を邪魔するような動きはしない。
なるほど、と原田は納得する。
銀二は森田をも利用して、己の思惑を遂げようというのだ。
- 99 :
-
荷物をまとめながら、原田は紙を捲る。
四枚目、メモは最後だ。
『病院の捜査については、私に任せていただきたい。
どこまであなたに協力してもらうことになるか、現段階ではわからないが
少なくともスキャンダルを掴むまでは、あなたを危険には晒せない。
あなたを頼りにするのは証拠を手にしたあとのこと。
私が掴んだ証拠をまで持ち込むのがあなたの使命である。
容易いことではない。
あなたはこの島から確実に生還する必要がある。
殺しに乗って優勝狙いを頼むことになるかもしれない。
対主催が優勢ならば勝ち馬に乗らせてもらえ。
私とあなたが戦う相手は人間ではない。
人間をのではない。巨悪を喰い破るのだ。
くれぐれも身の安全を第一に。あなたに死なれては困る。』
“あなたに死なれては困る”。
原田が日常的に聞いてきた言葉だった。
部下がそう言う度に、自分は死ぬような無茶をする男ではないのだ、
買いかぶるな、と複雑な心境になったものだった。
銀二の端正な文字が、原田の目に焼き付いた。
元よりむざむざ死ぬつもりなどなかったが、
生きなければならないという重さと意味が、原田の肩にのしかかる。
「それでは・・・一時間ほど別行動といきましょうか・・・」
「・・・せやな」
こうして二人は一度民家を後にしたのだった。
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