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2012年6月創作発表139: 非リレー型バトルロワイアルを発表するスレ Part30 (363) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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非リレー型バトルロワイアルを発表するスレ Part30


1 :12/04/08 〜 最終レス :12/06/01
1999年刑行された小説「バトル・ロワイアル」
現在、様々な板で行われている通称「パロロワ」はリレー小説の形をとっておりますが
この企画では非リレーの形で進めていきます。
基本ルール
・書き手はトリップ必須です。
・作品投下前の登場キャラクター、登場人数、主催者、舞台などの発表は書き手におまかせです。
・作品投下前と投下後にはその意思表示をお願いします。
・非リレーなので全ての内容を決めるのは書き手。ロワに準ずるSSであればどのような形式、展開であろうと問いません。
・非リレーの良さを出すための、ルール改変は可能です。
・誰が、どんなロワでも書いてよし!を合言葉にしましょう。
・「〜ロワイアル」とつけるようになっています。
  〜氏のロワは面白いでは、少し話題が振りにくいのでAロワ、Bロワなんでもいいのでロワ名をつけてもらえると助かります。
・完結は3日後だろうが5年後だろうが私は一向に構わんッッッ!!
前スレ
非リレー型バトルロワイアルを発表するスレ part29
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1332331490/
非リレー型バトルロワイアルwiki
ttp://www26.atwiki.jp/anirowakojinn/pages/1.html

2 :
引き続き投下させて頂きます

3 :


「よいしょ、よいしょっと」
俺は、前にぶっ壊した自販機の近くまで来ていた。
床に散らばった缶やペットボトルが、壊した時のまま残っている。まぁ当然か。
とりあえず、地面に転がるコーヒーや何やらを片っ端からカバンに入れる。
地面に落ちていた物だが、まぁ大丈夫だろう。衛生的には問題無い、はずだ。
「へー、このコーヒー、まだ売ってたんだな……俺がガキの頃からあったぞ……ん?」
誰かいる…………ような、気がする。
何となくだが、誰かがどこかに隠れているような……。自信ないけど。
(…………さっき、殺したくないって言ったばっかなんだがなぁ)
まだ、相手がヤバイ奴と決まった訳じゃない。
が、安全な奴と決まった訳でもない。
どっちにしろ、警戒してもおかしくない。
一応、体を硬化させて、不意打ちに備える。
――――ゲームセンターの中に、静寂が戻る。
聞こえてくるのは、筺体から出る楽しげな音楽だけ。
この状況とは似ても似つかないような音楽と、この状況の取り合わせは、実に滑稽だ。

(さぁ、いつでもいいぜ。どこからでも来いよ。迎撃してやるからよぉ……)

しかし、起こった出来事は俺の想像していたそれとは無縁の物だった。
「警察だ! 動くな!!」
「なぬ!?」
飛び出してきたのは、青いジャケットの男。
手には拳銃。その銃口は、俺に向けられている。
……おいおい、ヤバい奴だったのかよ。
「そんな物騒なモノ下ろせよ、な? 俺が怪しい人間に見えるか?」
「…………」
沈黙。
これはどう受け取ればいいものか。
「おいアンタ……警察だ、って言ったな? 警察なら、アイツを捕まえなきゃいけないんじゃないか?」
「そうだ。警察官として、俺はアイツを逮捕しなきゃならない」
「なら、俺なんかに構ってる暇は無いんじゃないか? 早く、アイツの居場所を見つけないと……」
「アイツも捕まえなきゃならない。だが、アンタが殺し合いをする意思があるなら……
 アンタも、放っておく訳にはいかないだろ?」
「……確かに、そいつは一理あるな。だが1つ間違いがあるぜ。俺達は殺し合いをやる気はない。
 だから、俺を捕まえる理由は無い訳だ。そうだろ? 違うか?」
「確かに、そうだな。だが、今アンタは『俺達』と言った。他に、仲間がいるのか?」
「ああ。いるぜ。あっちの、事務所の方にな。案内してやるよ」

4 :


コンコン、と扉をノックする音が。
「俺だ。開けてくれ」
この声は、間違い無く1号さんの物だ。
慌てて、僕は鍵を外す。
「おかえりなさ……って、その人は誰ですか?」
「ああ。コーヒー取りに行った時に出会ったんだ。敵意はなさそうだから、安心していいぜ。多分」
「その『多分』ってのやめてくださいよ」
「悪いな……お前もそこらに座れよ」
「ああ……」
そう言って、ジャケットの人はボロ椅子に腰かけた。
「この人、誰なんです? 名前は、なんて言うんですか」
「俺は……警視庁、神室署生活安全課の谷村だ」
「警視庁!? ってことは、警察官なんですか?」
「そう。手帳もあるよ」
そう言って、谷村さんは懐から手帳を出す。
……これが、本物の警察手帳なのか。
「そう言う訳。こう言う事件は、今までに無かったけどね」
「そうですか……」
「……ま、こういう訳だ。俺達は乗ってない。分かったか?」
「ああ。良く分かったよ」
「さて……分かってくれた所で……あんた、これからどーすんだ? 俺達と一緒に行くか?
 それとも、お前だけで行くか? どっちにするかは、お前次第だぜ」
「…………分かった。お前らと一緒に行くよ」
「よっしゃあ! 仲間が増えたぜ!!」
小躍りしている1号さんと、それを半分呆れたように眺める谷村さん。
一瞬の間だけ……ここが血生臭い殺し合いの場であることを、忘れさせてくれる。
だが、現実は非情だ。
すぐに、1つの話題が一気に僕を現実に引き戻す。
「――――谷村。お前は、一体どうしてここに?」
「分からない。気がついたら、この近くに立っていた……警察手帳以外の物を奪われて」
「ってことは……手錠とか取られてるんだな。だが、谷村……お前、銃持ってるじゃん」
「これは、俺のバッグの中に入ってたものだ……。他にも何か入ってるようだが、まだ確認してない」
「そうなのか? 他にも武器があるかもしんねえし、俺達のと合わせて確認しちまわないか?
 もしかしたら、役に立つ物とかあるかもしんねぇしな」

5 :
僕を含めた全員がバッグを机の上に乗せる。
3つもバッグがあるのだ、1つくらい、良いものが入っててもおかしくないだろう。
「さて、まずは俺らのから確認すっか…………」
そう言って、
「……これって」
「ああ。間違い無く、金属バットだな。もう1つは、超がつくほど新鮮な……イカだな」
「……何かの冗談じゃないのか?」
谷村さんが、呆れたように尋ねてくる。
だが、出て来たのは紛れも無いイカ。
それも、たった今釣り上げたように瑞々しい、新鮮なものだ。
「生憎、冗談じゃなさそうだぜ。スベってるけどな。さて……イカを放置しとく訳にもいかねえ。
 とりあえず、バッグに戻しとくか」


悪戦苦闘しつつも、何とかイカを俺のバッグの中に入れる事が出来た。
……一息付いたのち、改めて2人の方を向き直す。
「さて……次は、谷村。お前のバッグだ」
「ああ。さて、何が入ってるかな……」
そう言って、谷村がバッグから取り出したのは……いかにも重そうな、トンファーだった。
見る所、鉄で出来ているようだ。
アレで殴られると、かなり痛いだろうな。いや、当たり所によっては痛いじゃ済まないかもしれない。
どっちにしろ、アレで殴られれば無事じゃ済まないな。
「トンファー、ですね。結構、強いんじゃないですか? これ」
「使いこなせばな」
「ま、これで、めでたく全員の支給品が分かった。そのトンファーはお前のから出たんだから、
 そいつはお前のだな。その理屈で言えば、あの金属バットはこいつ……洋介のもんだ。
 イカは……まぁ、俺のだろうな。正直、いらないけど」
……まぁ、武器が無くてもなんとかなるけど。
「さて……何処に行く? 皆、ちょっと地図を出してくれ……」
俺を含む皆が地図を出したのを確認して、話題を振る。
「どっか、行きたいとことか、行っといたほうが良いんじゃねえかってとこあるか?」
「僕は、やっぱり病院に行ってみるべきだと思います。怪我した時に備えたいし……。
 それに、もしかしたら……僕らと同じような人に会えるかもしれないし」
「ああ。それもいいな……谷村は?」
「俺は、特に無い。どこに行けば、情報が得られるかも分からないしな」
「ああ、それもあるな……」
「1号さんは、何か希望はあるんですか?」
「あぁ俺ね。俺は……そうだな……この、ショッピングモールが気になるなぁ……。
 何か、いい物があるかもしんないし」
「そうですか……なら、湖を通ってショッピングセンター経由で病院に行ってみませんか」
「おお……いいな、それ。よっしゃ、じゃ早速行こうか」

6 :
そんなこんなで、俺達は荷物をまとめて、ゲームセンターを後にすることにした。
……これから、俺達に何が起こるかどうか分からない。
だが、何が起ころうと立ち向かってやろうじゃないか。
俺達は、絶対に負けねぇ。
【一日目・深夜/C-4:ゲームセンター】
【宮村洋介@オリジナル】
[状態]:健康
[装備]:ガンツスーツ@GANTZ、金属バット
[所持品]:支給品一式、缶コーヒー
[思考・行動]
基本:殺し合いなんかしたくないし、死にたくもない
1:谷村さん、1号さんと共に行動する
2:ショッピングモールに行った後、病院に行く
【被験体01号@オリジナル】
[状態]:健康、両腕硬化中
[装備]:なし
[所持品]:支給品一式、イカ@龍が如く4、缶コーヒー
[思考・行動]
基本:殺しあう気なんてねえ
1:2人と共に行動。他にも仲間いねえかな
2:ショッピングモールを見てから病院へ行こう
【谷村正義@龍が如く4】
[状態]:健康
[装備]:ミネベアM60(5/5)
[所持品]:支給品一式、鋼のトンファー@龍が如く4、予備弾薬×15
[思考・行動]
基本:あの男を逮捕する
1:この2人と行動する。その過程で、アイツを逮捕する手がかりも探す
≪支給品紹介≫
【イカ@龍が如く4】
被験体01号に支給。
ミニゲーム:釣りで釣れることのあるイカ。
売っても大した値段にはならないが、武器の材料になる。
【鋼のトンファー@龍が如く4】
谷村正義に支給。
武器屋にて23000円にて買えるトンファー。
威力・耐久力はそこそこあり、それなりに使える。
---
投下終了です

7 :
投下乙です。いよいよ、神室町のダニの登場か……
自分も投下します 12話:無駄にシリアスな頭脳戦 開幕!!

8 :
 深夜の暗闇は、やがて消えて行き、やがて、朝日の立ち込める朝がやってくる。
 日光の届かない屋内エリアでも、小鳥の囀りと共に、夜が明けたことに気づくだろう。
 それは、屋内エリアである、デパートでも同様に。
 飲食店街はかつてあったであろう、活気は消え失せて、最早、ゴーストタウンの如く、誰もいない。
 シャッターも下りてはおらず、そのことが逆に、異常性を際立てている。
 暫く行くと、飲食店街を抜けて、ブティックや書店などの商店が連なっていたが、無論、誰もいない。
 正確に言えば、無人ではない。その異常性には、気づかない青年が一人いた。
 彼の名前は、雷音金具。一見冴えない会社員であるが、天才的な才能を持っていた。
 ハッキング、いや、クラッキングといえば正しいのかもしれない。
 十歳の頃に、嫌いだった教師にメールボムを贈り、十三歳で、ファイアーウォールを破った。
 十五歳で警視庁からは危険人物として監視され、同年のクリスマスに、FBIの警戒対象に選ばれた。
 しかし、大学二年生の時に、暗殺されかけてからは、もう、不正アクセス行為は止めていた。
 そんな彼は、カタカタ、とキーボードを弾きながらパソコンを見ている。
 そのパソコンの画面は、真っ黒なバックに緑色の字で出鱈目な数列やローマ字が羅列されており、不気味な印象を与える。
 メモリースティックが挿されており、メモリーの中にはウィルスが入っていた。
 雷音の首輪には、USBケーブルが乱暴に突っ込まれている。
 そんな状態で、スナック菓子を食べる姿は、どこか狂気を感じる者も多いだろう。
 今、彼は首輪から、相手が使用しているネットワークを逆探知しようとしているのだから。

 イヒヒヒ。なぁ、同い年くらいのアンタに、ええ事、教えたろか。
 首輪のなぁ、造りは簡単。爆薬と、火薬と、機械で作られとるだけやねん。
 作りはお粗末なモン。田舎の工場を経営しとるような奴でも解体は出来とる。
 けどな、結構な数、不可能なことがあんねん。
 まずはな、首輪は心音爆弾に近い。いきなり、止まれば違和感を察知される。
 それにな、盗聴器も内蔵されとるから、メールで文字コードに変換し、信号を送られるんや。
 メールを受けた主催者は、殺し合いを妨げる危険分子として、メールを返信しソイツの首輪を爆破させる。
 主催者に気づかれへん、ようにするには、三つ方法があるんねん。
 一つは、主催者を殺して、そっから解体をすること。まぁ、やらん理由は分かるやろ。
 二つ目は、主催者が使用しとるパソコンや携帯を潰すことやねん。リスクを伴うし、やれる奴おらんやろうな。
 三つ目はな――――――――ちょっと、こっからは、キギョーヒミツや。
 んじゃ、これ渡すから。頑張ってや。応援しとんで。
 ああ、後、生きて会えたらそん時は、ヨロシク。


9 :

 幾つものモニターがあるパソコンには、カチカチと画面が点滅しながら、大量のタブが出てくる。
 異常なほどの広告や、迷惑メールなどで、埋め尽くされて、パソコンが使い物にはならない。
 俗に言う『メール爆弾』。初歩的なハッキング行為の一つ。
 怒り狂ったかのように、キーボードを叩くが、無論、そう簡単に元には戻らない。
 そんな、サイバー攻撃の被害に遭った━━━━は、不機嫌そうに机においてあった、アイポットの電源を切る。
 不運なことに、アイポットは、勢いのあまり、机からから落下して、床に叩きつけられた挙句、不気味な音を発していた。
 完全に壊そうとしているかの如く、全体重をかけた左足は、アイポットを踏み潰す。
 進行役である精霊、色欲ことアンドレイ・チカチーロが音を聞きつけて、現れる。
 どこか━━━━を嘲笑うかのように、愉快そうな笑顔を浮かべている。
「八つ当たりは良くないよー。ったくねぇ……エロサイトの見過ぎじゃないの?」
 PCの前に座る━━━━は、現れたアンドレイ・チカチーロの姿を不愉快そうに見る。
 自分によって生み出された、精霊に馬鹿にされたことに対するプライドが許せなかったのだろう。
 そのため、彼の言動を黙っている。いわゆる、シカトという奴だ。
「あれれれぇ〜? ……パソコンなんて支給したっけねぇ、━━━━ちゃん」


 最後のメールに、試作品を仕込むと、タブを閉じる。
 そしてコンセントを抜く。電源の入れっぱなしだったため、コンセントから、火花を噴いた。
 位置を悟られる前に、パソコンの電源を切り、吹き抜けから、一階にある噴水へと投げ込む。
 パソコンは叩きつけられた衝撃と、水の中に入った衝撃のダブルパンチで、使い物にはならなくなった。
 
 雷音にとって、後ろ目出度い行動であった。他人のパソコンを壊したくは無かったからである。
 いくら殺し合いに巻き込まれているからといって、技術の結晶であるパソコンを壊したくは無かった。
 決して安いものではなく、作るのにはかなりの労力を必要とされる。
 コンピューターウィルスも、防御用のプログラムの同様に、心得ていた。

 罪悪感を感じながらも、彼は、ポケットに押し込められた首輪の設計図を取り出す。
 文房具コーナーに置いてあった、ドライバーとライターは拝借し、熔接をしながら解体する。
 簡単だった。熔接のより、首元を幾度か火傷しそうになったが、事なきを得た。
 後はネジを回すだけだった。

 警告音。
 彼の頭の中に響いていた。続いて、首元からも警告音が鳴り響く。

 この男が鳴った瞬間、中年男は首を吹き飛ばされた。
 つまり、暫くすると、首が吹き飛ぶということを息しているのだ。
 何重にも、サーバーを経由して、パソコンもキチンと処理した。
 しかし位置を把握された。信じられないことに位置を把握されたのだ。
 彼は信じられなかった。
 自分が敗北することに。

10 :
「何で!? 完璧にしたはず!?」
 ピーピー
 ピッピーッピピー

 ピーーーーーーーーーー


『バーン、ってね。ハハハハ、爆発しないよ〜♪』

 まるで、時間が止まったかのように、デパートのフロアは、静まり返っていた。
 死に掛けたわけだから、仕方ないことだが、その光景はアンドレイ・チカチーロにとって、愉快で堪らなかった。
 デパートの監視カメラには、彼の姿がばっちりと映っている。モニター越しにその姿を見ている。
 人が恐怖に溺れていく姿は、色欲――――アンドレイにとって、快感でしかなかったのだ。

『ハハハ!!! 詰めが甘いね。面白くて、お腹が裂けちゃうよ。ハハハハハ』
「どう言うことか説明してくれよ」
『パソコンのある位置ってデパートか、学校しか無いじゃん!!』
「そっちじゃないよ……首輪が何故爆発させなかったかだよ」
『ああ〜……そっちのは、冷やかしただけ。まっ、次やったら、首と胴体は離れ離れになっちゃうけどね』

 だが、どちらも気づいていない。
 二人が持っている――――隠し玉《トラップ》のことに。
 やがて、ノイズ音と共に、放送は止む。互いに笑みを見せながら。

【雷音金具@ネタキャラ】
[状態]健康、冷や汗
[装備]なし
[道具]基本支給品、戦利支給品×0〜3、USBメモリー(中身不明、PCウィルス類系)、首輪の設計図
基本:殺し合いには乗らず、主催者をハッキングで翻弄したい。
1:隠し玉を行使して首輪を解除する。
2:……馬鹿に……しやがって……
※とある参加者から、オープニングの際に、首輪についての事を教えられています。
※(とある参加者は、主催者でもジョーカーでもありません。)
 
 雷音金具(らいね・かねとも)
大学院生。元凄腕のハッカー。注意深い性格。人と関わりを持とうとはしない性格。
以上で投下終了です。一応は、繋ぎの話

11 :
もう一丁書けたので投下します。
13話:ヤンデレってレベルじゃねぇぞ

12 :


 ただ、俺は、復讐をしたかっただけだ。そして、その為なら何でもするつもりだった。
 ただ、私は、大事な人を守りたかった。そして、その為ならその他の人をだけだ。
 なのに、なんで、こうなるんだろうな?
 なのに、どうして、こんな事になるの?
 俺は
 私は
 人生の復讐のため。
 お姉ちゃんのため。
 ために、行動していたはずなのに
 ために、行動していたはずなのに


 俺は、ゆっくりと目を覚ます。五体満足。服もキチンと着ている。殺されてもいない。
 私は、ゆっくりと扉を開ける。誰かいる。殺し合いには乗っている。そう、仮定する。
 長谷川は、恐らく何もしていない。それがまた、不気味だった。
 参加者は、恐らく何もしてこない。それがまた、不気味だった。
 気味が悪くて、寒気が走ったが、怯える暇も、殺し合いの中ではなさそうだ。
 気味が悪くて、寒気が走ったが、殺される隙は、参加者に与えてはならない。
 音がした。俺はゆっくりと、その方向を向く。
 音がした。私は恐らく、参加者に気づかれた。
 そこに居たのは、女子高生。
 参加者は、不良少年風の男。
 恐らく、殺し合いに乗っていないだろう。俗に言う、対主催って奴だろう。
 恐らく、殺し合いには乗っているだろう。俗に言う、マーダーという奴ね。

 俺は声をかけた。
 私は声をかけた。

「「殺し合いにには乗っていますか?」」

 少女は同じ事を言っていた。
 青年は同じ事を言っていた。

13 :

 俺は、本当のことを答えた。少女も本当の事を言うはずだ。
 私は、ウソのことを答えた。青年もウソの事を言うはずだ。
「「いや、乗っていない」」
 奇遇だな。
 愚かだな。
 だが、俺は、アイツに復讐したい。
 だけど、私は、姉を優勝させたい。
 仕方ない、。
 構わない、。
 俺は、支給品のボウガンを構えた。
 私は、血まみれの日本刀を構える。
 意外な武器。人を殺している証と。
 意外な武器。接近戦はマズイかも。
 どうやら、動くしかないな。
 どうやら、離れるしかない。
「ここで提案だ。ちょっとだけ、停戦にしないかな?」
「その提案は、貴方にしか得が来ないんじゃないの?」

14 :

 分かっていないようだな。
 痛いところ突いてくるわ。
 相手は、確実に、人を殺している。
 相手は、ボウガンを所持している。
 どうやら、殺し合いには乗っている。
 
「動くな!!」
「撃つの!?」
 日本刀を捨てた?
 武器を捨てるの?
 クソ、どうすれいいんだ?
 どうしようもないのにね。
 ッ構わない、射る。
 下らないわ、斬り。
 俺は、引き金に指をかけた。
 私は、入り口から駆け出す。
 ズガン
 ザクッ

 斬られた。
 撃たれた。
 刃が刺さっている。
 矢が刺さっている。

「……あぁ……痛ぇな……」
「……ああ……痛いわ……」

 胸部をザックリと斬られた。
 腹部を的確に撃ち抜かれた。
 痛かった。
 怖かった。
 少女を撃った事に対して。
 今から、死ぬ事に対して。

「急所を外したはずだ、安心しろ、死にはしない」
「急所を確実に、狙ったわ。何もしなければ死ぬ」

15 :

 これくらいしか、出来なかった。安心させることは。
 これくらいしか、出来なかった。けん制することは。
「ああヤバイ、何だか眠いな……」
「血が無くなって来たみたい……」
 また気絶するみたいだな。
 また助けられないみたい。
 ああ、馬鹿みてぇな、死に方。
 ああ、馬鹿みたいな、結末ね。


 
【一日目/早朝/E-1・小屋】
【伊達坂拳@出すつもりだったキャラ】
[状態]胸部に切り傷(出血:??) 気絶
[装備]ボウガン(6/6)
[道具]基本支給品、戦利支給品×0〜2
[思考]
基本:父親(伊達坂浩二)と長谷川雫を。
1:……あぁ……馬鹿みてぇ……
【一日目/深夜/E-1・小屋】
【山口美砂@名前が出てこなかった奴】
[状態]腹部に銃創(出血:??)健康
[装備]日本刀
[道具]基本支給品、戦利支給品×0〜2 
[思考]
基本:姉(山口美雪)を優勝させる
1:……ああ……馬鹿みたいね……

 山口美砂(やまぐち・みさ)
関勝宏と同じ高校の同級生。山口美雪の双子の妹だが、顔と性格は似ていない。
対人恐怖症、ダーティハリー症候群、共依存症、鬱、PTSDを患っており、薬を処方しないと暴走する

16 :
投下終了です。上が伊達坂拳の心理、下が山口美砂の心理描写のつもり

17 :
皆様投下乙です
自分もEX俺オリロワ2 投下します

18 :
22話:IMITATION
フェリックスと真海の二人は畑地帯の畦道を歩く。
見通しが非常に良いため早めに通り過ぎたかった。狙撃される可能性があったためだ。
そして少し民家が密集している場所に到達する。
「誰とも会わないな…この辺には僕らしかいないんだろうか」
「その辺に隠れてるかもよ……」
「…意外と広いな…どこかで車を調達した方が良いかもしれない」
「盗むの?」
「人聞きの悪い事言うなって、違うよ借りるだけだよ」
予想以上に、会場となっている島は広大で、歩いての移動は疲労を伴うと思ったフェリックスは、
恐縮ではあるがどこかで車を調達するべきだと判断した。
適当な民家に入り、車庫へと向かう二人。
「!」
「あっ」
しかし先客がいた。
獅子獣人の男が何やら探索しているようだった。
「……」
獅子獣人の男もまた二人に気付き、二人の方に顔を向ける。
そして無言のまま歩み寄って行く。
「あ、あの、貴方も……」
フェリックスが獅子の男に話しかけようとした。
しかし、途中で男が右手に持っている者に気付く。
それは、大ぶりの鉈。
男の目には殺気が籠っている。
フェリックスも真海もこの時点で男の考えが読め、逃げようとした。
しかし、間に合わなかった。
フェリックスの首を、鉈の斬撃が襲う。
頸動脈を断ち切られ、真っ赤な鮮血が噴き出し、獅子の男に血飛沫が掛かる。
「ま……真海、ちゃん……に、げ……――――」
「フェリックス、さん? う、わああぁああ!!?」
血を噴き出しながら倒れるフェリックスを見て、真海が素の悲鳴をあげた。
動揺している真海に、獅子の男は狙いを変え、血塗れの刃を狼の少女に向け振り上げる。
「――――!!!」
真海が大きく目を見開いた。


19 :

「いてて……」
血が噴き出す鼻を押さえ、呻く獅子の男、遠矢英教。
殺そうとした狼獣人の少女に猛反撃を受け、警棒で顔を思い切り殴られ逃げられた。
もしかしたら鼻の辺りの骨がまずい事になっているなっているかもしれない。
痛みを我慢しながら殺害した外国人と思しき青年の荷物を漁り、
ナイフと千切れた電気コードを入手する。
「鼻は痛いが動く事は出来る……気を取り直して次に行ってみよう」
ふらつきながら、英教は歩き出す。

どこをどうやって来たのかは分からないが、
身体中に木の葉やら土やらが付着し衣服が乱れているので、
無我夢中で走ってきた、と言うのはおおよそ予想は出来る。
「はぁ…はぁ…はぁ……」
乱れた呼吸を整える真海。
自分の秘部を自分でまさぐって絶頂に達している時の乱れた呼吸とは全く別種である。
「フェリックスさん……」
少しの間だけだったが、行動を共にした者が目の前で落命した事実は、
真海の心に大きなショックを与える。
襲撃者の獅子の男――自分が殺されていないと言う事はあの後どうにかして撃退し逃げられたのだろう。
「…行こう」
周囲が背の高い草に囲まれた荒れたアスファルトの道路を、
真海は北方向へ歩いて行った。

【フェリックス・クレイグ  死亡】
【残り  33人】

20 :
【朝/C-6畑地帯】
【遠矢英教】
[状態]鼻を負傷、全身にダメージ
[装備]鉈
[持物]基本支給品一式、.22ショート弾(4)、ハイスタンダードデリンジャー(2/2)、コンバットナイフ、千切れた電気コード
[思考・行動]
0:生き残るために殺し合いに乗る。
[備考]
※特に無し。
【朝/E-6荒れ地】
【藤森真海】
[状態]肉体疲労(大)、精神疲労(中)
[装備]警棒
[持物]基本支給品一式、スリングショット、鉛玉(5)
[思考・行動]
0:殺し合いはしない。発展場仲間と生きて帰りたい。
1:発展場仲間を捜す。
2:フェリックスさん……。
[備考]
※発展場仲間は御代田優太郎、皆川宏介、栗田雅博、萩野美祐、萩野直重の五人です。
※遠矢英教(名前未確認)を危険人物と認識しました。

21 :
投下終了です。

22 :
投下乙です
自分も時間跳躍ロワを投下します

23 :
 なんて、ふざけた話だろう。
 僕は今、やりようのないこの怒りを何処にぶちまけていいのか分からずに一人苛ついている。
 よりによって僕を騙すとはいい度胸じゃないか、白宮雨雲。
 僕が一番嫌いな『人殺し』を強要させた時点でお前は万死に値するよ。
 僕は本来殺し合う為に与えられた武器、ナイフを右手に握ってそう決意した。
 僕の名前は葵崎蜜柑。
 『僕』なんて一人称を使っているから電話なんかじゃよく間違われるんだけど、れっきとした女の子だ。
 職業は詐欺師だ。
 ――――おいおい、君達は今、きっと勘違いしているぞ。僕は確かに詐欺師だが、弱者にたかって金銭を巻き上げるような低俗な小悪党ってわけじゃない。
 むしろその逆だ。小悪党を相手に金銭を巻き上げる、いわば正義の詐欺師とでも言ってみようか。
 まぁやっていることは詐欺に変わりはないし、警察に通報でもされれば一発でブタ箱行きなんだけどね。
 とにかく僕が下らない悪党連中とは一線を画す存在だってことは、何となく分かってもらえたと思う。
 その僕が、こんな『悪』の殺し合いに賛成する訳はないだろ。
 まったく僕としたことが、つい騙されてしまった。
 タイムマシンを使用する権利なんてものがあれば、僕のたった一つの『過ち』を修正することができる―――たったそれだけ出来れば良かった。それなのに、これは詐欺だった。
 白宮雨雲の道楽の為に仕組まれた殺し合い。
 タイムマシンが実在することは間違いないとして、でも連中は最初からタイムマシンを使わせる気なんてさらさら無い、ってところだと僕は思う。
 そりゃそうだよ、あちらさんからすれば機密事項を漏洩してしまうことになるんだ。
 リスクこそあれどメリットは何一つない―――優勝者だって、その後どんな目に遭わされるのやら。
 騙されてしまったことは不覚だったけれど、僕はミスを重ねるという失態を見せるのが何より嫌いだ。
 ここからは僕のターンだよ、白宮雨雲。
 葵崎蜜柑を敵に回したってことがどういうことかくらい、君だって分かっているだろう?
 君は"僕の持つ力を知っている"―――その上で、僕をわざわざ探し出して招待したんだから。
 だったら覚悟した方がいいぞ。生憎と、僕はもうとっくの昔にブチ切れてるんだ。
 どれだけの金額を積もうが、どれだけの誠意を見せようが、僕は君を許さない。
 その『命』を『騙し取る』までは、何があっても君には屈しないし、君が屈することも許さない。
 君は、僕が。
 君が何を考えているのか、その深い瞳の深奥に何を隠しているのかは知らないけど、君の作戦も計画も、何から何まで一つ残さずメチャクチャにしてやるから、待っているんだね。
「で、えーと………樋之上壊と松下健吾、この二人は危険と見ていいね。あれだけ世間を騒がせてるサーカス殺人コンビとこんなところでお目にかかれるなんてね」
 名簿の名前2つに、赤いマーカーで線を引く。これは『危険』の証だ。
 次に、自分が知っている人物の名前を探す。
 しかしそれは見つけられず、結局危険な人間以外には皮肉にも知る者がいないのようであった。
 これは幸運と見るべきか、不運と見るべきか。
 知り合いが死ぬのは嫌だし、そう考えれば幸運だと言える。だけど、逆に言えば自分を知っている人物がいないということにもなる―――打ち解けることが難しくなりそうだ。
 ま、そこは詐欺師の腕の見せ所だね。
 口先の使えない詐欺師なんて、飛べない鳥と何ら変わらないじゃないか。

「………んー? おっかしいなぁ……白宮つぐみ。この娘って……殺されたんじゃなかったっけ」

 『白宮』なんてそうそうある苗字ではないのだ、恐らくは雨雲の縁者と見るのが妥当か。
 信用するかしないかは会ってみなきゃ分からないけど、注意しておくに越したことはないね。
 血は争えないって言うしさ。
 一応白宮つぐみの名前にも赤丸をつけて、今度こそ名簿の確認を完了する。
 残念ながら行動方針の役に立つ情報は得られなかった。まあ、絶対に近付きたくない相手を決められただけでも順調としておこうかね。なんか空しいし。
 んで、樋之上壊と松下健吾に遭遇したなら、問答無用、死力を尽くしてブチ。
 こちらは個人的な苛立ちもあるんだ。
 『殺人鬼』なんてかっ飛んだ連中と同じ空間を共有していると思うだけで吐瀉物をぶちまけたいくらいだぜ。
 二人で一つのペアならば、一人ずつ殺せるこの機会を逃す手はない。

24 :
 是非とも優先して殺しておきたい。いや、必ず。
「うん、だけど―――ちぃっと、不自然だよね。バレバレだよん、少年」
 脈絡もない独り言を切り出してみた。
 しかし、誰にも向けていない筈の独り言に―――反応があった。
 すぐ後ろの物陰から、『がさっ』という、明らかに動揺した物音がした。
 のは僕の流儀に沿わないし、かといってこいつを放置しておくのも何だかな。
(んじゃ、お一つ説教タイムといきますか)

 悪ガキにもひねくれ者にも悪人にも、いつの時代だって対処の仕方なんて決まりきっている。
 善意を振りかざす人間が、理不尽な理屈を並べ立ててやるしかないのさ。

「あのね、君名前は?」
「………神無月恭一」
「そ。神無月君ね―――単刀直入に聞く。君の変えたい過去は何だ」

 話しているだけで込み上げる不快感が実に心地悪い。
 今すぐにでも適当に話を切り上げてしまうか、この場でこの『鏡』を叩き割ってやりたい衝動に駆られる。
 過去を清算するために人を、なんてのは最低の手段だ。

「………父親だよ」
「ふぅむ?」
「母親の再婚相手。あいつさえ居なければ――」
「ふざけんなっての」

 神無月君の台詞を途中で遮った。
 うーん、これは相当な重症のようだぞ。
そ もそも説教されていると言うことにさえ自覚を持てていないとは、やれやれだ。

「いいかい神無月君。本来過去っていうものは取り返しのつかないものだ」
「そうだな」
「君がそれを書き換えて、取り替えそうという気持ちは人間として何も間違っちゃいないよ」
「だったら」
「――――っ、だからってな! 他人に迷惑かけてんじゃねえっつってんだよっ!! 」

 びくっ、と神無月君が大袈裟によろめく。
 ああああああ、苛々する。
 こいつ、何なんだ。
 まるで『僕』の中身を全部見透かしているかのような、その上であえて感に障ってくるような人間。
 詐欺師たる僕が――――あれ?僕っていう人間は、本当にこういう人物だったかな。
 いや―――違うだろ。
 僕はそういう、正義に生きるような人間じゃなかった。
 人殺しの否定。そんな偽善を振るうような『つまらねえ』人間じゃなかったんじゃないか。
 じゃあ僕はどうしてそんなことを考えた?
 どうして僕はこんな真似をしている?

25 :

 その時、僕の―――『自分』の脳内に、何かが砕ける音が響いた。
 何かが劇的に紐解かれていく中、視界は不敵に笑って銀の刃を構える神無月君を、捉えていた。
「それが本性か」
 どすっ。

◇ ◇

 僕は知っていた。
 彼女、『詐欺師』葵崎蜜柑(あれだけ大声で独り言言ってたら誰だって名前くらい分かる)が、殺し合いのゲームに乗った殺人者であるということに、幸運にも一早く気付くことが出来たのだ。
 気付くことが出来た、と言えば大層なものだが、実際には偶然その現場を目撃しただけの話である。
 争奪戦開始直後―――ぶつぶつと、自分に『暗示』をかけている葵崎の姿を、ね。
 彼女の持つ技術は『詐欺』を極めた極地、自他を問わず人間に『暗示』をかけるものである、とまず僕は仮説を立てた。
 誰がどう見たって怪しい、にたにたと笑いながら何かを呟いていた人物が数秒後にはまるで人が変わったかのような、不自然とさえ言える善性を発揮し始めた事実を、偶然だとか個性だとか、そんなもので片付けていいとは思えない。
 自己暗示で人格を改革するーーそんな馬鹿馬鹿しい理論を成り立ててしまう人間を、放置してはおけない。

 彼女は自分に暗示をかけ、人格そのものを『騙した』。
 あたかも自らが悪と正義の狭間に生きるダークヒーローであるかのように振る舞いつつも、しかし争奪戦に必ず反逆する。そういう風に、騙してやったのだろう。
 誰にもその振る舞いが嘘だと気付ける筈はない。
 本人すらも自覚のない嘘を見抜くことはそれこそ、目撃者の人間くらいにしか叶わない。
 一番強力な嘘ってのは、自分への嘘だ。
 自分を作り替え、本来ではありえないような結果を生み出す事態さえ引き起こす。
 葵崎蜜柑の嘘のトリックははっきり言ってよく分からないし、彼女なりに『暗示を解く』手段を用意しているのか、それとも一生自分を騙し続けるつもりなのかもまた、分からない。
 ただ一つ、ここで僕がこの詐欺師の嘘を暴けたこと―――それは、何よりの幸運だった。
 これから僕が『あいつら』をまでに、不安因子は一つでも多く取り除いておきたかったのだから。

 目の前の女の胸に、僕は一切の躊躇なく、裁縫用の大鋏を突き立てた。
 こんなに簡単に暗示を破れるとは思っていなかったけど、深くは考えないことにしよう。

「あれ」

 その時だ。僕は目の前の光景に、僕の身体に伝わっている感覚に、違和感を覚えた。
 電流が走るように脳髄が、違和感の正体を即座に導き出さんと演算する。
 歯車が噛み合わない。当たり前の現実が当たり前でなくなっている。
 この女―――葵崎蜜柑の身体に、鋏は一寸たりとも侵入できていなかった。

「な………っ!?」
「ざぁんねんでした。お姉さんをんなら、もっと優しくしなきゃ駄目だぞっ☆」

 僕はそんなに力のある方じゃないし、どちらかと言えばひ弱な方だと自覚している。
 『あの娘』を守るだけの力さえ持っていない、情けなくて使えない男だという自覚はある。
 だが―――先の鋭利な刃を薄い衣服越しに突き立てて、それで無傷など――ありえない。
 葵崎は先刻の、暗示で自らを騙していた時とは大違いの邪悪な笑顔で笑っている。
 圧倒的不利な状況だというのに、妙に自信ありげな表情で、動けない僕に右手をかざした。

26 :
「やぁ、『初めまして』神無月君。お姉さんは葵崎蜜柑。御察しの通り詐欺師だ」
「………驚いた。―――そういうことだとはね。いくら何でもそりゃ、やり過ぎってやつだろ……」
「お姉さんの嘘を見抜けたところは誉めてあげようかね。ただし、甘いよホームズ。
あたしの能力は『世界に嘘を吐く』ことさ。
あたしの身体には包丁は刺さらないしギロチンも通らない。
逆に言えば、爪楊枝でもあたしは殺せるし、首を切りたきゃ裁縫糸一本で事足りる。
あたしが軽く物を放ればそれは弾丸の威力になるし、思い切り投げたらゆっくり飛ぶ訳だ」
 言葉だけで見れば、ただ物事があべこべになっているだけだ。
 しかし彼女はきっと、意図的に一部の情報を開示していないのだ―――それこそ、詐欺師の常套手段。
 今ここで僕が『あべこべ』を攻略したとしても、葵崎は笑いながら僕を踏みにじる。
 僕では敵わない。どう考えても、この女をのは現実的ではない。
 いやいやそれよりも、僕、絶体絶命じゃね?
 目の前には嘘を吐く怪人。
 その距離およそ一尺となし。
 彼女が『軽く』手を真横に振りでもすれば即座に、僕の身体は根こそぎ破壊される。
 唯一の頼りである鋏もまともな使い方では通じないし、そもそもこの詐欺師が僕にそんな反撃の機会を許すとも思えなかった。やれやれ―――どうしたものか。
 しかし、僕はない。
 『あの娘』と共に帰るまでは、絶対に死んではやれないのだ。
 たとえそれが世界の決定だろうが何だろうが、僕は誰のためにも死んでやる気はない。
「それっ」
 少女のように甲高い声で掛け声一つ、葵崎は僕の身体を軽々と―――しかしこれでも加減した威力なのだろうが―――、片腕で投げ飛ばした。
 空気抵抗が肌に痛い。
 気管の中で何かが暴れているように呼吸が出来ず、見事に僕は文字通り『すっ飛んでいった』。
 意識を失うってことは今のところないけど、流石に叩きつけられたらやばいな。
 良くても四肢をどこか折ることになるだろうし最悪首がぽっきりいってしまうかもしれない。
 でも、そんな心配はまさしく無用だ。
 葵崎蜜柑が僕をわざわざ、手加減してまで放り投げたのは―――単純に、足止めだったんだろう。
 世界を騙す女が激突することを面倒臭がる程の、それでいてこんな危機的状況にある人間を見つけたなら手を差し伸べずにはいられない、そういう人物。無論信頼できる。
 彼女は人を騙すことに秀でていたからこそ、人の本質を見抜く力もまた、卓越していたのだ。

(本当……厄介な女だよな)

 予想通りに、お人好しのヒーローに僕がキャッチされたことは言うまでもない。
□ □
 
 そんな劇的なファーストコンタクトを果たした僕と―――『消防士』見上壮一さんは、ひとまず情報の交換を行っていた。
 幸い此所は寂れた廃墟街。入り込む建物などいくらでもある。
 手近な一軒の飲食店跡に入り込み、埃塗れの椅子に腰掛けて僕らは情報交換を開始した。

「ふむ……見上さんは、知り合いと呼べる人物がいない」
「ああ。残念ながら、君の言った『白宮つぐみ』という名にも心当たりはない」

 彼が何かしらの未練を抱えていることくらいは、その陰りを含んだ表情から簡単にわかる。
 幸運だったのは、この人の人柄は『修羅』の道を往くことが出来ないという善良なそれだったことか。

27 :
 過去を変えられるというのは、確かに魅力的だ。
 どんな失敗も―――後悔も、取り返せる。
 僕は自分がこの争奪戦の参加者として選ばれた理由、自らの抱える未練が何かも、理解している。
 だが、状況が少し変わった。
 あるはずのないその名前を見た瞬間に、神無月恭一の執るスタンスは明確に決定した。
 白宮つぐみを守る。
 それだけのこと。

「……では、これからしばらくよろしくお願いいたします。ですがその前に、僕の知っている限り最悪の危険人物の話をしておきましょう」
 僕は自分の声色が平静を保てているか分からなかった。
 争奪戦開始直後、参加者名簿でこいつらの名前を見つけた時――自分はどんな顔をしていたのか。
 きっと、憎悪と憤怒に塗り潰されたひどく無様な表情を浮かべていたに違いない。
 そして、僕にこの争奪戦での目的を明確に示唆した名前でもある。
 一体何人の人間の人生を奪ってきたのか分からないような外道の鬼畜、『サーカスの殺人鬼』。
 あの二人をまで、僕は絶対に止まれない。
「松下健吾と樋之上壊―――『サーカスの二人』と言えば、分かって頂けますよね、見上さん」
「………それは、確かに最悪だな。手段を選ばず、獲物を曲芸のように鬼畜―――許せん」
 僕は一瞬ぎょっとした。
 見上さんの顔は相変わらずの陰りの色に包まれていたけど、その両目が、変わった。
 肉親を殺された猛禽類のように威圧的な光を灯し―――『怒って』いる。

「……済まない。職業柄、人命を弄ぶ輩はどうしても許せん性分なんだよ。………ったく、私が語れたことではないだろうに」

 見上さんは、押し出した激情を消し去って哀しげに苦笑する。
 この人の『未練』もまた、僕と同じような、『誰かを救えなかった』ことなのかもしれない。
 この人は、つい数時間前までの僕に似ている。
 抜け殻のように無価値な日常を過ごし、自分が弱いせいで失ってしまった恋人の面影描く、僕に。
 名簿の中に彼女、白宮つぐみの名前を発見しなければ、今もそんな風になっていただろう。
「見上さん」
「何だ」
「少し、ね。僕の過ちの話を聞いてもらえませんか?」
 特に意味のない行動。
 そんな無駄話をしている暇はないのに、僕はそうせずにはいられなかった。
 自分を納得させるために、自分の弱さを嘲って貰いたいという身勝手な理由で。
 見上さんは、静かに頷く。
 肯定の意思、か。

「……私で良ければ聞こう。不謹慎かもしれないが、興味がない訳でもないのでな」
「ありがとう。そうですね、遡れば、四年前になります」

 脳内に再生される、今も尚色褪せぬあの公園の思い出。
 未来永劫訪れることは二度とないであろう程の幸せ。
 長い時間を共に過ごしてきた、長所より短所が多い二人の日々が、鮮明に甦る。
 白宮つぐみ。僕の恋人。
 優しい、人見知り、コミュ障の少女。
 神無月恭一。僕。
 屁理屈、意気地無し、雑魚。いいとこがない。

28 :
 似た者同士の毀れ物二つが織り成した幸せと絶望の記憶を反芻しながら―――、
 僕は、語り始める。

【B-1/廃墟街/朝】
【神無月恭一@生還者】
[状態]健康
[装備]裁縫用の大鋏
[道具]支給品一式
[思考]
基本:つぐみと主催を打倒
【見上壮一@消防士】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、不明支給品
[思考]
基本:他人の命を守る
【名前】 神無月恭一(かんなづき・きょういち)
【性別】 男
【年齢】 16
【職業】 男子高校生
【身体的特徴】 華奢な矮駆
【性格】 屁理屈を並べ立てて満悦する悪癖を持つ。
     嫌いな人間にはとことん厳しいが、好きな人間には甘い
【趣味】 推理
【特技】 作戦の計画
【経歴】 十二歳の時から白宮つぐみと交際中。
     つぐみが殺されて以来抜け殻のような日々を過ごしていた。
【好きなもの・こと】 彼女(白宮つぐみ)
【苦手なもの・こと】 下品な人間
【特殊技能の有無】なし
【備考】 『白宮つぐみを死なせてしまった』ことを未練としていて、そこを研究局に狙われた。
     樋之上壊たちを激しく憎んでいる

29 :

【名前】 見上壮一(みかみ・そういち)
【性別】 男
【年齢】 35
【職業】 消防士
【身体的特徴】 表情に陰りがあり、引き締まった体つき
【性格】 彼の犯した事件以降は罪悪感を常に抱えている。
     しかし消防士という立場に長らくいることで、無作為に命が奪われることを極端に嫌う
【趣味】 訓練
【特技】 人命救助
【経歴】 普通の大学生だったが、火の不始末で一人の少女を殺してしまう。
     その少女の亡霊に取り憑かれたまま生きてきて、人を救うことにとにかく盲目。
【好きなもの・こと】 酒
【苦手なもの・こと】 愛情
【特殊技能の有無】なし
【備考】 人を救うことに特化し過ぎたことで、人間離れした身体能力を得ている
◆ ◇
「うふふ。くふふ、くふふ」
 不気味な薄ら笑いを漏らしながら、その女性は、自らを取り戻した詐欺師は、会場を闊歩していた。
 つい十数分前までにあった瞳の光は、艶やかで妖艶なそれへとすっかり変貌。
 自分にかけた暗示を解かれた、自分が攻略されたという事実に悦んでいた。
 完璧な詐欺師である自分が、葵崎蜜柑が一杯食わされたことが、たまらなく滑稽で、可笑しい。

「神無月君は凄いね。あたしも流石に驚いちゃったよん」

 単なる一高校生が、現場を目撃していたとはいえプロの嘘を破ったのだ。
 これが、興奮せずにいられるものか。
 本性を表した詐欺師は、いつもに増しての、とてつもなく不吉な上機嫌に浸る。
 世の中というのはこれだから面白い。
 これだから、人生というのは止められない。誰にだって一発逆転のチャンスが平等に与えられている。ただし格差がそれを阻んでいる、高難易度のゲーム。
 現にこうして、上位のキャラクターを自称する葵崎蜜柑が、明らかな下位のキャラクターに負けた。

30 :
この争奪戦という『バグ』の中でなら、そんな奇跡がいとも簡単に起きる、起こされる。
「たまんないね」
 口許が三日月の形になる。
 手の中で支給された銃、ワルサーP99を弄びながら、玩具を目の前にした幼子のように笑う。
 一つだけ、幼子のそれと違うところがあるとすれば―――、それは『邪気』の有無だろうか。
「じゃあ始めよう、争奪戦。警察にあたしの情報をリークされたことを消したかったんだけど……これはこれでいいじゃん。優勝、してやるよ」

 何人もの人間を、世界を騙して狂わせてきたあべこべの詐欺師。
 彼女の行く先に待つものは栄光か、それとも一発逆転がもたらした奇跡的な敗北か。

 ――――答えが出る瞬間を楽しみにしながら、葵崎は薄ら笑いをまた漏らす。

【葵崎蜜柑@詐欺師】
[状態]健康
[装備]ワルサーP99
[道具]基本支給品一式
[思考]
基本:優勝狙い

【名前】葵崎蜜柑(あおいざき・みかん)
【性別】女
【年齢】22
【職業】詐欺師
【身体的特徴】常ににこにこと笑っていて、スタイルがいい
【趣味】ゲーム
【特技】話術
【経歴】中学の頃に友人を騙して金をせしめたことに快感を覚え、詐欺師となった。
最近警察にマークされてしまい、そのミスを帳消しにするために争奪戦に参加した
【好きなもの・こと】ギャンブル
【苦手なもの・こと】正々堂々
【特殊技能の有無】世界を騙す能力。詳しくは本文中にて言及
【備考】詐欺師だが金目当てというよりも騙される人間を見て楽しむのが好き。
ギャンブルは好きだがとにかく下手で、詐欺師なのにギャンブルとなるとポーカーフェイスが
急に出来なくなる。

31 :
投下終了です。
避難所にてもう一本落とす予定

32 :
投下乙です。
葵崎さんはいい感じに曲がった悪役みたいな感じでいいキャラしてるなぁ。
では自分も冤罪ロワ(DOLオリ2ndだけどこういう風に言う事にします)投下します。

33 :
私が住む村には、『魔女』と言われる存在がいた。
そいつがどんな奴だったかも覚えてはいない。
いや――――記憶にないと言う方が正しいだろう。
そいつは、最初のうちは騒いではいた。
「私を出して」、「どうしてこんなひどい事をするの」などと。
周りの奴は耳を傾けようとしなかった。
かくいう自分も耳を傾けなかった。
魔女の雑言だ、出せば私たちは殺されてしまう。
そう自分自身に言い付け、私は彼女にあまり近づかないようにした。
ある日、私が彼女の牢屋を覗いた時だった。
私は、自分自身の目を疑った。
体中赤く腫れていて、元の肌の色が分からないほど。
快活だった目は、光を失い虚空を見つめている。
何よりも鼻についたのは、雄の匂い。
口で例えるには、悲惨すぎる。
その光景を見て、私はすぐに牢屋を離れていった。
彼女の処刑の日、彼女はすでに『人形』のようになっていた。
ただ指示に従い進む、ただの操り人形。
それを見る中で、私の耳に声が聞こえてきた。
『魔女』の母親だろう。
そして、執行を終了した。
その数日後、私は逮捕された。

34 :
「……何故だ、何故私が」
今の現実を私は受け止められない。
この殺し合いという現実に。
この場に『魔女』がいる現実に。
なにより、私が冤罪を受けたという現実に。
私は手を出していないではないか。
彼女を殺したのはあの男じゃないか。
あいつを『魔女』にしようとした村長ではないか。
私は何もしていない。
私は何も悪くない。
悪いのは――――――――
あの、村人どもだ――――――――
私に罪をなすりつけ――――――――

自分たちの罪を逃れた――――――――


あの屑共だ


「」
あいつらを、殺してやる。
この場を優勝して、あの村に戻り全員殺してやる。
勿論、あの『魔女』もだ。
あいつがいなければ、私は冤罪を受けなかった。
私の人生は順風満帆だったはずなのだ。
許さない、あいつらを誰ひとり許さない。
私の冤罪――――『殺人』を本当の物にしようが関係ない。

「私は、お前らを許さない」


35 :
【D-1】
【鵜飼光圀・殺人】
[状態]自暴自棄
[所持品]支給品一式
[スタンス]マーダー
<オリキャラ紹介>
【名前】鵜飼 光圀 (ウカイ ミツクニ)
【罪名】殺人
【性別】男
【年齢】34
【職業】村職員
【性格】不明
【趣味】不明
【特技】不明
【好きな事・物】不明
【嫌いな事・物】不明
投下終了です。
題名:「お前らを許さない」
登場人物:鵜飼光圀
ちなみに『不明』部分やwikiの備考部分は話が進むごとに変化して行きます。

36 :
ものすごいースレですね^^

37 :
皆様投下乙です俺も投下します

38 :
23話:賑わいを見せる錆塗れの遊戯場
「し……にたく……ぁ……」
喉笛を切り裂かれたドーベルマン獣人の若い女性が、涙を流しながら崩れ落ちた。
己の右手の爪を赤く染めた濃いグレーの雄の人狼、コーディは、
血の付いた爪をぺろりと舐めると、女性の荷物を漁り始める。
女性が装備していた鶴嘴と、デイパックからもう一つ、旧式の回転式拳銃、S&Wスコフィールド・リボルバーと、
予備の弾を発見した。
「銃か、貰っておこう」
鶴嘴は重く使いにくいと見たコーディは捨て置き、スコフィールド・リボルバーと予備弾のみ手に入れる。
「さあて、次に行こうかな……?」
次の獲物を捜すためコーディは歩き出した。

「……行った、か?」
人狼が去った事を確認すると、忠則はドーベルマン獣人の女性の死体に近付く。
喉笛を切り裂かれ大量出血をして死んだようだ。
その表情からは恐怖と苦痛、絶望が感じ取れる。
せめて顔に布でも被せてやりたい所だが都合良く布は見付からない。
手を合わせ、忠則は人狼が去った方向とは別方向に進んだ。
「……」
目の前で死人が出る所を見て改めて自分達が置かれている状況を、忠則は知る。
「お願いだから、無事でいてくれ、凌河」
どこにいるのか、まだ生きているのかも分からない息子に対する思いは、募る一方だった。

ドゴオオン……。

「!」
割と近くから爆発音のような音が聞こえた。
「……何なんだ、何が起きたんだ?」
爆発物を支給された参加者もいるのだろうか。
音がした方向は、さっきの人狼が歩いて行った方向のような気がする。
もしかしたら、息子が襲われたのかもしれない――――その可能性も否定出来ない。
忠則は爆発音のした方向へ向かった。

39 :

「ああ、ああ……」
突然の爆発の直後、視界が暗転し、気が付くと美祐は身体中に痛みを感じながら空を見ていた。
しかし下半身は痛くは無い。何故だろう。
「私の、身体、が……!?」
何が起きたか上体を起こして下半身を見る。
そこには下半身は無かった。
下半身の代わりに、ぐちゃぐちゃの赤い肉の何かが広がっている。
チューブ状のソーセージの出来そこないのような物も見える。
成程、痛く無い筈だ、下半身は跡形も無くなっているのだから。
「お、大迫、さんは」
他人の心配をしている場合等では無いのだが気が動転している美祐は同行していたはずの照夫の姿を捜す。
「いっ……」
すぐに照夫を発見する。
厳密に言うと「照夫」だったもの、だが。
頭部の辺りがもう原型を留めておらず、どう見ても生きているとは思えない。
「……」
呆然と照夫の死体を眺めていると、毛皮に覆われた獣の身体で視界が塞がれる。
顔を上げると自分に銃口を向ける人狼の雄の姿。
この人狼が爆弾か何かでも自分達に投げたのだろうか。
今となっては確かめる術も無い。
それより間も無く自分も死ぬらしい。
例え人狼が来ていなくても下半身がこの有様ではもう絶対に自分は助からないと、美祐は思う。
ダァン!!
銃声と同時に額の辺りに衝撃を感じる。
視界が真っ赤に染まって行く。
意識も遠退いて行く。

40 :
(なお、しげ、ごめん――――)
どこかにいるはずの愛する飛竜の名前を心の中で呟き、再会もしない内に死んでしまう事を謝る。
そしてそれが美祐の最期の思考となった。
先刻殺害した少年から奪った手榴弾の威力と同じく殺害した女性から奪った回転式拳銃の使い勝手に、
人狼青年、コーディは感心する。
軍人風のドーベルマン獣人の男の持っていた小銃は爆発で壊れてしまったらしい。
少女が持っていた金槌は爆風で吹き飛ばされ近くの建物の壁に突き刺さっている。
役に立ちそうな物は無さそうだ。
もはや肉塊と化した二人の死体にももう興味を失ったのか、コーディはさっさと歩き去って行った。

爆発音を聞いた忠則がその現場と思しき場所に到着する。
そこでは、何か爆発でも起きたような形跡が確かにあり、
肉片や血が飛び散っていた。
原型を留めていない死体が二つあり片方には白いシーツらしい物が掛けられている。
もう一つには虎獣人の少女が今まさにシーツを掛けようとしていた。
「これは、何が起きたんだ」
「……私にも分からないです、私が来た時にはもうこんな有様で」
「私は久木山忠則、君は?」
「深谷春那と言います、私を疑わないんですか? 私がこの人達を殺した可能性だってあるのに」
「……君が殺したのなら、わざわざシーツで死体を覆ったりしないだろう」
「……」
「それにしても酷い事をする……さっき、向こうでグレーの人狼がドーベルマンの女性をのを見た。
こっちの方に歩き去ったから、もしかしたらそいつの仕業かも……」
「私は見ていませんが……」
「君は一人か」
「はい」
「……こんな状況で聞くのも何だが私は息子を捜していてね、凌河って言う、私と同じ白犬の獣人なんだ」
「見てません……私も人を捜しています。唐橋圭輔って言うんですが……」
「いや、見ていないな……」
血と火薬の臭いが漂う中、二人は情報を交わすがどちらにとっても有益な情報は無かった。
「……私は殺し合いには乗っていない。君も、か?」
「はい」
「何なら一緒に行かないか」
「良いんですか」
先刻酒場で盛っていた二人組はあっさり見捨てた忠則だったが、
少女一人でこの殺し合いの中行動しているのは流石に放置は出来ない。変な意味では無い。
「……ありがとうございます、宜しくお願いします」
「ああ」
二人は一緒に行動する事となった。

41 :
【沖元実沙  死亡】
【大迫照夫  死亡】
【萩野美祐  死亡】
【残り  30人】
【朝/F-3廃遊園地】
【コーディ】
[状態]腹部に浅い刺傷
[装備]S&Wスコフィールド・リボルバー(5/6)
[持物]基本支給品一式、.45スコフィールド弾(12)、クロスボウ(1/1) クロスボウの矢(10)、
投げナイフ(1)、ミルズ型手榴弾(2)、粉末ジュースオレンジ味(3)
[思考・行動]
0:殺し合いに乗り優勝する。
1:バイロンさんは放置。アドレイド、クローイちゃんは敵いそうなので会ったら始末する。
[備考]
※知人はバイロン、アドレイド、クローイの三人です。
※久木山忠則、深谷春那から離れた場所にいます。
【久木山忠則】
[状態]健康
[装備]クナイ
[持物]基本支給品一式、クナイ(2)
[思考・行動]
0:殺し合いはしない。凌河を捜す。
1:深谷さんと行動。
[備考]
※コーディを危険人物と認識しました。
【深谷春那】
[状態]健康
[装備]日本刀
[持物]基本支給品一式
[思考・行動]
0:圭ちゃんを捜す。
1:久木山さんと行動。
[備考]
※特に無し。

42 :
投下終了です、あ、支給品情報忘れてた……Wiki収録時に加えておこう

43 :
>>36
ー気持ちいいじゃない

44 :
こんばんは。みなさん投下乙ですー。
四字熟語ロワ29話、前編を投下します。

45 :

 このとき、ボクと青息吐息さんがとれた選択肢は3つあった。
 1、逃げること。
 2、嵌めること。
 そして3は、――戦うこと。
 あの状況に陥った場合の対処法をシンプルに区別するのなら、この3種類になるだろうとボクは思う。
 まずひとつめは逃げることだ。
 目の前に現れた切磋琢磨、紆余曲折の両名から逃げて、体勢を立て直す。
 ボクも青息吐息さんも連戦するには体力を減らしすぎているから、これは一見、戦略的撤退のように見える。
 けれども実を言えばそうではない。
 もしボクらが切磋琢磨たち二人を置いて逃げれば、彼らは確実にA-2を検めることになる。
 そこにあるのは鏡花水月の死体。それにエリア一面に広がる氷や銃撃の跡だ。
 ここから、どうやって、は無理にしても、誰が――どんなやつが彼を殺したかはほぼ確実に推理されてしまう。
 すると結果的に苦しくなるのはボクらだ。
 優勝を目指すうえで、人を殺した危険人物というレッテルはあまりにも不利になる。
 さらにはA-2にたどり着いた切磋琢磨たち二人によって、他の参加者にまでそれが伝われば。
 体力が回復したときには残りの参加者がみんな敵……という詰みの状態を作り出す可能性すらある。
 ゆえに、これは却下した。
 案その2はこの、敵を作ってしまうという弱点を回避するものだ。
 嵌めること。
 切磋琢磨、紆余曲折の両名に弁明を行い、敵じゃないと分からせた上で不意をついてやり方だ。
 具体的にはスタンスを誤魔化した上で、まずは事実を交えながら説明する。
 A-2まで切磋琢磨たち二人を連れていき、鏡花水月の死体を見せた上でこう言うのがいいだろう。
 ボクたちは殺し合いをするつもりはなかった。
 しかし、鏡花水月に襲われてしまった。必死に反撃した結果、鏡花水月は倒せたが、彼は死んでしまった。
 だからこれは正当防衛なんだ、と。こう言えば8割以上の確率で信じてくれるだろう。
 そして油断したところでボクが彼らに銃弾をぶちこむ。
 ボクの《先手必勝》のルール能力により、この時点でボクらの勝利は確定する。
 一見こちらは、何の問題もない案のように見える。だけれど大きな問題があった。
 成功確率とか、失敗確率とか、それ以前の大きすぎる問題だ。
 この作戦は結局、嘘をつくことが前提にある。
 そう。
 ボクたちは人殺しだけど――もうこれ以上、自分に嘘をつきたくなかった。
 こちらのほうがいいと思っても、自分を騙していては意味が無いのだと知った。
 自分を騙すことは、苦しくて、悲しいから。だからボクと青息吐息さんは、案その3で合意した。
 案その3。
 待ったも切ったも張ったもない先手必勝の考え。
 拡声器で人が寄ってくるならば、それを逆に利用してしまえばいい。
 近くに寄ってきた奴を、片端から殺していく。
 3つの中で最もシンプルで。ゆえに一番バカげていて。
 ただしアホみたいにスカッとしたやり方を、ボクたちは選択したのだ。

46 :

「――さあ、よく聞いておいたほうがいいですよ!
 この《先手必勝の》銃弾が、戦いを終わらせる音を!」
 ボクは開戦の合図とばかりに、手に持つ拳銃《百発百中》の引き金を引いた。
 主催が手を加えたらしい魔法の銃口から放たれた銃弾は、
 対峙する男、切磋琢磨へと吸い込まれるようにして飛んで行く。
 長い前口上を述べておいたが、本来ならばここでおしまいだ。
 銃弾を避けることができる人間なんてそうそういないし、当たれば当然致命傷、
 さらにその上、言った通りボクのルール能力によって《この銃弾を受けた者は確実に負ける》。
 鏡花水月には《幻想》を張られたおかげでさほど脅威を与えられなかったボクのルール能力だが、
 もしここが普通の殺し合いなら、この銃を持った時点で優勝が確定するくらい恐ろしい能力だ。
 でも、この殺し合いは普通の殺し合いではない。
 こちらに絶対のルール能力があれば――あちらにも確実にルール能力はある。
「紆余!」
「ええ。《死に急がば回れ》!」
 切磋琢磨におんぶされている顔を包帯で覆った少年、紆余曲折が叫ぶ。
 すると少年の口上に合わせて、真っ直ぐ飛んでいたはずの銃弾が《曲がった》。
 70度……いや80度? 曲がった銃弾は駐車場に並ぶ車へとありえない角度で突っ込んでいく。
 車体を貫通する小気味よい音が聞こえると同時に、
「二の型、突進!」
「むっ」
 包帯塗れの少年をおんぶしたまま、今度は切磋琢磨が、ボクに殴りかかってきた。
 いつのまに距離を詰めたのか。
 慌てて銃を懐に仕舞い、両腕でガードするが――もう遅い。これでボクの《先手必勝》は後手に終わる。
「ぐっ……青色吐息さん! 後ろの少年を!
 彼を殺さなければ、こちらの攻撃は全て曲げられてしまいます!」
「えっ!? あ、うん、わかった!」
「まだだぞ! 二の型突進――”再”!」
「なっ」
 
 いや、それだけじゃない。
 ボクは青息吐息さんに指示を送った、が、切磋琢磨はその間に、
 ガードしたボクの左腕に当てていた拳をさらに勢いづけて奥へと押したのだ。
 みしっ。と嫌な音。
 手を押し当てたまま瓦割りを行う達人のようなその動きに、ボクの左腕の骨はたやすく破壊される。
 電撃に似た痛みが容赦なくボクの腕をさかのぼり、脳天までしびれさせる。
「――ッ! 痛ッ、うう!」
「《はぁぁ……っ》! セ、センくん!」
「タクマさん、銃を!」
「がってんだ! 三の型、防御――”回し”!」

47 :

 思わず左腕を後ろにのけぞらせ、ガードが甘くなったところに今度はするりと抜き手。
 蛇のように滑らかにボクの懐まで腕を伸ばした切磋琢磨は、
「さあて、悪いけどよ、その銃はもらわせてもらうぞ!」
「《はぁぁ……っ》! よし、準備かんりょう」
 青息吐息さんの準備が終わるころにはボクの懐から銃を抜き取り、後ろへと放り投げていた。
 それをキャッチしたのは、彼の背中の紆余曲折だ。
 ただ、やはり目をやられているらしく、おぼつかない様子ではあったが。
 ……ばすっ。
 と――ボクの耳はここで、不可解な場所から聞こえた音を捉える。
 目を一瞬そちらに向けると、そこには車体に小さな穴の二つ空いた車。
 そして地面に、先ほど《曲げられた》はずの銃弾。
 力を失くしたかのように転がっている。
 これは?
「おっと、っと」
「《氷の槍》――突き刺してあげるわ!」
「もう一撃! 二の型、突進――”再々”ッ」
 首をかしげる暇はない。攻撃シークエンスはまだ終わっていない。
 さらに正拳を打ち込もうと拳を固める切磋琢磨、避けようと後ろへ倒れこむボクの目に、
 ドレスの一部を引き裂いて丸め、《ため息》で凍らせた槍を作って駆ける青息吐息さんが見えた。
 先端が恐ろしく尖っている、人くらい容易に貫けそうな凶悪なフォルムの氷槍。
 いい武器だが、ダメだ。
 武器を持って攻撃しても、逸らされている間に反撃されるだけ。
「投げて! 投げて攻撃です、青息吐息さん!」
「え、ええっ? どういう……とりあえず分かったわ! 行けぇっ!」
「タクマさん、横にも注意お願いします」
「おう! ……ハッ!」
「くっ……はぁ、はぁ……さすが、ここまで生き残っているだけはある」
 折れた左腕に鞭をうち、切磋琢磨の正拳をボクはバク転で回避、距離を取る。
 青息吐息さんはボクの指示に従い、1メートルほどの距離から紆余曲折に向かって《氷の槍》を投げた。
 四字熟語の意味や先の銃弾から考えて、この攻撃は彼のルール能力の弱点をついているはず。

48 :

「フンッ!」
「なっ……あーっ、せっかくの槍が! ひどいわよ!」
 案の定、若干逸らされこそしたものの、
 青息吐息さんの《氷の槍》は最終的には紆余曲折のほうへ向かった。
 当然のように切磋琢磨に横から掴まれてしまったが、
 やはり彼のルール能力は攻撃を《迂回》させるだけのもののようだ。
 《逸らされようが最終的には当たる》。ならばやりようはある。
 戦場に、パキッ、と冷たい音が鳴る。
 アイスの棒を折るようにして、切磋琢磨は青息吐息さん自信作の氷の槍を折った。
 戦いが始まってから、ここまでで1分ほどだろうか。
 ひとつひとつの動作や指示が明暗を分ける、間違えることは許されないこの空気。
 この空気は嫌いではない。適度な緊張感と死への恐怖があれば、ボクたちはいつまでだって戦える。
「《はぁ……はぁ》」
「青息吐息さん、次の槍を作って。両サイドから攻めます」
「おーけー。《はぁ……はぁ》」
 だが、いまの一合ではボクと青息吐息さんが”負けた”のは間違いないだろう。
 向こうはダメージゼロ、せいぜい紆余曲折のルール能力について情報アドバンテージを失った程度。
 対してこちらは二人ともルール能力を晒してしまった上に、ボクは左腕をやられてしまった。
 じんわりとしていた痛みが、徐々にズキズキとした、はっきりしたものへと変わっていく。
 少し視界がかすれているのは、メガネをかけてないからだけではない。
 もうとっくにボクと青息吐息さんは活動限界を超えている。
 最初の銃撃を避けられれば、こうなることは目に見えていた。
「切磋琢磨さん、気を付けて」
「次は両側からくる、だろ。大丈夫だ。今の手ごたえなら、冗談抜きで対処できる」
「むかっ。ずいぶん自信があるじゃない」
「はは、御冗談を。そうですね、確かに――ボクたちは現在”負けて”いますが」
 だけれど、ボクたちは。
 ボクと青息吐息さんは、まだ完全に”負けて”などいないのだ。
 負けていなければ、チャンスはある。
 間違っていたらそれを正せる。成功するまで挑戦できる。
 生きているかぎり……《先手必勝》に失敗しても、人生は終わらずに。やりなおすことができる。
「《仕切り直し》です」「ええ、《仕切り直し》よ」
 ボクと青息吐息さんは、相手に聞こえるよう、さりげなくそう呟いて。
 同時に前へ向かって地面を蹴った。
 《第二ラウンド》へ。
 ボクが鏡花水月を打ち破った、ルール能力の向こう側へ。

49 :
投下終了です。中編、後編は近いうちに投下します

50 :
前日の続き、中編投下しますー

51 :

 ――最初から俺はそれについて、どこか頭に引っ掛かっていた。
 だけど俺は紆余ほど機転も効かないし、頭も良くないから、それについて深く考えようとはしなかった。
 それは勝ち負けについての相手の発言だ。
 俺たちが戦っている二人、とくに銀髪の男のほうは、妙に勝ち負けにこだわっている。
 最初には「殺し合いに”勝つ”」と言っていたし、今だって、「僕たちは”負けて”いますが」なんて言って。
 ある種、殺し合いに参加していない俺が言うのも変だが、殺し合いは勝ち負けじゃないはずだ。
 生きるか死ぬか、そのはずだ。
 それに一見こっちが流れを握ってるように見えるが、まだ勝ち負けを判断するには早すぎる。
 紆余のルール能力が攻撃を逸らす方向はあくまでランダム。
 あの銃弾はたまたま左に飛んで車に当たってくれたから良かったが、
 仮に空に向かって《迂回》していたら4秒後にはそのままこちらに向かっていた。
 危ないところだったのだ。
「仕切り直し……?」
「ええ。《第二ラウンドです》。行きますよ」
 決定的だったのは、いま銀髪の男が口走った「仕切り直し」というフレーズだ。
 第二ラウンド、だなんて、今までのことは忘れるような言いぐさを、なぜ。
 試合やゲームじゃあるまいし、何を仕切りなおすっていうんだ?
「……? っと!」
 思わずそちらに意識を向けて初動が遅れた。
 折れた左腕をものともせずに突っ込んでくる銀髪の男は、
 ここまでのルール能力と老師のトレーニングで《強化された》俺の力量にひるむことなく、
 したたかに口角を上げて笑みながら、片足を上げて蹴りの動きをしていた。
 すでに蹴られている……紆余のルール能力で軌道が逸れているが、あと何秒だ?
 そう感じた数瞬後、蹴り足はスローモーションからいきなり速度を上げて、俺の首を狩りに向かってきた。
 当たる。
 とっさに両腕をクロスさせ、ガードの体勢を取る俺に、
 なんとも黒い嫌な予感が閃いて、同時に後ろでなにやら考え込んでいた様子の紆余が突然叫んだ。
 
「タクマさん! 受けちゃだめだ、避けて!」
「なっ、……ぐうっ!?」
 その言葉に俺は上体をひねり、慌てて回避し――ようとしたが、
 回避しようとした先に青息吐息が後方から放った《氷の槍》が存在し、俺の動きを阻害していた。
 がすっ。
 ガード状態の腕に強くこすれるようにして、先手必勝の靴の先が俺の腕に当たった。
 《仕切り直し後。先に、ダメージを喰らった》。
「《決まった》」
「……!?」
 メガネをかけていない先手必勝が、
 折れていない右腕で眉間を触り、メガネを上げるような動作をしてそう言うと、
 次の瞬間、俺の脳内に浮かんできたのは圧倒的なまでの――負けるビジョンだった。
 どこから攻めても。
 どこから守っても。
 どれだけ策を練っても、どこまでも逃げても、どうしようもなく哀願しても、
 たとえこれからどんな出来事がこの四人の間に起ころうとも、
 絶対に負けてしまうという確信のようなものが、急に頭の中に浮かんできたのだ。

52 :

「なっ……え……?」
「タクマさん! 宣言を! 《敗北宣言》でリセットしないと、」
「そうはさせないわよ」
 ダメ。これもダメ。あれもダメ。どうして?
 老師の影を追わずに自分で考えているからか?
 俺の脳内でシミュレートされるここからの戦いのパターン、その全てが俺と紆余の敗北を告げている。
 塗りつぶされていく勝利への道筋を前に俺の思考は混雑し、紆余の言葉も耳に届かず、
 いつのまにか前へと回り込んでいた青息吐息の顔が目の前に現れると、
 もはや驚きの声を上げることしかできなかった。
「うおおおお!?」
「ふふふ、その口、凍らせてあげるわ!」
 大きく息を吸い込んで吐く。そんな単純動作も、ルール能力が加われば凶器となる。
 エリアを凍らせるほどの威力はないものの、
 《すごく冷たい》青息吐息の《ため息》を顔面に浴びた俺は、パキパキと自分の口の周りが凍りつく音を聞いた。
 これではもう喋ることが出来ない。
「んむっ、んんっ!」
「タクマさん!」
「センくん! やったわ! これで勝ちよ!」
「ええ。どうやら後ろのミイラ少年くんは気づいたみたいですが、もう遅いですね。
 《仕切り直し》の合図は二人で言わなければ意味が無い。つまりこれでボクたちの完勝は確定した」
「んむっ!? んん!?」
 青息吐息が退き、先手必勝の隣に並ぶと、二人は揃って勝利宣言をした。
 どういうことだ、説明しろ、
 と言おうとする俺の口は《氷のマスク》に覆われ、意味のない音しか吐き出さない。
 その間にも頭の中では、俺の敗北する未来がどんどんはっきりと創造されていく。
 拳を打ち込んでもかわされて。俺の頭が銃弾に吹き飛ばされる。
 まるですぐに現実になってしまうかのようなリアルさをもって、それは脳内で展開されていく。
 いいや、もうほとんどリアルだった。何秒後か、何分後かまでは分からないが、
「まずい……このままじゃ、僕たちは殺される……!」
「そう。正解ですよ、紆余曲折くん。そしてもはや、これ以上の考察は無意味だ。
 おとなしく頭を垂れて命乞いでもするといいでしょう。もちろん、受託はしませんが」
「……んん、んんむんむ!?」
「青息吐息さん。紆余曲折からはまだ情報が得られそうです。いったん引きはがして」
「了解。といっても、力ずくでいけるかな、あたしの力で……って」
「ん……んん!?」
「あら」
 がくり、と。
 俺はいつのまにか、体に残存しているエネルギーとは裏腹に、地面に膝をついていた。
 傷もない、体力もまだあるのに、なぜか体が思い通りに動かない。
 魔法に――ルール能力にかかったみたいに。呆然と、虚空を見上げてわめくことしかできない。
「どうやら心より先に、身体が敗北を認めちゃったみたいね」
「……んんん!? んんん!?」
「あ、まだ分かってないのかしら? なぜあなたたちが負けたのか。じゃあ、教えてあげるわ」

53 :

 わめく俺の背中から、重さが無くなる。
 青息吐息がこちらに歩いてきて、紆余を俺から抱えるようにして奪ったのだ。
 だらんとして抱え上げられた紆余は一度は彼女を睨みつけようとしたものの、
 包帯塗れの顔では睨みつけることなどできないことに気付いたのか、抵抗をやめ、
 されるがままに任せていた。青息吐息は俺への説明を続ける。
「センくんのルール能力は、《先に攻撃を与えたら勝ちが確定する》というもの。
 最初の銃撃は外しちゃったけど、あれが当たってればあたしたちの勝ちは最初から決まってたの」
「……でも、僕の《迂回》で銃弾は外れて――タクマさんが先にあなたにダメージを与えた。
 だから、安心しきっていた。予想はできていたのに。……してやられました」
「同じ状況がさっきもありました。
 あなたたちと戦う前、ボクは鏡花水月の本体に攻撃を与える前に、彼の攻撃を受けてしまった。
 その時点でボクの敗北は決定していた……だから、《やりなおす》ことにした」
 悔しげに吐き捨てた紆余に、先手必勝が捕捉を加える。
 ヒントになったのは最初の最初、このルール能力に気付いたときのことだったと先手必勝は言った。
「ゲーセンで、ある参加者とエアホッケーをした時です。ボクは彼と3ゲームを行い、このルール能力で全勝しました。
 あのとき、3ゲーム全てで能力は発動していました。勝ち負けに関係なく、1ゲームごとに。
 つまり。――《ゲームを仕切り直しさえすれば、同一人物に対して何度でもボクの能力は発動する》。
 失敗するたびに仕切りなおせば、当たるまでずっとルール能力を行使できるというわけです」
「さっきあなたはセンくんの腕を折ったわ。だからそこまでの時点では、あなたは”勝って”いた。
 でもそれは1ゲーム目の話。《仕切りなおしたら無効よ》。そして今度は、あたしたちの勝ち。もう仕切り直しはさせない」
 青息吐息はそう言って、紆余の顔中に巻かれた包帯を少し緩め、
 出てきた口に息を吐き、《氷のマスク》を作り出す。
 これで紆余ももう喋れない。
 つまり、相手の言葉が真実ならば――バトルの勝ち負けを叫ぶ権利、
 《仕切りなおす》権利は、もう向こう側にしかない。
 俺はたった一発、それもかすり傷を受けただけなのに。それだけで勝ち負けが決まうなんて。
 こんなものは、闘いじゃない。
 戦いに対する冒涜だとさえ思う。
 だが、実際に屈してしまった以上、俺には何も言うことが出来ない。
 もう負ける以外に道はない。そしてこの殺し合いの場に置ける”負け”とは、すなわち”死”を意味していた。
 ぽとり、と、
 無理やり手を後ろに回された紆余のズボンのポケットから、最初に奪った銃が落ちる。
 それを拾った先手必勝が、地面に膝をつく俺のこめかみに、銃口を当てた。
「ではまた、百年後の来世で会いましょう」
 ひやりという、冷たい感触。
 あとは引き金に力がこもって、銃弾が筒から発射されれば、終わりだ。
 走馬灯のように俺の脳裏に思い浮かぶのは、ここまでの戦い。この”娯楽施設”で行ってきた、
 いろんな奴との闘いの軌跡だった。
 東奔西走。老師には完膚なきまでに負けた。
 傍若無人。あの男とは戦うことさえ許されなかった。
 破顔一笑。恐ろしいあのスーツの男は追い払えはしたが、あれは勝ちとは言えない。
 そして先手必勝、青息吐息。
 考えを改め、俺自身の戦いとして挑んだこの戦いでも……負けが確定してしまった。
 結局俺は最後まで、ここに来るまでと同じ、勝てない男として人生を終えるのか。
 嫌だ、と思った。
 でもどうすればいいのか。頭の悪い俺には分からない。
 分からない。
 引き金が、引かれて。
 ――「分からなくても、出来ることはあるじゃろう?」と、脳裏で老師が俺にそう言った。
「んんん…………んん、ぬんんんんんん!!!」

54 :

「!?」
 俺は自らの拳で、自らの顎に向けてアッパーを決めた。
 バキバキと音を立てて、俺の口を覆う硬い氷にヒビが入り、そして俺の頭が後ろに大きく動く。
 発射された銃弾は目と鼻の先をかすめて、再び遠くの車へ穴を空けた。
 次に俺は、後方に倒れた勢いのまま足を大きく上げ、足を下げて、ゆりかごのようにして立ち上がる。
 しっかりと先手必勝を見つめ、ッビシイ! と両手で頬を張ると、
 口を覆っていた《氷のマスク》はボロボロと崩れ落ちた。
 次に首を鳴らし、手足を振って力のこもり具合を確かめる。
 まだだ。
 まだ全然パワーが残っている。いつまでだって戦える。
 例え運命がこの戦いを負け戦と決めていようが――いつまでだって。
「あの状況から精神を振り戻しましたか……しかし、紆余曲折はこちらが預かっていますよ。
 《仕切り直し》は出来ません。あなたの負けは決まっている。それでも戦う、というのですか?」
 俺に向けて銃口を構えながら先手必勝は平静を保ってそう言った。
 が、声が震えているのはバレバレだ。今から俺がしようとしていることは、相手にとっても困ることなのだ。
「そうだ! 俺は! 死ぬまで負けを認めない!」
 だから正々堂々と胸を張って、俺は先手必勝と青息吐息の二人に宣言した。
「なぜなら、お前のルール能力で《俺たちの負けが確定》してようが……、
 《それが何時なのかは決まってない》からだ!
 何秒後か、何分後か? 何時間後か、何か月後か! それは、俺にも誰にも分からない!」
「……くっ!!」
「あなた……屁理屈には屁理屈ってわけ!?」
「もちろんだ! だから、俺はいつまでだって抗い続けてやる!
 この拳と、老師直伝の四点流で! 何十年でも何百年でもお前らと戦い続けて!
 お前らの口から、やっぱり負けましたと言わせてみせる! ――かかってこい、こっからが本当の戦いだ!」
 拳を突き出し、口の中に入り込んだ氷をガリッと噛みながら、俺は宣戦布告を決める。
 ルール能力がなんだ。決められた勝敗がなんだ。
 そんなものは、戦いの、魂のぶつかりあいの上では些末な事だ。
 結局最後に勝つのは……意思の強い方。
 煮えたぎるほど熱く、馬鹿みたいにまっすぐで、全力でそこに在り続ける。そんな鋼の心を持った方なのだ。
 ――そう感じた瞬間、俺の体がまた燃えた。
 俺のルール能力。《戦うごとに強くなる》、切磋琢磨のルール能力。
 本当の戦いが始まった今、ようやくこのルール能力が、緑色のオーラの形を成して俺に味方する。

55 :

「青息吐息さん……予定変更です。いますぐ紆余曲折くんの首を絞めて殺してください。
 二人でかかって、やっと倒せるかどうかだ。あの男、《さらに強くなった》。体も、心も……!」
「――おおっと、それはちょいと困るぜ、そこの青二才」
「!?」
「きゃあ!」
 そして、さらに戦場に変化が起きた。
 紆余を捕まえていた青息吐息のほうから、聞いたことのある声がしたのだ。
 そちらを見やると、そこにいたのは上下に赤いジャージを着た女。
 見事な日本刀を携えたその女は、
 何故かざく切りに短くなっている黒髪を風に揺らして、青息吐息を突き飛ばし、
 紆余を抱え上げている最中だった。
「あたしの知らない内にこいつが死んじまうだとか、そーいうことされたらさ、あたし泣いちゃうぜ。
 よお、タクマ。そして紆余。遅れてごめんな。いま、戻ってきた」
「一刀両断!」
「んーんんん!」
「新手……だと?」
「ま、まずいよセンくん! 新たな参加者が来たってことは、戦況が変わったってことで」
「!!」
 
 新たな乱入者、一刀両断に突き飛ばされた青息吐息は、先手必勝に向かってなにやら言いながらうろたえる。
 その言葉に何か気付いたようで、先手必勝も苦虫を噛みつぶしたような顔をする。
 紆余を後方にやって俺の隣に立ち、日本刀の切っ先を潔く相手に向けた一刀両断は彼らに言葉を吐いた。
 それは意識してのものなのか、それともただの偶然だったのか。
「ああ、そうだぜ――残念だがここで、《仕切り直し》だ。そして」
 きっと後者だったのだろうと、俺は考えているけれど。
「――お前らは死ぬ。あたしが」
 あんまり決断的にそういうものだから、俺はちょっとその言葉に、ぞっとするものすら感じたように思う。
 ともかく、闘いはこれで《リセット》された。
 そう。言葉だけで終わってしまうようなものを、闘いとは呼ばない。
 俺が呼ばせない。

56 :
投下終了です。後編と放送はまた後日……なるべく早く書けるようがんばります

57 :
投下乙です
自分も投下します

58 :
24話:未完成過ぎる奴ら
武器屋には銃器や刃物が大量に陳列されていた。
店主には悪いが頂こう、と、武器屋に訪れた三人は思う。
「あんまり多く持って行っても嵩張るだけだから、厳選しないと……」
「そうだな……ああ、俺、馬だから武器持てねぇ」
「僕は……うーん」
アルジャーノンを除く二人は武器屋内を漁る。
かれんは今装備している自動小銃が重く嵩張るため、小型の銃器が欲しい所だった。
「これで良いか……」
銃の知識に疎い彼女が選んだのは旧式回転式拳銃エンフィールドNo.2。
旧式ではあるがこれはとある会社が再生産を行った物らしくそれ程古い物では無い。
使用するには十分だ。
回転式拳銃の方が自動拳銃より、扱いが簡単だと言う事は流石のかれんも知っていた。
予備の弾を少し多めに取っておく。
「ああ、僕はこれにしよう」
一方の凌河は刃物コーナーに目を行かせ、サバイバルナイフを手に入れていた。
既に拳銃を持っているが弾が切れた時のバックアップとして、と言う考えである。
と、ここで武器屋に訪れる者がまた現れる。
「誰!?」
かれんが声を上げエンフィールドNo.2を構える。
店に入ってきたのは自分と同世代と思われる少年と黒い人狼の男だった。
「待て、俺達はやり合うつもりなんか無い」
「武器を調達しに来ただけだ」
「本当?」
「お二人も殺し合いには乗っていないんですか、じゃあ」
「名を名乗れ!」
「……俺は唐橋圭輔」
「俺はバイロンだ、ああ、殺し合いには乗っていない」
「……私は戸賀崎かれん」
「僕は久木山凌河です」
「俺はアルジャーノン」
三人と二人は互いに軽く自己紹介を交わす。
「あの、久木山忠則と言う人を見ていませんか? 僕と同じ毛色の犬の男性なんですが、僕の父なんです」
ここでもやはり凌河は父の事を尋ねるが、またしても色良い返事は得られなかった。
二人共、返って来た答えは「存じない」。
またか、と、一向に父の手掛かりが得られない事に落ち込む凌河。

59 :
「……俺も人を捜しているんだ、深谷春那って言う虎の少女なんだけど」
圭輔もまた捜し人の事を三人に尋ねるが、こちらも凌河の時と同様だった。
特に有益な情報も得られなかった圭輔とバイロンの二人は、ここへやって来た目的に従い、新たな武装を探し始める。
そして、圭輔はワルサーMPL短機関銃と予備弾薬、バイロンはコルトトルーパー回転式拳銃と予備弾薬を入手する。
本来、フルオート短機関銃は圭輔の国では許可や適性検査を受けなければ入手出来ないのだが、
今は咎める店主や警官、役人もいない。
その後、二人は店を出て行った。
かれんが共に行動しないか提案したが、大人数で行動すると返って目立つと、圭輔とバイロンから断られてしまった。
「また会えると良いな」
「うん……」
「僕達は、僕達で行動しましょう……」
かれん、アルジャーノン、凌河の三人も、荷物を纏めて出発した。
【朝/C-3武器屋付近】
【戸賀崎かれん】
[状態]健康
[装備]エンフィールドNo.2(6/6)
[持物]基本支給品一式、.380エンフィールド弾(24)、トカレフM1940自動小銃(10/10)、
トカレフM1940自動小銃の弾倉(3)、長ネギ(3)、鍋の蓋
[思考・行動]
0:仲間を集めてこの殺し合いから脱出する。
1:アルジャーノンさん、凌河君と行動。
[備考]
※久木山忠則、深谷春那の情報を得ました。
【アルジャーノン】
[状態]健康
[装備]無し
[持物]基本支給品一式
[思考・行動]
0:殺し合いをする気は無いが、良い男がいたら掘りたい。
1:かれん、凌河と行動。
[備考]
※久木山忠則、深谷春那の情報を得ました。

60 :
【久木山凌河】
[状態]全身打撲、頭部より流血(歩ける位には治癒)
[装備]シグザウエルP239(7/7)
[持物]基本支給品一式、シグザウエルP239の弾倉(2)、ウィンチェスターM1912(4/5)、12ゲージショットシェル(10)、
馬のペ*ス型ディルド、サバイバルナイフ
[思考・行動]
0:お父さんを捜す。
1:戸賀崎さん、アルジャーノンさんと行動。
[備考]
※滅多な事では死にませんが、頭部を破壊されるか身体を焼かれるかすると死にます。
※深谷春那の情報を得ました。
【唐橋圭輔】
[状態]健康
[装備]ワルサーMPL(32/32)
[持物]基本支給品一式、ワルサーMPLの弾倉(5)、コルトパイソン(6/6)、.357マグナム弾(24)
[思考・行動]
0:殺し合いをする気は無いが自分の身を守るためなら武力行使は厭わない。
1:春那を捜す。バイロンと行動。
[備考]
※バイロンの知人、久木山忠則の情報を得ました。
※かれん、アルジャーノン、凌河の三人とは別方向に進んでいます。
【バイロン】
[状態]健康
[装備]コルトトルーパー(6/6)
[持物]基本支給品一式、.357マグナム弾(24)、鉄の杖、ISRBウェルロッドMk.I(5/5)
[思考・行動]
0:殺し合いをする気は無いが襲い掛かる奴には容赦しない。
1:圭輔と行動。圭輔の知人を捜索。自分の知人は特に親しい訳でも無いので後回し。
[備考]
※知人はコーディ、アドレイド、クローイの三人です。
※深谷春那、久木山忠則の情報を得ました。
※かれん、アルジャーノン、凌河の三人とは別方向に進んでいます。
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≪調達品紹介≫
【エンフィールドNo.2】
戸賀崎かれんが調達。
イギリスのRSAF(Royal Small Arms Factory:王室小火器工廠、或いはエンフィールド造兵廠)
が製造したダブルアクションの中折れ式回転式拳銃。
ウェブリー&スコット社のウェブリーMkVIを基に1920年代末に開発され、1932年、
「No.2 Mk1」の名で当時のイギリス軍の制式拳銃として採用された。
【サバイバルナイフ】
久木山凌河が調達。
未開地で生き延びるのに役立つ、多くの工夫がこらされた多目的ナイフ。
【ワルサーMPL】
唐橋圭輔が調達。
カール・ワルサー社が1963年に公開した短機関銃。
同時期、同じ西ドイツ(当時)ではH&K社のMP5が登場していたが、凝ったメカニズムを持つMP5と異なり、
MPLは構造もずっと単純であり、当時のワルサー社は、高性能だが高価でもあるMP5に対し、
資金の乏しい顧客に低価格路線で売り込んだ、が、余り成功しなかった。

【コルトトルーパー】
バイロンが調達。
コルト社が1953年に開発した、同社初の357マグナムリボルバー。
同社の傑作リボルバー・パイソンの陰に隠れ、影の薄い存在になってしまった。
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61 :
投下終了です。

62 :
投下乙です!
かれん・アルジャーノン組は大所帯になってきたなあ。
でも、残り人数的にも波乱の予感しかしない……ゴクリ。
四字熟語ロワ29話、後編を投下します。

63 :

「ぷはぁっ」
 もともと包帯の上からかけられた《ため息》だったからだろう、
 強制的につけられた《氷のマスク》は紆余曲折の腕力でもどうにか外せるものだった。
 マスクを地面に落とすと、紆余曲折はこれでもかといわんばかりに声を上げる。
「一刀両断、じゃなくてリョーコさん! どこに行ってたんですか!」
「あー、心配させてごめんな。ちょっと色々あって」
「そうだぞ一刀両断。それにその髪、傷も……そして日本刀、見つかったのか」
「あっと、日本刀はなんというか、これはまあ、えっと――あの待ってくれ、後で話すから」
 緑色のオーラによる《強化》がおさまった切磋琢磨も混ざり、
 二人は突然現れた一刀両断にくちぐちに質問責めをした。
 それもそうだ、刀を取りに行くといって彼女が二人の元を離れてから、
 少なく見積もっても一時間は経過している。
 何があったのか聞きたくあるのは至極当然のことだ。
 しかし、一刀両断が「後で話す」と言った以上、二人にそれ以上彼女を攻め立てる義理はなかった。
 死体となって再会したのならともかく、
 生きて帰ってきたのだから、問題はない。
 ところどころジャージが破れて紅い線が覗いていたり、
 長い髪をまとめ上げて作っていたポニーテールがまとめて消失したりはしているが、
 一刀両断は一刀両断のままで、再び彼らのもとに戻ってきた。それで十分だった。
「そんなことより今は、目の前の敵をことが大事だろ」
 敵に向かって改めて向き直りながら、一刀両断が言う。
 切磋琢磨と、(見えないけれど)紆余曲折も、その言葉につられるように敵側を見た。
「……」
「……」
 銀髪の青二才――先手必勝は銃を一旦仕舞い、ポケットから銀縁のメガネを取り出して、
 耳にかけてくいくいと上げながらこちらを怖いほど冷徹な目で見ている。
 青いドレスの氷吐き――青息吐息はデイパックから拡声器を取り出して、
 怒りと焦りのこもったまなざしをこちらに向けて放っていた。
 両者ともに、無言で。
 こうなった以上、逃げるという選択肢もあるはずなのに、こちらを見ていた。
 あくまで見続けていた。
 最後まで戦おうというわけだ。
「左の銀髪は俺がやる」
 切磋琢磨が両拳を合わせ、先手必勝を見据える。一刀両断は頷いた。
「分かった。じゃああたしは右の女をやる。紆余はそこで胡坐でもかいてろ。
 見た感じお前のルール能力、もうネタバレしてるんだろ」
「……ですね」
 紆余曲折も頷いて、すっと後ろに下がり、なるべく銃の有効範囲内に入らないようしゃがみこんだ。 
 彼の《迂回》のルール能力は彼自身を狙った攻撃にしか発動できない。
 再び切磋琢磨におぶさっても、近く敵はその事実に気付くだろう。
 もしそうなれば、彼のルール能力はさらに運用が難しくなる。下手をすれば切磋琢磨の枷になりかねない。

64 :

「そうだな。悪いけど紆余は、俺たちを見守っていてくれ」
「タクマさん、リョーコさん、死なないでくださいね」
「当たり前だぜ」
「ああ。安心してくれ、俺は――《強い》。そして、もう折れない」
 さらなる《強化》でまた一回り、いや相手が二人だから二回りか、
 成長し逞しくなった背中を紆余曲折に見せつつ、切磋琢磨は力強く言った。
 一時はどうなるかと思ったが、
 これなら大丈夫だ。
 紆余曲折は自らの身の安全が完全に確保されたことを感じ取ると、
 誰にも知られないようにうつむいて、そっと心の中で安堵した。
「《はぁぁ……ふぅう……》」
 そして。
 戦場に大きく吐息の音が漏れる。
「《はぁあ……》。まったく、嫌になっちゃうよね、センくん。
 こんなくだらない実験に巻き込まれて、あたしたちの前にはいつも敵ばっかりで。
 ため息の一つや二つつかないと、やってらんないよ、こんなの」
「ええ。そうですね。大体、本来ならこんな所で殺し合いなんてしている時点で”負け”も甚だしい。
 骨折り損でくたびれ儲けもないなんて、運が悪かったとしか言いようがありません」
「うんうん、ホントにそうよね。たったひとつのことを除いては」
「そうですね、たったひとつを除いては」
 はぁ、ふぅ、と。
 冷たい手を温めるときみたいにゆっくりと、《ため息》を青息吐息が吐いて。
 それを合図に、先手必勝は拳銃を懐から抜き、とんとんとフットワークのリズムを取り始める。
 口を開いた彼ら二人は、これまでのことを思い返すように、お互いに言葉を交わす。
 第一放送の後。
 遅まきに行動を開始してから、二人の間には様々なことがあった。
 禁止エリアから逃げのびたかと思ったら、鏡花水月に遭遇し。
 何度も死にかけ、幻想に惑わされ。
 絶望したり恐怖したり、本当に色々だ。しかも、どれもいい思い出とは言い難い。
 それでも、先手必勝は青息吐息を見て。
 青息吐息は先手必勝を見て、こう言うことができた。
「たったひとつ。あなたという仲間ができたことだけが、不幸中の幸いだった/でした」
 そしてお互いにほんの少しだけ、口角を上げてほほ笑んだ。
 次いで同じく、彼らの他の誰にも見られないように。その口で「なんてね」とひとこと、呟いた。
「――さあ、まだボクたちの闘いは終わっていません!」
 一転。
 空気を切り裂くようにして、先手必勝は取り出した拳銃を敵側に向ける。
 十メートルほど離れて向かい合うべき三人に向けて、最期の宣戦布告をした。
「そちらが死ぬまで戦うというのなら。あたしたちは戦えなくなるまでだけ。
 生憎、こちらには、最後の一手が残っているわ。――これで終わりにしてあげる」
 彼の動きに呼応するように、青息吐息は拡声器を構える。
 これは先の戦いで――彼女の《凍てつく吐息》を増幅することによってエリア内の何もかもを凍らせ、
 鏡花水月を《幻想》ごと実質的な行動不能に追い込んだ最終兵器だ。
 その時の反動で凍りついていた拡声機構も、切磋琢磨たちと戦っている間にどうにか溶けてくれた。
 だから、再び彼女は行使できる。
 最後の攻撃としては十分すぎる威力を持つ絶対零度を。

65 :

「はっ。終わらねぇよ。終わらせねぇ」
 息を吸い込む青息吐息に向かって、切り返すのは一刀両断。
 短くなった髪を微かに揺らしながら宣戦布告を鼻で笑い、一部の隙もなく日本刀を構える。
 状況は分からないが、ともかく一刀両断は、自身が行うことはひとつだけだと感じていた。
 紆余曲折の”盾”として――”刀”として。
 彼を危ない目に遭わせたべき敵を一刀のもとに叩き斬る。彼女が生きている理由はただそれだけ。
「ああ、そうだ。――終わりにするのは、こちらの方だ」
 最後に、確定的な口調でそう言って、四点流”待機”の構えを切磋琢磨が取る。
 基本にして究極。すぐに攻撃態勢に移ることのできるオーソドックスな足の開き、拳の構え。
 ただしこの娯楽施設に連れてこられた最初とは違い、
 その姿にはある種の貫録と、驕りでない自信が備えられている。もう彼は折れることはない。
 これにて全員の準備は完了した。
 ……娯楽施設の中央、B-2のコンクリートの駐車場。
 空は変わらず薄曇り。風も弱く頬をなでる程度で、おそらく戦況には影響しない。
 東西に整然と並ぶ車列を背に、南側には先手必勝組、北側には切磋琢磨組が構える。
 そして十秒。
 十秒、そのまま時が流れた。
 戦闘に参加する四人とも、長くて短いここまでの時間を生き抜いて、体力はもうほとんど残っていない。
 わざわざ声に出さなくともあと一合で闘いは終わる。全員がそれを自らの肌で感じていた。
 だから重要なのは、タイミングだった。
 四人のうち誰かが気を緩めたり、気を取られたりして、
 氷のように張り詰めたバランスにとげが刺さり、崩れて隙が出来るそのときが来るのを、全員が待っていた。
 これ以上なく気を使う静寂を。また続けること十二秒。
「……」
 一刀両断の後ろに控えた紆余曲折は、地面に置いた手のひらに、熱の残る鉄の感触を知った。
 最初に《迂回》させた銃弾。
 巡り巡ってこの戦場に戻ってきたものの威力を失いコンクリートに転がったそれが、自らのそばに落ちていた。
 …………。
 ああ。
 僕の”役割”はこれなのか、と。
 最後まで蚊帳の外を貫き続けた少年は、心中で小さくそう思った。
 賽を投げるようにして。
 ぐっと握ったそれを、ぽい、と。
 戦場の中心めがけて力強く振り投げる。地面に落ちたそれは、始まりの音を立てた。
「――――おおぉぉおおおおおお!!!」

66 :

 そして戦場は動いた。
 腹の底から響くようにして咆哮を上げ、最初に駆けだしたのは切磋琢磨。
 二の型”突進”――バネ仕掛けのように全身で躍動し、十メートルの距離を二秒足らずで詰めにかかる。
 それを無言で見据える先手必勝は、狙いを定めて引き金を引く。
 四肢がどれだけ動こうが、直線的に走る人間は体幹がブレない、だから狙いは胸部……あるいは腹部!
 銃声。
 次いで衝突音。だが銃弾は――外れる。
「なっ」
「《……はぁあぁぁあぁ……!》」
 いや、先手必勝は《百発百中》の補助もあり、きちんと切磋琢磨の腹部に銃弾を叩きこんだ。
 だがそれは、当たらなかった。
 左手に。
 切磋琢磨が左手に隠していたのは《氷》だった。
 直線に横から添えるようにして――彼は先手必勝の銃弾をその《氷》にぶつけ、軌道を逸らしたのだ。
 そう、つまりそれは、先ほどまで紆余曲折の口を覆っていた《氷のマスク》だ。
 先手必勝自身よく知っている。青息吐息が放つ《ため息》が作り出す《氷》は、生半可な強度ではないことを。
「くっ……くそがあぁあっ!」
 決め手になるはずだったものを逆に相手に使われた、
 さらに再び先手を失ったという事実が、先手必勝の逆鱗に触れる。
 思わずか思わざるか、これまで発したこともない濁った言葉が口を突く。
 隣で拡声器により《ため息》を吐く青息吐息は、彼らしからぬその激昂に一筋の不安を感じた。
 だが今は目の前の敵だ。 
「……うそでしょ!」
「あたしは自分にウソはつかねぇ!」
 鏡花水月を葬った第一の奥の手。
 拡声器による《ため息》の広大な拡散は、こちらに向けて走ってくる一刀両断にも確かに”少しは”効いている。
 だが地面、車、空気まで凍らせる《ため息》が、一刀両断の身体を凍らせるに至らない。
 《迂回》しようのない広範囲攻撃、
 少し距離のある切磋琢磨のズボンやすね毛に霜が付き始めているくらいだというのに、
 もうあと数歩の所まで迫っているジャージの女はまだ寒がるそぶりすら見せないのだ。
 やせ我慢ではない。その機微が分からないのであれば青息吐息は先手必勝の真意さえ推測できなかったろう。 
 ではなぜ? 疑問に答えたのは隣で再び銃声を鳴らした先手必勝だった。
「日本刀です! そいつ、息吹を斬っているんだ!」
「えっ!?」
「おっと――でももう遅いぜ。そっちのお前もな」
「……二の型・突進」
 見ればそう、片手で持っていたから分かりづらかったが、一刀両断は日本刀を剣道のように立てて走ってきていた。
 その刀身で――青息吐息の《ため息》を左右に斬り裂きながら、だ。
「あたしの刀は全てを両断する。形のないものだって例外じゃない」
「そんな……!!」
「――”連拳”ッ!!」
 なおも差を詰める一刀両断の横、豪的な初動の合図を叫びながら、切磋琢磨が拳を振るうのが見えた。
 センくんがさっき放った二発目の銃弾は? どうなった?
 青息吐息は目を見張る。
 そしてその答えは、切磋琢磨の腹部からにじむ血の流線を見れば必然と分かった。
 良かった、当たっていた。
 辛うじて青息吐息たちはこれで《勝った》。
 すぐ《仕切りなおされる》とはいえ、そのすぐまでは死ぬことはない。

67 :

「ちっ」
「――っかはっ」
 一刀両断の日本刀が閃いた。
 横薙ぎにまず、拡声器が切り裂かれ。次いで喉に焼けるような感触があった。
 鮮血が噴き出したのが見えて。
 吐き続けていた《ため息》が、喉に空いた穴から漏れていくのが分かる。
 すぐ死にはしないし負けじゃない。
 でもだけれど、重症だって負うし言葉だってもう出せなくなってしまっただろう。青息吐息は冷静にそんなことを思った。
 舌打ちをした一刀両断は、叫ぶ。
「ちっ、ルール能力かよ。じゃあも一回――ん?」
 叫びながら追撃を加えようとする。が、その足が動かない。下を向くと足が地面に張り付いていた。
 180度以上拡散している《氷の息吹》を日本刀で切り裂くのにも、限界はある。
 とくに足先などは。
 
「うーん……ここまでか。冷え性にもほどがあるぜ」
「ぐああぁああああああっ!!」
 ふぅ、とため息をつく一刀両断の真横、地面に倒れゆく青息吐息の視界、
 ルール能力による暫定的な《勝者》に見合わぬ叫び声を上げる先手必勝が、右手から銃を取り落す。
 何とはなしにそちらを振り向いた一刀両断が見たのは、まるで格ゲーのハメ技を記録した映像のような光景。
「らぁっ! らぁっ! うららららっ!」
 切磋琢磨は真剣に。
 拳で押して、足で蹴り上げ宙に浮かし。
 懐を掴んで引き寄せて、さらに振りかぶり、鼻を殴り、また蹴りで宙に浮かし。
 横蹴りからその場で回転し、回し蹴りを叩きこんで、空中で人体を横に半回転させると、
「突進――”逆雷”ッ!!」 
 最後にとどめのアッパーを顎へと電光のごとく叩き込み、空へと持ちあげる。
 先手必勝の銃撃は通っていたが、その代償はあまりにも大きすぎた。
 切磋琢磨は銃弾をあえて受けることで差を限界まで詰め、自らの攻撃を当て、連撃へとつなげた。
 相手の意識をほぼ飛ばすほどに。
「――――っ!」
「……老師。今なら分かる気がします!
 俺だけの四の型。その初手は、俺自身のすべてを込めた一撃……」
 垂直に地面に落ち行く先手必勝に、青息吐息が声をかけようとする。
 だが斬られた喉はひゅうひゅうと音を立てるばかり、声帯が死んでいるのか、ただ吐息を漏らすだけ。
 ばたん、冷たい地面に倒れこみ。
 全身に力を蓄える切磋琢磨と、切磋琢磨を見比べた。
 先手必勝は意識を朦朧とさせている、しかしそれでも最後のあがきにと、ぴくりと足を反応させて動かす。
 鏡花水月戦で見せた得意の蹴りだ。
 脳天に突き刺すようにすれば、今からでも反撃のワンチャンスはある。
 ……なんてのは。甘い甘い、絵空事だ。

68 :

「リョーコさん、タクマさん、《仕切り直し》を!」
「《仕切り直し》を叫べ、タクマ!」
「ああ、分かってる――《仕切り直し》、そして」
 一人ならともかく、彼らには仲間がいる。
 青息吐息が倒れた今、先手必勝が生き残れる道理はゼロになった。
 それが悔しくて、申し訳なくて。なんどもなんども青息吐息は叫ぼうとする。でも斬られた喉は、
 やっぱり掠れた空気音をさせるだけで。
「……うぅッ! あぁああ――」
「四の型・爆発――初手」
 彼女は最後の言葉を、先手必勝に掛けることが、できなかった。
「”拳語り”ッ!!」
 ”待機”で力を蓄え、”防御”で筋肉を硬直させた状態より、”突進”ですべてを一転解放。
 切磋琢磨の全のパワー、全の想いを込めた四の型・爆発が、クリティカルに先手必勝の胸部へと叩き込まれた。
 ごう、と、大地を揺るがす音がして。
 凍りついた空気が地面から生やしていた数本の氷柱が、動いた空気の圧力だけで何本も破砕されて。
「……青息吐息さん」
 戦いの終了を告げる言葉が、先手必勝の口からこぼれた。
「ボクに付き合ってくれて、ありがとうございました」
 ――銀髪の青二才は宙を舞って。B-2を超え、車にぶつかりバウンドし、B-3まで飛んで行った。
 禁止エリアであるその場所で。十秒後、中規模の爆発音が響いた。
 そして戦場は静かになった。凍りついてしまったみたいに。静かになった。 
◆◆◆◆
 4×4。
 四角に並んだ十六の旧式テレビは積み上げられ、薄暗い”モニタールーム”の壁を少し圧迫している。
 狭い部屋の中、テレビの群れの真ん前に陣取るようにしてそれを見上げる白衣の女は、
 これまたレトロな木の椅子に座ってスナック菓子をほおばりながら、
 たった今決着がついたB-2の戦場を、いくつかの方向から多角的な視点で見ていた。
 奇々怪々は観測する。
 たった一人でこの部屋にこもり、”実験”の最期を見届ける。それが与えられた彼女の役目だ。

69 :

「第二放送、始めなければなりませんね」
 くるりと後ろを向いて椅子から立ち上がり、スナックでべたついた手をべろりと舐め。
 奇々怪々は反対側の壁にある机まで向かう。数秒もかからず、そこへ着いた。
 シンプルというよりは質素な金属製の机の上には、放送を行うための電話機に似た無線装置と、もう一つ。
 彼女がある私的理由で持ってきている一枚の写真立てが置いてある。
「……まだまだ。残り人数は七人です。”ルール通り”にいくかどうかは、まだ分かりませんよ、”軍鶏”」
 写真立てを一瞥し、彼女は小さくそう呟いた。
 そして数秒迷った後に、写真立てをパタリと倒して、映っていた人間を視界から消し去った。
 受話器を取り、数字のボタンを押して連絡線を繋げる。放送の前に、連絡をしなければならない。
 ひどく長く感じる四回のコール音のあと、繋がる。
「も、もしもし」
『――――』
 相手は喋らない。
 しかし奇々怪々はなぜか緊張に息のリズムを若干崩しながら、受話器に向かって報告を行う。
「”雷鳥”です。たった今、五人目が死にました。……第二放送を始めます。死んだのは、――先手必勝。
 先手必勝でした。残りは七人。実験は順調に進んでおります。では」
 プツリと切って受話器を置く。
 全身を舐められたかのように汗が吹きだし、彼女の顔色が一気に青ざめる。
 あの方に言葉を投げかける――それだけで奇々怪々はこんなにもどっと疲れてしまうのだ。
 それこそ、モニターを見続けることの比ではないくらいに。
 やはり五分。
 そのくらい休憩して、それから放送をしよう。
 倒した写真立てを見ながらそう決めた奇々怪々は、
 机の下からスナック菓子を一袋取り出すと、ふらふらと椅子の方へと歩いて行った。
 ふと、見上げた一つのモニターに見えるは、
 闘いの敗者の姿。
 泣きながら――死んだ先手必勝とは逆の方向へ駆け出している金髪の女、青息吐息の姿だった。
【先手必勝:死亡――残り七名】
 
 
(第二放送へ)

70 :
>全身に力を蓄える切磋琢磨と、切磋琢磨を見比べた。
あ、ここ「切磋琢磨を見比べた」→「先手必勝を見比べた」でしたすいません。 

71 :
投下終了です。続いて放送を投下できるかな?

72 :

 ××××、××××と、
 記憶の中のあたしは、ずっと誰かに付いていくだけだった。
 トモダチとか、クラスメイトとか、そういう空気から弾かれるのがこわくて、
 温かい輪の中に居たいがばかりに冷たいため息をついて、ずっとみんなに同調していた。
 完全には覚えていないけれど、たぶん、ずっと仲がいいトモダチの子がいたんだと思う。
 嫌われるの、が、こわくて。
 そのトモダチが買うものとか、そのトモダチが好きなこととか、共有して、まねっこした。
 ××××に、××××。
 好きでもない青いドレスをまとって、好きでもない濃いメイクをして、
 陰に隠れて堂々と悪口を言って、何人もの人を傷つけて。
 認めてもらいたいばかりに、笑い合いたいばかりに、裏ではいつもため息をついていた。
 作り物の上辺だけで自分を飾り立ててまで付き合うだなんて、
 本当はそんなモノ、トモダチでもなんでもないって、仲間でもなんでもないって分かっていたの。
 でもじゃあ、そこから逃げれば良かったのかっていうと、あたしにはできなかった。
 あたしは人間で、弱いから。
 自分がボロボロに壊れていこうが、ひとりでいるのがさみしかったから。 
 
「――――けほっ。けほっ!」
 でもセンくんと出会って、一緒に戦って、なにかが変わった。
 本音と別の行動をとるセンくんも、あたしと同じだったからだろうか。
 最初あれだけ冷たいことを言ったのに、ずっと助けてくれたからだろうか。
 なんだかセンくんだけは本当の仲間って感じがして、
 拡声器を使って《ため息》をエリア中に広げて鏡花水月を倒したあのとき、あたしは嬉しかったのだ。
 人殺しなんてあたしがやりたくないことの筆頭で、
 やりたくないことを誰かのためにするのは、辛いことだと思ってたのに。
 何が違うのか。
 ××××、××××。
 最初は、記憶の中のあたしに聞いても、答えは返ってこなかった。
「――――うぅ、はああっ、はああ!」
 
 ……でも、今なら分かる。
 センくんの”最期”を見てしまったあたしの頭が、ようやく正解を導き出してしまったから分かる。
 結局、ここに連れてこられる前のあたしは、あたしがかわいいだけだった。
 誰かのために自分をギセイにしてる自分に酔っていて、相手の気持ちなんて考えちゃいなかった。
 ほんとうはみんなだって、嫌々やってるかもしれないだなんて考えずに。
 ただ、バランスボールに乗ったときみたいに、落ちないようにだけ気を付けていたんだ。
 だから。
 本気で誰かのために、って考えることができたのは。センくんに対してが、初めてだった。
 あたしよりもっともっと鉄面皮で、ずっと隠すのが上手くて、きっと心の中で誰よりも葛藤してて。
 最後までセンくんは、あたしにさえ全然弱みを見せようとしなかった。
 そんなセンくんをあたしは素直にすごいと思った。でも、無理しすぎだとも思った。
 せめてそばに誰か一人いて、一緒に仮面をかぶってあげれば、センくんの苦しみも半減するんじゃないか。
 あたしは勝手にそう思った。あたしが勝手に。
 それがセンくんの負担をさらに増大させてしまったかどうかは、今は考えたくない。
『あー。あー。マイクテスト、マイクテスト。聞こえてたら両手を上げて』
 B-2から逃げるあたしをよそに、ぴんぽんぱろんって無駄に軽快な音が鳴って、放送が始まった。
 奇々怪々の名を持ったあの白衣の女の人。少し疲れた感じの声。
『あ、どうも。やっぱり、”なにいってんだこいつ”って顔をして頂きましたね。
 その反応が返ってくるってことは聞こえているという証拠です。本当に良かった! さて、
 では手短に、死者と禁止エリアの発表といたしましょう。経過時間はま、いいですよね』

73 :

 どうせ残りは七人です。時間なんか気にしなくてもすぐ終わるでしょうから、なんて。
 皮肉のたっぷりこもったその言葉にあたしは素直にムカついたけど、今はそれより、涙の方が強かった。
 泣きながら走ってた。どこへとも知れず走っていた。
『それではまず死者からの発表です。死者は五人。
 酒々落々
 破顔一笑
 軽妙洒脱
 鏡花水月
 先手必勝
 の五名です。今回は男ばかりが死んでいますねえ。前回の放送の効果でしょうか?』
 やっぱりセンくんの名前と、それと鏡花水月の名前が聞こえた瞬間。
 何かにつまずいたわけでもないのに、転んだ。
 ばたんって倒れて、
 首がぐらんって揺れて、一刀両断に斬られた傷口が、こころなしかさらに広がった。
 でも不思議と痛みはあんまり感じなくて、ただ悔しさだけがつのる。
 だって、こんなところを、喉のあたりを斬られたから、
 先手必勝のアッパーで隣のエリア――禁止エリアのB-3まで飛ばされてしまったセンくんに、
 あたしはまともに声をかけることができなかったんだから。
 先の、最後の一合。
 センくんもあたしも、全力で挑んだ。
 でも、二人とも虚勢を張るのが上手かった。二人とも分かってた。もう勝てないことは。
 尻尾を巻いて逃げるか負けて死ぬ以外の道がないって分かってて、でも馬鹿だから戦ったんだ。
「うぅ・……」
『それでは次は禁止エリアの発表です。事務的にいきましょう、事務的に』
 あたしは拡声器を再度使って、《氷の息吹》を吐いた。
 でも一刀両断はあたしの息吹を周りの空気ごと《一刀両断》して、ほとんど凍らずにあたしの下にたどり着いた。
 拡声器ごと、あたしは喉を斬られた。あと一歩踏み込まれたら首を斬られてた。
 どうにかそうなるまえに一刀両断の足を凍らせることができたのが、あたしにとっての最期の僥倖だった。
 でもセンくんは、もう腕を折って、限界だった。
 踏み込んでくる切磋琢磨はあたしの《氷のため息》なんてものともせずに、
 むしろセンくんが撃った銃弾を、あたしが紆余曲折に着けた《氷のマスク》を使って弾いて、前進した。
 一撃入れられてからは、カクトウゲームでいう”ハメわざ”の状態だった。
 これでもかというくらいの連撃を喰らって、喰らって、喰らって。
 最後のアッパーで宙に浮かんで、さらに追撃も喰らって。車にぶつかってバウンドして、その裏に落ちていった。
 その落ちる一瞬前。
 あたしが最後にセンくんの顔を見たのは、その瞬間だ。
『続いての禁止エリアは2エリア。
 B-1
 C-3
 以上の2エリアです。それでは残り七名の皆様、よきバトル・ロワイアルを♪』
 センくんはあたしを見て、その目でこう語っていた。
 ――あなただけでも逃げてください。
 あたしは追いかけて一緒に死んでもよかったのに、そんなことばっかり言って。
 もう。
 もうどうすればいいのか分からなくて。
 立ち上がって走り出した。センくんと逆方向に逃げ出した。

74 :

 これで良かったのか。あたしの考えは正しかったのか、間違っていたのか。
 センくんが死んでしまった今ではもう分からない。
 時間が必要だ、そう思う。
 喉から流れる血が止まらない現状で――あたしがいつまで生きていられるのかは謎だけど。
 絶対にセンくんの分まで生きなきゃ。とにかく生きなきゃ、そう思って、
 ぴんぽんぱんぽん、
 放送終わりの鐘の音と共に起き上がったあたしは、起き上がってまた走り始めようとして。
「……む?」
 顔を上げた先に、動くものがあった。
 人だ。
 大柄な、
 軍帽を被った大男。
 いちばん会ってはいけなかった人に、あたしは会ってしまったと、一瞬で分かった。
「おや。何だ」
「……ぁ」
 世界がスローモーションになっていく。
 目の前のベンチに、そいつはずっと座っていたらしい。
 迷彩色の帽子に上着、右手に血まみれの斧を持って、左手に持った何かを眺めていたみたい。
 慌てて空間認識を広げると、いつのまにかあたしは走りに走って娯楽施設についていた。
 東側、C-2の入口近く。植木で作った簡易的なガーデンのそばに自転車置き場とベンチがあって、
 大男はそのベンチに座っていた。
「ぁなタ」
 誰、と言おうとしたが、ほとんどの言葉は喉に空いた穴から風に消えて上手く発音されない。
 大男はあたしを見てのっそりと立ち上がる。立ち上がるとさらに大きく見えた。
 少し悲しげな眼をしているように見えた、けど、気のせいなのかもしれない。
 だってその目は明らかにあたしを見ずに――あたしの”首輪”だけを見ていたから。
「何だ」
 大男はあたしの首を、
 斬られている途中の首を見て、モノでも見るようにしてこう言った。
「首を斬るなら、ちゃんと最期まで斬ればいいものを」
 そして、斧を振り上げた。
 あたしはそれを呆然と見ていた。
 なんというか、あまりに唐突な話で。
 恐怖、とか、後悔、とか、考える暇も、涙が止まってたことにも気づかなかった。
「あ……こめンね、センく、n」
 でも最後に一言、
 そう言うだけの時間が残されていたことには、感謝しようと思う。
 ――ざんっ、
 って音が聞こえて。あたしの視界は宙を舞った。
 くるくるとまるでジェットコースターか何かに乗っているみたいだった。
 空はやっぱり薄曇りのままで、ぜんぜん綺麗じゃない。
 ため息の一つでもつきたいくらいだ。もう、首と体は離れちゃったから、無理だけど。
【青息吐息:死亡――残り六名】

75 :
投下終了です!
うおお第二放送突破したー!
見てくれている方がいたらありがとうございます。
みなさんのおかげでここまで来れました。最後まで頑張りたい!

76 :
皆様投下乙です。投下します
予選ロワ 15話目:真剣に勝負を 登場:普蒲六景、日形絶斗、世迷桜、歩騙紗綾

77 :
目を覚ますとシュールな光景が広がっていた。
テーブルが真ん中に置いてあり、それを囲むように女性二人がイスに縛られており、その後ろには男性が立っていた。
自分も縛られているので、恐らくあの男性に捕まったのだろう。
しばらくすると、他の二人も起きた。
「……!」
「えっ! なにコレ! どうなってんの!」
二人が起きたことを確認すると、ゆっくりとした足取りで、後ろにいた男性がことらへ歩き出した。
「起きたかな。さて、卿らには私の興に付き合ってもらう」
唐突すぎる宣告、しかし、バトルロワイアルというものも唐突な宣告だってので、納得できた。
うん、こんなこともあるのだろう。世の中理不尽ばっかだもんな。
そちらの女性も納得したらしい。
もう一人女性のほうはそうはいかなかったらしい……
「イヤ! さっさとこれを外してよ!」
「ふむ、納得してくれないか……大丈夫だ。単なる賭けだよ。ただし……」
その男性は短機関銃を取り出すと、その女性の足元を撃つ。
ぱぁん、と乾いた音が響く。
男性の言いたいことは大体分かった。
「この賭けに負けたら問答無用でから覚悟したまえ」
女性は状況がやっと分かったのか、黙り込む。
男性はニッコリ笑みを浮かべ、銃を下ろし、代わりにトランプを出した。
その男性の笑みは人とは思えないほど歪みきっており、不気味だった。
□□□
「さて、まずは自己紹介だ。私の名前は普蒲六景という。見てのとおり、人に勝負を申し込み、負けたら殺している。卿らの名前を聞こう」
人に賭けを申し込み、負けたらって、さらりととんでもないことを言い放ちやがった。
見てのとおりと言うが、どこをどう見たらそう見えるんだよ。
と、心の中で突っ込み、男性に言われたとおり名乗る。
「日形絶斗だ。ただの高校1年生だよ」
「……世迷桜……以上」
「歩騙紗綾。いたいけな女子高校生よ」
静かに六景という男性は聞いているのかと思ったら、別の方向を向いて、トランプから4枚のカードを取り出していた。
ふと、六景という男性は何かを思い出したかのようにコチラを向く。
「いや、ご丁寧にどうも。それでは賭けの説明でもするかな」
お前が名乗れって言ったんだろうが、と、また心の中で突っ込む。
「さてまずはルール説明だ……

78 :
ルールをまとめる
■十回勝負。一番ポイントが低いやつが殺される。
■シャッフルをするのは六景。
■四枚あるカードのうち一枚を選ぶ。それぞれジャック、クイーン、キング、ジョーカーが入っている。
■もし、選んだカードが被った場合、ジャンケン。
■カードの配点はジャックが1、クイーンが2、キングが3、ジョーカーが0.
■もちろんこの勝負には六景も加わる。
■また、相手が引いたカードを当てれば+5ポイント、外した場合は−5ポイント。
とまあ、こんな具合だった。
「まて、省かれた気がするのだが気のせいか?」
「気のせいだ。それよりも早く始めろ」
「……少々、腑に落ちないが、いいだろう。始めるとするか。好きなものを選びたまえ」
1戦目、誰も同じのを選ぶことなく、一斉にカードを表に反した。
結果は六景→キング 日形→クイーン 世迷→ジャック 歩騙→ジョーカー、となった。
2戦目、これも誰も被ることがなく、一斉にカードを表に反す。
結果は六景→キング 世迷→クイーン 日形→ジャック 歩騙→ジョーカー、となった。
3戦目、六景が取ろうとしたカードが歩騙と被る。ジャンケンで歩騙の勝利。
結果は六景→キング 世迷→クイーン 日形→ジャック 歩騙→ジョーカー、となり、2戦目と同じ結果。
4戦目、俺が取ろうとしたカードが六景と被る。ジャンケンで六景が勝利。
    また、世迷と歩騙も被ったらしいが、結果は世迷の勝利。
結果は日形→キング 世迷→クイーン 六景→ジャック 歩騙→ジョーカー、となった。
5戦目、歩騙が選んだカードが六景と被る。ジャンケンで歩騙の勝利。
結果は世迷→キング 日形→クイーン 六景→ジャック 歩騙→ジョーカー、となった。
ここまで得点を集計すると、六景と世迷が10点、俺こと日形が9点、歩騙が0点となった。

79 :
「おかしい! どうなってるのコレ!」
そうわめき散らすのは、5連続でジョーカーを引いた歩騙紗綾だった。
どうやら、この結果が不満らしい。
当然、その怒りの矛先は、シャッフルをしていた六景に向いた。
「5連続ジョーカーはおかしい! 絶対何かしてるでしょ!」
「失礼な。私はイカサマなどはしないぞ。単に卿の運が悪いのだろう」
「運が悪いにもほどがあるでしょ! あなたが何かしてるのは分かるのよ!」
「何度も言うように私はイカサマなどはしない。私は真剣勝負を好む。イカサマという無粋な行為はしない」
「フン! 嘘に決まってるわよ! さあ、早く認めなさい!」
「卿はしつこいな。してないと言っている」
「ぜっっっったいなにかしてるわよ! 早く白状しなさい!」
完全なる言いがかり、八つ当たり、クレームだった。
確かに俺もあそこまで運が悪かったら、少し疑うが、さすがに声にしたりはしない。
「さあ、早くこれを解いて! イカサマしたんだから、さっさとしちょうだい!」
次の瞬間、六景が立ち上がり、銃口を歩騙に向けた。
次に銃声が二発。
銃弾はどこに当たったかというと、歩騙の右足に一発、左足に一発。
「うぎぃぃぃぃぃ!!」
「口を慎め。卿は私を怒らせた。私は真剣に勝負をしたかったのにこのようなことになるとは残念だよ」
「ふざけないで……何が真剣によ……イカサマをしたクセに……うぁあ!」
さらに銃弾が歩騙の右腕の肉を抉り、貫く。
「さて、卿が主張を変えるのであれば、私は何もしない。どうする?」
「ふざけないで……イカサマをしたくせに……」
「そうか。ならいい」
何の前触れもなく、六景が手を叩いた。
次の瞬間、歩騙という女性が縛られていたイスを残してそこから消えた。
それは六景が突然手を叩いたように、突然、何の前触れもなく、そこから跡形もなく消えた。
「さて、続きをするか」
「おい、待て……アイツはどこに行った……?」
「ん?彼女なら捨ててきた。さて次のゲームだ」
「どこにだよ……? どうやって捨てた……?」
「どうでもいいだろう。卿は他人をそんなに気にかけるのか? 卿はお人よしか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「それに方法などどうだっていいだろう。卿には関係ない」
「…………」
「彼女のことは忘れたまえ」
「…………」
どうにも釈然としなかったが、次のゲームが始まるのでそれに集中することにした。

80 :
【???/???/一日目・夜】
【普蒲 六景】
[状態]健康
[装備]
[道具]支給品一式
[思考・行動]
基本:ゲームを楽しむ
1:今を楽しむ
【日形 絶斗】
[状態]健康、縛られている
[装備]なし
[道具]なし
[思考・行動]
基本:生き残る
1:この勝負に勝利する
【世迷 桜】
[状態]健康、縛られている
[装備]なし
[道具]なし
[思考・行動]
基本:???
1:……勝利
【???/???/一日目・夜】
【歩騙 紗綾】
[状態]???
[装備]なし
[道具]なし
[思考・行動]
基本:???
1:???
【参加者特徴】
普蒲六景
ギャンブラー。人を見つけて勝負をし、相手が負けたら。
しかし、殺し方は一切不明。捕まったことはなし。
その笑みは人とは思えないほど歪んでいる。
日形絶斗
真面目な不良。高校1年生。
なんでも高校デビューに失敗した結果、こうなった。
根は真面目なので、成績は優秀であり、冷静である。
世迷桜
無口で無表情。高校1年生。
本をいつも読んでおり、休みの日はいつも図書館にいる。
部活には入ってはいない。運動はできるほう。
歩騙紗綾
高校3年生。クレーマー。
無理やり言いがかりをつけて、謝罪を要求させる。
そのため、学校内ではいつも一人。全然いたいけな女子高校生ではない。

81 :
投下終了です。
何かおかしな点があれば指摘をお願いいたします。

82 :
少し間が空きましたが時間跳躍ロワ第八話を投下します

83 :
暴虐の白い光が瞬いた。
翼のようにも、或いは鞭のようにも見えるそれが、元は森であったろう空間を蹂躙し尽くしていた。
破壊の中心に立つ金髪の青年は、にたにたと値踏みするような顔でその男を見つめる。
樋之上壊。エンターテイメントのように人を殺人鬼―――の顔をした、化け物。
振るわれる破壊を、卓越した運動神経を駆使して避ける人影。
警官服を纏っていながら、殺意に満ちた瞳をぎらぎらと光らせている不自然な、だが確かな気迫。
この世で最も憎らしく思う目の前の畜生に向けて、隠すこともなく殺意を放ち続けている。
狐神桐雄。善良にして優秀なる警察官―――の顔をした、冷酷なる復讐鬼。
戦力差は誰がどう見ても歴然というものだろう。
ほぼこのエリア内全域を直進出来る光のラインに、地球上の生物全てに匹敵する数の技術での光の操作。
至近距離でも遠距離でも、直撃さえすれば必ず致命傷を与えられる化学兵器。
対する狐神の武器は己が肉体一つ。
鍛え方でなら樋之上を遥かに上回るだろうが、彼は何一つとして特殊な才能を持たない。
攻撃をどれだけ避けようがじり貧というもの―――いずれはスタミナの尽きた彼が撃ち抜かれると相場が決まっている。
そんなことは当然の如く理解している狐神だが、やはり実力の差を埋めるのは容易いことではない。
「………分かってんのか、お兄さん。あんたじゃ俺にぜってえ、天地がひっくり返っても勝てねえよ」
「やってみなきゃ、分からねえ」
ファイティングポーズを構えて、狐神は挑発的な声色で樋之上を牽制する。
その声には絶対的な自信があり、微塵の不安も懐いていないことが感に障ったのか。
樋之上壊は、その周囲に計六個の光の球を出現させる。
一発一発が皮膚を焼き焦がし、骨さえも破壊する非科学の結晶を浮かび上がらせ―――内の一つが形状をいきなり変化させ、矢のように狐神の肉体に向け直進していく。
が。
狐神桐雄の肉体に穴が穿たれることはなく、破壊の矢は遠く離れた地点で空中に溶けるように消えた。
すっ、と肉体を反らし、予期していたかのような華麗な動作で亜音速の一撃を避けたのだ。
樋之上は余裕を崩すことなく、今度は二つの光球を同時に矢に変換し、放つ。

それすらも狐神桐雄には掠りもしない。
亜音速の光線が通り抜ける頃には既に大きく照準の座標を外れ、オリンピック選手さながらの速度で樋之上壊に向かい疾走してくる―――。
迎撃すべく放つは残り三つの光を変換した矢。
更に重ねて、右腕から顕現させた不健康な光の鞭を退路を塞ぐように振るう。
逃れることはまず困難だ。
樋之上は決して自らの実力に驕るような真似だけはしない。
たとえどれだけ自分が優勢な状況であろうとも、常に最善手を選択し、些細なミスを犯さない。
その彼が確信を持って言えた。あれを避けきることは常人では叶わないのだと。

「粘るなあ、アンタ。とっとと燃え尽きて――――っ!?」

魔術の怪物、生まれながらに絶対の力を有して生まれてきた樋之上壊が、心の底から驚愕した。
狐神桐雄の進撃は、止まってなどいない。
肩に本当に僅かな掠り傷が出来ているだけで、行動に支障が出るような傷は一つも負っていないのだ。
いくら亜音速の射撃といえど、避けることが不可能な訳ではない。
当然、視認してから避けることなどまず不可能―――それが複数の射撃ならば尚更だ。

(まさか、あれを全て……予測した、のか? 照準座標を、速度を?)

そんなもの人間業ではない。
優れた拳法家には、未来予知にも等しい超直感が宿るという話を聞いたことがあったが、こんな未知の能力にまで対応して超えてくるとなれば、それは立派な怪物だ。

84 :
狐神の使った手段は、確かに『座標の予測』である。
速度は目見当しか頼れるものがなかったが、大体のそれを設定し、丁度超えられるように動いた。
亜音速の一撃などまともには避けられない。
故に、あらかじめ避けた攻撃の座標へと移動し、華麗にスペースを作りながら全てをかわしていたに過ぎない。言葉で言うだけなら簡単ではあるが、実際にこれを成し遂げられる人間はそういない。
まず、脳が通常なら対応できないだろう。
全くの未知、論外もいいところの攻撃を微塵の焦りもなく捌く度胸と、即座に速度、座標、移動距離を割り出し、ミリ単位で計算する能力が無ければ到底不可能な芸当だ。
だが、狐神にとってそんなことはどうでもいい些事だ。
妹を殺されて、復讐の為だけに肉体を酷使して鍛練を積み上げてきた彼には、関係がない。
いや、造作もない。

ただあの憎き男の首を獲る、それだけを原動力として、狐神は疾駆する。
流石に焦りの色を見せる樋之上は、攻撃を頭上から落とすものに変える。
空中から落雷のように降り注ぐ破壊の光。
嫌でも上に注意しなければならない、そこを逆手にとって―――近接戦で刈る。
ひゅひゅひゅひゅひゅ――――と気の抜けるような音を立てて、狐神の頭上から降り注ぐ光の柱。
当然当たれば頭は弾け飛び、無惨な中身を晒すこととなるだろう。
狐神は真横に、反復横飛びを原型とした跳躍術で移動しその攻撃を避ける。
が、もう遅い。
樋之上壊の両手の中には、剣のような形状の『光』が収まっており――それを、双剣のように振るう。
鉄さえバターのように切り裂く刃を―――生まれてこの方一度も使ったことのない『刃』の形として―――、たった一人の人間をために使う。
回避直後。
あれだけの距離を跳躍していれば嫌でも隙というものが生まれる。
そこを叩けば、おしまいだ。
ドゴッ! という鈍い音がした。
樋之上壊の腹には、狐神桐雄の拳がめり込んでおり、両手の双刃は意味を成していない。
読まれていた。
着弾する位置も、そして樋之上の攻撃の軌道までも、完膚なきまでに見透かされていた。
「ガッ――――てめえ!」

顔面を憤怒の形相に歪めて、狐神桐雄を排除するに足る威力の光線が、狐神の顔面目掛けて直進する。
有り得ない、眼中にすらなかった『自分が攻撃を受けた』という事実に動揺を隠せない樋之上に対して、狐神は憎き相手を目の前にしているとは思えないほど冷静に対処する。
直撃どころか、掠っただけでも消えない傷となるそれを、微塵の恐れもなく避ける。
その動作は頭をたった数センチずらすという単純なもので、こうも読まれやすい攻撃を繰り出す時点で、樋之上壊が何れ程冷静さを欠いているかが窺える。

安全地帯であった空間から惜しむことなく一歩を踏み出し、拡散しながら飛来する光線を、地面を転がりながらかわす。
不格好な方法ではあるが、それでも泥以外に狐神を汚すものはない。
「どうした、殺人鬼。もう終わりか」
挑発でただでさえ冷静でない仇敵を、自滅へと追い込まんとする。
およそ武器の類を何一つ持たず、拳と体術のみで自分が追い込まれているということが、樋之上壊には信じられなかった。自らの力の強大さを正しく認識しているからこそ、その常識はずれに対応できない。
そして何より、これだけ優勢な状況を作っておきながら狐神桐雄には『油断』がまるでない。

距離は五メートル弱。
あと二歩の接近で相手の攻撃圏内に入ってしまうが、それはこちらも同じである。
この至近距離でならまず外すことはない。ちょっと調整して放てば、この苛つく警官を消し炭に出来る。
よって、アドバンテージはこちらにある―――これを勝機と言わずして何と言うか。

85 :

威力はとびっきり。
攻撃範囲は狭く、ドーム状に。
狐神桐雄の拳が俺の身体を打ち付ける前に、焼き尽くす。
醜悪な笑顔で、迫る狐神を中心に攻撃範囲を示す『円』を設定する。
距離はおよそ二メートル強。
拳はまだ振り上げられていない。
(勝った)
樋之上壊は、勝利を確信して、精一杯の冷静さを保って狐神に応ずる。
既に少しずつ形成されつつある青白いドームが、この忌々しい警官への手向けだ。
復讐だか何だか知らないが、自分が負けるなんてことは認めない―――!
エゴの塊のような執念を燃やしてその姿を捉え、
「っ、あぁ!?」

狐神桐雄のとった行動は、拳による殴打でも回避行動でもなかった。
それは、駆け抜けること。
樋之上に衝突することも構わず、全ての行動を放棄して、樋之上ごと突っ切った。
そして樋之上の首を掴み、驚異的な腕力で形成された光のドームの中に投げ飛ばす。
うがっ、という短い悲鳴がして、完成した死のドームは自らを生み出した張本人すら外に出さず―――中では今頃絶対の威力が吹き荒れ、樋之上の身体は文字通り消し炭になっていることだろう。
復讐の終了にしては随分と呆気ない、だが自らの振りかざしてきた力によってその命を落とすという、なかなか皮肉の効いた幕引きだ。
念願の復讐を遂げた狐神の表情は―――優れない。
生きてきた目的を、こんな一瞬で失ってしまった男は、ひどく動揺していた。
妹の仇は討った。
だからこそ、自分がこれ以上警官を続ける意味もなくなったわけだ。
(終わった、訳か)

未だ消えず残留している光のドームをぼうっと眺めて、彼は自分が全く喜んでいないことに気付いた。
追いかけてきた悲願を達成したというのに、心中には冷たい風が吹き荒れているようだ。
一言で言えば、虚しい。
一心不乱になって目指していた目標を失ったことで、狐神桐雄は虚無感に包まれていた。
喪失感、と言ってもいい。

(俺は………こんな奴の為だけに、正義を突き詰めてきたのか)

祭りの後の静けさのように、復讐に急いていた男は、冷めた。長い長い悪夢から醒めた。
しかし悪夢を見続けたせいで、現実に適応できなかった。
「何だ……これじゃまるで、バカみてえじゃねえか」
愚かだ、と狐神桐雄は思う。
自分が間違っていたのかと疑いたくなる。
頭では自分のしたことは正しいと思っていても、心は困惑の極地にあった。
積み上げてきた正義という大義名分が音を立てて崩れていく―――そんな錯覚にさえ、囚われる程に。

86 :
――――ひゅん。
風を切る音がした。
空気を切り裂き、それは狐神桐雄の腹に一つの、コルクくらいのサイズの穴を穿つ。
「…………驚いたな。お前、生きてやがったのか」
「カハハ……一回死んださ。そこから、粒子サイズで身体を組み直してきたんだよ。
蛇は自分の毒じゃ死なない。同じ手はもう二度と食わないぜ」
狐神の後方には、全身を粒子レベルで消し炭にされた筈の青年、樋之上壊の姿があった。

彼の使用したのは、自らの力を『自己再生』の形で応用する離れ業だ。
自分の力で破壊されたからこそ、その不可解な力で、肉体を再度構築した。
衣服まで寸分狂わず、構築したのだ。
もっとも、それは自分の力による自滅だったからこそ出来た芸当だ。
もしあそこで、地面に叩き付けて首の骨でも折っていたなら、勝者は間違いなく狐神桐雄だった。
銃弾で心臓を破壊しても、鉄剣で切り刻んでも、死からは逃れられない。
――――ただし、自分の力でなら話は別。
更に、肉体のパーツところどころに『光』の断片を使用したことで、自滅は二度と起こらない。
狐神桐雄のとった手段は、樋之上壊を相手取るには最悪の手段だったのだ。
結果、正義の警官は腹を撃ち抜かれ、極悪の魔術師は無傷で直立している。

「―――でも、あんたすげえよ。俺は素直にあんたに敬意を示すぜ。
あんたの妹さんをぶっ殺したことも今なら素直に詫びよう。俺はあんたを尊敬する」
「そうかい……なら、地獄で千年でも償ってこいよ」
「お断りだ」
「そりゃ残念」

満身創痍の警官は、その言葉を皮切りに疾駆する。
幸いだったのは、腹を撃ち抜いた光線が超高熱のものであったこと。
おかげで通り抜けた断面がほぼ炭化し、出血量はほぼ零。
だからと言って無事で済む筈がない――恐らく内臓を掠めている。
あまり長生きは、出来そうになかった。
(だから、どうした)
一発でいい。あの下衆の顔面を渾身の拳で打ち抜く。
それさえ決まれば、首に手をかけて頸椎をへし折ってやる。
それで今度こそ終わり、虚無が残ろうが構わない。
これをここで沈めなければ、最悪の事態さえ考えられる。
一歩でも早く。
一瞬でも早く勝負をつける。
前方から飛んでくる光の束を避けるが、掠る。
あれも戦いの中で進化したと言うことか。
全身の至るところに熱を感じ、時には身体に穴が穿たれる不気味な感覚さえ感じた。
――――それでも、止まらない、止まれない。

87 :
「小癪なッ!」
右からの、薙ぎ。蒼白の長剣の斬撃を掻い潜る。
背後から迫ってくる熱。身体を反らしてかわそうとするが、脇腹を浅くだが切り裂かれる。
しかしそれでいい。
直撃を避けられたというただそれだけの事実でさえ、狐神桐雄にとっては僥幸―――。
――――距離はおよそ五メートル。

奇しくも最初の失敗と同じ間合いだ。
あのドームを発現させてくるというなら、さっきと同じように突き抜け、首を折る。
至近での光線ならば、避けることまでは不可能でも、掠り傷に止める。
回避した位置から、カウンターの一撃を叩き込み、畳み掛ければそれで終わりだ。
「うおおおおおぉぉらああああぁぁぁあ!!!」

それは、放射だった。
単純な軌道の、避けるにはあまりにも容易い行動。
だが、ここでこの狡猾な殺人鬼がそんな正攻法を取ってくるとは思えない。
軌道の急転換。
狐神の予測の通りに、それが進む方向を変えた。
予め想定していたパターンに当てはめてそれを難なく避け、そしてーーー叩き込んだ。
固く握り締めた拳は、樋之上の顔面を確かに打ち抜いてその身体を地面に叩きつける。
しかし、狐神桐雄の体は動かない。
自分の胴体に視線を落とすと、何かが突き出ている。
貫いていた。
蒼白の長剣が―――確かに避け、そこですっかり眼中から外してしまっていたそれが、深々と狐神の胴体を貫き、その進撃を止める程の致命傷として、君臨した。
「……驚いたな。まさかあれがここで響いてくるか……俺も、馬鹿だな」
「どうだい。これが俺の力だよっと。んじゃ俺そろそろ行くけどさ、何か最期にあるかい」
「そうだな。ずっと言いたかった。」
「死にたくない、よって却下だ」
軽薄な口調でそう言う。
殴られた衝撃など感じていないかのように、樋之上は立ち去っていく。
追いかけようにも、もう身体が動かない。
正確には少しなら動かせるが、立ち上がるまでのことは出来そうになかった。
胴体には複数の穴が穿たれていて、我ながら、よくこれで戦えたな。

「……狐神っ!」

意識を闇に委ねようとした瞬間、狐神桐雄の耳が青年の声を捉える。
聞き慣れた――という程付き合いは深くないが、それでも自分が道を正すことに成功した、青年。
夜桜方程。科学者志望の気弱な青年が、傍らに幼い少女を抱えて、走ってくる。
逃がしたと思っていたのに、まさか自分の勝利を確信して待っていてくれたとは思わなかった。
ある程度まで近付いて夜桜はその顔を悲痛そうに歪め、狐神がもう助からないことを悟ったようだった。

88 :
「夜桜………か……はは。偉そうな口叩いといて、やられちまった」
「全くだっての……散々ぼくを焚き付けといて、勝手に死ぬなんて勝手すぎるぞ!」
「無茶苦茶を、言うな……こりゃ無理だよ。まず確実に内臓が再起不能になってる」
泣き言の一つも吐かず、狐神は笑う。
これから死ぬなんて思えないその笑顔を見て、夜桜は逆に胸が締め付けられる思いだった。
夜桜方程は落ちこぼれなりにも科学者志望だ。
人体の構造なんかにも、少なくとも目の前の二人より詳しい自信がある―――だから、分かってしまうのだ。この男が、この勇敢なる警察官が、助からないということが。
「そっちのガキ……怪我はねえ、みたいだな。名前は、何だ」
「……椋梨水花です、お巡りさんのおじさん……死んじゃうの?」
水の花とはいい名前だ、と笑って、最後の質問には答えない。
水花もその様子を見て悟ったのか、それ以上の追求をやめて悲しそうに、目を細めた。

「いいか、夜桜。樋之上壊―――金髪の、あいつには絶対に近付くな。今のお前じゃ、殺される」
「あいつ……一体何なんだ? あんなの、まるで」
「兵器、だな。俺も分からん。分かるのは、あれがこの腐ったゲームの中でも一番腐った野郎だってことだ」
その語り口には、どこか悔しさのような感情が見え隠れしている。
最初に樋之上を見た時の反応から考えて、狐神は樋之上壊と、並々ならぬ因縁があったのだろう。
その因縁の相手、憎き仇敵に敗北したことなんて―――悔しくないわけが、ないじゃないか。

同じような経験を何度もしてきた夜桜はその気持ちがよくわかるつもりだが、狐神桐雄のそれはきっと、夜桜なんかには想像も出来ないやるせなさ。
永遠にリベンジの機会は与えられないし、見返してやることももう、出来ないのだ。
何故だか、涙は出なかった。
心の中で自分は涙脆いと自負している夜桜だったが、どうしても、涙は出なかった。
彼を今支配しているのは、同情の涙でも樋之上への怒りでもない。
――――強い、人生で一番と言ってもいいほどの強固な決意だった。

「約束するよ、狐神」

弱々しさなど欠片もない、強く毅然とした態度で、もうじきに命を失うであろう男に宣言する。
誰が何と言おうともこの決意だけは絶対に曲げられない。
もしかしたら夜桜方程という人間を破滅に導くかもしれない。
それでも、夜桜方程は言った。

「ぼくは必ず樋之上を倒す。仲間を集めて、あの化け物に報いてやる」
「……馬鹿。無茶言ってんじゃねえよ」
「無茶でもだ。これはぼくの決めたことだ。いくらお前の言うことでも、聞いてはやらない」
「……か、はっ……何だそりゃ。最高だ……何だよおい、俺のしたことだって……無駄じゃ、なかったんじゃねえかよ……これだから、警察官ってのは止められねえ」

視界が霞んで、もう夜桜の表情さえ窺うことが出来なくなっても尚、狐神は笑った。
自分は不幸だと、どこかで思っていたのに―――どうやら自分は思っていたよりずっとついていたらしい。
そんなことに今まで気付けなかったことが可笑しくて、笑うしかなかった。

89 :
「いいか、夜桜。水花のお嬢ちゃんを守れ。そんで、お前の道を往け」
「心得た」
「わたしも、先生のお手伝いします」
希望は、ある―――そんな当たり前に、狐神桐雄は報われた。
それ以上の言葉はいらない。
そう判断したのか、狐神は静かにその瞼を閉じた。
二度と、開かれることはない。
正義に生きて、復讐と板挟みにされながらも懸命に自分の道を進み続けてきた男が、ここに眠った。
無念の色など感じさせない安らかな表情で、眠るように死んでいる。
次に希望を繋げたのだから、彼にとってはそれで満足だったのかもしれない。
妹のいる世界へ、静かに―――召される。
「……行くぞ、水花。この人を埋めてやりたいけど、樋之上ってやつが近くにいるかもしれない」
こくり、と頷く水花の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
目の前で見た人の死の瞬間は少なからず衝撃的だったのだろう――しかし、得たものもあったようだ。
必死に涙を堪えているその姿を見て、夜桜は素直に彼女を強いと思った。
まだあまりにも幼いのに、現実を受け入れて進もうとしているその姿勢に、感銘を受けた。

(いいさ、やってやる。水花は守る。樋之上壊は倒す。そんくらい、やってやろうじゃないか)

椋梨水花の『先生』として、生徒に頼りないところは見せられないだろう―――?
失ったものは大きかった。
それでも、それと同等に得たものだって大きかった。
争奪戦―――バトルロワイアルはまだ続く。

二人の参加者は、確固たる決意を胸に、振り返らずに立ち去るのだった。


【狐神桐雄@警察官 死亡】

【B-3/森/午前】
【夜桜方程@科学者】
[状態]健康
[装備]猟銃
[道具]基本支給品一式
[思考]
基本:ぼくの道を往く

【椋梨水花@小学生】
[状態]疲労(小)
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、不明支給品1
[思考]
基本:先生についていく。悪いことはしない

90 :
投下終了ですー。
遅れましたが近い二つの感想を
>四字熟語ロワ
第二放送突破おめでとうございます!
先手必勝と青息吐息のコンビは好きだったなあ。
いよいよ終盤、これからが気になるところだ
>予選ロワ
こういう駆け引きを書くことは自分には出来ないな。
ワクワクする話でした

91 :
皆様、投下乙でした。
えー、自分の趣味ロワですが、ここで参加者の追加を申し出たい。
【戦姫絶唱シンフォギア】
立花響/風鳴翼/天羽奏
【勇者王ガオガイガーFINAL】
パルス・アベル
【魔法戦記リリカルなのはForce】
アイシス・イーグレット
以上5名を、参加者に追加しようと思います。
既存の投下エピソードの中で、人間関係に変化のあるキャラの描写は、Wikiで変更しておきます。

92 :
えーと、すいません。
自分の二次媒体ロワですが、少々参加者の力関係バランスが悪いので調整することにしました。
矛盾が生まれる話は修正するつもりです

93 :
投下乙です。
狐神さん死んじゃったか……でも夜桜さんが格好よくなったね。
では自分も冤罪ロワ投下します。

94 :
運が悪かった。
そうやって済ませればどれだけよかったであろうか。
私は何故か店で万引きしたということにされていた。
どうしてそうなっていたのかなんてわからない。
記憶が、丸ごと抜け落ちているからだ。
でも、窃盗とかいう軽い罪のために死ぬなんて、御免だ。
私は生きていたいのだ。
毎日友達と遊んで、いやいやながら勉強して、いつか恋もして。
そんな幸せな日々を壊すなんて、あり得ない。
「――――早速逃がしちゃったかぁ」
まぁ、そんなこんなで『いやいや』殺し合いをするわけとなった。
私みたいな一般人が人をなんて恐ろしくて出来やしないけれども。
でも死にたくないから仕方ないよね。
「まっ、そのうち他の誰かが見つかるよね……」
支給品に入っていた拳銃をポケットにしまう。
こんなものを表立って出していたらすぐに疑われてしまう。
私はあくまで『普通の女子高生』であらなくてはならない。
「……しかしながら、やっぱ僕はツイていないんだねぇ」
やりもしていない窃盗で捕まり、そのまま殺し合いに投げ出されたのだ。
今までの普通の生活を一気に否定されたかのようだ。
不幸キャラではなかったはずなのに。
本当に、どうしてこうなったんだろう。
「そうだな、俺もついてないからな……」
「ッ――――い、いつからいたの?」
「さっきから」
僕の後ろにはいつの間にか人がいた。
驚くほどの長身で長い髪を持った男の人だった。
こんな人が後ろにいても気づかなかったなんて、どれだけ自分は鈍感なのだろうか。
「……で、僕に何の用なの?」
「何の用かと言われてもねぇ、なんと返したらいものなのか」
へらへらと笑いながら男は言う。
こいつならのは簡単そうだ。
ポケットから僕は拳銃を取りだそうとした。
「――――簡単にいえば、死んでもらおうかなって」
その言葉を聞いた瞬間、僕の頭には?マークが浮かんだ。
最初はよくわからなかった。
けれど、すぐに私はその言葉を理解した。
手に持たれていた『何か』は僕に向けられていた。
「ッ――――!」

95 :
急いで僕も拳銃を取りだした。
だけれども、遅かった。
パァン、パン、パン――――乾いた音が鳴った。
おなかが痛い、胸が痛い、熱い。
僕はこんなところで死んでしまうのだろうか。
いやだ、まだ僕は生きていたいんだ。
こんな、こんなところで――――。
「死に、たくな」
【笹部樹・窃盗 死刑執行】
◆    ◆
「――――ああ、殺しちまった」
俺は少なからず後悔している部分はある。
ただの女子高生を殺してしまったんだ。
俺が抱えている冤罪より、重いのだ。
「でも、俺は、あいつを殺さないといけないんだよ」
遅れたが、自己紹介(誰に向かってだ)しようか。
俺は長谷川哲、ただの会社員だ。
何も変わりなく働いていた時、俺は警察に声をかけられた。
理由は単純、俺が世間を騒がす強姦魔に似ているから。
そして、俺が名前を言うと警察は有無も言わさず俺を逮捕した。
この理由も明快、俺が長谷川と言う名字だからだ。
強姦魔は長谷川と言う名字らしい。
俺は間違えられて逮捕された。
「待っていろ、長谷川……絶対に見つけてボコボコにして警察に突き出してやる」
間違っていると言うのは分かっている。
それでも俺は、許せなかった。
ただの自己満足なのは、わかっているのだが。
【A-2】
【長谷川哲・強姦】
[状態]多少の戸惑い、思考能力低下
[所持品]基本支給品、ベレッタM92(10/15)、グロック17
[スタンス]マーダー
[殺害者]1名(笹部樹)

<オリキャラ紹介>
【名前】長谷川 哲 (ハセガワ サトシ)
【罪名】強姦
【性別】男
【年齢】24
【職業】会社員
【性格】気さく
【趣味】漫画を読む
【特技】不明
【好きな事・物】不明
【嫌いな事・物】不明

96 :
投下終了です。
題名:「待っていろ」
登場人物:笹部樹、長谷川哲

97 :
投下乙です。
ああ、なかなかにスレてるなぁ。
自分も趣味ロワ、投下させていただきます。
今回は1レスだけの投下で、早速昨日投下した、天羽奏の話です。

98 :
 かさかさ――という足音が、森の闇から歩み寄る。
 新緑と茶色い幹をくぐって、平野へと姿を現したのは、森の獣ではなく人の少女だ。
 宵に映える紅髪は、さながら獅子のたてがみのように、風を受け堂々とたなびいていた。
「……どうしたもんかね」
 いまいち緊張感に欠ける声で、少女がため息と共に呟く。
 きらびやかなステージ衣装と相まって、この実験場に放り出されたにしては、あまりにもアンバランスな様子を示していた。
 少女の名は、天羽奏。
 当時人気絶頂を極めていた、アイドルデュオ・ツヴァイウィングの片割れである。
 そして本来ならば彼女は、既にこの世にはいるはずのない存在でもあった。
 享年17歳――彼女は今から2年前に、命を落としていたはずだったのである。
(あたしは確かに、さっき死んだはずだったんだけどな……)
 ぎゅ、と己が身を右腕で抱く。
 風鳴翼の感触は、辛うじて身体に覚えている。
 奇妙な話だ。
 ツヴァイウィングのパートナーの腕に抱かれ、生涯に幕を閉じたという記憶は、確かに頭に残っていた。
 人を襲う怪物・ノイズと戦い、全ての力を出し切った己は、肉体の崩壊により消滅したはずだった。
 にもかかわらず、生きている。
 死んだはずの身体が蘇り、確かに両足で大地を踏んでいる。
 ここはあの世か? 答えは否だ。
 先ほど確認した名簿には、生者であるはずの翼の名前もある。
 何より天国というものが、死んだ人間に再び死を強要するような、無慈悲な場所であるはずがない。
「しゃーない……生き返ったってんなら、やれること、やらなきゃならないことをやるだけさ」
 にっかと不敵に奏は笑う。
 死人が生き返ったというのなら、生き返らなければならない理由が、そこにはあるはずだと呟く。
 少なくともこの実験とやらには、奏は大反対だった。
 伝説の鎧・シンフォギアを纏い、人々のために戦ってきた彼女には、到底許せるものではなかった。
 最初の動機が復讐だとしても、今に固めたその想いには、偽りや曇りなど何一つない。
 故に、奏は歩を進める。
 どうやって自分が生き返ったかだとか、そうした細かい疑問の数々は、全て思考の片隅へと追いやる。
 いの一番に考えるべきことは、このふざけた殺し合いの打開だ。
 そしてそのためにも、恐らく自分と同じことを考えるであろう翼とは、速やかに合流しなければならない。
 両翼揃ったツヴァイウィングは、どこまでだって羽ばたいてゆける。
 どんな逆境にあろうとも、必ずや血路を切り開いていける。
「あっ……そういやあの子、無事だったかな?」
 と。
 その時になって思い出したのは、あのライブステージに置いてきた、1人の観客の命だ。
 自分よりいくつか歳下の、活発そうな女の子だった。息を吹き返したからには、一命は取り留めたはずだ。
 元気になってくれてるといいな。
 そんなことを考えながら、奏は平野を歩いていった。
【一日目/深夜/D-2】
【天羽奏@戦姫絶唱シンフォギア】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】基本支給品、不明支給品1〜3
【思考】
基本:この殺し合いを打倒する
1:翼との合流を目指す
2:欲を言うなら、ガングニールとLiNKERが欲しい
【備考】
※第1話にて、死亡した直後からの参戦です。

99 :
投下は以上です。
タイトルは「蘇る翼」で

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