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2012年4月創作文芸231: リレー小説でノーベル文学賞を狙うスレ (243)
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リレー小説でノーベル文学賞を狙うスレ
- 1 :10/11/20 〜 最終レス :11/10/28
- 一人5〜10行程度。
ちゃんとリレーをしていれば何でもあり。
1000で完結した作品でノーベル文学賞を取りましょう!(賞金はやま分け)
- 2 :
- ノーベル賞は作品ではなく個人な
- 3 :
- >>2
じゃあ2ちゃんねらーという匿名性の集合体がひとつの作品を作るということで比喩的で記号的なベクトルに収斂した個が希望的観測の意味あいを含ませながらノーベル文学賞を狙いましょう!
では、仕切り直してスタート!
- 4 :
- ある朝目覚めると俺は一匹の巨大な猫になっていた。鏡を見なくても分かる。
眠気マナコを擦った時の手は丸かったし、なにより頭をもたげてお腹を確認するとあの便利なポケットがそこにはついていたのだ。
ドラえもんになっているに違いない。
「なんてこった……」俺は布団に横たわったまま悄然とため息をついた。
- 5 :
- 作品作るだけじゃなくて、大学で教えたり公演しないとダメだったと思う
(だから「俺は孤独」気取りの春樹ですら大学で教えてる)
- 6 :
- >>5
春樹じゃ無理だろ
日本での春樹は過大評価
- 7 :
- 春樹が可能かではなく、春樹ですらそういうことやってるよという話
大江健三郎だってまめに世界ペンクラブの会合に出たり海外の作家と交流したりしてたはず
- 8 :
- これ話続いてるの?
- 9 :
- >>7
はいはい(笑
春樹信者乙
- 10 :
- 春樹信者じゃないだろ、
>「俺は孤独」気取りの春樹
これは馬鹿にしてると思わないか? そういうニュアンスが分からん人なのか?
- 11 :
- >>10
なんでお前は偉そうなの?信者なの?
- 12 :
- だって春樹の事馬鹿にして書いたのに、信者って言われて
なんで馬鹿にしてる部分を読み取れないんだ?コイツって思うでしょ
君だって立場が逆なら、同じような態度だと思う
- 13 :
- ワロタwwこいつ糖質だわwww
付き合ってらんね。じゃあな信者w
- 14 :
- 俺は暗澹とした気持ちで窓から通りを眺めた。
なにやら男たちが民家の板塀の前で不毛な口論をしているように見受けられる。
俺がドラえもんになったからなのだろうか……?
いや、それとこれとは何の関係もないはず。
俺は窓のカーテンを閉めて薄暗い部屋の中ひとり膝を抱えた。
- 15 :
- >>5-13でノーベル平和賞とれるだろ
- 16 :
- と言ってひとりの男が部屋に入ってきた。彼は右手に銃をもっていた。
「今からノーベル平和賞の授賞式がある」
僕に喋るいとまを与えず彼はつづけた。
「さあ、来てもらおう」
腰に銃を当てられ僕は部屋をあとにした……
- 17 :
- 会場まで移動する車の中で、僕は昔のことを思い出していた。流れていく外灯の淡い光に誘われたのだ。
幸運な人間だったのだろうか、思い出すのはいつも楽しい記憶ばかり……。
しかし、なんだろう。何か違和感を感じる。何かが足りない。……何かがおかしい。
一番大切な何かを、忘れている?
突然芽生えたその違和感は、炎が写真を燃やすように、虫食いのごとく僕の記憶に穴を開けていく。僕はーー
「ここだ。降りろ」
車は街の入り口と思しき場所についていた。錆びついた看板には『サイレントヒルへようこそ!』。
「それで、どこなんだい?その会場は」
しかし後ろへ声を掛けた時には、男はどこかへ行ってしまっていた。残されたのは黒のセダンが一台。
「なぁんだアイツ、僕の車を使ってたのか」
まぁいい。僕は街へと入って行った。
- 18 :
- 街に活気はない。シャッターを下ろしたままの店が目立つ。
僕はすれ違う人たちの顔を観察しながら街のメインストリートをぶらぶらと歩き続けた。どの人も死んだ魚のような目をしている。
これからどこへ向かえばいいのか、それは分からない。あの男から得た情報はノーベル平和賞の授賞式があるということだけだ。
僕とノーベル平和賞。――いったい、何の関係があるのか……。
とりあえず、この街の人に話しかけてみよう、そう思った時である。僕はうしろから肩を掴まれた。
振り返るとそこには黒スーツにサングラス姿の男が立っている。
男は言う。「探しましたよ。勝手に動かれちゃ、困りますな」
傷のある片頬に酷薄そうな笑みを浮かべた。
- 19 :
- するとどうだろう、男の頬の傷がみるみる裂けていくではないか!
「うわあああああ!」
「うわあああああ!」
僕と男は同時に悲鳴をあげた。
僕の悲鳴はこの怪奇現象による驚きからであり、男の悲鳴は頬の傷が裂ける痛みに違いない。
頬の傷はついに体の側面全体に広がった。
- 20 :
- 細胞分裂である。
- 21 :
- 細胞分裂を繰り返し、男は48人になった!
「会いたかったー、会いたかったー、会いたかったー、きーみーに〜♪」
息もぴったりに踊ったあと僕を指差して微笑んだ。
不覚にも「か、かわいい」と呟きを漏らしてしまったのはヒミツだよ。
(メガネクイッ)
- 22 :
- 一方その頃、
- 23 :
- 男子校のグラウンドにひとりの人物がいた。
彼の名はホモ田男吉。45才。この学校を去年クビになった教師である。
半端ない職権乱用でお気に入りの男子生徒たちを次々と毒牙にかけたあげく、ついにはそれが明るみに出たのだ。新聞にも載った。
今日、彼は性懲りもなく真夜中に男子生徒の私物を盗みにきた。
「はぁはぁはぁ」鼻息が荒い。
- 24 :
- その鼻息の音は半ぱなく、街中の人たちが目を覚ました!
「不審者がいます!」
近所の主婦(タルヒッシュサセコ・26才)が110番通報した。
- 25 :
- 「またモンペアか。くだらん通報だ。たかが不審者如きで強姦されたのように
国家権力に救いを求めるなんて。まだ闘争の根幹を理解していないのか」
某少佐によく似た眼鏡デブが億劫そうに立ち上がった。
その手にはドイツ製短機関銃MP5が握られていた。
- 26 :
- 不審者特別捜査本部に当てられている部屋へとデブは入って行った。
「おい、ついにやっこさん姿を現したぞ」
その一言に部屋の中が色めき立った。
「なに、本当か」県警本部長の野田が目を剥いた。
「ああ、男子校に忍び込んでいるそうだ」
「よし、それじゃあ今から行くぞ!」
完全武装した機動隊員数百人を引き連れ野田とデブは男子校へ向かった。
- 27 :
- 後部座席でいびきをかいていたはずのデブが、不意に口を開いた。
「停めてくれ」
野田が怪訝な顔でデブを見やる。
「どうした? 学校にはまだ着いていないぞ」
デブはゆっくりとかぶりを振ると、丘陵のように丸みを帯びた腹部をさすって言った。
「腹が減っては戦ができぬ」
- 28 :
- その頃、デブの実家では
小学生五年生になろうかという彼の妹が、貞操の危機に晒されていた。
- 29 :
- しかし、飼い犬が激しく吠えたため、何事も起きなかった。
不審者は犬嫌いだったのだ。
- 30 :
- ヤケになった不審者は白昼堂々ネコを犯した。
不審者はホモでありながら犬以外の獣を犯す趣味も持っていた。
買い物帰りの主婦がそれを見て悲鳴をあげる。
悲鳴をあげた主婦はまたしてもタルヒッシュサセコ、その人であった。
- 31 :
- しかし小学生は裏切らない。
愛してる
- 32 :
- 不審者の心情の吐露であった。
ホモであるうえにロリコンなのだ。もはや救いようが無い。
- 33 :
- ホモもロリコンもいい加減うんざりだと、
タルヒッシュサセコから話を聞いた野田は思った。
- 34 :
- なぜなら今となりで飯を食っている相棒のデブがホモでロリコンなのだ。
ラーメン屋のカウンターに美少女フィギュアと雑誌サブを置いている。
股関がモッコリしている。
- 35 :
- ホモでロリコンは有り得ないんじゃないのか?
ロリータも一応、少女とはいえ、女だし。
- 36 :
- ーーそんな事でも、思っているのだろうか。
- 37 :
- 気になったので野田はデブに訊いてみた。
- 38 :
- 「お前の名前はなんだ!?」
- 39 :
- 「森本レオ◯です」
- 40 :
- 野田は、ギョッと椅子ごと仰け反った。
声が震える。「お、お前の名前は森本レオ〇というのか!?あの有名芸能人にそっくりじゃないか!」
「は、はい」デブこと森本レオ〇の声も震えている。
コンビを組んで十数年、こいつは今初めて俺の名前を知ったのかと驚愕しているのだ。
アホな二人組みである。
- 41 :
- 「なーんちゃって」
突然、デブはおどけた表情で言った。
「レオなわけないだろ。日ごろ俺のことをデブデブ呼ぶから、名前を忘れたりするんだよ」
野田は息を呑む。目の前で三杯目のラーメンに挑む同僚を見ながら、こう思った。
デブのくせに鋭いヤツだ、と。
- 42 :
- 話は戻ってサイレントヒルにて、
- 43 :
- サイレントヒルの男はAKBを歌い踊り満足したのだろう、どこかへ行ってしまった。
僕はふたたび歩き出す。
三人称から一人称に戻って。
- 44 :
- 巨大なテナントビルを右に折れて真っ直ぐ進むとポプラ並木の鮮やかな公園が見えてきた。
僕はポケットの小銭で自動販売機から温かい缶コーヒを買い、そこへ向かう。
あずまやのベンチに腰をおろすと泣けてくる。
「もう帰りたい……」
だけど帰り方が、分からない。
- 45 :
- 空も風も公園を行く人の声も、何も、もう何も届きはしない。
うつろな砂場に空疎なブランコ。
昨今の犯罪事情を反映してか、親の目を離れて遊ぶ子供たちはいない。
「時代が……、変わったなあ……」
僕はいつの間にか、そんなことをひとりごちた。
そして思い出した。
ふるさとの山あいの村、あの村で過ごしたひと夏の淡い恋物語を。
- 46 :
- >>5-13
- 47 :
- 娘の名前は藤子といった。藤子に対する恋心を自覚したのは十二の頃である。
村の子供たち数人が集まってかくれんぼをすることになり、僕は神社へ上る石段に隠れた。
石段の横には穴があって、そこは木の枝が巧い具合に覆い被さっていたのだ。藤子が先客だった。
石段の穴は子供二人がやっと入れるほどの広さであり、僕はおずおずと藤子に訊いた。
「僕も入っていいかな……?」
「う、うん」
体を密着させた時、藤子のふくらみ始めた房が僕の腕に触れた。
どきんと心臓が鳴った。
- 48 :
- 藤子の肌は近くで見ても美しかった。細かに光る首は、きっと絹のような手触りなのだろう。
鼻は美しく伸びていて、唇は愛らしく紅く、丸い黒い瞳はどこまでも澄んでいた。
「太郎ちゃん、そんな見つめんでよ」
「わ、悪い」
慌てて顔を反らした。
しかしそんな藤子の声も、首にかかる息も、全て僕の体を波立たせる。
「太郎ちゃん、なんかへんよ。風でもひきよった?」
ざわざわと首筋が粟立つ。心臓が高鳴る。急に何かやましいことをしているのではないか、という自責の念を感じる。
藤子に感じ始めた後ろめたいそれは、しかし同時に僕の中の欲望が首をもたげた瞬間でもあった。
- 49 :
- とその時、石段の木の枝を横払ってひとりの男が現れた。去年、村の駐在所へ
やってきた野田という警察官である。
「こら、なにをしとる!」
「な、なにも悪いことはしちょらん。隠れんぼじゃ」
僕は、この警察官が嫌いだった。
いかにも村人たちを見下したような態度で、口癖のように「あと十年もしたら
ワシは県警本部長だ。こんな田舎でくすぶっているわけには、いかん!」と言っ
ていたからだ。
野田は僕と藤子を好色的な目でじろじろ見ながら決めつけた。
「嘘つけ。不純異遊の現行犯だ!外へ出ろ!」
「違う!ほんまに、ほんまに違う!」
僕は泣き叫んだ。
藤子のあの怯えた顔は今も忘れることができない。
- 50 :
- 野田に腕をつかまれ引きずられていく僕を追って、
藤子は石につまづいて転んだ。たちまち、白い膝が血に染まる。
「藤子っ!」
僕の呼びかけに応え、藤子も僕の名を叫んだ。
その悲しげに揺れる瞳を、今でもふとした拍子に思い出すことがある。
胸に棘が刺さったような痛みを覚える記憶だ。
けれど、この悲しい思い出を小説にして投稿すれば、
二千万円の賞金を手にできるかもしれないと、
もう1人の僕が耳元で囁きかけていた。
- 51 :
- 僕は負けた。耳元で囁く悪魔に魂を売ったのだ。
駐在所でさんざん怒られたあと僕と藤子はそれぞれの両親に連れられ家へと帰って行った。
そして僕は自分の部屋に入るなり大学ノートにその日の出来事をこと細かく描いた。
ーーそう、書いたのではない。描いたのだ。
僕は文盲なのでセリフのない下手くそな漫画でその日の出来事を描いた。
藤子の気持ちも考えず、恥じをお金にしようとしたのである。
「文字は覚えればいい。覚えてから小説を書いてやる」
僕は最低な人間だ。
- 52 :
- だからなのだろう僕はバチが当たって小説の賞に落ち続けそのストレスでみるみる太り出し、藤子からは軽蔑されて村八分になり、世にも稀なる異常性欲者となった。
男子高校に夜中に忍び込んだ。男子生徒の私物を盗んで自慰にふけるため・・・。
遠くからパトカーのサイレン音がきこえてくる・・・。
- 53 :
- と、落選のショックからBL小説を書こうとしたが、
ホモには興味がないので、どうしても続きを書くことができなかった。
- 54 :
- そんな折だった。ある日、ドアのノックする音で僕は目をさました。
東京に来て早四年。僕は知り合いの一人もいなかった。
こんな朝早くから非常識な人間だ、時計を見るとまだ十時にもなっていないので、そんなことを思いながらドアを開けた。
そこに立っていた人をみて僕はーー
「ふ、……藤子っ?」
- 55 :
- 藤子はじゃがりこを食べていた。
藤子とじゃがりこ、なんとなく語感が似ているからだろう。本人もそれを意識しているに違いない。
が、そんなことはどうだっていい。問題は藤子の変わり果てた姿である。
今、目の前にいる藤子をひとことで形容するなら化け物だ。あの頃の面影などまるでない。
体重は200、いや250キロくらいあるのではないか。
もはや首は両肩の間に埋まり、二重顎でどこまでが顔なのかも分からないほどである。
長年の不摂生が祟った肌は吹き出物だらけで酷く荒れていた。
「太郎さん、結婚してブヒ」
喋り方まで変わっている。
僕は物も言わずに藤子の顔面へ拳を叩き込んだ。
- 56 :
- どうしてこうなった……orz
- 57 :
- 「どうしてこうなった……orz」僕はそう呟いた。
足元には藤子の死体が横たわっている。
そんなつもりじゃなかった。思わず手が出てしまっただけだ。
しかし、警察にはそんな言い訳など通らないことだろう。
僕は途方に暮れた。
- 58 :
- 僕は荷物をまとめると、南に向かった。
ドラマの人犯は大抵北に向かう。この習性の逆を行けば、捜査班を途方に暮れさせることが
できるに違いないと信じて。そうして僕は沖縄のハイビスカスを写真に収めるいち旅行者に
なりおおせた。ゴーヤーチャンプルーの旨さに僕は舌づつみを打った。
- 59 :
- 食堂でゴーヤチャンプルを食べていると奥の座敷の女子高生たちがこっちを見ていることに気がついた。
女子高生たちは僕を指差し何やらひそひそ話しをしている。
これはきっと僕に好意を寄せているにちがいない。
南国の女性は解放的だとも聞くし、娯楽に乏しい田舎ほど性体験が早いのはあらゆるデータからも明らかなのだ。
しかも、ここは沖縄。沖縄名産のちんすこうは字面がRに似ている。
Rに似ているちんすこうを沖縄女性は幼い頃から食べているのだ!
「やあ、お嬢さんがた」僕は僕のちんすこうを少しだけ大きくして女子高生たちに近付いて行った。
- 60 :
- 「きゃああああ」と、当然のことながら悲鳴を上げる女子高生たち。
が、その間に割って入る者がいた!
「騒ぎを起こすんじゃない」
食堂の店主だ!
「今、君は追われている立場だろ!」
「な、なんでそれを……」
「詳しい説明はあとだ。警察はすぐそこまできてる。さあ勝手口から、はやく逃げて!」
- 61 :
- うかつだった。店主の気持ちも考えずに……!
深い後悔の念と同時に、淡い快感の波が押し寄せて来る。
「くぅっ」
首筋が粟立つ。痺れが体の芯から潮のように全身を満たしていく。
「おい!お前! そこで止まれ!」
巡回中の警官と思しき影が、路地の先に立った。
ーーああ、駄目だよ。今僕の前に立たれたら……
「止まれ! 止まるんだ!」
ーー駄目だよ、いけないっ!ああぁっ!
「く、撃ちます!」
ぼんやりとした輪郭の動きで、警官が銃を抜いたのがわかった。
ぐっ、体のと痺れが重くなったかと思うと重心が四散した。
「ああああああぁぁぁぁっ!」
おそらく数秒だろう。意識が戻ると、もう路地の先に警官は立っていなかった。
代わりに真っ赤な水溜りと、その中にピンク色の風船が爛々と光りながら落ちていた。
ぼんやりとその景色を眺めながら、僕はあの日を思い出していた。
藤子と、警官と、ーーあの茂みを。
- 62 :
- 藤子の怯えた顔。警官の怒声。あの日の記憶が鮮明に甦り、僕は恐怖に追い立てられて駆けだした。
僕はいつしか崖の上に立っていた。
もう逃げられない。いっそ、この海に身を投げてしまおうか。
その瞬間。
「止めるんだ」
振り向けば、船越に似た男がそこにいた。
「そんなことをしても、藤子さんは喜ばない」
- 63 :
- しかしその藤子は藤子Aではなく藤子Fだった。
ミステリ定番、入れ替わりトリックである。
- 64 :
- その藤子Fの後ろに藤子はいた。
藤子Fの車で藤子はこの崖までやってきたのだ!間一髪である。
「ありがとう藤子Fさん」
「いやいや、困っている時はお互いさまさ。名前が似ているのもきっと何かの縁だしね」
- 65 :
- 「ふ、藤子っ!」僕は叫んだ。「お前死んだはずじゃなかったのか!?」
「あなたに殴られたあと生き返ったのよ!」こともなげに藤子はそう答えた。
「生き返ったって、どうやって……?」
「詳しい説明は、あとよ。さあ、はやく車に乗って。逃げるのよ!」
藤子は僕の腕をつかんだ。
「逃げるって、何から?お前は死んでいないし、殴られたことを訴えるつもりでもなさそうだし……」
「いいからはやくしてちょうだい!」
藤子と藤子Fと船越に似た男は無理やり僕を車の後部座席に押し込んだ。
- 66 :
- 走り出した車から僕は飛び降りた!
小学生の頃から続けてきた機械体操、そして社会人になってからのアクションスターの養成所通い。それが役に立った。
後ろのドアを開けたまま車は僕から遠ざかって行く。
- 67 :
- と思いきや車はUターンしてきて女子機械体操の強化選手にも選ばれた藤子が助手席からダイブした!
「逃がさないわよーっ!」
空中で伸身月面宙返りを決めて見事僕の腹に着地した!
「ぐえっ」僕は白目を剥いてふたたび車の後部座席に押し込まれた。
- 68 :
- 藤子は豊満な肉体で僕を包み込んだ。時代は包容力だ。肉と肉の間に包まれながら
僕はデブ専もいいかなと自分の心が揺らいでゆく過程を観察していた。
と、そこに発砲音が聞こえた。右隣を走る車の窓から見えたのは、某少佐によく似た眼鏡デブだった。
恐るべき警察機構の追手が遂にここまで追い縋ってきたのだ。ドイツ製短機関銃MP5が僕を狙う。
- 69 :
- 眼鏡デブは銃の引き金をひく。ーーとその瞬間、爆音とともにデブの右腕が吹き飛んだ。
「ぐわああああああ!」
自爆だ!
僕らの車の中に飛び込んできた破片から察するに眼鏡デブの握っていた銃はドイツ製短機関銃MP5ではなくフィリピン製トカレフだったに違いない。
とんだお間抜け野郎である。欠陥品を掴まされたわけだ。
「あばよ」僕は右腕から血しぶきを上げる眼鏡デブに後ろ手を振った。
- 70 :
- 「逃がすかぁぁぁ!!」眼鏡のデブは右腕をこっちに向かってつき出した。
腕の断面から無数の触手が伸びてくる。
「くっ、化け物め・・・。藤子F、もっと車をとばせ。スピードをあげろ!!!」
- 71 :
- 「太郎ちゃん、ねぇ太郎ちゃん」藤子が僕の着物の袖を引っ張っている。
僕は、ハッとした。どうやら小説のストーリーを考えているうちに僕はその世界へとトリップしていたらしい。
見上げると悪鬼の如き形相で僕を睨んでいる野田の姿。
「質問にも答えないで、だんまりを決め込むつもりか」ふん、と野田は鼻を鳴らす。
「質問、って……?」
「生意気な餓鬼だ」野田は苛立たし気にかぶりを振った。「警察を馬鹿にしやがって」
「ほんまに知らんのよ。ぼぅとしちょった」僕は慌てた。「あやまるけん。質問に、答えるけん」
「うるさい!」野田は僕を横に突き飛ばして、藤子の腕を掴んだ。「この娘にきく。こっちへこい!」
そのまま奥の宿直部屋へ藤子を引きずって行く。
「太郎ちゃん、太郎ちゃん!」藤子は必死になって叫ぶ。
「藤子っ!藤子っ!藤子ぉぉぉっ!」
- 72 :
- 窓ガラスが微かに音をたてた。地震かと思った途端、地なりのような声が響き渡った。
「たけしッ!」
母ちゃん、と野田は心底驚いた顔で呟き、肩をすくめる。
「まったく! 女の子を泣かせてるんじゃないよ!」
野田は首根っこをつかまれ、母親に連れ出されていった。
- 73 :
- 翌日、野田の母の死体が村の川下で発見された。
首には紐のような物で絞められた痕跡があり、息子のたけしは行方不明だという。
部屋には「太郎と藤子ゆるさん!」と書かれたノート。
太郎と藤子は身の危険を感じた。
- 74 :
- 「おいおい易々いけいけしゃあしゃあと俺から逃げ出せるとでも思ったのか薄ら
トンカチ頓珍漢。」
そこには銀色の鞭を持った、たけしの懐刀。利尻羅切が佇んでいた!!!
- 75 :
- ーーやるしかない。
咄嗟にそう思った。このまま野田の影に怯えながら生きていくぐらいなら、今、ここで……。
「太郎ちゃん」
ハッと後ろを向くと、藤子が泣きそうな目でこちらを見上げている。
「太郎ちゃん、なしてそんな恐い顔しよるの?」
「……心配いらねぇ。奴の悪運も今日が最後じゃ」
幸い拘置場の天井はそこまで高くない。野田の大太刀は不利なはずだ。これは建物全体に言えることだった。
- 76 :
- 拘置所内での勝負を目論んでいた太郎と藤子であったが、そこは野田も心得たもの。自らが不利になるようなことはしない。
所へ向かう途中の護送車から脱出し、ふたたび村に身を隠したのだ!
創作文芸県警が現場に駆けつけたところ、野田たけしの護送にあたっていた眼鏡デブをはじめその他の警察官たちは車内でぐっすり眠っていたとのこと。
何者かが飲食物に睡眠薬を混入させたに違いない。
なぜか眼鏡デブの事情説明だけは芝居がかった印象を受けたともいう……。
- 77 :
- いっぽうその頃、太郎と藤子は夜の公園にいた。僅かに雪を被った外灯が美しい。
「ねぇ太郎ちゃん」
「ん、なんだい」
「野田さんのことなんだけど……」
「ああ。護送車から逃げ出したそうだね」太郎は眉をしかめる。
不安気な表情を浮かべる藤子。
その藤子の肩を太郎は抱き寄せた。
「だけど何も心配はいらない。僕が、藤子を守ってあげるから」
「頼りにしてるわ、太郎ちゃん」
「うん」
二人は池に架かる橋を渡って歩き出す。
橋の向こう側には二人が腰掛けるのにちょうどよいベンチがあったのだ。
ーーが、そこにはすでに何者かの姿。
「太郎と藤子じゃないか、待ちわびたぞ」ぬっと立ち上がり、こちらへ向かってやってきた。
右手に握られた棒のような物が外灯にキラリと反射したのを太郎と藤子は見逃さない。
- 78 :
- 「お、お前は野田っ!」太郎は藤子をかばうように背中へ隠す。
「ふ、そうだとも」野田は狂気に充血した目でベロリと舌なめずりした。「もう、警察の職はクビになったがね。お前らのせいで」
両者の間を北風が吹き抜け、ビニールのレジ袋が宙に舞う。
- 79 :
- その宙に舞ったビニール袋にはスナック菓子が入っていた。
空腹の太郎は藤子のことも忘れて飛びついた!
- 80 :
- と、見せかける作戦に野田はまんまと引っ掛かった。
ビニール袋と共に宙に舞う太郎へ視線を移すやいなや、顔面に強烈な踵落としをくらい血しぶきを上げながら崩折れる。
「ぐわああああああっ」獣の咆哮の如き声をあげ、体をびくんびくんと痙攣させた。
- 81 :
- 血に染まる野田を太郎はのぞき込んだ。
「ふ、口ほどにもない奴だ」
「引っ掛かったなー!」
「なにーっ!?」
野田の大太刀が太郎の両足を横払いにぶった切った。
- 82 :
- 両足から噴き出したジェット血しぶきが、わずかに太郎の体を支えたが、
人間そんなに血を噴出しつづけられるものでもない。
すぐに太郎は地べたにもんどりうって倒れた。出血が激しく、体はビクンビクンと痙攣した。
いっぽうの野田も、太郎の両足をなぎはらったのは最期の力とみえて、
またしても体はビクンビクンと痙攣を始めた。
太郎もビクンビクン、野田もまたビクンビクン。
- 83 :
- 「そこまでだーっ」
現れたのは眼鏡デブだった。
- 84 :
- 眼鏡デブは野田と太郎が戦闘不能になったのをいいことに藤子へちょっかいを出した。
「ぐへへへ。お嬢ちゃん、僕といっしょにお食事でもどう?」
- 85 :
- 「よろこんで!」
なぜかあっさりと藤子はOKした
- 86 :
- 「そうは、させるかー!」
太郎の切断された足の断面から無数の触手が眼鏡デブめがけ伸び出した!
「うわあああああ!」触手に体を縛られ断末魔の叫びをあげる眼鏡デブ。「こ、この化け物め!」
- 87 :
- どうしてこうなったor2
- 88 :
- 「どうしてこうなったor2……」眼鏡デブは悲しげに呟いた。
体に巻きついた触手は容赦なく力を加え、みしみしと骨の軋む音が耳に響く。
神も仏もない。眼鏡デブは、そう思った。
ひとり残される妹が不憫でならない。
幼い頃に両親を亡くし、自分だけを頼りに慕ってきた幼い妹。
貧乏ゆえに学校ではイジメに合い、友達も出来ずひとり砂場で遊んでいたことが思い出される。
工場から帰ってくる自分を、腹を空かせて待っていたのだ。
「お兄ちゃーん」恵まれない環境に育ちながらも健気に笑っていた妹。
「お兄ちゃーん」「お兄ちゃーん」
「ごめんな……。不甲斐ない兄で……。お前を、幸せにしてやれなくて……」眼鏡デブの頬を一筋の涙が伝った。
- 89 :
- とその刹那、雲の隙間から光が射し神が舞い降りた。
「妹を想うその心、しかと届いたぞ」
「あ、あなたは・・・」
「わしか、わしは神じゃ。天空からお主を試しておったのじゃ。お主は人の心を忘れておらん。神の恵みを与えようぞ」
するとたちまち辺りはお花畑に変わった。
「さあ、妹の元へ行くがよい!」
- 90 :
- デブはるんるん気分でスキップしながらお花畑を横切って行く。
「神さま、ありがとう」口の端からヨダレの糸を引いて、とても幸せそう。
心なしかまた太ったようにも見える。幸せ太りに違いない。
家についたら妹をこの腕で抱き締めよう、強く、強く。そんなことを考えている。
- 91 :
- 眼鏡デブの去った公園は、静寂に包まれていた。
太郎は意識のない野田を凝視していたが、思いつめたように夜空を見上げた。
「太郎ちゃん……」
弱々しい声で呼びかけてきた藤子。だが、整った彼女の顔を、太郎はどうしても直視することができなかった。
「ごめんな」
「え?」
太郎の体から触手が消えていく。
「こんな醜い姿を、藤子にだけは見られたくなかったんだ」
- 92 :
- 「なにを言うてんのよ、太郎ちゃん」可憐な藤子は恥じらうようにうつ向いて太郎の着物の袖を掴む。
「藤子……お前、わしのあんな醜い姿を見ても今まで通りに仲良ようしてくれるんか」
「そんなん、当たり前じゃ」潤んだ瞳で太郎を見上げた。「だって私……」
「だって、なんじゃ……?」藤子の息づかいを間近に感じ、太郎は全身がカッと熱くなる。
「だって私」
「だから、なんじゃ」
「だって、だって」太郎の胸に飛び込む藤子。「だって私、」
「だって、私がなんじゃ」
「だって私、化け物じゃけん!」
藤子の体からおびただしい数の触手がヌメヌメと生え太郎をがんじがらめに縛り上げた!
- 93 :
- 「太郎ちゃーん」と、背後から声がした。
触手に捕らわれの身となった太郎は首を後ろにねじ曲げた。
「ふ、藤子っ!」
なんとそこには藤子がいた!
「その藤子は偽者よ!」
「なんだと!?」
「太郎ちゃん、これを受け取って!」藤子は伝説の剣エクスカリバーを太郎めがけ放り投げた!
- 94 :
- 「ぬわー!」
太郎の野太い叫びが、あたりを貫いた。
- 95 :
- そう、触手にがんじがらめになっている太郎には伝説の剣エクスカリバーを受け取ることなどできない!
切れ味鋭い伝説の魔剣エクスカリバーが太郎の顔面めがけ迫りくる。
どうなる、太郎!?
- 96 :
- 太郎は伝説の剣エクスカリバーを必死になって避けようとした。体を前後左右に激しく動かしながら頭を振る。
が、太郎に伝説の剣エクスカリバーを避けられたら偽藤子の方がたまらない。きっと致命傷を負ってしまうことだろう。
飛んでくるエクスカリバーに太郎が当たるよう触手で調整する偽藤子。
「うわああああああ!」
「きゃああああああ!」
太郎と偽藤子は負けず劣らず同時に悲鳴を上げ続ける。
- 97 :
- 偽藤子には父がいた。その他に親兄弟はいない。
病弱な父で今は入院生活を余儀なくされている。
その父のため、偽藤子は新聞配達をしていた。小さな体で朝と夕にそれぞれ200件もの新聞を配るのだ。
雨の日も雪の日も1日だって休んだことはない。
高熱を出した時にも販売所へ行き、店主から「今日くらいは休んでいなさい」と諭された。
しかし、「お父ちゃんの入院費がいっぱいかかるの。偽藤子、お父ちゃんの病気を治すためにがんばるの」と、健気にも笑顔で返した。
この言葉には販売所の主と婦人がそろって涙を流した。
ああ、心美しきもの偽藤子!
果たしてこのようなものがエクスカリバーに命を奪われてよいのだろうかっ!
- 98 :
- 太郎は思った
どこまで行ける?
現実は容赦なくて
噛み締めた唇は、干からびそう
貫くことは
思うよりキツくて
だけど今開かれた、胸の地図を…
抱きしめもう一度
ギリギリだって構わない
失くしたものは何もない
まだ終われない
誰も知らない地図を、拡げてるよ
- 99 :
- 神の審判は下った。
父思いの心優しき偽藤子に比べ、抽象的かつ詩的な思考で現実逃避を試みる凡人太郎。
これは圧倒的に偽藤子を生かしていた方がよい!
ぐるぐると狂暴な回転で迫りくるエクスカリバーは何の迷いもなく太郎の額を見事に貫いた。
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