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2012年4月創作発表43: 非リレー型バトルロワイアルを発表するスレ part29 (331) TOP カテ一覧 スレ一覧 2ch元 削除依頼
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中学生バトルロワイアル part2 (434)

非リレー型バトルロワイアルを発表するスレ part29


1 :12/03/21 〜 最終レス :12/04/08
1999年刑行された小説「バトル・ロワイアル」
現在、様々な板で行われている通称「パロロワ」はリレー小説の形をとっておりますが
この企画では非リレーの形で進めていきます。
基本ルール
・書き手はトリップ必須です。
・作品投下前の登場キャラクター、登場人数、主催者、舞台などの発表は書き手におまかせです。
・作品投下前と投下後にはその意思表示をお願いします。
・非リレーなので全ての内容を決めるのは書き手。ロワに準ずるSSであればどのような形式、展開であろうと問いません。
・非リレーの良さを出すための、ルール改変は可能です。
・誰が、どんなロワでも書いてよし!を合言葉にしましょう。
・「〜ロワイアル」とつけるようになっています。
  〜氏のロワは面白いでは、少し話題が振りにくいのでAロワ、Bロワなんでもいいのでロワ名をつけてもらえると助かります。
・完結は3日後だろうが5年後だろうが私は一向に構わんッッッ!!
前スレ
非リレー型バトルロワイアルを発表するスレ part28
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1330340817/
非リレー型バトルロワイアルwiki
ttp://www26.atwiki.jp/anirowakojinn/pages/1.html

2 :
>>1
スレ立て乙です。
では新ロワ投下します。

3 :
頭が痛い。
吐き出しそうだ。
気だるさが体を支配していく。
視界がくらくらとしていく。
体が自分の物ではなくなるようである。
「――――――」
何かを叫ぼうとしても声が出ない。
残っているのは自分の意識だけだ。
俺は何をやっているんだろう。
立っているのだろうか。
寝ているのだろうか。
わからない、けど……苦しい。
助けてくれよ、誰か――――俺を。
◆     ◆
「起きろおおおおお!!このヘクトパスカルどもがああああ!!」
ウルサイ声が頭に響いてきた。
俺こと八重樫太一は重い体を起こした。
周りを見る、しかし真っ暗で何も見えない。
だが、人間が複数人いるようでざわざわとしている。
「……何があった?」
あの時、≪ふうせんかずら≫による『人格入れ替わり』の実験があった。
人物は決まった人物内でアトランダム。
時間はあらゆる場面でアトランダム。
場所もあねまく場合でアトランダム。
俺達の絆は、壊れて固くなった。
その『人格入れ替わり』が終わり、普通の日々を過ごしていた。
だが、この現状は普通とは全く言えない。
≪ふうせんかずら≫がまた来たのかと思ったが、それはなさそうである。
先ほどの声、それはどう考えても≪ふうせんかずら≫の声ではなかった。
いや、喋り方がそうではないと言うべきだろう。

4 :

「そこにいるのは太一か?」
「……ああ、姫子か」
俺の横にいたのは、同じ『人格入れ替わり』を体験した仲間――――稲葉姫子だ。
姫子がいる、と言う事は他の3人もいるのかもしれない。
それは分からないが、知り合いが一人でもいると言うだけで安心できる。
いや――――安心はできない。
少し心に余裕ができるだけだ。
と、他のメンバーを探そうと立ち上がったところでだ。
一気に明りが点灯した。
目が急な光が入り、視界が超絶的に悪くなる。
「目を覚ましたなぁ、ヘクトパスカルどもぉ……」
は?ヘクトパスカル?
圧力の単位の事、だよな?
あれ、まさかヘクトパスカルって違う意味があったのか?
「……ヘクトパスカルってなんだよ」
「気圧の事でしょ、まさか青木並みに馬鹿になったか」
「いや、そうじゃないけどさ……あいつ今ヘクトパスカルどもって言ったからさ」
「それに関しては無視しておけ、どうせああいうのは馬鹿かキチガイだろうしな、それくらい気にしてたら対応しきれないぞ」
それもそうかもしれない。
こんな場所に人を集めるような奴だ。
どうせ考えている事もおかしいに決まっている。
口調だって軽くおかしいしな。
「よぉく聞け、ヘクトパスカルども……貴様らにはゲームを下す」
「ッ――――待てよ!なんで……お前が生きているんだよ!!」
と、そこで一人の男が立ちあがった。
ヘッドホンを付けた、普通とは少し離れたような少年だった。
声は震えて、何かを言おうとして唇を動かそうとしている。
だが、何もしゃべれないようである。
「ハッ、何を言ってんだかなぁ」
「ヨシュアは、あいつはどうなったって言ってるんだよ!!」
「は、ゼタ愉快だぜ……俺がここにいるのを見ればわかるだろうよぉ」
「ッ――――ふ、ざけるなあああああああああああ!!」
その少年は男のところに走っていった。
生身で、何も持たずにだ。
あまりにも、危険で愚直な行為。
男は手から何か、球みたいな何かを出す。
あれは、なんなんだ?
何もなかったところに、出現していた。
そんなマジックみたいな事があり得るのか。

5 :

「まずはテメェから4ねぇ!」
それが、男の手から離れて少年のところに飛んでいく。
とても嫌な予感がした。
あれにもし当たったらどうなるんだろう。
それを想像するだけで、気持ち悪くなってきた。
そして、その球が少年を襲う――――事はなかった。
彼の前に立っていたのは、ツンツンな黒髪の少年だった。
右手を前に構え、そこに立っていた。
「……ハッ、逆行列だぜ、テメェの存在を忘れてたぜ」
「ふざけやがって……おいお前!こんなことをやっていいとでも思って――――」
「そんじゃ、話を続ける……ここに呼んだ理由は簡単、ただ一つだ」
男は少しづつ笑い顔に変わっていった。
普通の笑みではない、歪んだ気持ち悪い笑みである。
男は拡声器を使い、言い放った。
「テメェらにしてもらうのは、し合いだぁ!意味は分かるなヘクトパスカルどもォ!!」
俺は今、何があったのか分からなかった。
あいつがいった意味が、わからなかった。
ころし?コロシ?し?
どういう、ことなんだよ。
法律的に許されるわけがないだろう。
「ふざけるな!そんな事が許されると思っているのか!」
「ちょ、し合いとかマジキチすぎるおwwキチガイにもほどがあるだろ常考」
「そんなものを認めるわけがない!」
「警察が来るかもしれないぞ!そんなもの諦めろ!」

6 :
それぞれが反論の声を上げる。
当然だ、し合いなんて認めるわけがない。
それ以前に、人をす人間なんているわけがない。
それこそいたとしても精神的に異常をきたしている人間くらいだろう。
周りの反応を見る限り、そんな人間はほとんどいないだろう。
圧倒的に状況があの前にいる男の方が不利になった。
顔を怒りに歪ませ、これ以上ないほど恐ろしい事になっていた。
「このヘクトパスガルどもが……まずは力を見せつけなければ無意味なようだなぁ……!虚数にしてやる!」
再び手に球を作りだす。
先ほどそれを打ち消した少年も身構える。
再びその球を放つ、それはこちらに向かってきていた。
「……なっ!?」
ツンツン髪の少年はこっちに走ってきている。
間に合うか間に合わないかとか言う問題ではない。
避けなければならない、だけれども……動けない。
怖いのだ、あの男が。
そして、この現状が。
腰を抜かしてしまって、完全に動けない。
隣で姫子が俺の手をひて行こうとしている。
だが、それでも動かない。
もうすぐ死んでしまう。
そう思ったころに、ツンツン髪の少年が飛び込んできた。
右手で光の球を『打ち消した』。
先ほどは近くで見ていなかったが、今度は見えた。
本当に消えて行ったのだ。
「くっ……これでどうだ……止めれたぞ!」
隣で少年が体を起こしながら言い放った。
だが、前にいた男は見向きもしていなかった。
見ている物は、手に持たれている箱みたいなものだった。
それが何なのか、わからなかった。
男がそのうちの一つを押した。
その瞬間、単調な音が聞こえた。
ぐちゃっ



7 :
「っきゃああああああああああああああああ!!」
「うわあああああああああああああ!!」
「ひ、人が死んだだと……」
俺から最も遠い位置。
そこに何があったかは分からない。
いや、わかるにはわかる。
人が死んだのだ。
「佐天さん!佐天さん!!」
「落ち着きなさい初春、ここで叫ぼうがもう佐天さんは……」
「いやああああああああああああああああ!!」
佐天と言う人が死んだのだろう。
その人が男なのか女なのかわからない。
どんな感じの人かなんてわからない。
わかりたくもない。
だって、見てしまえば……わかってしまえば……死体を見ることになる。
そこまで、俺は弱かったのだろうか。
「く、そおおおおおおおおおおおお!!助ける事ができたかった……!」
隣でツンツン髪の少年が叫んでいた。
彼が悲しむ理由なんてないだろう。
いや、それどころかさっきのヘッドホンの少年と俺を救ってくれたんだ。
十分すぎるほどじゃないか。
俺なんか、ただ驚いてる事しかできないのに。
「わかったか、テメェらにはこれとさっきのと同じものが付いている。
 ある条件とともに発動してテメェらは4ぬんだよぉ!」
もう誰も話さなくなっていた。
恐怖とか、驚愕とか、そういった感情を超えていた。
絶望――――まさにそのままだった。
「4にたくなければ最後の1人までせぇ!わかったな!ヘクトパスカルどもぉ!!」
もう、誰も反論の声を出さなかった。
言おうとしているのかもしれないが、先ほどの人みたいな事になるかもしれない。
だから言えないのかもしれない。
姫子も、あの姫子ですら顔を真っ青にしている。
どうして、こうなったんだろう。
≪ふうせんかずら≫に目をつけられたのがいけなかったのか。
それとも、平和に過ごしていた事がいけなかったのか。
いや、ただ運が悪かっただけなのか。
そんな事は分からないし、わかるとは思わない。
「さぁ、始めるぞ!サイン、コサイン、タンジェントォ!」
再び意味不明な言葉とともに、意識が消えて行った。
きっとこれは夢であろう。
起きればまた皆で部室でバカやれるんだろうな。

8 :

そうやって、その時は信じていた。



【佐天涙子@とある科学の超電磁砲 死亡】
【残り 34人】
【主催 南師猩@すばらしきこのせかい】
【他人に感化された作品でバトルロワイアル 開幕】

9 :
OP 醒めない夢
登場人物:南師猩、八重樫太一、稲葉姫子、ネク、上条当麻、佐天涙子、その他声
でした。
では名簿を投下します。
9/9【リトルバスターズ!!】
直枝理樹/棗鈴/棗恭介/宮沢謙吾/井ノ原真人/来ヶ谷唯湖/三枝葉留佳/二木佳奈多/神北小毬
5/5【Fate/Zero】
衛宮切嗣/雨生龍之介/セイバー/ライダー/キャスター
5/5【ココロコネクト】
八重樫太一/稲葉姫子/永瀬伊織/桐山唯/青木義文
4/4【Steins;Gate】
岡部倫太郎/椎名まゆり/橋田至/桐生萌郁
4/4【CLANNAD】
岡崎朋也/春原陽平/藤林杏/坂上智代
4/4【とある科学の超電磁砲】
御坂美琴/白井黒子/初春飾利/上条当麻
3/3【すばらしきこのせかい】
ネク/シキ/ビイト
34/34

10 :
【基本ルール】
参加者全員でし合いをして、行き乗った一人が優勝。
優勝者には元の世界に帰れる。
参加者間のやり取りに反則は無しである。
エリアには店舗があり、そこで買い物もできる。
どこにあるかは不明である。
それに伴い、参加者には通貨が配られる。
どれだけの額が支給されるかはランダムである。
エリア内をうろついているノイズ(直接攻撃可能)を倒しても金は手に入る。
参加者をしてどこかにある申請所に行けばした参加者に見合った金額が支給される。
なお、ゲーム進行中にミッションが出される。
その内容はランダムであり、出される時間も不明である。
ミッションを成功させた人間には褒美が与えられ、ペナルティはない。
ミッションが失敗した場合は全員が消失し優勝者なしとする。
支給品は基本支給品にランダム支給品が一つ入っている。
基本支給品は
・地図
・参加者名簿
・携帯電話(メール機能のみ・追加機能もあり)
・水や食糧(3日分)
・コンパス
不明支給品は武器から日用品まで様々である。
6時間ごとに放送が入る。
死者と禁止エリアについて話される。
放送から2時間後に禁止エリアが発動する。
エリアに侵入して5秒以内に出なければ首輪が作動して死亡する。
【地図】
| |1|2|3|4|5|
|A|海|崖|森|住|レ|
|B|崖|平|森|住|住|
|C|平|野|シ|役|学|
|D|山|山|病|公|ホ|
|E|頂|山|デ|平|教|
海…海
崖…崖
森…森
住…住宅街
レ…高級レストラン
平…平野
役…役所
学…学校
野…野球場
シ…シブヤ
山…山
病…病院
公…公園
ホ…ホテル
頂…山頂
デ…デパート
教…教会

11 :
投下終了です。
DOLはいったん休止、なのでこっちを頑張りたい。

12 :
投下乙です。上条さんがオープニングからちょっと輝いてて嬉しい。
さて、二次媒体ロワに参加者追加します
【とある魔術の禁書目録】より
垣根帝督、木原数多、木原円周、木原病理、木原乱数、木原加群、雲川鞠亜
の七名を追加します

13 :
円周たんキタワァ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!☆
のんびりなペースになると思いますが『ジョーカーロワ』OP投下します。
よろしくお願いします。

14 :

妙に冷たい感覚に、佐隈りん子は目を覚ました。
開けた視界に映るのは遥かに続く闇。そこにいつも通りの光景は無い。
―――不可解だ。
妙な胸騒ぎに襲われて、周囲を見渡してみてようやく気付く。
50人。いや、おそらくそれ以上の数の人たちが、同じく困惑した様子で辺りを見回している。
そして皆一様に首に銀色の光るチョーカーのような何かを嵌めているのを視認できた。
しかしたったそれだけの情報では、今の状況は飲み込めない。
ならば、と、ここに至るまでの経緯を思い出そうとしてみるが、どうにも記憶が働かない。
(どういうこと?何これ…。何も分からない…)
手がかりが何も無いと知った直後、集団から少し外れたところに天から光が舞い降りた。
明りに照らされたのは高校生くらいの女の子。
少女は何かに怯えるように震えながら、頼りない声を無理矢理張り上げてこう言った。
「し、静かにしてくださ…ちょ、ちょっとあんたたち、静かにしなさいよ!!」
語調は強いけれど、どこか安定感の無い声色。
それでも、ざわめく人々の喧騒を上回る大きさの甲高い声はどんな雑音よりも目立っていて、皆の耳にしっかり届いた。
一斉に注目を受ける女の子は、その状況を作り出した張本人のくせに、一瞬たじろいでからこほんと咳払いを一つ。

15 :

「い、良いわね?おおお、落ち着いてき、聞きなさい。
ああ、あんたたちがここに集められたりゆ…理由を、わた、私が説明してあげる!」
あまりに女の子に落ち着きが無いせいか、逆に脳が冷静になってきた。
心の中で「まずはあなたが落ち着いて」という的確な指摘をすることができるくらいに。
「あ、あんたたちがここ、に……ここにあああ、集められたのは……!
ここ、こ、………し合いを!し合いのゲームをしてもらうためよ!!」
一拍の間を置いて、空間に男の笑い声が響く。
「あっははははははははは!何言ってんだこのアマ!」
唇にいくつもピアスを光らせた、ガラの悪い学ラン姿の男が女の子に近付いていく。
女の子は肩を跳ねさせ、さらに表情を曇らせて後ずさりをする。
男が怖いのだろうか?でも女の子は最初から何かに怯えていた。一体何がそんなに怖いのだろう。
「み、水本…。お願い、やめて。来ないで…」
「ああん?何、びびってんの?こんなことしでかしといてさぁ」
「…駄目、来ちゃ…駄目…!あいつの邪魔をしちゃ、だ――」
女の子に手を伸ばす水本という男。しかし彼の指が少女に触れることは無かった。
それよりも先に男の頭が何の前触れもなく、天高く飛び上がったのだ。
何が起きたのか理解することができずぼうっと跳ねたボールを目で追うと、やがて地面にゴロンと音を立てて落下した。
「―――え?」
瞬間、堰を切ったように大きなざわめきがこの空間全てを覆った。

16 :
(な、何…何で?こ、こんなの…)
“し合い”―唐突すぎて恐怖も何も湧かなかった言葉が、人の死を目の前にして現実味を帯び始めた。
明確な恐怖というものを、生まれて初めて感じる。
「うるさい、黙りなさい!!!反抗すればあんた達の首輪が爆発する仕組みになってる!お願いだから…抵抗しないで!!」
今反抗すれば先程の男と同じく、されてしまう。全員察したのだろう、空間には再び静寂が広がった。
「…それじゃあルールを説明するわ」
女の子の言葉を邪魔する者は居ない。そりゃあそうだ。今ので主導権が誰にあるか、定かになったのだから。
「あんた達の中に、ジョーカーが潜んでる。
制限時間は72時間。それまでにジョーカー全員をすこと、それがこのゲームの目的。
ジョーカーには自覚がある者も居れば、ない者も居る。さなければ分からない。
ジョーカーが全員ば、他の皆…一般人は全員元の世界に無事生還することが出来る。
そして更に、ジョーカーをすことが出来た人には何でも一つ、願い事を叶えてあげるご褒美もあるわ。
まぁ、正体の分からないジョーカーを全員死滅させない限り、元の世界に戻ることすらできないんだけどね」
自分がさずとも、誰かがさなければこのゲームは終わらない。
自分が死なずとも、誰かが死ななければこのゲームは終わらない。
―――誰かが死なずとも、自分が死ななければこのゲームが終わらないかもしれない。
「した相手がジョーカーどうかは、6時間毎に行われる放送で分かるわ。
同時に死亡者の名前とジョーカーのヒント、立ち入り禁止区域も発表される。
支給される名簿と地図を確認しながら、ちゃんと聞いておくこと。
特に立ち入り禁止区域は重要よ。もしも放送後10分以内に禁止区域に居たら、
あんた達の首輪が爆発する仕組みになっているわ」

17 :
首輪――ショッキングな出来事を思い起こす単語に、「ひゃ」とどこかからか高音が聞こえた。
黙っていろ、と責めることもなく女の子は構わず話し続ける。
「他にもこの首輪はあんた達の行動がある程度制限されるように出来てるわ。
…とは言え、あまりルールで縛ったところでゲームにはならないからね。
他に厳しく言うことは特に無いわ。支給品も好きに使ってちょうだい」
暗闇が、突如発生した光に負けていく。眩しくなって強く瞼を塞いだ。
自ら閉ざした視界には何も映らない。その代わりに、研ぎ澄まされた聴覚が、女の子の愁いを帯びた声を拾った。
「―――それでは皆さん、早くジョーカーをして……どうか、解放されて下さい」
【水本@オリジナル 死亡】

【主催 ???@オリジナル】
【佐隈りん子@よんでますよ、アザゼルさん】

【ジョーカーロワ 開幕】

18 :
題名: はじまりのおと
登場人物:佐隈りん子@よんでますよ、アザゼルさん。
OP投下終了です。
以下、参加名簿・MAPとオリジナルについて簡単に。
6/6【るろうに剣心】○緋村剣心/○相楽左之助/○巻町操/○瀬田宗次郎/○本条鎌足/○志士雄真実
5/5【ONE PIECE】○モンキー・D・ルフィ/○ロロノア・ゾロ/○Mr.1/○ミス・ ダブルフィンガー/○Mr.0
5/5【ジョジョの奇妙な冒険シリーズ】○空条承太郎/○DIO/○エンヤ婆/○東方丈助/○吉良吉影
4/4【Angel Beats!】○音無結弦/○仲村ゆり/○日向秀樹/○直井文人
4/4【地獄先生ぬ〜べ〜】○鵺野鳴介/○ゆきめ/○稲葉郷子/○立野広
4/4【SKET DANCE】○藤崎祐助/○鬼塚一姫/○笛吹一義/○椿佐介
4/4【名探偵コナン】○工藤新一/○毛利蘭/○シェリー/○ジン
4/4【絶体絶命都市2】○ 篠原一弥/○佐伯優子/○青山透/○速水祐司
4/4【ぼくらの】○宇白順/○宇白可奈/○吉川寛治/○町洋子
3/3【ヒナまつり】○ヒナ/○新田義史/○アンズ
3/3【魔法少女まどか☆マギカ】○暁美ほむら/○巴マミ/○佐倉杏子
3/3【みつどもえ】○丸井ひとは/○丸井ふたば/○丸井みつば
3/3【よんでますよ、アザゼルさん。】○佐隈りん子/○アザゼル篤史/○ベルゼブブ931世・ベルゼブブ優一
10/10【オリジナル】○辻綾華/○堀川桜子/○倉坂祈莉/○久慈凪帆/○香山伊織
○四条瑞季/○福原隼人/○妹尾大樹/○園村理緒/○小森ひなた
62/62
【オリジナル】について。
2XXX年、地球は他の惑星から来た生命体によって侵略されつつあった。
しかし長年を掛けて人間達は地球外生命体と分かち合い、共存することを決意し、やがて愛し合う者たちまで出てきた。
ロワ中に出てくるキャラクターは、人間達と地球外生命体との間に生まれたハーフである。
見かけは人間。造りは地球外生命体。皆一様に特殊な能力と、それとは別に三つのタイプ(パワー型・スピード型・計算型)を持つ。

19 :

【MAP】
  1 2 3 4 5
A 浜 廃 野 砂 砂
B 森 森 都 住 住
C 森 都 都 都 タ
D 山 都 都 森 森
E 山 山 塔 雪 雪
浜…浜辺
森…森
山…山
廃…廃村
都…都会
野…野原
塔…塔
砂…砂漠
住…住宅地
タ…タワー
雪…雪山
以上で本当に終わりです。

20 :
皆様、投下乙です。
久し振りですが、お気に入りロワ更新します。
登場キャラは空条承太郎、ミリオンズ・ナイブズ、上条当麻、一方通行です

21 :
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッッ!!』
 もう何度拳を振るったのだろうか、渾身の力でもって振り抜かれる拳はその全てが白色の障壁に防がれていた。
 その一撃一撃が人間の骨を砕き、内臓を潰す程の威力が込められている。
 これまで放たれた拳の全てを生身で受ければ、おそらくダンプカーに正面衝突するより奇妙で不思議な死体となっているだろう。
 暴力という言葉すら生温く思える拳の嵐。
 だが、今この瞬間そのラッシュを受ける男は、まるでどこ吹く風といった様子で立ち尽くしている。
 戦闘が開始された時から一歩と動くことなく、表情筋の一つと微動だにさせず、ただ立っているだけ。
 男―――ミリオンズ・ナイブズの力は、まさに圧倒的であった。
 最強のスタンド・スタープラチナが繰り出す必のラッシュ。ナイブズは、その全てを人外の身体から伸ばした羽根で防ぎ切っていた。
 残像すら残して振るわれるスタープラチナのラッシュは、重機関銃のそれと同等の威力と速射性があるだろう。
 それを数本の翼手を稼働させることで防御する。
 拳の全てを完全に見切り、その速度に追随する形で翼手を動かす。
 言葉にすれば容易く、だが実行するには困難という表現すら生温い。
 それを、ナイブズは、無表情に淡々とこなす。
 空条承太郎と戦った者ならば、スタープラチナのラッシュを喰らったものならば、おそらく眼前の光景を信じる事すらできないだろう。
 それ程にスタープラチナとは強大な力を有していて、それを防ぐナイブズは次元が違うと云わざるを得ないだろう。
 とはいえ、その動作をしてナイブズは己の状態に不満を覚える。
 翼手を振るう速度も本来のものからすれば低下しており、一度に生み出せる本数もたかだか十本程度。
 謎の制限を課せられる前と比較すれば、まるで違う。
 全身を拘束されているかのようであった。
(……調整相手としては及第点か)
 自身の状態を確かめるように、スタープラチナの拳に合わせて翼手を動かす。
 やはり動きは緩慢。だがそれでもラッシュを防ぎきるには充分であった。
 翼手にも傷一つ入ることはない。
 確かにスタープラチナの拳は速く、重く、固い。
 近接戦闘力一つを見ただけでも、全ての『スタンド』の中で最強と言えるだろう。
 史上最強の『スタンド』と称されるに値する戦闘力だ。
 しかし、その力をもってしてプラント融合体に傷を負わす事すら叶わない。
 無敵にして絶対の存在が、そこにいた。
(……スタープラチナのラッシュでもビクともしやがらねえか。やれやれ、こいつはとんだ『化け物』だぜ)
 たった数分の、終始自分が攻め続けている戦闘の中で、空条承太郎はクールに理解する。
 目の前の敵は強大で、自分のスタープラチナをもってしても突き崩せぬ『化け物』であると。
 冷静に、クールに、現状を把握し、それでいて心魂の闘志は欠片の陰りも見せない。
 空条承太郎は、このし合いに参加させられる前の50日間をとある奇妙な冒険に費やしていた。
 母を救う為に突き進んだ50日。仲間と共に、日本からエジプトまでの長い長い道のりを歩んでいった。
 その過程で承太郎は、刺客として送られた数多の『スタンド使い』と戦ってきた。
 楽な勝利など一つもなかった。
 戦いの中で成長する事ができたから、そして何より仲間達の力があったからこそ、承太郎は刺客を跳ね除ける事ができた。
 承太郎は知っている。
 『戦い』とは単純なものではない。『勝利』とは容易いものではない。
 まるで力を持たないスタンドであっても、遥かに能力で劣っているスタンドであっても、戦い方で結果は大きく変化する。
 その事実を承太郎は、数多の戦いの中で目の当りにし、知った。
 だから、決して焦らない。
 クールに状況を把握し、勝利に繋がる道を模索する。
 誠に腹立たしく思いながらも、承太郎は理解している。
 眼前の『化け物』は、自分を遥か格下と認識し、殆ど眼中にすら止めていない事を。
 確かにこの『化け物』は、あのDIOすらも上回る異常で理解不能な『スタンド使い』なのだろう。
 だからこその、あの『外見』であり、この『力』なのだろう。
 人をすことに何ら感情を揺らがすことなく、人間では決して届かぬ人外魔境の『力』を振るう。
 まさに『化け物』。奇妙な冒険の中でもそうは居なかった、真の『化け物』だ。
 だが、だからこそ其処に付け入る隙がある。
 圧倒的な『力』を持つからこそ、『力』の差が絶対的だからこそ、そこに油断が生まれるのだ。

22 :
(チャンスは一度……ほんの少したりとも手加減はしねえ。全力で行かせて貰うぜ)
 承太郎が有するアドバンテージは一つ。
 『時を止めた中での二秒間』―――眼前の存在を唯一出し抜くことができた、ほんの僅かな時間である。
 幸いなことに、この『化け物』であってしても『止まった時』の世界に踏み入る事はできないようだ。
 おそらくは『スタープラチナ・ザ・ワールド』こそが唯一無二の勝機。
 無防備となった二秒間に、全ての力を掛けてスタープラチナのラッシュを叩きこむ。
 問題は一つ。この『化け物』は一度『スタープラチナ・ザ・ワールド』の『時止め』を食らっているということだ。
 見知らぬ少年を救出する為に使用した『時止め』。
 もしその一度の発動で『化け物』が『時を止める』という力に気付き、何らかの策を講じているとしたら。
 それは、非常に厄介な事になるかもしれない。
 だが、『時を止める』という能力は強力なものだ。
 戦った承太郎だからこそ分かる、『時を止める』という能力の理不尽なまでの強さ。
 発動してしまえば対抗策はなく、ほぼ無敵とも云っても良い力がある。
 承太郎であっても、『時を止める』というスタープラチナの真なる力を開花させていなければ、勝利はなかった
 それ程までに強力な力。
 例え、万が一『時を止める』という能力に気付いたとしても、立てられる策は殆ど存在しない筈だ。
(……出し惜しみしてる場合じゃねえか)
 そもそも『時を止める』という能力自体、あまりに常識から外れた力のため、察知する事が難しい。
 一度の発動で気付く可能性は殆どない筈だ。
 眼前の存在が本気を出していないのは、承太郎にも分かる。
 『化け物』と自分の間にある実力の差も、分かる。
 ならば、今。
 相手が本来の力を出す前に、時を止め、全力をもって戦闘不能に追い込む方が得策だ。
(行くぜ―――)
 眼前の『化け物』が放つ異様なまでの存在感は、『時を止める』力を持ってしても、『何かをしてくるんじゃないか』という気にさせる。
 だが、行くしかない。
 自分が有する勝機はこれしかないのだ。
「―――スタープラチナ・ザ・ワールドッ!!」
 そして、時が止まる。
 二秒間だけの、空条承太郎のみが支配する『世界』が開始された。
 まず承太郎が警戒するのは、ナイブズが講じたかもしれぬ『策』の存在であった。
 スタープラチナの洞察力をもって『策』の有無を確認する。
 ナイブズの周囲へと視線を動かし、何か『異変』がないか観察する。
 観察の結果は……『何もない』であった。
 ナイブズと承太郎との間には何も在らず、ただ空間が広がるだけだ。
 その異形を囲う十本の触手も静止し、その凶暴性も鳴りを潜めている。
 一歩を踏み出す事に、承太郎は躊躇しなかった。
 どれだけの勇気が必要かも分からぬ一歩を、ただ勇気をもって踏み出す。
 距離が詰まる。
 地平線の彼方のように感じた数メートルが、一瞬で消失した。
 握られるスタープラチナの拳には、鋼鉄すらも砕く力が籠められている。

23 :
 そうして拳が振り抜かれ―――、
『オラアアアアアッッ!!』
 ―――『化け物』の顔面を捉える。
『オラ、オラ、オラ、オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオオラララァ―――――――ッッ!!!』
 
 拳は、一撃で止まらない。
 顔面を歪ませた拳が、引き戻され、再び振り抜かれる。
 残る手も唸りを上げて振るわれ、ナイブズを穿つ。
 連打は、まるで暴風のようであった。
 常人であれば一発で致命となる拳が、機関銃をも超える勢いで繰り出される。
 この世界でスタープラチナは正に無敵であり、その力を惜しみなく振るい切った。
 駄目押しの一撃がナイブズの顔面を貫き、その身体を傾がせる。
 そして、時が動き出す。
 静止状態にあったナイブズは自由を取り戻し、思い出したかのように吹き飛んだ。
 反撃の様子すらなく、ただ抗いきれぬ剛力により人外の身体で宙に螺旋を描く。
「……やれやれだぜ」
 吹き飛び、暗闇の中へ姿を消したナイブズに、承太郎はただ一言だけ呟いた。
 呆れを含んだ声色で、己の立ち位置を確認する。
 そう、この時ようやく空条承太郎は確信したのだ。


「―――ここまで、とはな」


 己とミリオンズ・ナイブズとの間に存在する、覆し得ぬ『差』を。


「『時を止める』能力、か」
 『それ』は、何ら変わらぬ様子で闇の奥から現れた。
 何十にも及ぶスタープラチナの拳を喰らい、身体を余すことなく叩かれて尚、『それ』は整然としていた。
 苦悶に顔を歪ませる事もなく、承太郎へと視線を向ける。
 思っていれば初めての事だろうか、眼前の存在が承太郎を視線に捉えたのは。

24 :
「最初は超スピードによる攻撃かとも思ったが、違う。何十もの乱打でありながら、衝撃はまるで刹那のズレすらなく、同じタイミングで走った。
 加えて貴様の汗だ。貴様の汗だけが、攻撃の前後で位置が異なっている。時間を、まるで映像データを停止させるように止め、その中で貴様だけが自由に活動できるのだろう」
 言葉はまるで感心するかのようであった。
 一人呟きながら納得といった様子で自身の考察を紡いでいく。
「面白い能力だ。時期が時期ならば『ナイフ』の一員として勧誘していたところだろう。だが―――」
 ミリオンズ・ナイブズ。
 男は正面から承太郎を見詰め、言葉を零していた。
「今は、必要ない」
 宣言と共に、ナイブズは承太郎から視線を外した。
 まるで興味を失ったかのような態度である。
 再び表情を真っ白なものに戻して、何も映さない顔貌で立ち尽くす。
「……正解だ。性根の腐ったクソったれ野郎の割には、頭が回るようだな……」
 空条承太郎の選択に間違いはなかった。
 承太郎がナイブズと対抗するには『スタープラチナ・ザ・ワールド』の力を使用するしかなかったし、その判断が功を奏して、ナイブズに全力のラッシュを叩きこむ事ができた。
 ただ承太郎をもってして予想の外にあったのは、ナイブズの―――いや、『プラント融合体』が有する、圧倒的な耐久性であった。
 プラント自立種とは、確かに人外の理に身を置いた存在だ。
 人間離れした身体能力に反射速度。
 肉体の強度そのものも桁違いで、人類ならば即死する程の怪我を負っても生存せしめる。
 だが、例えプラント自立種であっても首を刎ねられれば死亡するし、全身を鋼すら砕く力で隈なく殴打されれば死亡する。
 人外の存在ではあるものの、プラント自立種は決して不死身ではない。
 実際ナイブズも、実弟との交戦により、一度死に掛けたことがある。
 スタープラチナのラッシュを完全に直撃したのだとすれば、例えプラント自立種であっても絶命は免れないだろう。
 だがしかし、ナイブズは耐えきった。
 『時が止まった世界』で、たっぷり二秒間『史上最強のスタンド』が繰り出すラッシュを受け、それでも事も無げといった風に立ち尽くす。
 そればかりか、『スタープラチナ・ザ・ワールド』の能力を考察し、正答を導き出しまでした。
 プラント自立種という枠すらも越えた、不可解なまでの耐久力。
 その在り得ぬ現象を可能とした要素は、やはりナイブズが行った『プラントとの融合』であった。
 融合に次ぐ融合はナイブズの身体そのものに変化を与え、人間のそれとは大きく掛け離れた姿形とした。
 人間と同じ箇所はもはや頭部くらいしか見当たらず、他の全ては別の形となっている。
 全体像は、猛禽類を思わす、巨大な鋭い羽根のような形。
 肉体を構成するのは、プラントの肉体が凝縮されて形勢された、解析不能の未知なる物質。
 その肉体は、プラント自立種としての耐久力すら上回る。
 重宇宙戦闘艦の砲撃を不意打ちで直撃し、それでも殆どノーダメージで活動が可能なほど。
 スタープラチナのラッシュは確かに強力無比で、人外の耐久力を有した相手であろうと戦闘不能に追い込むだろう。
 それでも、そのスタープラチナの力をもってしても、『プラント融合体』を撃破するには至らなかった。
 『次元が違う』……一言で言ってしまえば、空条承太郎とミリオンズ・ナイブズの関係はそうであった。

25 :
「……認めてやるよ。てめえは化け物だ。それも生半可じゃねえ、マジに桁違いって奴だ。ああ、認める。お前は想像もつかねえ程に『強い』スタンド使いのようだ」
 彼我の戦力差を突き付けられた承太郎は、帽子を深く被り直し、淡々と言葉を紡いだ。
 相手の実力を認める、まるで降参ともとれるような呟き。
 瞳は帽子に隠れ見えないが、諦念の色にでも染まっているのであろうか。
「だが、やれやれ。俺の魂ってやつが『ある一つの事』を叫んで止まらねーんだ。なあ、何て言ってると思う?」
 いや、違う。
 彼は己の内に沸々と沸き上がる闘志に、瞳を燃やしていた。
 逆境にあって、それまで以上の輝きをもってそれは承太郎を突き動かしていた。
 
「答えはこう―――『その澄ました顔をブチのめせ』だ。化け物、てめーはこの空条承太郎がブチのめす」
 歴然とした力の差を見せつけられ、それでも彼の『黄金の精神』は砕けない。  
 ただ、叫ぶ。この存在を打ち倒せと。
「スタープラチナ・ザ・ワールドッッ!!」
 そうして、『世界』は三度目の静止を迎える。
 何もかもが止まった世界で、空条承太郎だけが動いている。
 『ラッシュ』が効かなかろうが、もはや関係なかった。
 己の内が叫びに従って動く。
 自分が優位に立つこの二秒間を、眼前の存在をブチのめす為だけに費やす。
 ただ、それだけだ。
『オラァッ!!』

 間合いを詰め、拳を振り上げる。
 拳を振り上げ、全身全霊を掛けて振り下ろす。
 そのイケすかない顔面へと、ただ全力で。
 スタープラチナの拳を振るった。
 腕から伝わった衝撃が、承太郎の内に走った。

 そして、



 

26 :

 腕が、裂けた。

 スタープラチナの腕が、まるでビールの摘みの裂きチーズのように―――縦に裂けた。

 止まった時の世界で、何故だかスタープラチナの右腕が八つ程に分かれていた。

「う……お……」

 スタンドのダメージは、本体である人物へフィードバックする。
 裂けたスタープラチナの右腕に伴って、空条承太郎の腕が八つに分かれた。
 筋、神経、血管、骨、そのどれもが切り裂かれ、激痛という言葉すら生温い、衝撃にも似た感覚が走る。
 攻撃の手を止め、承太郎は右腕を抑えて地面へと座り込む。
(何が、起きた……? 攻撃……か……『止まった時』の中で……コイツは……何を……?)
 疑問の中で、空条承太郎は何処までも冷静であった。
 激痛に思考を阻害されながらも、スタープラチナの視線をナイブズへと向ける。
 機械をも超える観察力でもって、空間を見極める。
 スタープラチナの腕が切り裂けた、その空間を。
(これ……は……)
 承太郎は、顔面の至る所から冷たい汗を流しながらも、空間に発生している『異変』に気が付いた。
 空間に在ったのは、スタープラチナでなければ気付けないだろう程に微小な、『揺らぎ』。
 線状に存在する『揺らぎ』が、網目を描くように何本もある。
 例えるならば、それはまるで防犯対策として設置される赤外線センサーのよう。
 不可視で、何処からともなく発現した『揺らぎ』。
 この『揺らぎ』の上に拳を走らせた瞬間に、スタープラチナの拳は裂けたのだ。
(何だ……『コレ』は…………『コレ』が、スタープラチナの腕を……? ………ともかく、だ………何かが……ヤベーぜ……!)
 疑問が完全に解消される事はなかった。

27 :
 発見した『揺らぎ』は更なる疑問を植え付けただけであったが、それでも承太郎は痛みを押して動いていた。
 奇妙な冒険にて成長した第六感が、告げていた。
 この『揺らぎ』はヤバい、と。
 今すぐにその場から移動しろ、と。
 承太郎の内に湧きあがった危機感は、激痛に塗れる右腕すらも押して、移動の必要性を訴えていた。
「スター……プラ、チナ……」
『オラァ!』
 スタープラチナに地面を蹴り抜かせる事で、空条承太郎は移動を果たした。
 その行動は、動かぬ身体をそれでも無理矢理に移動させる為のものだ。
 着地やその後の事など何ら考えずに、ただ移動する事だけを優先して、スタープラチナを動かした。
 承太郎は不格好にも地面を転がり、傍の草薮へと頭から突っ込む。
 使い物にならぬ右腕が傷口に火箸を突っ込んだような激痛を訴えるが、かまっている暇などなかった。
 兎にも角にも、移動は果たせた。
 『揺らぎ』の前方にあった、あの場から。
 承太郎は、鈍い思考に鞭を打ちながら顔を上げた。
 ナイブズと『揺らぎ』を視界に留め―――それと同時に『時』が動き始めた。
 その瞬間である。
 『揺らぎ』は、スタープラチナでも何とか捉えられるか、という速度で直進を始めた。
 数瞬前まで承太郎が身を置いていた場所を通過し、その後方の森林へと突き進む。
 『揺らぎ』が通過した後の世界には、惨劇が広がっていた。
 木々が、幾数にも分割され、崩れ落ちる。
 切断されたのだ。
 スタープラチナの右腕を切り裂いたように、『揺らぎ』は直線状にある全てのものを切り裂いた。
(……『揺らぎ』の正体は……『斬撃』か……) 
 
 承太郎が辿り着いた解答は、まさに正解である。
 スタープラチナを切り裂いた『揺らぎ』、それはナイブズが発現させたプラントが真なる『力』であった。
 別次元より『持ってきた』力を活用し、次元孔を平面化させ薄刃として射出。
 ノーモーションで発動される薄刃は、不可視にして超速。
 世に存在するあらゆるものを破断し、射程距離は成層圏を容易く越える程。
 その『力』が、空条承太郎へと射出されていた。
 『斬撃』は、例え『時の止まった』世界であろうと存在し続け、侵入したスタープラチナの腕を裁断した。
 とはいえ、空条承太郎はまだ悪運が強い方だ。
 時を止めていなければ、時を止めるのが後数秒でも遅れていれば、その身体は確実に腑分けられていた。
 そして、生存に至る大きな要因となった、もう二つの事柄。
 腕を切り裂かれた直後に行った事態の観察と、形振り構わぬ回避行動
 危機的状況にあっても己を見失わなかった強靭な精神力と、冷静にして正確な判断力から生まれた、二つの行動。
 何より、この二つが大きかった。
 この二つの要素があったからこそ、承太郎はプラントが『力』を向けられて尚も生き延びる事ができたのだ。
(……これが……奴の力ってやつか……チッ……やれ、やれだ……どうやら……やっちまったよう、だな……)
 だが、状況は変わらず危機にあった。
 縦に割れた腕は、時が動きだした事で盛大に出血を始め、激痛と合わせて意識を揺さぶる。
 失血と負傷によるショックにより、身体には力が入らず、一歩と動くことすら難しい。
 これが承太郎でなければ、既に意識を失い、地に伏せている事であろう。
 さしもの承太郎も、それが限界であった。
 もはや身体も動かず、意識を保つだけで精一杯だ。
「……化け、もの……」
 承太郎は、動かぬ身でもって、ナイブズを見やる。
 その何をも映さぬ瞳へと、視線をぶつけた。

28 :
 言ってしまえば、空条承太郎は『不幸』だったのかもしれない。
 彼の力は、この超人達が闊歩するバトルロワイアルでも十二分に通用したであろう。
 だが、空条承太郎は、ミリオンズ・ナイブズと相対してしまった。
 その一つの事実が、最強のスタンド使いたる空条承太郎からあらゆる可能性を奪い去ってしまった。
 もしナイブズと遭遇しなければ、もし仮にミリオンズ・ナイブズが融合体となる以前の状態であれば、空条承太郎にも数多の可能性があっただろう。
 その冷静な頭脳と判断力、『時を止める』という圧倒的な力にスタープラチナの高い近接力。
 おそらく如何なるマーダーが相手であろうと渡り合う事は可能で、融合前の姿であったとすればナイブズとも渡り合う事出来たであろう。
 対主催陣営の中でに有数の実力者となり、彼らを牽引する役目に持していた筈だ。
 だが、その可能性の全てが、眼前の存在により打ち砕かれてしまう。
 『プラント融合体』・ミリオンズ・ナイブズ。
 無敵にして絶対の存在が、最強のスタンド使いから未来を奪い去っていた。
「……まだ、だ………まだ、俺は……死んじゃ………いねー………ぜ……」
 
 敗北の寸前に居る承太郎は―――そのボロボロの身体で、スタープラチナを発現させた。
 動かぬ筈の身体で、意識を保つ事すら困難な状態で、それでも戦う意志を見せ付けるのだ。
 空条承太郎の真髄が、そこにあった。
 対するナイブズは、承太郎の強靭な意志を見てさえも表情を動かす事はなかった。
 無表情に承太郎の様子を見て、嘲る事も、称える事もなく、ただ虚無でもって答える。
 人間が見せる反骨心などに心を動かされることなどない。
 ナイブズの周囲にあった白色の翼手が、承太郎を包囲するように動き、その切っ先を向ける。
 今の承太郎に全方位からの攻撃を受ける力はなかった。
 追随するスタープラチナも威圧するように立つだけで、動くことはできない。
 真綿で首を締めるかのように、ゆっくりと迫ってくる刃の数々を、ただせめてもの抵抗として射さんばかりの視線で睨む。
 死の寸前にあろうと、空条承太郎が内にある『黄金の精神』は、決して折れることはない。
 
 そして、刃が最期の猶予と云わんばかりに一度停止する。
 まるで時が止まったかのように、世界が静止してみえた。
 その、次の瞬間であった。
「止めろ!!」
 草藪の中から、咆哮と共に男が飛び出してきたのは。
 血ぬれの学生服に、ウニのようにツンツンに立った髪の毛。
 武器は持たず、己の右拳だけを掲げて、超人達が前に躍り出る。
 その瞳が捉えるは、今まさに命を刈り取らんとする究極が異形の姿。
 男は力強く一歩を踏み出し、ゆっくりとナイブズへ近付いていく。
 信念なんて大仰なものではない、ただ自身の思いに従って男は足を動かす。
 眼前に広がる惨劇へ、人外の種にして絶対の力を有する怪物が面前へと。

 そう―――『幻想し』上条当麻が、ここに現われた。



29 :

 
 上条当麻がまず始めに感じたものは、近場から聞こえる爆発音の如く轟音であった。
 幾度となく発生する爆音は、彼に覚醒させるには十分過ぎた。
 目を覚まし、真っ暗な周囲にパニックになりかけながらも顔を上げる。
 そこは暗闇の中で、上条はぼんやりと靄が広がる思考で、何が起きたのかを思い出そうとする。
 たっぷり十数秒の時間を掛け、上条は思い出す。
 自身に降りかかった災いと、災いを引き起こした張本人達との邂逅とを、思い出す。
 思いだし、上条は勢いそのままに跳ね起きて周囲を見回した。
 見覚えのない景色に、近くから聞こえる轟音。
 身体は生臭い何かで濡れていて、首元には焼けるような熱い感覚があった。
 意識を失う前まで会話をしていた老人と女は、影も形もない。
 上条は悔しげに顔を歪ませ、唇を噛みながら行動を始める。
 近くで聞こえた轟音の方へと、迷うことなく足を踏み出した。
 そして、見た。
 力無く膝を付く大男と、十数もの刃を従えて大男を見下ろす白色の異形。
 上条は異形が醸し出す存在感に息を呑み、だが前に躍り出る事に躊躇いは覚えなかった。
 眼前で人が襲われていて、今にも害されようとしている。
 前に出ぬ理由はない。
 恐怖を無視し、己を鼓舞するように声を張り上げ、上条当麻は異形の前へと踏み出した。
「何やってんだよ、お前……! お前はあんな奴等の言いなりになって、本当にし合いなんて始めちまうつもりかよ!」
 上条当麻は、揺らがない。
 し合いの場にあって、明らかに人外の域にいる存在と対面して、それでも一切の揺らぎはない。
 し合いなんて間違っている。
 あんな奴等の言いなりになってし合いをするなんて、そんな未来は許せない。
 だから、止める。
 ただ、それだけであった。
「他の人たちをして、ただ巻き込まれただけの人たちをして、それで生き延びて、お前はそんな悲しい結末で良いのかよ! お前だって巻き込まれただけなんだろ?
 なら、ダメだ! あんな奴等の言いなりになるなんて、間違ってる。そんな事をしても喜ぶのは、あいつらだけだ! し合いなんてしちゃいけねーんだ!」
 上条の言葉は力強く、不思議と胸の奥深くへと突き刺さるものであった。
 だが、この場においてその言葉がどれだけ場違いなものか、誰よりも深く知っていたのは承太郎であった。
 眼前の存在は、今更こんな説得に耳を貸すタマじゃない。
 それだけじゃない。
 この化け物が念じれば、今この瞬間にもあのウニ頭を死亡する。
 ウニ頭が行っている行動は、ピンを抜いた手榴弾の前で呑気に突っ立っているようなもの。
 何とかせねば、される。


30 :
「……消えろ……てめぇは今お呼びじゃねえ………死にたいのか……!」
 ようやくひり出した承太郎の声は、だが受け入れられる事はなかった。
 変わらぬ表情で上条は立ち尽くしている。
 承太郎の声は聞こえている。聞こえてはいるが、引くつもりなど微塵もなかった。
 今にも死にそうな瀕死の人物を見捨てて逃亡を選択する事など、上条当麻に行える訳がない。
 上条当麻が『上条当麻』である限り、そんな選択肢はあり得ない。
 上条は、ボロボロの身体でそれでも他者を案じた男へと一瞬視線を送り、再びナイブズを睨む。
 決意が固まっていくのを感じた。
 このボロボロの男を助ける、上条当麻はそう決意する。
「お前は、強いんだろ? 近くにいるだけで分かる。正直今すぐにでも逃げたしたいくらいだ。お前は途方もない力を持っていて、それを自由に操ることができる。
 俺なんかが立ち向かったところで傷一つ付けられるかも分からねぇ。俺なんかよりずっと強くて、すげえ存在だ。……なのに、そんな力を持ってるのに、あんな奴等の言いなりになっちまうのかよ。
 簡単に他者を見捨てて、自分だけ生き延びて、それで良いのかよ。こんな事は間違ってるって、そう思わねえのかよ!!」
 止まることなく吐き出される言葉に、ナイブズが耳を貸すことはない。
 沢山の人々の心を揺さぶってきた上条の言葉を、右から左に聞き流す。
 ナイブズからすれば、所詮上条も排除すべき種族の一人でしかない。耳を貸す道理がなかった。
 ナイブズは上条を無視して、承太郎の害を行おうとする。
 承太郎を包囲する刃の群れが、ゆっくりと進み始めた。
「ッ、止めろ!!」
 今まさに人を執行しようとするナイブズへ、上条は叫びと共に一歩を踏み出す。
 上条からすればおそらく全力の、だが超人達からすれば拍子ぬけする程の速度での突進。
 それでも真っ直ぐに、最短距離を突っ走って男は進む。
 異形を止めるため、一つの命を救うために、上条当麻は走り出す。
 そんな上条に対して、ナイブズは視線も向けずに己の『力』を振るった。
 『持ってくる力』を発動させ、万物を切り裂く刃を数本形勢する。
 ナイブズからすれば、近くを飛びまわる羽虫を振り払うようなものだ。
 邪魔だからしておく。ただそれだけの行動であった。
 確かに、最初の邂逅時、この人間は一度自分の『力』から生存せしめた。
 しかし、先の攻撃は全方位に放たれたもので、男一人を狙いとしたものではない。
 謎の制限を掛けられた今ならば、幸運に幸運が重なり生き延びたという可能性が、万が一ほどはあるのだろう。
 気に止める必要もない。
 『時を止める』男は『プラントの力』を回避したが、それはこの男が別格なだけだ。
 おそらくは、自らの側近たる魔人とも渡り合う事が可能な男。
 人間としては最強に近い『力』を有しているのだろう。
 だからこそ、自分の『力』から生還することができた
 だが、所詮はその程度。
 何度『時』を止めようが、自分に勝利する事は不可能であり、プラントが『力』からは逃げる事しかできない。
 どれだけの制限が科せられていようと、『プラントの力』は人間如きに打ち破れるものではない。
 『力』が、振るわれる。
 全てを切り裂く『力』が―――。
(……マズ、い……ぜ……)
 上条の突撃に対して焦燥を覚えたのは、助けられる立場にあった空条承太郎であった。
 ナイブズの力を知る承太郎には、上条の突撃が無謀以外の何ものにも見えない。
 迫る白色の刃を無視して、承太郎はスタープラチナの視線を動かし、周囲を観察する。
 そこに、あった。
 最初の遭遇時、投石攻撃を消し去った『暗き穴』。
 その『暗き穴』が、自分を切り刻んだ『揺らぎ』へと変化していく。
 射線上にある、ありとあらゆるものを切り裂く『刃』。
 スタープラチナの拳すらも切り裂いた、絶対の『斬撃』だ。 
 上条を救わねば、という思いが承太郎の内に湧き上がる。

31 :
「スター……プラチナ……ッ!」
 他を想って動く時ほど、『黄金の精神』はより強く光り輝く。
 自己を省みず他人を救おうという想いは、瀕死状態にある空条承太郎へ、奇跡とも云える力を与える。
 もはや指一本と動かぬと思えた身体で、承太郎は己の力を発動させた。
 己の力……すなわち『時を止める』力を。
 『世界』が、止まる。
 限界を越えて発現した能力で、世界はまたもや二秒間の静止を迎えた。
 ミリオンズ・ナイブズも、何物をも切り裂く『揺らぎ』も、何もかもが止まった。
 この二秒間が、空条承太郎に与えられた猶予の時である。
 だが、その瞬間に―――糸が切れた。
 限界を超えた中で、承太郎は己の内にある『何か』が切れる音を聞いた。
 プツンと、儚げな音が、鳴る。
 同時に、身体の芯から、力が抜けた。
 それまで必死に塞き止めていた疲労感が、溢れ出す。
 ここに来て、と承太郎は己の無力を呪う。
 全てが脱落していくかのような感覚の中、承太郎はそれでも上条を救う為に動こうとする。
 だが、空条承太郎をもってしても、もはや抗いきれるものではなかった。
 首を回し、上条がいる方向へ視界を向ける事が精々であった。
 視界には、上条当麻がいた。
 握り拳を固め、異形へと直進しようとしている男が。
 『時』が動き出すと同時に死亡する男が。
 そこで―――、
(な……ッ!!?)

 ―――走っていた。
 
 時の止まった世界で、その男は何ら変わった様子も見せずに、走っている。
 先程までと同様に、強固な意志に瞳を滾らせて。
 他を助けるためだけに、ミリオンズ・ナイブズへと突っ込んでいく。

(馬鹿な……そんな訳がッ……!! まさか、コイツもスタープラチナと『同じタイプ』のスタンドを……!!?)

 そう、『止まった時』の世界で、上条当麻は動いているのだ。
 ただ一人、世界の理から抜け出したかのように駆ける上条当麻の姿を、承太郎は薄れかけた意識の中で見る。
 確かに『時』は止まっている。
 あの白色の異形も動きを止め、異形が作り出した『揺らぎ』も直進を止めている。
 なのに、どうしてあの男は動いている。まさか、本当にスタープラチナと『同じタイプ』のスタンド使いとでも言うつもりか。
 『時』の止まった世界で、承太郎を害しようとしているミリオンズ・ナイブズへと突き進む上条当麻。
 『止まった時』の中で動く上条の姿に驚愕し、呆然としていた承太郎であったが、思い出す。
 ナイブズに接近するということは、その間にある『揺らぎ』にも接近するという事。
 その一歩一歩は、絞首台へ登る階段と同意義だ。
 時が止まっていようと、関係ない。
 あの『揺らぎ』に触れれば、全てが切り裂かれる。
 上条の突撃は、止めねばならない。
 だが、どれだけ念じようとスタープラチナを動かす事はできなかった。

32 :
 やはり、限界なのか。
 腕を伸ばし、足でも服でもそのどれかを掴めば良いだけなのに、身体は動かない。
 そして、遂に上条は足を踏み入れる。
 異形に手が届く距離へ―――すなわち『揺らぎ』が在る場へと。
 躊躇いなく振るった右拳を先頭にして、足を踏み入れた。
 それはまるで、数分前のスタープラチナと同様の挙動であり、だからこそ承太郎は後に訪れる惨劇が予想できる。
 上条の右拳が縦に割れ、痛みと失血により意識を失う。
 数分前の自分の姿を、空条承太郎はどうする事もできずに見詰めていた。
 不甲斐なさに、唇を噛み締める。
 承太郎の視界の中で、上条の拳が、『揺らぎ』とぶつかった。


 ―――キィン


 そして、


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 



 上条当麻の拳が、ミリオンズ・ナイブズの頬を打ち抜いた。



 同時に、『時』が動き出す。
 世界は元通りに時を刻み始めた。
 上条は、ナイブズの頬を貫いた姿勢のまま止まっていた。
 承太郎も、ナイブズも、『時』が動き出したというのに、固まったままだった。
 誰もが誰も、胸中に浮かんだ疑問に動きを忘れていた。

33 :
 上条当麻は考える。
 コイツは一体何なのだ、と。
 腕を通して伝わる、ナイブズの圧倒的な堅牢さ。
 ビクともしない。ほんの数センチと後退させることができない。
 『幻想し』の反応はなく、つまりは眼前の存在は『異能』も何も関係ない状態だという事。
 この堅牢さも、特異な外見も、『異能』ではない。
 つまり、素の状態でコレなのだ。どれだけの力を有しているかなど、考えたくもなかった。
 空条承太郎は考える。
 何が起きたのか、と。
 あのウニ頭の拳と『揺らぎ』とが激突した瞬間、何か甲高い音が鳴った。
 次の瞬間には、『揺らぎ』は消失していた。
 スタープラチナの拳すら切り裂いた『斬撃』を、眼前の男は消し去ったのだ。
 理解不能なことだらけであった。
 『止まった時』の中で活動し、不可視にして異常な切れ味を誇る『斬撃』をも消した男。
 このウニ頭は一体何者なのか。
 スタンド使いだとして、どのような能力を使用したのか。
 疑問が尽きる事はなかった。
 ミリオンズ・ナイブズは考える。
 有り得ない、と。
 男へと撃ち放った数本の『刃』。
 何物をも切り裂く『刃』が、消失していた。
 何も、攻撃対象であった男をも、切り裂くことなく、消えていた。
 『プラントの力』が、消えた。
 無効化、された。
 有り得ない。有り得る訳がない。
 『プラントの力』を打ち破るものは、同様に『プラントの力』でしかない。
 『持ってくる力』と『持っていく力』。
 その二つを相反させる事によって、初めて無効化する事ができるのだ。
 それ以外に、『プラントの力』を打ち破ることなど……できやしない。
 殴られた事など、どうでも良い。
 何故『プラントの力』が消失したのか、それだけがナイブズの心中を波立たせていた。
 ―――そう、全ては、上条当麻の右腕に宿る『幻想し(イマジンブレイカー)』が齎したものであった。
 神の奇跡だろうと何だろうと、あらゆる異能を問答無用で打ち消す事のできる、謎の『力』。
 空条承太郎が発動させた『時止め』、果ては『プラントの力』すらも打ち消した、上条当麻の『力』。
 そう、『幻想し』は『スタンド能力』も『プラントの力』すらも異能と区分し、打ち消したのだ。
 空条承太郎の『時止め』は、己を光速に加速させる事で発動する力だ。
 つまりは、究極的なまでの肉体強化により相対的に発動する『時止め』なのだが、『幻想し』はそれすらも無効化した。
 持ち主たる上条をも『止まった時』の中で活動させ、その命を救ったのだ。
 『幻想し』の正体を知らぬ二人にすれば、まさに青天の霹靂といったところか。
 どちらも、己が絶対と信じていた『力』を容易く打ち破られたのだ。
 驚愕するなという方が、遥かに無茶だ。
 特に『プラント』の優越性を信奉としているナイブズからすれば、その衝撃は如何ばかりか。
 想像する事すら難しい。
 ひと先ず、上条当麻は己の脅威性をナイブズ達へと知らしめた。
 この事で場はどのような変化を来すのか、兎にも角にも視点を再び場に戻してみよう。
 それぞれ三者三様の思考に停止する争乱の場。
 停止した場において最初に我を取り戻したのは、比較的衝撃の少なかった上条であった。

34 :
 拳を引き、一歩二歩と距離を取る。
 座する承太郎を庇うように立ちながら、沈黙を貫くナイブズを見詰め、次にどう行動すべきかを考える。
 渾身の拳もまるでダメージが見えず、『幻想し』も通用しない。
 これまでも数多の実力者と戦ってきた上条であったが、その殆どが『法具』や『魔術』ないし『超能力』といった『異能』を使用していた。
 どれほど防御力の高い相手であろうと、『幻想し』であれば、その防御魔法ごと殴る事ができた。
 それが、今回は、通用しない。
 『幻想し』を当てようと手応えはまるでなく、微動だにしない。
 どう戦っていけば良いのか、これまでの経験がまるで活かす事ができない。
 上条は、焦燥を覚えながらナイブズを睨んでいた。
 その、次の瞬間であった。
 上条は反射的に右腕を突き出す。
 何か考えがあっての行動ではない。本当に無意識の中で、身体が勝手に動いた。
 直後、パキンという何かを割るような音が響く。
 『幻想し』が異能を打ち消した音だ。
 打ち消した上条自身、何を打ち消したのかは分からない。
 それ程までに異能は唐突に発生し、また上条の知覚できぬ速度で飛来したのだ。
 驚きを顔に貼り付かせながら、上条は己の右手とナイブズとを交互に見る。
「……何をした」
 そんな上条へ、声は唐突に発せられた。
 地の底から響いたような、暗い声。
 声に身体を震わせ顔を上げると、視線と視線とがぶつかった。
 思えば、眼前の存在と視線を合わせたのは初めてだろう。
 上条は殆ど思わずといった様子で構えを取っていた。
 警戒せずにはいられない。理性と掛け離れたところで、否応なしに身体が動く。
「答えろ」
 冷や汗に体を濡らしながら、上条は大きく息を吸った。
 口内が痛いほどに渇いていて、唇が上手く動かない。
 それでも一度の深呼吸は上条にある程度の落ち着きを与える。
「……俺の右手には『幻想し(イマジンブレイカー)』っていう力があってな。どんな異能だろうと、てめぇが出す異能だろうと、打ち消す事ができるんだよ」
 意を決して口を開き、上条は己の力を語った。 
 答えに、ナイブズは黙りこくった。
 眼前の存在が何を思考しているのか、上条には想像が付かなかった。
 ロシアで見た大天使・ミーシャ=クロイツェフと同じような、人類が理解できる範疇の外にある存在。
 上条には、ナイブズがそのような存在に思えて仕方がなかった。
「ハッ、俺なんかに消されるような異能を武器にして、お前はしあいに乗るつもりかよ。勝てる訳ねえな。俺なんかよりも強くて、俺なんかよりずっと真っ直ぐで人を思いやれる参加者が絶対にいる筈だ。
 それにな、例え一人では敵わなくても、人っていうのは協力する事ができる。皆で手を取り合い、強大な敵に立ち向かう事ができる。俺は知ってるぞ。そうやって世界は一度救われたんだ。自分達だけで大丈夫だと、上から目線の救いを蹴っ飛ばしてな。
 お前じゃ、し合いに勝つ事なんてできねーよ。どんなに強くても、たった一人じゃあな」
 だが、ナイブズを脅威の存在と判断して尚も、上条は語る口を止めなかった。
 一人で孤独に戦おうとする怪物へ、自分が見てきた世界を語った。
 力強い、迷いのない言葉であり―――だからこそか、返答は熾烈なものであった。
 ゴバ! と音が聞こえたかと思いきや、衝撃が世界を揺らした。
 気付けば視界が白色に染まり、景色がなくなる。
 直ぐ近くにいた筈のナイブズの姿すら見えなくなり、身体を凄まじい衝撃と浮遊感が襲う。
 まるで車に引かれたかのような衝撃に、意識を保つことすら出来なかった。
 意識が白色から漆黒に染まる。
 訳も分からぬままに、上条は本日二度目の意識喪失を味わう事となった。

35 :

 その瞬間を、空条承太郎は見極めていた。
 語る上条へと向けられるナイブズの表情が、僅かな変化を見せた事に、承太郎は気付いた。
 その顔から読み取れるのは、不快感と怒り。
 自分に対しては何ら感情を浮かべる事のなかった顔貌が、僅かに色めき立っていた。
 同時に承太郎は危険を察知する。
 もはや、スタープラチナを用いるまでもなかった。
 肉眼で視認できる程の、巨大な『暗き穴』。
 『揺らぎ』の前身としてあった形が、ナイブズの側に浮かんでいた。
 上条や承太郎に向けて放たれた『揺らぎ』を発生させた時も、確かに『暗き穴』は発現していた。
 だがそれは、スタープラチナの認識力でようやく発見できた程の微小なもの。
 今回のように、明確な視認など出来る筈がなかった。
 承太郎は察知する。
 今発現している『暗き穴』に込められたエネルギーを。
 視認できる程に巨大な『暗き穴』に込められたエネルギーを。
 瞬時に察知し、最後の力を振り絞ってスタープラチナを出現させた。
 
 刹那の後に、『暗き穴』が加速した。
 銃弾をも越える超加速で放たれた『暗き穴』に、どんなトリックがあってか上条は反応し、右手で迎え撃った。
 しかし、『幻想し』をもってしても、今回ばかりは勝手が違った。
 『幻想し』に触れた瞬間、『暗き穴』が爆発したのだ。
 白色の極光と共に膨張し、全てを飲み込む暴風と化した。
 規模は凡そ直径百メートル程で、暗闇の森林にてドーム状に広がる。
 爆発に秘められた、膨大かつ連続的なエネルギーは、『幻想し』であっても一瞬で消し去ることは不可能であった。
 爆風に押し負ける形で、骨が軋むような音と共に上条当麻の身体が後方へと吹き飛んだ。
 その衝撃は凄まじいもので、直ぐ後ろにいる承太郎もスタープラチナで受け止めようとするも、それでも寸分の障害とすらならなかった。
 上条と承太郎の身体が、爆風に押されて宙に舞う。
 重力から解き放たれて、二人の人間が夜天の空を一直線に進んでいく。
 気絶した上条を抱える承太郎は、自身も意識を失わないようにと気を強く持つ。
 スタープラチナで着地の衝撃を受けなければ、おそらく二人とも助からない。
 着地するまで意識を保たねば、そう考えながら承太郎は唇を強く噛む。
 十数秒の飛行が、まるで何時間にも感じた。
 地面が近づいてくる事を認識しながら、薄れ行く意識の中でスタープラチナを動かす。
 繰り出すのは左拳。着地の勢いを打ち消すように、地面へと拳を振るった。
 衝撃が身体を揺らす。
 もう、限界であった。
 身体を響かせる衝撃を感じながら、遂に空条承太郎は意識を手放した。
 
【一日目/深夜/E-8・森林】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]疲労(極大)、右腕断絶、気絶中
[装備]スタープラチナ・ザ・ワールド
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考]
0:気絶中
1:し合いを止め、兵藤をぶちのめす。
2:学生服の少年を守りつつ、目の前の異形をぶちのめす。
[備考]
※三部終了後から参戦しています

36 :
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]疲労(小)、気絶中
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考]
0:気絶中
1:し合いを止める。
2:仲間と合流する。
[備考]
※原作22巻終了後から参戦しています
 消えていく二人を見詰めながら、ナイブズは一人佇む。
 現状で放てる渾身の一撃は、たかだか百メートルの破壊を産んだだけであった。
 本来の力であれば、惑星すら揺るがす程の力だった筈だ。
 その力が、この散々たる結果。忸怩たる思いを感じずにはいられない。
「『幻想し』……」
 加えて、渾身の一撃はたった一人の人間すらも消し去ることができなかった。
 『幻想し』―――異能を打ち消す、謎の『力』。
 爆風により吹き飛んだにせよ、制限があるにせよ、『幻想し』とやらは全力の発動すらも耐えきった。
 無敵である『プラントの力』を、正面から。
「く、くく……はははははは」
 ナイブズの心境には、もはや自嘲しかなかった。
 融合に次ぐ融合の末に手に入れた『力』。
 人類へ反旗を翻す為に入手した『力』をもっていながら、気付かぬ内に拉致され、謎の制限を架せられ、たった一人の人間すらも害できなかった。
 あまりに矮小な自己に、滑稽な気持ちを抑えられない。
 笑いが止まらなかった。
「よォ、お楽しみかよ。クソ野郎」
 そうして笑い続けるナイブズの前に、その人物は現われた。
 押したら折れてしまいそうな程に細い身体。
 不健康さを思わせる白い肌に白い髪。
 全てが白色の様相の中で、瞳だけが赤色に染まる。
 少年は、赤色の瞳を敵意で満たして、ナイブズを睨む。
 一方通行(アクセラレータ)。
 学園都市が誇る最強の超能力者が其処にいた。
 一方通行は見ていた。
 闇を照らし尽くす爆発の直後、空を吹っ飛んでいく二人の人間。
 その顔までは見えなかったが、あの高さから落下すれば一たまりもない事は確かだ。
 おそらくは、この存在。
 人間だかどうだかも分からないコイツが、先の爆発を引き起こし、二人の人間を害した。
 誰がどう見ても危険な存在であった。ならば、一方通行が取る手段は決まっている。
 迅速な排除。後を追ってくる女性が辿り着くよりも先に、この化け物は潰しておく
 それだけであった。
「てめェがどこの何者で、何でそンな愉快な身体をしてるのは知らねェ。どうでも良い事だ。ただ、てめェが邪魔な存在だってのは分かる。だからよォ―――潰れとけ」
 『最強』と『最弱』が消えた場に、また一人の『最強』が現われる。
 果たして、『最強』のスタンド使いが苦戦した相手に、科学の化け物は太刀打ちできるのか。
 ただ一つ言える事は、『ヒーロー』はもうこの場にいないという事だけ。 
 人外の怪物達による戦闘が、再び繰り広げられようとしていた。 

37 :
【一日目/深夜/D-1・森林】
【ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]融合体、疲労感(大)
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考]
1:会場にいる全てをし、バトルロワイアルの主催者どもも害する
2:眼前の人間をす
3:制限の源を解析し、制限を解く
4:『幻想し』……。
[備考]
※原作12巻・ビースト害の直後から参戦しています
※ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは×5が体内に埋め込まれ、力を大幅に制限しています。
【一方通行@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康、能力使用状態(残り26分)
[装備]チョーカー型電極@とある魔術の禁書目録、一方通行の杖@とある魔術の禁書目録
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考]
0:打ち止めを探し、守る。
1:目の前の異形を潰す。
2:周辺を探索し、打ち止めを探す
[備考]
※原作22巻終了後から参加しています

38 :
これにて投下終了です。
絶望的なまでに強すぎるマーダー書けるってのも、非リレーならではの醍醐味だと思います。

39 :
tesu

40 :
規制解除されたか
投下乙です 久々ですね 何か面子が凄いw
では自分も投下します。EX俺オリロワ2 13話:水も滴る良い女
登場:今給黎涼華、クラリッサ・ブランチャード

41 :
13話:水も滴る良い女
「あの、大丈夫ですか……?」
「はぁ…はぁ…はぁ…無理、もう駄目、私は死ぬ」
砂浜で倒れていたずぶ濡れの少女に、青基調の露出の高い装具を身に着けた若い女性が、
心配そうに声を掛ける。
「私のスタート地点は…海の上だったのよ……有り得ない……酷過ぎる…必死に泳いで来たけどもう……」
「しっかりして下さい!」
「もう起きる気力も無い……」
「ええと、その辺の民家に行きましょう取り敢えず」
「歩くのもきついって言うのにもう……」
疲労しきった身体に鞭を打ち少女は立ち上がり、女性に肩を抱えられながら民家に向かう。
着ている服は海水で下着まで漏れなく濡れおまけに砂がびっしり付着し酷い有様だ。
民家に着いたらとにかくまず風呂に入りたいと思う少女。
水が使えるのかどうかはまだ分からなかったが。
「米田」と表札の掲げられた二階建ての民家に二人は入る。
「風呂! 風呂! 風呂!」
「あっ、ちょっと……」
手足に溜まった酸も何のその。
少女は民家に入るや否や風呂場を目指し猛進して行った。
「もし乗っている人がいたら危ないのに……気持ちは分かるけど。
……誰もいないよね?」
少し怯えながらも女性は民家の中を探索し始める。
少女は風呂場で温かいシャワーを浴びていた。
「あー……」
非常にだるいが汚れを落とすために手を動かす。
べたつく海水や砂が湯と一緒に排水口へと消えていく。
一通り身体を洗い終え、シャワーを止めた。
身体は綺麗になったが一つ問題がある、着る物だ。
「こんな海水と砂で汚れた服と下着なんてもう着れないね……はぁ、仕方無い、着れる物探すしか無いか」
濡れたデイパックを引き摺り少女は脱衣所から出た。全裸で。

42 :
「! ちょ、何で裸なんです!?」
家の中を探索していた女性が全裸で出歩く少女を見付け咎める。
「いや、私だって裸で歩きたくないよ、そういう趣味は持ってないし勘違いはしないでね。
あのさ、服がもうとても着れる状態じゃないのよ。海水と砂で。だから代わりの下着と服を見付けようと思って」
「そ、それは分かりますけど……」
「ところで他に誰かいた?」
「いや、いませんでした……」
「そう、分かった。じゃあ服……服」
「私も一緒についていきますよ…何かあったら危ないですから」
少女の着る物探しに女性も付き合う。
「所で…助けてくれてありがとう。私は今給黎涼華。涼華って呼んで。貴方は?」
「私はクラリッサ・ブランチャード…フリーの冒険者をやっています」
「冒険者ね……私はまあ、普通の高校生……寒い、あ、この部屋にありそう」
二階の子供部屋と思しき部屋に二人は入る。
どうやら少女が使っていた部屋のようで可愛らしい調度品、アイドルグループのポスターなどがある。
クローゼットや箪笥を涼華は躊躇する事無く漁りまくる。
「よし、これ、私の身体に合いそう! あ、サイズの事だからね」
「分かってますよ…」
どうやらサイズの合う下着と服を見付けたらしい。
それを手際良く着る涼華。
数分もしない内に、どうにか普通に外に出れる格好にはなった。
「似合う?」
「え? ええ、まあ」
「とにかくこれで外は歩けるね…流石にマッパで外は歩けないからね!
世の中にはマッパで学校に行ったり会社へ行く猛者もいるって聞いたけど私は至って健全な女の子だから。
そう自負してる」
「別に聞いていませんよ」
「……支給品、確認しないと」
「あ、そうですね」
まだ支給品を確認していない事を思い出した二人は一階に移動する。
広い和室に入り腰を下ろしてお互いデイパックを開ける。
涼華のデイパックは相変わらず濡れていたが。
そして二人はランダム支給品を確認する。
涼華は自動拳銃ベクターCP1と予備弾倉二つ、そしてスタングレネード三個。
クラリッサは「三日月宗近」と言う銘の日本刀と、ポーランド生まれの最強の酒、スピリタス。

43 :
「拳銃に刀か、当たりじゃない」
「ええ…」
「……で? 私を助けてくれたって事はクラリッサさんはし合いには乗っていないんでしょ?」
「はい」
「私もよ。じゃあし合い乗っていない仲間捜しでもしようか」
「ですね」
二人はし合いに乗っていない参加者を捜す事にした。
「……でもちょっとだけ休ませて」
「……分かりました」
しかし涼華の疲労の度合いはかなりのもので、休んでから行く事にした。
【早朝/E-7海沿いの町:米田家】
【今給黎涼華】
[状態]肉体疲労(大)、風呂上がり
[装備]ベクターCP1(13/13)
[持物]基本支給品一式、ベクターCP1の弾倉(2)、スタングレネード(3)
[思考・行動]
0:し合いはしない。仲間を集める。
1:クラリッサさんと行動。しばらく休む。
[備考]
※服を着替えました。
【クラリッサ・ブランチャード】
[状態]健康
[装備]日本刀・三日月宗近
[持物]基本支給品一式、スピリタス
[思考・行動]
0:し合いはせず、何とか脱出する手段を探す。
1:涼華さんと行動。涼華さんを少し休ませる。
[備考]
※特に無し。

44 :
----
≪キャラ紹介≫
【今給黎涼華】 いまきいれ・りょうか
16歳の高校生の少女。金髪ツインテ。かなり難読な部類に入る自分の苗字がちょっとコンプレックス。
羞恥心が少し足りず、また、他人と関わるのが余り好きでは無い事以外は普通の少女。
小学校の頃から1円玉を貯金いており今や貯金箱は人を殴りせる重さになっているとか。
【クラリッサ・ブランチャード】
フリーの冒険者。23歳。青髪赤目の美人。ナルガ装備に酷似した格好をしている。礼儀正しいが泣き虫。
剣やナイフを使った近接戦闘を得意とし、多少ではあるが魔法も使える。
レイ・ブランチャードの従兄弟にあたる。容姿は似ているがクラリッサの方が身長が高く優しい顔付き。
≪支給品紹介≫
【ベクターCP1】
今給黎涼華に支給。予備弾倉2個とセット。
1990年代後半に南アフリカで開発された民間・警察機構向けのポリマーフレーム自動拳銃。
衣服の下など懐に携帯することを前提としており、衣服との引っ掛かりを抑える特異な流線型の外形をしている。
【スタングレネード】
今給黎涼華に支給。3個セット。
爆発時の爆音と閃光により、付近の人間に一時的な失明、眩暈、難聴、耳鳴りなどの症状と、
それらに伴うパニックや見当識失調を発生させて無力化することを狙って設計された非傷型の手榴弾。
【日本刀・三日月宗近】
クラリッサ・ブランチャードに支給。
平安時代の刀工・三条宗近作の日本刀(太刀)。天下五剣の一つ。日本の国宝に指定されている。
「天下五剣」の中でも最も美しいとも評され、「名物中の名物」とも呼び慣わされた。
【スピリタス】
クラリッサ・ブランチャードに支給。
ポーランドを原産地とするウォッカ。アルコール度数世界最高の酒として知られる。
何と95-96度。何考えてんだ。ちなみに火を着けると燃える。マジで。消毒薬としても使えるらしい。
----

45 :
投下終了です。

46 :
投下します。EX俺オリ2 14話:血だらけの学び舎
登場:ヴィヴィアン・ルーク、川瀬正俊、皆川宏介

47 :
14話:血だらけの学び舎
私ことヴィヴィアン・ルークの支給品は、ボルトアクション小銃のクラッグ・ヨルゲンセン銃。
予備の弾もセットで入っていた。
銃は余り得意じゃないけれど扱えない事は無いから良いか。
ここは学校かな? 作り的に。
「なぁあんた! あんたもこのし合いの参加者だよな?」
何? モブが話しかけんな。
見るからにその辺のsラと言う感じがする人間の男ね。
まさか親しげに話し掛けてきて私を性的なあれで襲おうって気かな?
「こんなし合いなんてまさか乗らないだろ? なあ?」
ああ、別に襲う気は無いみたいだけど、かなりビビってる感じがするね。
「そうね、し合いなんて馬鹿げてるって私も思うよ」
「だろ?」
確かにこのし合いはかなりいかれてるし酔狂以外の何物でも無いとは、私も思うけど。
「? お、おい、何を……」
ダァン!!
……クラッグヨルゲンセン銃で男の胸元を撃ち抜く。
男は驚いたような表情のまま倒れて、死んだ。
凄くあっさりだね、拍子抜けしちゃうよ。
確かに私もこの男とし合いに対する考えは同じだけど、乗っていないなんて一言も言っていない。
首には爆弾付きの首輪をはめられて命を握られていて、最後の一人にならなきゃ生きて帰れないのなら、
私はそのルールに従わせて貰う。レスターさんにセシリーさんもいるみたいだけど関係は無いね。
さてこの男は何か良い物持ってるかな?
「……ふぅん」
男の荷物を漁るけど、ピッケルぐらいしか無い。
まあいざと言う時の打撃武器は必要だし貰っておこう。
「!」
背後に気配を感じ振り向く。
廊下の曲がり角かな、何かが顔を引っ込めたけど。
見られた? いや別に見られたからどうと言う事じゃないけど始末しておこう。
私はクラッグ・ヨルゲンセン銃のボルトを操作しながら駆け出す。

48 :
「うわぁああ!!」
「?」
男の悲鳴と何かが転げ落ちる音が聞こえた。
曲がり角の先は階段があった、転げ落ちる音……下? 下に行ってみよ。
おお、階段の下で黒豹の男が倒れて悶えている。
階段から落ちて足を負傷した事は確定的に明らかだ。
「うぐっ、ぐ……足が……!」
「大丈夫?」
「! お、お前…!」
黒豹の男は私の顔を見るなり恐怖で引き攣った表情を浮かべた。
さっき私が男を撃ちした所、やっぱり見ていたのかな?
「痛いでしょ? 大丈夫すぐに楽にしてあげるから」
「やめ――――!!」
ダァン!! ジャキッ…カチッ…。 ダァン!!
二発目は頭に当たったね、うわぁ、脳味噌が弾けて酷い事になったよ。
この黒豹は何か良い物持ってるかな。
「おっ、良いね」
拳銃持ってるじゃない。
デイパックの中に予備の弾倉も入ってるし貰っておこう。
これを使って反撃でもすれば良かったのに、痛みでそれどころじゃなかったのかな。
まあ反撃されたらこっちが困るんだけど。
「銃声で誰か来るかもしれない……一旦学校離れようか」
余り連戦起きても、私の体力と持っている武器弾薬には限りがあるから、
学校離れて周りの町でも回ってみようか。
さて、階段下りて昇降口に行こう。いや、裏口でも良いけど……。
【川瀬正俊  死亡】
【皆川宏介  死亡】
【残り  35人】

49 :
【早朝/D-4湖畔の小中学校】
【ヴィヴィアン・ルーク】
[状態]健康
[装備]クラッグ・ヨルゲンセンM1895カービン(2/5)
[持物]基本支給品一式、6.5mm×55弾(10)、ピッケル、ローバーR9(6/6)、ローバーR9の弾倉(2)
[思考・行動]
0:生きるためにし合いに乗る。
1:学校周辺の町を歩き獲物を見付け次第害する。
[備考]
※特に無し。
----
≪キャラ紹介≫
【ヴィヴィアン・ルーク】
人間年齢20歳の褐色エルフの女性。エルフの王家の血を引くらしいが本人曰く傍系との事。
槍を得物としているが銃や弓矢もそこそこ使える。
明るく振舞っているがしに忌避感を持たず己のためなら老若男女関係無く命を奪う冷酷さも持っている。
好きで冒険の費用を稼ぐため身体を売る事もしばしば。スタイルは抜群に良い。
【川瀬正俊】 かわせ・まさとし
30歳。賭博師で、賭博により生計を立てているある意味凄い人。
マージャン、パR、競馬、その他色々なギャンブルを巡っている。
仕事(?)柄何度か危ない目にも遭っているがめげずに賭博を続ける。普通に働け。
【皆川宏介】 みながわ・こうすけ
20歳の黒豹獣人の大学生で、ホモ。発展場に通うのが一番の趣味。
最近は発展場仲間の中学生狐少年がお気に入りで一緒に買物に行ったりしている。
高校まで空手をやっていたが余り真面目では無かったので弱い。
≪支給品紹介≫
【クラッグ・ヨルゲンセンM1895カービン】
ヴィヴィアン・ルークに支給。予備の6.5mm×55弾10発とセット。
19世紀後半にノルウェーで開発されたボルトアクションライフルのカービン(騎兵銃)モデル。
弾倉の右側面が開き戸になっており、横から1発ずつ弾薬を入れる仕組みになっている。
【ピッケル】
川瀬正俊に支給。
積雪期の登山に使う鶴嘴のような形の道具。
氷雪の斜面で足がかりを作るのに用いるほか、確保の支点(ビレイピン)、滑落時の滑落停止、
グリセード時の制動及び姿勢の維持、アイスクライミング時の手掛かり、杖代わり、
時には雪上でテントのペグとして使ったりもする。
【ローバーR9】
皆川宏介に支給。予備弾倉2個とセット。
アメリカのローバー(Rohrbaugh)社が開発した小型自動拳銃。
航空機用のアルミ複合材をフレームに採用し、総削り出し加工で製作する等「高級」な小型拳銃となっている。
但しとある銃器誌のレポートでは「購入直後は装填不良に悩まされた」とされ信頼性に難があるようだ。
----

50 :
投下終了です。

51 :
投下します。EX2 15話:オタクとカメラマン
登場:秋山隆生、栗田雅博

52 :
15話:オタクとカメラマン
海の近くに建てられたホテル。
ホテルの中の通路を歩く肥満体形に不細工顔、黒縁眼鏡と言ういでたちの青年、秋山隆生。
「良いホテルっぽいけど、こんな辺鄙な島に建てて儲かるのかなぁ…儲からないと思うけど」
そんな事を言いながら、隆生はラウンジと看板のある扉を開ける。
「! 誰だ?」
「あっ…人か…おいらの他にもいたんだ」
ラウンジ内には一人の青年がいた。
左耳が無くなっているように見える。いや、無い。
青年はテーブルの上にデイパックと支給品と思われる木製バットとトランジスタラジオを置き、
何やら考え事をしていたようだった。
「ああ、おいらはし合いなんてする気ないよ」
「そうなのか? ……僕もだ。僕は栗田雅博」
「おいらは秋山隆生、ええと、栗田さんはここで何をしていたんだい?」
「ああ…ちょっと、考え事を……僕の知り合いがこのし合いに何人かいるみたいだから」
「そうなのか……」
隆生は雅博の話を聞く。
雅博の知り合いの御代田優太郎、皆川宏介、萩野美祐、
萩野直重、藤森真海がし合いに一緒に参加させられているらしい。
隆生はこのし合いには知人は一人も呼ばれてはいなかったが雅博の心情は察する事は出来た。
「とりあえずみんなを捜しに行こうと思っていたら、栗田さんが来て」
「そうか…ところで、どういった知り合い、かな」
「ん……えーと」
少し困ったような表情を浮かべた後、雅博が口を開く。
「発展場仲間」
「えっ」
「発展場で色々ぃ事してる仲間。僕はほとんど撮影してるだけ、だけど」
「ああ、そうなんだ……いや、大丈夫だよ。別に変な目では見ないし」
「そうかい? なら、良いけど……所で、秋山さんの支給品は、その手に持っている銃?」
雅博が隆生が手に持っているコルト9mm短機関銃を見ながら尋ねる。
「そうだよ。予備のマガジンも一緒だった。使いこなせるかどうかは分からないけど」
「僕はこのバットとラジオだよ。でもラジオは壊れてるみたいで」
雅博がラジオの電源を入れる。

53 :
『……信頼と安心をお届けします、生命保険の……本日午前……頃、……県前沢……において……
に対し野党側が強く反発、議会の……番高村、投げました! ああっと……本日お送りする歌は……
鉛の空、重く垂れ込み……月刊ケモストア絶賛発売中……』
ノイズ音に混じって放送が聞こえるが、幾つもの局の電波が混在してしまっているようで、
とても聞けるようなものでは無い。
雅博はラジオの電源を切った。
「ふぅん、何でこんな物を支給したんだろう」
「特に深い意図は無いと思うなぁ…ただの外れだと」
「そうかな……あ、栗田さん、これから知り合いを捜しに行くんでしょ?」
「ああ」
「おいらもついていって良いかな……その、一人だと心細くて」
言い辛そうに隆生は雅博に頼む。
自分のような鈍い男を好んで同行させてくれるかどうかは、確率的に言うとかなり低いと隆生は考えていたため、
断られた時の事を優先的に思案しある程度予防線を張っていたが、雅博は快諾してくれた。
「ああ、良いよ。僕もし合いに反対する仲間が欲しいなとは思っていたから」
「本当? ありがとう」
二人はその後、荷物を持ってラウンジを後にし、まずホテルの中を見て回る事にした。
【早朝/E-2ホテル】
【秋山隆生】
[状態]健康
[装備]コルト9mm短機関銃(32/32)
[持物]基本支給品一式、コルト9mm短機関銃の弾倉(5)
[思考・行動]
0:し合いから脱出したい。首輪を調べたい。
1:栗田さんと行動。
[備考]
※御代田優太郎、皆川宏介、萩野美祐、萩野直重、藤森真海の情報を得ました。
【栗田雅博】
[状態]健康
[装備]木製バット
[持物]基本支給品一式、壊れたトランジスタラジオ
[思考・行動]
0:取り敢えず発展場仲間を捜す。
1:秋山さんと行動。
[備考]
※発展場仲間は御代田優太郎、皆川宏介、萩野美祐、萩野直重、藤森真海です。

54 :
----
≪キャラ紹介≫
【秋山隆生】 あきやま・たかお
二次元オタクの男。21歳の大学生。肥満体、黒縁眼鏡、不細工顔と言う風貌。
趣味の性質上、コンピューター知識及び機械知識はもはや技術者のレベルに達している。
性格は至って善人なのだがその風貌故誤解を受ける事が多い。
バイトで金を稼いでいるらしいが何のバイトかは不明。
【栗田雅博】 くりた・まさひろ
サラリーマンの男性。25歳。ケモナーで、発展場に通っては獣人の性行為を撮影し楽しんでいる。
しかし本人が行為に加わる事は余り無い。中学生の時に交通事故で左耳付近に大怪我を負い、
現在左耳の聴力がかなり悪くなってしまっている。
≪支給品紹介≫
【木製バット】
栗田雅博に支給。
野球で使われる木製のバット。
【壊れたトランジスタラジオ】
栗田雅博に支給。
小型の携帯ラジオ。しかし壊れているらしく様々な局の電波が入り乱れた意味不明な放送しか流さない。
【コルト9mm短機関銃】
秋山隆生に支給。予備弾倉5個とセット。
コルト社が軍・法執行機関の要請で開発したM16突撃銃ベースの短機関銃。1982年登場。
9mmパラベラム弾を使用する。
----

55 :
投下終了です。

56 :
皆様投下乙です。
では自分も俺ニコロワを投下します。

57 :
俺ニコロワ13話:その幻想を燃やし尽くす!!
 その少女は知っていた。
 自分を想ってくれている親友の存在を。
 いや、彼女はおそらく、親友に対する思い以上の感情を自分に対して有している。
 知っている。分かっている。理解している。
 だからだ。だからこそ、少女はこの窮地にあって焦燥を隠す事ができなかった。
 彼女がどのような行動を選択するか、手に取るように分かってしまう。
 それは彼女にとって苦渋で苦痛で残酷な選択だ。
 でも彼女は、迷い、悩み、怯えながらも絶対にその選択肢を選ぶ。
 彼女はそう、自分の為に何もかもを捨てる筈だ。
 嫌だった。
 彼女が自分の為に苦しむ姿など見たくない。
 仲間としあう姿など、見ず知らずの人々をす姿など、本来守るべき存在の人々をす姿など、見たくない。
 自分の為に、自分を救う為に、彼女自身を捨てる。
 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。そんなの嫌だ。
 苦しんでほしくない。悩んでほしくない。笑っていてほしい。また傍に寄り添って笑いあいたい。
 彼女と一緒に同じ時を過ごしていきたい。
「私は……」
 少女は悲しげな瞳で空を見上げた。
 空に光は綺麗な星々と、真ん丸のお月様。
 一緒に飛んだ夜の空。
 いつもは綺麗だけど寂しくも思える夜の空も、彼女がいたら違って見えた。
 彼女は、少女にとって無くてはならない存在だった。
 だから少女は、心優しい少女は、悲しみに染まった瞳で決意する。
 一人にはしない。同じ道を行く。
 どんな寂しい道であっても、悪夢に繋がる道であっても、進む道は同じだ。
 同じ所に立ち、同じ道を行くんだ。
 彼女だけに、辛い思いをさせる訳にはいかない。
「……ごめんなさい」
 だから、謝罪と共に、引き金を引き絞る。
 暗闇の中で轟音が鳴り、構えた武器から反動が響く。
 フリーガーハマー。九つのロケット弾が込められた、人一人を害するには十分すぎる武装だ。
 絞られた引き金に従って、フリーガーハマーからロケット弾が尾を引いて放たれる。
 視線の先には……森林を歩く男の人がいた。
 少女の存在に気付いておらず、隙だらけの身体を夜の森に晒している。
 ロケット弾が音をたてて直進し、そこでようやく男も反応を見せた。
 振り返り、だがそれだけだ。
 避ける事も身構える事もできずに、ただ呆然と迫るロケット弾を見詰め、そして、

58 :
「危ない!!」
 直撃する寸前で、誰かに突き飛ばされた。
 現れたのは、ウニのようなツンツン頭の少年であった。
 少年は男を突き飛ばし、二人でぐちゃぐちゃになりながら地面に転がる。
 外れた。
 その事実に動揺しながらも、少女はフリーガーハマーの矛先を地面に倒れる二人へと向ける。
 今度は外さない。
 今度こそ……害する。
 そうしなくてはいけない。
 そうしなくちゃ、彼女一人に重荷を背負わせることになる。
 だから―――、
「止めろ、こんなし合いなんて馬鹿げてる! お前も拉致されただけなんだろ。普通に平穏な生活を送ってただけなんだろ。
 なら、駄目だ! ここでし合いになんか乗っちまえば、その平穏な生活は二度と戻ってきやしない! 人しなんかして生き延びたって、後悔しか残らない筈だ!」
 
 声が、響いた。
 ウニ頭の少年が振り絞った、力に満ちた声。
 その声に、引き金を引こうとしていた少女は動きを止める。
 涙を湛えた瞳を見開いて、少年を見詰める。
 少年の瞳は力強く輝いていて、寸分の迷いすらない。
「諦めちゃダメだ! ハッピーエンドを目指すんだ! 誰も傷つかない、誰も泣いたりしない、そんなハッピーエンドを目指すんだ!」
 少年の言葉は、不思議と胸に刺さるものだった。
 こんな状況なのだ。少年の言葉が絵空事だということは、子どもにだって分かる。
 だが、少年は本気であった。
 全ての言葉を、本気で語っていた。
 迷いもなく、躊躇いもなく、本心をそのままに放っていた。
 だからこそ、こんなにも心を揺さぶる。
 少女の心を、少年に助けられた男の心を、熱く滾らせる。
 少年の言葉に、少女は表情を歪ませた。
 悲しみの中で起てた決意が、揺らいでいく。
 ともすれば、武器が手から滑り落ちそうになる。
 でも、
「私は……駄目よ」
「な……!?」

 でも、それでも―――少女は、決意を曲げなかった。


59 :
「私はエイラと同じ道を行く。彼女を一人にはしない。エイラだけに全てを背負わせない。せめて、私だけでもエイラと一緒にいてあげなくちゃいけないの」
 誰もが誰も幸福で終わる未来を、その未来を目指すことを、否定する。
 皆を救うでなく、ただ一人を救う為に、少女はハッピーエンドを切り捨てる。
「だから……ごめんね」
 少女―――サーニャ・V・リトヴャクは、悲しみと共にそう決意した。
 瞳に涙を溜めながら、それでも決して揺らがぬ決意でもって、宣誓する。
 想い人の為に全てを捨てる決意を、サーニャは固めたのだ。
 掲げられるフリーガーハマー。
 その九つの銃口を突き付けられながら、対する少年は悔しさと悲しさに拳を握った。
「ッ、バカ野郎……! そんな、そんな悲しい結末で良いのかよ……そんな悲しい選択で良いのかよ……!
 そんなんでエイラって奴が、お前が、お前たち二人が救われるとでも思ってるのかよ!」
「ううん、誰も救われないよ。でも、それでも、決めたから」
「ふざけんな……ふざけんなよ! 俺は認めない……そんな悲しい選択なんて俺は絶対に認めねぇぞ!
 お前に、エイラって奴に見せてやる。この世界はそんな悲しいものなんかじゃないって、誰も悲しまない道だってあるんだって、見せてやる!」

 瞳と瞳が、言葉と言葉が、交錯する。
 サーニャはフリーガーハマーを、少年は右拳を、掲げる。
 最初に動いたのは、少年であった。
 ロケット砲を構えるサーニャへと、少年は怯えをおくびにも出さずに、一歩を踏み出す。
「だから、まずは―――」

 少年が、走り出す。
 己の右拳だけを武器に、少年が走り出す。

「―――お前の、悲しい幻想を―――」

 湧き上がる感情に任せて。
 信じる心に従って。

「―――誰も救われないその幻想を―――」

 サーニャの幻想を、
 余りに悲しすぎるその幻想を、

「―――ぶちす!!」

 ぶちす為に!!

60 :





「感動した!!」
 





 

61 :
 拳は、届かなかった。
 拳が届くよりも先に、引き金が引かれるよりも先に、言葉が響いたからだ。
 言葉に、誰もが動きを止めた。
 サーニャ・V・リトヴャクも、少年・上条当麻さえも、動きを止めた。
 言葉は上条のそれすらま越えて力強く、そして何よりも―――熱いものであった。
「凄い、凄いよ、君たち!! 二人とも心こもってた!! 魂からの言葉だった!!! 感動した!!!」
 拳が届く距離にまで接近した上条とサーニャ。
 拳とフリーガーハマーを交差させて対峙する二人へと、男は笑顔で歩み寄った。 
「君! エイラって人の為に、全部投げ打とうっていう気持ち! 凄い伝わった! 声は小さいけど、俺感動したよ!!」
「え……」
 そしてサーニャへと顔を向け、声を掛けた。
 一度されかけた相手へと、ともすれば握手すら求めかねない勢いで語りかける。
 表情は笑顔で染まっており、まるでされかけた事など忘れてしまったかのよう。
 ……いや、本当に忘れているのかもしれない。
「君! 他人の為に本気で怒れる気持ち!! 他人の為に全てを賭けられる勇気!! それ、すっごい大事!! 俺感動したよ!!」
「は、はぁ……」
 次いで上条へと顔を向け、声を掛けた。
 寸前までのシリアスな雰囲気は何処へやら、上条も戸惑いを浮かべて答える。
 上条の背中をバシバシと叩き、ひとしきり褒めちぎると男はサーニャへと再び顔を向けた。 
「俺は松岡修造!! 君、名前は!!」
「サ、サーニャ・V・リトヴャク……です……」
 男は一度されかけた相手へ、普通に名乗って、普通に名を聞いた。
 とてつもなく大きな声で、傍にいる上条すら耳を押さえたくなるような大きな声で、さも当然のように自己紹介を行った。
 ……もう一度言う。相手は、不意打ちでロケット弾をぶっ放して、男の害を模索した少女である。
 男―――松岡修造からすれば、怨み言の一つや二つですむような相手ではない。
 普通の人であれば、怒りに殴りかかるか、恐怖に逃げ出す。
 当然ではあるが、松岡と同じ行動を取る人間は皆無であろう。
「サーニャね! 良い名前だ!! 俺、君の言葉に感動した!!」
「は、はい……」
 そんな相手を前に、松岡は感心といった様子で言葉を送る。
 心底から尊敬する。そんな気持ちが言葉からひしひしと伝わってくる。
 これにはサーニャも困惑せざるを得なかった。
 訳が分からないといっても良い。
 
「でも、ダメだよ! 人しだけはダメ!! ダメ、絶対!!」
 だが、続く松岡の言葉に、サーニャの心中に決意が思い出された。
 エイラ・イルマタル・ユーティライネン。
 大切な想い人とともにいくという、大きな決意を。
「で、でも、そうしなくちゃ、し合いに乗らなくちゃエイラが……」
 松岡の勢いに気押されながらも、サーニャは反論した。
 エイラを救う為の決意を、震える声で紡いだ。
 その、瞬間であった。

62 :

 
「―――バカ野郎!!!!!!!」
 松岡の表情が、一変した。
 敬服から、憤怒へと。
 怒髪天をつく勢いで放たれた声に、森林が揺れる。
「やりもしないで、努力もしないで、諦めるのかよ!!!! ここの彼が言った通りだよ!!!! 皆が笑って終われるような、そんな最高の結果を目指さなくちゃ!!!!」
 轟く声はサーニャの身体を痺れさせ、震撼させる。
 腹の底にまで響く声だ。
 サーニャは己の内側に沸き上がる熱気を感じていた。
 今にも炸裂しそうな、抗いきれぬ程の熱気。
 熱い。身体中が熱を訴える。
「でも! エイラは私の為にし合いに乗るわ! だから、私が!」
 だが、それを認める訳にはいかなかった。
 決意を曲げることは、エイラを裏切ることは、エイラを一人にすることは、できない。
 信念に満ちた言葉をどれだけぶつけられようと、どれだけの熱き言葉をぶつけられようと、そこだけは曲げられなかった。
「諦めんなよ!!!! エイラがし合いに乗ったんなら、お前が止めてやれよ!!!! お前が、命を賭けてでも、エイラを止めてやれ!!!!
 ぶん殴ってでも、蹴っ飛ばしてでも、お前がエイラを元の世界に連れ戻すんだ!!!!! この悲しい世界から、いつもの平穏な世界に、お前が連れ戻せ!!!!!!」
 続く言葉に、電流のような衝撃が走った。
 エイラを、止める。
 命を賭けて、殴ってでも蹴ってでも、エイラを止める。
 この悲しい世界から、エイラを救いだす。
 救う?
 し合いに乗るのではなく、同じ道を進むのではなく、連れ戻す?
「それで、こんなし合いなんてぶっ潰せ!!!! それで笑うんだ!!!!!! 二人で、今まで通りに、最高の笑顔で笑いあえ!!!!!!」
 二人で笑い合う?
 今まで通りに、悲しみなどない世界で、笑い合う?
 それが、そんな未来があるのだろうか。
 こんなし合いの中で、自分にそんなことができるのだろうか。
「私に……そんな事が……」
 消沈の声に、
 
「出来るよ!!!!!! 君なら、エイラの為にし合いに乗ろうとまでした君なら―――絶対にできる!!!!!!!」

 松岡は間髪入れずに答えた。
 刹那の逡巡すらなく、絶対にできると言い切った。
 サーニャ・V・リトヴャクならば、エイラ・イルマタル・ユーティライネンを救いだせると、松岡修造は迷うことなく断言した。

63 :
「だから、諦めんな!!!!!! 胸を張って、絶対にできるって信じるんだ!!!!! 自分を、信じろ!!!!!!! エイラをそこまで想える自分を信じろ!!!!!!」
 熱き血潮が、遂にサーニャの心に沁み渡った。
 真夏の太陽のように熱い、雪原の中にでの焚び火のように温かい、言葉。
 悲しい決意が融けていき、優しい決意に移り変わる。
「君ならできる!!! 俺も信じてるから!!!! 君ならできるって!!!!」
 未だ口を止めぬ松岡を見詰め、サーニャは微笑んだ。
 温かくて優しげな、本当の微笑み。
 両の瞳から涙を零しながらの微笑みは、心が芯から温まるような柔和なものであった。
「……分かり、ました」
 決意は、更なる決意をもって覆った。
 サーニャ・V・リトヴャクは、ここに誓う。
 親友であり、仲間であり、家族であり、とてもとても大切で掛け替えのない存在を、絶対に救ってみせると。
 また二人で笑い合ってみせると、ここに誓った。

「……ありがとう、ございます……」
「良いよ、お礼なんて! 俺、本当に感動したんだから! それにしても君は声が小さいな! もっと腹の底から声出せ、声!!」
「は、はい……」
「まだ小さい!!」
「す、すみません……」
「うん、まぁOK!!! じゃあ行こうか!!!」
 そして、二人は並び立つ。
 道を見つけた少女と、道を切り開いた男。
 二人は手を取り合い、バトルロワイアルを進むことを決めた。
「あ、あの……」
 そんな二人の数メートル程後方に、少年はいた。
 上条当麻。決め台詞まで言い放ったのに、何故か展開から置いてけぼりをくらった不幸な少年だ。
 何だか纏まってしまった場をみながら、上条はおずおずといった様子で二人に声を掛けた。

64 :
「あ、君か!! 忘れてた!!」
「わ、忘れてたって……うう、不幸だ……」
 あまりの虚しさに涙すら浮かべて肩を落とす上条。
 そんな上条に、松岡は悪びれた様子も見せずに豪快な笑顔を向ける。
「いや、君の言葉も良かったよ!!! 本当気持ち入ってた!!! 感動した!!!」
「あ、ありがとうございます……じゃなくて! その俺も一緒に」
「当たり前だろ! 一緒に行くぞ!!」
「は、はあ。よろしくお願いします」
「声が小さい!! さっきの熱さはどこいった!!」
「いや、いつもあんな叫んでる訳じゃ……」
 上条からしても、何とも熱い……いや、熱すぎる男であった。
 様々な事件を通して色々な人物を見てきた上条であるが、あまりこういうタイプの人間とは会った事がなかった。
 むしろ何時もは、上条自身がこういう熱血的な役目を担っているところがある。
 松岡の暑い笑顔に引きつった笑みを返しながら、上条は松岡から視線を外す。
 向き直った先には、暗い表情をしているサーニャがいた。
 
「……その、サーニャもよろしくな。俺は上条っていうんだ。何か色々あったけどさ、俺も全力で協力するからよ」
「……ごめんなさい。私、あなたが説得してくれたのに……」
 謝るサーニャに、上条は呆れた様に笑い掛ける。
 伏し目がちに俯くサーニャの、その頭へと手を置き、笑った。
「言いっこなしだ。俺だって松岡さんがいなけりゃ、お前のことぶん殴ってただろうしさ。それに、ミサイルまで撃たれた松岡さんがあの調子なんだ。俺なんか何もされてないようなもんさ」
「……そう……。……ありがとう」
 上条の笑みにつられる様に、サーニャも微笑む。
 松岡の豪快な笑みとは正反対の、つつましげな微笑だ。
 その微笑みに上条は右手を差し出し、サーニャもそれを受ける。
 握手を交わしながら、二人は笑い合う。
 
「うん、爽やかな仲直りだ!! 青春だね青春!!!」
 そんな二人を見ながら、松岡は楽しげに頷いていた。
 としては最悪で、だが手を取り合うことのできた三人組が、ここに誕生した。  

65 :
【一日目/深夜/C-4・森林】
【松岡修造@現実】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考]
基本:し合いを止める。
1:サーニャ、上条と共に行動する。
2:サーニャに協力し、エイラを止める
[備考]
※姿はクーガーS型そのままです
【サーニャ・V・リトヴャク@ストライクウイッチーズ】
[状態]健康
[装備]フリーガーハマー(8/9)@ストライクウイッチーズ
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2
[思考]
基本:エイラを止める
1:松岡、上条と一緒に行動する

【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考]
基本:し合いを止める
1:松岡、上条と共に行動する
2:サーニャに協力する

66 :
これにて投下終了です。
ニコロワγの開始が楽しみで仕方ないでござる。
ただし展開被りだけは簡便な

67 :
投下乙です。
あ、熱い……熱すぎる……。
自分も少々遅れましたが投下します
二次媒体ロワ第一話、登場キャラはルルーシュ・ランペルージ、巴マミです

68 :
「…………俺は、生きているのか?」
少年――――ルルーシュ・ランペルージは、荘厳な古城の頂点に君臨していた。
ブリタニア帝国に敗戦する以前の『日本』でなら珍しくもなかったのだろうが、少なくとも今ではなかなか見られない建造物だ。
窓際に腰掛け、眉間に二本の指を押し当てて彼は考え込んでいた。
自分が――全ての目的を果たし、死んだ筈の自分が何故生き返ってこんなことをさせられているのか。
しかし、厳密に言うならばそれもまた的外れであると言えただろう。
確かに胸を貫かれて息絶えた筈の自らがこうして無傷で居ることも不可解であったが、そこを考え込んでもどうにもならない。
彼は、"自分の目的を果たす"為の手段を考えていた。
ルルーシュの壮大な作戦は完結し、自らの命を対価に世界を新たなテーブルに就かせた、それで全ては果たされた筈だった。
しかし、まさかこんな不測の事態が待っていようとはさしものルルーシュでも頭がいかなかった。
――――まさか『あの男』が生存しているとは。
舌打ちを一つ打って、苦虫を噛み潰したような表情をした。
彼は自身の父親、ブリタニア帝国前皇帝・シャルル・ジ・ブリタニアを葬っている。
いかれた計画を進行させていたシャルルとマリアンヌを、その全ての企みを砕いた上で塵も残さず葬った。
『Cの世界』にて、集合無意識に『絶対遵守』させた。
長年ルルーシュが敵視してきた忌まわしき男は死に、そしてルルーシュの最終計画が始まったのだ。
だが――――あの暗闇の中でルルーシュの前に現れ、全く変わらぬ嫌な笑顔で立ちはだかったのは――――シャルル・ジ・ブリタニア張本人であった。
有り得ない、貴様は死んだ筈だ――――捲し立てるも、シャルルは何も動じることなく『説明』するだけ。
魔女と呼ばれた少女との契約で手に入れた『王の力』絶対遵守のギアスを以てしても、せなかった。
少女の首が吹き飛ぶ瞬間を見せつけられ、何も出来ぬままにルルーシュ・ランペルージは此所に飛ばされた、という訳だ。
こんなことがありえるのか、とルルーシュは思った。
ギアスの力にCの世界、集合無意識なんて存在。
幾つもの不可思議に携わってきた彼でさえも、まさかこんな突拍子もない現実が存在するとは思えなかった。
だが、存在したのだ。
死者をも蘇らせ、この世の理を根底から覆す『何か』が。
恐らくシャルル・ジ・ブリタニアだけではないのだろう、この『ゲーム』を糸引く輩は。
シャルルに力を貸し与え、参加者達がし合う様に何かを求める悪徳の嗜好を持つ厄介な敵が、まだ数人単位で存在する。
しかもルルーシュ含む参加者達の命は首に巻かれた忌々しき首輪に握られ、主催者の匙加減ひとつでいつだって奪える状態。
はっきり言って、絶望的だ。
この首輪を外せれば状況は一気に好転するのだが、これを気付かれぬままに外せる技術者が居るかどうかも怪しい。
しかも、シャルルら主催者だって万一に備え、反逆者を鎮圧する手段くらいは用意している筈。
装備も十分ではなく、仲間も零から集めなければいけない。
し合いに乗った参加者に襲われる危険だって勿論有るし、最悪裏切りや仲間割れだって覚悟しなければならない。
――――もう一度言おう、状況は最悪だ。
だから、ルルーシュ・ランペルージは一つの目的に向かい行動することに決めた。

彼には、悪逆皇帝と呼ばれた『皇帝』ルルーシュ・ランペルージには、絶対に死なせてはならない存在がいた。
幼馴染み、と言おうか。体力では『もやし』とまで呼ばれたルルーシュとは正反対の、正義に生きる騎士。
一度は道を違えた。彼は反社会組織のトップに君臨し、騎士は『ナイトオブラウンズ』として彼への強い憎しみに燃えていた。
しかし、幾つかの擦れ違いを経て和解。ルルーシュの騎士『ナイトオブゼロ』という肩書を得、彼の作戦の協力者となる。


69 :
全ての憎しみを悪逆非道の皇帝・ルルーシュが一身に背負い、それをして『ゼロ』は英雄となる――――その計画を、ゼロレクイエム。
その計画は、『ナイトオブゼロ』――――枢木スザクなくしては、成立しない。全てが水の泡になってしまう。
それだけはあってはならない。
ゼロレクイエムを真の意味で完遂する為にも、親友たるスザクの為にも――最愛の妹、ナナリーの為にも。
枢木スザクには、何としてでも生還して貰わなければいけないのだ。
「しかし、スザクだけでなく黎星刻にジェレミアか……これまた随分な面子を揃えたな」
中華連邦の星刻に、ルルーシュに忠義を果たすだろうジェレミア・ゴットバルト。
ジェレミアはまず自分に刃を向けはしないだろうが、星刻に関して言うならば分からない、だろうか。
まあ彼が特別視する少女・天子はこの場には居ない――彼がし合いに乗る確率もそれで大分減ったと思われる。
(そしてマオ、か………当分の難敵はコイツだな)
ルルーシュと同じくギアス能力者である青年、マオ。
他人の思考を読むギアスを持つ彼とルルーシュの相性はまさに最悪。
本性を隠して、陰で暗躍するだろうルルーシュの本性を暴露されでもするとかなり面倒なことになる。
早めに、どうにかして処分しなければならない。
「とりあえず――――まずは駒だ」
ルルーシュが如何に『絶対遵守のギアス』を持っていたとしても、その身体能力は所詮並以下でしかない。
発射された銃弾を避けるなんて超人じみた芸当は残念だがら不可能だ。
そのルルーシュがこのし合いで有利に動くためには、自分の言う事を忠実に聞く駒が必要となる。
以前統率していた『黒の騎士団』までといかずとも、せめて三人くらいの味方を得ておきたい。

(ギアスの力を使えば懐柔するのは容易……だが、人は選んでいかなければな)

名簿に載っている人物にはひとまず会わない方が賢明だろう、と判断するルルーシュ。
ジェレミアはともかくとして、スザクならばし合いに反対している可能性だって高い――――何より、今は会いたくなかった。
マオを害する為にも武装が必要だ。
狙撃銃のような、奴のギアスの効果範囲外から攻撃出来る武器が望ましい。
そうでなくとも、護身用の刃物か何かはせめて確保しておきたかった。
どういう構造になっているかは分からないが、コンパクトなサイズのデイパックからはその見た目と裏腹に、食糧やら支給品の品物やらが続々と出てくる。どうやら四次元構造になっているらしかった。
本当に不可解なものだ――と訝しみながらも、ルルーシュはその中身を丁寧に一つずつ取り出していく。

「……銃は無し、か……まぁ、こんなものを引けただけ良かったとしておくか」

爆弾――手榴弾のようだった。ピンを抜いて放り投げれば爆発する、比較的オーソドックスなタイプの代物が三個。
正面からでは避けられてしまうかもしれないが、破壊工作などには重宝するだろう。
ガソリンのような薬物を入手出来れば、一撃必レベルの威力を持った巨大な爆弾に早変わりだ。
銃を引けず仕舞いだったことが不満と言えば不満だったが、文句は言わないことにする。


70 :
次に目をやったのは、これまたオーソドックスな形状をした携帯電話。
何の意図があってこんなものを支給するのかと嘆息しかけたが、付属していた小さなメモ用紙に記された説明を見て、その目つきが変わる。
「…………逃亡日記。未来の逃走ルートを予知する日記だと?」
普段なら一笑に付すところだが、状況が状況なのだ、まさか嘘の書かれた支給品ではあるまい。
携帯を開き、その『日記』を下にスクロールしていく。
そうやら六時間後、つまり第一回目の放送が流れる時間までの逃走ルートが表示されているらしい。
現在時点の予知を見る限り、当分は『逃亡』をしなければならない状況には陥らないようだ――――った。
ノイズ音が走り、そして――――
「……何だ……!? 何なんだ、この未来は……!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
11:27
謎の女に追われている。
相手も日記を所有しているようだ。
11:34
退路なし。ギアスの力でどうにかするしかないか……?
11:36
女の攻撃を受ける。血が足りない。
11:40
済まない、スザク、ナナリー。
ルルーシュ・ランペルージは失血死する。
DEAD END
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

71 :
「……DEADEND……俺がされる、ということか」
突如走ったノイズと共に書き換わった未来は、ルルーシュ・ランペルージが何者かに害されるという未来だった。
絶対遵守の力を以てしても尚、逃げきれずに致命傷を負わされ、後悔の中で死亡していく――ふざけるな。
自分は何があっても死ぬわけにはいかないのだ。スザクを何としても生きて帰すまで、この命を奪うことは誰にも許さない。
ルルーシュは再び眉間に手を当て、今の『書き換わり』現象について考察する。
幸い、答えはすぐに出た。
「成程……。『未来日記所有者』が何かこの未来に反する行動を取れば未来は書き換わるのか――まるでサバイバルゲームだな」
例えば今の一連の現象。
あれは他の日記所有者が未来を書き換え、それが影響してルルーシュの死に繋がった、ということ。
逃亡日記には明細な状況までは予知されていないが、少し気を配るべきだ。
そしてこの未来を知った今、急ぎ駒を手に入れなければならない状況になった。

なりふり構ってはいられない。
何も為さぬままに、守るべき者の役にも立てずに散っていくなど御免だった。
かつて世界を震撼させたテロリスト『ゼロ』の顔に戻って、生きる為に戦おう。
生きる為に戦う。
――――思えば、自分だけの為に戦おうとするのは初めてだったかもしれない。
この後の世界を背負わなければならない親友の為に。
兄を亡くした最愛の妹を遠回しにではあるが守ってやるために。
今度はそんな、自分の為でもあり他人の為でもある戦いを行わなければならないようだ。

「往くか――――ゼロとして、このし合いに君臨する為に」

不敵な、邪悪とも取れる笑顔を浮かべて、ルルーシュ・ランペルージは呟いた。
古城の頂点に君臨した皇帝は、もう一度テロリストに還る。
予知の通りならば、この後――――。
「……とりあえず、手を挙げて貰えるかしら? 悪いようにするつもりはないわ」


72 :
全くの予想通りに。
想定された未来の通りに、金髪縦ロールの少女が、ルルーシュの居る部屋の入口に立っていた。
その手にはマスケット銃を構えて、ファンシーな召し物に身を包んでいる。
――――ここからは、未来を変えようか?

「俺はルルーシュ・ランペルージだ、宜しく頼むよ、マミ」

予知に反した行動を取れば未来は変わる。
今の何気ない会話とて、最初の『未来』にて犯した一つの失敗を挽回することに繋がった。
なるだけ印象を良くするために作り笑顔まで使って、少女――巴マミを信頼させることに成功した。
元の未来では、ルルーシュが自分を『皇帝ルルーシュ』と自称したことから綻びが起き――結果、彼女と決裂する羽目になる。

「しかし、にわかには信じられない話ね……やってきた世界が違うなんて、想像もつかなかったわ」
「そうだな、俺もここまでおかしなことになっているとは思わなかった。でもそっちの世界が少し羨ましいよ、ブリタニアと日本の戦争が起きなかった世界なんて」

参加者達は、言ってしまえば『平行世界』から何らかの作為を以て呼ばれている。
もしやとは思っていたが、マミと自分の語る世界が余りにも異なりすぎていることから確信へと至った。
ブリタニア帝国が存在せず、今も平和に世界が流れている巴マミの世界。
ブリタニア帝国の支配に日本が堕ち、悪逆の皇帝の手に堕ちたルルーシュ・ランペルージの世界。
こうも認識に相違が生まれれば、認めざるを得ない。
死者蘇生に未来を予知する日記と来て、次には平行世界と、目まぐるしくルルーシュの常識が塗り替えられていく。
それを知ったとてどうこうなるものとは思えなかったが、皇帝ルルーシュの悪名が轟いていないのなら好都合だった。
マミも最初こそ信じられない様子だったが、ルルーシュの説明を聞く内に納得したようだった。

「そういえば聞きたかったんだ……何でそんな恰好をしてるんだ?」

純粋な疑問だった。
マミの如何にも子供受けしそうなファンシーな恰好は、し合いの場にはそぐわないものだ。
それにその手に握られているマスケット銃の扱いもどこか手馴れているような気さえした。
マミは少し言いにくそうに口元に手を当て、しばし言うか言うまいか迷っていたようだったが遂に口を開く。

信じて貰えないかもしれないけど、と前置きしてから、マミは語った。

「私は魔法少女よ。魔女と戦って人間を守る、魔法少女」
ルルーシュの時間が一瞬停止した。
そしてしばらく間が空き、心中で呟く――――――――遂に魔法まで出てきたか。
これは流石に信じ難い話だ。

73 :
何しろ証拠がない――――年頃の子供によくある妄想である可能性だって否定はできない。
不和を生むのも面倒だ、ここはひとまず信じたということに、保留にしておこう。
「魔法、か。そんなものまで本当にあるとは知らなかったな」
流石に苦笑の色を隠しきれない様子でルルーシュは笑いかける。
一方のマミもすぐに信じられる話でないことを承知していたし、別にその態度を咎めはしなかった。
「……一応、他にも魔法少女は四人参加しているみたい」
――マミの声色が、少し険しいものになる。
その変化に、ルルーシュが気付かない筈もなかった。
「……し合いを行うような人物が混ざっている、って訳か」
ルルーシュの小さな呟きに、マミは静かに首を振る。
眉間に皺を寄せて、何かを思い出すようにした。
"魔法少女"の話が本当かどうかは別として、その人物が危険だというのは間違いないのだろう。
だが、魔法少女の話は本当に妄想なのか?
不可解が歩き回っているようなこの会場で、今更魔法なんてもの存在してもおかしくはない。
いや、おかしいのだが――――。
致し方ない、ここは知っておかなければなるまい。

「―――――――――ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる」

ルルーシュの両目に浮かぶ紋様。
絶対遵守のギアス。
こんなところで使ってしまうのは勿体なくも感じたが、『魔法少女』などという未知なる存在の不安因子は排除しておくのが一番だ。
それが、ルルーシュの考えだった。

「俺の質問に答えろ。嘘を吐くことは許さない」

マミの瞳が紅く染まり、ルルーシュの『命令のギアス』が少女の意志に直接命じる。
巴マミという少女が如何にベテランの魔法少女であるとしても、この力からは逃れられない。
分かったわ、と頷くマミにルルーシュはもう一度、改めて質問する。
「お前がさっき語った魔法少女の話――――あれは真実か?」
「ええ、真実よ。私は見滝原の魔法少女、巴マミ」

まさかとは思ったが、とルルーシュは嘆息した。
魔法少女なんてものが実在するのだ、そんな連中がし合いに乗っていては非常に厄介なことになる。
何せナイトメアフレームも、自由に動かせる駒もないこの状況下――――いくら強大なギアスの力を保有しているからとはいえ、それだけで逃げ切れるかは怪しい。
ナイトメアまでとはいかずとも、それなりの戦闘力は持っているのだろう。

「お前の言う『危険な人物』とは誰だ? どういう人物なんだ」
「……呉キリカ、美国織莉子。呉キリカは美国織莉子を優勝させようとしてくるわ……美国織莉子の方は呉キリカ程好戦的ではないけれど、危険なことには変わりない」

そもそもマミの力がどれ程のものかも分からないのだ、だが話を聞く限りそれなりのベテランのようである彼女が危険視する存在、十分警戒に値するだろう。
『日記』に記されている『DEAD END』フラグを立てた女が『呉キリカ』『美国織莉子』のどちらかである可能性だって無きにしも非ず、だ。

74 :
故に、ここで巴マミを味方につけておくことはもはや必要事項だと云えよう。
(平行世界から来た人間にもギアスは通用する……魔法少女にも。
ならば抑えきれないレベルの敵ではないか、少なくともナイトメアクラスの個体性能を保有していることは無さそうだ)
一撃で全てを奪い去っていくような破壊力。
理不尽とさえ云える機体性能でこちらの作戦を蹂躙していくあの白兜。
それらに比べれば、異形の少女などどうということはない。
「……そうか。悪かったな、問い質す様な真似をして」
「いえ、いいのよ。私が魔法少女だってことは分かってもらえたみたいだし」
年頃の青少年なら誰もが魅力的と感じるだろう晴れやかな笑顔でマミは言う。
(――――しかし、な)
魔法少女の弱点、ソウルジェム。
もしもそれが彼女の言う通りの代物だとしたら、それはとある事実を意味することになる。
彼女はそれに気付いているのだろうか。
気付いていて、そして定めとしてそれを受け入れているならば見上げたものだ。
まさしく正義の味方と言うにふさわしいだろう。
しかし――気付いていないのなら、この少女は途轍もなき過酷な運命を、知らぬ内に背負わされている、ということになる。
彼女に契約を斡旋したという『キュゥべえ』もまた、彼女の想像しているような存在ではなく、酷く惨い契約を強いる只の『契約者』だ。
果たして巴マミ、彼女はどちらなのか。
彼女がどういった人間なのかまだ掴みきれていないルルーシュ・ランペルージは、気付いてしまった一つの事実を心の奥底に仕舞い込んだ。

「そうだ、マミ。良かったら俺と一緒に行動してくれないか?」

『良かったら』なんて言ったものの、巴マミは断らないという確信があった。
確信、と呼ぶのは語弊があるかもしれないが、この少女は少なくともこのようなゲームで人の命が無作為に奪われることを良しとしない。
よって見るからに貧弱な体型のルルーシュを見捨てていく可能性は低いと思えた。
それどころか、彼が断ったとしても強引についてくるかもしれない。
何にせよここでマミを、未知なる『魔法』の力を所持する少女を味方にしておけば、彼女の友人や知り合いの魔法少女と接触することもやり易くなる。


75 :
「勿論。私で良ければお供させてもらうわ」
「ありがとう。頼りにしてるよ、見滝原の魔法少女さん」

――――順調だ。
内ポケットの『逃亡日記』からはまたもノイズ音が響き、未来が書き換わったことを知らせている。
…………これが良い未来に変わっているとは限らないのが歯痒いところだが、味方にならなかった筈のマミを懐柔出来たことがマイナスに働くとは思えない。
「そうと決まればまずはお互いの知り合いを探すところから始めましょう。私は二人、佐倉杏子さんに千歳ゆまちゃん……この二人は信頼して大丈夫よ、魔法少女でもあるから頼りにしていいわ」
「佐倉杏子に千歳ゆま、と。俺は――」
ごそごそと名簿を取り出し、わざとらしく驚いたり悲しんだりする素振りを見せる。
しばらくして、切り出した。
「ジェレミア・ゴットバルト、黎星刻。この二人はひとまず信頼しても大丈夫だ」
「その二人だけ?」
「……いいや。この『マオ』って男は危険人物だ、信じられないかもしれないが、こいつは近くの人間の思考を読み取ることが出来る……かなり厄介な相手だ」
ここまで冷静さを保っていたルルーシュの平静が少しだけ揺らいだことに、マミもこの人物が危険な相手だと確信する。
思考を読む能力――にわかには信じ難いが、何せ並行世界。
『超能力』のような力を所有した人間がいたところでおかしくはない。
「……後は、一人。こんな『ゲーム』なんかで絶対に死んじゃいけない人間」
「信頼できるの?」
「ああ。枢木スザク――こいつは絶対にし合いに乗ったりしない」
「そう――――大切なのね」

大切だ。
ルルーシュ・ランペルージ一個人だけではなく、支配者を失った世界を導き、最愛の妹ナナリーを守る大切な存在。
何を犠牲にしてでも守れなければならない。
例えば――隣に居る、この少女をも利用し、切り捨てなければならない。
上等だった。
もう自分に迷うという権利はない、悪逆の皇帝となる遥か以前から、迷うことなどルルーシュ・ランペルージには許されなかったのだ。
枢木スザクを生還させる。そのための手段は選ばない。
ゼロレクイエムを真の意味で完遂する為には、彼の存在が必要不可欠なのだから。

「そうだな―――大切だ」

ゼロの物語の延長線。

76 :
【B-6/古城最上階/一日目/朝】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]健康
[装備]逃亡日記@未来日記
[道具]基本支給品一式、四式陶製手榴弾@現実、ランダム支給品1
[思考・行動]
基本:枢木スザクをどんな手を使ってでも生還させる。
1:マミを利用して、まずは『DEAD END』を覆す
2:ジェレミアと合流し協力を仰ぐ
3:マオは早めに害しておきたい、星刻に関してはとりあえず様子見
4:スザクには――――?
5:呉キリカ、美国織莉子には警戒。邪魔ならば処分する
[備考]
※R2最終話終了後からの参加です
※ギアスの力に制限はありませんが、『』など生命に関わる命令はできません
【巴マミ@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]健康、ソウルジェム穢れ無し
[装備]マミのマスケット銃@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品2
[思考]
基本:主催者を打倒して一人でも多くの人を連れて元の世界に帰る
1:ルルーシュと行動
2:杏子、ゆま、枢木スザク、ジェレミア・ゴットバルト、黎星刻を探す
3:美国織莉子、呉キリカ、マオには警戒
※キリカ撃破後からの参加です

支給品
【逃亡日記@未来日記】
ルルーシュ・ランペルージに支給。
自分の未来の逃走ルートが記録される能力を持つ。安全な逃走経路を知ることができる。
本ロワでは制限により予知の範囲が六時間後までとなっており、破壊されても所有者は死亡しない。
【四式陶製手榴弾@現実】
ルルーシュ・ランペルージに支給。
第二次世界大戦末期に製造された手榴弾。 弾体部分の材料に陶磁器を使用している。破片が細かく威力は小さい。
【マミのマスケット銃@魔法少女まどか☆マギカ】
巴マミの武装、支給品扱い。
無数に出現させることも可能であり、彼女のメイン武装である。

77 :
◆jZCpcbFowc氏はさるったそうです。
代理ですが投下終了宣言を。

78 :
投下乙です。
運命ロワの4話を投下します

79 :
名護啓介はデイパックの中に入っていた名簿を見ていた。
自分の仲間とも言える紅渡とその父親の紅音也が参加しているのはわかっていた。会場まで共に行動してきたのだから当然だ。
登太牙……彼はファンガイアの王。つまりはチェックメイトフォーのキングだ。紅渡によって改心はしたようだが、完全に信用出来る相手だとは少々言いづらい。
だが、肝心なのはそんなことではなく「ファンガイアの王が参加している」ということ。もしもあの主催者らしき男がファンガイアならば自分の種族の王など参加させたりしないだろう。
それに登太牙はキングだと言うだけあってなかなかに強い。どれほど参加させようとしても始末されるのが関の山だろう。
こうして主催者らしき男がファンガイアだという可能性は極めて低くなった。
完全に、と断言することは出来ないが、可能性としてはかなり低いだろう。それこそ、あの男のバックボーンに恐ろしい程の力を持つ何者かが存在しているというのなら別なのだが。
次に名護が考えたのは、このし合いに乗るか否か。
幸い、イクサは没収されていない。し合いに乗ればイクサに変身し、その力を頼りに最後まで勝ち残ることが出来る可能性もある。
名護はイクサの強さを信用しているのだから、名護の頭の中ではイクサを使ってし合いをすればかなりの可能性で生き残ると考えるだろう。
だが、それは間違っていると名護はわかっている。イクサはファンガイアを倒すために、人類を守るために素晴らしき青空の会によって開発されたものだ。
それを人しの道具に使うなど言語道断。
「し合い……そんなものを俺にしろというのか」
それにし合いをするとなれば紅渡をさなければならない必要が出てくるのだ。
師匠として、弟子である彼をすことが出来るのか?
昔の名護だったら弟子の一人や二人簡単に見捨て、し合いに乗っていたかもしれない。ファンガイア以外を倒すのはあまり良い事にも思えないが、自分が生き残るためならば仕方無い。
が、今の名護は昔の名護とは違う。名護は紅音也とのをキッカケに遊び心を覚えて以降の彼は、半分ファンガイアの血が混じっている紅渡を救おうとしたことがある程に成長しているのだ。
「イクサはし合いの道具などではない。イクサは、人々の平和を守るために神が俺に授けた力だ」
健吾の死には心が痛んだ。イクサを勝手に奪ったり師である自分を蔑んだりと酷い奴ではあったが、それでも死んで欲しいと思ったことはない。
健吾は健吾なりに良い部分があるのだ。紅渡が改心したのだって、健吾が関係している。
それに今回は健吾がいなければ間違いなく紅渡が死んでいた。彼の死は、戦士として誇り高いものだった。
弟子の死を蔑ろにして自分だけが生き残ろうとする師匠が何処に居るというのだ。弟子が命を張って誰かを守ろうとしたのなら、師匠も命を張るのは当然だ。
「この一連の出来事がファンガイアの仕業であろうと、そうでなかろうと、最早そんなことはどうだっていい。
ファンガイアだろうが人間だろうが、罪は罪だ。罪は裁かなければならない」
名護がこのし合いですることは既に決まっていた。
だから宣言しよう。この確固たる信念を、言葉に現してその決意を揺るがないものにしよう。
そう、いつものように。ファンガイアに言っていたあの台詞で。
「主催者――その命、神に返しなさい!」
名護啓介の命がある限り、悪は必ず滅する。
何故なら彼は平和を守る青空の戦士だから。どれほど強大な敵であろうと、正義の心がある限り立ち向かう。
それが名護啓介という男だ。
【一日目/夜/D-3】
【名護啓介@仮面ライダーキバ】
[状態]健康
[装備]イクサナックル&イクサベルト@仮面ライダーキバ
[道具]支給品一式、不明支給品×0〜2
[思考・状況]
1:主催者――その命、神に返しなさい
2:紅渡にはなるべく早く合流しておきたい
※本編終了後からの参戦です

80 :
投下終了です

81 :
直近のSSに感想をば。
>その幻想を燃やし尽くす!!
上条さんもさんざ説教キャラのイメージがあるけど修造はそれ以上だww
この場を呑んじゃう感じがすごく修造っぽくていいな
>Future Diary 反逆のルルーシュ
ルルーシュに逃亡日記、さらにマミさんが仲間に……なんて豪華な組み合わせだ!
こういう夢の競演はパロロワのいいところですよね。wktk
>英雄・絶対正義
753かっこいいです! くっ、ライダーあんまり見てないから深いコメントが出来ないのがつらい。
信念をもった正義の味方ってやっぱり憧れます。
皆様投下乙ですー。こちらも四字熟語ロワ26話投下します。

82 :

 目を開けると世界は横向きで。
 薄曇りの空よりずっと暗くて。
 すぐ隣には、センくんの血まみれの顔があった。 
「セン……くん?」
「……」
 問いかけた。返事はない。
 でも頭から顔に流れ落ちている赤い液体がセンくんの口に入ると、
 音を立ててセンくんがそれを吐き出すのが見えた。
 あたしたちはそう、攻撃されたんだ。
 浅葱色の着物のおじさんが本気を出して、車を幻想の腕で動かしてあたしたちに投げつけてきた。
 それで、避けられなくて、車の下敷きになったのだ。
「え?」
 だけどそこまで思い出して、あたしはひとつおかしいことに気付いた。
 あたしが何も痛くない。
 センくんは車と地面に挟まれてだらだらと血を流しているのに、
 そのとなりで倒れているあたしの体は車の重みを全く感じていない。
 どうして? 目をぱちくりさせて体を動かしてみると、視界の端に見えたものがあった。
 あたしがさっきまで振り回していた、角材が。
 つっかえ棒のようにして、車と地面の間にはさみこまれている。
 そしてその角材の下のほうにセンくんの腕が伸びている。
 つまり。
 センくんがとっさの機転で角材をつっかえ棒にしたことで、
 あたしは車の下敷きにならずに済んだ、ということだ。
 ……どうして?
 見つけてすぐあたしが思ったのは、見つける前と同じ四文字。
 でも意味は全然違う。最初は、”どうしてこんなことになってるの?”
 いまのは、”どうしてこんなことまで、してくれるの?”
「ぐ……ああ、青息吐息さん、無事でしたか」
「センくん!」
「無事ですね。足は挟まってないですか? 車の下から抜け出れたら抜けてください。
 ボクは後で行くので、青息吐息さんは一旦引いて。見立てではこのエリアから出さえすれば《幻想》は」
「ねえ。なんであたしを助けたの!?」
「はい?」
「だって、そっち側に角材を挟めばセンくんは傷を負わなかった!」
「……ええ」
 意識を取り戻したセンくんにあたしは思いをぶつける。
 あのときははぐらされたけれど、最初からずっと思っていたことだ。
 目を見開き、ひとつだけ頷くとセンくんは黙り込んだ。その額にまた一筋赤い線がかかっていく。
 早く助けないと死んでしまうかもしれない。
 あたしは角材に引っかからないように、いもむしみたいに這って車の下から出て、
 言われた言葉なんて無視して車の下部の縁に手をかけた。
「青息吐息さん?」
「センくん、……センくんは、おかしいよ」

83 :

「青息吐息さん」
「言葉の上では自分のことしか考えてないように見えるけど、実際自分でもそう思ってるのかもしれないけど、
 やってることだけ見たら、あなたは私を最初からずっと助けてるんだよ。本当にずっとだ。
 凍って動けなくなってたあたしを禁止エリアから出した。鏡花水月さんに襲われてたあたしをサポートした。
 いまだって、助けた。センくん、本当は……センくんは、誰も」
「青息吐息さん。それ以上はダメだ」
「……いいえ。言うわ」
 思ったよりは車は軽かった。
 ぐぐぐぐ、と力を込めると、あたしの乙女チックとは自分では言えない程度の細腕でもどうにか少し持ち上がる。
 改めて見えてきたセンくんの顔はどうにも申し訳なさそうな表情。そんな顔をするな、と思う。
 そんな顔をされたら。捨て置いて逃げることなんて出来るわけがない。
 
「センくん、あなたは。本当は誰もす気なんてないんじゃないの。
 ”乗っている”なんて言葉だけ。心の中じゃ、あたしと同じで、怖がっているんでしょ。
 でもそれを認めたら優勝できない。誰もさずに生き残るなんて絶対無理だって、
 あなたの頭が計算してしまってるから……だから自分を偽ってるんだ」
「ち、違いますね。あなたを助けているのは、あくまで、戦況を見ての判断です。
 ボクはいざとなればあなただってす。そういう男ですよ」
「それこそ嘘でしょ! 戦闘であたしが役に立ってた? そんなことはないわ。
 自分が足手まといになってるかどうかくらい分かる。ホントに戦況を判断してるなら、
 あたしをしてセンくんが生き残ったほうがいいに決まってる! なのにセンくんはあたしを助けた!
 助けてくれた。だから、今はあたしがセンくんを助けるの! なのに助けなくていい、逃げろだなんて!
 そんなことばっかり言うから、あたしは困るのよ。あたしに、ため息をつかせないでよっ!」
 がしゃん!
 と大きな音をたてて、車を一台あたしはひっくり返した。
 完全に自由になったセンくんの手を掴んで、引っ張って立ち上がらせる。
「ため息を……つかせないでよ」
「……青息吐息さん。ですが、……」
 あたしはもう片方の手で、センくんの顔の血をぬぐった。
 メガネを外していたのが功を相したのか顔にはダメージがない。
 センくんはばちばちと二回瞬きをして、あたしの目を見つめる。だけどきっと、あたしは見ていない。
 いまどうすればいいのか、自分の頭の中に閉じこもって計算ばかりしているのだ。
 現実と理想がイコールじゃないことに気付いていないのだ。
 あたしが言えた義理ではない? もちろんそうだ。
 だけどたぶん、あの浅葱色のおじさん風に言うならば、ここでこう言うのがあたしの”役割”だ。
 選択肢を、気付かせてあげることを。
「あたしを使っていいわ」
「な……?」
 あたしは、センくんに提案した。
「正直言って、あたしは全然使えないかもしれないけど。さっきの拡声器みたいに、どんどんあたしを使って。
 盾にしたりしてもいい。無茶な指示をしてもいい。あたしは全部受ける。””とでも言われない限り。
 だから、必ずあたしをここから生き延びさせて。最終的にはあたしとセンくん以外、全員して。
 その痛みもあたしのせいにしていいわ。最後にあたしをすかどうかは、二人になったら決めればいい」
「使う……いや、そんな。ボクは」
「センくんがどう思ってようが関係ないわ。別にセンくんが悪い人だったとしても、さっきの戦いまでで感じたの。
 あなたについていけば生き延びれるって、あたしが勝手に思ったの。だから、ね?」

84 :

 センくんの両肩を両手でつかんで、無理やり揺さぶる。
 焦点がぶれて、頭もぐらぐらと揺れて、センくんがぐらぐら揺れて、そしてあたしはさらに言った。
「一緒に戦おう」
「……!」
「一緒に、生き延びよう?」
 揺さぶりを止めて――ようやく、センくんの目が、あたしの目を見てくれたような気がした。
 霧がかかった世界の中で、あたしとセンくんは見つめ合った。
 お互いに体力なんてもう欠片もない。
 一回目の放送まではぜんぜん、まったくし合いに参加してなかったのに、
 いまのこの仕打ちはまるで遅刻者に対する罰みたいだった。いいや、きっとそうなのだと思う。
 ほかの皆が必死に戦っている中、あたし達はそれから逃げ続けていたのだから、神様だって怒るだろう。
 でももはや、それを後悔するとか、恥じるとか、そういう領域にあたし達はいない。
 傷だらけでも泥まみれでも、みっともなくったって、第三者から見て悪者になったって。
 例え誰かをすことになったとしても、生き残ることが大事なのだ。
 感傷や反省は……後ですればいい。
 いま、あたしたちは戦わなければならない。
「そろそろ良いか、ご両人」
 霧が動いた。
 全体にぼんやりと漂っていた霧が、ざあっと渦を巻くようにあたしとセンくんの周りを取り囲んだ。
 霧はぐるぐると回りながらだんだんと層を厚くしていき、まるで台風の目の中にいるみたいになった。
 一部の霧がさらに形を変え、大きな口を空けた。その口は雄弁に動いて、
「次が最期の戦乱、幕引きとなるだろう。用意をしておけ」
 それだけ告げると消える。
 あたしは視界の片隅にそれを捕らえていたけど、もう驚きはしなかった。
 そんな場合じゃないのだ。センくんとただ、見つめ合った。
 疲れと緊張と焦り、いろんな感情が混ざり合って、あたしもセンくんも荒い息をしている。
 吸って、吐いて。
 吸って、吐いた。
 まるでため息を繰り返すかのように。
 《ため息》を、繰り返すかのように。
「……ダメかもしれませんが」
 センくんが、そんなあたしを見て言った。
 そしてポケットから銀縁メガネを再度取り出して、
 あたしに差し出しながら、精いっぱいにカッコつけて言った。
「策がまだあります。試してみる価値はあるかもしれない」
「ダメだったら次の作戦を考えればいいわ」
 あたしは《ため息》を一つついて、センくんが差し出した銀縁メガネに吹きかけた。
 銀縁メガネのレンズは曇って、固まって。
 そのままもとに戻らない。フレームもだ。ばき、と音がした。
 そう、あたしの《ため息》はすごく冷たい。
「次の作戦。仕切り直し。やり直し……ええ。そうですね」
 センくんは何かに納得したようにあたしの言葉を聞くと、頭から流れてくる血を今度は自分でぬぐった。
 同時に渦を巻いていた霧が晴れて、視界がざあっと一気に開ける。

85 :

 そして広がる風景は伐。
 鏡花水月は、再び木拍子を持って真っ直ぐ立ってる。じっと佇む姿は、柳の木の下のおばけのよう。
 地面からは無数の機械の腕が《幻想》みたいに生えて、駐車場中の車を持ち上げている。
 まるで機械の森みたいに無数だ。いくつか《幻想》も交じっているかもしれないけど、
 きっともうすぐ、あの浅葱色の着物のおじさんは、最期のつもりで賽を投げる。
 だけど、最期になんてさせない。
 あたしはセンくんから耳打ちを受ける。
「……です」「分かった」
「では行くぞ、哀れなる男女よ」
 言われた作戦は、あたしでは思いつきもしなかったものだった。 
 センくんが支給された銃を構えると同時に、そばの地面に落ちていた拡声器を拾う。
 もう一度構えると、覚悟は決まった。
 
「「「さあ――最期の(最後の)”戦乱”を!」」」
 偶然にも、その場にいたあたし達三人は、音だけは同じ言葉を呟いた。
 木拍子が鳴る。 
 あたしは大きく息を吸い込む。
 センくんは、駆け出した。
 そして。
 ……戦乱は、終わった。
◆◆◆◆
 
 遠くから聞こえた銃声と、少し経ってからまた聞こえた拡声器の音。
 一刀両断さんが帰ってこないという異常事態を前に、僕とタクマさんはこの二つを無視できなかった。
 C-2のバーガー屋には置き手紙を残し、タクマさんの耳を信じて目指したのは西のほう、
 地図上では2マス隣のA-2エリアだ。歩いてみると意外と遠くはなかったけど、
 目をやられてしまってるボクはやはり歩きづらく、若干遅れてしまう。
 ので、見かねたタクマさんにおんぶしてもらうことになった。
 実際こうすることで僕のルール能力の恩恵をタクマさんも得ることができるから、一石二鳥ではある。
 もちろん少し恥ずかしくはあったけど。あと、
「傍若無人にさえ出会わなきゃ、もう少し老師をおんぶできたんだけどな」
 と言うタクマさんに少し悲しい顔をさせてしまったのが、
 少しばかり辛かったけれど。
 現在、僕たちはB-2とA-2の境界線あたりの車の陰に潜んで、隣のエリアを伺っているところだ。
 エリアの境目には駐車場の地区を表示するポールが立っているため、勇み足をしてしまうことはない。
 それに、近くまで来て分かったことだが、A-2には明らかに異常な雰囲気が漂っているらしい。
 薄く霧がかかっているみたいに全体がぼんやりしていて、普通に入るのはどこか躊躇われる、そんな感じで。
 今にもなにかが起こりそうな危うさを確かにはらんでいるとタクマさんが教えてくれた。
「聞こえたのはここからで間違いないんですか? タクマさん」
「ああ。位置的に一刀両断がいるとは思えないが、何かが起こってるのは間違いなさそうだな」
「ですね……少なくとも人はいるでしょう。とりあえず見つからないように……」
 そして、しばらく様子見、と車の陰にしゃがみこもうとしたとき、それは起こった。
「あれ? なんだか寒くないですか?」
「え、俺なんかギャグ言ったか?」
「違います! 体感温度がその、下がっているというか」
「確かに……って凍ってる!?」
「え!?」

86 :

 僕からは見えないが、凍っているのだとタクマさんは言った。
 A-2エリアのあたりにある車が、どうしてか知らないが端から順に、
 マンガみたいな透明な層に包まれて凍っていくのが見えるのだとか。
 それだけじゃない。「ふぅうう」という大きな呼吸音が聞こえてくるとともに、
 圧倒的な勢いで僕らがいる方まで空気が冷えて、冬みたいな寒さが訪れたのだ。
「うおお、寒い! なんだ、どうなってるんだ? 上着を着るべきなのか?」
「タクマさん、そういえば上半身裸でしたね……や、僕も寒いですが」
 誰かのルール能力だろうか。
 僕とタクマさんの目の前で、A-2エリアはどんどん極寒の凍土と化していっているらしい。
 その間も、誰かが息を吐くような「ふぅうう」あるいは「はぁああ」という声は微かに聞こえる。
 視界がない僕は異常を肌でしか感じられないが、ここは思考に徹してみる。
 大きな吐息の音。凍っていく世界。
 この二つを結び付ければ、こんな暴論が推測できる。
 向こうのエリアにいる誰かは、《吐息で震わせた空気を凍らせることが出来て》。
 拡声器めいた何かで、吐息の音を増幅しているのではないか。
「いやまさかそんな」
「お、おい、紆余。誰か歩いてくるぞ! 銀髪の男、金髪の女。……気づかれた!」
「え」
「――あ。センくん。やっぱり寄せ付けられてたみたいよ」
「そうですね、青息吐息さん。やれやれ、連戦になってしまいますね……」
 なんてふざけた考え事をしていたら、向こうから歩いてくる影が二つ、僕とタクマさんを捉えた。
 銀髪の男に、金髪の女の人のペア。
 出方を伺う僕とタクマさんを前に雑談に興じているようだ。 
「結局、まんまとあたしたち、あの男に嵌められたってわけね」
「ですがもはや、ボクとあなたのルール能力の前に敵などありません。あの男を屠ったボクらに倒せない敵など」
「ええ、存在しないわ。だから今度も、なんとかなるの」
「ああそうだ、存在しない。だから今度も、し合いに”勝つ”」
「タクマさん。相手の武器は」
「男は銃。女のほうは凍ったメガホンみたいなのを持ってる」
「……まさかの予感的中の予感がします」
 タクマさんから聞いた彼らの武器を見る限り、どうもさっきの推測は当たってるようだ。
 それだけじゃなく、分かってはいたけれど、僕にとっては最悪の武器が来た。
 銃。
 これはまずい。
「ねぇ、そこの二人。あたし達は疲れてるから、さっさと死んでくれる?」
「一撃で死ぬか、じわじわと死ぬか。どちらか片方ならあなたたちにも勝機はありますね。
 ただし数パーセントですが」
 綺麗な高い声、続いて厭味ったらしいトーンの声が切り裂くようにして僕らに放たれる。
 僕はその表情まではうかがい知ることが出来ないが、すごい悪い顔をしていそうな奴らだ。
「タクマさん」
「分かってる。見つかった以上戦うぞ。一刀両断に言われたとおり、お前もちゃんと守りながら」
「え……いやあの一旦逃げようって言おうかと……僕をおぶりながら戦えるんですか?」
「ん? 余裕だぞ? 大丈夫だ、老師も言っていた。
 誰かを守ることを意識しながら戦うことで、油断や見落としはむしろ減るんだ」
「あのー。もしかして」
「ん?」
「タクマさん、うずうずとかしてませんか」
「あ、ばれたか」

87 :

 はははは、と肩を上下させてタクマさんは笑った。
 そうやら僕はこの瞬間までタクマさんのことを少し誤解していたらしい。
 この人、基本良い人だけど、無理のない範囲で基本的に戦闘狂なのだ。
「よし、じゃああんたらもやる気みたいだしやろう! 俺は切磋琢磨! こいつは紆余曲折だ」
「どうも……正直乗り気じゃないんですが」
「名乗り向上とはあの男のようだ。ボクは先手必勝」
「あたしは青息吐息よ。そしてこれは試合でも遊びでもない、し合い」
 一刀両断さんのことが気になる状況なのに、
 僕を除く三人の間で怖いくらいとんとん拍子に話が進んでいく。
 こうなると非戦闘員の僕に口を出せることはほとんど無くなる。タクマさんの本領発揮だ。
 だから僕は、せめてタクマさんの装備品としての効力だけを果たそう。
 紆余曲折として、攻撃を曲げ続ける。
 さあ。……どうなるかな?
「行くぞ!」
 こうしてB-2では、僕とタクマさん、先手必勝と青息吐息のタッグバトルが始まった。
 その奥、問題のA-2エリアにて。
 全参加者中最高のチート能力を誇った四字熟語の死体が斃れていると僕が知るのは、
 もう少しあとの話だ。
【B-2/駐車場B地区】
【紆余曲折/男子高校生】
【状態】顔面崩壊、背中に傷(共に処置済み)
【装備】なし
【持ち物】なし
【ルール能力】攻撃を4秒間迂回させることができる
【スタンス】生き残る
【切磋琢磨/見習いボクサー】
【状態】上半身裸、打撲などいろいろ
【装備】ボクシンググローブ
【持ち物】ピアス、釣り糸、上のシャツ
【ルール能力】誰かと戦うごとに強くなる
【スタンス】戦いたい(傍若無人を倒す) 
【青息吐息/ギャルっぽい女】
【状態】疲労大、覚悟完了
【装備】凍りついた拡声器
【持ち物】なし
【ルール能力】ため息がすごい冷たい
【スタンス】マーダー
【先手必勝/銀縁メガネ】
【状態】頭に怪我、覚悟完了
【装備】拳銃
【持ち物】缶ビール数本など役に立ちそうなもの
【ルール能力】先手を取れば勝利する
【スタンス】マーダー

88 :

 
「なあ、《私》よ」
「……なんてな。もはや《幻想》も出せぬほど消耗したか。全く、天晴なものよ」
 駐車場の片隅、車も地面も空気さえ、
 何もかもが凍った世界の片隅で、鏡花水月は倒れていた。
 その足は凍りついており、その心臓付近の動脈部分には銃創が空いていた。
 血がどくどくと流れて、彼が支配していた舞台を赤く穢していた。
 こんなつもりまでは、無かった。
 勝つつもりなど全くなかったが負けるつもりもなかった。
 駐車場の車がハリボテであり、投げつけても大したダメージにならないことは知っていた。
 四字熟語の語感から、先手必勝の能力が相手より先に攻撃を食らわせることで発動するものだとアタリもつけていた。
 ゆえに最初のフェーズを突破された彼は、対峙していた二人に車を投げるという行動を取り。
 少なくとも先手必勝にダメージを負わせることで敗北を免れようとしたのだが。
「まさか、あの男。ルールの裏をかくとはな……」
 そう。
 鏡花水月を葬ったのは先手必勝だった。
 彼は青息吐息の《ため息》と、ルールの裏をかく行為を最大限に利用して、
 あぶりだした本物の鏡花水月に《必勝の》銃の一撃を浴びせたのだ。
「彼奴は確かに。与えられた”役割”に。ルールに縛られていた私を超えた。
 そして隣の女もまた、それを気づかせ、諭した。ふふ、いいものを魅せてもらった。いい、舞台だった……」
 ごふっ、と、血を吐く音がした。
 続いて彼が持っていた”本物の”木拍子が彼の懐から零れ落ち、カン、と小さな音をたてて跳ねた。
 カンカンカン。数度跳ねた四角い木の棒は、徐々に小さくなる音を発する。
 そして仕舞いには聞こえなくなる。
 鏡花水月の吐息も、ほとんど同時に。
 聞こえなくなる。
 舞台は、終わる。
 幕引きは、あまりにも静かだった。
【鏡花水月:死亡――残り八名】

89 :
投下終了です。ようやく生存率が50%になった! 長かった……!

90 :
皆様投下乙です。
鏡花水月ったかあ…。結構好きなキャラだったなあ、南無三
では自分も俺ニコロワ投下します。

91 :
俺ニコロワ14話:――――――世界は鬱で出来ている
「こ、し合えって……何よそれ……」
 美樹さやかは、分かりやすく動揺を表しながら、暗闇の中に立っていた。
 唐突に始まったし合い。
 死にたくなければ、願いを叶えたければ、しあえと告げられ、この場に連れられた。
 訳が分からない。どうしてこんな事になっているのか。
「ど、どうしよう……どうすれば……」
 パニック状態になりかけながら、美樹さやかは思考する。
 これからどう行動していけば良いのか。
 どうにかしなくては……、胸中に湧き上がる焦燥に押されるように走り出す。
 と、そこで思い出した。
「あれ? でも、そういえば私って……」
 そう、自分が負ける筈がないという事を、美樹さやかは思い出す。
 このし合いに連れて来られる少し前の出来事。
 クズな親友が魔法少女になろうとした瞬間、その願いを奪い取った。
 親友の声色を蝶ネクタイ型変声機で真似して、願いを告げた。
 『さやかちゃんが全ての宇宙の中で一番にかっこよくて素敵な最高の凄い魔法少女になれる』ように、と。
 願いは受け入れられ、自分は強くなった。
 魔法少女として最高の才能を持つとされていたクズな親友を打ち破れる程に、強くなった。
 そうだ。
 自分に勝てる存在なんている訳がない。
 どんな敵であろうと自分に掛ればお茶の子さいさいの筈だ。
「そうだよ、私に敵う奴なんていないんだ……まどかだって私にかかれば……!」
 負けない。
 『全ての宇宙の中で一番にかっこよくて素敵な最高の凄い魔法少女』になった自分が、負けるはずがない。 
「ふん。なら、もう何も恐れるに足らず!! 待っててね、さやかちゃんがちょちょいと皆さんのことを助けちゃいますから!!」
 自身の強さを確かめた事で、さやかは平常心を取り戻した。
 何時も通りの軽口を飛ばしながら、魔法少女に変身して走り出す。
 空気を切り裂いて進む姿は、圧倒的なものであった。
 彼女が通った後には豪風が吹きすさぶ。
 木々が揺れ、葉が飛ばされる。
 凸凹な地面の状態など気に止める必要すらない。
 人影が青色の流線となり森林を走っていく。
 ほんの十数秒で一キロを走り抜いた彼女は、そこで他の参加者を発見した。

92 :
 遥か彼方の住宅街、家と家の間から見えた姿を見て取り、その場に立ち止まる。
 焼け焦げた匂いを残しながら、さやかは見た。
 パッと見はそこらへんに居そうな男性。
 取り敢えず合流でもして安全な場所に連れてってあげますか、と軽く考えたところで、青色の魔法少女は再び動きを止めた。
 またもや、思い出したのだ。
 し合いに連れて来れる前の出来事を。
 その苦い記憶を、思い出してしまった。
『男子の皆さんは、くれぐれもさやかちゃんとは交際しないように!』
 クズな親友との戦いに勝利した直後の事、親友はわざと弱った振りをして被害者面をした。
 いつのまにか集まっていた皆の前で、恥も臆面もなく、泣き真似をしたのだ。
 そのせいで、皆は自分が親友の事を虐めていると勘違いをし、そこにいた担任の先生がこう言った。
『あい』
『ああ』
『うん、分かった』
 そこにいた男性陣は、揃って頷き始めた。
 まだ幼稚園にもいっていない子どもから、良識ある大人、果てには謎の宇宙生命体さえも。
『うん』
 そして、幼馴染の少年も、そう言った。
 幼馴染の少年は、もう自分の事など目にも止めなかった。
 危機を救ってくれた少女に首ったけとなり、しきりに話しかけていた。
 もう見てくれない。
 誰も、私のことを信じてはくれない。
 全ては、クズな親友……いや、もう親友ですらない……ただのクズ女に奪い取られてしまった。
 幼馴染の少年は、心の底から好きだった少年は、もう二度と振り向いてはくれなかった。
 もし。
 もし、だ。
 このし合いで優勝してしまえば、願いを叶えてしまえば、元通りになるのではないか。
 友達も笑いかけてくれる、想い人とも笑いあえる、そんな日々が戻ってくるのではないか。
 また、彼と笑って過ごせる日々が、そんな楽しい日々が戻ってくるのではないか。
 
 そう、優勝さえしてしまえば―――、
「……ダメだよ」
 さやかは、振り切るように頭を振った。
 己の内に湧き上がった邪な感情を振り切るように。
 自分が魔法少女になった理由は、彼の手を治すためだ。
 自分の為に魔法少女になった訳ではない。
 魔女やその使い魔に苦しめられる人々を救う為に、魔法少女となったんだ。
 自分勝手な理由でこの強大な力を振るってしまえば、それはアイツと同じだ。
 どこまでもクズな女―――鹿目まどかと同じになってしまう。
 それだけは、嫌だ。
 自分はアイツのような魔法少女にはならない。
 それが、今の自分に残されたたった一つの道しるべ。
 彼に捨てられようと、周りの皆から見捨てられようと、アイツと一緒になることだけは嫌だった。


93 :
「そうだよ。私は絶対にアイツのようにはならない。絶対に―――!」
 迷いを振り切り、さやかは行動を再開する。
 ずっと遠くにいる男の元へと瞬く間に到着し、男へと笑みを向ける。
 男は少し驚いた様子で、突然現れたさやかのことを見詰めていた。
 勇気づけるように、自信に満ちた笑顔を浮かべて、口を開くさやか。
 大丈夫ですか? 安心してください。
 そんな事を言おうとしたが、それよりも先に、
「―――諦めろよ!!」
 男が、叫んだ。
 とてつもなく大きな声で、さやかを睨み付けて。
「どうしてそこで頑張るんだ、そこで! 嫌な事、悲しい事、辛い事、誰も分かっちゃくれないんだよ!! 
 世の中思い通りにならないことばかりだ! あーはぁん、何の意味もないよねー。頑張ってもさあ、崖っぷち!!」

 男が何故こんな事を言い始めたのか、さやかには分からない。
 ただ困惑でもって、男の言葉を聞いていた。
 だが……何でなのだろう。
 寒い。
 冬国に連れてこられたかのように、周囲の空気が冷たくなってきている。
 それも体だけでなく、心までも。
 全てが冷えていくのを感じていた。
「な、何を……わ、私は別に……」
「分かるよ! 頑張ろうとしているんだろ、努力しようとしているんだろ! 馬鹿野郎!! 諦めろ!! 絶対にできない!!」
「な、なんでアンタにそんなこと言われなくちゃなんないのよ! 私はこのし合いを叩き潰す! 絶対にし合いなんてさせるもんか!」
 さやかも、侵襲してくる寒気に抗うように声を荒げた。
 決意を口にだし、己を奮い立たせる。
「そんなの出来る訳ないだろ!! だめだめだめだめ、出来る訳ない!! 世間はさ、厳しいんだよ!! そんな甘い考えが通じるようなもんじゃないんだよ!!」
「そ、そんな事……!」
 言葉は止まらない。
 さやかの抵抗を嘲るように、声は勢いを増していく。


94 :
「無理無理無理!! できないできない!! もう諦めろよ!! 絶対にできない!! 分かってくれる人はいる? そんな訳ねえじゃん!!」
「う、うるさい! 私は絶対にやり遂げるんだ! あ、あんたが何て言おうと絶対―――」
「んな訳ねえだろ!! 諦めろよ、諦めてみろって!! お前だって心の中では分かってんだろ!! 誰も分かっちゃくれないって!! 努力したって誰も理解してくれないって!!!」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!! 何も知らないお前が、これ以上喋るな!!!」
「嫉妬、悪口、そんなんばかりだ!!! どんなに頑張ってもさあ、誰も分かってくれねえんだ!!! だから―――」
「だ、黙れ……!」
 寒い。寒い。寒い。
 まるで極寒の地にいるかのように、全てが凍えて思えた。
 頑張ろうと決意した全てが、虚仮にされ、消えていく。
 
「―――だから、諦めていけ!! Give up!!」
 最後の一言は、あまりに力強いものだった。
 心に衝撃が走る。何もかもが崩れ落ちていく。
 嫌だ。私は皆を守るんだ。皆の為に戦うんだ。
 諦めてなんかたまるか。
 だから、だから―――、
「っ、黙れよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 ―――グシャリ。

「え……」

 そして、惨劇が広がった。
 さやかからすれば、軽く押しただけであった。
 ネガティブな言葉ばかりを吐く男を止めたくて、その胸を押しただけだ。
 だが、考えてみて欲しい。
 今現在の美樹さやかは魔法少女である。
 それも、生半可な魔法少女ではなく、『全ての宇宙の中で一番にかっこよくて素敵な最高の凄い魔法少女』だ。
 最強の魔法少女である鹿目まどかをも打ち倒す、究極の魔法少女。
 その身体能力は如何ばかりか……推し量ることすら難しい。
 少なくとも、軽く押すという動作だけでも、常人からすれば脅威である事は確かのようだ。
 そう、美樹さやかの、胸を軽く押すという動作で男は死亡した。
 大型トラックに衝突されたかのような衝撃に、男の身体は後ろへ吹っ飛んで、民家の一件をぶち壊す。
 男の胸部にはさやかの手形が刻まれていて、その奥にある内臓器官全てがぐちゃぐちゃに潰れていた。
 上半身は原型を留めない程にメチャクチャになっている。
 即死であった。
 男―――鬱岡修造は、惨状のど真ん中で死亡した。
「う、うそ……わ、私……」
 数秒までの言い合いが嘘のように、周囲は静寂に包まれていた。
 さやかは己がしでかした事を受け入れられずに立ち尽くす。
 呆然と眼前の惨劇を見詰めて、左右に首を振った。

95 :
「ち、違う……私は―――」
 遂には背を向け、走り去ろうとしてしまう。
 そこで、見た。
 警戒心に満ちた瞳でコチラを見詰める少女の姿を。
「ち、違うのよ! これはコイツが!」
「……見てたわ、全部」
「な、なら、分かるよね! 私は悪くない、全部誤解なんだって!」
「何を口論していたかは分からないけどね……無抵抗の人間をこんな風に害しといて誤解っていうのは、ちょっと虫が良すぎると思わない? いくら状況が状況とはいえね」
「違う……」
「……あなたを、拘束します」
「違うの……」
 少女は、軽蔑に満ちた瞳でさやかを見詰めていた。
 少女は、本当に見ていただけなのだ。
 さやかと鬱岡との口論は、聞こえていなかった。
 口論をしている、というのは分かっても、その詳しい内容までは聞こえなかった。
 だから、敵意と警戒心を剥き出しにする。
「この異常な状況です。これ以上罪を犯さなければ、情状酌量の余地はあります。だから、抵抗はしないで……お願い」
 ティアナ・ランスター。
 時空管理局の若き魔導師は、己の正義心を信じて行動をする。 
「違う……違うぅぅ」
 さやかは涙をポロポロと零しながら、己の正当性を叫んでいた。
 だが、声は届かない。
 鬱岡を害してしまった事は紛れもない事実であり、覆しようがない。
 さやかが何と言おうと、ティアナに引くつもりはなかった。
 だからこそか、その瞳が怖かった。
 警戒心に満ちた瞳が、不信しかないその瞳が、怖い。
 何で信じて貰えないのだ。
 私は、私は、私は―――、
「違うぅぅぅぅぅぅぅぅうううう!!」
 思わず、手を払いのける。
 拘束しようと掴んできたティアナの手を、思い切り。
 何度も言うが、今のさやかは『全ての宇宙の中で一番にかっこよくて素敵な最高の凄い魔法少女』だ。
 その身体能力で払いのけられた腕は、容易く曲がってはならない方向に曲がってしまう。
 しかも今回は鬱岡の時のように軽く押した訳ではない。
 殆ど反射的な動作であり、そのため手加減をする余裕がなかった。
 ティアナの腕は、折れ曲がってなおも勢いを止めない。
 折れた腕が捻じれていき、遂には―――捻じ切れる。
 ブヅリと、嫌な音をたてて、ティアナの腕が千切れ落ちた。
「あ、あああああがあああああああああああああああああああああああああ!!!」
「う、うああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
 絶叫が重なる。
 片や痛みからくる絶叫と、片や己のしでかした事に対する恐怖からくる絶叫。
 絶叫を迸らせながら、魔導師は気絶し、魔法少女は場から逃亡した。
 自分のしてしまった事に恐怖し、とめどなく涙を零しながら、美樹さやかは逃げ出した。

96 :
【一日目/深夜/D-3・住宅街】
【美樹さやか@クズなまどかシリーズ】
[状態]全ての宇宙の中で一番にかっこよくて素敵な最高の凄い魔法少女
[装備]ソウルジェム@クズなまどかシリーズ
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考]
基本:し合いを阻止する
0:うそだうそだうそだうそだ……

 そして、場に残るは惨状。
 家に突っ込み、上半身を潰した男の死体と、右腕をなくし、切断面から大量の血液を零し続ける少女。
 そんな惨状を、遠くから眺めている者がいた。
 その人物は、全てを全て見ていた。
 鬱岡とさやかとの口論から始まり、ティアナが腕を失い気絶するまでの全てを、見て聞いていた。
 その人物からすれば、異常なのは鬱岡の方であり、さやかは被害者のようにも見えた。
 さやかの人は確固たる事実であるが、その動作から意は見られなかった。
 弾み、という言葉がしっくりと来るか。
 少なくとも、さやかが悪人のようには見えなかった。
「ううっ……ヒドいな、こりゃ」
 だが、その人物にさやかを擁護するつもりはなかった。
 このまま騒ぎを拡大してくれれば、自分の目標が早く達成できると思ったからだ。
 人物の名は、エイラ・イルマタル・ユーティライネン。
 エイラは物陰から現れて惨劇の場を見渡し、気絶中のティアナの傍で立ち止まる。
 その傷を見て顔をしかめる。
「手当をすれば、命は助かるだろうけどなあ……」
 傷は酷く、出血も危険な域だ。
 とはいえ、しっかりとした手当さえすれば、命は助かるだろう。
 屈み込み、その傷に身体を近付ける。
 そして、
「―――でも、無理ダナ」
 右手にもった拳銃で、ティアナの頭を打ち抜いた。
 額に眉を寄せ、顔を曇らせながら、それでもしっかりと引き金を引いた。
「悪いな。私は……サーニャを助けなくっちゃいけないんだ」
 エイラはし合いに乗った。
 想い人たる一人の少女を救う為、ただそれだけの為に。
 引き金を、引いた。
「だからさ……出てこいよ」
 エイラはゆっくりと立ち上がりながら、デイバックへと手を伸ばす。
 取り出されたのは、MG42―――汎用機関銃。その銃口を暗闇の先に向けた。

97 :
「……気付いてたのか」
「ううん、そういう訳じゃないけどなー」
 エイラが有する固有魔法『未来予知』。
 その能力により察知できたのは、数秒後の未来に物陰から出てくる『筈だった』男の存在。
 エイラの言葉により未来は変わり、男はエイラの促しにより出てくる形となった。
 少年は警戒に満ちた表情でエイラの事を睨んでいた。
「……何で、この女を撃った」
「優勝を目指してるからに決まってるだろ。そういうお前はなんで止めなかったんだ?」
「……止めるのが、間に合わなかっただけだ」
「嘘だな」
 少年は、どうすべきか悩んでいた。
 森林の奥から聞こえてきた轟音に導かれてみれば、そこにあったのは一つの惨劇。
 この女が惨劇の全てを引き起こしたのか、少年には分からない。
 辿り着いたその時には、既にこのような状況であった。
 だが、エイラがティアナに向かって引き金を引く瞬間には、少年はこの場にいた。
 止めようと思えば、止めれただろう。
 一言止めろと声を上げ、エイラへと殴りかかる。それだけで十分だった筈だ。
 だが、少年はそうしなかった。
 迷っていたからだ。
 し合いに乗るべきか否か、少年はまだ迷いの中にあった。
「お前、分かり易いぞ。顔に全部でてる」
「……うるせえ」
 叶えたい願いがあったのは確かだ。
 願いの成就を追い求めて、次元をも超えたし合いに参加したことも事実。
 現界した6人のサーヴァントによる、聖杯を巡る争乱。
 結果だけを言えば、少年は勝ち残る事ができなかった。
 敗北し、自分の願いを叶える事はできずに……だがしかし、相棒たる人物の願いを叶えて、消滅した。
 その末に辿り着いた、し合い。
 再び訪れた願いを叶える機会。
 自分はどうすれば良いのか。どうしたいのか……正直に分からないというのが、答であった。
「じゃあ、悪いけど死んでくれ」
「嫌だね。断る」
 ともかく、まだ何も決めていない状況で、むざむざと死んでやる訳にもいかない。
 相手は明確な意をもって戦おうとしている。ならば、応戦するしかない。
 第6次聖杯戦争において『キャスター』の位でもって現界した英霊―――エドワード・エルリック。
 エドは戦闘の構えをとって、エイラと相対した。
 エースウイッチとサーヴァント。
 時間も世界すらも違った二人の人物が、惨劇の場で戦いの火ぶたを切ろうとしていた。

98 :

【鬱岡修造@現実  死亡確認】
【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのは   死亡確認】
【一日目/深夜/D-3・住宅街】
【キャスター(エドワード・エルリック)@第六次聖杯戦争】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考]
基本:俺は……どうしたいんだ……?
1:眼前の少女を倒す。すかどうかは……

【エイラ・イルマタルユーティライネン@ストライクウイッチーズ】
[状態]健康
[装備]MG42@ストライクウイッチーズ、護身用拳銃@ストライクウイッチーズ
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1
[思考]
基本:サーニャを生還させる
1:目の前の少年をす
2:サーニャや仲間とは……合流したくない
3:青髪の少女には暴れまわって欲しい



99 :
これにて投下終了です。
安定のさやか。そしてエイラvsキャスター。
原作ではあまり活躍してないけど、(その可愛さといい)エイラはかなりチートです。

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