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2012年4月創作発表108: ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第三部 (499)
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ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第三部
- 1 :12/02/13 〜 最終レス :12/04/08
- (⌒).(⌒)
(⌒) /.:/___! :| (⌒)
}: レ;{.:〈= =j.::ト/.:/_) (⌒)
‐ 、 ,ノ = ≡ィ=ミ ミ :/.:/:、! /.:/
`ヽヽ⌒〈: ミ ミ ミ: >べミ.ミ ミ ミ:Y.:/ /¨ヽ
\`ヽi〜/,イフノ ミ ミ ミ ミ i/,//¨ 厂 ̄ ̄ ̄`ヽ
-‐=ニ、 ヾj} 〈_ノ' ` ヾ-'⌒>'Y´/ 〈 3rdか !? |
-―- 、\jリ,/ / `! y<,.} j'´ _,厶_ _____,ノ
┤イ ト丶∨ ノ / 、},。)j/ ┌'´ ̄ ̄´ ` ̄`'┐
┬ 卜 イ ! } // _ "¨ ン′ | ロワが3個 〉
┬ ┤ト 」ハ{/´ fエl ,. '"| < ほしいのか? |
L.卜 ┬ /\.〉 iノ┴'‐--' └、______,r‐'
\_. イ `ー'´
イへ./ , ---、_____ヽ丶 、__,/ ̄ ̄ ̄ ̄`'ー┐
}-‐'´ _ノ_,入_`ブ┐ \ 3rd… ヽ
 ̄`7ー'7´/ ノ jレーく__) )) | イヤしんぼめ !! |
{l __{ ..:\__┌<_>‐'´ \_______,/
_____ヽ __,>-‐'´ `´___ ____ ┐7
---‐'´ /___/| ̄又又>|
二ヽ ̄ヽ〜'ニ三ヾ⌒ ̄ヽ、又>'´|
}} └ =ニ~~}} `ー--く_|_/
==' _ -‐ ___,ノ、二._ーァー'
___,. -一'¨¨ ̄ `'ー‐'´ ̄
このスレでは「ジョジョの奇妙な冒険」を主とした荒木飛呂彦漫画のキャラクターを使ったバトロワをしようという企画を進行しています
二次創作、版権キャラの死亡、グロ描写が苦手な方はジョセフのようにお逃げください
この企画は誰でも書き手として参加することができます
詳細はまとめサイトよりどうぞ
まとめサイト
http://www38.atwiki.jp/jojobr3rd/
したらば
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/15087/
前スレ
ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第一部
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1322211303
- 2 :
- 名簿
以下の100人に加え、第一回放送までは1話で死亡する(ズガン枠)キャラクターを無限に登場させることが出来ます
Part1 ファントムブラッド
○ジョナサン・ジョースター/○ウィル・A・ツェペリ/○エリナ・ジョースター/○ジョージ・ジョースター1世/○ダイアー/○ストレイツォ/○ブラフォード/○タルカス
Part2 戦闘潮流
○ジョセフ・ジョースター/○シーザー・アントニオ・ツェペリ/○ルドル・フォン・シュトロハイム/○リサリサ/○サンタナ/○ワムウ/○エシディシ/○カーズ
Part3 スターダストクルセイダース
○モハメド・アヴドゥル/○花京院典明/○イギー/○ラバーソール/○ホル・ホース/○J・ガイル/○スティーリー・ダン/
○ンドゥール/○ペット・ショップ/○ヴァニラ・アイス/○ヌケサク/○ウィルソン・フィリップス/○DIO
Part4 ダイヤモンドは砕けない
○東方仗助/○虹村億泰/○広瀬康一/○岸辺露伴/○小林玉美/○間田敏和/○山岸由花子/○トニオ・トラサルディー/○ヌ・ミキタカゾ・ンシ/○噴上裕也/
○片桐安十郎/○虹村形兆/○音石明/○虫喰い/○宮本輝之輔/○川尻しのぶ/○川尻早人/○吉良吉影
Parte5 黄金の風
○ジョルノ・ジョバァーナ/○ブローノ・ブチャラティ/○レオーネ・アバッキオ/○グイード・ミスタ/○ナランチャ・ギルガ/○パンナコッタ・フーゴ/
○トリッシュ・ウナ/○J・P・ポルナレフ/○マリオ・ズッケェロ/○サーレー/○プロシュート/○ギアッチョ/○リゾット・ネエロ/
○ティッツァーノ/○スクアーロ/○チョコラータ/○セッコ/○ディアボロ
Part6 ストーンオーシャン
○空条徐倫/○エルメェス・コステロ/○F・F/○ウェザー・リポート/○ナルシソ・アナスイ/○空条承太郎/
○ジョンガリ・A/○サンダー・マックイイーン/○ミラション/○スポーツ・マックス/○リキエル/○エンリコ・プッチ
Part7 STEEL BALL RUN 11/11
○ジャイロ・ツェペリ/○ジョニィ・ジョースター/○マウンテン・ティム/○ディエゴ・ブランドー/○ホット・/
○ウェカピポ/○ルーシー・スティール/○リンゴォ・ロードアゲイン/○サンドマン/○マジェント・マジェント/○ディ・ス・コ
JOJO's Another Stories ジョジョの奇妙な外伝 6/6
The Book
○蓮見琢馬/○双葉千帆
恥知らずのパープルヘイズ
○シーラE/○カンノーロ・ムーロロ/○マッシモ・ヴォルペ/○ビットリオ・カタルディ
ARAKI's Another Stories 荒木飛呂彦他作品 5/5
魔少年ビーティー
○ビーティー
バオー来訪者
○橋沢育朗/○スミレ/○ドルド
ゴージャス☆アイリン
○アイリン・ラポーナ
参戦部未定
○ロバート・E・O・スピードワゴン
- 3 :
- 【スミレ 死亡】
【残り 87人以上】
【C-4 シンガポールホテル周辺/一日目 黎明】
【ペット・ショップ】
【スタンド】:『ホルス神』
【時間軸】:本編で登場する前
【状態】:全身ダメージ(中)
【装備】:なし
【道具】:なし
【思考・状況】
基本行動方針:サーチ&デストロイ
1.とりあえず体力の回復を図る
2.自分を痛めつけた女(空条徐倫)に復讐
3.DIOとその側近以外の参加者を襲う
[備考]
※ペット・ショップの状態は飛ぶことはできるが、本来のような速さは出せない状態です。
※シンガポールホテル付近にスミレの死体が転がっています。近くにデイパック、折れた棒、溶けかけの氷柱が放置されています。
- 4 :
- 以上で投下完了です。まさかスレ容量オーバーとは予想外でした。無事にスレ立てできて良かったです。
誤字脱字、気になる点ありましたらお願いします。タイトルは結構気に入ってるんですが、変えるかも。一応仮で。
三行状態表を見たらなんでもスミレの花言葉は忠誠だそうで。面白いですね。
- 5 :
- 投下&スレ立て乙です
うわあぁぁぁぁぁぁスミレえぇぇぇぇぇぇぇ
うわああああああああああああああああn
スミレェ…
さて、タルカスとブラフォードの戦いの軍配も気になりますが
タルカスがスミレを発見したらと思うと…ウワァァァ
露伴のセリフもすごく印象的でした
アバッキオの心情も気になるところですし
ナランチャの反応やジョナサンの判断も気になる…でもどうあがいても良い方向に行きそうにない気配がムンムンするぜ…
総じて面白かった&ナイス鬱展開です
読んで特に気になる点はありませんでした
- 6 :
- 投下乙です
ボディーガードから離れすぎると瞬なのはお約束とはいえ、辛い……
原作とは大きく異なる立場になって戦う二人も期待大ですね
誤字報告ですが、
前スレ>>423 おおらかヤツ→おおらかなヤツ
>>432 近距離線→近距離戦
>>434 鷲→隼
がありました
- 7 :
- 投下スレ立て乙
あーん!スミレちゃんが死んだ!
スミレちゃんペロペロSS&スミレちゃんFSSって思ってたのに…
くすん…童女薄命だ…
でもタルカスってかっけーなーだけどブラフォードが屍生人になっていった
いどうなるんだろう。
- 8 :
- スレ立て乙
そして投下乙
スミレ……スミレエェェェェェ!!!
時間軸の差異や各々の感情を見事に書ききってくれた良いバトルSSでした
さて「空気」をwiki収録しました。
変更点の詳細はしたらばに書いておきます。
不足等ありましたらご指摘ください。
- 9 :
- ◆yxさん収録乙です。
自分も、朝までには収録しますね。
また、収録の際に↓を修正しておきます。
指摘をいただいた『エアロ・スミス』。
いくつかある『隼人』という誤字。
アバッキオの遺体について触れてなかったので、備考欄にコンテナの下敷きになっていると追記。
その他、言い回しなど。
- 10 :
- >>1の前スレが違うので、一応貼っときます
ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第二部
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1324740063/
- 11 :
- 保守は・・・いるのか?
なんか一気に予約が入って期待が止まらんw
- 12 :
- DIO、スポーツ・マックス、マッシモ・ヴォルペ
投下します
- 13 :
- 月明かりに照らされた石造りの河岸をふたつの影が歩いていた。
河を越えた先、遙か東岸に広がるだろう古都ローマの遺跡や町並みは夜闇に深く沈み、水底の見えない深い河は音もなく静かに流れている。
この夜が永遠に続きそうな錯覚さえする、静かな世界。
ふと、ふたつの影のうち、闇よりなお暗い気配を持つ男が気まぐれのように呟いた。
――色々な文献を読んで興味深く思ったことのひとつなんだが。
――川は、死者と生者の世界の境目だという。
思索に耽る者特有の緩やかさで、黄金にも似た荘厳なバリトンが闇に溶ける。
傍らを歩く男に向けられているのか、それとも単なる独りごとなのか。判然としないながら、形よく肉感的な唇から詩を紡ぐように軽やかに言の葉が散る。
――陽の昇る東を生者の都、陽の沈む西を死者の都としたのは古代エジプトの神話だが、キリスト教においても東には特別な意味がある。
――君は、キリスト教徒かい?
傍らを歩く男――マッシモ・ヴォルペは、突然の問いかけに少し考え込む素振りを見せ、微かに首を振った。否定とも肯定とも取れない、曖昧な仕草。
「そうだ、と言えばそうだし、そうでないと言えばそうではないな」
「答えになっていないよ、マッシモ」
言いながらも、問いの答えに気を悪くした風もない男――DIOは、歩みを止めず愉快そうにマッシモに一瞥をくれた。
妖しく艶めかしい眼差しは、血のように赤く毒のように甘い。心の底まで見透かす、射抜くような視線。
しかしマッシモは物怖じする様子もなく平坦な声で続けた。
「救いもしない神なんぞ信じちゃいない」
「だろうと思った」
気安い友人に向けるように、DIOはくつくつと笑って見せる。月光にけぶる黄金の髪が、青いほど白い頬に細く影を落とす。ある種の宗教画めいたそれにもマッシモは無感動な面持ちを崩さず、のろのろと歩調を合わせていた。
奇妙な関係だった。
ひとつ掛け違えれば、捕食者と哀れな餌という一時的な関係にしかならなかっただろう。
しかし運命はそうならなかった。互いが互いに興味を抱いている、その一点。そしてそのたった一つの引力で、二人は道行を共にしている。
月明かりだけが頼りの散策の道すがら、様々なことをDIOは語った。ときに饒舌に、ときに沈黙を交え。そしてマッシモも、問われては答え、また考えた。教師とその弟子のようでもあったし、友人になる過程を踏んでいるかのようでもあった。
たった三人、血を分けた親兄弟よりも密に支え合って生きていた仲間たちにしか許さなかった心が、闇を纏う美貌の不死王によって少しずつ浸食されている。
そして、その浸食は癒しにも似ていた。乾きひび割れた大地に染み込む水のように、DIOの言葉と思考は全てを亡くしたマッシモの裡にじわりじわりと染み込んでいく。
- 14 :
- 「DIO。そろそろ目的地を教えてくれてもいいんじゃあないか?」
「おや。とっくに気づいていると思っていたんだが」
刹那、交わる視線。
友人と呼ぶには短すぎる時間、しかし無関係というには長すぎる時間。共にした時ゆえに、マッシモはDIOの言わんとするところを察した。
「この先にある刑務所……か?」
「残念、少し違う」
――だが、そこに寄ろうとは思ってた。半分は正解だな、マッシモ。
甘い甘い声音がマッシモの耳をくすぐる。酷く耳触りのいいそれを心地よいと感じ始めている自身に、マッシモは薄々気づいていた。
「市街地で見つけられたのは、君と首輪をつけた参加者ひとりきりだ。適当に歩いていれば誰がしかと接触できるかと思ったが、どうも人の気配がしない。手近にある建物から見てみようと思ってね。
本当に誰かがいるかどうかなんて期待しちゃいない。ちょっとした確認みたいなものだよ。
それに、刑務所なんて他に見る機会もなかっただろう?」
ジョークのつもりか、悪戯っぽくDIOが笑いかける。そろそろ、闇の中にもその広大な建物が見え始めていた。
地図からも察せられたが、実物はちょっとしたテーマパークくらいありそうな大きさだ。おそらく街中と同様に人などいないだろうが、あの大きさの建物を調べるのはえらく骨が折れそうだった。
「死ぬより縁がないと思ってたところだな」
マッシモはひとつ息を吐いてひとりごちた。
◆
DIOがマッシモ・ヴォルペに語った数々の思索と過去における出来事の一端は、真実ではあれど全容ではなかった。
当たり前と言えば当たり前だろう、出会った端から一切合切全てを曝け出すなんて、トチ狂った精神的露出狂か白痴の善人くらいなものだ。どちらも似たようなものである。
だが、全てではなくとも真実ではある。DIOは注意深くマッシモを観察していた。
マッシモが自ら語ったことは少なかったが、ゼロではない。人となりを理解するにつれ、よりマッシモへの興味は深くなった。
何より、マッシモはDIOに対して恐怖や畏敬、およそ『友人』関係を築くにあたり差しさわりある感情を抱いていない。人の血を啜る人ならぬ化け物と理解してなお、マッシモはありのままのDIOを見ている。
これは『彼』以来のことかもしれない――DIOはふと思う。
アメリカに住む、かの『友人』と、最後に言葉を交わしたのはいつだったか。
つい先日だった気もするし、遙か遠い昔にも思える。彼との時間は得難く貴重なひと時だった。
その心安らかさ、気安さには及ばないまでも、マッシモとのひと時はDIOの抱える鬱屈を大いに紛らわせた。
(思った以上に良い拾い物をしたものだ)
『天国へ行く方法』は、DIOにとっての至上命題。マッシモ・ヴォルペはその良き担い手となってくれるだろう。
ジョースターの血族の抹は、いわば『天国』へ行くための道程に纏いつくささやかな障害に過ぎない。
肩の付け根にある『星』は、依然変わりなくジョースターの存在を知らせている。意識を向ければチリチリとささくれだつように、その気配を感じている。いずれは処分せねばなるまいが、それに付随して気になることもあった。
ジョジョと承太郎の死をこの目で確認した。だが、少なくとも『ジョジョは既に死んでいる』はずだった。他ならぬこの肉体こそがジョジョのそれであるのだから。
奇妙なことは他にもある。『星』の示すジョースターの血統……部下に調べさせた限りでは、ジョセフ・ジョースター、ホリィ・空条、空条承太郎、該当者はその三名のはずだった。
そして承太郎は死んだ。ならば、この気配はなんだというのだろう。『星』は片手の指では間に合わぬ数の気配に疼いている。
(放送後に、名簿の配布があると言っていたな)
主催者を名乗る老人はそう告げていた。ならば、それを確認してから動いても遅くはない。
ささくれる『星』を一撫でして、そう結論付ける。
優先されるのは『天国』だ。得難い能力を持つ者に出会えた引力をもって、DIOはますますその思いを強めていた。
そこまで思考を纏めたところで、ふと微かな臭いを感じて立ち止まった。唐突に立ち止まったせいで少し先んじたマッシモが足を止め、訝しげにDIOを見やっている。
「どうした?」
「ふむ……君にはわからないか」
- 15 :
- ――血の匂いだ。
吸血鬼になってからというもの、こと血に関しては煩くなった。人が嗜好品を吟味するにも似ているが、それ以外は口にできても体が受け付けないのだからある意味では必然か。
マッシモはDIOの意図を理解したようで、周囲に視線を走らせている。だが、人あらざるDIOの眼にすらかからない何者かが、人の身であるマッシモに捉えられるはずもない。
「死臭もするな。それも古くない……」
言う間にも、臭気はどんどん強まっている。マッシモも気づいたのか、警戒もあらわに眉を顰めている。
そして、奇妙な光景が二人の目に映った。
ひたひたという足音と、ずるずると引きずるような足音。なにもないはずのそこに浮かび上がる、血のマスク。
真っ赤な口が、ニタリと吊りあがった。
「……ッ!?」
「屍生人……とは少々趣が違うな。スタンド能力か」
絶句するマッシモとは対照的に、DIOはごく冷静にそれらを観察している。
辺りに溢れる死臭と濃厚な血臭は、間違いなく目前にいるだろう『動く死体』から発せられていた。笑ったことからも、ある程度の自意識は残っていると推察する。
周辺にスタンド使いらしき姿が無いことは『世界』の目を通しても確認済み。使い手当人すら透明にする能力であるとも考えられるが、どちらにせよ武器であるだろうこの死体を処分すれば、直接出てくるか逃走せざるを得なくなる。
目の前の死体の挙動はどう見ても『餌を前にした駄犬』そのもの。知能の低い屍生人にもよく見られた傾向だ。
自意識の残る透明な死体を操る、少しばかり興味をそそられる能力ではある。だが、せっかくの『友人』を危険に晒してまで欲しいものでもない。
立ちはだかるのであれば排除するまで。
「残念だが、運が無かったな」
聞こえているのか居ないのか、ニタニタと笑っていた真っ赤な口が拭いとられるように消えていった。
◆
スポーツ・マックスは、とてもとても乾いていた。
リビング・デッド――生ける屍。かの刑務所で神父より与えられたスタンド能力『リンプ・ビズキット』によって肥大した食欲を持て余したまま彷徨う透明ゾンビと化した彼に、元ギャングの伊達男ぶりは見る影もない。
老婆ひとり『喰った』ところで、乾きはいよいよ増すばかり。おまけにあたりはだだっぴろい野原で、人っ子ひとり見当たらない。
何かを忘れている気もするが、思い出すより乾きが先だ。
――ああ、喉が渇いた。カラカラだ。
乾いて乾いて仕方がない。しかし、かといってどこに向かえばいいという単純な目的も思いつかない。屍と化したスポーツ・マックスに残されているのは『食べたい』という原始的で強大な欲求だけ。
彼の後をついて回る、哀れに従う生ける屍――己が喰った老婆すら、彼の目には止まらない。意識の端にもかからない。
仮に彼が何かを思ったところで、老婆の魂はここより失われて久しく、そのか細いぼろきれのような肉体はリンプ・ビズキットの能力によって保たれているに過ぎないのだが。
当てもないひとりとひとり、ふらふらと彷徨っていたところで、ようやく次の獲物を見つけることができた。
――男、男ふたり。
――片っぽはあんまり美味そうじゃあないが、あの金髪は悪くない。
――あぁ、喉が渇いた。
――男のくせに、そこらのビッチよりよっぽどキレイなツラしてやがる。
――あぁ、もう、カラカラだ。
――早く早く早くッ! そのキレイなツラに齧り付いてッ! 脳ミソを喰らいたいィッ!
スポーツ・マックスは思わず垂れそうになった涎を拭う――既に死んでいる彼から生体特有の分泌物がでるわけはなく、拭われたのは先の犠牲者であるエンヤ・ガイルの生乾きの血液と脳漿だったが――と、乾きに任せてむしゃぶりつくように飛び掛かった。
「世界」
飛びつき、今まさに食らいつかんとした男が告げた一言で、スポーツ・マックスの第二の生は終わりを告げた。
否、終わったことすらも理解できていなかったかもしれない。
静止した時の中では、思うことすら許されない。死してなお死ぬ――それにすら気付けないスポーツ・マックスの魂は、果たしてどこへ行くのだろう。
- 16 :
- ◆
DIOにとって、死体が動いていることはなんら不可思議な現象ではない。
百年にも及ぶ海底での眠りにつく以前にも部下として使っていた憶えはあるし、死体を操る能力を持つ老婆もひとり知っている。ただ、今回のケースが”当の死体が見えない”少しばかり特殊なケースだったというだけだ。
見えないのならば、どちらかが対象を捕捉した時点で時を止めればいい。
どちらを狙っているのかは定かでなかったが、DIOが促したことでマッシモも警戒をしていた。致命的な攻撃はそうそう食らわないだろうと大雑把にあたりをつけ、透明な死体が自身に触れた時点で『世界』を発動した。
「死体を操り、また透明にする能力……か。悪くない能力だ。
だが、無知とは悲しいな……貴様の敗因はただひとつ、このDIOを狙ったこと」
無造作に腕に浅く刺さった金属を引き抜いて投げ捨てる。掴んだ形状から察するにハサミのようだ。
不快ではあるが、この程度の傷は怪我のうちにも入らない。先だっての『食事』も幸いし、傷痕は瞬く間に跡形もなく消える。
跡らしい跡は衣装に残った破れ目だけだ。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」
目の前の空間へと――そこには死体が居る――『世界』のラッシュを叩きこむ。黄金色の闘士が主の意志の下、あまりの速さに無数にも映る力強い拳を繰り出す。骨が砕け、肉が弾け、形状が失われていく。
不快な死体が人としての原型も留めずグチャグチャに潰れていく感触がスタンド越しに拳に伝わった。
操り人形も、原型すら留めなければ操れまい。
そこでふと中空に妙なものが飛び出たことが目にとまり、DIOは『世界』の拳を停止した。
「……!?」
『それ』が何なのかを確認した瞬間、DIOは久方ぶりに驚愕していた。
記憶の海から引っ張り出した『それ』の印象と、透明な死体から飛び出た『それ』は、あまりにもよく似通っていた。似ていた、というより『それ』はそのものだった。
不自然に浮かぶ二枚の『それ』を手に取り、まじまじと眺め、ぽつりと呟く。
「まさか……君も、ここに呼ばれているのか……?」
プッチ。
――そして時は動き出す。
◆
- 17 :
- shienn
- 18 :
- マッシモには、何がなんだかわからなかった。
何者かが襲いかかってきたことだけは辛うじて理解していた。マッシモの足首に、異様な力でしがみついてきた透明な何かが居た。
だが、マッシモが己のスタンドを発現させるより先にDIOが『世界』と呟いた瞬間、恐ろしい握力で握り潰さんばかりにしがみついていた何者かは、煙かまやかしかのように消えてしまった。
残るのは、確かに掴まれたという足首の鈍いしびればかり。
あたりを漂っていた血臭も、今やかすかな残滓を残すのみ。
不意にカシャンと硬質な音を立てて、何かが石畳に落ちた。月明かりに鈍く光る金属の首輪。己らの首に付けられているものと相違ないだろう。
マッシモは俯いて何やら考え込んでいるDIOをちらりと見て、首輪を気にする素振りもないことを確認すると嘆息しながらその首輪を拾い上げた。
「参加者、だったみたいだな」
首輪だけが落ちているということは、おそらくDIOによって頭を吹っ飛ばされたか何かしたのだろう。純粋な膂力によるものか、それともスタンドの能力によるものか、どちらにせよ恐るべき力には変わりない。
だが、理解すら及ばない恐るべき力を見せつけられて尚、DIOに対しての恐怖は無かった。マッシモにとって恐怖の定義は仲間を失うことだったし、そしてそれは既に失ってしまったものである。ゆえに恐怖という感情はなかった。
不可解だったのは、心の奥底に微かに湧きおこった歓喜。
ブッしてスカッとした、とか、されなくてよかった、などという矮小で利己的なものではない。そんなものは端からマッシモの裡に存在していない。して当然だし、されてもまた当然。し合いは彼の日常の一端に属している。
ならば何に『歓び』を覚えたというのか。
「……おい、DIO?」
相変わらず沈黙したままの彼に、しびれを切らして再度声をかける。首輪が転がっていたということは、襲撃者を処分したということだろうと思っていたが、もしや未だ何らかの攻撃を受け続けているのだろうか。
仮定は想像を引き起こし、想像は感情を引きずり出す。
首輪のことから、襲撃者は一人だと思っていた。だが、その前提すら何の保証もないものだ。ここは人遊戯場に等しく、いつ何どきどんな悪意がばっくりと口を開けて待ち構えているのかも定かでない。
かつてマッシモの大切な仲間だった少女――アンジェリカのように、姿を見せる必要のない広範囲型のスタンド能力だとしたら? すぐには認識できない攻撃があるということをマッシモは知っている。
背筋が総毛立った。
「ッDIO!」
「……そんなに呼ばなくとも聞こえているよ」
実に面倒くさそうに、気怠げに、こともなげに、マッシモが呼びかけたその人は俯けていた面を上げた。ピジョンブラッドの如く美しい真紅の瞳が、駄々っ子を叱るように眇められている。
そこでようやくマッシモは気づいた。今や全ての情動の端が、この異形の帝王たる麗人に繋がりつつあるという揺るがしがたい事実に。
「何というか……すごく、気になることがあるんだ。少し時間もかかるかもしれない。
歩き回って君も疲れただろう? 丁度いいから刑務所で休憩でもしようじゃあないか」
耳朶をくすぐる声音が心地よい。
これは毒だ。抗いようもなく染みこむ甘い毒。もう囚われて抜け出せない。
先程の悪寒は既に別の何かに姿を変えている。『この人に見捨てられ、されるのだけはいやだ』ふとそんな思いが脳裏を過ぎった。
- 19 :
- 「あ、ああ……構わない」
「それは首輪か? ふむ……それも、少し調べたい。いいだろ?」
「ああ……」
「なんだよ、ヘンなヤツだな」
言葉ほどには気にするふうもなく、鷹揚とした微笑みを浮かべ、DIOは手に持った円盤状の何かを玩ぶようにいじくっている。
「別に、なんでもない……DIO、それは何だ?」
「これか? DISCだよ」
DISCだという奇妙な円盤状のそれを、DIOは詳しくは語らずやけに大切そうにデイパックへとしまいこんだ。
それが何を意味するものなのか、きっとDIOは知っているのだろう。せっついたところで話してもらえないのならば、マッシモは餌を待つ犬のように、ただひたすら主の気まぐれを待つよりない。
人と人でないもの。被食者と捕食者。敵。友人、そして。
この僅かな間に、マッシモと彼の間には幾つの関係が築かれたのだろう。
奇妙な、関係だった。
首輪とDISC以外に特に目を惹かれる物もなく、やがて二人は連れだって目的の地であるGDS刑務所に向かった。
「なあ、マッシモ……東には特別な意味がある、と言ったのを覚えているか?」
不意に、DIOが問いかける。ついぞ聞き覚えのない、酷く真剣な声色だった。
マッシモは暫し逡巡し、肯定するように頷いて見せる。それを確認してDIOはこう続けた。
「キリストの経典の一部にある、東の果てにあるという幸福の地エデンなる『天国』は、あくまでも伝承の中のものでしかない。
エデンがどこかに実在するとは到底思えないし、それが土地や場所である必然性は全くない。
だが、『天国』が存在するという事実を告げていると、私は思う。
伝承とは戯曲化された歴史に他ならない。ならば何を主眼に置いて戯曲としているのか?
……精神の向かう所だと、私は考える。物質的なものでは本当の幸福は得られない。
『天国』は物質的なものではなく、精神の力によりもたらされる。本当の幸福がそこにはある。
精神の力はスタンドの力であり、その行きつく先が『天国』。
真の勝利者とは『天国』を見た者の事だ……どんな犠牲を払っても、私はそこへ行く」
熱っぽく語られた一言一句、全て漏らさず理解できたとは到底言い難かった。
むしろ、理解できるほうがどうかしているんじゃあないかとすらマッシモは思ったのだ。
ただ、その狂おしい程の情熱だけは理解することができた。強大な力を持ち、不死の肉体を持ち、何を憂えることもなさそうなこの帝王然とした彼が、唯一欲し、求める果てが『天国』なのだろう。
「そのために、俺が必要だと?」
DIOは無言の肯定を見せ、ふと遠くを見るような眼差しをした。
「彼が……私のもう一人の友人が、ここにいるのなら。
『天国の時』は近いだろう」
果たしてその時に何が起こるのか。
神の名を冠する不死の王の傍らに、敬虔な殉教者のように男はひっそりと添っていた。
【スポーツ・マックス 死亡】
【残り **人以上】
- 20 :
- 【E−3 西部、ティベレ川河岸/一日目 黎明】
【DIO】
【時間軸】:三部。細かくは不明だが、少なくとも一度は肉の芽を引き抜かれている。
【スタンド】:『世界(ザ・ワールド)』
【状態】:健康
【装備】:なし
【道具】:基本支給品×2、チームの資料@恥知らずのパープルヘイズ、地下地図@オリジナル、リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、ランダム支給品1〜2(確認済み)
【思考・状況】基本行動方針:帝王たる自分が三日以内に死ぬなど欠片も思っていないので、『し合い』における行動方針などない。
なのでいつもと変わらず、『天国』に向かう方法について考えつつ、ジョースター一族の人間を見つければ害。もちろん必要になれば『食事』を取る。
1.我が友プッチもこの場にいるのか? DISCで確認しなければ…。
2.適当に移動して情報を集める。日が昇りそうになったら地下に向かう。
3.マッシモ・ヴォルペに興味。
4.首輪は煩わしいので外せるものか調べてみよう。
【マッシモ・ヴォルペ】
【時間軸】:人ウイルスに蝕まれている最中。
【スタンド】:『マニック・デプレッション』
【状態】:健康
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、大量の塩@四部、注射器@現実、スポーツ・マックスの首輪
【思考・状況】基本行動方針:特になかったが、DIOに興味。
1.DIOと行動。
2.天国を見るというDIOの情熱を理解。
3.しかし天国そのものについては理解不能。
- 21 :
- shienn
- 22 :
- 以上で投下完了です
支援ありがとうございます!
仮投下時にご意見頂いた部分については、描写増やし気味にしてみました…が、それでもわかりづらいという…
誤字脱字指摘感想ほか、何かありましたらよろしくお願いします
- 23 :
- 投下乙です。
話の中で魅かれていくマッシモがまんま俺のリアクションしててワロタwww
DIO様のカリスマが爆発過ぎて、俺男だけどDIO様になら肉の芽されてもいいかなァ……///
3部影DIOの静寂な凄みと6部DIOの哲学者気質がみごとにマッOされてて、正直濡れたッ
1stの帝王DIOでもなく、2ndの成り上がり野心ディオでもない。
3rdならではの味が浸透してきて、もうこのコンビからは目が離せないぜ!
ここにプッチが入ったら間違いなくDIOの奪い合いwww
マッシモ、プッチ、ヴァニラ・アイスとDIO様、マジハーレムwww
ジョルノともどう決着つけるのか……妄想が押し留まらんぜ!
改めて投下乙でした!
- 24 :
- 投下乙です
DIO様かっこよすぎ、ハードル上がりすぎでプレッシャー半端ないです。
ヴォルペのリアクションが新鮮で、良かったです。
予約の分ですが、日を跨ぐぐらいに投下します。
支援できるかたは助けていただけたら幸いです。
- 25 :
- 投下します。
- 26 :
- 突然だけどクイズだ。人をす『もの』、あるいはせる『もの』、これってなーんだ?
……はい、タイムアップ。解答時間が短すぎる、だなんて苦情は受け付けないよ。
君たちにとってはこんなありふれた問題、問いかけることすら、はばかれるぐらいのものだろうからね。
正解は『凶器』さ。
銃、刺、撲、絞、エトセトラ、エトセトラ……。やり方は色々あるさ。ただ方法は変わっても結局行きつく先は一つ。
『凶器(エモノ)は何だ?』なんて刑事がドラマの中でも言うじゃない。
……なに? 引っかけ問題? 挙げ足取り?
おいおい、まさか君たちにそうやって言われるとは思わなかったよ。四六時中頭ん中はすことばかり考えてる癖にさァ。
ま、でも一つ俺から言わせてもらうと……モノが人をすわけなんてないさ。人をすのはいつだって人、人の意志が人をすんだよ。
もう少し詳しく見てこうか。
ブタを食う時、牛を食らう時、鳥を食べる時、魚を食する時……常日頃から、あまりに人はすことに『慣れすぎている』。
だからいざこうやって『ハイ、どうぞしあって下さい』なんて言われると俺たちは困ってしまう。
その時、最後に俺たちを突き動かすのはなんなのさ? 何が最後の最後で、俺たちの背中をポンッと後押しし、俺らはしに手を染めるのかな?
今回の話はまさにそれ。
し、その深遠なる淵に俺らをつき落とすのは『狂気』だ。今回はその『狂気』についてまつわるお話を紹介しよう……―――
◆
- 27 :
- 深夜、街。まるで幽霊のように、どこからともなく姿を表した一つの影。
それは女性と言うにはあまりに幼く、少女と呼ぶにはあまりに刺々しい空気を纏っていた。
アイリン・ラポーナは闇に紛れ、音もなくあたりを伺う。暗闇に溶け込んでしまいそうな真黒な髪が風に煽られ、ふわりと揺れた。
足音は聞こえない。固く頑丈な石畳を歩く彼女の足取りは悠然としていながら、一切の気配を絶っていた。
突然、彼女は石像のようにその場に立ち止まる。何秒か動くことなく、鋭い視線をあたりに放ち、自分以外の気配を探っていくアイリン。
微かに、しかし次第にはっきりと話声が聞こえてきた。男だ、それも二人組。
緊張感が感じられない男の声とそれを叱咤激励する初老の男の声は、まさにアイリンが姿を現したその場所から聞こえてきた。
「アイリンは立派に活躍してるってのに俺は役に立つどころか足を引っ張るばかり……死にたくなってきた…………」
「ほら、まただぞ、マックイィーン君! 今ので五回目だ!」
アイリンは眉をひそめると後ろを振り返った。これでは自分が先立って歩く意味がほとんどない。
自分たちの置かれている状況をよくわかってないのか、わかっていてあえてそういう態度をとっているのか。
どちらにしろ、あまり気のいいことでない。そうアイリンは思った。長く美しい髪の毛を指先に巻きつけ、それでも彼女は辺りを警戒しながら同行者を待った。
ほとんど隣の男を抱きかかえるように歩いているのがジョージ・ジョースターT世。そして頭を抱え、ぶつぶつ呟き続ける男がサンダ―・マックイイーン。
彼らがアイリンの同行者、このし合いという奇妙な舞台で彼女と行動を共にしている男たちだ。
今のところ周りに人の気配はない、そうジョージに伝えると、彼はありがとう、と言葉を返した。能面のように無表情だったアイリンが初めて表情を崩し、柔らかな微笑を浮かべる。
それを見たジョージはにっこり笑う。そして今度は隣に並んだ卑屈な男に向き合うと、口うるさく説教を始めた。
やかましいと言いたくなるような熱いお説教が道路に響く。熱っぽく愛情に溢れるその声を聞いていると、とてもでないが『静かにしてください』とは言えなかった。
可笑しいような、困ったような、何とも言えない状況に、どうしたものかしらとアイリンは考える。
しかし可笑しさが勝った。自分一人だけ神経を張っているのが少し馬鹿らしくなった彼女は、素行を崩すと、二人に並びだって歩き始めた。
なんて甘ッたれなのだろうとアイリンは思う。マックイイーンもそうだが、ジョージもそうだ。
いい年した男が父親にあやされているかのような光景は、ある意味ではほほえましくもあるが、馬鹿らしくもある。
だがアイリンの目には口酸っぱく励まし続けるジョージが輝いて見えた。あの手この手で沈んだ男を盛り上げようと、熱弁を振るうジョージは素敵だった。
それはアイリンが優しさや甘さから無縁の世界で生き続けた代償なのかもしれない。
暗、し。これ以上なくドライで厳しい世界の住人である彼女は、ジョージのような人物を知らない。
だからこそ、彼は太陽のように眩しく、暖かい。希望に溢れ、何が起きようとも 『ドン!』 と構えている彼は、とても頼もしい男だった。
アイリンは少し前のことを思い出す。ジョージが自己紹介にと、自分の生い立ちについて話した時のことだ。
すぐにわかったのはジョージ、マックイイーン、アイリンがそれぞれ別の世界に住んでいるという矛盾。
年代が違う、住んでいる場所が違う。奇妙では済まされない、とんでもない事実だった。自分たちがいかに大きな事件に巻き込まれているかわかった時、アイリンの腕にはうっすらと鳥肌が立っていた。
だがジョージは平然としていた。なってしまったことは仕方ない、事実なのだから受け入れるしかない。
そう言って落ち着きはらう彼の態度を見て、やがてアイリンとマックイイーンも平静さを取り戻した。そして、ジョージと同じようにそれも仕方ないな、と考えるようになった。
この舞台には未知なる能力が数多く潜んでいるだろう。マックイイーンの不可思議な能力もそうだが、アイリン自身、暗という変わった特技を持っている。
自分がジョージを守らなければいけない。戦えるのは自分しかいない。
不思議と、恐怖や重荷は感じなかった。頭を下げるジョージの姿がアイリンの脳裏をよぎる。
自分のこの能力が役に立つと言ってくれた。それは不思議な気持ちだった。だけどそれは心地よく、アイリンは必ずジョージを守ろうと固く決意した。
- 28 :
- 「アイリン君、マックイイーン君、少し止まってくれないか。現在位置を確認したいんだ」
しばらく歩いた後、ジョージが二人を呼びとめる。三人は鍾洞から地上に出た今、誰かと会うことを目的に杜王町を目指している。
三人が先ほどまでいた鍾洞は、怪しげな研究所に繋がっていた。研究所内を調べまわった三人は、人がいたであろう痕跡は見つけたものの、他の参加者たちに会うことはできなかったのだ。
ジョージが薄明かりの元、デイパックより地図を取り出した。三人で顔を突き合わせるように地図を覗きこみ、自分たちのいる場所を探す。
ああだこうだと、少しばかりの問答の末、だいたいの位置をつきとめた。現在位置はC−6、杜王町に着くにはもう少し時間がかかりそうだ。
それを知ったマックイイーン、ほとんど反射的にぼやく。それを聞いたジョージ、躊躇することなく指導にはいる。
まるで漫才だ。二人が真剣なだけに、余計に滑稽だった。アイリンは笑いをかみし、二人よりほんの少しだけ先を歩いていく。
杜王町に続いているであろう道路は広く、どこまでも続いているかのようだ。
後ろから聞こえる騒々しい漫才に耳を傾けながら、アイリンの心は穏やかだった。一時の平穏を彼女は噛みしめるように、楽しんでいた。
―――カツン、カツン……
アイリンの目つきが変わる。片手をあげ、二人の注意をひきつけると、音をたてないように合図を送る。アイリン自身も闇に融けていくかのように、気配を消していく。
数メートル先の十字路、左の角を曲がった先から音は近づいてくる。
カラン、コロン……ガリ、ギリ……。無神経に立てられる足音に紛れて刃物を研ぐような音が聞こえた。
ガリガリ……ブツブツ……。無警戒に近づいてくる何者かは様々な音を連れ、ゆっくりとこちらに向かってくる。
電燈が照らし出し、大きく伸びた影が見えた。ヒョコヒョコと人影が左右に揺れ、まるで地面の上でダンスを踊っているかのようだ。
張りつめた緊張感、息詰まる一瞬。だが来訪者は意外なほど、呆気なく姿を現した。
十字路にヌッと姿を現したのは小柄な人影。とても大きく、ぎょろりと剥き出しの目、顔中カサブタだらけの奇妙な風貌が暗がりの街並みにマッチしていた。
逆光の中、アイリンは目を細めて少年の顔を見る。そう、少年と言っていいほどに、彼は幼かった。
後ろに隠れていたジョージがホッと息を吐くのがわかった。身を縮めていたマックイイーンも緊張が緩んだのか、大きく空を仰ぐ。
「アイリン君?」
「おじさま……下がっていてください…………」
しかし、アイリンは少年に声をかけようとしたジョージの前に立ちふさがった。
不審そうに問いかける彼のほうを一瞥もせずに、アイリンはジョージを庇うように両手を広げる。
震えが止まらない。まるで吹雪の中に裸で放り出されたかのように、アイリンの身体が細かく揺れる。
ジョージもマックイイーンも知らぬことであった。彼らの目にはマヌケそうな少年がただ突っ立てるように見えたのだろう。
だがアイリンは確かに感じた。緊張でカラカラになった喉、カサカサに乾いた唇。迫りくる怖気はアイリンが今まで体験したものの中でも飛びぬけている。
十字路に姿を現し、動くことのなかった少年がゆっくりとこちらを向く。半眼に閉じられた少年の目が、はっきりとアイリン達を捕えた。
闇の世界に生きるアイリンにはわかったのだ。ジョージもマックイイーンもわからない、『こちら側』の世界の住人だけがもつ、ほの暗さ。そして少年が持つほの暗さはどこまでも深く、誰よりも濃いものであった。
少年の持つナイフがギラリと煌めく。薄明かりに照らし出された四人の影が、陽炎のようにゆらりと揺れた。
◆
- 29 :
- 「止まりなさいッ」
「…………」
「……アイリン君?」
アイリンの鋭い警告、意外にもヴィットリオは素直に従い、その場に立ち止まる。
魂が抜けたような虚ろな表情は何を考えているのか。ぼんやりと立ちすくむヴィットリオをアイリンは睨みつける。
険しい目つきのアイリン、突然の登場にも関わらず言葉を発さない無表情のヴィットリオ。ジョージはそんな二人を見比べる。不穏な空気を感じつつも、何も知らない彼には二人の無言の会話がわからない。
口を開こうとしたジョージを押し黙らせ、二人を少年からどんどん遠ざけて行くアイリン。
そんな彼女の鬼気迫る様子に、ジョージもマックイイーンも思わず圧倒されてしまう。口を開こうにも、そうすることもできず、ゆっくりと下がっていく三人たち。
少年はそれを眺めていた。ゆっくりと遠ざかっていく三人をぼんやりと見つめていた。
そして彼はなんでもないように……、常日頃からそうしているように、手軽な感じで…………ナイフを自らの脚に突き立てた!
「「「えッ?!」」」
何度も、何度も! 振り上げては自分の脚へと叩き下ろされる切っ先!
真っ赤な血しぶきが舞う。頸動脈を傷けられたのか、吹き上がる大量の血液が噴水のようなアーチを描く。
ぐりぐりと骨まで削るような痛みが電流となり、頭のてっぺんから足元まで痛みが貫いて行く。
脚の力が抜けていく。剥き出しの筋肉、チラリと見えた白い骨。過激な自傷行為は加速していく。
足腰は立たず、絶えぬ激痛に脳が耐えきれなくなる。何が起きているのか考えられなくなるほどに、痛みが、傷が増えていく。
真っ赤に染まった脚はもはや形が変わっていた。歪なアートに白い骨のキャンバス、真っ赤な絵の具のトッピング。
倒れ込んだのは……刃物を振りかざし、狂気に魅せられたヴィットリオではなかった。
突然自分の身におきた謎の出来事。一瞬の合間に脚が無惨な形に。倒れ込んでしまったのは、離れて立っていたはずのアイリンだった!
「アイリン君ッ!!」
屈むジョージの心配そうな顔、恐怖に震えるマックイイーンの身体。そんな三人目掛けてヴィットリオが猛烈に走り出したのがアイリンには見えた。
刀を振り下ろしたのと同じぐらい唐突で、そして素早く接近する敵。狙われたのは動けないアイリン!
庇うようにジョージが飛び出した! アイリンを傷つけさせまいと、ヴィットリオを突き飛ばし、二人は道路上でもみくちゃの掴みあい。
石畳の上で転がりあう二つの影、加勢に入ろうとアイリンは立ち上がりかけるが、脚の出血と痛みがそれを許さない。
ナイフを取りあげようと腕にかじりつくジョージ。唸り声をあげ、ヴィットリオが力で老人を振り切る。次の瞬間、地面に投げ伏せられたジョージの胸に、刃物の一閃が走った!
「グ、うッ…………!」
「おじさまッ!」
何を切ったか、わかっているのかわかってないのか。あるいは一切興味がないのかもしれない。
ヴィットリオは倒れ伏したジョージを、無感動で、無表情な目で見降ろしていた。
両手の指、その隙間から絶え間なく流れ続ける真っ赤な濁流。ジョージの手が、胸が、あっとういまに朱色に染まっていく!
倒れ伏した老人の胴体に、ヴィットリオが慈悲もなく蹴りを叩きこんだ!
呻く老人、アイリンの悲鳴。ヴィットリオは淡々と、まるで作業でもこなすように、ジョージの体を痛み付ける。蹴りあげ、殴りつけ、切りつける。
その一発が、一動作が行われるたびにアイリンは自分自身が傷つけられているかのような錯覚に陥る。
まるで自分が殴られているかのような痛みが襲いかかってくる。まるで自分の胃が蹴りあげられているかのように吐き気がこみ上げてくる。
横たわっているのはジョージのはず、傷つけられているのはジョージのはず。だがその痛みはアイリンの痛みだ。傷つけられているのはアイリンだ。
やめて! やめなさい!
そう思っている。なんとかしてやりたいと思う。だが身体は言うことを聞いてくれない。
脚の出血が激しいせいか、一気に血を失ったせいか。次第にアイリンは頭に激しい痛みを感じ始めた。まるでレンガであまたを殴られているかのような、鈍い断続的な痛み。
- 30 :
- ジョージを守れるのは自分しかいない。アイリン、マックイイーン、そしてジョージ。
さっき誓ったばかりでないか。鍾洞で、ジョージがプライドを投げ捨ててまで頼みこんでくれたのは、この自分だったではないか。
無力だなんて嫌だ。助けたい、ジョージを。痛みなんかに……負けてたまるかッ!
しかしそんな熱情も霞むほどの痛み。いまや痛みは錯覚ではなく、確かな事実としてアイリンの身に襲いかかる。
額が割れるようだ。いや、実際に割れているのではないか。じゃなかったらこの垂れ流れる血液は何だ。鼻筋、瞼に覆いかぶさるこの真っ赤な液体は何だ?
ぐちゃぐちゃになってしまった脚、留まることのない額からの出血と痛み。アイリンの意識が次第に薄れていく。疑惑と憂いも、痛みが吹き飛ばしていく。安息と安らぎが彼女を遠ざけていく。
少し、また少し、霞み、消えていく世界……。痛みが走る、だがそれも薄らいでいく。沈んでいく……アイリンの意識が闇の中へと沈んでいく……。
「……ハッ!?」
「なんだァー、こりゃーーーッ!?」
跳びかけた意識を何とかつなぎとめ、アイリンは痛みに抗い身体を起こそうとする。ヴィットリオの間の抜けた声が彼女の意識を鮮明にした。
彼女は数時間前のことを思い出す。ジョージと出会ったあの鍾洞での出来事を思い出す!
彼女は知っているッ ジョージとマックイイーン、彼ら二人の会話が彼女の記憶を揺り起こすッ!
なんとか起き上がった彼女の目にうつったのは謎のプロペラ群。身体にまとわりつくように浮遊するプロペラ群が、アイリンだけでなく、ジョージにも、そしてヴィットリオにも現れていた!
―――ガス、ガス、ガスッ…………!
「アイリンが倒れこんでる……ジョージさんが傷つけられてる……。
なのに俺は何もできない。怖くなって脚が竦んで、ただ突っ立てるだけだ…………」
そう、これはマックイイーンの不思議な能力ッ アイリンにダメージを与えていたのはヴィットリオでもなく、ジョージでもないッ
純粋なる邪悪、敵意なき悪意ッ サンダ―・マックイイーンの『ハイウェイ・トゥ・ヘル』ッ!
鈍い打撃音が路上にこだまする。リズムよく金槌で釘を打つかのように、一定の間隔を刻んでマックイイーは自らの頭部を民家の壁に叩きつけていた。
民家の漆喰が剥がれおちるほどの勢いで、繰り返しマックイイーンは頭を打ちつける。ブツブツ、誰に向けられたのかもわからぬ言葉をつぶやき、虚ろな瞳で壁を見続ける。
そしてマックイイーンがダメージを受けるたびに、アイリンの頭部にも鈍い痛みが走る。まるで実際に壁に頭を打ち付けているかのような、鈍痛が一発一発襲いかかるッ
「ジョージさんの言った通りだ。俺は死にたい、死にたいとか言いながら、全然そんなことは思ってねェんだ。自分の命が惜しいんだ。
だってよォー……ほんとに死にたいなら、死ぬ気で誰かを守ってやるって思えるはずだろ?
ジョージさんみたいに、アイリンを庇って死ぬのは俺だったはずだろ?」
―――ガス、ガス、ガスッ…………! ガス、ガス、ガスッ…………!
額が割れ、顔中が真っ赤に染まっても彼は作業をやめようとはしなかった。
彼の頭部が激しく血を噴けば噴くほど、地べたに横たわるアイリンの頭部も同様に染まっていく。彼はそれを意に介さない。
いや、自分一人ではない、という道連れの悪意がこそが彼の原動力!
三人を巻き込みながら、彼はそれでも一切気を払うことなく狂ったように頭を打ちつけ続けていた。
民家の壁がキャンバスかのように紅で染まり上がっても、マックイイーンはやめようとしなかった。
「だってのに結局このざまだ。情けねェなァ〜〜、俺はよォ〜〜〜……。
ああ、死にてェ……こんな俺なんて生きてても価値ねェよな? 意味ないよな?
死ぬ気でなんかやろうだなんて結局俺に出来るわけがなかったんだよ。俺はジョージさんみたいにカッコよくなれねェんだ……。
ああ、何勘違いしてたんだろな、俺はよォ〜〜。死にたくなってきた…………。
こんな俺がいてもジョージさんにも迷惑かけるだけだ。アイリンの足を引っ張って邪魔するだけだ。だったらいっそのこと……」
アイリンにはどうにでもできなかった。朦朧とした意識を何とかつなぎとめ、目の前の光景を呆然と見つめるだけでも彼女は精一杯。
故にマックイイーンの次の行動に彼女は叫ぶしかできなかった。デイパックへとゆっくり手を伸ばしていくマックイイーン、彼が中から取り出したのは一丁の拳銃。
支給品、ワルサーP99。
- 31 :
- 支援
- 32 :
- 「ばッ……!」
「死んだほうがマシだろうなァ…………」
アイリンは血の気が引くのを感じた。自分の顔から、わずかに残っていた赤みすら消えたのが、確かに、彼女にはわかった。
マックイイーンはやるだろう……彼は本気だ。彼には『何にもない』。空っぽの虚無感、底知れない理解不能の情熱が彼を突き動かしているッ
アイリンにミスがあるとしたら、マックイイーンを軽んじていた事。ジョージのお人好し具合に押し切られる形で、彼への警戒心を緩めていた事。
「死んでやるゥゥゥウウ―――ッ! 独りぼっちでくのは寂しいからよォオオ、皆も一緒にってくれよォオオ―――ッ!」
マックイイーンがトリガーに指をかける。銃口はこめかみに向かって一直線、あとほんのすこし指を動かすだけで、彼は脳髄をまきちらしあの世に『ける』だろう。
それは即ち、死。それも奇妙な自傷願望を持つ男一人が勝手に死ぬだけでなく、アイリンも、ジョージも、周りの三人を巻きこんで起きる自と言う名の人行為。
マックイイーンの絶叫が響いた。アイリンは何もできない。すぐそこまで迫った死を前に、彼女は何も考えられず、だが、目をつぶりその時が来るのを待った。
――銃声は響かなかった。
かわりに響いたのはスカッと、気持ち良くなるぐらいの鮮やかな張り手音。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするマックイイーン。けたたましい音を立て、地面で拳銃が跳ねまわる。反射的に、彼ははたかれた自分自身の頬をなでていた。
息も絶え絶え、肩で出呼吸をしながら、残された生命力を燃やすように、ジョージは生きていた。血だらけになりながら、気力だけで立ち上がったジョージがマックイイーンの前にいた。
やつあたりのように、転がる拳銃を蹴飛ばしたジョージ。彼を支えているのは情熱、そして……怒りだ。
温厚で、紳士的。そんなジョージ・ジョースターT世が怒っていた。怒りに体全身を揺らし、その声は怒りのあまり、わなわなと震えていた。
「君は、心底、馬鹿ものだ、マックイイーン君ッッッ!」
呆然のアイリン、唖然とするマックイイーン。少し離れた場所でけだるそうに立ち上がったヴィットリオが、不思議なものを見た様に首を傾げていた。
「どうして皆したがるッ?! どうして皆死にたがるッ!? そんなに世界が憎いのか、そんなに世の中が怖いのかッ
誰もかれもがそうやって命を投げ捨てるッ 簡単に、見切りをつけて、諦めて死のうとするッ
何故だッ そうやって君たちが生きている世界は、誰かが望んでも生きられなった世界なんだぞッ!
誰かが生きたい生きたい、そう望んでやまなかった一日なんだぞッ!
命を投げ捨てるな、若造たちがッ 君たちが生きている今は、私が、私の妻が、どうあがいても手に入れることができなかった一瞬なのだぞッ……
ふざけるな、侮辱するな……くそ、くそ、クソォ…………ッ!」
マックイイーンの肩を揺さぶり、唾を吐きかけない勢いでジョージは叫んだ。
面と面を合わせて、至近距離で、一切眼を逸らすことなく、彼は叫んだ。
魂の咆哮だった。叫び終わったジョージが、マックイイーンの足元で、唸るように地面を拳で叩く。
アイリンは何が起きたかわからない。マックイイーンもおろおろとその場でジョージの背に手を置き、途方に暮れている。どうやら自願望は吹っ飛んでしまったようだ。
悔しかったのだろう、ジョージは。アイリンは思う。
鍾洞でジョージはマックイイーンに頭を下げ、心をこめて頼み込んだのだ。そして道中も、なんとか彼の歪んだ精神を前向きにしてやろうと、懸命に励まし続けてきた。
それがこのざまだ。だが決して、ジョージはマックイイーンが憎いのではない。マックイイーンを怨んでいるわけでもない。
(おじさま……貴方は、貴方と言う人はお人好しすぎますッ)
ジョージ・ジョースターT世はその事に気付けなかった自分を戒めているッ! そんなマックイイーンのことを理解できなかったことを悔やんでいるのだッ!
- 33 :
- 支援
- 34 :
- 自分はマックイイーン君をおだて、誤魔化し、先送りにしてきただけだったのではないか。どこか楽観視して、惰性で問題を後回しにしていただけはないか。
マックイイーン君の事を考えて自分は本当に彼と向き合っていたのか?
本当に彼のためを思っていた、そう自分は胸を張って誇りを抱いて宣誓できるだろうか? 百パーセント、全力全開で努力をした、そう言えるだろうか?
悔しがっているのは伝えきれなかった自分の力量。マックイイーンの自願望を覆すほどに、忘れさせるほどに導けなかった自分の度量のなさ。
もっと話しておけばよかった。もっと必死に伝えるべきだった。
呆れを通り越し、アイリンはもはや嘆息するほかなかった。自分たちが少年に襲われていることすら忘れ、こんな状況ですら彼は心底悔んでいるのだ。
狂気! アイリンの底に沸き上がった感情はまさにそれ! ジョージ・ジョースターは誰よりも、普通で、無力なものにみえる。
しかし、実態は違うッ! この場にいる誰よりも……アイリンよりも、マックイイーンよりも、底知れない少年よりも!
ジョージのお人好し具合は群を抜き、天を貫き、狂気というのに相応しいッ!
もし彼が持っているという能力があるとするならば、正気の沙汰ではないその能力ッ まさに『狂気』というほかないだろうッ!
「君もだ、少年……」
しばらく経った後、悔し涙を拭ったジョージが問いかける。
ナイフを持った人鬼は地べたにしゃがみ込む三人を前に困惑しているのか、何も考えてないのか、ついさっきまで襲いかかってきたこと忘れたかの様に、その場に突っ立っていた。ただ黙ってジョージの姿をじーっと見つめていた。
マックイイーンの手を借り、ジョージが立ち上がる。しゃがれ声で彼は少年へと問いかける。
「すだの、死ぬだの……もう沢山なんだ。見ての通り、私は弱い。誰よりも……なによりも。無力すぎるぐらいだ。
目の前の彼の苦しみすら理解できてやれない、アイリン君が怪我を負ったのも私のせい。
大人としての責務を果たすどころか、足を引っ張るばかりだ。私は何もできない、ただの無力な田舎者の紳士だ。
しかし、君は違う。ナイフ一本で我々に立ち向かったのはものすごい勇気が必要だったろう。し合いに巻き込まれ、ものすごい葛藤の末に、君は武器をとったのだろう。
その勇気を私に分けてくれはしないか。そもそも私たち三人はし合いなんぞに乗っていやしない。
あらぬ誤解から生まれた戦いなんだ、これは。我々は本来手を取り合える仲なんだ……」
一歩、一歩。さきほどまで凶器を振り上げていた少年に馬鹿正直に手を差し伸べ、近づいて行く。
純粋無垢、天真爛漫、馬鹿正直。ジョージの目に輝く希望や望みというものはあまりに眩しすぎる、美しすぎる。
人しの舞台で人を疑わずにはいられない自分がおかしいのだろうか、そうアイリンに思わせるほどであった。
少年も同じように感じたのだろか、きまりが悪いようにナイフを持った手で鼻頭を軽くかく。
少しもごもごと口を動かした後、ポツリポツリと言葉をこぼす。決して大きな声ではなかったが、静まり返った道路で、その声はよく響いた。
- 35 :
-
「なんッてかよォー、おっさん、相当ぶっトンデやがんぜェ……。
マゾヒストってか? にしても流石の俺もどんビクぐらいだ。いくら俺でも他人に蹴られ殴られしたらプッツンくるっつーのにさ。
勇気だの、無力だのよォ……お花畑かァ、あんたの中身は? 頭、ヤクでもやってるんじゃねェのかって思いたくなるぐらいだ、アンタのおつむの中はさァ。
にしてもおかしーつの? とんでもねーつーの? ヤクやっててもここまでトんだやつはいねーよな。
ましてこれがシラフ? さぞかしオッサンはよォ、生きてるっつー感覚に溢れかえってんじゃねーの。
ただなァ……ただァ…………」
言葉の最中、なんどか痰を吐くような苦しそうに咳をする。心配そうにジョージが少年の目を覗きこむ。それをわかっていて少年は敢えて、空中をぼうっと見つめる。
ジョージに対する答えは喉に絡み付き、言葉として出てこないかのようだ。何度か、うなり声のような意味の成さない言葉を発し、つまりだなァ、とか、そうだなァ、と少年は繰り返した。
なかなか言うべきことが見つからないようで、彼はうろうろと歩きまわり、苛立ち気にナイフを何度か素振りする。
心配そうな顔でマックイイーンがジョージをちらちら見るのがアイリンの視界に映った。
そしてそんなマックイイーンを落ち着かせるように、優しく微笑むジョージがいた。太陽のように眩しく、春の日差しのようにその笑顔は暖かかった。
ジョージは待つ。どこまでも真っすぐな目で、自分の信念を貫き、少年へと手を差し伸べる。
友好の一歩は自らの一歩。あとはそんなジョージの狂気に少年が魅せられるかどうかだ。
「ただ一言、俺から言わせてもらうとよォ……」
不意に、少年が言葉を口にした。食堂で級友にソースをとって、というかのような気軽な口調だった。
思わぬところから言葉が舞い降りてきたかのように、ポンと少年は言葉を吐きだした。視線はジョージに向いておらず、バツが悪いかのように自らの足元へと向けられていた。
並び立つ三つの影、訪れた静寂。アイリンはゴクリと唾を飲み込んだ。
誰も動かず、少年の次の言葉を、今か今かと待ち望んでいる。マックイイーンの能力によって割れた額が疼きだした。
たらァ……と一筋の血が流れ、アイリンは目に入りそうになったそれを拭おうと下を向いた。
- 36 :
-
―――次の瞬間
胃が縮むような肉を切り裂く音と、何か重さを持ったものが地面で弾む音をアイリンは聞いた。
そして幼い少年の声。その声にはカラカラに乾ききった達観が込められていた。
「なァに言ってんだ、お前」
カランカラン、とジョージの首から外れた首輪が地面に落ち派手な音を立てた。
糸を無造作にちぎられたマリオネットかのように、ジョージの身体が地べたに崩れ落ちる。
「えっ?」
マックイイーンの間抜けな声。そしてその呟きが彼の最後の言葉になった。
黒豹のように飛び跳ねた少年が、マックイイーンの懐に、たったの一歩で潜り込む。
ジョージの首を跳ね飛ばしたナイフが、返しの一刺しでマックイイーンの首を貫いていた。
ぴちょん、という音が静まり返った町に響き渡った。
それはジョージの首からドクドクと流れ続ける血が跳ねた音なのか、マックイイーンの首筋から噴き上がる見事な血のシャワーの音なのか、その時のアイリンにはわからなかった。
最後にアイリンが聞いたのは誰かの悲鳴。喉が、肺が焼けるように熱い。甲高い女性の声が鼓膜を振るわしていた。
二人の血を全身で浴び、額から垂れ落ちる血と涙で視界が真っ赤に染まった。もう何も見えない……、もうなにもみたくない。
ゆっくりと小柄な少年のような影が近づいてきて、右手に持った何かを振りかぶる。
そして―――
【ジョージ・ジョースターT世 死亡】
【サンダ―・マックイイーン 死亡】
【アイリン・ラポーナ 死亡】
- 37 :
- ◆
と、このへんでやめておくか。これ以上話してもつまらないし、なにより、『いささか不適切』なんでね……。
『す』ことが得意のアイリン・ラポーナ。『自』することの達人、サンダ―・マックイィーン。逆に考えるが勝ち、『説得』のプロフェッショナル、ジョージ・ジョースターT世。
そんな奇妙な三人組が行きついた先は仲良くそろってあの世行き。皮肉だねェ、なんとも。
今回の話しで言えばあまりに相性が悪すぎた。
ヴィットリオを『す』ことはとっても難しいし、『道連れ』しようたってなかなかうまくいかない。ましてや『説得』だなんて……元々会話の通じない相手なんだから、それは無理ってもんだよ。
それぞれの狂気が暴走した結果がこのざまだよッ……って感じかな?
ただ、補足と言っちゃなんだけど、一つだけ紹介しておきたいことがあるんだ。俺の好きな言葉にね、こんな一節がある。
作者はたしか……フリードリヒ・ニーチェだったかな?
『怪物と戦う者は自らも怪物とならないように気を付けねばならない。
汝が深淵を覗き込むとき、深淵もまた汝を覗き込んでいるのだ』
今回の話で言えば一体誰が怪物だったんだろうね?
狂気に魅入られ、怪物になれ果てたのはジョージ? マックイイーン? ヴィットリオ?
それとも……知らず知らずのうちにアイリン・ラポーナこそが狂気に魅入られ、怪物となっていたのかな?
一つわかっているのは……ここではマトモな神経してるやつこそ、どんどん死んでいくことになるだろう。
皆も狂人、全員狂人。タガが外れてるやつこそが強靭だったりするもんだ。イカれてるのさ、この状況で。
この話はまた今度の機会に話そうか。狂気、そしてそれが生み出す『怪物』。
これについてはまたの機会に…………―――
【C-6 中央/1日目 黎明】
【ビットリオ・カタルディ】
[スタンド]:『ドリー・ダガー』
[時間軸]:追手の存在に気付いた直後(恥知らず 第二章『塔を立てよう』の終わりから)
[状態]:体力消耗(中)、貧血気味、肩にダメージ(小)、片脚にダメージ(中)、額から出血(小)
[装備]:ドリー・ダガー、ワルサーP99(20/20)、予備弾薬40発
[道具]: 基本支給品×6(自分、ポルナレフ、アヴドゥル、アイリン、マックイイーン、ジョージ)、不明支給品×四人分(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:とにかくし合いゲームを楽しむ。
1.荷物を整理したい。いらないものは捨てる。
2.少し休みたい。さすがに傷つきすぎた。
[参考]
ビットリオはし合いについて深く考えていません。マッシモ・ヴォルペが参戦している可能性も考えていません。
マックイイーンの支給品はワルサーP99と予備弾薬でした。
不明支給品の内訳はヴィットリオ自身、ポルナレフ、ジョージ、アイリンの四人のものです。
脚へのダメージは歩ける、走れるものの治療なしで長時間の酷使はできない、ような状態です。脚を含め傷の状態の詳細は次回以降の書き手さんにお任せします。
C−6中央にジョージの頭部、首なしのジョージの死体、マックイイーンとアイリンの死体が放置されています。
【支給品紹介】
【ワルサーP99 と その予備弾薬@現実】
サンダ―・マックイイーンに支給された。
全長180mm、重量750g、装弾数20発、9mm口径の軍用・警察用自動拳銃。
漫画版『バトル・ロワイアル』では沼井充に支給され、沼井の死亡後は桐山和雄が、桐山死亡後は中川典子が使用した。
- 38 :
- 以上です。誤字脱字、なにかあれば指摘お願いします。
題名漢字二文字と冒頭・最後のモノローグはyxさんからパクった……もとい、オマージュです。
事後報告みたいになってすみません。でもやってみたかったんです。
予約、仮投下が多くてワクワクです。新人さんのクオリティの高さに憂鬱になったりもするけど、これまで以上に僕も頑張りたいです。
- 39 :
- 投下乙です!
なんという鬱…だが、それがいいッ!
貴重な女の子成分がまたひとり減ってしまった寂しさはありますが、それを補って余りある力作でした
ジョージさんの叫び以降は読んでてゾクゾクしました
気付いた点としては、本文中のヴィットリオ→ビットリオ、です
誤字脱字は…たぶんないんじゃないかなと思います
あと、拙作への感想もありがとうございます
DIO様のハーレムwwwww男しかいねえwwwwwwwww いや、マジでどういうことなの…
女子成分萌え萌えエンヤ婆もきっちり消滅させちゃいましたし…こうなったら他の書き手さんに頼るしか(チラッ
マッシモの反応は限りなく代弁に近いものがあります…特に「どうかしてるんじゃあないか」のあたり
ハードル…そんな上げたつもりもないんですが、DIO様(の描写)に関しては自重しなかった すいませェん
- 40 :
- お二方、投下乙でした。
>神に愛された男
DIO様というとどうしてもハイでWRYYYなDIO様が浮かんでしまいがちですが、
こういう静かに敵を仕留めるのは新鮮な印象で、且つ違和感がない。他の方も仰っていましたが、まさに3rdのDIOと言ったところでしょう。
大きく展開を動かした訳ではない(スポーツマックスごめんね)話ではありますが、今後に期待が出来る絶妙なパスだったと思います。
>狂気
お……俺だ!俺がいるぞ!w オマージュ、大いに結構ですよ。むしろ「パクった、もといオマージュです」という新たなネタを俺に提供してくれたわけでw
本編の方の感想ですが、見事に鬱展開でしたね。生き残ったのがビットリオ一人だからまだ引きずらなくていいか……?
数少ない女性枠&外伝キャラが減るのは少々残念な気もしますが、この話を見せつけられたら納得です。
どちらの作品もいよいよキャラの方針が明確になってきた、というのを見事に書ききってくれていると思います。
時間軸だけを見ればぼちぼち放送待ちになりそうなパートですが、今後に期待しています。
え?俺?えぇ、この予約ラッシュが落ち着いた頃に何かしら書きますよw
- 41 :
- ストレイツォ、吉良吉影、リキエル
本投下開始致します。
長さ的に、支援をいただければ幸いです。
- 42 :
- ―――D-2、サン・ジョルジュ・マジョーレ教会。
同じイタリアではあるが、本来ならばローマではなくヴェネツィアの島に存在する教会。
16世紀から18世紀にかけて建築され、ヴェネツィアを一望できる鐘楼や教会内部に存在する数々の名画などは有名な観光名所にもなっている。
このような神聖な場所にはふさわしくない人鬼の内面を持つ男、吉良吉影はストレイツォと名乗る波紋戦士と共に床に座り込んでいた。
二人は簡単な情報交換を行った後、地下も含めて教会内部には他に誰もいないことを確認し、今は地図などを見ながら今後について相談している真っ最中である。
「つまり、この『吉良邸』が君の家かどうかはわからない……ということか?」
「そうだ。杜王町というのはわたしが住んでいた町の名だが、駅や図書館の位置も違うし、なによりこんな滅茶苦茶な地形の中には存在しない」
「ふむ……」
とはいっても、提案や質問を行うのはほとんどストレイツォであり、吉良がそれに答えるという場合が多い。
吉良吉影はこのし合いの場においても極力目立たないように努めていた。
「では、この『首輪』についてどう思う? ……外せそうか?」
「……よくはわからないが、見た限りわたしのような素人に分解できる代物ではない。
それに、下手をすれば爆発の危険性がある以上、うかつに手を出すべきではないと思うがね」
「やはりそうか……ならば、ひとまずこの首輪は手がかりとして持っていこう」
消滅させた化け物(ワンチェン)の首輪を前にして相談するが、結局現時点では手出しできそうにないという結論に達する。
ストレイツォが首輪をデイパックにしまうのを見ながら、吉良は自分の立ち回りについて考えていた。
(まるで上司にペコペコするサラリーマンのようだが別に構わないだろう。
実際わたしにもこのハードすぎる状況下で良い考えなどないし、有用な意見をポンポン出したりすると逆に怪しまれかねん。
今のわたしは『一般人』なのだからね……)
あくまでも本音は隠しつつ、今度は吉良の方から質問する。
「それでストレイツォ、まずはどこへ向かうんだ?」
「うむ……最終的に目指したいと考えているのはこの教会のすぐ北にあるDIOの館、ここだ。
DIOとはおそらくディオ・ブランドーのことだろう。ならば奴はここにいる。
仲間達もおそらく、それを理解して集まってくるに違いない」
だが、と一息置いてストレイツォは続ける。
「しかし、今のわたし一人だけではディオに勝てるかどうかわからない。
ツェペリから応援の要請が来たということは、波紋戦士一人では手に余る相手だということだろう。
そこで、まずはこの教会の近辺を捜索して君のような巻き込まれた人間を探し、できるだけ保護する。
太陽が昇る時間になり、仲間達と合流したら皆でDIOの館へと向かおう」
「……わたしも、か?」
思わず確認する吉良。彼としては、危険な敵の本拠地に飛び込む気はさらさらなかった。
「このような妙な場所においてはいつ、どこで亡者が襲ってくるかわからない。
どこかに隠れているよりもわたし達と共に行動していた方が安全といえるだろう。
なに、心配せずとも君に戦いをさせる気など無い」
質問されることを予想していたのか、ストレイツォはすぐに答えを返す。
一方、吉良はストレイツォの提案について考えていた。
(……言っていることはわかる。実際、神聖な場所とされるこの『教会』に化け物がいた以上、
どこかに安全な場所があるとは考えにくい。だが……)
「……大丈夫なのか?」
- 43 :
- なにが、とは聞かない。
吉良は自分の認識に対し、ストレイツォが今の状況においてどのような『危険』の可能性を考えているか知っておきたかった。
「先程も言ったが、道中ディオの手下や亡者達が襲ってくるかもしれない。しかし、わたしの誇りにかけて君を守ろう。
彼らは太陽の下には出られない。朝になり、太陽が昇ればひとまずは安心といえる。
そして、我ら波紋戦士が集まれば、ディオにも勝てるはずだ。いや、必ず勝たねばならない」
(やむをえない……か。まあいい、情報収集という意味でも周辺の捜索はするべきだな……もっとも、DIOの館とやらにまでつきあう気はないがね)
ストレイツォから返ってきた答えは大体予想通りのもの。
吉良は頭の中では提案に賛成しつつも、いざとなれば別行動を取ることも選択肢に入れていた。
「わかった。……ところで」
「……? 何かな?」
頷いた後、吉良は気になっていた疑問を投げかける。
「その……『亡者』には生前の記憶というものは残っているのだろうか?」
「記憶……? ふむ、おぼろげに残っている者もいることがあるが、人を襲うという本能に抗える者はほぼ存在しない。
記憶があるかもしれないが、意味を成さない……といったところか。 ……なぜ、そんなことを?」
「……いや、化け物とはいえ、元々人間だった存在を倒すのに抵抗はないのかと思ったものでね……」
吉良のこの答えは嘘である。
彼の懸念は『死者が蘇る』という点にあった。
先程の化け物には『知能』も『感情』も存在した。
加えて『記憶』もあるとなると、自分の害した『被害者』が蘇った場合、自分のことをどう思うかは容易に想像できる。
『杉本鈴美』ただ一人を除いて『キラークイーン』で跡形もなく『始末』して遺体すら残っていない者ばかりではあるが、
自分への『手がかり』となってしまう可能性がある以上、念には念を入れなくてはならない。
特に、自分が無くした『彼女の手首』から全身が復元されて誰かに自分の特徴などを喋られる、などということがあっては破滅につながる。
(どちらにせよ、一刻も早く『彼女』を見つけなくてはならないな……
後は地図にある『吉良邸』がわたしの家だとして……そちらは問題ないだろう。
家に人の証拠など何一つ残してはいないし、重要な物も……いや、一つだけあったか。
わたしと父に『能力』を授けてくれた、不思議な『弓矢』が)
あの弓矢が一体何なのかは吉良自身も知らないが、他人の手に渡すべきではないということは理解できる。
とはいえ回収に向かう場合、会場の真ん中を横切らなければならない危険があるし、
無事に着いたとしても、そこが同姓の別人の家だったら骨折り損だ。
なにより『吉良邸』に向かう理由をストレイツォに説明しなければならないが、上手い言い訳が浮かばない。
(リスクが大きすぎるな……まあ、『弓矢』自体はわたしの人の証拠にはつながらないだろうし、
ここはひとまず、ストレイツォの提案に従っておいたほうがいいだろう。
……父が、家にいてくれれば問題は無いのだが)
弓矢に関しては保留とし、会話の続きへと意識を向ける。
先程の吉良の答えに一瞬だけ何かを思い返すような目をしたストレイツォだったが、すぐに厳しい表情になる。
「……忠告しておくが、亡者はたとえ生前の家族や知り合いであってもためらいなく襲う。
奴らには、安らかな眠りを与えることこそが唯一の救いだ。不用意に近づくと、命を落とすことになるぞ」
「肝に銘じておく。わたしからはこれくらいだろうか」
「……よし」
ストレイツォは地図をしまうと立ち上がる。思えば、情報交換に相談だけで随分時間が経過していた。
- 44 :
- 「それでは、出発しようか。ここはDIOの館に近い、ぐずぐずしていてはまた襲われるかもしれん。
……そういえば、荷物の中身は見たか? このロープは荷物の中にあった紙に隠されていた」
そう言いながら、ストレイツォは先程倒したワンチェンの荷物―――床に転がっていたデイパックを拾い上げて中身を改め始めた。
吉良もデイパックを開けて支給されたものについて確認しておく。
―――食料、水、地図、磁石、筆記用具、懐中電灯、そしてストレイツォが言っていた折りたたまれた紙。
紙を開いてみると、中にあったのは魔法瓶。
蓋を開けると、湯気と共にいい香りが漂ってきた。
(これは……ハーブティーか。しかし、紙と中身の容積が一致していないが、どうなっているんだ?)
「吉良」
考えている途中で声をかけられ吉良は振り返る、すると
ストレイツォが吉良に向かって薔薇の花を差し出していた。
……一瞬、あるいはもうすこし長いかもしれない沈黙。
(………………似合ってはいる。だがこの男、何のつもりだ?)
吉良は思わず絶句するも、何とか喉の奥から言葉を絞り出す。
「………………ええと、これは?」
「持っておけ。これはヤツの荷物に入っていた『波紋入りの薔薇』だそうだ。亡者に襲われたとき、投げつければ武器になるだろう」
「……はあ」
今の自分はさぞかし間抜けな表情をしているだろうなと思いつつ、吉良は薔薇を受け取る。
(……ハーブティーよりは役に立つかもしれんが、どちらにせよ『キラークイーン』の方が破壊力は大きいだろう。
おおっぴらに使える、という点を除けばあまりアテにしないほうが得策だな……)
「では、今度こそ出発だ」
やるべきことは全て済ませた、とストレイツォは入り口の方へと歩いていく。
吉良も道具をデイパックに入れると遅れないように急いで付いていった。
だが教会から外に出たところで、吉良はストレイツォの様子がおかしいのに気付く。
「どうし……」
「静かに、何者かが近くにいる。念のため下がっていろ」
その言葉を聞いて後ろに下がりつつ、吉良はストレイツォと同じ方向へ視線を向ける。
吉良の目では人の姿を確認することは出来なかったが、ストレイツォは『波紋法』で何者かの存在を感じ取っていた。
(やれやれ、面倒なことにならなければいいが……)
心の中でため息をつきながら建物の陰に隠れる吉良。
しかし程なくして、彼は自分の身体に異変が起きていることに気付いた…………
- 45 :
- 支援
- 46 :
- #
「そこに隠れている者よ、わたしたちは君を傷つける気はない。姿を―――」
前に出たストレイツォは未だ姿を見せない相手に向かい出てくるよう声をかける。
だが……
「やれ!ロッズ達ッ!!」
「―――!?」
隠れていた男―――リキエルはストレイツォの言葉を最後まで待たずに不意打ちを仕掛けた。
ストレイツォは相手の言葉に危険を察知し、距離をとるため飛びずさろうとするが……
(……足が!?)
片足のみが何故か意思に反して妙な方向に曲がり、ストレイツォは体制を崩して転んでしまう。
それを見て、リキエルは物陰から姿を現した。
「……待て! 話を―――」
「二人、いるのか。同時に始末することが可能だ、ロッズにはそれができる。
しかし先にどうにかするべき厄介な相手は……お前の方だッ!」
リキエルはストレイツォの言葉に耳を傾けようともせず、再び能力を繰り出した。
目の前にいるストレイツォと、建物の陰に隠れている吉良を狙ってロッズを飛び回らせる。
対するストレイツォにとっては気配は感じるものの姿の見えない何かがいる、ということしかわからない。
(なんだ……この男、何をしている……!? 周りに何かがいるようだが、見えん……! それに、どうやって触れもせずわたしに攻撃を……)
考えながらも相手の攻撃を止めるためにロープを構え、リキエルに向かって投げつける。
しかし、正確に投げたはずのロープは動こうとしないリキエルから逸れて地面に落ちてしまった。
ストレイツォには分からないことだが、このときリキエルがロッズに手の体温を奪わせたため関節が勝手に曲がり、狙いが外れたのだった。
「無駄だ、そんな苦し紛れの攻撃が当たると思ったかッ?」
(どうなっている……ならば地面を伝わる波紋を…………ッ!?)
足から地面に波紋を流そうとしたストレイツォは驚愕した。
いつのまにか呼吸が乱れ、波紋がまともに練れなくなっている。
同時に口からは血と、綿のようなカスが出てくるという明らかな異常が起こっていた。
(い、いつの間に……!?)
焦りを感じ始めるストレイツォ。
リキエルは余裕の表情を浮かべながらその様子を眺める。
「もう終わりか……? 手ごたえのない奴だ。さっき倒した奴でももう少し頑張ったっていうのによッ!」
(『さっき倒した』だと!? この男、誰かを害してきたというのか……?)
「つまらないな……それじゃあ、そろそろとどめといこう。もっと近づくからな」
ストレイツォに向かって1歩、また1歩とリキエルは近づいてくる。
先程の発言には聞き捨てならない箇所もあったものの、今は他人よりも自分の方が重要であった。
理由はわからないが、ヤツを近づかせてはならない―――そう考えるも、片足は依然妙な方向に曲がったままで、
加えて手の指までもが勝手に折り曲がり、自由に動かせなくなっていた。
- 47 :
- (くっ、いかん……ヤツは近づくといっていたが、この状態では波紋はおろか格闘すらも満足にできん……
しかし、あきらめるわけにはいかん……! わたしの後ろには吉良がいる……
なにより波紋戦士として、このような悪漢に負けることなど許されん!!)
だが、リキエルとの距離が縮まってきても、ストレイツォはいまだ希望を捨ててはいなかった。
(見ていろ……わずかでもチャンスがあれば、最大の一撃を喰らわせてやる―――)
数刻前にこのし合いの会場のどこかで強大な悪と共に散った男と同じく、守るべき者がいる限り決してあきらめない誇り高き存在。
―――それが『波紋戦士』だった。
#
―――一方、後ろに下がった吉良。
(クソッ……何故だ、勝手にまぶたが落ちて……出血している!? それに、右手の指の関節が妙な方向にッ!)
彼もまた、ロッズの攻撃を受けて身体に異常をきたしていた。
集中的に攻撃されているストレイツォと比べて症状は僅かに軽いが、攻撃の正体がつかめないという不気味さは同じであった。
落ちてくるまぶたを左手で無理やり開き、どうにか視界を確保する。
その目に飛び込んできたのは地面に膝をつくストレイツォと、そこへゆっくりと近づいていく『敵』の姿。
(ストレイツォは劣勢か……どうする?)
吉良にとってこの場合のどうするとは『戦うか逃げるか』ではなく、『相手を如何にして倒すか』ということである。
なぜならば、吉良吉影は追ってくる者を気にして背後におびえるというのはまっぴらな性格だからだ。
このような攻撃の正体も射程距離も不明な『敵』を放置して逃げるという選択肢は元から無かったのである。
加えるなら、自分の『隠れ蓑』となるストレイツォを早々に失いたくはないという理由もあった。
さすがに目立ちたくないなどと言っている場合ではないため、バレない程度に『キラークイーン』を使うことも視野に入れて考える。
(近くの石を爆弾に……ダメだ、接触型はこんな状態でヤツに当てられるかどうかわからんし、
点火型を使うにしても右手が妙な状態になっていてスイッチが押せん、なによりストレイツォは目を閉じていない!
シアーハートアタックは……これもダメだ、位置関係が悪すぎる……今のままではヤツよりも先にストレイツォの体温を感知して……体温?)
ふと気がついたことがあり、冷静になって考える。
(そういえば、わたしやストレイツォに出ている症状には覚えがある……たしか、家にあった人体健康事典に載っていた―――)
吉良吉影は長所を人前に出さない男である。
出た大学は二流だったが、それはあくまで目立たないようにするため。
本来の彼は、高い知能と能力を隠し持つ恐るべき男なのである。
(関節が曲がる、まぶたが落ちる、口から綿のようなカスが出る、これらの症状は全て『体温が低くなった場合』に発生するものだ!
どうやってかは知らないが、ヤツはわたしたちから『体温』を奪っていたというわけかッ!!)
吉良は自身の知識と記憶、そして現在の状況から、あっさりとリキエルの攻撃の正体に辿り着いた。
続いて、対処法について頭を巡らせる。
(ならばシアーハートアタックで……いや待て、わたしとストレイツォの症状が違うということは、
攻撃されている部位が限定的だと考えるべきだ……ストレイツォの体温が残っている部分によってはそちらに向かってしまう可能性もある。
……となれば、ストレイツォの説明で聞いた限りだが、『波紋法』でなんとかしてもらうのが手っ取り早いッ!)
急いでデイパックを開き、目的の物を探り当てるとリキエルに向かって走り出す。
- 48 :
- 「ストレイツォ!」
「吉良……? 来るな、逃げ―――」
「……そっちかッ!!」
大声で叫び、リキエルとストレイツォ、両方の注意を自分の方にひきつける。
リキエルも向かってくる吉良に向き直り、ロッズを差し向けようとする。
その瞬間、吉良は行動を起こした。
「体温だッ! ヤツはこちらの体温を奪っているッ!!」
「……そうかッ!」
叫ぶと同時に蓋を開けた魔法瓶をストレイツォに向かって投げる。
(さて……これでも負けるようなら『波紋法』とやらもそこまでだということだ。
そのときは、わたしも『キラークイーン』を出し惜しみしている場合ではないな……)
直後、吉良は足の体温を奪われて関節が曲がり、地面に倒れこむ。
傍から見れば自己犠牲に見えるが、彼はストレイツォが負けた場合においてもしっかり次の手を考えていた。
吉良がそんなことを考えているとは露知らず、熱いハーブティーを頭からかぶり一時的に体温低下を防いだストレイツォは間髪いれず次の行動に移った。
「炎の波紋ッ! 緋色の波紋疾走(スカーレットオーバードライブ)!!」
自らの身体を殴って波紋を流し、熱エネルギーを発生させることにより全身の体温を上昇させる!
ロッズが奪う以上の熱量を発生させることで、ストレイツォの身体は自由を取り戻したのだった!
吉良に追撃を加えようとするリキエルにストレイツォは素早くロープを投げる。
「ハッ!!」
「……グッ!? このッ……」
リキエルの周りに配置されていたロッズはロープに流される『はじく波紋』で弾き飛ばされ、今度こそリキエルの首にロープが食い込む。
自分の首へと視線を移したリキエルは、一刻も早くロープを外そうと手を掛けるが……
バチッ!
(!? ビリッときたぁぁぁ!!)
ロープを通じて流された波紋がリキエルの動きを止める。
その隙にストレイツォはロープを引き寄せると、リキエルに向かって駆けた!
「……おまえ、何を!?」
「このストレイツォ―――」
このとき、リキエルには黄金に輝き全身から発熱するストレイツォのどこから体温を奪うべきかがわからなかった。
もし、リキエル自身に『全身が炎に包まれるような』経験があるか、あるいは『波紋法』についての知識があれば、
彼は迷いなく、ストレイツォの『口の中』を狙っていただろう。
奇妙なことに、リキエルがこのし合いに参加しない『本来の運命』を辿っていた場合でも、彼は似たような状況に遭遇することになる。
そしてその場合、彼は自分の身体に火を放つという荒業で一時的とはいえ乗り切ることに成功しているのだ。
しかし『今の』リキエルにはそのようなことは出来ず、一瞬の躊躇が致命的な隙を生み出してしまった。
「ロッ……」
「―――容赦せん!」
- 49 :
- 支援
- 50 :
-
ボッゴォッッッ!!
―――直撃。
格闘者として鍛え上げられたストレイツォが繰り出した顔面への容赦ない蹴りの一撃は、単なる暴走族でしかないリキエルには重すぎた。
あっさりと意識を手放し、地面に崩れ落ちる。
同時に、ロッズ達も動きを停止し、遥か彼方へと飛び去って行った。
―――もし、ロッズが体温を奪うことにより、体内の血管ごと凍らせる――リキエルの父親、DIOがかつて使用していた『気化冷凍法』のような――ことが出来れば、
ストレイツォの身体に波紋は流れず、立ち上がることは出来なかっただろう。
『スカイ・ハイ』―――空高くとも、さらにその上にある『太陽』のエネルギーである波紋を完全に止めることは出来なかった。
そういう意味では、リキエルの能力はDIOに遠く及ばなかったのだ。
周囲と自分達の状態を確認し、ストレイツォは吉良の元に駆け寄る。
「……終わったぞ。大丈夫か、吉良? すまない、逆に助けられてしまったな」
「いや……気付けたのは偶然だ。それにとにかく必死だったから役に立てたなら幸いだよ」
「うむ。待っていろ、すぐに波紋で治療を行う」
ストレイツォは自分にやったのと同じように波紋で吉良の体に熱を発生させる。
病気から回復した吉良は、リキエルを眺めつつ聞いた。
「……ヤツは死んだのか?」
「いや、容赦はしなかったが命までは奪っていない。ヤツにはディオとの関係など、いろいろと聞きたいことがある」
「……しかし、目を覚ましてまた襲ってくるという可能性は……」
「そうだな……ヤツが『ロッズ』と叫ぶとき、右腕に付いた妙な生き物を動かしているのが見えた。……だから、こうしておこう」
ストレイツォは気絶しているリキエルをうつぶせにして右肩と腕の付け根に手をかけると、掴んだ腕を凄まじい勢いで体の後方に捻る。
グキリ、と嫌な音がしてリキエルの肩が外れた。
「!? グ、あああーーーッッッ!!」
痛みに耐えかね、リキエルが覚醒する。
しかしストレイツォは容赦なく、左肩も同様に外してしまった。
絶叫の後、ピクリとも動かなくなったリキエルを見て、吉良は思う。
(し合いの敵は『化け物』だけでなく、『人間』もいる。考えてみれば当然のことだったな……
しかし、相手の体温を奪うというのは、こいつの『能力』なのか?
わたしや父だけでなく、こんな『能力』を持った人間が他にもいるのか?
この男を生かしておくのは危険だが、『始末』する前に確認しておかなければな……)
同情の念は一切なく、初めて戦った不思議な『能力』の使い手に対する数々の疑問。
(このし合いに同じような『能力』の使い手がまだ複数存在するのならば、ストレイツォだけでは不利かもしれん……
先程はどうにか勝利したが……まあ、いざとなればストレイツォごと『爆破』すれば済むことだ。
わたしに『キラークイーン』を使わせることが無いよう、せいぜい頑張ることだね……)
リキエルの処遇についてストレイツォと話しながらも、
吉良は依然変わりなく、心の中で密かに笑い声を上げていた―――
- 51 :
- #
―――徐倫達が乗るヘリを落とし、バイクに乗って落下地点に到着した瞬間、世界が変わった。
大勢の人がひしめき合うホールで男達の首が吹っ飛び、気がついたらリキエルは暗い地面の上に立っていた。
彼はわけもわからぬうちに、し合いに参加させられてしまったのだ。
いつものようにまぶたが落ち、呼吸が苦しくなり、正常な判断ができなくなっていた。
(こんなし合いなんて、オレ一人じゃどうにもならない……
きっとオレは、あの見せしめと同じく虫けらのようにされてしまう……いや、落ち着け。
まだそうと決まったわけじゃない。無理にし合いに参加せずとも、生き延びるだけならば、なんとかなるかもしれない。
まずは武器とやらを確認しよう)
そう思い近くにあったデイパックの中を探ろうとする……が、手が震えてなかなかうまくいかない。
ようやく中を確認できたものの、武器と言えそうなものは何も無かった。
(……どうする?どうするんだ? こうしている間にも、誰かがオレをしにやってくるかもしれない。
……落ち着け、まずは水でも一口飲んで……)
震える手でペットボトルの蓋を開けようとするが、取り落として足元に中身を撒き散らしてしまう。
(ヤバイ……それによく考えれば、水がわざわざ支給されるってことは貴重なものだってことかもしれないのに……)
あわてて地面に落ちたボトルを拾いあげる……だが、その時リキエルに電撃が走った。
リキエルは気付いていなかったが、彼がこぼしたペットボトルは『支給品』であり、中身はただの水ではなかったのである。
(……どうして、あっさりされるなんて考える? オレには新しく身についた『能力』があるじゃないか……
第一、何故こんなし合いに勝手に参加させられなければならない? それが『運命』だとでも?)
無性に腹が立ち、『闘志』が沸いてきた。
いつの間にかまぶたは開いていたし、息苦しさもなくなっている。
同時に、自分には何でもできるような、どんな敵にも負ける気がしないような高揚感があった。
試してみたい―――そう思って歩き出し、近くにいたガンマンに戦いを仕掛け、勝利してデイパックを奪い取った。
(もう、昔のオレではない、オレは生まれ変わったんだ)
そう思えていた。
続いて教会の前を通りかかったとき、二人組みの男達を発見し、同じように『本能』の赴くまま襲い掛かったのだが―――
(ど、どうなってるんだ、何故こんなに顔や肩が痛いんだ……? それに腕がぜんぜん動かない……
ええと、とりあえず立ち上がって……いや、どうやって? それよりもそこで話している二人に……いや、ダメだ……
どうすれば、どうすればいいんだ………………? ああッ、まぶたが落ちて、それに、息が……苦し……)
ゲームスタート直後、支給品のペットボトルに入っていた『サバイバー』の能力により『怒って』いたリキエルはここに至ってようやく、能力から開放された。
実のところ、彼にとってそれがよかったかどうかは疑問であるし、少しばかり手遅れだったかもしれないが。
リキエルには分からない。現在の状況は、彼自身の想像以上に危ういものであることが。
なぜならば彼の『血統』はストレイツォ達の宿敵、吸血鬼DIOに直接関わるものなのだから―――
- 52 :
-
【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会前 / 1日目 黎明】
【ストレイツォ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:JC4巻、ダイアー、トンペティ師等と共に、ディオの館へと向かいジョナサン達と合流する前
[状態]:肺にわずかなダメージ(波紋で治療済み、波紋使用には支障なし)
[装備]:マウンテン・ティムの投げ縄
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0〜1(確認済み)、ワンチェンの首輪
[思考・状況]
基本行動方針:対主催(吸血鬼ディオの打破)
1.倒した男(リキエル)から情報を聞き出す(他の参加者やディオについて)。
2.周辺を捜索し吉良吉影等、無力な一般人達を守る。
3.ダイアー、ツェペリ、ジョナサン、トンペティ師等と合流した後、DIOの館に向かう。
【吉良吉影】
[スタンド]:『キラークイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その@、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:まぶたから微量の出血(波紋で治療済)
[装備]:波紋入りの薔薇
[道具]:基本支給品、ハーブティー(残り1杯程度)
[思考・状況]
基本行動方針:静かに暮らしたい
1.倒した男(リキエル)から情報を聞き出す(特に『能力』について)。
2.些か警戒をしつつ、無力な一般人としてストレイツォについて行く。
3.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。
4.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。
※ストレイツォから波紋や吸血鬼について説明を受けました。
※ランダム支給品はハーブティー(第7部)のみでした。
【リキエル】
[スタンド]:『スカイ・ハイ』
[時間軸]:徐倫達との直接戦闘直前
[状態]:両肩脱臼、顔面打撲、痛みとストレスによるパニック
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜1(ホル・ホースの物、確認済み)、サバイバー入りペットボトル(中身残り1/3)
[思考・状況]
基本行動方針:
0.パニック状態。痛みと恐怖でまともに物事を考えられない。
※ランダム支給品は『サバイバー入りペットボトル』のみでした。
※現在ダメージを受けて一度気絶したことにより、サバイバー状態は解除されています。
[備考]
・ワンチェンのランダム支給品は『波紋入りの薔薇』のみでした。
・二人が情報を聞きだした後、リキエルをどうするかは次の書き手さんにお任せいたします。
- 53 :
- 【支給品】
波紋入りの薔薇(第1部)
ワンチェンに支給。
首だけになったダイアーが波紋を込めてディオに飛ばした赤い薔薇の花。
有名なセリフ「フフ……は…波紋入りの薔薇の棘は い 痛か……ろう………フッ」のアレ。
ロワ仕様として、誰かに刺すまで波紋は消えないようになっている。
サバイバー入りペットボトル(第6部)
リキエルに支給。
見た目は共通支給品と同じ水入りペットボトルだが
中の水を飲んだり触ったりするとスタンド『サバイバー』の電気信号が脳に送られ、その人物を『怒らせる』効果がある。
『サバイバー』で怒った人間は
・闘争本能が引き出され、ほとんど見境なしに相手を襲う
・相手の「強い」ところが光って「見える」
・身体能力が強化される
といった状態になる。
ハーブティー(第7部)
吉良吉影に支給。
SBR11巻でジョニィが淹れたミントのハーブティー。
原理は不明だがジョニィはハーブを飲むことで撃った爪が速く生えてくる。
カモミールを混ぜるのが効果的。
原作ではキャンプケトル(キャンプ用のやかん)に入っていたが、
ロワでは魔法瓶に入っているため、冷めることはない。
- 54 :
- 以上で投下終了です。支援ありがとうございます。
比較的オーソドックスな展開……の割りにはやや長めだったり。
仮投下時からは多少文章をいじった程度で大きな変更はありません。
サバイバーの設定もそのままです。
ご意見、感想などありましたら遠慮なくお願いします。
- 55 :
- 投下乙です!
あーんスト様〜〜かっこいい〜〜!www
薔薇の花には噴きましたwww
吉良のしたたかさもリキエルの補完具合もすごくよかったです!
仮投下時に気付かなかったのですが、
サン・ジョルジュではなく、サン・ジョルジョです ちいさい『ョ』ですね
他はざっと見た感じではないかなと思います
- 56 :
- 投下乙でした
流石スト様、何やってもサマになる…
- 57 :
- ジョセフ・ジョースター、エリナ・ジョースター、投下します。
- 58 :
- 彼女はひたすら走っていた。
そうする内に、なぜ自分が走っているのかも分からなくなる。
何かから逃げているのだ。
じゃあ、何から?
誰か、助けて。
そうだ。助けて欲しいときには、必ず彼は現れてくれた。
そしてその彼を頭に浮かべた瞬間、思い出す。
優しい笑顔、力強い手、暖かな眼差し――吹き飛ぶ頭。
「……いや……いやぁぁぁ!!!」
エリナ・ジョースターは最愛の夫、ジョナサン・ジョースターの末路を思い出した。
喉から絞り出すような叫びを上げると同時に、彼女の身体から力が抜ける。
カクンと躓くように地面に倒れたエリナは、もう立ち上がることは出来なかった。
一面の暗闇と冷たい空気の中、足音がどんどん迫ってくる。
エリナは覚悟を決めることすら出来ずに、白い手で地面を握った。
その甲に、ぽつりと水滴が落ちる。
ぽたぽたと涙の落ちる音が、足音にかき消されていく。
そしてその足音は、エリナの視界の端に太い脚が映り込むことで止まった。
「おいおい……大丈夫?お嬢さん」
頭上から聞こえた、その声のする方へ顔を向ける。
自分を追ったせいで少し息を切らせながら、安心感のある笑顔を浮かべている男。
それはやはり「ジョナサン・ジョースター」だった。
- 59 :
-
エリナは、確かにその頭が吹き飛ばされるのを見ていた。
ただ何も出来ずに見ていた。
助けに走ることも、声を上げることすら出来ずに。
ジョナサンがゆっくりとエリナの前にしゃがみ込む。
今すぐにでも彼の胸に飛び込みたくなるような衝動を抑えるのに必死だった。
エリナは震える声を整えられないまま、水滴を垂らすように少しずつ言葉を紡ぐ。
「ど……どうして?」
「え?」
「貴方は……さっき確かに、死んだはず……!」
「……」
「あのホールでッ!あ……頭……を」
そこでエリナは一瞬動きを止める。
すぐに口を押さえて背中を丸めた彼女は、声を上げずに泣き始めた。
ただ、時々隠しきれない声が指の間から漏れ出ていく。
その背中を男が辛そうに見つめていたことには、エリナは気づかない。
ただ温かい手が自分の肩に置かれた時、ふっと心の中に木漏れ日が差すような感覚を得ていた。
その手を、振り払うことなど出来る訳がない。
「俺だって訳がわかんねーんだよなぁ〜……。
あそこで見せしめみたいにされたのは確かに俺。
でもここにいて、今君を慰めようとしている俺も、確かに俺自身だ。
どっちも本物の『自分自身』だと、俺だからこそわかるッ!」
肩に置かれた手に力がこもり、エリナは思わず顔を上げる。
「でも俺は自分が本物だって信じてる。
『し合いになんて乗らない俺』で『君みたいな女の子は絶対に守る俺』だってな」
確信できた。
目の前の彼は、自分が生涯唯一愛すると決めた男だ。
何があっても側にいると、ずっと支え続けると誓った「ジョナサン・ジョースター」その人。
自分には、まだ何もわからない。
それでもずっとこの人を信じようと、そう思える。
まるでその血に惹きつけられるように、エリナは愛する夫の胸にそっと寄りかかった。
- 60 :
- ※※※
突然、先ほどまで泣きじゃくっていた女性に胸に飛び込まれたジョセフは、思わず息を飲んだ。
片膝を立ててしゃがんだ体制のまま、男は彼女に自分から触れることも出来ずに固まる。
思い切り抱きつかれた訳ではない。
そっと寄り添うように身体を預けた彼女は、ためらいがちにジョセフの服を握る。
柔らかい身体、どこか高貴な香り、すすり泣く声、上から覗く美しい谷間……。
(これは……まずい気がするッ!よくわからねーが、何かがまずいッ!!!)
「お……俺、一応新婚なんだけどなァ〜……」
「?ええ、そうね……」
返されると思わなかった独り言への返事に、ジョセフは違和感を覚える。
確か、自分とこの女性は初対面のはずだ。
しかし涙を流しながらこちらを見上げる彼女の顔に、どことなく見覚えがある気もする。
だが、地下の暗闇の中ではハッキリと確認できない。
ジョセフに縋り付いたまま、彼女はぽつりぽつりと話し始めた。
皺になるほど強くジョセフの服を握るその女性を見て、彼はその話に口を挟まずに聞くことにする。
「『俺』と新婚旅行の船に乗ろうと思ったら、いきなりあのホールにいた」
「その時突然『俺』が消えてとても驚いて」
「その後、見せしめのように『俺』がされて不安に」
「でも、また『俺』に出会えて本当に嬉しい」
涙で詰まって上手く話せなかったり、混乱して支離滅裂になりつつ話したことだったが、纏めるとそう言いたかったらしい。
彼女の話を頭の中で整理しながら、ジョセフはようやく自分が彼女の夫と間違えられていることに気がついた。
しかし、自分の旦那を普通間違えるもんか?
思わずそう指摘してやりたくなったが、涙で目を腫らし唇を震えさせる様子を見てとどまる。
暗闇の中、しかもいきなりこんな状況に放り込まれて憔悴した彼女には、仕方ないことかもしれない。
幸せの絶頂から、いきなり地獄の底のような戦場に落とされたのだ。
あまり勘違いを長引かせてこの人を傷つけたくない。
ジョセフは自分の正体をさっさと明かしてしまおうと決意する。
「あのさ、お嬢さん。実はそのぉ……」
「ジョナサン……」
その名前を聞いた瞬間、彼の身は凍りついた。
- 61 :
- 目の前の女性は相変わらず此方を熱い視線で見つめながら、ジョセフをそう呼んだのだ。
祖母やスピードワゴンに常々聞かされてきた言葉が、血流に乗って脳内を駆け巡る。
そして同時に、先程感じた彼女への既視感が再び彼を襲ってきた。
首の裏を、冷や汗が流れ落ちる。
ジョセフは今まで触れることの出来なかった彼女の肩にそっと両手を置くと、澄んだ瞳を見つめ返した。
「……君の名前は?」
真剣なジョセフの表情を見て、彼女は目を見開いてから縋り付いていた手を離す。
そして、地面を掻いて少し傷ついた両手を膝の上に合わせた。
「私を疑っているのね?」
「いや……とにかく名前をね、聞かせてほしいなァ〜って……」
「……エリナ・ペンドルトン。
いえ、ごめんなさい……エリナ・ジョースター!貴方の妻です!」
(……………………う、嘘だろォォォォ!!!??)
その叫び声は辛うじてジョセフの頭の中に留められたが、驚愕の表情までは抑えられなかった。
そんな様子の夫を見て、エリナと名乗った女性は首を傾げる。
瞬間的にその女性の肩に添えた手を離すと、恐る恐る彼女の頬に触れた。
むにむにぎゅうぎゅうと、遠慮など忘れて柔らかな頬を揉みしだく。
「ひょ、ひょなひゃん!?」
彼女は顔を真っ赤にしながらも、為すがままにされていた。
- 62 :
- 確かに、その顔は自分の祖母の面影が……あるような気がする。
じっと彼女の顔を見ていると、ふと一枚の写真を思い出した。
スピードワゴンにこっそりと見せてもらった若い頃のエリナの写真、朧げなその像が次第に鮮明になり――思わず頭を抱えた。
まさにその写真の女性が今、目の前にいる。
触って確かめたその身体は温かい。
まさか石仮面でも被ってしまったかとも思ったが、彼女は紛れもなく普通の人間だった。
仮に石仮面か波紋で若返ったとしても、記憶まで飛んでしまっている様子なのが奇妙だ。
(ど……どういうことだ……!?この女は一体……何者なんだよーッ!)
いきなりの瞬間移動、されたもう一人の自分。
それに加えて新たな謎が浮上した。
しかもどうやらこの謎は、真っ先に解決しなければならない問題のようだ。
ジョセフはそっと立ち上がり、彼女を見下ろして考える。
彼を心配そうに見つめる『エリナ』の瞳は、どこまでも無垢で美しい。
だからこそ厄介だ。
彼女自身は自分をエリナ・ジョースターだと、更にはジョセフのことを夫であるジョナサン・ジョースターだと完全に信じきっている。
彼女は何者か――まさか本当にエリナおばあちゃん……なのか?
- 63 :
-
その女性が、自分から距離を置いて神妙な面持ちで見つめる彼をどう思ったのか、それは彼女自身しか知らない。
しかし女は何も言わずに立ち上がると、後退ろうとするジョセフに近づいていった。
ジョセフはそれを、処刑台への導きのように感じる。
だが「エリナ」は、彼の右手を包み込むように握っただけだった。
彼女の顔には、百合の香り立つような微笑が浮かんでいる。
「あ、あのぉ……」
「貴方が何をしようとしているのか……私には分かりません。
……でも、私は貴方がどんな事をしようとも必ずついて行きます。
貴方を――信じていますから」
「――!」
「でも私が一緒だと戦えないのなら、そう仰ってくださいね。
一人でどこかに隠れて、貴方を待っています。いつまででも……」
美しすぎる――ジョセフは思った。
当然彼女が持っているはずの悲痛な覚悟も、不安も、寂しさも、その笑顔からは一切感じられない。
ただひたすらに夫を想い支えたいと願う、一人の聖女がそこにはいた。
(間違いない――この人は、エリナおばあちゃんだ……。
エリナ・ジョースターだ……)
彼の知っている祖母の手は皺だらけのくたびれた手だったが、いつでも厳しくて優しかった。
手袋ごしに、記憶の中のエリナと同じ温もりが伝わる。
本当に、此処に来てから奇妙なことばかりだ。
なぜ彼女が身体も精神も若返っているのか、ジョセフにはまだわからない。
恐らく「石仮面」でも「波紋」でもない、何らかの未知の力が存在していることは確かだ。
それでも、俺は彼女を守り抜く。
おばあちゃんを元の姿に戻して、必ずアメリカに帰す。
そしてもう一つ――。
- 64 :
-
ジョセフはエリナの手を握り返した。
そのまま彼女を引き寄せ、たくましい胸の中へ抱き止める。
右手で細い指を握り、左手はエリナの頭を包んで。
頭を撫でると、彼女は一瞬身を固まらせる。
その瞬間のエリナの顔は見たくなかった。
見られなかった。
「ジョナサン……」
「大丈夫。絶対に置いて行ったりしない……。
……君は――『僕』が守る。何があっても……ッ!」
これがただのエゴだと、ジョセフは気づいていた。
それでもジョセフには、まだ彼女の知らない「真実の未来」を伝えることなどできない。
エリナ・ジョースターは、どんなに残酷だろうと真実を求める女性だということも知っている。
それでもジョセフは、愛する人を欺き続ける覚悟を決めて甘い嘘をついたのだ。
その甘さはエリナのためのものなのか、ジョセフ自身のためのものなのか――。
「……ジョナサン?ジョナサン……よね?」
「ああ……どうしたんだ?エリナ」
エリナの髪が、ジョセフの頬をくすぐった。
彼女には、ジョセフの歯を食いしばり眉根を寄せたその表情は見えていない。
彼が、今にも抱き潰してしまいそうなのを堪えながら抱きしめていることも、何も知らなかった。
エリナはジョセフの腕の中でみじろぎを取ったが、自分を呼ぶ声にぴたりと動きを止める。
「……いいえ、何でもないわ」
エリナには、彼女を愛してくれるジョナサンの優しい声があればそれで十分だった。
もうそれ以上考えることなどない。
例え彼女の頭を撫でる左手に固く体温を感じられなくても、自分の手を握る右手にあるのは、確かに愛する人の温もりなのだから。
そして、ようやく二人の歯車は噛み合った。
エゴは救いとなり得るのだろか?
無知は罪になり得るのだろか?
歯車はまだ、回り始めたばかりだ。
- 65 :
-
【地下D−5 南西地下通路/1日目 深夜】
【ジョセフ・ジョースター】
【スタンド】:なし
【時間軸】:第二部終盤、ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前。
【状態】:健康
【装備】:なし
【道具】:基本支給品×2、不明支給品1〜2(未確認)、アダムスさんの不明支給品1〜2(未確認)
【思考・状況】基本行動方針:エリナと共にゲームから脱出する
1.『ジョナサン』をよそおいながら、エリナおばあちゃんを守る
2.いったいこりゃどういうことだ?
3.し合いに乗る気はサラサラない。
※エリナは「何らかの能力で身体も精神も若返っている」と考えています
【エリナ・ジョースター】
【時間軸】:ジョナサンとの新婚旅行の船に乗った瞬間
【状態】:精神摩耗(小)、疲労(小)
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、不明支給品1〜2 (未確認)
【思考・状況】基本行動方針:ジョナサン(ジョセフ)について行く
1.何もかもが分からない……けれど夫を信じています
※ジョセフ・ジョースターの事をジョナサン・ジョースターだと勘違いしています
【備考】
二人はタイガーバームガーデンから北西方面へ走り、今はE−5とD−5の境目付近にいます
- 66 :
- 以上で投下完了です。
仮投下時から、ジョセフの義手に関する描写をすこーしだけ増やしました。
流れなどは全く変わっていません。
ご意見などありましたら、よろしくお願いします。
- 67 :
- 投下乙です!
これからの壮絶な鬱展開がすごく…予想できます…
しかし本当に身内に手を出すことに定評のあるジョセフw
今後の展開が楽しみになる一作でした!
- 68 :
- 投下乙です。
さびしそうな女性のためにつく嘘は正しい…というのはシーザーだけど、
敬愛するおばあちゃん相手にジョセフははたしてどこまで隠しとおせるんだろうか……
予約〜投下ラッシュも折り返しと思いきやまた新たな予約が来ており、
いろんな意味で先が楽しみです!
- 69 :
- 遅くなりました。
ウェザー・リポート、蓮見琢馬 投下します
- 70 :
-
いつの間にか、歩みを止めてしまっていた。
何者かの気配に身体が自然と警戒したわけではない。
街灯が遠くなった狭い路地裏に自分以外の生命の息遣いはなく、黒絹の夜空には無数の穴が開いているかのように星が瞬いていた。
そもそも行く当てもないのに、どこへ向かおうとしていたのか。
歩き続ければどこからか千帆が現れ、『先輩』と邪気のない笑顔を覗かせるとでも?
「なにを期待しているんだ」
呟いた言葉でさえ自分が平常心を失っている象徴のように思え、急に馬鹿らしくなった。
デイパックの中身を確認もせず、ここがどこかもわからないのに歩き続けていたなんて、それこそ愚行だ。
そのまま物陰に隠れるようにして琢馬は息を吐く。
デイパックを下ろし、思いのほか肩が強張っていることを実感した。
――あの男の望んだように、千帆を助けることは、成し遂げた復讐をふいにすることにあたるだろうか。
気が付けばそのことばかりを考えている。
元より、あの男が人間として最底辺の存在ではないからこそ成り立つ復讐だった。
あの男が金にしか興味のない、人との繋がりを完全に絶っている男だったのならば、俺の復讐は成立しなかった。
あの男は、母が自分に与えてくれた感情と同じものを、自分の娘に対して抱いていた。
この本がなければ、一生理解し得なかったかもしれない感情だった。
『愛情』
親から子へ。子から親へ。人から人へ。
俺は母からその感情を与えられた。
もしこの感情を実体験として知り得なければ、違う手段の復讐しか思いつかなかっただろう。
絶命する瞬間、あの男は知っていたのだろうか。
娘の体内に宿った新たな命を。
最期の願いを告げた相手の抱いていた本心を。
俺の顔と名前を正しく認識していた。ゆえに母とは違い『時間のずれ』のようなものは俺と数時間以内だったはずだろう。
その数時間の間に、あの男はどんな感情を抱いたのだろう。
あるいは迎え入れた男が何者かも知る直前の、ある種幸福な時間から一瞬で引導を渡されたのかもしれない。
千帆があの男に直接働きかけずとも、愛娘の宿した命『宿命』に打ちひしがれていたはずだった。
あの男はすでにすべてを知っていたのかもしれない。あるいはそうでないかもしれない。
真相はもう確認しようがない。あの男は死んだのだから。
逃れようのない死を待つそのわずかな時間。
あの男は娘の生存に希望を見出していたのだろうか。
千帆の存在は、あの男の絶望に穿つ一点の光だったのだろうか。
あるいは、真相──息子の復讐──を、知ってなお、あの男の『愛情』は自らの死の恐怖を凌駕していたのだろうか。
- 71 :
-
腕には母の重みがまだ残っていた。
ビルの谷間で拾い上げた白骨は片手でつまみあげられるほど、ちっぽけで軽かったというのに。
母は『生きて』いた。
返り血でべたついていても、その手は自分と同じ、血が通い肉がついた『人』の手をしていた。
すほどに憎みきった男の娘を救うことを母は望むだろうか。
千帆は一般的な女子と変わりなく父親を愛していた。
無知で、夢見がちで、両親の離婚を除けば絵に描いたように幸せな女子高生だった。
大神照彦の遺伝子を受け継ぐ娘を母は……。
「それは、問題じゃない」
母は俺を愛していた。あの男の遺伝子を受け継ぐ息子を。
俺は母の復讐を代わりに遂げようとしていた。
だが、母そのものではなかった。
復讐は、母が果たした。
俺は母の仇を討つために生きてきた。
母が満足だというのならば、俺の目的も達成されたと言える。
それが望んだ形ではないとしても。
母への愛情を俺自身のエゴと誰にののしられようとも、母に否定されるような真似だけは絶対に犯してはならない。
それは自分の生を否定することのみならず、母の生を否定することだった。
――頭痛がおきそうだ……。
もし、母がその手であの男をしたことで、すべてが精算されるのならば、最も不幸なのは、千帆だ。
利用され裏切られたあげく、不必要になってしまったピース。
彼女が自分と同じ認識を持つ、『現実』の彼女であればの話だが。
母や、ホールで見た『すでに死んでいるはずの人間』が証明するように、ここではなにか得体の知れないことが起こっている。
もしも過去と現在の区別がなくなってしまっているであれば、大神照彦が見たと証言した千帆はなにも知らず、俺にまだ出会う前の千帆なのかもしれない。
俺は、そう願っていることも、認めざるを得ない。
千帆がこの場にいなければ、千帆だけが救われるべき資格を持たないのであれば、なにも迷わずにすんだはずだ。
憎み続けてきた大神照彦の娘。
俺自身と血を分けた妹。
千帆の生存は大神照彦の絶望を消し、母の正当な復讐を無益なものとしてしまうだろうか。
あるいは、千帆の不幸に見合うだけの救いは、俺の、彼女を妹として愛する兄としての義務なのだろうか。
彼女が俺の復讐に利用される前の無知な少女だとしても、彼女を見捨ててしまうことは、『俺』自身が望むことなのだろうか。
首飾りを細い首にまわし、二度と会うことはないと思いつつ彼女に手を振った。
あの時の感情も『本』には克明に記載されている。
読み返してみれば、今現在自動書記され続けている箇所と、同じような文章かもしれない。
デイパックの中を漁る手はいつの間にか止まっていた。
自嘲的な笑みが琢馬の口元を歪める。
大神照彦の足元にデイパックを放置したままだった。
ふと、そんなことを思い出していた。
* * *
- 72 :
-
「刺、か……」
血だらけで横たわった男を検分しウェザー・リポートが呟く。
彼自身、右半身に突傷を負い、裂けた衣服から出血の跡が覗いていた。
「凶器は……見あたらないが、デイパックを残していくほどに襲撃者は焦っていた。
あるいは血の匂いを放つデイパックはいらぬ疑惑を呼ぶと考え放置していったか……」
男の傷口から溢れ出した血が雨水と混じり石畳の地面を濡らしている。
放置されたデイパックは上下から血を吸い、持ち上げると滴が垂れた。
溜息とともに周囲をぐるりと見渡す。
この男をした人間が『し合い』に恐怖し、怯えからこの男を害してしまった臆病者ならば、この場はある種安全といえる。
血を見ることも、まして死体を見ることも恐ろしいと感じるような非力な人間がここへ戻ってくるとは思えなかった。
だが、合理的判断からデイパックを放置するような人間がこの男を害したのであれば……。
『刺』に見えるような傷口を残すスタンドがいることに疑問はない。
デイパックを餌に新たな被害者を待ち受けているのであれば、今すぐここを離れるべきだった。
「その可能性は、低い」
ブラックモアの死後、現在位置の確認はすでに行っていた。
目立った施設がないことから地図の端のどこかにあたると推察し、西へ歩き始めてすぐ禁止エリアに立ち入っていることを知らせる警戒音が響いた。
どこかに明確な線が引かれていたわけではない。
地続きになった道の途中、突然警戒音が鳴り出したのだった。
同じことを北上した際にも体験した。
つまり禁止エリアとやらも指定されていない現在、このエリアは『A-1』ということになる。
人を集めるような施設もなく、し合いを恐れる人間が安住の地を求めて来るには時間が足りなかった。
あのホールに集められた人間がランダムにマップに飛ばされていたとして、初期位置が同じ『A-1』でなければ通りかかる人間を見つけることすら難しいだろう。
そんなエリアで死体とデイパックという餌が機能するとは考えられない。
偶然できた状況を利用して甘い汁を吸おうとする輩であれば、それは狡猾とはいえぬ、やはり臆病者の考え方だった。
警戒してしかるべきだが、強敵の予感とは程遠い。
「気は進まないが、デイパックの中身だけでも確認するか」
死亡した男の必死の形相は男が決して安らかに死んだわけではないことを物語っている。
逃れられぬ死に絶望し、いかなる未来も摘み取られた人間。
どのような思想を持ち、どのような生活をしていたのだろうか。
哀れみは生き残った者の驕りでしかないと自覚もしている。自分が先刻命を奪った男が指摘したように。
「それでも、俺は生きることを望む」
- 73 :
-
──カツン…………
音そのものではなく、空気が微かに震えたような違和感だった。
「誰か、そこにいるのか?」
声を発したウェザーにとって、それが人であるかすら確信はなかった。
血の匂いに惹かれてやってきた小動物の類かと疑うほどのささいな気配。
街灯が作る影の中、声を向けられた相手は動くそぶりを見せなかった。
逃げようか、姿を現そうか相手は迷っているに違いない。
あれほどの人数の中、自分に好意的な人間に出会う確率は圧倒的に低いのだから。
「オレから攻撃する意志はない。そちらにもその気がないなら対話を望む」
足元に倒れている男を一瞥する。
男はピクリとも動かない。完全に絶命していた。
夜目に雨と血液の見分けが失われたとしても、鉄臭さは今更ごまかせるレベルではない。
足元に散乱したものに加え背負ったデイパックの数が多いことも、マイナス要素にしかならないだろう。
これでよく攻撃の意志がないと宣えたものだと苦笑したくなった。
「……その足元の男は?」
噛みした苦笑をなんと解釈したのだろう。やがて、暗闇が声を発した。
無機質な印象を与える、低い青年の声だった。
やたら大きな声で恐怖心を隠そうとしたり、焦りから上擦ることもない淡々とした喋り方は、この非常時において好ましくもあり、警戒するべき人物であるという印象も与えた。
「オレが来たときには死んでいた。どんな方法でされたのか、確認していたところだ」
青年は黙っている。
迷っているのか、焦らして反応を見ようとしているのか、あるいはスタンド攻撃を仕掛けようとしているのか。
「俺はあんたを警戒している。しばらくはこの距離で話をしたい」
「そちらがオレを攻撃しないという保証はない」
「足元に死体を転がしておいて、警戒するなという方がおかしい。
それにあんたを警戒する理由は他にもある。
……が、『対話』を拒否する理由もない」
寂しげな街灯に照らし出された青年の姿は影そのもののように見えた。
首元まで堅苦しく着込んだ衣装は例外なく漆黒。
遅れて見えた骨のように白い手や顔がなければ、完全に闇にまぎれてしまえるだろう。
東洋人だと判断したが、それ以上に人としてなにかが欠けている瞳をしていた。
し屋の目つきではないが、生気に欠けた、色のない瞳だった。
* * *
- 74 :
- * * *
「俺があんたを警戒する理由は、そこの死体を別にすると二つある」
姿を現して以降、会話の主導を握ったのは琢馬だった。
「『妙な力』を持った連中がいるんだろう?
あんたはそれに対抗する力を持っている。その怪我……」
琢馬の視線がウェザーの半身に集中する。
そこには散弾銃を間近で喰らったような出血の跡があった。
「なにをもって攻撃されたらそんな跡が残るんだろうな」
デイパックの存在を思い出し、ついで照彦が本当に死んでいるのかと疑問に思い、琢馬は父の死体のもとへ舞い戻った。
動かぬ死体のそばにいたのは母ではなく、見知らぬ長身の男。
スタンドの存在を感じながらその認識のない琢馬は、状況からかまをかけつつ情報を得ることがリスクを上回ると判断した。
『本』の能力は外国人に通用しない。という前提がある以上、いざというとき頼れるものは話術と包丁しかない。
会話が成立するという事実はある程度楽観的な見方を許す事項ではあったが、それでもリスクは大きかった。
琢馬は彼らしくもなく他人の出現に焦っていたのかもしれないが、それはわからない。
彼の漆黒の瞳はウェザーをまっすぐに捉えて離さなかった。
ウェザーは色めき立つ様子もなく黙っている。
「もうひとつ俺があんたを警戒する理由が一つ。
その怪我が自傷でないとして、それを負わせた奴はどこにいる?
あんた、余裕がありすぎるんだよ。
怪我をしているのに、誰かに追われる不安なんて皆無って顔をしている。
人鬼から命辛々逃げてきたわけじゃないってことだろう」
「……目の前にいる人間が人を犯した者だと推理した上で、それだけの余裕を保っていられるあんたの方こそ、オレは警戒してしかるべきだと思うがな」
琢馬の視線を受け流しウェザーは足元の男を見つめた。
絶命した男の、青年と同じ漆黒のような瞳がそこにあった。
「俺の疑問については棚上げか?」
「一方的な質問に甘んじるほど、オレたちの置かれた状況はそう差があるもんじゃない。
むしろフェアー、対等な位置にあるくらいだとオレは考えている。
あんたはこの男と知り合いか?」
ウェザーが改めて琢磨を見つめる。
表情の乏しい琢馬の顔に、疑問の色が浮かんだ。
「この状況からすれば、この男をしたのはオレだ。
デイパックの数が役者の数に比べて多すぎるという疑念は残るが、この場に居合わせた誰もが俺を加害者だと思うだろう。
この男の死の真相を知っているわけでもない限り」
琢馬の視線は相変わらずウェザーからはがれない。
しかし図星をつかれた痛みが一瞬走ったのをウェザーは見逃さなかった。
「たまたまこの場に居合わせてしまった不幸な『一般人』ならば、されたくないと思うだろう。
害方法は? 逃走可能な距離は? 自分のアドバンテージは?
オレに警戒をしながらも遺体を盗み見て、この男の二の舞にならないようにと考えるのが普通だ。
最初にオレが声をかけたとき、あの距離から詳細が観察できたとは思わない。
あんたは、この男を見ようともしないな。
自分にとって不都合なことでもあるのか?
遺体というだけで目を背けるような繊細な神経の持ち主だとしたら、今まで言ったことは俺の一方的な思い込みだ。申し訳なかったな」
- 75 :
-
それきりウェザーは押し黙り、琢馬の反応を待った。
ウェザーの言うとおり、二人の立ち位置は対等。
後手に言いくるめられた分、無言の重圧は琢馬へ余計に重くのしかかった。
「………………悪かった。降参だ。
俺はあんたがこの男をしたわけじゃないってことを知っている。この男がされる一部始終を見ていたんだ。
そいつをした人は、俺の……、知り合いだった。そいつをしてすぐ、その人も……。
ここに戻ってきたのは、デイパックのことを思い出したからだ」
一転して琢馬が饒舌になる。
弁解からすべてを明かしてしまうつもりはない。
しかし憎い父のせいで、無駄な時間を過ごすことなど、それこそ許せなかった。
「俺は見知りもしない爺さんのせいで死ぬなんてまっぴらだ。
命令に従うのはクズのすることだ。
助けを請うつもりもない。
俺は…………俺のために、生き残る」
普段の琢馬ならば口には出さなかっただろう。
母が望むのならば、命を懸けて息子に生きて欲しいと願ったのならば、生き残ることそのものが目的になったとしても、絶対に反故にするわけにはいかなかった。
ウェザーが心なしか落胆したように琢馬には見えた。
誰が敵かもわからない状況で、相手の出方に会話を委ねたのは、この男が迷っているからかもしれなかった。
ほぼ確実にこの男は人をしている。
それでも生きることに迷いはあるのだろうか。
「これだけ話をしておいて、なんの攻撃もしかけてこないってことから、あんたが無闇に他人を傷つけるようなクズじゃないってことはわかった。
だが、俺は正義のヒーローを気取る気なんてこれっぽっちもないんだ。
正義感だかなにかから協力者が欲しいっていうのなら俺は的外れだ」
協力者を得るメリットと寝首を掻かれる可能性、五分五分くらいだと考えている。
とっさの状況で包丁しか対処方法がないのではあまりに頼りない。
逆にポーズだけでも協力者を得ておくことは、玉避けとしてもさることながら、いらぬ疑惑を回避するメリットがある。
この男やその周囲の人間が、ある程度の人格者であるならば、と注を付けるべきではあるが。
「オレも似たような考え方だ。ゆえに信用する。
オレは仲間を探しているが、それについて協力は求めない」
「正気か?
あんたにとってメリットがない話に思える。
疑わしいことを言っていると思わないのか」
「一緒に行動することであんたがオレの仲間を傷つける可能性は減るだろう。それだけで十分だ」
琢馬のことを無力な一般人だと思っていれば、行き着かないような結論だった。
信用していないからこそ、仲間に引き入れようとする。
自分に自信があればこその行為であり、同時に自身の力の限界を自覚しているからこその判断だろう。
矛盾しているように見えて、合理的な判断だと感じられた。
そしてその印象はこの男の、余裕たっぷりに見えて空虚な印象と重なっていた。
- 76 :
-
「蓮見、琢馬」
名簿が後々支給されると聞いていた。
『飛来琢馬』という人間は存在しない。自分と、母の心中をおいて他には。
「ウェザー・リポート。
琢馬、君が他人を無闇に傷つける人間ではないと理解している。
身の危険を感じたら勝手に逃げてもらってかまわない。
俺の仲間についても、信用するかはまかせよう」
「仲間、ね……」
「?」
「いや、なんでもない…………」
「そうか……」
千帆にもし会えたなら、それはそのとき考えればいい。
千帆は、なにも知らない無垢な少女かもしれない。
それよりもウェザーになんと説明すればいいのかわからなかった。
憎んだことも、愛情を感じたこともある少女に対する感情を、なんと説明すればいいのだろう。
説明したところで、理解されるだろうか。
肉親を憎みきった過去を。
自分でも整理の付かない感情を。
ウェザー・リポートの半身の傷跡を見た。
千帆なら、なにも抵抗できずに死んでいただろう。
血だらけで、横たわる千帆。
娘を愛することが生き甲斐だった父親が見間違える可能性は低い。
今や確信を持って、千帆はこの場のどこかで、し合いに巻き込まれていると思える。
千帆が誰かにされることは、肉塊に変わることは望んでいなかった。
この腕の中にあの華奢な肩を抱いたときにも、『本』のすべてのページを読ませてしまおうかと逡巡したときでさえ。
それは千帆への甘さだったのかもしれない。だが、父への最高の報復にあたると信じて疑わなかった。
彼女の体内に呪われた子供を残すことが、死してなおあの男を苦しめるだろうと思う。
その一方で、妹が誰ともわからぬ輩にされることは許せなかった。
千帆の死は望んでいない。
今は、それだけの、真実だった。
【忘れることは幸せ?コンビ】結成
- 77 :
-
【A-1南東の路地/1日目 深夜】
【ウェザー・リポート】
[スタンド]:『ウェザー・リポート』
[時間軸]:ヴェルサスに記憶DISCを挿入される直前。
[状態]:右肩にダメージ(中)、右半身に多数の穴
[装備]:スージQの傘
[道具]: 基本支給品×2(自分、ブラックモア)、不明支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:襲いかかってきたやつには容赦しない。
1.仲間を見つけ、ここから脱出する。
2.琢馬について、なにか裏があることに勘付いているが詮索する気はない。
敵対する理由がないため現状は仲間。それ以上でもそれ以下でもない。
【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力(名前はまだない)』
[時間軸]:The Book 2000年3月17日 千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中。
[状態]:健康
[装備]:双葉家の包丁(飛来明里の支給品)
[道具]: 基本支給品、不明支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。
1.千帆に対する感情は複雑だが、誰かにされることは望まない。
2.そのために千帆との再会を望むが、復讐をどのように決着付けるかは、千帆に会ってから考える。
[参考]
参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります(例・4部のキャラクター、大成後のスピードワゴンなど)
明里の基本支給品、照彦の基本支給品、照彦のランダム支給品(1〜2)は二人で確認した後、分担して所持する予定です。
- 78 :
- 以上で投下完了です。
遅くなってすみません。次回ペナルティだな、これ。
タイトルはwiki収録時までに考えます。
誤字、脱字、矛盾点等ございましたら、指摘をよろしくお願いします。
- 79 :
- 川の底からこんにちは ◆SBR/4PqNrM
代理投下します
- 80 :
- 「お前の事はあたしの記憶に無い…。
だからもう一度問う。
お前はあたしの『敵』か? 『味方』 か…?」
ああ、分かってるよ。
おれみたいな奴が、間抜けにもこんなときこんな場所で気ィ失って寝とぼけてなんかいたら、話になんねぇ。
スマートに決めてスマートに立ち去る。そいつが本来おれの流儀。
しょぼくれて、若造に訳も分からずにしこたまやられて、お次は可愛い子ちゃんと来た。
こりゃツイてるのか? ツイてねぇのか?
☆ ☆ ☆
ひとまず、気がついたときに話を戻すぜ。
気がついた、ってのは、つまりおれが意識を取り戻したとき、ってのと、この女に気がついたとき、ってのと二つの意味でだ。
意気消沈していたところを、やたらに調子の良い小僧にしてやられて、おれとしちゃあもうされたと思っていたわけだが、そうじゃ無かった。
あの小僧、おれを舐めてたのか、いざとなってブルっちまったのか、単にそこまで考えて無かったのか、荷物だけ盗んだだけで、止めを差しもせずズラかりやがったらしい。
川っぺりでアホみてーにぶっ倒れていただろうおれだが、意識を取り戻すのにそう時間が掛かったワケじゃ無い…と、思うぜ。
まあそこんとこは曖昧だ。そんなに根拠はねえし、一々突っ込むなって。
ただ、意識がぼんやりとでも戻ってきていることと、すぐさま行動できるってのは別だ。そうだろ?
まあこれ又情けねぇことに、意識が戻って周りの状況(そして、おれ自身の状況)が分かってからもしばらくは、這い蹲ってただ辺りを眺めているだけだった。
で、ざまぁねぇや、と自重するヒマも無く、川を流れてくるそいつが目に入ったワケだ。
初めは、死体かと思ったぜ。
そりゃそうだろう。泳いでる、でも、溺れている、でもねぇ。ただ水に浮かんで、ゆるりとした流れに運ばれているだけだ。
ただの死体ならそう気にもしなかった。どこのどいつか知らねーが、とんでもねぇパワーのスタンド使いに浚われてし合いをしろなんて言われてりゃ、死体が流れてきたっておかしかねぇ。
おれだってそうだ。ついさっき、されたと思ったんだからな。
ただ、微かな光に照らされて、二つのふくらみが見てとれて、おれはようやく上体を起こしたわけだ。
何だって? つまり、胸だよ、胸。房。女の身体でも、群を抜いて魅力的な部位のことさ。
要するに、シリコンでも埋め込んだヤローでないなら、そいつは女だってことだ。そうだろ?
で、俺は女にゃ優しい男だ。いつだって、な。
ああ、そりゃあ勿論、利用もするし騙しもする。けど、優しいってのは間違いじゃねぇし、進んで女を傷つける真似もしねぇ。
そして勿論、困ってる女を見捨てたりもしねぇ。ま、相手は選ぶがな。(エンヤ婆みてーなのは俺だってお断りだ)
もしかしたらまだ生きてるかもしれねえ。死んでいたとしても、そのまま川を流れたままにしておくってのはあんまりだろ?
で、ここに来ておれはようやく、ちょっとばかしいつものペースを取り戻しかけた、ってわけさ。
がばと起きあがり、ざんっ、と川へと入ると、その女の方へと泳ぐ。
泳いで、肩を掴むと、ぐいと引き寄せ声に出して聞いた。
「おい、お嬢ちゃん、生きてっか? 生きてるなら返事をしな!?」
で、そこから冒頭に繋がってくわけだ。
「…お前は、敵か?」
おいおい、いきなりそれはねぇだろうよ。
- 81 :
- 「お前の……その行為は……状況から察するに、『救助』しようとしている…という事に思える……。
だが『わたし』はお前を知らない……。
ならば、何故『助ける』……?」
妙な具合だぜ、こいつは。
「おうおう、無事なら結構。
とにかく岸に上がろうぜ。水の中をぷかぷか浮いていたら、落ち着いて話しも出来やしねえ。
少なくとも今はアンタの『敵』じゃあねぇ。
おれは世界中の可愛い子ちゃんの『味方』だぜ」
女は、月明かりに見ても美人だった。この俺が言うんだから間違いねえぜ。
東洋人とアングロサクソンの血が混じったような、エキゾチックな雰囲気がある。なんとはなしに見覚えのある気もしたが、いや、やっぱり記憶にゃあ無かった。
ただ、妙なのは言葉や態度だけじゃねぇ。
なんというか、巧く言えねえが、何かが妙だった。
ぎくしゃくしているというか、ちぐはぐというか、機械的ってのとも違う。何か人間のようで人間でない、妙な感じだ。
とはいえ、それでも目の前の女を助けないってのは、俺の流儀にゃ反する。
反するし、何よりここに来てようやく、『俺らしい』事が出来る機会が来たってのも、重要っちゃ重要だ。
女の肩をそのままぐいと引いて、岸まで行く。
それに抗う素振りも見せず、そのま素直に、ふたりして岸へと上がった。
さて、ずぶ濡れだ。俺としても正直気持ち悪いし、ここは2人とも服を脱いで乾かすのがベターなところだが、女は濡れた服のことなどまったく気にした様子が無い。
「とにかく、どっかの建物に入って、服を脱いで乾かした方が良いぜ。
おっと、変な気持ちで言ってるんじゃねえ。
俺は少なくとも女に対しちゃあ紳士だ。特に可愛い女の子には、な」
軽くおどけた調子で、気持ちをほぐそうとする。
改めて向き合うと、思っていた以上に若い。もしかしたらまだ10代かもしれねえ。
首輪がつけられている事から、おれ同様に無理矢理連れてこられてし合いをしろと言われているお仲間、って事なんだろうが、態度様子からもその事を気にしている風でも無い。
顔立ちの美しさに加えて、プロポーションも悪くない。ただ、立ち姿がちょいと様になっていない……というか、変だ。
そしてその姿勢以上に、女の反応はどうもぎこちない。
いや、ぎこちないというか、俺の言っていることを理解していないというか……いや、むしろ俺のことを観察している感じだ。
警戒している、というわけでもない。
最初はそう思った。だからおどけた事を言ってみたわけだが、そこには何の反応も無いんだから、どうにもつかみようがない。
「……その恰好」
表情のない視線を俺に向け、妙な事を言い出す。
「『あたし』の記憶によれば、『西部劇』とやらの……カウボーイか…ガンマンみたいだが……お前はそういうヤツなのか……?
そういうヤツ、というのは、つまり『西部で牛を追って暮らしている人間』なのか、という事だ。
『あたし』の記憶の中では、直接会った事は無いんだ。『西部劇』の中か、フェスティバルの扮装以外では、という事だが……」
- 82 :
- さて、どうしたもんか。
状況から混乱しているのか? それともハナっからイカれてるのか…? 或いは記憶障害ってーヤツかもしれねえ。
「あー、俺はまあ、『世界中を旅している男』さ。
そんなのは『職業』じゃねぇって言う奴もいるが、そりゃそうだ。ま、言うなれば『生き様』ってーヤツだからな。
で、この恰好はそーゆー俺の『開拓精神』に即してるからってのもあるし、険しい土地でも丈夫で破けねえから、ってのもある」
「理解した。つまりその恰好は、『カウボーイでは無いが、カウボーイの様に生きたいという意思表示』という事だな」
うぐ…。なんかそう簡潔に纏められると、ちょっと恥ずかしい気がしてくるじゃねえかよ。くそっ。
調子狂うぜ。
「とにかく、お前は『わたし』の敵ではない。そして ――― 『ありがとう』 と言っておこう。
『あたし』の記憶において、こういうときはそう言うべきはずだ……」
回りくどい、というより、非常に奇っ怪だ。
狂っている、ってーんでもない。何が何やら、とにかく妙だ。混乱しているというのも又違う。
いや、むしろ逆だ。混乱はしていない。凄く理路整然としている。
そして、理路整然としつつ、おかしいんんだ。
まいったぜ。こんな女…いや、こんなタイプのヤツは、見たことも会ったこともねえ!
俺の方が些かに混乱していると、それを尻目に女はくるりときびすを返し歩き出した。
「お、おい、ちょっと待ちなよ、嬢ちゃん!
どこに行こうってんだ?
とにかく一端落ち着きなって。服も乾かした方が良いしよ。風邪ひくぜ?」
妙な女だと思いつつも、ついそう呼び止めてしまう。
呼び止められた女は、またぎこちない姿勢で変な具合に振り返る。
「『わたし』は、刑務所に向かう。そこに、『あたし』の記憶があるからだ。
『わたし』は、『あたし』の記憶を見なければならない。そうしなければ、『あたし』を『わたし』のものにする事は出来ないからだ」
この点、嘘偽りなく正直に言っておくぜ。
『おれ』は間違いなくこのとき、とてつもなく間抜けな面をしていただろうさ。見てねーけどな、自分じゃ。
- 83 :
- ☆ ☆ ☆
で、今おれが居るのは、地図上で『GDS刑務所』と書かれた場所の真ん前、ってわけだ。
塀に囲まれた、妙に近代的 ―― というか、未来的? ――― なコンクリートの建物は、敷地内にゃ椰子の木なんか生やしてやがって、ちょいとした南国気分で、刑務所って感じがしねえ。
空も白み始めているし、だんだんと周りが見え始めている。
その中で見てもこの女は確かに美人で、そして同時にやはり、何か妙に、人間らしさが無かった。
そんな妙な女に何故のこのこと付いていっているのか、って言うと、結局のところ『成り行き』と、『他にやることがなかったから』って事になっちまうかもしれねえ。
勿論、妙な女だが女は女だし、そうそう放ってもおけねえってのもあるし、打算的な事を言えばいずれ『利用』出来るかもしれねえってのもある。
だが、そうだな ――― もっと妙な事を言えば、例えばこう、『引力』みたいなもんかもしれねえ。
いやいやいや、変な意味じゃあねえぜ。
おれは夢見る乙女の運命論みたいなのとは無縁な男さ。
それでもこの女とは、今ここで別れるってのは『無い』って気がしたのは、事実なんだよ。
そして、それがツイていたのかツイてなかったのか、ってのも、これまた分からねぇ。
女は何かを確認するように、立ち止まり周りを見て居る。
記憶、と言っていたが、その記憶と合致しているところを確認しているかのようにも思えた。
そして暫くして、唐突にこう言い出した。
「『知性』 ――― と、『記憶』……。
自分を自分たらしめるものは、一体どっちなんだろうな ―――」
妙な事ばかり言う女だ。最初はそれが自分に向けられた言葉なのか、ただの独り言なのか分からなかった。
そして、おそらくは独り言だろうとは思ったんだが、かと言って無視するのも何か変な気がしたもんで、おれはこう答えた。
「そりゃ、『記憶』だろうよ。
どっちも必要だし、どっちも欠けたら困るけどな。
おれがおれでいるのは、おれとして生きてきた『記憶』があるからだし、おれの女たちにしたって、『おれとの記憶』が無くなっちまったら、もうそいつは『見知らぬ女』になっちまう。つまり、『別人』さ」
まあ、やはりというか当然というか、おれから答えが返ってくるとは思っていなかっただろう女が、こちらへと顔を向けて、なんというか「きょとん」とした様な表情を浮かべていた。
初めて見た、ちょっとは『人間らしい』 と言える表情だ。なかなか可愛いじゃねえのよ。
「――― そうだな」
今度は軽く口の端を上げて、微笑んだように見えた。
「だから ――― あたしは、空条徐倫なんだ。
『わたし』は、F・Fだが、『あたし』は、空条徐倫でもあるんだな ―――」
「ニャ…ニャニィ ー――z___ ッ!?」
な? たしかにこいつは、ちょっとした『引力』だ。
そしてこの『引力』が、ツイていたのかツイていなかったのか、まだ分からねえ。
----
【H&F】
【E-2 GDS刑務所 / 1日目・早朝】
【ホル・ホース】
[スタンド]:『皇帝-エンペラー-』
[時間軸]:二度目のジョースター一行暗失敗後
[状態]:些かの疲労、まだ服が濡れて気持ち悪い
[装備]:マライアの煙草(濡れている)、ライター
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る
1.『空条徐倫』 だってェー――z___ ッ!?
2.牛柄の青年と決着を付ける…?
- 84 :
- 【フー・ファイターズ】
【スタンド】:『フー・ファイターズ』
【時間軸】:農場で徐倫たちと対峙する以前
【状態】:健康、空条徐倫の『記憶』に混乱
【装備】:空条徐倫の身体、体内にFFの首輪
【道具】:基本支給品×2、ランダム支給品1〜4
【思考・状況】
基本行動方針:存在していたい
1.GDS刑務所の中で空条徐倫を知り、彼女となる
2.敵対する者はす。それ以外は保留。
【備考】
※F・Fの首輪に関する考察は、あくまでF・Fの想像であり確証があるものではありません。
※空条徐倫の支給品(基本支給品、ランダム支給品1〜2(空条徐倫は確認済))を回収しました。
※空条徐倫の参戦時期は、ミューミュー戦前でした。
※体内にFFの首輪を、徐倫の首輪はそのまま装着している状態です。
89 : ◆SBR/4PqNrM:2012/02/27(月) 00:18:46 ID:EcmzuraA
区切りが変なんなっちゃった。
けど、取りあえず以上にて、どなたかよろしうに。
- 85 :
- 代理投下は以上になります
作品を投下されたお二方とも乙です
どちらもすごく面白かったです!
- 86 :
- 本来は自分が投下時に気付いて代理投下するべきでした
氏には申し訳ありません。代理投下して下さった方、ありがとうございます
感想
なんだか別種の可愛さが出てきたが、そいつは女じゃないぞホル・ホースw
ホル・ホースは悪人になりきらないのがいいところだけど、今回は吉と出るか凶と出るか
自分のSSについてですが、タイトルは「The Day of Night」にします
このまま特に指摘がなければ、wiki収録時に展開の変更はなしで後半を加筆する予定です
改めて読み返し、説明不足な箇所が気になったので…
- 87 :
- お二人とも投下乙です
私の予約分は14〜16時頃には本投下できると思います。
もう少々お待ちください。
- 88 :
- 書き終わりました。
もう少し推敲して、16時頃に投下を始めたいと思います。
平日のニートタイムですが、長くなるかもしれないので支援していただけると助かります。
- 89 :
- 3回連続で予約破棄。
前回タルカスの時のペナルティはまだ払っていないにも関わらず、延長。
その延長も締め切りギリギリまでかかって、やっと完成。
このオトシマエは、なんらかの形で必ず付けます。
SSを最後まで書き上げたのは、ものすごく久しぶりな気がします。
大変お待たせしました。
虫喰い、ドルド、ズガン枠数名 投下します。
- 90 :
- 支援
- 91 :
-
1人、2人、3人、4人………
既にこの場に立っている人間はいない。
残る2匹で一騎打ち。
その気になれば、逃げることはおそらく可能―――だがしかし。
そんなわけにはいかねェよ。
『オレ』と『オマエ』、狩られる立場なのはどちらか、教えてやらねーといけねェな。
☆ ☆ ☆
- 92 :
-
10分前、杜王町エリア東部。
街灯の明かりに照らされた夜道を歩く、3人の男女の姿があった。
なかでも目立つのは、2メートルを超える巨漢に強靭な筋肉の鎧。
たくましい髭面を蓄えたアメリカ人の大男。
「Hey, Boy! そんなに怯えていても仕方がないだろう! このようなフザけたし合いゲームなどすぐに終わらせてくれる!
あのメガネの男をこのブルート様が叩きのめし、ニューヨークタイムズのスターになってくれるわ!!」
大男・ブルートは足元にすがりつく少年に声をかける。
人種差別も多かった20世紀前半期の人間ながら、この白人の大男は人種の異なる少年に対し一切の偏見を持っていなかった。
少年を安心させるため、力強い言葉をかける。
彼は粗暴そうな外見とは裏腹に、心根は優しい紳士なのだ。
そのブルートの言葉に、怯えていたエジプト人の少年も心を開く。
「うん、ありがとうブルートさん……。どうしてこんなことになったのかわからないけど……僕も怖がってばかりじゃあいけないよね」
少年は大きな鳥に2匹の飼い犬をされ、自分もやられるところだった。
2匹の飼い犬は体が大きく凶暴だったが、彼自身は同年代の子供と比べても体も小さく力も弱い、ごく普通の少年だった。
ブルートの力強い言葉と、自分を助けた見知らぬ小さな犬の勇姿を思い返し、少年は少し元気を取り戻した。
「おばさん。おばさんも元気出して。ブルートさんが、きっと何とかしてくれるはずだよ」
少年は3メートルほど後ろを付いて歩く女性に声をかける。
彼女もまた、疲弊しきった表情を浮かべながら歩いていた。
「うぅ…… 神さま許してください。 神さまぁ……」
少年の言葉を聞いても、言葉を返すことはなく……
織笠花恵は胸に抱いた小さなネコに力を込め、過去を懺悔する。
彼女は若い頃、ある犯罪に加担していた。
出来心だったとはいえ、到底許されることはない卑劣な行為だった。
齢三十を過ぎてからは、過去の罪を思い出し、懺悔する時間が増えた。
しかし長年の懺悔行為も虚しく、彼女は史上最大級の「罰」を受けることになった。
これは夢だと思い込みたい頭を、精神が邪魔をする。
彼女の心は闇の中に沈んでゆく。
- 93 :
-
「おばさん、ネコが好きなの? 僕もイヌを飼っていたことがあるんだけどね、えっと……」
「……!!」
イヌがされてしまったことは話さない。彼女を不安にさせてはいけないからだ。
切り口を変えて話しかける少年の言葉に、花恵は初めて反応を示す。
元の世界でも彼女はネコを飼っていた。名前はトリニータ。
トリニータの母親の代から、彼女の愛猫だったのだ。
独身女性はネコと相性が良いとよく言われる。理由はよくわからないが、寂しさをごまかす狙いがあるのかもしれない。
ご多分に漏れず、彼女も飼い猫に依存している女性の一人だ。
「うぅ……。帰りたい……。誰か助けてよぉ……」
結局、彼女の不安を解消することは出来なかった。
愛猫と過ごした日々を思い出し、彼女を更なる懐郷病に陥らせる。
少年は焦り、話題を変えてさらに話を続けるが、彼女を元気付けることは出来なかった。
「Boy……。ベイビーはちいっとばかし混乱しているんだ。そっとしといてやんな」
ブルートに促され、少年は前を向いて歩き出した。
そして、もう一匹。
花恵の胸の中に抱きかかえられたネコがいる。彼女の飼い猫ではない。
そのネコの首には、他の3人と同じ禍々しい首輪が取り付けられていた。
織笠花恵がこのし合いの会場で最初に出会ったゲーム参加者。
種類はブリティッシュ・バイカラー・ショートヘアーの雑種。
年齢は3歳。性別はオス。
ベッドカバーを切り貼りして作った悪趣味な服に、ブランド物のバッグを改造して作ったブーツ。
その小さな体に、およそネコとは思えない行動力と頭脳を兼ね揃えている。
言葉を話さない彼は自己紹介することもない。
彼の名前は、『ドルチ』といった。
「おお! 見えてきたぜモリオウステーション!! 地図の通りだな!!」
先頭を歩くブルートが声を上げる。街道を進んでいた3人は目的地として定めた杜王駅に辿りついた。
駅は万国共通、情報収集の基本。他の参加者を探すにはまず駅に向かうべきだ、というブルートの意見に従い、彼らはここを目指していた。
ブルートは支給品の拳銃を装備し、警戒しながら駅構内に侵入。残る2人も恐る恐る後に続いていく。
薄暗い建物内を進み、ポツンと放置されているデイパックを数メートル先に発見した。
現在ブルートが担いでいる4人分のデイパックと同じデザインのものだった。
「Boy、荷物を預ける。ベイビーと2人で、ここでしばらく待っていろ」
使い慣れぬ拳銃を構えたブルートは1人、放置されたデイパックを調べに向かう。
このデイパックの持ち主はどこに行ったのだ。近くに隠れているならば、それは何者なのか。
どこに誰がいるかわからない現状では、まずは安全確認が最優先だった。
- 94 :
- 支援
- 95 :
-
放置されているデイパックを拾い上げる。周囲に気配はない。
デイパックの中身も確認し、そこで新たな奇妙さに気がつく。
基本支給品のパン、そしてランダム支給品であろうブドウが食い荒らされた形跡がある。
しかし問題そこではなく、デイパックの中に点々と存在する無数の動物の糞の方だ。
花恵が抱えているネコの例もある。あのネコと同じように、参加させられた動物がいて、そいつが食い散らかした跡なのだろうか。
「うわああああああっ――――!!!」
と、その時、少年の叫び声。ブルートは思考を止め、振り返る。
何かを見つけたらしい少年が尻餅を付いて大声を上げていた。花恵も目の前の光景に恐怖し怯えている。
ドルチだけが何者かの気に気がつき、周囲を観察・警戒していた。
「ブルートさん!! こっちに来てください!! 死体がッ……!」
助けを求める少年の声はそこで途切れる。
少年の腹部にはどこからともなく飛来した『毒針』が突き立てられ、そこから溶け始めていた。
「なんだ――これ――? 僕の――お腹が――!?」
「Boy!!!」
そしてさらに2発、3発と放たれる毒針は少年の四肢を奪い、その小さな体は動かなくなった。
首に撃ち込まれた毒針によって頭が落とされ、金属製の首輪が音を立てて地面を転がっていく。
ドロドロに溶かされた少年の体……
そしてその傍らには、同じく体を一度溶かされた上で歪な形に固まった被害者、東方良平『だった者』の遺体と、彼に支給されたであろうデイパックが転がっていた。
「いやあああぁぁぁぁ!! なんなのよォォォ!!!」
「何だ! 何が起こったァ!!」
急いで花恵たちの元に駆け寄るブルート。
ドルチは叫び声を上げる花恵の腕の中から抜け出し、ブルートの頭上に駆け上がった。
敵が何者かはわからないが、狙われていることは確かだ。こんなスットロい女に抱えられていては危険すぎる。
そう判断したドルチは、敵の正体を確かめるため行動を開始した。
「な! なんだネコ公! 今はお前とジャレあっている場合じゃあ…… ッ!?」
その時、ブルートとドルチは同時にひとつの妙な気配に気がついた。
薄暗い駅構内の闇に隠れていた、もうひとつのデイパック(東方良平のデイパック)。
横倒しになり中身が散乱したデイパックの口から、光る二つの瞳が……
そして、大砲のような機械がこちらを狙っていた。
「ギャァァァァァ――――――ス!!!」
- 96 :
- 支援
- 97 :
- 支援
- 98 :
-
デイパックの中から放たれた毒針がブルートの腹を襲う。
ドルチは敵の正体を確認した。
自らがこの世に生を受けてから3年余……
ネコとしての本能から、幾度となく捕え、餌としてきた格好の獲物の姿。
「敵」の正体はネズミだった。右耳が虫に食われた葉っぱのように欠けた体長10cm程度のネズミが、大砲のような機械を操ってブルートを攻撃したのだ。
「なんだこりゃあああ!! 俺の腹がああァァァァァ!!」
衣服ごと溶けて混ざり始めた腹の肉に痛みと恐怖を感じ、ブルートは絶叫する。
そして手に持った拳銃で素早くデイパックを6連射。全弾を撃ち尽くした。
その激しい弾幕に、ネズミの隠れていたデイパックは跡形もなくボロボロになる。
「イデえよおォォォ!! なんなんだよォォ!!」
腹を抑えて悶え苦しむブルートの頭の上から飛び降り、ドルチは足元でボロクズとなったデイパックの中に飛び込んだ。
ネズミの生死を確認するため、そして生きていたら止めを刺すためだ。
しかし死体はおろか、デイパックの中にネズミの影も形もない。
だめのデイパックにも入っている地図や水などといった基本支給品と、リボンのように長く伸ばすことができる特殊なナイフがあるだけだった。
6発の弾丸でネズミの身体は跡形もなく粉みじんになってしまったのか?
いや、いくらネズミの身体が小さいと言えど、たかが拳銃にそこまでに威力はない。
それに首輪も含めて跡形もなくなるわけがない。
ネズミはまだ、どこか近くにいるはずだ。
「ぐわあああああああ!!」
ブルートが大声を上げて、地面に倒れた。
ドルチがボロボロになったデイパックから頭をのぞかせると、そこにはうつぶせに倒れるブルートの巨体が転がっている。
ブルートの死体は後頭部から溶かされ、その傷口には毒針が突き立てられていた。
これで間違いない。ネズミは生きている。
そして、どこからかまだドルチのことを狙っている。
しかし、いったいどこから? 周囲に、隠れられるような物陰はない。
拳銃を撃つブルートの頭上からデイパックを見ていたが、中から逃げるネズミの姿は確認できなかった。
ネズミがネコの動体視力から逃れられるものなのだろうか?
いくら何でも、敵の移動速度が速すぎるのではないか?
しかし事実ネズミは生き延びて、次の獲物を仕留めようと身を潜めている。
ドルチは完全にネズミの姿を見失ってしまった。
- 99 :
-
ドルチは考える。
どこから狙われているかわからないこの状況で、飛来する毒針を回避することができるか。
否。
毒針の正確な射程距離はわからないが、ブルートの撃たれた現在地から半径10メートル以内にネズミの隠れられそうな物陰はない。
ネズミの狙撃地点は、さらに遠距離にある。
射程距離は10メートル以上……少なくとも20メートルはあると判断したほうがいい。
方向もわからず、10メートル以上の距離から弾丸並みの早さで撃ち込まれる毒針を避けることなどできるわけがない。
せめてネズミの居場所さえわかればと思うが……
「いやぁぁ! もう、なんなのよお!! 誰か助けてぇぇぇ!!」
少年とブルートが謎の変死を遂げ、残る織笠花恵が騒いでいる。
ドルチと花恵、ネズミは先にどちらを狙ってくるだろうか?
いや、どちらが先だろうと狙われることも変わらない。
ならば、次の攻撃の一手が始まる前に―――
「きゃっ…… ネコちゃんっ!! ああ、あなたも怖いのね……」
ドルチは再び織笠花恵の胸に飛び込み、抱きかかえられる。
ずっと怯えていた花恵だったが、そんな花恵をこのネコは頼ってくれているのだ。
暗闇だった花恵の心に、なんだか勇気が湧いてきた。
このネコちゃんを守ってあげられるのは、自分しかいない。
「だ、大丈夫だからね、ネコちゃん。わ……私がついている……」
ドルチは、その織笠花恵の―――
「か……ら………」
口の中に自ら飛び込み、体内に侵入した。
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